筑波大学大学院博士課程
システム情報工学研究科修士論文
寄生素子付き平面構成アンテナの
機能化に関する研究
池田 彰
(知能機能システム専攻)
指導教官 平沢 一紘
目次
1 序論 1 2 理論 2 2.1 モーメント法 . . . 2 2.2 入力インピーダンス . . . 5 2.3 電圧定在波比(VSWR) . . . 6 2.4 VSWR≤2であるための必要条件 . . . 7 2.5 周波数帯域幅 . . . 9 2.6 垂直偏波と水平偏波 . . . 9 2.7 マッチングファクター(MF) . . . 10 2.8 アダプティブアレーアンテナ . . . 11 3 PIAAによる妨害波除去 12 3.1 パワーインバージョン . . . 12 3.2 システム構成 . . . 13 3.3 アンテナ構成 . . . 13 3.4 解析結果. . . 14 3.4.1 計算結果 . . . 14 3.4.2 指向性パターン. . . 15 3.4.3 各信号波増幅率によるアンテナ利得 . . . 16 3.4.4 ループ利得によるアンテナ利得 . . . 16 3.4.5 妨害波到来方向によるアンテナ利得 . . . 17 4 給電位置切り替えによる多周波共用化 18 4.1 アンテナ構成 . . . 18 4.2 解析結果. . . 19 4.2.1 入力特性 . . . 19 4.2.2 電流分布 . . . 20 4.2.3 放射パターン . . . 22 4.3 導体板の影響 . . . 24 4.4 寄生素子の影響 . . . 25 5 寄生素子による利得の向上 27 5.1 システム構成 . . . 27 5.2 PIFAの設計 . . . 28 5.2.1 Widthによる変化 . . . 29 5.2.2 Depthによる変化 . . . 30 5.2.3 Heightによる変化 . . . 31 5.2.4 distanceによる変化 . . . 32 5.2.5 周囲長一定での変化 . . . 335.3 給電素子の設計 . . . 35 5.4 寄生素子の設計 . . . 37 5.4.1 アンテナ構成 . . . 37 5.4.2 横幅Aによる変化 . . . 37 5.4.3 折り返し長さBによる変化 . . . 37 5.5 導体板の距離による特性の変化 . . . 40 5.6 最良となったアンテナ . . . 42 5.6.1 アンテナ構成 . . . 42 5.6.2 入力特性 . . . 43 5.6.3 電流分布 . . . 44 5.6.4 放射パターン . . . 45 6 結論 47 謝辞 48 参考文献 49
1
序論
携帯電話は2001年に第三世代携帯電話のサービスが本格化してから現在に至るまで、テレビ放 送受信・GPS受信など様々な進化を遂げてきている。また、将来においても2006年にはモバイル 向け地上波デジタル放送(1セグ放送)が始まり、2007年には携帯電話に燃料電池が搭載され、第 四世代(4G)携帯電話が導入される見通しであり、更なる機能化が行われていくと考えられる。携 帯電話は通話のほかに、テレビ受信、インターネットやGPS受信など多様な機能が搭載され、携 帯情報端末となってきている。多種多様な情報を送受信するためには複数の周波数の電波を使用 する必要があり、また、テレビ放送やインターネットなど、大容量の通信や高速通信を行うために は、広帯域な特性が求められる。 本研究では、携帯電話に搭載できる大きさの平面構成アンテナにおいて、寄生素子を用いること による以下の3つの機能化について検討する。(1)2つの線状素子によるアダプティブアレーによっ てパワーインバージョンアルゴリズムを用いることによる妨害波除去、(2)給電位置を切り替える ことにより、同じアンテナを異なる周波数で使用し、帯域を合成することによる広帯域化、(3)現 在主流である折り畳み可能な携帯端末において、寄生素子を用いることにより、筐体を閉じている 際に天頂方向への利得について検討した。2
理論
2.1
モーメント法
電磁界の数値解析手法には、有限要素法(FEM: Finite Element Method)・時間領域有限差分法 (FDTD法: Finite Difference Time Domain method)・モーメント法(MoM: Method of Moments)な
どがある。本研究の解析においては、モーメント法を用いたWIPL-Dにより特性の評価を行って いる。モーメント法はR.F.Harringtonによって命名された電磁界解析手法であり、金属で出来たア ンテナの解析や金属による散乱問題を得意とする。積分方程式を数値計算に適したマトリクス方程 式に変換し、線状アンテナ導体上の電流分布を求め、入力インピーダンス、利得、放射パターンな どのアンテナ特性を計算する方法である。 図1: (a)線状アンテナ(b)展開関数(c)等価電流 簡単のために、図1(a)に示すような中央給電ダイポールアンテナを用いることとする。アンテ ナの長さをL、半径をaとし、中心軸がz軸と一致するように置かれている。また、アンテナ中央 のギャップ間隔をdとし、1[V]を励振する。波長λ に比べてアンテナの半径が非常に小さい場合 (a¿λ)/200)、電流はz軸方向にのみ流れると考えられ、また、アンテナの端部においては電流は0 と見なす事ができる。アルミニウムや銅などの良導体で出来たアンテナで、入力インピーダンスが 比較的大きい場合は、完全導体と考えて解析を行っても十分良い結果が得られるので、ここでは、
