特別講演 (東女医大誌第55巻 第2
号)
頁 103-110 昭和60年2月甲状腺機能元進症と甲状腺機能低下症
東京女子医科大学第二内科学教室 シズ メ教 授 鎮 目
和 夫
(受付昭和59年10月3日〉Hyperthyroidism and Hypothyroidism Kazuo SHIZUME
,
M.D.Department of Medicine II, Tokyo Women's Medical College
In this lecture, in the first part, c1assification of hyperthyroidism was described, then on the most frequent cases of hyperthyroidism, namely on Graves' disease, incidence, etiology, signs and symptoms,
laboratory tests for diagnosis and the methods of treatment were described. Graves' disease is most likely to be caused by the thyroid stimulating anti-TSH receptor antibody. However this theory has not been completely established yet.
In the latter part of the lecture, on hypothyroidism, etiology, incidence, signs and symptoms,
laboratory tests for diagnosis and the methods of treatment were described.
は じ め に 本日は,演者が過去30年間にわたり診療し,研 究してきた甲状腺機能充進症と甲状腺機能低下症 について述べる.本総会に御参加の大部分の方は, 臨床内分泌学の専門以外の方なので,その方々に 少しでもお役に立つようにというつもりで述べ る.
A
.
甲状腺機能元進症 1.甲状腺機能克進症の病型分類 これは,学問的には次のように分類される. (1)ノミセドウ病(グレーブス病〉 甲状腺が全体に腫脹して,そこからホルモンが 過剰に分泌されるためのもの (2) プランマー病 甲状腺内に甲状腺ホルモン産生腫虜が出来て, そこからホルモンが過剰に分泌されるためのもの (3)下垂体性TSH産生腫蕩 TSH (Thyrotropic Hormone)が甲状腺を刺激 し,ホノレモンが大量に分泌されるもの (4)異所性TSH産生腫蕩 現在迄に知られているのは繊毛癌と胞状奇胎 (5)甲状腺ホノレモン剤中毒 主としてやせ薬の中に入っていたり,あるいは やせる目的で甲状腺ホルモンを過量に飲んだ場合 しかしこのうち大部分はバセドウ病なので本講 演ではこれのみについて述べる.2
.
パセドウ病の頻度 パセドウ病は決して珍らしい病気ではない.我 が国における患者数は昭和39年丸地ら川:長野県 15地区の全住民約73,000名中, 59,000名について 検査した検果では,人口10万につき約80名であっ た.これを日本全体に及ぼせば約9万人というこ とになる.ところが本学学生についてみると,す でに卒業したグラスではl学生に3名いた例もあ り , 1学年に 1名,即ち 1 %位はいるようである. パセドウ病の男女比は1:
5
位なので,我が国に おける20歳以上の男子人口 4,034万名,女子人口 4,316万名に0.002と0.01を掛けて加えると,パセ ドウ病にかかったことのある患者は成人だけでも 全国で51万名くらし、し、ると推計され,かなり多い ものと思われる.しかし病院を訪れる患者がそれ 程多くないのは,見逃されている患者,特に軽度 -103serurr
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1 totα1 c AMP production determined by Rl A 感度の高い方法である.一方,本症患者の大多数 の血中IgGは甲状腺細胞のTSH受 容 体 と 結 合 しTSHとTSH受容体との結合を阻止すること が種々の学者により明らかにされ,その物質は TBII CThyrotropin Binding Inhibitory Im -munoglobulin)と呼ばれているが, これはその物 質がTSH受容体に対する抗体であることを強く 示唆する事実である.ただ現在最も広く用いられ ているSmithの方法3)で,演者らが本症患者につ 3 days Thyroid Stimulating Immunoglobu1in CTSI)G
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図l の患者がかなり多いことを推測させる.英国のR
.
Hallも,英国ではパセドウ病患者の数は糖尿病患 者の数と同じくらいだと報告している.3
.
