123 〈研究ノート〉
テレマーケティング詐欺に対する
連邦取引委員会の戦い(その1)
内 田耕 作
1 はじめに 今日,テレマーケティング詐欺は,消費者にとって憂慮すべき事態となって 1) いる。というのは,消費者がテレマーケティング詐欺によって忌むる損失は, 年間10億ドルを超えると推定されているからである。 連邦取引委員会も,この事態を重視し,10年来,この分野の規制活動を密に してきた。その結果,1990年12月17日現在ですでに,59のテレマーケティング 詐欺訴訟が連邦取引委員会法13条(b)項に基づき連邦地方裁判所に提起されるに 2) 至っている。 そこで,本稿において,テレマーケティング詐欺に対して連邦取引委員会が 3) どういつだ戦いを挑んできたのか,概観することにする。まず,テレマーケテ ィング詐欺データバンクについて述べる。そして,その後,調査,訴訟,資源 の充当について述べる。 1)本稿の叙述は,全面的に,次の文献に依拠した。The Nature and Extent of Telemarket・ ing Fraud and Federal and State Law Enforcement Efforts to Combat lt (1991). (hereinafter cited as Congressional Report)なお,本書は,下院政府運営委員会通商・ 消費者・金融問題小委員会におけるテレマーケティング詐欺に関する公聴会の報告書であ る。 2)その一端は,すでに紹介したところである。拙稿「連邦取引委員会法13条(b)項に基づく 消費者救済 旅行代理店の詐欺的慣行の場合一一」彦根論叢278号93頁(1992年)参照。 3)なお,続編においては,テレマーケテKング詐欺を根絶するための連邦取引委員会の戦 略について述べることを予定している。124 彦根論叢 第281号 なお,叙述に際しては,極力,テレマーケティング詐欺に対する連邦取引委 員会の戦いの全体像を明るみに出すよう努めた。しかし,手がかりとなる資料 が限られており,しかも非公開の情報が多く,充分とはいえない面がある。そ の限りで,大方の御寛容を請わざるをえない。 IIテレマーケティング詐欺データバンク テレマーケティング詐欺に関しては,「全国法務長官協会一連邦取引委員会テ レマーケティング詐欺データバンク」(NAAG−FTC Telemarketing Fraud Data Bank)が設立されており,「全国法i務長官協会一連邦取引委員会テレマー ケティング・データベース」(NAAG−FTC Telemarketing Data Base)が活 用されている。 そこで,まず,当該データバンクについて述べる。そして,その後,どうい つだ苦情が当該データバンクに入れられているのかについて述べる。なお,デ ータバンクの紹介に際しては,当該データバンクが現在どういつだ問題を抱え ているのか,また,それに対して連邦取引委貝会がどういつだ対応をしている のか,に焦点を当てることにする。 (1)データバンクの問題状況 連邦取引委員会は,テレマーケティング詐欺データバンクの設立を通じて, 4) 連邦・州の協働を鼓舞してきた。というのは,調査対象者を他機関が調査して きたかどうか,また,証拠となりうる苦情をだれがもっているかを突き止める ことは,法執行機関相互にとって有益であるからである。 しかし,この局面での連邦・州の協働は,必ずしも充分とはいえない状況に ある。そこで,まず,協働の現況について述べる。そして,その後,協働を求 めて連邦取引委員会がどういつだ要請を行ってきたのかについて述べる。 なお,最:後に,データの機密性を保証するためにどういつだ手段がとられて いるのかについても触れる。というのは,このことが,協働の成否を決する要 因ともなりうるからである。 4)以下,Congressional Report, supra note(1),at 619.