アンテナの導体表面、給電点において、電界が満足しなければならない境界条件は、既知の電界 のz軸方向の成分をEzi とすると、 Ez(Jz) = Ezi (1) である。これは、2つのダイポール間の電界を表わし、ギャップ間隔dを用いて、 Ezi= ( Ezi (−d2≤z≤d2) 0 (−L 2≤z≤ − g 2, g 2≤z≤ L 2) (2) となり、給電点(ギャップ間)のみに電界Eziが存在する。また、Ez(Jz)はアンテナ導体表面を流 れる電流Jzにより生じたz軸方向の電界である。式(1)を満足するようにモーメント法を用いてア ンテナ表面の電流を求める。 図1(b)のようにアンテナをM+1の小区間に等分割する。ここで、中央給電とした場合には給 電点が小区間の端に置かれるためにMは奇数でなくてはならない。各区間の長さは以下のように なる。 ∆z = L M + 1 (3) M=3の場合、図1(b)のように各小区間の端は0から4まで番号付けし、展開関数はn=1,2,3ま でとなる。アンテナ表面を流れる電流Jz(z0)は、2区間(2∆z)にまたがるM個の展開関数 Jzn(z0) と、未知の複素係数Inを用いて、 Jz(z0) = M
∑
n=1 InJzn(z0) (4) と表わす。z0 はz軸上の任意の点である。展開関数にはパルス、三角形、正弦波などがあるが、 ここでは、区分正弦波を選ぶ。区分正弦波を展開関数として用いると、電界、磁界が積分を含まな い形で表わせるためにプログラムが簡単になるとともに、計算時間も短くなる。 区分正弦波を用いた展開関数は以下のようになる。 Jzn(z0) = sin[k0(z0−zn−1)] SN (zn−1≤z 0≤z n) sin[k0(zn+1−z0)] SN (zn≤z 0≤z n+1) 0 otherwise (5) k0= 2π λ (6) SN = sin(k0∆z) (7) 図1(b)では、展開関数に|In|を掛けた値で図示してあるために振幅が異なっている。 アンテナ表面を流れる電流は、a¿λ としているため、z軸上に集中して流れると仮定することが 出来る。したがってJznによってm番目の点zに生じた電界Ezmは以下のように表わされる。 Ezm= −j30 SN[ exp(− jk0rn−1) Rn−1 −CSexp(− jk0rn) Rn +exp(− jk0rn+1) Rn+1 ] (8) CS = 2 cos(k0∆z) R2n−1= a2+ (z − zn−1)2 R2n= a2+ (z − zn)2 R2n+1= a2+ (z − z n+1)2モーメント法を適用する前に、内積として次式を用いる。内積の働きは、数値計算の誤差を少な くすることである。実験でいえば、測定を数多く行い、その結果を平均するようなものである。 < E(z), Jw(z) >= Z L 2 −L 2 E(z) ¦ Jw(z)dz (9) ここで、E(z)はJz(z0)により生じた電界である。Jw(z)は半径aの円筒上での重み関数であり、z 軸方向の積分はこの円筒上で行われる。 重み関数は、式(1)の境界条件を満足させるために重みをつける関数である。アンテナ表面の離 散点での境界条件を満たすためには、ディラックのδ 関数を用い、連続的に境界条件を満足させる 場合は、パルス、三角形、正弦波などが使われる。この例では、展開関数と同じ区分正弦波を用い ている。 式(8)の電界と式(9)の内積を用い、式(8)の区分正弦波Jzm(m = 1, 2, · · · )を重み関数として、 Ez-Eziのすべての重み関数を直交させ、以下の式を得る。ˆzはz方向の単位ベクトルである。 − M
∑
n=1 In< ˆzEz(Jzn), ˆzJzm>=< ˆzEzi, ˆzJzm> (m = 1, 2, · · · , M) (10) この式は、M次連立1次方程式なので、次式のように書き直す。 M∑
n=1 ZmnIn= Vm (m = 1, 2, · · · , M) (11) [Z][I] = [V ] (12) 式(12)は行列表現したもので、インピーダンス行列[Z]はM×M、電流行列[I]と電圧行列[V] は1×M行列となる。よって、この式よりアンテナ表面上の電流が求められる。 インピーダンス行列[Z]の要素Zmnは区間zm−1, zm+1とzn−1, zn+1の長さ2∆zの2本の微小ダイ ポールアンテナ間の相互インピーダンスである。給電端は微小であり、zmとznにある。Zmnは式 (10)から以下のようになる。 Zmn= − Z z m zm−1 sink0(z − zm−1) SN Ez(z)dz − Z z m+1 zm sink0(zm+1− z) SN (13) ここでEzm(z)はz軸上の展開関数Jznから生じた電界である。式(13)の積分はガウスの求積法 を用いて求めることができる。また、Inは式(11)の連立方程式を解くことで求められる。これを 式(4)に代入することでアンテナを流れる電流を計算することができる。入力インピーダンスは給 電点の電圧を電流で割ることにより計算され、1/Inである[1][2][3]。2.2
入力インピーダンス
