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肺血管系の病理(Ⅱ)

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〔総 説〕 (東京女医大忌第28巻第4号頁227−231昭和33年4月)

肺血管系の病理(II)

東京女子医科大学病理学教室

今 イマ 井 イ ミ 喜 キ

受付昭和33年3月11日

後天性心疾患における肺血管系の変化 後天性心疾患における肺血管系の変化を左右す るものは,肺の病変の原因となった心臓の器質的 変化,心の代償機能の程度,経過の長短等,肺外 の要素を一方で考慮し,又2次三二構造変化によ る肺血管全体或は局所的な影響,更に肺血管自身 の反応性を問題としなければならない。後者は, 体循環においても厘々経験されるごとく,年令的 要因を主とする反応以前の血管の状態である。な お,所謂リウマチ性炎が原因となることの多い弁 膜疾患に際して,全身の間葉組織反応の一環とし ての,肺血管内膜,時に中膜,外膜の関与も考慮 する必要がある。このように後天性疾患の場合に は,変化に関与する因子が,先天性のものよりもは るかに複雑である故に,多くの例から平均雌結果 を求めることは寧ろ危険である。一つ一つの例に ついて,全身の剖検所見は勿論,臨床像をも合せ 考えた上での判断が適当であろう。以下に記載す る諸変化は年令的に異る血管変化様式という観点 を主として行ったものである。この場合,休循環 における高血圧性,老人性血管変化,先天性心疾 患による肺動脈高血圧の血管変化が参老になる。 用いられた例は,12才から49才迄の主として 僧帽弁に障害のあるもの81例が中心となってい る。その他に大動脈弁障害,心膜炎,心筋梗塞, 高血圧症,Lutembacher症候群等の疾患は参考 にとどめた。それはうっ血による肺高.血圧性血管 変化の基本を理解するためには,僧帽弁障害が適 当であると考えたからである。 1.若年者に見られる一つの型は,幼児期より 心疾患を指摘されており,15才及び12才で心不全 状態で死亡した,高度の僧帽弁口狭窄症並びに狭 窄閉鎖兼不全症の2例が代表している(写真1∼3) 写真1.12才,女,僧帽弁ロ狭窄並びに閉鎖 不全症。高,中位筋型動脈の筋層肥大 あり内膜に著変をみず。内腔が広い。 (随伴する気管枝切口の大きさと対照) Elastica−v. Gieson染色。弱拡大。 写真2, 写真1.と同例,中,末梢筋型動脈, Elastica−v. Gieson染色弱拡大

Miki IMAI (Department of Pathology, Tokyo Women’s Medical College): (2)

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写真3.15才,女,僧帽弁口狭窄症。中, 末梢筋型動脈。筋層肥大,内膜の

