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開心術後のリンパ球β2アドレノセプターの推移

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(1)

〔蕪薦36灘、鞘〕

開心術前後のリ.ソバ球βアドレノセプターの推移

東京女子医科大学 日本心臓血圧研究所

       トク   ナガ

      徳 永

循環器外科学(主任 小柳 仁教授)

ヒロ    ユキ

裕 之

(受付平成5年7月3日)

.Changes in Lymphocyteβ2・Adrenoceptor Density during Open Heart Surgery

       H蓋royuki TOKUNAGA

Department of Cardiovascular Surgery(Director:Prof. Hitoshi KOYANAGI), The Heart Institute of Japan,       Tokyo Women’s Medical College   This study was designed to investigate changes in human lymphocyteβ2−adrenoceptor density (Bm。x L)during Open heart surgery, The StUdy grOUp COnsiSted Of 19 adult patientS whO underwent cardiac operation. Arterial blood was sampled before cardiopulmonary bypass(CPB),15,30 and 60 min after CPB. Bm。、 L waS meaSUred by the radioligand b董nding teChniqUe and COncentratiOnS Of plaSma

catecholamines(norepinephrine, epinepねrine)were measured by the high performance liΦid

chromatography・electrochemical detection method. We selected the cardiac index(CI)which reflects cardiac function and simultaneously measured CI with a Swan・Ganz catheter. CI levels were regulated to 2.5∼4.O l/min/m2 in the catecholamine infused pat量ents after CPB. The number of lymphocytes increased significantly at 15 min after CPB(p<0.05). In comparing norepinephrine and epinephrine values before CPB and 30 min after CPB, a significant increase was pfesent at 30 min after CPB(pく0.01). In SUCh SitUationS, in whiCh CI waS inCreaSed(3.43±0.77」/min/m2), Bm。、 L was slgnificantly increased at 30 min after CPB,as compared with before CPB(p<0.05). We also noted that Bm。、 L was Changed at l50r 30 minUteS, along with hemOdynamic statUS alterationS after CPB.   These reSUItS SUggeSt that Bm。、 L may change, and therefore serVe aS a marker indicating the cardiac function, before and after CPB.

      緒  言

 開心術前後の心不全状態を管理するにあたって

は,Swan−Ganzカテーテル等を用いて心不全の定

量化を行い,種々のカテコラミン,血管拡張薬な

どを選択,使用して血行動態の安定化に努めてい

るめが現状である.近年カテコラミンの作用する

βアドレノセプターの濃度が調べられ,欝1血性心

不全,心筋症等の疾患やその他の環境に対応しリ

ンパ球焼アドレノセプター濃度(BmaxL)が変化し

ているとの報告1)∼4)が見られる.生体はβアゴニ

スト,βアンタゴニスト投与によって心筋βアド

レノセプター濃:度(Bmax)またはBmaxLが変化す

ることから,βアドレノセプター濃度を上昇させ

るための新たな治療法5)∼8)が生まれてきている.

Broddeら9)10)はBmaxLと心室筋焼アドレノセプ

ター濃度に相関関係が認められると報告している

が,人工心肺体外循環(cardiopulmonary bypass:

CPB)を使用する開心術前後の短期間における

BmaxまたはBm。。しの変化の有無を調べた報告は

ない.外因性のカテコラミンが投与されコント

ロールされた心不全状態でどのような推移を示す

か,採血のみで情報が得られる末梢血リンパ球を

利用し,Bma。しの測定ならびに血漿カテコラミン

濃度(ノルエピネフリン:NE,エピネフリソ』:

E),心係数(cardiac index:CI).を同時に測定し

た.その結果Bm。xしが血行動態とどのような関連

(2)

性があるか,術後管理,心機能の評価に新たな視

点を導けるかを検討した.

       対象および方法

 対象は1991年3月より6月置で当院で施行した

開心術19例とした.内訳は僧帽弁置換術(MVR)

5例,大動脈置換術(AVR)6例,僧帽弁・大動

脈弁2弁置換術(DVR)2例, Benta11術2例,冠

動脈バイパス術(CABG)2例,バルサルバ洞破

裂修復術1例,心房中隔閉鎖術1例で,19例の内

BmaxL, NE, Eが測定できたのは13例(MVR 3,

AVR 3, DVR 2, Bentall術2, CABG 2,バル

サルバ洞破裂修復術1),さらにCIまで測定でき

たのは7例(MVR 3, AVR 1, DVR 2, Bentall

術,1,CABG 1)であった.無輸血症例は5例,

Bm。xL, NE, Eが測定できた13例中では3例含ま

れている.また13例の全体外循環時間は187ユ±

65,6min,大動脈遮断時間は135.7±43.Ominで

あった.年齢は26∼68歳(平均48.2±14.7歳),男

14例,女5例であった.全身麻酔は大量フェンタ

ニール麻酔で行い,CPB装置は定常流ローラーポ

ンプを使用した.