アンテナの入力インピーダンスZは以下のような複素数で表せる。 Z = R + jX (14) 上式で、Rを抵抗成分、Xをリアクタンス成分という。また、Xが正のときアンテナは誘導性をも ち、X が負のときアンテナは容量性を持つ。ネットワークアナライザはアンテナのSパラメータ (S11)を測定することができる。Sは以下のような複素数であらわされる。 S = u + jv (15) また、SはZを用いて以下のように表わせる。 S =Z − 1 Z + 1 (16) これをZについて変形すると Z =1 + S 1 − S (17) となる。式(15)を式(17)に代入すると、 Z = 1 + (u + jv) 1 − (u + jv) =(1 + u) + jv (1 − u) − jv ={(1 + u) + jv}{(1 − u) + jv} {(1 − u) − jv}{(1 − u) + jv} = 1 − u2− v2 (1 − u)2+ v2+ j 2v (1 − u)2+ v2 (18) となる。それぞれの実部、虚部を比較すると、 R = 1 − u 2− v2 (1 − u)2+ v2 X = 2v (1 − u)2+ v2 (19) により、入力インピーダンスが求められる。2.3
電圧定在波比(
VSWR
)
給電線の特性インピーダンスをZ0、アンテナの入力インピーダンスをZLとおくと、Z0= ZLの
時は反射を生じないが、通常はZ06=ZLであるので、給電線とアンテナの接続部において反射が起
こる。送信機からアンテナへ向かう進行波とケーブルとアンテナの接続部からの反射波の合成によ
り、給電線上に節と腹を持つ定在波が生じる。定在波の節点における電圧の実効値をVmin、腹点に
おける電圧の実効値をVmaxとおくと、VminとVmaxの比を電圧定在波比と呼び、以下の式で定義さ
れる。 VSWR = |Vmax| |Vmin| (20) 入射波の電圧の実効値をVf、反射波の電圧の実効値をVrとおくと、反射係数Γは Γ=Vr Vf =ZL− Z0 ZL+ Z0 (21) と書ける。反射係数は送信機からの電圧がどのくらい反射したかを表す指標であり、|Γ|≤1の範囲 をとる。アンテナとして実用的な範囲はVSWR≤2である。このとき、 VSWR = 1 + |Γ| 1 − |Γ| ≤2 (22) より、 |Γ|≤1 3 (23) であるので、入力電圧の33%が反射することになる。これを電力に換算すると入力電力の11%の 反射となる。また、送信機の特性インピーダンスZ0とアンテナの入力インピーダンスZLが等しい とき、 |Γ| =ZL− Z0 ZL+ Z0 = 0 (24) となるため、給電線とアンテナの接続部において反射が生じない。このとき、VSWR= 1となる。 入力電力がすべて反射するとき、|Γ| = 1であるので、VSWR=∞となる[4]。
2.4
VSWR
≤
2
であるための必要条件
式(21)により、反射係数Γは |Γ| =|ZL− Z0| |ZL+ Z0| (25) である。給電線及び送信機の特性インピーダンスをZ0= 50 + j0 [Ω]とし、アンテナの入力イン ピーダンスをZL= R + jX [Ω]とおくと、 |Γ| =|(R + jX) − (50 + j0)| |(R + jX) + (50 + j0)| = |(R − 50) + jX| |(R + 50) + jX| = s (R − 50)2+ X2) (R + 502+ X2) (26) である。式(23)より、VSWR≤2となるのは、|Γ|≤1 3 を満たす場合であるので、 0 ≤(R − 50) 2+ X2 (R + 50)2+ X2≤ 1 9 (27) であればよい。よって、 9{(R − 50)2+ X2}≤(R + 50)2+ X2 (28) となる。VSWR=1 となるのは、R=50,X=0 の時であることは明らかであるので、ここでは、 VSWR=2となる場合を考える。以下では、R=50[Ω]におけるXの極限値、X=0[Ω]におけるRの 極限値について考える。(i) R=50[Ω]の時 R=50を式(28)に代入すると、 9X2= 10000 + X2 ∴ X2= 1250 ∴ X ≈ ±35.4 (29) 図2 にR=50ΩにおいてXを変化させた時 のVSWRの変化を示す。 図2:虚数成分を変化させた時のVSWR特性 (ii)X=0[Ω]の時 X=0を式(28)に代入すると、 9(R − 50)2= (R + 50)2 より、この2次方程式を解くと、 R = 25, 100 (30) 図3にX=0ΩにおいてRを変化させた時の VSWRの変化を示す。 図3:実数成分を変化させた時のVSWR特性 式(29)、式(30)より、VSWR≤2であるための必要条件は25≤R≤100かつ|X| < 35.4となる。 図4に、横軸を実数成分、縦軸を虚数成分とした時のVSWR≤2の範囲を斜線で示す。
2.5
周波数帯域幅
図5のように縦軸にVSWR、横軸に周波数をとり、VSWR≤2となる最低周波数を f1、最高周 波数を f2とおくと、中心周波数 f0は、以下のように書ける。 f0= f1+ f2 2 (31) 中心周波数に対して左右どのくらいの周波数でアンテナを用いることができるかを表す指標が周波 数帯域幅(Bandwidth)で、 BW = f2− f1 f0 ×100 [%] (32) によって求められる。 図5:周波数帯域幅2.6
垂直偏波と水平偏波
電磁波は電界と磁界を持ち、それぞれは直交するベクトルである。大地に平行な面をxy平面と し、電波の伝播方向をy軸方向とすると、電界ベクトルが大地に対して垂直な波を垂直偏波、水平 な波を水平偏波という。それぞれを図で表すと、図6、図7のようになる。垂直偏波はEz成分と Hx成分のみを持ち、水平偏波はEx成分とHz成分のみを持つ。z
x
y
Hx Ez 図6:垂直偏波z
x
y
Ex Hz 図7:水平偏波2.7
マッチングファクター
(MF)
アンテナの整合状態を表わす値としてマッチングファクター(MF: Matching Factor)という指標 を用いる。図8にVSWR≤2となったアンテナの一例を示す。MFはVSWR≤2となる帯域におけ るVSWRの平均値を表わしており、以下のように定義される[5]。 図8:マッチングファクター VSWR曲線が離散値の場合、 MF = f2∑