Fibro−e]astose. Elastica−v. Gieson

染色。弱拡大。 肺動脈は弾力型及び高位中位筋痛動脈迄,振張が 目立ち,中膜の肥厚が著しくない。末梢筋型動脈 の画龍は普通である。高中位動脈ではかなり一様 に内膜の肥厚がある。このものは層状の比較的せ ん細な弾力線維と,強靱でない膠原線維とででき ている。静脈は内膜の線維性肥厚,中膜筋組織の 増加がかなり著明である。肺胞壁には一様にうつ 血性硬化がみられる。 2.若年者に見られる他の型は,筋型動脈全長 にわたって著明な中膜筋層の肥大のある例であ る。末梢筋型動脈には,内弾力膜がきわ立って見 える。多くは多少とも内膜iのFibro−elastoseを伴 っているが,手術後の肺水腫で死亡した一例で, 内膜の変化が極めて軽いものが見られたところが ら考えれば,この亜型動脈筋層肥大の状態は,肺 高血圧の血管壁適応の最盛期と見倣すことができ よう。この時期のものに時々,動脈毛細管移行部 の動脈内膜炎初期像を見ることがある。 写真4.21才,男,僧帽弁口狭窄症。中位, 末梢雛型動脈の筋層肥大,内膜の Fibro−elastose。末梢静脈内膜の線維 性肥厚。Elastica−v. Gieson染色。 弱拡大。 写真5.写真4。と同母。末野筋型動脈の筋 層肥大,内弾力膜増強,動脈内膜炎。 Elastica−v. Gieson染色。中拡大。 3.若年者から中年者にかけての例で,最も普 通に見られるのは,前者の時期から,血管壁適応 力低下乃至老化の所見である。(写真6)。すなわ のち内膜Fibro・elastose乃至Fibrose,中膜筋 写真6.38才。男。僧帽弁口狭窄症。高,申 位筋型動脈の中膜筋層肥大。内膜の Fibro−elastose著明。内膜変化の著 しい部の中膜筋層萎縮。Elastica−v・ Gieson染色。弱拡大。 層の萎縮の所見である。この状態は中位より末梢 動脈にかけて早期におこり,高位血管にはおそく あらわれる。動脈毛細管移行部に動脈内膜=炎が見 られることがある。この場合の動脈内膜炎は,強 いものでも内膜の浮腫性乃至線維性肥厚と,内皮 細胞の軽い増殖であって,高度の先天性肺嵩血圧 例に見られるものよりははるかに温和である。 4.高年令者に見られる変化(これは,僧帽弁 障害よりも,大動脈弁障害や高血圧等による左室 不全からおこるうつ血肺に多い。それは高聴にな ってからリウマチ性炎による弁膜疾患がはじまる ことは少いからである。)は,雛型動脈の内腔の 拡張が目立ち,内膜のFibrose乃至Fibro・e!as− toseが著しく,筋層は肥大が少い。あるいはかえ 一一 228 一

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つて萎縮状であるという状態である。この変化は 高,中位動脈で著明に見られる。この場合は既に 適応力の低下していた1血管に加わった高1血圧の結 果をしめしている。 5. 静脈の変化は,多くの血合動脈系の器質的 変化に:先行する。反応力の旺盛な男合には,静脈 は中位静脈で中膜筋層の肥大が強く,動脈様に見 える程になることがある (写真7)。しかし一一一i般 民

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写真7.写真4.と同勢。高位静脈の中膜筋 層肥大。内,外膜の線維性肥厚。此 の例は炎症型内膜肥厚が動静脈共に 見られる。Elastica−v. Gieson染色。 弱拡大。 には外膜,内膜のFibroseを伴う拡張から進ん では内膜の狭窄に到る高度のFibroseに移行す る(写真4.8.)。多くの場合は随伴される静脈内

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写真8.写真6.と同例。中位,末梢静脈内 膜の線維性肥厚による内腔狭窄。 Elastica−v. Gieson染色。弓弓拡大。 膜炎も加はり,狭窄性変化が著しくなる。 6.弾力型動脈は2.3.のものでは,中膜の肥 厚と共に,内膜線維化,アテローム性変化を種々 の程度に示している。 7. 動脈内膜炎:が末梢動脈のみならず,中位, 時に高位動脈にまで見られる場合は,harn ody一 namischの影響よりもリウマチ性炎の一環として の動脈内膜炎が考えられる(写真9.10)。とくに 写真9.36才。男。僧帽弁口及び大動脈弁口 狭窄症。中位筋型動脈の申膜筋層肥 大。内膜の比較的新しい炎症。 Elastica−v. Gieson染色。申拡大。 写真10. 32才。男。僧帽弁口及び大動脈弁口 狭窄症。(本縫は弁膜の変型が著し く,又新しいリウマチ性炎をみとめ た。)弾力型肺動脈内膜の炎症性肥 厚。Elastica−v. Gieson染色。弱 拡大。 変化が不連続的に認められる時は,病巣がすでに 線維化していてもこの疑が強い。懸疎な結合織性. の内膜隆起の中に,少数の単核細胞の浸潤のある ような比較的新しい=炎症像を呈するものから,そ れが線維化傾向を示すものまで,種々の古さの像 を呈する限局性あるいはびまん性の内膜肥厚とし て認めれらる。このような場合には,筋型動脈中 膜の萎縮がないことが多く,動脈内膜炎のために 内腔が狭められる。また末梢部ではしばしば閉塞 性となる。勿論内膜変化が強い場合には後には中 膜の筋萎縮,線維化もおこりうる。病変の好発部 にあまり規則性はないが,中位の動脈に比較的多 い傾向がある。動脈系に変化の強いものでは,静 脈系にも同様な内膜炎が見られる(写真7)。これ 一一 229 一

