奈良教育大学学術リポジトリNEAR
対人感情に及ぼす原因帰属の効果における性差
著者 豊田 弘司
雑誌名 教育実践開発研究センター研究紀要
巻 21
ページ 1‑8
発行年 2012‑03‑31
その他のタイトル The Gender Differences in the Effects of
Causal Attribution on Interpersonal Affect
URL http://hdl.handle.net/10105/8395
奈良教育大学 教育実践開発研究センター研究紀要 第21号 抜刷 2012年 3 月
対人感情に及ぼす原因帰属の効果における性差
豊田弘司
(奈良教育大学心理学教室)
The Gender Differences in the Effects of Causal Attribution on Interpersonal Affect
1.はじめに
学校教育においては、児童・生徒の学習意欲を高め ることが重要な課題である。心理学では、動機づけと いう概念で、内発的動機づけや外発的動機づけが数多 く議論されてきた。その中で、原因帰属理論は、学習 者のある行為によってある結果がもたらされた際にそ の原因を何に求める(帰属する)かによって、その 後の動機づけの水準が規定されるというものである Weiner, Heckhausen, Meyer, & Cook(1972)は、原 因帰属要因を外的−内的及び安定−不安定という2 つの次元から、4つの帰属要因すなわち、能力、努 力、課題の困難度、及び運を設定し、その後、統制可 能−不可能という次元を加えた枠組みを提案している
(Weiner, 1979)。この枠組みを中心に多くの研究が行 れてきたが、そこでは、学習意欲の高い者と低い者は 明らかに帰属の仕方が異なるということである。すな わち、学習意欲の高い者は、成功の原因を能力や努力 の内的統制要因に帰属し、失敗の原因を内的統制要因 の努力に帰属しやすい。一方、学習意欲の低い者は成
功の原因を運や課題の困難度の外的統制要因に帰属 し、失敗の原因を内的統制要因の能力に帰属しやすい のである(豊田,2003)。最近では小学生に関する原 因帰属と学習意欲の関係に関しては、吉田(2003)及 び吉田・戸田(2004)がある。いずれの研究でも、原 因帰属と学習意欲の間に介在する要因が考察されてい るが、両者の関連性が明確に示されている。また、学 習意欲との関係だけではなく、小学生や中学生におけ る学業成績との関係についても多くの検討がなされ ているし(速水・長谷川,1979;杉村,1984; 玉瀬,
184; 杉村・藤田・玉瀬,1983; 渡辺,1988;片岡・杉 村 1997)、専門学校の学生を対象とした研究(豊田,
1985,1987,1988)もある。
ただし、原因帰属は学習場面に限らず、友人や教師 との対人関係場面でも行われている。元々、Heider
(1958)は、環境をより良く理解し、予測し、環境に 対応するために、帰属理論を提唱したのであり、そ の主張は、人間は出来事に対して帰属を行うという ものであった。そして、特に、対人関係における帰 属(interpersonal attribution)については、ある出
対人感情に及ぼす原因帰属の効果における性差
豊田弘司
(奈良教育大学心理学教室)
The Gender Differences in the Effects of Causal Attribution on Interpersonal Affect
Hiroshi TOYOTA
(Department of Psychology, Nara University of Education)
要旨:本研究は、相手に対する感情、原因帰属における性差及びこれらの関係を検討することを目的とした。手に対 する感情及び帰属は、仮想対人場面を設定した評定尺度によって測定された。大学生253名(男子126、子127)を対 象にして、2つの仮想対人場面における相手に対する感情(快ー不快)、相手の行動に対する原因属における好意帰 属及び偶然帰属の程度を6段階で評定させた。仮想対人場面は、相手に対して要求する行動が友好的行動か、援助的 行動か、相手が同性か異性かという組合せから4場面構成されたが、そのうちの2場面ずつを参加者は評定した。ま た、各場面において相手が自分に対して要求する場合と、他人に対して要求する場合が設けられていた。相手に対す る感情、好意帰属及び偶然帰属には、いずれも性×相手の性×要求の対象者(自分他人)の交互作用が認められた。