パセドウ病の成因 本症の成因は不明とされていたが,1
9
3
4
年頃下 垂体に甲状腺刺激ホルモン (TSH)が存在するこ とが明らかになって以来,約2
0
年間は下垂体より のTSH分泌過剰のために起こるとし、う説が有力 であった.しかし, TSH測定法の進歩により,本 症患者の血中ではTSHが却って減少しているこ とが明らかになり,一方1
9
5
6
年NewZealandの Adamsが本症患者の血中にはTSHと異なった 甲状腺刺激物質が存在することを発見した.その 後この物質はIgGCImmunoglobulin)であること が判明し, LA TS (Long Acting Thyroid Stimulator)は自己抗体であろうという説が提起 されてきた. ところが, ラットやマウスを用いて 測定する LATSは本症患者の約半数にしか認め られないところから,甲状腺刺激物質をよりよく 測定する方法が種々開発された.その中で教室の 対馬と磯崎が最近開発した方法2) 即ち図1の如 くブタ甲状腺J
慮胞を培養したものに患者のIgG を 作 用 さ せ て 培 養 液 中 の cyclic AMP CAdenosinemonophosphate)の増加度をみる方 法は本症患者の約90%に陽性で(図2),現在最も•
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き測定した結果は,図3の如く陽性率は75%でし かも前述のTSIの力価と TBIIの力価は図4
の 如く必ずしも一致しない.そして最近では図5
の ようにTSH・Receptor-Antibody即 ちTBIIには 甲 状 腺 ホ ル モ ン の 分 泌 を 刺 激 す る も の CTSI -Thyroid Stimulating lmmunoglobulin一),甲 状腺細胞の増殖を促進するもの CTGI-Thyroid Growth Stimulating Immunoglobulin一), TSH の作用を抑制するだけのBlockingTypeのもの と,種々あることが分ってきた. これらの事実から,現在の成因説としては,本 症患者に遺伝的素因があり,そのような人に甲状 腺上皮細胞の障害が起ると TSH受容体に対する 抗体が産生され, これが甲状腺を刺激して本症を 惹起させるとL、う説や, TS H -bindingもiteを有す るYeruseniaenterocolitica4 )の よ う な 細 菌 に 感 染するとTSH受容体に対する抗体が出来るので はないかとL、う説がある.また本症の約半数に認 められる眼球突出も,眼富後部組織に交叉反応す る抗TSH受容体抗体の作用によるのではなL、か とL、う説が有力である.しかし, この説が完全に 図4 抗 T S H受容体抗体が甲状腺を刺激する TSI ー TGI Blocking Typeの TB II.
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パセドウ病の成因論 図5 -20 Not suppressed Suppressed Normal TBII in Graves' Disease Untreated 図3受容体抗体であることの証明,
2
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動物に抗TSH
受容体抗体を作成し,実験的パセドウ病を発症さ せることの2つが必要と思われるが,未だL、ずれ も成功していないので,TSH
受容体抗体により 発症するとし、う説はなお有力な仮説として留まっ ている状態である.4
.
パセドウ病の症状と検査法 パセドウ病の症状は表1の如くであるが,ただ これら症状のすべてをそなえたパセドウ病は少な く,本症を見逃さないためには, これら症状の1
つでも存在する時には本症の可能性を考えて検査 することが必要である. さて,本症診断の検査法としては表2の如く昭 和28年頃までは基礎代謝率の測定のみが用いられ て お り , そ の 頃 か らP
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の測定が登場したが,測定手技が繁雑でし かも正確な値が得られないため,なかなか一般に 用いられるのは困難であった.一方,甲状腺の山 I摂取率の測定も昭和29年頃から一般的に用いら れるようになり,この方がP
B
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の測定より実際的 に容易なので,昭和30年 代 に は 演 者 も 盛 ん に 行 なった.一方,昭和33年頃から血中サイロキシン を間接的に測定するトリオソルプ法が開発され, 現在でもこの方法は用いられている.また昭和40 年 頃 か ら 血 中 のTSH
がラジオイムノアッセイC
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で測定できるようになり,本症ではTSH
が低値を示しTRHC
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試験によってもTSH
が上昇しないので, 診断上有用になった.そして昭和46年頃から血中 サイロキシンCT
4)やトリヨードサイロンC
T
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表l パセドウ病を疑うべき症状所見 自覚症状 全身倦怠感 体重減少 心 博 充 進 運動時の息切 手や身体のふるえ 微 熱 他 覚 症 状 頻 脈 心 房 細 動 甲状腺腫 気力、、らいらする 下 痢 多汗 月経異常 筋 力 の 低 下 四肢麻癖 高 血 圧 糖尿 眼球突出 表2 パセドウ病の検査法 昭和28年末迄 基礎代謝(BMR) ↑ 昭和28年 一 47年頃 PBI 昭和29年 一 最 近 甲状腺1311摂 取 率 昭和33年 一 57年 頃 トリオソノレプ等CT,U) 昭和40年 現在 TSHの測定 昭和46年 一 現 在 五 五 の 測 定 昭 和49年 一 現 在 TRH試験 無 反 応 昭和56年 現在E
笠エゑ 昭和59年 一 サ イ ロ グ ロ ブ り ン Free T3 のRIA
も可能になり,もはやP
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は過去のもの となった.ところで血中に存在するサイロキシン やトリヨードサイロニンは大部分が血奨中の蛋白 と結合しており,従って結合蛋白が増加する時に はパセドウ病でなくとも高値を示すところから,f
r
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のサイロキシンを測定する方が実際に作用 する甲状腺ホルモンの量をはかれるので良いわけ である.この,f
r
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サイロキシンの測定も4
年位 前から一般の使用が可能になった.従って現在パ セドウ病を診断するためには1
つならf
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4, 時にはT
3のみ増加している状態もあるので多でき ればT
4,T
3,f
T
4とTSH
を測定することが良い と思う.5
.