f = f1 V SW R( f ) M (33) となり、VSWR曲線が連続値の場合、 MF = Z f 2 f1 V SW R( f )d f ∆f (34) となる。 式中で f1はVSWR≤2となる最小周波数、f2は最大周波数を表わし、MはVSWR≤2となる周 波数の個数である。また、∆fは周波数帯域幅である。MFの取りうる範囲は1≤MF≤2である。2.8
アダプティブアレーアンテナ
無線通信においては、図9に示すように、基地局から到来する直接波の他に、建物や山岳による 反射、回折、散乱により電波の伝搬経路が複数存在する。特に携帯電話等の移動通信においては、 携帯を使用するユーザーよりも周囲の建物の高さの方が高く、直接波が見通せることはほとんどな い。このため、複数の経路の電波が互いに干渉することにより、受信レベルが激しく変動するマル チパスフェージングが存在し、通信品質の悪化につながる。複数のアンテナ素子を配列したアレー アンテナにより、各素子の励振の振幅及び位相を制御することで指向性パターンを変化させること ができる。また、指向性パターンの制御を適応的に行うアンテナをアダプティブアレーアンテナと いう。 図9:多重伝搬路(マルチパス)アダプティブアレーの方式には最小2 乗誤差法(MMSE: Minimum Mean Square Error)、最大 SNR法(MSN: Maximum Signal-to-Noise ratio)、方向拘束付出力電力最小化法(DCMP: Directional Constrained Minimization of Power)、パワーインバージョン(PI: Power Inversion)、定包絡線化ア ルゴリズム(CMA: Constant Modulus Algorithm)等がある[6]。
パワーインバージョンは妨害波電力が所望波電力よりも大きくなければ使用できないという欠点 があるが、所望波の到来方向が分からなくても利用できるという点、また、妨害波のレベルが強い ほど妨害波除去が効率的に行えるという点で他の方式よりも優れている。
3
PIAA
による妨害波除去
パワーインバージョンアダプティブアンテナ(PIAA: Power Inversion Adaptive Array)はアレー
の自由度(素子数-1)が干渉波の数と等しく、干渉波電力が所望波電力よりも大きい場合に用いられ る。PIAAをもちいることで大きい電力の干渉波ほどその方向に深いヌルを形成し、その結果、所 望波が強調され、SIRが入力と出力で反転される。本稿では平面構成アンテナにおいて、2素子ア レーとパワーインバージョンを用いることで、異なる方向からの到来する所望波よりも強い電力を 有する干渉波の低減を行うことを目的とする。以下では携帯電話に収まる大きさの平面構成アンテ ナにおいて、PIAAによる指向性の制御特性について解析を行った[7][8]。
3.1
パワーインバージョン
図10にパワーインバージョンのアルゴリズムを示す[9][10]。アンテナL1,L2に到来した電波 は、増幅器により増幅され、それぞれウェイトw1,w2を掛けて合成され、受信機への入力となる。 また、ti∗はステアリングベクトルを表わしており、パワーインバージョンを使用していない待ち受 け時での各素子のウェイトである。本稿においては、待ち受け時にZL1のみで送受信を行うよう、 ti∗= [1, 0]T とした。パワーインバージョンのアルゴリズムは、ウェイトw1,w2を決定するための ものであり、増幅器での利得、負帰還のフィードバック利得(ループ利得)、妨害波到来方向をパ ラメータとして解析を行った。 図10:パワーインバージョンアルゴリズム3.2
システム構成
図11にシステムの構成を示す。解析は周波数が2GHzと4GHzの場合について行い、各信号波 の送信にはそれぞれの周波数の半波長ダイポールを用いた。受信アンテナの周囲に球面に見立て た空間を設定し、各信号波はXZ平面、すなわち赤道上のアンテナから送信される。入力電力SIR は-20dBであり、妨害波の電力は所望波の電力の100倍である。所望波方向はφ=0[度],θ=-90[度] とし、妨害波方向はφ=0[度],θ=30[度]とした。 図11:システム構成3.3
アンテナ構成
図12に受信アンテナの構成を示す。アンテナ素子は全て同一平面上に構成されており、線状素 子はそれぞれの周波数の波長におけるλ/4逆Lアンテナとした。線状素子の端部に負荷ZL を装 荷して、生じる電流値を計算した。また、待ち受け時にはZL1から受信を行うため、ZL1= 50[Ω]、 ZL2=∞[Ω]とした。導体板の大きさはpx=37.5[mm],py=50[mm]と固定しているため、素子間隔S は2GHzにおいてはS=12.5mm(λ/12)、4GHzにおいては素子間隔S=25mm(λ/3)と異なる。 図12:アンテナ構成3.4
解析結果