〈研究ノート〉テレマーケティング詐欺に対する連邦取引委員会の戦い(その1) 125 (a)協働の現況 まず,どういつだ者がデータバンクに参加しているのか について述べる。そして,その後,どういつだ主要連邦機関が参加していない のか,またその理由は何かについて述べる。 5) (7)参加者. データバンクへの参加者は,次の2つのグループに分けるこ とができる。すなわち,1つは,調査の存否に関してデータにアクセスするこ とができる者であり,もう1つは,データに寄与することができるにすぎない 者である。 このうち,前者に該当するのは,連邦取引委員会およびその地域事務所を別
6) 7)
にすれば,1990年10月19日現在,次の者である。すなわち,23州および1温州 の法務長官,ペンシルバニア証券委員会(Pennsylvania Securities Commis− sion)等のその他7州機関,ならびに郵政監察公社(Postal Inspection Service) およびシークレット・サービス(Secret Service)の2連邦機関である。 他方,データに寄与することができるにすぎないのは,次の者である。すな わち,商事改善協会評議会(Council of Better Business Bureau),直接販売 協会(Direct Marketing Association),全国消費者連盟(National Consumers League),全国先物取引業協会(National Futures Association),全国事務器 機販売業者協会(National Office Machine Dealers Association)である。 8) (イ)主要連邦機関の不参加 司法省(Department of Justice),連邦捜査 局(Federal Bureau of Investigations),証券取引委員会(Securities and Exchange Commission),商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission)は,データバンクに参加していない。その理由は,次のところに ある。 5) See ld. at 814−15. 6)アリゾナ,アーカンソー,カリフォルニア,フロリダ,ハワイ,イリノイ,インディア ナ,アイオワ,メーン,マサチューセッツ,ミネソタ,ミシシッピー,ミズーリー,ニュ ージャージー,ニューメキシコ,ニューヨーク,オレゴン,ペンシルバニア,テネシー, テキサス,バーモント,バージニア,ウィスコンシン。 7)グアム。 8) See Congressional Report, supra note(1), at 816.126 彦根論叢 第281号 まず,連邦捜査局は,次のことを懸念しているということである。すなわち, 1つは,データバンクに入れられている苦情情報は,立証されていないという こどである。そして,もう1つは,そのような情報に基づいて刑事捜査を開始 することは,批判を受けるおそれがあるということである。 他方,商品先物取引委員会は,次のように考えているということである。す なわち,それがファイルする機密情報にアクセスする者を記録することが,制 定法上要求されているので,データバンクに参加すれば,制定法上のこの要件 を遵守することがおぼつかなくなるということである。 なお,司法省と証券取引委員会は,参加しない特定の理由を明らかにしてい ない。 9) (b)連邦取引委員会による協働要請 連邦取引委員会は,次のような方法 で,データバンクへの参加を鼓舞してきた。 ① 全国法務長官協会,全国消費者庁長官協会といった組織の全国・地方会 合において,潜在的参加者にデータバンクについての説明をする。 ②連邦・州レベルの法執行機関,相当数のテレマーケティング苦情を受け 取る民間組織のために,データバンクの説明会を主催する。 ③ データバンクについての論文を書き,それを取引および法執行にかかる ニュースレターにおいて公表する。 とりわけ,連邦取引委員会は,連邦機関の参加を鼓舞するのに熱心であった。 というのは,連邦取引委員会または州が調査対象とするかもしれない者を,非 参加機関が調査しているということを知ることは,時聞および資源の両者を大 10) いに節約することとなりうるからである。 そこで,連邦取引委員会は,データバンクを企画したとき,司法省,連邦捜 査局,証券取引委員会,郵政公社(Postal Service),シークレット・サービス 9) See ld, at 654−55, 815−16. 10)ちなみに,連邦取引委員会は,特定の被疑者に関心を寄せていることがデータバンクか ら判明した州機関の広範な協力・援助を得た場合,通常要する時間の半分でしばしば,事 件をまとめ上げることができた。See Id. at 815.
〈研究ノート〉テレマーケティング詐欺に対する連邦取引委貝会の戦い(その1) 127 を含む連邦機関の代表者を招待し,データバンクがどういつだ働きをし,また 参加機関をいかに助けることになるかに関してデモンストレーションを行った。 また,その後も接触を続け,質問に答えたり参加を促したりした。 そのプロセスの結果として,郵政公社とシークレット・サービスが,データ バンクに参加した。 その後も連邦取引委員会は,非参加機関がデータバンクに参加することを望 んでいる。たとえその参加が,データバンクの情報にアクセスするだけであっ ても,また,すでに公表された執行情報を入れるだけであっても,そうである。 というのは,これらの非参加機関,とくに刑事上の法執行責任を負っている機 関が,情報を利用することが可能であるなら,データバンクの有用性,および データを提供する参加機関のインセンティブは,増大するように思われるから である。 なお,連邦取引委員会は,連邦機関があげた不参加の理由に対しては,次の ような見解を示している。 まず,立証されていない苦情情報をデータバンクが含んでいるという事実に 関しては,それが必然的に参加に対する障害となるわけではないと信じる。つ まり,諸機関は,報告された情報に基づいて行動する前に,その正確さを立証 する自由を確実にもっている。 データバンクの情報は,単に,法執行社会からの一層目注目を集めるのを是 認する行為および行為者を明らかにするにすぎない。個々のメンバーは,その 義務を遂行するに当たり,その情報をどのように用いるべきかを決定する自由 をもっている。 他方,連邦取引委員会は,柔軟性をもっており,次のことを行うために諸機 関と進んで協働する。すなわち,諸機関の個別的なニーズを満たすメンバーシ ップを構築したり,諸機関が抱えている問題を処理したりするということであ る。 II) (c)データの機密性保証手段 データベースに入れられているデータの機 11) See ld, at 632 n.1, 815.