パセドウ病の治療 本症はまだその成因が不明であり,たとえ自己 抗体によるとしても,それを永続的に消失せしめ るのは容易でないと考えられる.そこで実際の治 療法としては,外科手術で甲状腺組織の大部分を 取るか,放射性ヨードで甲状腺組織の大部分を破 壊して甲状腺よりのホルモン分泌量を減少させる か,薬剤により甲状腺ホルモンの合成や分泌を普 通量にまで低下させる方法が用いられている.第1
の外科療法は,熟練した医師が行なえば大部分 の患者を早期に治癒させることができるが,それ でも術後の再発や機能低下症が時に認められる. 一方,未熟な外科医が手術すると,時に死亡した り,副甲状腺機能低下症を起したり, 目立つ傷跡 を作る.第2の放射性ヨード療法は,充分量の放 射性ヨードを投与すれば,殆んどすべての患者を 治癒せしめることができるが,1
0
年後2
0
年後と年 月の進むにつれて甲状腺機能低下症の発症が増106-え,長年月後には半数近くが甲状腺機能低下症に おちいる 一方,抗甲状腺剤による薬物療法は,投与後l
-3
カ月で血中甲状腺ホノレモンを正常化出来る が 1年間服薬しても,中止すると50%以上が再 発する.これは未だ甲状腺刺激物質が存在するた めと思われる.そこでどのような状態になったら 中止すれば良いかという点で,従来甲状腺抑制試 験がその一つの指標に用いられていた.甲状腺抑 制試験というのは,充分量の甲状腺ホルモンを1
週間投与して甲状腺の山I摂取率が抑制されるか 否かを見る方法で,抑制されるようになれば,服 薬を中止しても再発することは少ないということ である.教室の磯崎ら2)は抗甲状腺剤服用により Euthyroidで あ る 患 者27名 に つ き 抑 制 の 有 無 と TSIの成績を比べてみたところ,抑制されない患 者12名中11名ではTSIが陽性,抑制される患者15 名中10名ではTSIが陰性であった.抑制されるよ うになっても再発する患者のあることが種々報告 されているが,抑制されるようになっても TSI陰 性の方からは殆んど再発せず, TSIが陽性の5例 の方からの再発がより多ければ, TSIの測定は服 薬中止の時期を決定するためにより役立つのでは なし、かと思¥",今後検討する予定である.なお演 者らが11年以上抗甲状腺剤を続けている患者のう ち服薬が2-3
錠以上のものでは10例中9
例では TSIかTBIIが陽性であった(表3).即ち,治療 に抵抗する患者では, 10年 以 上 経 過 し て も な お TSIやTBIIの存在することを示す事実と言えよ う.抗甲状腺剤には種々の副作用があるが, これ は大体服薬後2カ月以内に起り,私の経験では6年 以上服薬を続けている患者では全く経験していな表3 Graves' Patients who are on 2-3 tab of MMZ or PTU for more than 11 years Agoef at the onset Present Recent Lab. Results Patient ot treatment S.K. 36 K.K 31 K.Y 41 S.Y. 35 乱1.J 23 T.K 63 N.S 37 T.Y 29 M.K 27 J .T 14 PTU : propylthiouracil MMZ : methimazole Drug PTU MMZ PTU MMZ MMZ PTU MMZ MMZ PTU PTU Duration Dose T, T, 28yrs. 2tab 133 7.8 22yrs. 3tab 200 10.3 16yrs. 2tab 129 6.2 16yrs. 2tab 103 7.1 15yrs. 3tab 182 9.3 13yrs. 3tab 136 11.8 l1yrs. 5tab 140 10.7 11yrs. 2tab 136 7.5 11yrs. 4tab 109 5.6 11yrs. 4tab 130 8.0 TBII : Thyrotropin Binding Inhibitory Immunoglobulin Cby Smith Kit) FT, 1.13 1.49 1.56 1.04 2.04 2.33 1.34 1.27
TSI : Thyroid Stimulating Immunoglobulin Cusing porcine thyroid follicle)