3.4.1 計算結果 所望波方向のダイポールアンテナに5[V]、妨害波方向のダイポールアンテナに50[V]を励振し たときに各負荷ZL1,ZL2に生じる電流値を表1、表2に示す。 ZL1 ZL2 所望波方向 62.95µA - j182.5µA -96.50µA - j85.25µA 妨害波方向 -1.08mA + j1.42mA -2.19mA + j783.5µA表1:各負荷に生じる電流(2GHz) ZL1 ZL2 所望波方向 -27.10µA - j0.12µA -93.17µA - j41.09µA 妨害波方向 -834.2µA - j153.2µA 10.59µA - j790.5µA 表2:各負荷に生じる電流(4GHz) 表より、妨害波方向からの電波による電流が強いことが分かる。また、各電流値は微小であった ので、100倍してパワーインバージョンアルゴリズムに入力した。PIアルゴリズムによるウェイト の計算結果を表3、表4に示す。各ウェイトは大きい方のウェイトの絶対値が1となるように正規 化してある。 w1 w2 Re Im Re Im w 1 0 -0.6333 0.4069 表3:パワーインバージョンにより得られたウェイト(2GHz) w1 w2 Re Im Re Im w 1 0 -0.1534 0.9225 表4:パワーインバージョンにより得られたウェイト(4GHz)
3.4.2 指向性パターン 送信パターンと受信パターンは同じであるので、パワーインバージョンにより得られたウェイト を各給電点における電圧として、指向性パターンを計算した。図13に待ち受け時の指向性パター ンとパワーインバージョンにより得られた指向性パターンを示す。また、表5、表6に各信号波方 向の絶対利得と所望波方向の妨害波方向に対する相対利得を示す。 図13:指向性パターン 待ち受け時 PIAA 所望波方向 2.89[dBi] 2.46[dBi] 妨害波方向 -1.11[dBi] -15.58[dBi] 相対利得 4.00[dB] 18.04[dB] 表5:各信号波方向の絶対利得・相対利得(2GHz) 待ち受け時 PIAA 所望波方向 -14.57[dBi] -1.87[dBi] 妨害波方向 -3.22[dBi] -11.08[dBi] 相対利得 -11.35[dB] 9.21[dB] 表6:各信号波方向の絶対利得・相対利得(4GHz) 2[GHz]においては、パワーインバージョンを用いることにより、妨害波方向の絶対利得が小 さくなり、その結果、所望波方向の妨害波方向に対する相対利得は4.00[dB]から18.04[dB]へと 14.04[dB]の向上が見られた。4[GHz]においては、待ち受け時に所望波方向の利得が小さくなって いたが、パワーインバージョンを用いることにより、所望波方向の利得が大きく、妨害波方向の利 得が小さくなり、その結果、所望波方向の妨害波方向に対する相対利得は-11.35[dB]から9.21[dB] へと20.56[dB]の向上が見られた。
3.4.3 各信号波増幅率によるアンテナ利得 アンテナに到来した各信号波は増幅器によって増幅されてパワーインバージョンアルゴリズムに 入力される。各信号波の増幅率を変化させた時のアンテナ利得を図14に示す。 図14:各信号波増幅率によるアンテナ利得 図より、各信号波の増幅率が20dB以上の時、妨害波の絶対利得が下がり、所望波の妨害波に対 する相対利得が安定して大きくなっていることが分かる。また、各信号波増幅率が20dBの時に相 対利得は18.04dBと最大になった。 3.4.4 ループ利得によるアンテナ利得 パワーインバージョンアルゴリズムにおけるフィードバック(負帰還)回路の利得がループ利得 である。図15にループ利得を変化させた時のアンテナ利得を示す。
相対利得が安定して大きくなっていることが分かる。また、ループ利得-10dBの時に相対利得は 20.36dBと最大になった。 3.4.5 妨害波到来方向によるアンテナ利得 所望波の到来方向をθ=-90度に固定し、妨害波の到来方向を変化させて解析を行った。図16に、 妨害波到来方向を変化させた時の絶対利得、所望波の妨害波に対する相対利得を示す。また、待ち 受け時とパワーインバージョン使用時の相対利得の妨害波到来方向に対する比較を図17に示す。 図16:妨害波到来方向によるアンテナ絶対利得 図17:妨害波到来方向によるアンテナ相対利得 図より、所望波と妨害波が75度以上離れている場合に相対利得が15dB以上と安定して妨害波 除去が行われていることがわかった。θ=-75度からθ=-45度において妨害波除去が効率的に行わ れなかったのは、アンテナ素子を2素子しか用いていないためにビーム幅の小さいビームが形成で きなかったためであり、また、θ=-90度では所望波と妨害波の到来方向が同じであるため妨害波除 去ができなかった。
4
給電位置切り替えによる多周波共用化
IMT-2000や無線LANの通信を行う場合、周波数帯が分かれて存在しており、使用する周波数 帯全てを一つのアンテナでカバーする広帯域なアンテナを小型アンテナで実現するのは難しい。ま た、通信においては分かれた周波数帯を同時に使用することは無いため、給電位置を切り替えて、 使用する帯域を合成することは有効であると考えられる。これまでに、4年次の卒業論文におい て、平面構成のアンテナで寄生素子を用いることにより、広帯域な特性が得られることが分かって いる[11][12]。また、導体板の大きさにより、インピーダンス特性が変化することが分かっている [13]。これらの結果を考慮に入れて、以下では、給電位置を切り替えることにより2つの帯域を合 成し、広帯域で利用できる小型アンテナについて解析を行った[14]。4.1
アンテナ構成
図18にアンテナの構成図を示す。アンテナは外側のアンテナ長40mmのΓ型素子と内側のアン テナ長25mmのΓ型素子から構成されており、給電点を切り替えることにより、多周波共用化を 実現している。給電位置切り替えの際には寄生素子側は導体板に短絡するものとする。外側の素子 に給電したアンテナをAntenna1、内側の素子に給電したアンテナをAntenna2として、アンテナ入 力特性、導体板の影響、寄生素子の影響について考察を行った。4.2