また、相手に対する感情は、相手の性(同性、異性)及び好意(非好意)へ帰属の程度によって規定され、好意(非 好意)への帰属は偶然への帰属と負の相関のあることが示された。学校適応における原因帰属の視点の重要性ととも に、性差を考慮した指導のあり方が考察された。
キーワード:原因帰属causal attribution 性差gender difference 対人感情 interpersonal affect
1
来事が生じた場合に、自分(帰属者)がする帰属は、
相手(他者)の特性(ex.「他者がその出来事を起そ ういう意図をもっていたかどうか」)だけでなく、帰 属者(自分)の特性(ex.「自分(帰属者)がその他 者を好きか嫌いか」)あるいはその出来事自体の特徴
(ex.「その出来事が帰属者(自分)にとって得か損 か」)によって影響されると考えている(Snarr, Slep, Grande, 2009)。さらに、何に原因を帰属するかよっ て、相手に対する対人感情(interpersonal affet)も 変化してくる。それ故、学校教育における児童・生徒 間の対人感情は対人関係場面における原因帰属によっ て規定される。高木(2003)によれば、対人感情は、
特定の人物に対する好意や嫌悪、尊敬や恐怖といった 持続的感情であり、他者との相互作用の基礎になると 指摘されている。したがって、対人関係における原因 帰属によって規定された対人感情が学校適応に果す役 割は大きい。しかし、上述したように、学習場面にお ける原因帰属を扱った研究は多いが、対人関係場面に おけるそれを検討したものは少ない。また、対人関係 における感情と帰属の関係の検討は限定的でり、高木
(2003)では、不快事象に対する責任帰属(不快な相 手の行動に対してどの程度責任を負うか)と否定的感 情の関係のみを扱い、神田(2007)では相手に対する 感情との関係は検討していない。最近は、相澤(2010, 2011)が本研究と同じように場面想定法(hypothetical situation method)を用いた研究を行っているが、そ こでは敵意を喚起する場面に関する帰属に限定された 検討がなされている。
本研究では、原因帰属と相手に対する対人感情の関 係について検討する。原因帰属と対人感情を検討し た有名な研究としては、Kahn & McGaughey(1977)
がある。彼らは、個人間の対人的距離に関心があり、
人間の対人的距離が相手に対する印象を規定する興味 深い結果を見いだしている。そこでは、男子は対人距 離が近い場合には、相手が異性である場合には自分に 好意をもっているからという好意への帰属を行い、そ の結果、相手に対する快感情(好意度)が上昇する。
一方、女子は、近い距離にいる異性に対しては、たま たま近い位置にいるという偶然への帰属を行い、その 結果、相手に対する快感情(好意度)は上昇しない。
このように、男子と女子によって異性の行動に対する 帰属の違いがあり、その結果、相手への感情も異なる ことが明らかにされている。ただし、上記の研究は原 因帰属の程度を測定しておらず、相手に対する感情と 帰属との関連性に関する客観的な証拠はない。また、
自分に対する行為と他者に対する行為では原因帰属が 異なり、そこに男子と女子に違いがあるかもしれない。
そこで、本研究では、高木(2003)らと同じく仮想 的対人場面を想定し、原因帰属の程度を客観的に測定 する。そして、対人関係場面において相手が自分に要
求する場合(要求の対象が自分)と相手が自分以外の 他人に要求する場合(要求の対象が他人)における原 因帰属の性差を検討する。Kahn & McGaughey(1977)
の対人的距離の視点から考えると、要求の対象が自分 である場合は対人的距離を近づける行為をした場合、
他人に要求する場合には対人的距離を遠ざける行為と した場合とみることができる。それ故、先行研究(Kahn
& McGaughey,1977)の結果から、以下のように予 想できる。
相手に対する感情(快−不快度)に関しては、男女 ともに自分に対する要求がある場合の方が他人に対す る要求がある場合よりも良い気分(感情評定値が高く)
なるであろう。ただし、男子は、自分が要求された場 合に相手が異性の場合が同性の場合よりも感情評定値 が高くなり、反対に、女子は他人が要求の対象となっ た場合に相手が異性の場合が同性の場合よりも感情評 定値が低くなるであろう(第1の予想)。
好意(非好意)帰属に関しては、男子は自分に対し て要求された場合、相手が異性の場合が同性の場合よ りも「自分に対して好意を持っているから」という好 意帰属評定値が高くなるが、女子は、他人に対して要 求がなされた場合に、相手が異性である場合に「自分 に対して好意を持っていない」という非好意帰属評定 値が高くなるであろう(第2の予想)。