128 彦根論叢 第281号 密性を保証するために,次のような手段がとられている。 ① データバンクに参加するすべての法執行組織は,機密保証協定を締結し て,それがアクセスするデータを機密とし,かつ法執行の目的だけのためにそ のデータを利用することを約束しなければならない。 ② データバンクへの直接的アクセスを求める参加オフィースの被用者は, すべて,データにアクセスする前に,委員会スタッフに申請をし,かつ承認さ れなければならない。 ③これらの申請者は専用のパスワードを与えられ,かつ,データベースの 利用は異常なアクセス要請のためにモニターされる。 ④ これらの手続は実質的なセキュリティーを提供するが,もし他機関に開 示することを好まないとくに極秘とすべき調査があるなら,メンバー機関は, そうすることが適切であると感じるまで,事実上,当該調査についての情報を データバンクに入れないことができる。 ⑤ データシステムは,メンバー機関が,「証人標識」(Witness Flag)と呼 ばれる仕組みを通じて,極秘データに標識を立てるのを許している。しかも, メンバーは,当該データを入れた機関の許可なしには,標識を立てられた当該 データを利用しないことに合意している。 (2)苦情の現況 まず製品・サービス別の苦情数について,続いて苦情金額について述べる。 なお,事務補給品の割合が異常に高いのは,当該産業の事業者団体がデータベ 12) 一スに寄与していることによる。 13) (a)製品・サービス別の苦情数 データベースに入れられた苦情数は,1990 年7月10日現在,6,679件であった。しかも,上位20位までの製品・サービスに ついての苦情が,すべての苦情の86パーセント以上を占めていた。 上位20位に入る製品・サービスおよびその苦情数は,表1の通りである。 12) See ld at 631」32, 632, 653 n. 2. 13) See ld. at 632, 637−38.
〈研究ノート〉テレマーケティング詐欺に対する連邦取引委員会の戦い(その1) 129 表1 製品・サービス別の苦情数 三
二1234567891011121314151617181920
製品・サービス トナー 販売促進用ギフト・無料ギフト・賞品 その他のタイプの事務補給品 稀少コイン バケーション証書 旅行クラブの会員権・サービス ビタミン(総合) その他の投資企業・機会 貴金属(金・銀・プラチナ) 石炭採掘 浄水器 レクリェーション・パッケージ 書籍・雑誌 職業紹介所・職業カウンセリング タイプライター・リボン 筆記補給品 戦略金属 旅行代理店 ビタミン(成人向け) 白熱電球 苦情数 1,845 800 666 382 344 261 217 214 196 138 133 119 11067
56
52
49
48
33
30
合計 5,760 (出所)Congressional Report, p.638. 14) (b)製品・サービス別の苦情金額 その苦情金額(売上高)は,1990年7月10日現在,表2の通りである。 III調 査 まず,連邦取引委員会が, を決定するに当たり, 上位20位に入る製品・サービスおよび テレマーケティング詐欺調査を開始するかいなか どういつだ基準を用いているのかについて述べる。次に, テレマーケティング詐欺調査の現況について述べる。そして,最後に,訴訟を 提起することなく終結された調査の現況について述べるとともに,調査終結の 理由にも触れる。 14) See ld. at 632, 639.130 彦根論叢 丁
丁1234567891011121314151617181920
第281号表2
製品・サービス 稀少コイン 貴金属 その他の投資 石油・ガスの借地権 トナー ビタミン 戦略金属 ダイヤモンドその他の稀少原石 レクリェーション・パッケージ 販売促進用景品・無料ギフト・賞品 金鉱採掘 美術品 職業紹介所・職業カウンセリング 石炭採掘 旅行クラブの会員権・サービス バケーション証書 投資企業・機会 旅行代理店 ガソリン添加剤 その他のレクリェーション 製品・サービス別の苦情金額 苦情金額(ドル) 2,930,187 2,258,439 2,010,070 1,721,979 1,304,891 1,204,110 342,406 302,544 198,093 160,315 149,066 112,260 93,695 76,925 74,006 73,226 59,069 57,432 55,492 41,106 合計 13,225,311 (出所)Congressional Report, p.639. 