解析結果
4.2.1 入力特性 px=20mm,py=45mmとした時のAntenna1,Antenna2のVSWR特性及びインピーダンス特性を 図19、図20に示す。 図19: VSWR特性 図20:インピーダンス特性 図より、Antenna1では1.72から2.53GHz、Antenna2では2.50から3.62GHzにおいてVSWR≤2 となり、それぞれ38.1%,36.6%の比帯域が得られた。給電位置を切り替えることにより、1.72GHz から3.62GHzにおいて71.2%の比帯域となった。以下では4つのVSWRの極小点におけるアン テナの動作原理について解析を行う。4.2.2 電流分布 図21にアンテナの線状素子に生じる電流分布を示す。図は給電点に1[V]を励振したときの電 流値を表わしており、数値の単位は[mA]である。また、各素子端部に図22のようにノード番号 を付け、給電点(ノード1)での電流値を1に正規化したときの正規化電流を図23に示す。 図21:各素子端部での電流分布(Antenna1) 図22:ノード番号 図23:給電点で正規化した電流分布(Antenna1) 図より、低域側では外側の給電素子に電流が強くのっており、周波数が高くなるにつれてノード 4から6に電流が強くのっていくことが分かる。これにより、Antenna1の2共振の低域側は外側の Γ型給電素子によるもので、高域側は内側のΓ型寄生素子の影響により生じていると予測できる。
図24にアンテナの線状素子に生じる電流分布を示す。Antenna2の給電点に1[V]を励振したと きの電流値[mA]を示してある。また、ノード番号の付け方は図25のようにした。また、給電点 (ノード4)での電流値を1に正規化したときの正規化電流を図26に示す。 図24:各素子端部での電流分布(Antenna2) 図25:ノード番号 図26:給電点で正規化した電流分布(Antenna2) 図より、高域側ではノード4 から6の内側の給電素子の電流が強くなっており、周波数が低 くなるにつれてノード 1から3の寄生素子の電流が強くなっていくことが分かる。これにより、 Antenna1の2共振の低域側は外側のΓ型寄生素子によるもので、高域側は内側のΓ型給電素子の 影響により生じていると予測できる。
4.2.3 放射パターン Antenna1の1.86GHz,2.12GHz,2.41GHzにおけるXY平面の放射パターンを図27に、XZ平面 の放射パターンを図28に示す。 図27: XY平面の放射パターン(Antenna1) 図28: XZ平面の放射パターン(Antenna1) 図より、XY平面、XZ平面ともに帯域内の周波数において放射パターンの変化はほとんど無い ことが分かる。これは、低域側と高域側で動作原理は異なるものの、励振素子がどちらもΓ型で同 一形状であることによるものと考えられる。
Antenna2の2.67GHz,3.06GHz,3.39GHzにおけるXY平面の放射パターンを図29に、XZ平面 の放射パターンを図30に示す。 図29: XY平面の放射パターン(Antenna2) 図30: XZ平面の放射パターン(Antenna2) 図より、XY平面において周波数が高くなるにつれてY軸方向への放射が強くなっている以外 は、XY平面、XZ平面ともに帯域内の周波数において放射パターンの変化はほぼ無いことが分か る。また、Antenna1,Antenna2ともに周波数が上がるにつれて-x軸方向への放射が減少している が、これは、外側の寄生素子と内側の給電素子の間隔(5mm)が波長に対して大きくなっていくた め、寄生素子と給電素子の放射が干渉しているためであると考えられる。また、Antenna1,Antenna2 ともに帯域内での放射パターンはほぼ一様となった。これは広帯域でアンテナを利用するにあた り、有用であると言える。
4.3
導体板の影響
導体板の縦幅pyを変化させた時のAntenna1のVSWR特性を図31に、Antenna2のVSWR特 性を図32に示す。 図31:導体板の影響(Antenna1) 図32:導体板の影響(Antenna2) 図より、pyを長くすることにより、共振周波数が低い周波数に移動していることがわかる。また、pyによる各アンテナの帯域を表7に示す。py=45mmの時にAntenna1とAntenna2の両方の
4.4
寄生素子の影響
Antenna1,Antenna2はそれぞれ寄生素子の影響によって2共振が得られていると考えられる。以 下では、寄生素子が2共振のどちらに影響しているかについて考察した。 図33、図34にそれぞれAntenna1において寄生素子を用いた場合と用いない場合のVSWR特 性、インピーダンス特性を示す。 図33:寄生素子の影響(Antenna1のVSWR特性) 図34:寄生素子の影響(Antenna1のインピーダンス特性) Antenna1において、図33、図34より、寄生素子の影響により、2.4GHz付近においてインピー ダンスのR,X成分が低下していることがわかる。これにより、外側の給電素子による1.9GHz付近 での共振と、内側の寄生素子により2.4GHz付近でR,X成分が整合状態に近づいた影響により、2 周波数でのVSWRの極小値が得られたことがわかる。図35、図36にそれぞれAntenna2において寄生素子を用いた場合と用いない場合のVSWR特 性、インピーダンス特性を示す。 図35:寄生素子の影響(Antenna2のVSWR特性) 図36:寄生素子の影響(Antenna2のインピーダンス特性) Antenna2において、図35、図36より、寄生素子をもちいることにより、2.7GHz付近におい てRが50[Ω]付近に下がり、Xが0[Ω]となることがわかる。これにより、内側の給電素子による 3.5GHz付近での共振と、外側の寄生素子による2.7GHz付近での共振が併合したことにより、2 共振が得られたことがわかる。