偶然帰属に関しては、男子は他人に対して要求がさ れた場合には、相手が異性の場合が同性の場合より「た だ単に近くにいたから」という偶然帰属評定値が高い が、女子は、相手が異性の場合が同性の場合よりもそ の偶然帰属評定値が低くなるであろう(第3の予想)。
以上の3つの予想を検討するのが、本研究の目的であ るが、相手から要求される行動によっても相手に対す る感情や帰属には違いが生じると考えられる。すなわ ち、相手が友好的行動(昼食をともにする)を要求す る場合と、援助的行動(ノートを貸す)を要求する場 合とでは、相手の要求に応じる場合の心理的負荷や要 求する相手の評価が異なるので、それによる帰属の違 い及び相手に対する感情の違いが生じると考られる。
それ故、要求される行動(友好的行動と援助的行動)
の違いについても併せて検討する。
2.方 法 2 . 1 .調査対象者
4年制大学の学生 253 名(男子 126、女子 127 名)
であり平均年齢は 18 歳 8 か月(18 歳 5 か月〜 23 歳 5 か月)であった。これらの約半数が平成 22 年 6 月、
残り半数が成 23 年 7 月に調査を受けた。
2 . 2 .調査内容
本研究の関心である相手の性(異性、同性)と、相 手からの要求される行動(友好的行動、援助的行動)
豊田 弘司 対人感情に及ぼす原因帰属の効果における性差
という2つの要因の組合せから4つの場面が設定さ た。友好的行動を要求される場面として昼食を誘われ る場面、援助的行動を要求される場面としてノート見 せてほしいと依頼される場面を設定した。そして各場 面に対して、自分が要求の対象とされた場合における 相手に対する感情(不快−快)、その相手の行動に対 する好意への帰属の程度及び偶然への帰属の程度を測 定するための評定尺度が設けられ、いずれの評定に関 しても6段階尺度を用いた。また、他人が要求の対象 者とされた場合についても同じように上記の評定尺度 が設定された。図1には、本調査で用いられた種類の 調査用紙が示されている。各調査用紙には、2つの場 面が記載されており、調査用紙 A には、友好的行動 が要求される場面で相手が異性の場面及び援助的行動 が要求される場面で相手が同性の場面、調査紙 B に は友好的行動が要求される場面で相手が同性の場面及 び援助的行動が要求される場面で相手が異性の場面が 印刷されていた。被調査者は、調査用紙 A もしくは B のいずれか一方について回答するので要因から構成 される4つの場面のうち、被調査者に2つの場面につ いて評定をしてもらった。それ故、分析においては、
友好的行動を要求する場面と援助的動を要求する場面 を別々に分析することにした。
₂.₃.調査手続き
著者の担当する授業の後、被調査者の了解を得て集 団的に実施された。平成 22 年 6 月の調査において調 査用紙 A を配布し、平成 23 年 7 月の調査では調査紙 B を配布して、調査を行った。被調査者は、配布用紙 に性別と年齢を記入し、調査者が読み上げる問題につ いて調査用紙をみながら、一つひとつ評定を記して いった。調査時間はおよそ 5 分であった。
₃.結 果
Table 1 には、場面ごとの相手に対する感情価(快
−快)、好意への帰属度及び偶然への帰属度におる平 均評定値と SD が示されている。
₃.₁.相手に対する感情価(快−不快)
₃.₁.₁.友好的行動が要求される場面
調査用紙 A 及び B ともに問1の1)に対する不快
−快評定値及び2)に対する不快−快評定値につい て、2(調査対象者の性;男性、女性)×2(相手
調査用紙 A
問1 お昼前の講義が終わり,近くに座っていた異性の知り合いである○
○さんと目があいました。
1)○○さんは,あなたに一緒に昼食をとろうと誘いました。
その時,あなたはどのように感じますか? 不快な← →快な 1 2 3 4 5 6 あなたを昼食に誘った原因は,何であると思いますか。
あてはまらない← →あてはまる あなたに対して好意をもっているから 1 2 3 4 5 6 ただ単に近くにいたから 1 2 3 4 5 6 2)○○さんは,別の人(あなたと同性)を昼食に誘いました。
その時,あなたはどのように感じますか? 不快な← →快な 1 2 3 4 5 6 あなたを昼食に誘わなかった原因は,何であると思いますか。
あてはまらない← →あてはまる あなたに対して好意をもっていなかったから 1 2 3 4 5 6 ただ単に別の人が目に入ったから 1 2 3 4 5 6