15) (1)調査対象の選択基準 テレマーケティング・投資詐欺分野においては,調査対象を選択するための 書面化された正式のガイドラインは存在しない。しかし,委員会が調査を開始 するかいなかを決定するに当たっては,一般に,次のような基準が用いられて 16) いる。 ① 消費者侵害の推定総計(これは,通常,典型的な被害者が被むつた推定 損失額に,推定被害者数を乗じたものである)。 ② 予想される法執行活動の試算抑止効果(この基準は,提案された調査, 予想される法執行活動が将来の法違反を抑止したり減少させたりする範囲の推 15) See ld. at 655−56. 16)なお,事件によっては,別の基準が考慮されることもある。See Id. at 656.〈研究ノート〉テレマーケティング詐欺に対する連邦取引委員会の戦い(その1) 131 定を試みる)。 ③調査を完了し,かつ適切な法執行活動を行うのに必要と推定される資源。 ④詐欺の途方もない性質,および個々の被害者にそれが及ぼすおそれのあ る影響。 ⑤救済のために利用可能となる蓋然性のある資産の大きさ。 ⑥ 他の法執行機関が連邦取引委員会の援助を求めたり,独自に行動を起こ しているかいなか。 17) (2)調査の現況 連邦取引委員会は,1983年6月1日から1990年7月10日までに,全部で150件 のテレマーケティング詐欺調査を開始してきた。 また,1990年10月19日現在,委員会は,テレマーケティング活動について111 件の調査を継続中である。その調査対象は,会社236社と個人237人である。 調査中の仕組みの件数は公表されていないが,表3のような仕組みが調査対 象とされている。 また,調査中の仕組みの売上高は,訴状が提出され,開示が行われるまで判 明しない場合が多いが,判明している限りでは,表4のような規模にあると推 定されている。 表3 調査中の仕組み 900電話番号の仕組み 製品,郵送先リスト・サービス, 浄水器 旅行商品・サービス 事務補給品 石油・ガス・エネルギー関連投資 美術品 コイン,原石,稀少金属 その他 (出所) 調査の現況 クレジットカードサービス,懸賞の供給者 Congressional Report, pp.803 and 805より作成。 訴訟なしでの事件終結の件数 1 8 7 6 7 2 2 15 12 17) See ld at 633, 802−04.
132 彦根論叢 第281号 表4 売上高からみた調査中の仕組みの事件数 300万ドル未満 22 300−500万ドル 15 500−1,000万ドル 11 1,000−2,000万ドル 10 2,000万ドル超 13 (出所) Congressional Report, pp.803−04. なお,委員会が調掌中の事件のうち,30が,同時に刑事捜査中であるという ことが知られている。 18) (3)訴訟なしでの事件の終結 1983年6月1日から1990年6月10日までの聞に,テレマーケティング詐欺に かかる調査のうち60が,訴訟なしで終結された。その内訳は,表3の通りであ る。 また,訴訟なしで終結された調査のうち,刑事捜査が行われていると判明し たものは,9件あった。 訴訟なしで調査が終結された一般的な理由は,次のようであった。 ①違反の証拠が充分ではなかった。 ② 連邦取引委員会の資源の費出を是認するには,ビジネスまたは消費者の 侵害の金額が充分ではなかった。 ③ 他の法執行機関によってとられた行為のために,連邦取引委員会が行為 する必要性が除去された。 ④ 調査対象とされた会社および個人によって事業経営が休止され,しかも, 救済のために利用可能な意味のある資産が存在しなかった。 IV 訴 訟 まず,連邦取引委員会による訴訟が及ぼすインパクトについて,連邦取引委 員会自身がどういつだ評価を下しているのかについて述べる。そして,その後, 訴訟提起の現況,消費者救済の現況,訴訟後の対応措置の順に述べる。 18) See ld. at 804−07.