5
寄生素子による利得の向上
表8に携帯キャリア別の第三世代における使用周波数を示す。表中でNTT Docomo,vodafoneの 使用周波数をカバーするためには、1.94-2.17GHzにおいてVSWR≤2とすることが必要である。 キャリア 上り[MHz] 下り[MHz] NTT Docomo 1947.6-1957.4 2137.6-2147.4 vodafone 1967.6-1977.4 2157.6-2167.4 au 887.85-924.25 832.75-869.25 表8:キャリア別使用周波数(第三世代) また、現在発売されている携帯電話の形状として、折り畳み可能な携帯端末が主流である。本研 究では、折り畳み可能な携帯電話において、寄生素子を用いることにより、1.94GHzから2.17GHz の周波数において、待ち受け時(折り畳み時)に地面方向への放射を抑制し、天頂方向へ放射させ ることにより、天頂方向の地面方向に対する相対利得の向上を試みた。5.1
システム構成
図37にシステムの構成と座標系を示す。アンテナは給電素子部・PIFA部・無給電素子部から構 成されており、線状素子は直径1mmの銅線である。導体板はPlate1・Plate2の2枚から成っており、パラメータはPlate1は縦55mm×横40mm、Plate2は縦60mm×横40mmである。Plate2が
Plate1よりも縦幅が長くなっているのは、給電素子からの放射を反射させて天頂方向への利得の向 上を意図したためである。 送受信は通話時(OPEN時)においては、板状逆Fアンテナ(PIFA)とΓ型線状素子による選択ダ イバーシティ受信とし、折り畳み時(CLOSE時)にはΓ型線状素子と無給電素子による送受信を行 うものとする。 図37:システム構成
5.2
PIFA
の設計
図38にダイバーシティ受信に用いるPIFAのアンテナ構成を示す。グランド板は縦py=55mm× 横px=40mmで、PIFAの導体板は高さH[mm]の位置にある。PIFAは縦D[mm]×横W[mm]の導 体板で構成され、給電素子と短絡素子の間隔はd[mm]とする。 以下ではパラメータの初期値をW=26[mm],D=10[mm],H=6[mm],d=4[mm]として、各パラメー タを変化させたときのアンテナ特性を調べた。 図38:アンテナ構成5.2.1 Widthによる変化 PIFAの横幅Wを変化させた時のVSWR特性を図39に、インピーダンス特性を図40、図41に 示す。また、表9に比帯域、MFを示す。 図39: WidthによるVSWR特性 図40: Widthによるインピーダンス特性(R) 図41: Widthによるインピーダンス特性(X) W[mm] f1[GHz] f2[GHz] f0[GHz] BW[%] MF 26 1.88 2.22 2.050 16.58 1.49 27 1.83 2.14 1.985 15.61 1.47 28 1.79 2.07 1.930 14.50 1.45 29 1.75 1.99 1.870 12.83 1.44 30 1.71 1.93 1.820 12.08 1.48 表9: PIFAの横幅による比帯域・MF 図 39 より、横幅 W を大きくすることにより中心周波数が低くなることがわかる。また、 W=29mmの時にMFが1.44と最良になった。また、横幅を変化させてもMFの値に影響がほと んどないことがわかる。
5.2.2 Depthによる変化 PIFAの縦幅Dを変化させた時のVSWR特性を図42に、インピーダンス特性を図43、図44に 示す。また、表10に比帯域、MFを示す。 図42: DepthによるVSWR特性 図43: Depthによるインピーダンス特性(R) 図44: Depthによるインピーダンス特性(X) D[mm] f1[GHz] f2[GHz] f0[GHz] BW[%] MF 6 2.16 2.50 2.330 14.59 1.54 8 2.01 2.37 2.190 16.43 1.53 10 1.88 2.22 2.050 16.58 1.49 12 1.78 2.07 1.925 15.06 1.46
5.2.3 Heightによる変化 導体板とグランド板の距離Hを変化させた時のVSWR特性を図45に、インピーダンス特性を 図46、図47に示す。また、表11に比帯域、MFを示す。 図45: HeightによるVSWR特性 図46: Heightによるインピーダンス特性(R) 図47: Heightによるインピーダンス特性(X) H[mm] f1[GHz] f2[GHz] f0[GHz] BW[%] MF 3 2.16 2.32 2.240 7.14 1.81 4 2.04 2.32 2.180 12.84 1.55 5 1.95 2.28 2.115 15.60 1.43 6 1.88 2.22 2.050 16.58 1.49 7 1.81 2.13 1.970 16.24 1.58 表11:板間距離による比帯域・MF 図45より、高さHを大きくすることにより中心周波数が低くなることがわかる。また、H=5mm の時にMFが1.43と最良になった。