TBII 7.8 49.2 4.5 9.6 52.3 65.9 35.2 8.9 0.6 24.8
表4 Patients who were on 1 tab of MMZ or PTU for more than 11 years Agoef at the onset Period Recent Lab. Results Patient treatment H.T.t 53 F.O.♀ 23 S.K.♀ 49 PTU : propylthiouracil MMZ : methimazole Drug Duration PTU 20yrs. MMZ 12yrs. MMZ 11yrs. after discont. T, T, 6y 104 7.1 1Y 169 13.2 10m 116 7.9 TBII : Thyrotropin Binding Inhibitory Immunoglobulin (by Smith Kit) FT, 1.07 1.5
TSI Thyroid Stimulating Immunoglobulin (using porcine thyroid follicle)
TBII 0.4 27.8 20.0 TSI 99.9 192.1 200.1 342.0 120.4 63.8 376.7 286.2 178.7 186.8 TSI 142.9 118.4 106.2
い.外科手術や放射性ヨード療法と異り,機能低 下症になる患者も少ないので,患者が忘れずに薬 を飲み続けられる場合には10年以上服薬を続けさ せるのも一法と思う.表4は11年以上服薬し,中 止 後10カ月以上Eutthyroidにとどまっている 3 例 を 示 す が3例とも TSlとTBIIも陰性であっ た.この結果は,抗甲状腺剤の投薬ではなかなか 治らない例でも, 10年以上して治る例のあること を示すものと言えよう. 以上の点から,具体的には個々の愚者につき治 療を急ぐか,薬を長期に凡帳面に飲めるか,手術 に対する禁思は無いか,等を考えて,上記の3つ の療法のいずれかを選ばねばならない. B.甲状腺機能低下症 1.甲状腺機能低下症の成因 次に,甲状腺機能低下症の成因について述べる. (1)自己免疫によると思われるもの 甲状腺腫(+),橋本病(慢性甲状腫炎〉の一部 甲状腺腫(一),いわゆる特発性,組織像ではりン パ球浸潤(+) (2)ノミセドウ病や甲状腺癌に対する甲状腺外科 手術後のもの (3) ノミセドウ病や甲状腺腫虜に対する1311療 法 後のもの 害 (4)先天性のもの a) 甲 状 腺 ホ ル モ ン 合 成 に 関 す る 酵 素 の 障 b)先天性甲状腺欠損 (5)下垂体よりのTSH分泌不足(二次性〉 (6)視床下部よりのTRH分泌不足(三次性〉 (7) ヨード欠乏 (8) 抗甲状腺剤や抗甲状腺物質の摂取 をあげることができる.以前特発性と考えられて いたものの大部分には抗サイログロプリン抗体や 抗マイク口ゾーム抗体が高価にあり,また一部の ものにつきopenbiopsyをした結果では甲状腺は 萎縮しているが, リンパ球の浸潤が認められるの で,特発性と言われるものの大部分は自己免疫機 転によるものと考えられている.ただ同じ自己免 疫によっても,何故ある場合は大きな甲状腺腫を 有する橋本病になり,ある場合には甲状腺が大き くならずに萎縮するかについて,最近後者には blocking typeのTSH-Receptor Binding lm -munoglobulin (TGII)が存在することが報告され たので,そのような自己抗体の差によるのではな いかと考えられている. ところで現在東京女子医大内分泌総合医療セン ター内科の内分泌外来で診療している205名の甲 状腺機能低下症について,その成因を調べた結果 が表
5
である.即ち,特発性がもっとも多く37%, 次いで慢性甲状腺炎の26%,山I
療法後の13.5%, パセドウ病術後11%,甲状腺癌術後 5 %,また, 甲状腺機能允進症であったものが低下症になった 例が12例で 6 %あった.なお,先天性のものは無 甲状腺が2
例,酵素障害によると思われるものが 2例であった.一方,下垂体のTSH単独欠損症は 2例であった.2
.