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は前述のtrとく静脈狭窄の一因となる。心の弁膜 におけるリウマチ性変化が晶出であっても,肺に 比較的新しい変化がみられることがあるが,これ は反覆性に間葉組織の動揺することの多いリウマ チ性炎症の際,予め肺血管系か高血圧状態である ことが,リウマチ性動静脈炎成立に素因を与えた ためであろう。 以上の所見を総括し考按して見るとつぎのよう である。うっ血における肺血管系の変化では,静 脈系の器質的変化が動脈系のそれに先行する。静 脈が高圧に応ずる叡感も,中膜筋層肥厚の様な適 応をある程度は示すが,早期に筋力による適応の 低下状態に転じる。これは動脈と異り,中膜に筋 要素が少い静脈壁構造の特色によるものである。 高圧に対する影響はしたがって内膜,外膜の線維 化としてあらわれる。此の際内膜には繊細な弾力 線維の増生が見られることが多い。静脈内膜に前 記の炎症型の内膜肥厚が附加される時は,静脈の 内鼠は著しく狭くなり,此の様な変化が肺の広い 領域に生じれば,当然このことからも更に肺動脈 高」血圧が云云される結果になる。 肺動脈が高圧に応じる状態及び年令的変化は体 循環における言合と同様の過程であらわれ,これ はまた前述の先天性心疾患におけるものとも同類 である(体循環の動脈変様に関しては本誌第28巻, 1号の松本教授の論文に負う所が多い)。まず現 われるのが筋組織への適正刺戟による中膜筋層の 肥大である。この際予め内膜線維化の少い若年者 では,.血管内鼠から与えられる栄養原からいって も,また保有筋量から云っても筋層肥大に好条件 であり,2.として記載したような所見を呈する。 高圧による内膜刺戟が強く,内膜線維化を生じる 設階に到れば中膜筋は萎縮に転ずる。このような 例は最も普通に見られる 3.の型に一致する。 一般に中位より末梢一型肺動脈が早期にFibro・ elastose, Fibrose及び筋i萎縮に転じるのは,正 常時の肺循環がこの領域の1岳L管により調節されて いることを物語るものである。勿論,二次的な肺 構造改変のある蜴合には,上紀の変化に揚所的な 差異がおこるのは当然である。ここで特殊な例と して1.に述べた幼児期より二つた肺動脈高一血圧 例について附言したい。内腔の拡張,中膜の軽度 の肥厚,内膜のFibro−elastoseは一見先天性心 疾患による肺動脈高」血圧の軽いものに似ている が,内膜の所見が少し異る。内膜のFibro−e正asto− seと云っても,高三者や,先天性心疾患による高 度の肺動脈高血圧の場合と趣を異にし,膠原線維 が弱く,弾力線維も繊細で,層状構造がかなり規 則正しい。したがってこれによって中膜への栄養 流を阻害するほど著しくなく,中膜筋層は一様の 厚さを保っている。勿論内腔の拡張は藪舳の多い こ.とをあらわし,この広い内腔にもかかはわず中 膜が正常に近い厚さを保っているのは,筋:量の多 いことをあらわしている。前記の先天性のものに 比べれば温和な,徐々に進行する肺動脈高血圧で は,内膜に結合織及び弾力線維増生が促される刺 戟と血管の発育とが重り合って,このような,い はば筋型動脈と弾力型動脈の移行型を呈する一血管 区間が発達するようになる。それはすなわち,機 能的にも弾力型動脈の持つWindkesse]funktion を示す区間の延長であり,肺循環の調節に役立っ ているものと思われる。 高年令になってはじまった二次的肺動脈高ユ血圧 例では,中膜筋層の肥大はおこりがたく,内膜の