問2 図書館の自習室でレポートを書いていました。近くに座っていた同 性の知り合いである○○さんと目が合いました。
1)○○さんは,あなたにノートを見せてほしいと頼みました。
その時,あなたはどのように感じますか? 不快な← →快な
1 2 3 4 5 6
あなたにノートを見せてほしいと頼んだ原因は,何であると思いますか。
あてはまらない← →あてはまる あなたに対して好意をもっているから 1 2 3 4 5 6 ただ単に近くにいたから 1 2 3 4 5 6 2)○○さんは,別の人(あなたと同性)にノートを見せてほしいと頼みました。
その時,あなたはどのように感じますか? 不快な← →快な 1 2 3 4 5 6 あなたにノートを見せてほしいと頼まなかった原因は,何であると思いますか。
あてはまらない← →あてはまる あなたに対して好意をもっていなかったから 1 2 3 4 5 6 ただ単に別の人が目に入ったから 1 2 3 4 5 6
調査用紙 B
問1 お昼前の講義が終わり,近くに座っていた同性の知り合いである○
○さんと目があいました。
1)○○さんは,あなたに一緒に昼食をとろうと誘いました。
その時,あなたはどのように感じますか? 不快な← →快な 1 2 3 4 5 6 あなたを昼食に誘った原因は,何であると思いますか。
あてはまらない← →あてはまる あなたに対して好意をもっているから 1 2 3 4 5 6 ただ単に近くにいたから 1 2 3 4 5 6 2)○○さんは,別の人(あなたと同性)を昼食に誘いました。
その時,あなたはどのように感じますか? 不快な← →快な 1 2 3 4 5 6 あなたを昼食に誘わなかった原因は,何であると思いますか。
あてはまらない← →あてはまる あなたに対して好意をもっていなかったから 1 2 3 4 5 6 ただ単に別の人が目に入ったから 1 2 3 4 5 6
問2 図書館の自習室でレポートを書いていました。近くに座っていた異 性の知り合いである○○さんと目が合いました。
1)○○さんは,あなたにノートを見せてほしいと頼みました。
その時,あなたはどのように感じますか? 不快な← →快な 1 2 3 4 5 6 あなたにノートを見せてほしいと頼んだ原因は,何であると思いますか。
あてはまらない← →あてはまる あなたに対して好意をもっているから 1 2 3 4 5 6 ただ単に近くにいたから 1 2 3 4 5 6 2)○○さんは,別の人(あなたと同性)にノートを見せてほしいと頼みました。
その時,あなたはどのように感じますか? 不快な← →快な
1 2 3 4 5 6
あなたにノートを見せてほしいと頼まなかった原因は,何であると思いますか。
あてはまらない← →あてはまる あなたに対して好意をもっていなかったから 1 2 3 4 5 6 ただ単に別の人が目に入ったから 1 2 3 4 5 6
図1 本研究で用いられた調査用紙
豊田 弘司 対人感情に及ぼす原因帰属の効果における性差
2 3
の性;同性、異性)×2(要求の対象者;自分、他 人)の分散分析を行った。前2者が参加者間要因、後 者が参者内要因である。分散分析の結果、参加者の 性の主果(F(1,249)=4.69, p<.05)、要求の対象者の主 果(F(1,249)=275.46, p<.001)、 参 加 者 の 性 × 相 手 の 性(F(1,249)=4.94, p<.05)相手の性×要求の対象者
(F(1,249)=7.47, p<.01) 及び参加者の性×相手の性×
要求の対象者の交互作用(F(1,249)=6.98,p<.01)が 有意であった。この2次の交互作用について男子と 女子ごとに単純交互作用検定を行ったところ、男子 では相手の性×要求の対象者の単純交互作用が有意 でなかったが、女子ではこの単純交互作用が有意で あった(F(1,249)=14.44, p<.001)。単純交互作用が有意 であったので、単純・単純主効果検定を行った結果、
女子において自分が要求の対象者となった場合にお いてのみ相手の性の単純・単純主効果が有意であっ
(F(1,498)=16.13, p<.001)。すなわち、女子で自分が友 好的行動を要求された場合、相手が異性よも同性に対 してより快な感情が生じるということである。しかし、
男子ではそのような相手の性の違いによる感情の違い はない。
₃.₁.₂.援助的行動が要求される場面
調査用紙 A 及び B ともに問2の1)に対する不 快−快評定値及び2)に対する不快−快評定値につ いて2(本人の性;男性、女性)×2(相手の性;
同性、異性)×2(要求の対象者;自分、他人)の 分散分析を行った。その結果、要求の対象者の主効 果(F(1,29)=40.05, p<.001)、相手の性×要求の対象者