〈研究ノート〉テレマーケティング詐欺に対する連邦取引委員会の戦い(その1) 133 19) (1)訴訟のインパクト 連邦取引委員会が提起する訴訟の最:大のインパクトは,即時的なものである。 すなわち,委貝会は,暫定的な裁判所命令(申し立てられた欺隔的慣行を禁止 したり,被告の事業をコントロールするために財産保全管理人を任命したり, 可能な限り多くの金銭を消費者救済のために保持する目的で被告の資産を凍結 したりするもの)を得ることによって,進行中の詐欺を中止させることができ る。 2番目の同様に重要なインパクトは,連邦取引委員会が終局判決を得るとき に発生する。終局判決は,典型的には,金銭裁定と,被告が将来同一または類 似の行為を行うのを禁止する広範な終局的差止命令を含んでいる。資産が利用 可能であるところでは,当該資産は,これらの判決債務を満足させ,また消費 者侵害を救済するために用いられる。 3番目のインパクトは,消費者に対する直接的な便益である。すなわち,1 つは,いくらかの消費者は,裁判所が命じた救済プログラムに基づいて,部分 的な償還を受けるということである。2つは,同様に重要なことであるが,委 員会の努力について学ぶ消費者は,将来の詐欺の犠牲者となることから自己を 一層防御することができるということである。 確かに,詐欺的なテレマーケッターに対する防衛の最前線は,ねばり強い法 執行であるけれども,消費者が充分に情報を提供されるということは,テレマ ーケティング詐欺に対する究極の防御となりうる。 なお,連邦取引委員会が提起する訴訟の抑止効果を査定することは,今のと ころ困難である。それは,次のような理由による。 ① 今日までの努力にもかかわらず,委員会は,消費者に充分な救済を与え ることができなかったし,また,テレマーケティング詐欺は増殖している。 ② 他方で,委員会が終局的差止命令を得た詐欺的なテレマーケッターの間 には,識別しうるほどの常習性はなかった。 ③委員会は,訴訟の広範囲のインパクトを評価するのに充分な歴史をもつ 19) See ld. at 615−16.
134 彦根論叢 第281号 ていない。というのは,連邦取引委員会法13条(b)項に基づいて地方裁判所に提 訴するという委員会の権限は,1973年に付与され,1982年にはじめてテレマー ケティング事件で行使された比較的新しい執行手段であるからである。実際に も,テレマーケティング事件の多くが,1987年以降に提起されている。 20) (2)訴訟提起の現況 テレマーケティング詐欺に対しては,1990年12月17日現在,59の訴訟が提起 されている。それらは,すべて,連邦取引委員会法13条(b)項に基づいて連邦地 21) 方裁判所に提起されたものである。 59件にかかる推定売上総額は8億7,060万ドルであり,推定顧客総数は154万 9,390人であった。 また,14事件において,総計28人の販売員(salesperson)が被告として訴え られている。販売員は,欺隔的慣行に基づいて相当量の販売を行ったという証 拠が明らかになった場合に,しばしば被告として訴えられている。 販売員を被告として訴えることには,訴訟戦略上便益がある。というのは, 訴状に名前があげられた販売員は,しばしば,説得を受け入れ,詐欺的なテレ マーケティング会社の主要人物に不利な証言をする可能性があるからである。 22) (3)消費者救済の現況 まず,消費者救済がどのように行われているのかについて述べる。次に,消 費者救済が実際の損失と相関性をもっているかいなかについて述べる。そして, 最後に,完全な消費者返還が不可能な理由について述べる。 (a)i現況 裁判所は,連邦取引委員会が提起したテレマーケティング事件 において,1億4,800万ドルを超える判決債務を命じ,また,5,800万ドルを超 20) See ld, at 633, 810, 818−19, 21)この点,連邦取引委員会は,一般論として次のように述べる。すなわち,法外であって, しかも個人的にまたは全体として消費者に重大な経済的侵害をもたらす欺隔的行為に立ち 向かうためには,13条(b)項に基づく訴訟手続を開始する。他方,事件が,連邦取引委員会 法の新規の解釈,複雑な証拠提出,緻密な立証を必要とする争点を含む場合には,委員会 がまず最初に考慮するのが最適であるので,5条(b)項に基づく差止命令手続を開始する。 See ld, at 620−21. 22) See ld. at 807−08.