甲状腺機能低下症の頻度 本症の頻度の正確な数字は不明である.という のは軽症は見落されているものがかなり多いから である.米国のCecilのTextbookof Medicine 第16版5)によると,女子成人の1.4%
,男子成人の 0.1%が本症に,寵患しているという.日本ではこの ような統計は無いので,もし同じ頻度を日本人成 人の人口にあてはめれば,女子では約60万人,男 子では約4
万人,合計で6
4
万人くら¥,¥¥,、ることに なる.また,老齢化と共に本症は増加するので, 本症は今後更に増加すると思う.3
.
甲状腺機能低下症の症状と検査法 本症の臨床症状の主なものは表6の如くで,す でに成書によく述べられているので,その詳細は 省略する.ただ,本症を早期に診断するためには 表5 現 在 治 療 中 の 甲 状 腺 桟 能 低 下 症 患 者 (205名〉 特発性 慢性甲状腺炎 1311療法後 パセドウ病術後 甲状腺癌術後 甲状腺機能充進症より低下症へ 先天性無甲状腺 TSH単独欠損症 37% 26% 13% 11% 5% 6% 1% 1%-108-表6 甲状腺桟能低下症の主な症状 ( 患 者 総 数 問 中2例 ) 以上に認められたもの 1 浮 腫 45 2 手足の温度低下 36 3 皮膚乾燥粗造化 30 4 倦怠感 28 5 慶 声 21 6 言語緩除 20 7 脱 毛 18 8 便 秘 18 9 舌 肥 大 15 10 精神的遅鈍 14 11 月経異常 14 無月経 4 月経過多 3 月経不11贋 7 12 記憶力低下 11 13汗がて、ない 9 14 手足のしびれ 8 15 動 俸 7 16 筋肉のつれ 2 これらの症状の1つでも認められた時には,本症 を疑って検査してみるべきである.検査には血清
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4,T
3,TSH
及びF
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4を測定すると良いと思 う.本症の大部分は甲状腺原発性なので,その際 にはTSH
が明らかな高値を示す.T
4,T
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4が低く ,TSH
が低い場合には,下垂体性や視床 下部性のものを考えなければならない.これはTRH
試験に反応しないことや,TRH
に対する反 応が遅延することで診断がつく.TSH
が5μu/ml 以上の場合にはTRH
試 験 を 行 な う と 良 い と 思 う.そしてTRH
により血中TSH
が50μu/ml以 上に増加した時には,軽い甲状腺機能低下症と考 えて,血中T
3,T
4,F
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T
4が正常範囲内でも甲 状腺ホルモンを投与して,その動きを見ると良い. 若し機能低下症の場合には,上記疑われた症状や 下記の異常検査所見が1カ月以内に正常化するの で,それから逆に診断を確かめられる.機能低下 症の時に認められる血液生化学異常所見として は,コレステロール,CPK
,LDH
,GOT
の上昇を あげることができる.コレステロールは原発性甲 状 腺 機 能 低 下 症 の 約80%に,CPK
も約80%に,LDH
は約60%に,GOT
は約50%に上昇すると言 われている.LDH
やGOT
が上昇するので,肝機 能障害と間違えることがあり注意を要する. 4.甲状腺機能低下症の治療 適量の甲状腺ホルモンを投与することである. 具体的には大部分の例ではサイロキシン(チラー ジン S)の投与が最適である.以前は乾燥甲状腺末 が用いられていたが, これはその中に含有されて いる T4とT3がノミッチによって異なり, しかも甲 状腺から実際に分泌される T4とT3の比は10: 1 ないし20: 1であるのに,甲状腺末中のT4とT3 の比は2 1ないし3 1と, T3が多い点から, 現在は一般にサイロキシンが使用されている.こ れは血中ではその99.96%が血清蛋白と結合し,少 しづっ離れて,更に肝臓や他の臓器の細胞内でT
3 tこ転換されて作用するので 1日1回の服用でも 血中レベルをほぼ一定に保つことができるからで ある.高齢者や心臓の悪い人を除けば, 1日50γか ら開始して2週間毎に50γ宛増加し,場合によっ ては25γ宛増減して維持量に達する.維持量の正 確な決定には,血中TRH
が5μu/ml以下になり,TRH
試 験 が 正 常 化 す る 量 に す る と 良 い と 思 う が,一般には,T
4,T
3,TSH
,F
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T.