(F(1249)= 5.31, p<.01) 及び参加者の性×相手の性×要 求の対象者の交互作用(F(1,249)=8.95,p<.001)が有 意であった。この2次の交互作用について男子と女子 ごとに単純交互作用検定を行ったところ、先の分析と は逆に、女子では相手の性×要求の対象者の単純交互
作用が有意でなかったが、男子ではこの単純交互用が 有意であった(F(1,249)=14.03, p<.001)。この単純交互 作用が有意であったので、単純・単純主効果検定を行っ た結果、男子において自分が要求の対象となった場合 においてのみ相手の性の単純・単純主効果が有意で あった(F(1,498)=14.68, p<.001)。すなわち、男子は 自分が援助的行動を要求された場合、同性よりも異性 に対してより快な感情が生じるということである。し かし、女子ではそのような相手の性の違いによる感情 の違いはない。
₃.₂.好意への帰属度
₃.₂.₁.友好的行動が要求される場面
調査用紙 A 及び B ともに問1の1)に対する好へ の帰属度評定値及び2)に対する好意への帰属度評 定値について、上述した分散分析と同様の分散分析 を行ったところ、参加者の性×相手の性の交互作用
(F(1,249)=5.93, p<.05)及び相手の性×要求の対象者 の交互作用(F(1,249)=12.79,p<.001)が有意であった。
参加者の性×相手の性の交互作用について単純主効果 検定を行ったところ、男子においては相手の性の単純 主効果は有意でないが(F=.14)、女子においてその単 純主効果は有意であった(F(1,249)=9.37,p<.05)。すな わち、女子では自分が対象になる場合、他人が対象に なる場合に関わりなく、相手が異性の場合よりも同性 の場合に好意への帰属が高まることが示された。ま た、相手の性×要求の対象者の交互作用について単純 主効果検定を行ったところ、対象が自分である場合に 相手の性の単純主効果が有意であるが(F(1,249)=14.17, p<.001)、対象が他人である場合はその単純主効果は 有意でなかった(F=.78)。すなわち、男女ともに、自 分が対象になると相手が同性の場合の方が異性の場合 よりも好意への帰属が高まることが示されたのであ る。
Table 1 相手に対する感情価(不快−快)、好意(非好意)及び偶然への帰属度における平均評定値と SD
要求される行動 友好的行動 援助的行動
相手に対す 好意-非好 偶然への 相手に対す 好意-非好 偶然への
る感情価 意への帰属 帰属 る感情価 意への帰属 帰属
本人の 相手
性 の性 n* 自分 他人 自分 他人 自分 他人 n* 自分 他人 自分 他人 自分 他人 男子 異性 63 M 4.95 3.40 3.57 3.76 3.83 3.60 63 4.56 3.30 3.18 3.03 4.79 4.46 SD 1.09 0.86 1.18 1.21 1.28 1.20 1.01 0.94 1.30 1.38 1.06 1.18 同性 63 M 4.87 3.30 3.84 3.37 4.46 4.27 63 3.90 3.63 3.05 3.00 4.27 4.25 SD 0.98 0.92 1.22 1.46 1.23 1.34 1.13 1.00 1.25 1.32 1.21 1.20 女子 異性 67 M 4.27 3.42 3.40 3.63 4.40 4.34 60 4.05 3.70 3.05 3.45 5.00 4.70 SD 1.05 0.78 1.27 1.27 1.02 1.00 0.96 0.81 0.99 1.33 0.91 1.02 同性 60 M 4.98 3.20 4.30 3.75 4.33 4.25 67 4.15 3.67 3.30 3.08 4.48 4.54 SD 0.74 0.75 1.01 1.09 1.12 1.15 0.93 0.81 1.21 1.18 1.08 1.01
*友好的行動と援助的行動でnが異なるのは、調査用紙において相手の性の要因を問1と2とで入れ替えているため である。
豊田 弘司 対人感情に及ぼす原因帰属の効果における性差
₃.₂.₂.援助的行動が要求される場面
調査用紙 A 及び B ともに問2の1)に対する好 意への帰属度評定値及び2)に対する好意への帰属 度評定値について、同様の分散分析を行ったとこ ろ、参加者の性×相手の性×要求の対象者の交互作用
