奈良教育大学学術リポジトリNEAR
小学生における原因帰属,学習意欲および成績の予 想
著者 杉村 健
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 20
ページ 73‑79
発行年 1984‑03‑23
その他のタイトル Causal attribution, motivation for school
work, and perspectives of academic achievement in elementary school children
URL http://hdl.handle.net/10105/6567
小学生における原因帰属,学習意欲および成績の予想‡
杉 村 健榊
(心理学教室)
先の研究(杉村ら,1983)では、小学校の2,4,6年生に1学期の成績が よかった・か
・わるかった・かの自己評価をさせ一その原因について一勧,幼テスト・檸の4つのう ちから1つを選ばせた。その結果、全体的にみると、よかったと判断した場合には努力に帰する 者が最も多く、次にテストと先生であり、能力が最も少なかった。これに対して、わるかったと 判断した場合にはテストに帰する者が最も多く、努力,能力,先生の順であった。そして、よか った原因を能力に、わるかった原因を先生に帰する者は僅かしかいなかった。発達的な変化をみ ると、よかった原因では学年とともに努力が増加して先生と能力が減少する傾向があり、わるか った原因は4年生まではテストが多いが(60%),6年生では努力が多くなり(58%),能力は 学年とともに減少する傾向があった。教科別にみると、よかった原因は国語と算数では、どの学 年も努力がテストや先生よりも著しく多く、社会と理科では努力が減少してテストが増加する傾 向があった。本研究はこれらの結果をふまえて計画され、その目的は次の3つである。
11〕国語と算数の原因帰属について、巽はる被験者についても先の研究と同様な結果が得られ るかどうかを調べる。
12〕帰属要因と学習意欲の関係を調べる。Weinerら(1972)によれば、達成動機の高い者は 成功を内的要因(能力と努力)に帰し、低い者は外的要因(課題と運)に帰する傾向があるとい
う。先の研究(杉村ら,1983)からみて、成功すなわち成績がよかった原因については、努力
(内的要因)と先生(外的要因)が多いと予想されるので、これら2つの帰属要因と学習意欲の 関係を検討する。Weinerらの示唆が正しいならば、成績がよかったことを努力に帰する子ども の方が先生に帰する子どもよりも学習意欲が高いであろう。また、Weinerらは達成動機の高い人 は失敗を努力に帰し、低い人は能力に帰することを示唆しているが、本研究では成績がわるいこ とを能力に帰する子どもが少ないと予想される。そこで、成績がわるいと判断した場合には、努 力とテストに帰属させた子どもについて学習意欲を比較することにした。
制 過去の成績に対する自己評価だけではなく将来の成績の予想もまた、原因帰属、学習意欲 および学業成績に関係があると考えられる。そこで、1学期の成績について よかった か わ るかった かの判断をさせると同時に、2学期の成績が よくなると思う か わるくなると恩
‡ Causa1attribution,motivation for school work,and perspectives of academic achievement in e1ementary schoo工。hi1dren
榊 Takeshi Sugimura(Department of Psycho1ogy,Nara University of Education,
Nara City)
一73
う かの予想をさせ、それらを組み合わせて4つの類型を作り、原因帰属、学習意欲および学業 成績を比べることにした。
方 法
調査対象 奈良県下の小学校の2,4,6年生で、表ユに示したように、男女合計400名で
あった。
表ユ 調査対象(人数)
学 年
合
言十2 4 6
男 児 69 73 70 212
女 児 60 68 60 188
合 計 129 141 130 400