が正常範囲 内に入札患者の自覚症状,他覚症状がとれる量 にすると良い.なお小児では少し多目になっても 1kg当り5γ,従って20kgなら100y投与した方が 良く,一方60歳以上の老人では少し少な目に使用 すべきである.次に具体的な投与量について述べ ると,副腎不全のある患者ではまず副腎皮質ホル モンを投与して3-4日してから,甲状腺ホルモ ンを投与すべきである.また,心臓の悪い人では, l日25γから始めて,心臓に対する影響を見なが ら2-4週毎に25γ宛増加した方が良く,老人で は50γからはじめても25γ宛増量する方が良いと 思う.一方若い人で他に障害の無い場合は, 100γ から開始してかまわない.また効果を早く発現さ せて早く元気に働けるようにするためには,T
4 100γに速効的なT
310γを併用し 1月くらいし たらT3を止めてT4だけにするということを私は 行なっている.表7は演者らの外来で現在治療中 の患者に対する甲状腺ホルモンの投与量である が 1日量は50-250γに豆り, 100γ-150γが約 70%を占めていた.なおこれは精神的な理由によ表7 現在外来治療中患者の維持量 (204例〉 T
,
50γ 18i7U 75y 18例 100γ 125y 18例 150y 5196例例 165jJlJ 200y 250y 1例1 T,
25y 1jJlJ 30γ ljJlJ るかと思うが,T
3の方が自覚的に良いとL、う患者 が2名いた.ところでこの薬は一生飲み続げなけ ればならず,また,服薬を中止してもすぐには自 覚症状に変化が起こらないので良くなると止めて しまう患者が少なくない.そこで,できれば1
カ 月l
回,少なくとも2
カ月に1
回は来院させて血 中の TSHとT3かFreeThyroxineを測定し,薬 をきちんと飲んでいるかどうか確かめることが必 要である. 以上,甲状腺機能充進症と甲状腺機能低下症の 成因,症状,検査法,治療法について述べた. 文 献 1)Maruchi,
N.,
et aI.: Epidemiological studies on hyperthyroidism. EndocrinolJ
ap 16 665 (1969) 2) Isozaki,
0.,
et al.: An assay for thyroid stimulator using pig thyroid follicles in suspen -sion : Comparison with an assay with the cells in monolayer. SubIIlItted toJ
Clin Endo -crinol & Metab (1984)3) Shewring
,
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Textbook of Medicine.16th ed. Saunders 1213 (1982)
シンポジウム (東女医大誌第55巻 第2
号)
頁 111 昭和60年2月j癌治療の進歩一各科における癌治療の現況と問題点一
東京女子医科大学学会第50回総会 日 時 昭 和59年9月29日(土〉 会 場 東 京 女 子 医 科 大 学 本 部 講 堂 司 会 教 授 小 林 誠 一 郎 〔消化器病センタ一所長,外科〉 (1)肺癌治療の現況と問題点…… …・・・助教授鈴木 忠 (第二外科〉 (2) 乳癌治療の現況と問題点… … 教 授 梶 原 哲 郎 (第二病院外科〉 (3)解癌治療の現況と問題点… … … 助 教 授 中 村 光 司 (消化器病センター外科〉 (4)卵巣癌…………...・H ・..教授吉田茂子 (産婦人科〉 く指定発言> (5)温熱化学療法の現況と問題点…・ … … 講 師 長 柄 英 男 (第一外科〉 (6) 癌治療における放射線療法の現況と問題点 …・・教授 池田 道雄 (放射線科〉 (7)癌化学療法の現況と問題点…… CSymposium] …・・・教授 溝口 秀昭 (内科1) はじめに 司 会 小 林 誠 一 郎 診断技術の進歩,治療法の進歩により,癌に対 する治療成績は次第に向上しつつあるとは言うも のの,一方著しく進行した状態の癌患者も多く, これらに対する治療成績の不良なるが故に,癌の 治療成績は今一つ伸び悩んで、いると言えるであろ う.早期診断,早期治療という癌治療の原則を, 更に徹底向上せしめる問題と,進行癌に対する最 も効果的な治療法追求の問題と,二つの大きな課 題を抱え,各分野での努力が続けられている.ま た,治療法と言っても,手術,化学療法,放射線 治療などの多岐に亘り,各疾患の特性により,何 れを主とし,何れを補助とするかの選択の問題も ある.更に各部門の密接な協力による治療,いわ ゆる薬学的治療法も一つの診療体系として成果を あげ得るよう検討される必要がある.今回のシン ポジウムにおいては,肺癌,乳癌,g
革癌,卵巣癌 をとりあげ各科における治療法を通して,その進 歩と現況を知ると共に,化学療法,放射線療法な ど,各科の協力による治療の現況と,今後の問題 点などを探ってみたいと考えている.Progress in Cancer Treartment-Present situation and problems of the cancer treartment in each department