 CPB後の心不全状態に対しては, Swan−Ganz

カテーテルを挿入しそれを一つの指標としてカテ

コラミソ(ドーパミン,ドブタミン)の投与量を

調節した.初期投与量は術前の心機能状態,CPB

後の心臓の動きを見て行い,通常ドーパミン3∼8

μg/min/kgであった.血圧,中心静脈二等,血行

動態の指標にもよるがCIが2.51/min/m2以下に

なる場合はカテコラミン投与量を増量させ,症例

によっては外因性のNEを使用する場合もあっ

た.またCIが4.01/min/m2以上あるなら状況に

よって逆に減量し,適正な循環動態に調節した.

 検体の採取な:らびに測定は,全身麻酔後CPB

前(Pre), CPB離脱後15,30,60minの計4回採

血し,リンパ半数,BmaxL, NE, Eの測定を行う

と同時にSwan−GanzカテーテルによるCIの測

定を行った.リンパ球はヘパリン採血した動脈血

20mlを1,500回転(500×g)8min遠心分離した.

血液成分の上層部2∼3mlを採取し等容量の燐酸

緩衝生理食塩水(PBS)を加え撹三三,リンパ球

分離液(Ficoll−paque)に重層した.1,500回転30

min遠心リンパ球層を取り出し,これをPBSで

洗浄後リンパ球を浮遊させ数を計測した.

 βリセプター結合実験はBroddeら11)の方法に

従った.まず10∼120pM濃:度の(一)125L

iodocyanopindolol(ICYP)を用い,リンパ球と

ともに37℃,1hrインキュベート後GF/Fガラス

フィルターにて急速吸引濾過しフィルター上の放

射活性をγカウンターにて測定した.10μMpro−

pranolol存在下の結合量を非特異的結合とし全

結合との差を特異的結合とした.Scatchardプ

ロットによりBmaxL,解離定数(KD)の算出を行っ

た.

 血漿カテコラミン濃度(ノルエピネフリン:

NE,エピネフリン:E)の測定は高速液体クロマ

トグラフィーelectrochemical detector(HPLC−

ECD)法を用いた.結果はmean±SDで表示し,

4半間の統計学的分析には分散分析法を用い,有

意の場合は更にNeuman−Keuls’, range testによ

り検定した.また2群間の統計学的分析はpaired

t−testを用い,いずれもp〈0.05を有意とした.

         結  果

 1.リンパ球数の推移

 19症例の推移を図1に示す.Pre:9.3±5.8,15

min:17.3±13.4,30min:12.4±10.6,60min:

5.9±3.5(×106個)とCPB離脱後15minで高値を

示し時間とともに減少傾向を示した.症例によっ

て採取できるリンパ球数は差があり15minがPre

 6

x10

 35 30 25 20 15 10 5

  O

     Pre   15min  30min  60min

   図1 開心術前後のリンパ球の推移

人工心肺後15minが有意に(p〈0.05)上昇している.

(3)

B.1F 0.5 014 O.3 0.2 0.1 0.0 十  十 ● o 十. o 十 0 1 2 B 3 4      5      お   (fmol!10 ) 0、3 02 BIF 0.1 0.O △ ● △

O

● ● △   ● △ △ ● ● △

     図2 Scatcherdプロット実例

横軸との切片がBm。xL(fmol/106)を表す.+:麻酔前,

、○:CPB前,●:CPB後30min,□:CPB後60min.

0.4 0.3 o 1 B 2 6 B/F  O.2 0.1 0.0 0 1 2 B 3       4     ピ   σmo1110 }

図3 Scatcherdプρヅト実例 人工心肺後15minの

 KD値が大きく変化する例

 ○:CPB前,△:CPB後15min,●:CPB後30min。

3(fmo1’10 }

の3倍強増加する例も認められた.15minはPre,

30,60minと比較して有意に上昇した.

 2.BmaxLの測定

 図2∼4はCPB前とCPB後15,30,60minの

Bm。xLを示すScatchardプロットの実例である

が図3,4のようにKD値が大きく変化する症例

や,BmaxL, KD値が測定できない症例を認めた.

KD値は5.1±1.9pMであり症例により差があっ

た.

 3.Bm。xL, NE, E, CIそれぞれの変動

 術後.良好な経過をとった12例のBmaxL, NE, E,

CIのCPB前後の変動(Preと30min後)を図5

図4 Scatcherdプロット実例 KD値測定不能例

 ○:CPB前,△:CPB後15min,●:CPB後30min.