調査の内容と手境 は〕 ユ学期の成績の原因帰属と2学期の成績の予想一表2に示す調 査用紙を用いて昭和58年10月18日(2,4年生)と24日(6年生)に実施した。まず、国語の1 学期の成績について思い出させ、 よかった または わるかった のどちらかの判断をさせ、
それぞれの文字をO印で囲ませた。次に、その理由を下の4つの中から1つだけ選ばせ、その番 号に○印をつけさせた。最後に、2学期の成績について よくなると思う または わるくなる
と思う のどちらかを○印で囲ませた。算数についても国語と同じやり方で記入させた。
表2 調査用紙
国語について
1学期の成績 よかった わるかった
1 頭がいいから 1 頭がわるいから
2 がんばったから 2 なまけたから
3 テストがやさしかったから 3 テストがむずかしかったから」
4 先生の教え方がうまかったから 4 先生の教え方がへただったから
2学期の成績 よくなると思う わるくなると思う 算数について
1学期の成績 よかった わるかった
1 頭がいいから 1 頭がわるいから
2 がんぱったから 2 なまけたから
3 テストがやさしかったから 3 テストがむずかしかったから
4 先生の教え方がうまかったから 4 先生の教え方カ帆ただったから
2学期の成績 よくなると思う わるくなると思う
一74一
12〕学習意欲一1975年に奈良県障害児学校・学級放送教育研究会が作成した学習意欲調査 を実施した。質問項目は上田ら(1976)に示されているが、①新しいことに自発的に取り組も うとする内発的意欲,②困難なことを最後までやりとげようとする達成意欲,③計画を立て て実行しようとする計画性と実行意欲からなり、それぞれ1O項目すっ合計30項目である。1から 30までの番号を印刷した回答用紙を配布し、調査者が質問項目を1つずつ読み上げ、 はい,い つも の場合は○印、 はい,ときどき の場合は△印、. いいえ の場合は×印を、それぞれ の番号につけさせた。
13〕学業成績一1学期末の国語と算数の成績(素点)を学級担任の先生から入手した。
結 果 と 考 察
1学期の成績の原因帰属 以下では、頭がいいからと頭がわるいからを 能力 、がんばっ たからとなまけたからを 努力 、テストがやさしかったからとテストがむずかしかったからを
テスト 、先生の教え方がうまかったからと先生の教え方がへただったからを 先生 と表す ことにする。
表3は、1学期の成績について原因帰属の要因を示したものである。よかった原因もわるかっ た原因もともに国語と算数でよく似ており、これらの結果は先の研究(杉村、1983)ともよく 似ている。まず、よかった原因についてみると、努力が最も多く、次に先生、テストの順であり、
能力はわずかであった。努力と能力は内的要因とされているが、同じように内的要因といっても 努力に帰属する者が能力に帰属する者に比べてはるかに多く、これは教育的な観点からみて好ま しいことである。先生に帰属する者は2年生から4,6年生へと減少しており、教師から離れて いく傾向がうかがえる。わるかった原因には顕著な発達的変化がみられる。すなわち、努力に帰 する者が学年とともに増加し、テストに帰する者が減少する。言いかえれば、学年が進むにつれ て内的要因が優勢になり、内的要因によって成績が統制されていると自覚するようになる。能力 に帰する者が10〜20%近くもいることは問題であり、 頭がわるいからできない という諸めに
も似た気持ちを何とかして改めさせる必要がある。
表3 1学期の成績の原因帰属(%)
よ かった わ るか つ た
2 4 6 2 4 6
国 能力 412
工.13.8 19.0
ユ4.513.0
努力 50.O 77.3 56.6 12.1 49.1 70.1
語 テスト 8.3 415 17.0 56.9 36.4 16.9
先生 37.5 17.0 22.6 12.1 O.0 0.O
算 能力 6.7 8.2 2.8 15.4
1ユ.6 1211
努力 52.2 68.4 54.2 23.1 44.2 65,5
数 テスト 12.2 5.ユ 22.2 53.8 44.2 22.4
先生 28.9 18.4 20.8 7.7 0.0 0.0
■
一75一
帰属要因と学習意欲の関係 学習意欲の得点は分野ごとに最低0点から最高20点まで分布し、