〈研究ノート〉テレマーケティング詐欺に対する連邦取引委員会の戦い(その1) 135 える価値のある資産の凍結を命じてきた。 消費者救済の目的で将来分配するために銀行に預託・凍結されている資産の 額は,1,000万ドルを超えており,さらに3,300万ドルを超える額が,財産保全 管理人によって保持されている。 実際にも,830万ドルが,テレマーケティング事件において救済のために消費 者に分配された。 (b)消費者救済と実際の損失との相関性 連邦取引委員会は,消費者救済 として分配された金額を,消費者にとっての実際の損失と相関させなかった。 というのは,次のような困難が,正確に損失を計算し,それを救済のために分 配される基金と相関させる努力を疑問としたからであった。 ①消費者損失は,ケースごとに異なる。この点,消費者が受け取る商品・ サービスの実際の価値は,考慮に入れられなければならない一要素であるが, 消費者は,典型的には,金銭と引き換えに何らかの商品・サービスを受け取っ ている。しかし,その正確な価値は,しばしば決定しがたい。 ②被告の販売記録は通常存在しないか不完全であるので,消費者損失の計 算は,一層複雑になる。 ③ 一連の事件では,犠牲となった消費者のいくらかは,クレジット発行者 に入金取消しを要請して成功することで,その損失を軽減することができた。 しかし,入金取消しによっても,テレマーケッターとの取引経験から生じると ころの,返還および入金取消しを得る試みを含む時間・手数・立服の費用は, 依然として償われない。 (c)完全:な消費者返還が不可能な理由 理想的には,連邦取引委員会は, すべての事件で消費者が完全な救済を得ることを望んでいる。しかし,これは, 23) 実際問題として不可能である。その理由は,次の通りである。 ① これらの事件における被告は,しばしば,収入を得るやいなや消費して 23)このことを理由の一端として,連邦取引委員会は,テレマーケティング詐欺に対する戦 いの重点を,個別的な詐欺的テレマーケッターからその背後に存在する供給・支援ネット ワークへと移動してきた。See ld. at 808.
136 彦根論叢第281号 しまったり,国外に送金したり,秘密にする。しかも,これらの被告は,資産 を隠したり分散させる方法にたけている。 ②テレマーケティングのボイラールームの仕組みの多くにおいて,収入の 約4分の3が家賃,電話代,賃金・手数料,郵送・販売促進,消費者リスト等 のために支払われている。 もっとも,この困難を考慮に入れると,裁判所が凍結したか財産保全管理人 が得た金額は,実質的であると委貝会は信じている。 (4)訴訟後の対応 まず他の執行機関への伝達について,続いて遵守を得るための努力について 述べる。 24) (a)他の執行機関への伝達 テレマーケティング事件において連邦取引委 員会が得た差止命令・判決は,次のような方法によって他の法執行機関に知ら される。①および②は直接的な伝達方法であり,③および④は間接的な伝達方 法である。 ① 連邦取引委員会の事件に協力したか,それに関心を示した法執行機関に 対しては,命令のコピーが送付される。 ② 州法務長官,地方検察官,商事改善協会に対しては,命令のコピーが送 付されるか,電話でそれについて述べられる。 ③ 全国法務長官協会一連邦取引委員会テレマーケティング詐欺データバン クには,詐欺的なテレマーケッターに対して得られた命令に関する情報が入れ られる。そこで,データバンクに参加している州・連邦の法執行機関は,それ を利用することが可能になる。 ④報道発表を通じては,終局命令についての情報が広く二布され,また, 連邦取引委員会の手続をカバーする法律情報サービス(たとえばAntitrust and Trade Regulation Reporter)において,当該情報への言及がなされる。 25) (b)遵守を得るための努力 連邦取引委員会が定型的に行っている,遵守 24) See ld. at 809−10. 25) See ld. at 810,
〈研究ノート〉テレマーケティング詐欺に対する連邦取引委員会の戦い(その1> 137 を得るための努力は,状況に応じて様々である。 ① 裁判所が金銭判決を下したところでは,判決後の開示が,差押えに従う 資産を突き止めるために行われる。 ②命令に従って被告が作成しなければならない遵守書類が,審査される。 ③ 被告が刑事捜査の主体でもあり,かつ,状況が適切である場合には,書 証が刑事当局に提出される。 ④ 裁判所命令によって禁止された行為を被告が反復する場合には,一層の 調査が行われる。そして,証拠によって是認される場合には,次のような行動 がとられる。すなわち,被告が裁判所侮辱罪に問われるべきではない理由を立 証すべしとの命令を求める民事的裁判所侮辱訴訟を提起するか,刑事的裁判所