    6

fmo1110

3 2 o       pre       30 min 図5 リンパ球β2アドレノセプター濃度の変化 人工心肺後30minに有意に(pく0.05)増加してい る.

P91mI

3000 2000 1000 0 釜 P「e

30min

    図6 ノルエピネフリンの変化

人工心肺後30minに有意に(p<0.01)上昇している.

(4)

P91m1 2000 1000 0

o

P「e

30mln

     図7 エピネフリンの変化

人工心肺後30minに有意に(p〈G.01)上昇している.

      P9/mi

fml/106

    口㎞axL

       3000

4.5     ■.旺

 4

       2500

3.5  3       .   200G 2.5

       1500

 2

1,5       1000  1

       500

0.5  0       0     Pre       30min         60min 図9 リンパ球β2アドレノセプター濃:度とノルエピ  ネフリンの関係 人工心肺後にともに上昇する例 11minlm  6 5 4 3 2       pre      30min

      図8 心係数の変化

人工心肺後30minに有意に(p<0.05)上昇している.

∼8に示す.BmaxL:Pre L 93±0.76,30min

2.66±1.14(fmol/106), NE:Pre 273.1±214.4, 30min 1,449.2±947.4(pg/ml), E:Pre 107.2±

12.7,30min 718.2±462.1(pg/ml), CI:Pre

2.58±0.55,30min 3.43±0.77(1/min/m2),と

Bmax:L, NE, E, CIはCPB離脱後30minではそ

れぞれ有意に上昇していた.NEの計測上限は

3,000pg/mlだが外因性のNEを併用したCABG

1例では30min後に3,000pg/ml以上の値を示し

た.

 4.Bmax正とカテコラミンの関係

 図9,10に2つの実例として示すと,図9のよ

fmDl/106      P9/ml  5      350 45

       300

 4

       250

3.5  3       200 2.5

       150

 2 1.5      100  1

       50

0、5  0      0     P「e       30min         60田in  図10 リンパ球角アドレノセプター濃度とノルエピ  ネフリンの関係 人工心肺後にともに下降する例

うにBmaxL, NEともに上昇する例は12例中10例

に認めた(術後経過不良例を除く).しかし図10の

ように30min後にはNEも上昇せずBmaxLも低

下する症例が認められた.CIの値により外因性の

カテコラミンの調節を行っているが,60min後ま

で見た症例ではNEが減少してup regulationす

る症例が5例中3例認められた.またBmaxLが

NEに伴って減少する例も2例認められた.

 5.BmaxL,とCIの関係

 CPB後30minにCIの測定が可能だった7例は

外因性のカテコラミンを使用して2,5∼4.5

1/min/m2に調節されていた.術後経過不良例はCI

が2.3から2.61/min/m2に上昇していたがBmaxL

は減少していた.残りの6例はBmaxL, CIともに

上昇していた.

(5)

         考  察

 心筋の各部位におけるβアドレノセプターの

存在はBristow等12)∼14)により詳しく調べられて

いる.それによると心房筋,心室筋ではβL,β2ア

ドレノセプターの割合は異なっていることが判明

した.またBm。xしとBmaxの変化を見るとBm。xし

と心室筋β2アドレノセプター濃度に相関関係が

認められたが心室筋β【アドレノセプター濃度と

の相関関係は得られていない10).心筋に嫡焔,鳥

アドレノセプターの両方が存在し,心筋収縮に関

してはβアドレノセプターの関与が強いと考え

られる.しかし心機能としてみるとβ,焼アドレ

ノセプター両方が関与していると考えられる.今

回の研究では心機能の一つの表現であるCIを測

定し,CIとBmaxLの関係を導き出すことにした.

 まず末梢血リンパ球数の変動は,CPB時間の長

短,輸血,年齢,温度等による影響が考えられる.

根本的にはCPBという非生理的状態に生体がさ

らされたことによる免疫応答の結果ではないかと

推測される.白血球数はCPB終了時に著明な増

加を認めるとの報告15>がある.中沢16)はCPB前と

CPB中,さらにCPB後30min,術後1日の白血球

数の変動を比較しているがCPB後30minに有意

な上昇を認めたと報告している.今回のリンパ球

数測定はCPB後15,30,60minと経時的に採血し

た.希釈率で補正していない値でもCPB後15min

に高値を示し,60minでPre値にほぼ復すること

が判明した.リンパ球に関しては免疫学的観点か

らTcg11, B cell等リンパ球の種類が測定されれ

ぽさらに興味ある結果が得られるものと思われ

る.