合計では最低O.点から60点まで分布する。よかった原因については努力に帰した者と先生に帰し た者を選び出して学習意欲の平均点を比較した。表4からわかるように、・国語も算数もともにど の学年でもほとんど差がなかった。差の値についてtテストを行ったが有意差を示すも・のはユっ もなかった。わるかった原因については努力とテストについて比べたが、いずれも有意差がなか った。ちなみに、最も大きな差である一7.9の検定結果はt(32)=1.92,P<.10であり、
5%の有意水準に達しなかったが、標本値の上では外的要因であるテストに帰した者の方が内的 要因である努力に帰した者よりも学習意欲が高いことになる。意欲の分野別に同様な分析を行っ たが、有意差を示すものは1つもなかった。
本研究ではWeinerら(ユ972)の示唆に従って、成績がよかった原因を努力に帰する者の方 が先生に帰する者よりも学習意欲が高いであろうと予想したが、国語、算数ともに両者の学習意 欲には有意差がなかった。したがって、努力に帰する子どもと先生に帰する子どもの問には学習 意欲の程度にちがいがないと結論せざるをえない。なお、Weinerらは達成動機の高低について 述べているので、本研究でそれに最も近い達成意欲を取りあげてみたが、その場合にも有意差が 得られなかった。帰属要因と学習意欲の関係をさらに確かめるためには、学習意欲が高い者と低 い者を選び出して、両者の帰属要因の分布を比べる必要がある。成績がわるかった原因について は意欲との関係を予想しなかったが、妻4からわかるように、ほとんど関係がないといえる。
表4 帰属要因と学習意欲の関係(意欲得点の平均)
よ.か
つた わ る か っ た
帰属 2 4 6 帰属 2 4 6
国語
努力
謳カ
40,4 R9.3
43,6 S2.3
38,3 R4.5
努力
eスト
28,3 R5.4
32,4 R4.5
33,0 R0.6
差
1、ユ ユ.33.8 差 一7,9 一2.1 2.4
算数
努力
謳カ
38.0 Sユ.4
40.1 Sユ.2
37,2 R8.2
努力
eスト
38,4 R4.6
34,6 R8,8
3ユ.3 Q9.9
差 一2.9
一ユ.ユ一ユ.0 差 3.8 一4.2 1.4
成積の判断一予想の類型と原因帰属 1学期の成績が よかった か わるかった かとい う判断と2学期の成績が よくなる か わるくなる かという予想を組み合わせると、4つの 類型ができる。例えば、 よかった一よくなる と考えている子どもと、 わるかった一わるく
なる と考えている子どもとでは、原因帰属の分布が異なると考えられる。妻5は4つの類型と 原因帰属の関係を示したものである。国語と算数では よかった一わるくなる と わるかった 一わるくなる で若干のちがいはあるが、以下では特に顕著な特徴について考察する。
まず、ユ学期の成績がよかったと判断した者は2学期の成績の予想にかかわらず、よかった原 因を努力に帰している者が多いといえる。これは、 自分は努力したから成績がよかった とい
う気持が強いことを反映している。しかし、算数の よかった一わるくなる では6年生で努力
よりもテストに帰属している者が多い。テストに帰属した子どもは、1学期はテストがやさしか ったから成績がよかったが2学期はわるくなると考えているのであり、成績に対する自信のなさ を反映している。 よかった一よくなる と よかった一わるくなる ではともに能カベの帰属 が少なく、自分の成績がよかったと判断した者は、たとえ将来はわるくなると予想している者で
も、それを能力に帰さないことが示唆される。
次に、1学期の成績がわるかったと判断した者の原因帰属は、2学期の成績の予想によってか なり異なっている。 わるかった一よくなる と考えた者は学年によって著しく異なり、2年生 から6年生にかけて努力が著しく増加し、テストが著しく減少する。つまり、2学期の成績がよ
くなると思っている者で、1学期の成績がわるかった原因を努力に帰している者は学年とともに 増加しており、6年生では 努力すればよくなる と考えている子どもが80%近くもいる。これ
は教育的にみて好ましいことがらである。この類型では先生と能力が比較的少ないのに対して、
わるかった一わるくなる では能力に帰する者が多い。特に国語については16.7弱(2年生)