(F(1,29)=3.37,p<.10)のみが有意傾向であった。有 意意向ではあるが、この交互作用について男子と女子 ごとに単純交互作用検定を行ったところ、男子では相 手の性×要求の対象者の単純交互作用が有意でなかっ たが(F = .12)、女子ではこの単純交互作用が有意で あり(F(1,249)=5.08, p<.05)、単純・単純主効果検定行っ た結果、女子において相手が異性の場合に、要求の対 象による単純・単純主効果が有意であった(F(1,249)=
4.18, p<.05)。すなわち、女子は相手が異性の場合には、
自分が要求の対象者となった場合に好かれているから という好意へ帰属する程度よりも他人が要求の対象に なった場合に自分が好かれていなかったとする非好意 へ帰属する程度が高まることが示されたのである。
₃.₃.偶然への帰属度
₃.₃.₁.友好的行動が要求される場面
調査用紙 A 及び B ともに問1の1)に対する偶然 への帰属度評定値及び2)に対する偶然への帰属度評 定値について、分散分析を行ったところ、参加者の 性の主効果(F(1,249)=5.92, p<.05)、相手の性の主効 果(F(1,249)=5.59,p<.05)及び参加者の性×相手の 性の交互作用(F(1,249)=9.26,p<.01)が有意であっ た。この交互作用について単純主効果検定を行ったと ころ、男子では相手の性の単純主効果が有意であった が(F(1,249)=14.62,p<.001)、女子ではこの単純主効 果は有意でなかった(F=.23)。すなわち、男子は要求 の対象者が自分か他人かに関わらず、相手が異性の場 合よりも同性の場合に偶然への帰属を高めるが、女子 には相手の性による違いはないのである。
₃.₃.₂.援助的行動が要求される場面
調査用紙 A 及び B ともに問2の1)に対する偶 然への帰属度評定値及び2)に対する偶然への帰属
度定値について、分散分析を行ったところ、参加者 の性の主効果(F(1,249)=3.94, p<.05)、相手の性の主 効 果(F(1,249)=8.98,p<.01)、 要 求 の 対 象 者 の 効 果
(F(1,249)=4.23,p<.05)及び相手の性×要求の対象者 の交互作用(F(1,249)=5.58,p<.05)が有意であった。
この交互作用について単純主効果検定を行ったとこ ろ、要求の対象者が自分の場合に相手の性の単純主効 果が有意であったが(F(1,249)=14.34,p<.001)、他人 の場合には有意でなかった(F=1.78)。すなわち、男子、
女子ともに、自分が要求の対象者である場合には、相 手が同性よりも異性の場合に偶然への帰属が増すこと が明らかになった。
₃.₄.相手に対する感情価(不快−快)、好意及偶 然への帰属度の関係
相手に対する感情価に対して、原因帰属が影響して いることを確かめるために、Table 1 に示した評定間 の相関係数 (r) を算出した。その結果が Table 2 に示 されている。自分が要求の対象者である場合、感情と 好意への帰属が男女ともに正の相関、他人が要求の対 象者である場合には負の相関を示している。そして、
好意への帰属と偶然への帰属は負の相関を示してい る。ただし、女子の援助的行動が要求された場合には、
他の条件とは異なっており、感情価と好意への帰属の 相関係数(r=.11)及び偶然への帰属の相関係数(r=-.00)
が実質的な意味をもっていない。
4.考 察
₄.1.相手に対する感情価について
男女ともに自分に対する要求がある場合の方が他人 に対する要求がある場合よりも感情評定値は高くなる であろうと予想したが、これは、予想通りであった。
これは、自分が要求の対象者となったことによって自 尊感情が充足されることによると考えられる。
ただし、男子は、自分が要求された場合に相手が異 性の場合が同性の場合よりも感情評定値が高くなると
Table ₂ 感情価、好意及び偶然への帰属度の関係 (r) 要求される行動 友好的行動 援助的行動
要求の対象者 自分 他人 自分 他人
男子
感情価と好意(非好意)帰属 .48** -.39** .46** -.19*
感情価と偶然帰属 -.11 .08 .05 -.02
好意(非好意)帰属と偶然帰属 -.40** -.24* -.29* 0.01
女子
感情価と好意(非好意)帰属 .39** -.14 .11 -.28*
感情価と偶然帰属 .08 .14 -.00 .37**
好意(非好意)帰属と偶然帰属 -.33** -.28* -.47** -.38**
全体
感情価と好意(非好意)帰属 .42** -.28** .31** -.21**
感情価と偶然帰属 -.04 .10 .02 .15
好意(非好意)帰属と偶然帰属 -.36** -.25** -.37** -.16