26) 27)
侮辱訴訟を求めて当該事項を送付するということである。 この点,大部分の差止命令は,被告の将来の雇用者の氏名および住所を委員 会に通知するよう被告に求めている。そこで,これらの雇用者や,命令に服す る個人に対する苦情申立がないかどうかを調べるために,全国法務長官協会一 連邦取引委員会テレマーケティング詐欺データバンクが定期的に探査される。 また,命令に服する個入の最近の居場所・活動に関する情報を提供する情報 提供者のネットワークが,何年にもわたって開発されてきている。 そこで,違反についての情報がこれらの情報源等から明らかになるなら,一 層の調査が行われ,上述のように,適切な裁判所侮辱訴訟手続または送付が開 始されることになる。 V 資源の充当 まず,人的・物的資源がどの程度,テレマーケティングの調査・事件に充当 26)刑事的裁判所侮辱にかかる送付は,一般に,タイムリーに処理されている。裁判所侮辱 を訴追するという限定目的のために,連邦検事が率先して,連邦取引委員会の弁護士を連 邦特別検事補として指定したところでは,とくにそうである。See Id. at 622−23. 27)実際のところ,少なからざるテレマーケティング詐欺事件において,民事的裁判所侮辱 訴訟または刑事的裁判所侮辱訴訟が委員会によって提起されている。See ld. at 634,641− 42, 652−53, 662−65.138 彦根論叢 第281号 されてきたかについて述べる。そして,その後,テレマーケティング調査がど の程度,優先されているのかについて述べる。 28) (1)現況 1983会計年度から1990会計年度までにテレマーケティングの調査・事件に充 当された人的資源および物的資源は,表5の通りである。 なお,1988会計年度から1990会計年度までに,テレマーケティング事項に充 当された消費者保護局のトータルの人的資源のパーセンテージは,1988年が8. 5パーセント,1989年が11パーセント,1990年が15パーセントであった。 29) (2)テレマーケティング詐欺の優先度 30) 1980年代を通じて,連邦取引委員会の人的・物的資源はかなり削減されたが, テレマーケテ/ング詐欺は,消費者保護という使命において優先度の高い事項 であったし,また依然としてそうである。 この点を人的資源の充当に即してみれば,1990会計年度においては,消費者 保護局のトータルの人的資源の15パーセントが,テレマーケティング事項に充 当されている。 他方,1990会計年度において優先度が高かった他のカテゴリーおよびそれに 表5 資源の充当 会計年度 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 (出所) 人的資源(時間) 17,817 30,100 36,884 48,904 55,631 47,502 61,080 58,126(見積り) 物的資源(ドル) 410,964 918,209 1,165,547 1,584,065 1,741,163 2,282,110 2,196,746 2,110,323(見積り) Congressional Report, pp,640 and 660より作成。 28) See ld, at 640, 660−61, 813. 29) See ld. at 624, 813, 30)1990会計年度:の人的・物的資源の削減が,テレマーケティング詐欺に対する連邦取引委 員会の戦いに及ぼす影響については,個別的検討が行われている。See Id. at 657−58.
〈研究ノート〉テレマーケティング詐欺に対する連邦取引委貝会の戦い(その1) 139 対する資源の充当の割合は,次の通りである。すなわち,消費者保護という使 命に割り当てられた資源のうち,19パーセントが広告プログラムに充当され, また14パーセントがクレジット慣行プログラムに充当されている。 なお,クレジットの分野においては,いくらかの資源が,クレジット関連の テレマーケティング事件のために充当されているので,クレジットの14パーセ ントの一部分は,テレマーケティングのための1990会計年度の費出に含まれて いる。