から38.1%(6年生)に増加しており、これらの者は、 頭がわるいから成績がよくないし、頭 がわるいから成績がよくならない と考えているのであり、無力感に陥っているか、あるいは努 力することを放棄して頭のわるさで合理化しているものと考えられる。いずれにしても、1学期 の成績がわるかったし、2学期の成績もわるくなると思っている子どもについては、個別的な指 導をする必要がある。
表5 成績の判断一予想と原因帰属(%)
国 語 算 数
2 4 6 2 4 6
能 カ 511 115 2.9
よかった 7.3 9.4 3.6
努 カ 50.8 75.8 54.3 53.7 67.1 61.8 1
テスト
5.14.5 17.1 9.8 4.7 14.5
よくなる 先 生 3910 18.2 25.7 2913 18.8 20.0
よかった 能 力 0.0 010 5.6 0.0 0.0 0.0
努 力 5010 8ユ、8 61.1 37.5 76.9 29.4 テスト 16.7 4.5 16.7 37.5 7.7 47.1 わるくなる
先 生 3313 13.6 16.7 25.O ユ5,4 2315 わるかった 能 力 20.6 5.6 3.6 2.7 13,8 5.6 努 力 5.9 55.6 78.6 10.8 41.4 77.8 I
テスト 61.8 38.9 17.9 83.8 44.8 16.7
よくなる 先
生 ユ1.8 0.0 0.0 2.7 O.0 0.O
わるかった 能 力 16,7 23.5 38.I 15.4 7.1 22.7 努 力 20.8 41.2 47.6 23.1 50.O 45,5 テスト 50.O 35.3 14.3 53.8 42.9 31.8 わるくなる
先 生 12.5 0.0 0.0 7.7 O.O 0.0
一77一
成績の判断一予想の薫型と学習意欲および学業成績の関係 表6は、4つの類型について学 習意欲得点の平均を示したものである。教科、学年を通していえることは よかった一よくなる が最も高く、 わるかった一わるくなる が最も低いことである。特に、後者の場合はすべてに おいて他の3つの類型よりも低く、ユ学期の成績がわるく2学期の成績もわるくなると思ってい る者は、学習意欲を失っていることがわかる。この子どもたちに対しては、何らかの工夫をして 少しでもよい成績をとらせて、 できた という成功感、満足感を与え、そして、 努力すれば できるρという自己可能感を育てることが大切である。それによって学習意欲が高まり、成績も 向上するであろう。次に、 よかった一わるくなる と わるかった一よくなる は若干の例外 はあるが、ほぼ同じ値を示しており、後者の場合は^わるかった一わるくなる よりもかなり高 い値を示している。この結果からみて、2学期に成績がよくなると予想している子どもは、わる
くなると予想している子どもよりも学習意欲が高く、現在はわるくても 努力すればよくなる という気持をもたせることが大切である。
表7は、4つの類型について国語と算数の1学期末の成績(素点)を示したものである。教科、
学年を通して、 よかった と判断した2群は わるかった と判断した2群に比べて成績がよ く、子どもたちが目分の成績を正しく認識していることを示す。興味があるのは、 よかった と判断した場合には将来の予想によって成績があまり異ならないが、 わるかった と判断した 場合には2年生の国語を除くすべてにおいて、2学期もわるくなると予想した者の方が明らかに わるい成績を示していることである。つまり、 わるかった一わるくなる の子どもは成績が最
もわるく、・学習意欲も最も低いのであり、勉強に対する無力感に陥っているものと考えられる。
このような子どもに対しては特別な配慮をしなくてはならない。
表6 成績の判断一予想と学習意欲(平均)
国 語 算 数
2 4 6 2 4 6
よかった一よくなる 40.3 43.9 36.6 3811 40.4 36.2 よかった一わるくなる 3519 35.2 34.2 37.4 34.6 34.0
わるかった一よくなる 35.9 34.ユ 33,0. 38.4 37.O 31.9 わるかった一わるくなる 31,3 29.4 29.ユ 3ユ.5 31.7 28.7
表7 成績の判断一予想と学業成績(平均)
国 語 算 数
.2