* p<.05 ** p<.01
予想した。結果は、男子では自分が援助的行動を要求 された場合、同性よりも異性に対してより快な感情が 生じることが示され、予想を部分的に支持した。
反対に、女子は他人が要求の対象となった場合に相 手が異性の場合が同性の場合よりも感情評定値が低く なるであろうと予想した。本研究の結果は、女子で他 人に対する要求がある場合には相手が異性であろうと 同性であろうと差がなく、予想は支持されなかった。
しかし、自分が友好的行動が要求された場合、異性よ りも同性に対してより快な感情が生じることが示され た。予想とは異なる結果が多かったが、相手の性によ る感情価の違いは本研究で扱った仮想対人場面におい ても確かに存在することが明らかになった。
先行研究(Kahn & McGaughey, 1977)は、男子は
豊田 弘司 対人感情に及ぼす原因帰属の効果における性差
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異性が近くにきたことを好意に帰属して、相手に対す る快な感情が喚起し、女子は相手が遠くにいったこと を非好意(好かれていない)に帰属して不快な感情を 喚起されると解釈している。本研究の結果は、男子は 自分に対して援助的行動を異性が要求してきた場合に その異性に対する快感情が喚起されるのである。これ は、相手が近くにきたことと同じことになる。物理的 距離とは異なるが、援助を求めるということによる心 理的距離を縮める行動に対して男子はそれが好意によ るものと帰属しやすいのであろう。それは、後述する 好意への帰属度の結果に反映されている。一方、女子 に関しては、友好的行動を自分に対して要求してきた 場合には、同性に対してより快な感情が喚起されるの である。これは、同性の示す友好的な行動が好意によ るものと帰属しやすいのであろう。これも、後述する 好意への帰属度に反映されている。
₄.₂.好意(非好意)への帰属度について
好意(非好意)帰属に関しては、男子は自分に対し て要求された場合、相手が異性の場合が同性の場合よ りも好意帰属が高くなると予想された。しかし、友好 的行動であっても援助的行動であっても、男子は相手 の性による好意帰属の影響がなかった。
一方、女子は、他人に対して要求がなされた場合 に、相手が異性である場合に非好意帰属評定値が高く なるであろうと予想した。友好的行動に関しては、明 らかではなかったが、援助的行動については、他人が 要求の対象になった場合に自分が好かれていなかった という非好意へ帰属する程度が高まることが示された のである。自分ではなく、他人に対して要求すること は自分との対人的距離が遠のくことであり、この結果 は Kahn & McGaughey(1977)において、女子が対 人距離が離れている男子に対して不快感情が喚起され るは、自分が好かれていないという帰属をするという 解釈と一致するものである。ただし、もし、そうであ るならば、同じ傾向が友好的行動が要求された場合に おいても認められるはずであるが、そうではなかっ た。援助的行動は自分の能力を評価して援助を求める という意味があり、友好的行動には自分の能力に対す る評価の意味はそれほど強くない。したがって、自分 の力を評価されたという自尊感情が影響しているのか しれない。自尊感情を高めてくれる相手に対して快感 情が高まることは、Walster(1965)以来、一般によ く知られている。Walster の実験は、参加者が女性で あるが、相手に援助的行動を求められて自尊感情が高 まり、それによって快な感情が喚起されると解釈され ている。本研究の結果に関しては、男性についてその 傾向が強いといえよう。今後の課題として参加者の自 尊欲求の強さを測定し、それに快感情の評定値依存す るか否かを検討することも必要であろう。
₄.₃.偶然への帰属度について
偶然帰属に関しては、男子は他人に対して要求がさ れた場合には、相手が異性の場合が同性の場合より偶 然帰属評定値が高いが、女子は、相手が異性の場合が 同性の場合よりもその偶然帰属評定値が低くなるであ ろうと予想した。
男子は自分か他人かに関わらず、友好的行動が要求 された場合には、相手が異性よりも同性の場合に偶然 への帰属を高めるという結果になった。一方、女子は 相手の性による違い(偶然帰属が異性よりも同性に対 して多い)は認められなかった。この結果は、予想と は反対の結果である。ただし、男子は友好的行動に関 しては、異性と同性を区別して偶然帰属をしているこ とがわかる。豊田・藤田(2001)は、恋人、異性の友 人、同性の友人に関する好意尺度と愛情尺度の得点の 相関を検討した結果、男子では、異性の友人と恋人の 相関が高く、女子では異性の友人と同性の友人の相関 が高かった。この結果は、男子では相手が異性か同性 かという次元で対人感情を処理するのに対して、女子 は、友人か恋人かという次元で処理していることが示 されている。他の結果でも認められるように、男子は 女子よりも異性−同性の次元に敏感に左右されるので あろう。