 開心術前後のBmaxLの推移に関して,増加する

場合と減少する場合,また変化しない状態が予想

される.まず手術によって心臓に対しては圧負荷,

容量負荷,虚血等が解除されるのでBmax, BmaxL

は増加する可能性がある.さらにBmaxLの変化は

カテコラミン以外のホルモン等により上昇すると

の報告17}があり,CPB開始時に使用するソルメド

ロールの影響を考慮する必要性がある.一方CPB

の使用がリンパ球に対して何らかの負のダメージ

を与え,また術後外因性カテコラミンが投与され

るので血漿カテコラミン濃度が上昇しdown reg−

ulationを惹起させると考えられた.これは下血性

心不全,心筋症等の疾患では血漿カテコラミソ濃

度の上昇が認められ,逆にBm。xしが減少する報

告2)18)が見られていることから推測した.

 実際にBmaxLを測定するといくつかの疑問が

生じた.まずBm。xLを測定するにあたってはリン

パ球数が多い程Bm。。しの検知精度が高まると考

えられるが,リンパ回数が有意に上昇した15min

後に必ずしも期待した結果が得られたわけではな

かった.リンパ球数と同様にBmaxLの推移に対し

てCPBの影響は否定できない. CPB後15minの

Bm。xしが30,60min後に比べて一定しないのはカ

テコラミソの調節,輸血,輸液,プロタミン等の

薬剤の開始で血行動態的に非常に不安定な時期で

あると同時に有意に上昇したこの時期のリンパ球

そのものに問題があると推測される.CPB後の急

激な血行動態の変化をアドレノセプターの面から

とらえると,アドレノセプターの合成が昂進また

は低下するという解釈よりアドレノセプターは細

胞膜に固定しているのではなく,アドレナリンの

刺激により細胞内に移行した細胞膜にでてきたり

して,動的な変化をすると解釈したほうがよい.

その結果BmaxLが短時間1 ナ変動すると考えられ

る.またKDが大きく変化したり測定できない症

例があるが,KDは薬物とリセプタ7の親和性を意

味するもので,CPB後急性期はCPBによる影

響,薬物による影響,リンパ球自体の変化等で一

過性にその親和性が変化している可能性がある.

さらに放射性物質を使用するこの研究の感受性な

らびに特異性に限度があるものと考えられる.

 術後良好に経過した12例中10例はBmaxLが増

加していた.吉栖ら19)は開心術後にドーパミンを

持続投与した時,CPB前と比較してCPB後30

minよりNE, Eが有意な上昇を続けたと報告し

ている.その報告どおり術後良好な経過をとった

12症例ではCPB前と比較してCPB後30minに

NE, Eが有意に上昇した.しかもCIが2.5∼4.5

1/min/m2に調節された血行動態のなかでBm。xし

も有意に増加することが認められた.1例ではあ

るが術後経過不良例をみるとCIで2.51/min/m2

(6)

以上維持できてもBmaxL, NE, Eが減少している

場合があり厳重な監視が必要であることが示唆さ

れた.

 Bm。xLはCPB後も測定可能で,15minから30

1ninという時間で鋭敏に変化していることが判明

し,.外因性のカテコラミンで調節された心不全状

態において有意な上昇を示したBmaxLは心機能

を示す一つの指標として変動していると推測され

た.今回の研究結果から今後は術後経過不良例の

BmaxLの検討と病態別に分けて測定する必要が

あると同時に急性期採血より血行動態の落ちつい

た退院時と入院時にBmaxL, NE, E, COを測定

すれば,術前術後の心機能の評価を行える可能性

が示唆された.

      結  論

 1)麻酔導入後人工心肺前,人工心肺離脱後15,

30,60minでリンパ球数を測定すると15min後に

有意に上昇し時間とともに減少した..

 2)麻酔導入後人工心肺前と人工心肺離脱後30

minを比較するとリンパ球焼アドレノセプター

濃度,血漿ノルエピネフリン,エピネフリン濃度,

心係数は全て30min後に有意に」二二していた.

 3)カテコラミンと同様iにリンパ球焼アドレノ

セプター濃度は人工心肺後も15minから30minで

変化することが確認された.

 4)開心術においてリンパ生焼アドレノセプ

ター濃度の測定は,採血の時期を選ぶことにより

心機能を表す一つの指標となる可能性が示唆され

た.

 稿を終えるあたり,御指導,御校閲を賜った恩師小

柳 仁教授に深甚なる謝意を表します.また本研究の

当初から直接御指導頂いた麻酔学教室白井希明助教

授,薬理学教室村木 篁教授,基礎循環器科菅原基晃

助教授に深謝すると共に,技術的な御指導を頂いた東

邦大学薬学部教室高柳一成教授,小池勝夫助教授に御

礼を申し上げます.更に測定上御協力を頂いた研究部

検査室今村伸一郎助手,麻酔科諸兄に心より感謝致し

ます.

      文  献

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