Fibrose, Fibro・elastose, Hyalinoseが目立っ。

叉,内面の拡張することが多い。これらの変化は 普通の揚合でも高令者に見られることで,いわば 肺動脈高一血圧によって老人性変化が促進されたも のといえよう。高年令者では内膜に増加した組織 成分に膠原物質,硝子様物質のような弾力性の少 い物質が多く,この点1.に述べた特殊な若年者 の例や,2.3.の若,壮年者のそれとはいきさか 異る。これらの違いは,年令による物質代謝様式 のちがいによるもので,既に内膜にこのような変 化がおこっている者では,高1血圧に対して中膜筋 の肥大は困難であり,むしろ内膜の硬化が更に進 み,中膜が萎縮するというかたちで血管壁変化が 進行する。’ 1.∼4.に属する諸例で見られるそれぞれに異る 並L四壁反応に「年令」の持つ意義は看過出来ない。 これは勿論すべての他の臓器組織でもいえること である。心崎型による肺血管変化が,いわば発育, 成長の中に含まれた異常条件であるとすれば,後 天性の観合は頚庄面壁の発育,老fヒ過程の様々な時… 期に,途中から附加された異常条件である。後者 では当然その時期によって反応し得る要素が違っ てくるわけである。 以上の記載,考察は肺血管の中で広汎でありか 一一一 280 一一.

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つ肺の循環,呼吸機能に重要な位地を占めている 毛細管流床についてはあまり立ち入っていない。 これ迄では,実は肺の臓器病理には片手落ちとい うことになるが,毛細管流床については後の機会 にゆずることにする。 総 括(1.H.篇を通じて) i)緒論にもふれたように,」血管系の正常構造 を明らかにするには,単に1血管の走行をしらべる だけでなく,並t管樹各部の機能を明らかにするこ とが必要である。そのためには,所謂正常の場合 のみならず,急性,慢性の種々な異常条件下の血 管樹の変容が参考されなければならない。 2)肺1血管系の構造,肺の循環単位としては

MillerのSchemaが役立つ。ただ,静脈及び毛

細管領域においては,隣接諸系統問にかなりの融 通性があると考えられる。 3) 先天性心疾患による肺一血管樹の変化につい ては便宜上第1篇の末尾に総括したが,高度の一血 管変化を呈する場合には何れも肺内循環の持続的 な制限から,進行性の当流床減少,肺の荒廃に至 る。 4) 後天性心疾患等による肺循環高一血圧の際の 肺血管系の変化は,年令的要因を主とする一血管壁 の基礎状態に密接な関係がある。 5)他方,肺血管樹の変様は,三内気道の状態 と関連なしには論じられない。 6) 以上何れの揚合にせよ,肺の主要血管胃内 血圧の長年にわたる異常は,結局その』㌃漕解に機 能的,形態的に依存する終末血路の荒廃,換言す れば有効流床の減少に導くことになる。これはと りもなおさず,肺という臓器構造の変更であり, 血管樹に発した事態が,血管樹の枠を越えた事態 へと移行したことにほかならない。上述の考察 は,種々の疾患にわける,この移行の遅速及び例 々による移行経過の差異を明らかにし,且つ,こ れらの有機的必然性を形態学的に跡づける試みの 一部をなすものである。 この試みによって,従来断片的に記載されてい た心疾患時の三内血管変化が,統一体としての血 管樹系の有機的変容として理解されることとなっ た。特にこの際正常形態との聞の脈絡が解明され た点が重要である。それはこの関係を通じて,諸 種のCor pu】monaleの肺循環研究の道が直ちに 開かれることになるからである。 著者はこの研究を昭和29年に企てて,第1報を 報回して以来,断片的には取り上げて来たのである が,年々例を加えながらも総括するとなると多くの 疑問にぶつかり未だilC体をなさなかった。此の度, 周囲からの要請もあり,一応整理して見ると,未だ 不備の点が多いながらも,第1報とはちがった自分 なりの興味もあった。この間の研究は松本教授の示 唆に富んだ御助言に負うところが多く,また教室員 諸氏の援助に与ったことが少くない。欄筆に当って 感謝の意を表す。 一一 231 一=

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