一方、女子においても、自分が援助的行動を要求さ れる場合には、相手が同性よりも異性の場合に偶然へ の帰属が増すことが明らかになった。援助的行動に関 しては普通は同性に要求されることが多い。それ故、
同性同士の場合は好意に帰属する可能性が高いが、異 性の場合には同性同士のように、相手に対する情報が 多くはないので、偶然に帰属する可能性が高くなるで あろう。
₄.₄.感情価、好意及び偶然帰属の関係
男女ともに、自分に対して要求がある場合には相手 に対する感情(快−不快)は、好意への帰属と正の相 関が見られ、他人に対して要求がある場合には負の相 関がみられた。この結果は、相手に対する感情は好意
(非好意)帰属によって規定されることを示している。
ただし、女子の援助的行動が要求された場合には、他 の条件とは異なっており、感情価と好意への帰属の相 関係数が実質的な意味をもっていない。
同じように、偶然帰属は感情価とは無相関であっ が、女子の援助的行動が要求される場面においては他 人に対して要求がなされた場合に偶然帰属と感情価が 正の相関を得ている。これは、一般には偶然帰属が相 手に対する感情に影響しないが、上記の場合に限って は偶然帰属が感情を規定するのである。Weiner(1979)
の原因帰属モデルによれば、内的−外的次元は自尊感 情にかかわっている。すなわち、成功した時の原因を 内的な自分の能力に帰属する場合には誇りの感情が生 じ、失敗を能力に帰属する場合には恥の感情が生じる。
反対に成功を外的な要因の運に帰属すると誇りの感情
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は生じないし、失敗を運に帰属すると恥ずかしいとい う感情は生じない。本研究の場合、女子は偶然(運)
に帰属することによって、自分の自尊感情の低下を抑 制し、その結果が感情価に反映されたと考えられる。
さらに、好意(非好意)帰属と偶然帰属の間には一貫 して負の相関があり、この両者は対立的な帰属である ことがわかる。Kahn & McGaughey(1977)では好 意帰属と偶然帰属を対立的に解釈していたが、そこに は帰属の指標がなかった。本研究では、その指数を設 け、両帰属の対立性を明確に示したのである。
₄.₅.今後の課題
₄.₅.₁.性差を規定する要因の検討
本研究では、相手に対する好意(不快−快)が帰属 によって影響されることを示し、その影響は参加者の 性、相手の性及び相手から要求される行動によって変 化することが示された。特に、男子と女子による帰属 の違いは、注目すべきものである。帰属の違いは、学 校適応に関する指導の違いをもたらすものである。今 後の課題は、この性差が何によって規定されるのかを 自尊欲求や親和欲求等の欲求における個人差から検討 する必要があろう。
₄.₅.₂.多様な原因帰属の検討
本研究では、対人感情に及ぼす原因帰属を検討した が、序論で述べたように、学習意欲や学業成績に及ぼ す効果を検討した研究は多い。ただし、Heider(1958)
によれば、人間はあらゆる事象に対してその原因帰属 を行っているのであるから、検討すべき原因帰属の事 象は多い。最近の研究では、青年期における対人関係 として重要な恋愛関係に注目し、齊藤・荻野・小嶋
(2005)が、恋愛においては自分の性格にその原因を 帰属する傾向の強いことを示している。また、荻野・
齊藤・小嶋(2006)では、恋愛において自分、友人、
嫌いな人が成功した場合と失敗した場合の帰属の違い を明らかにしている。さらに、三宅(2002,2003)は ネガティブな出来事に関する原因帰属と、問題解決ス タイルの関係を検討している。このように、原因帰属 には、検討されるべき課題が多い。
(付記)本研究のデータ分析には、奈良教育大学学校 教育教員養成課程教育・発達基礎コース心理学専修4 回生及び3回生の協力を得た。記して感謝の意を表し ます。なお、これらの一部の結果は、奈良教育大学輝 甍祭(大学祭)において、演習授業の一環として上記 学生が著者の指導の下、発表した。
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