5.2.4 distanceによる変化 給電素子と短絡素子の間隔dを変化させた時のVSWR特性を図48に、インピーダンス特性を 図49、図50に示す。また、表12に比帯域、MFを示す。 図48: distanceによるVSWR特性 図49: distanceによるインピーダンス特性(R) 図50: distanceによるインピーダンス特性(X) d[mm] f1[GHz] f2[GHz] f0[GHz] BW[%] MF 3 1.83 2.06 1.945 11.82 1.59 4 1.88 2.22 2.050 16.58 1.49 5 1.94 2.35 2.145 19.11 1.45 6 2.01 2.45 2.230 19.73 1.43
5.2.5 周囲長一定での変化 5.2.1節、5.2.2節により、PIFAの導体板部分の縦幅・横幅を変化させると中心周波数が変化す るだけで、MFに影響がないことが予測された。これを実証するために、Width+Depthを一定にし て、縦幅を変化させて特性の変化を調べた。図51に、アンテナ長を一定にして縦幅Wを変化させ た時のVSWR特性を、図52、図53にインピーダンス特性を示す。また、表13に比帯域、MFを 示す。 図51:周囲長一定でのVSWR特性 W*D[mm] f1[GHz] f2[GHz] f0[GHz] BW[%] MF 11*25 1.84 2.09 1.965 12.72 1.45 16*20 1.84 2.15 1.995 15.53 1.46 21*15 1.85 2.19 2.020 16.83 1.46 26*10 1.88 2.22 2.050 16.58 1.49 31* 5 1.84 2.12 1.980 14.14 1.49 表13:周囲長一定における比帯域・MF 図51より、縦幅と横幅の合計を一定にして縦幅を変化させても中心周波数がほとんど変化しな いことがわかる。また、MFについてもほとんど変化しないことがわかる。言い換えると、縦幅+ 横幅で中心周波数が決まるといえる。また、線状給電素子を装荷するにあたり、相互結合を起こさ ないようにするために、縦幅を小さく取る必要がある。以上より、PIFAの導体板のパラメータと して、横幅が大きく、帯域が広い、W=26mm,D=10mmを用いることにする。
5.3
給電素子の設計
次に、給電素子の設計を行った。給電素子は幅40mm、高さ15mm以内とし、また、PIFAと同 じ導体板上にあり、PIFAの特性にも影響を与えるため、PIFAと同時に設計する必要がある。その 結果得られた最良のVSWR特性を持つアンテナの構成図を図54に示す。VSWR特性の評価は、 所望の周波数の下端1.94GHzと上端2.17GHzにおけるVSWRの合計値が最小になるようにした。 図中で給電点は2つ存在するが、これはダイバーシティ受信を行うためのものであり、実際には片 側を給電する際にはもう一方は50[Ω]の負荷を装荷する。 図54:線状アンテナ(給電素子)の構成 図55 にVSWR特性が最良となったアンテナのVSWR特性を、図56、図57 にインピーダン ス特性を示す。また、それぞれの場合の比帯域、上限・下限におけるVSWR値を表14 に示す。 図より、PIFA給電時においては、Γ型素子を装荷することにより、1.94GHzにおいてはR成分 が 130[Ω] 付近まで上昇し、所望帯域内のVSWRの最大値が 3付近となったが、中心周波数は 2.06GHz付近に集中していることが分かる。また、Γ型素子給電時には良好なVSWR特性が得ら れている。 帯域 f0[GHz] BW[%] V SW RL V SW RH PIFA単体 1.88 - 2.22 GHz 2.05 16.6% 1.47 1.68 PIFA+Γ型素子(PIFA給電) 2.01 - 2.16 GHz 2.085 7.2% 2.98 2.03 PIFA+Γ型素子(Γ型素子給電) 1.94 - 2.22 GHz 2.08 13.5% 1.98 1.59 表14: PIFA・給電素子実装時の比帯域・MF図55: PIFAと給電素子実装時のVSWR特性
5.4
寄生素子の設計
5.4.1 アンテナ構成 寄生素子に求められる効果としては、筐体を閉じた時(CLOSE時)に利得を向上させることであ るが、同時にVSWR≤2を満たしている必要がある。また、設置スペースの関係から、高さ10mm 以内であり、簡単な構成とするため、Γ型素子を用いることとした。図58に寄生素子のアンテナ 構成を示す。寄生素子は高さ10mmとし、横幅をA[mm]、折り返し長さをB[mm]として解析を 行った。 図58:寄生素子の構成 5.4.2 横幅Aによる変化 折り返し長さB=5[mm]に固定して横幅Aを変化させた時のリターンロス特性を図59に示す。 リターンロスは-9.54dBの時にVSWR=2とほぼ等しい。また、所望周波数の中心周波数2.06GHz におけるCLOSE時のXZ平面のEφ 成分の絶対利得を図60に、YZ平面のEθ 成分の絶対利得 を図61に示す。図59より、横幅Aが長いほどリターンロスが小さくなることが分かる。逆に、 図60、図61により、Aが短いほど天頂方向への利得が大きく、地面方向への利得が小さくなり、 YZ平面における天頂方向最大利得の地面方向最大利得に対する相対利得はA=18mmの時に最大 7.4dB(5.5倍)となった。 5.4.3 折り返し長さBによる変化 横幅A=20[mm]に固定して折り返し長さBを変化させた時のリターンロス特性を図62に示す。 また、2.06GHzにおけるCLOSE時のXZ平面のEφ 成分の絶対利得を図63に、YZ平面のEθ 成 分の絶対利得を図64に示す。図62より、折り返し長さBが長いほどリターンロスが小さくなる ことが分かる。また逆に、図63、図64により、Bが短いほど相対利得は大きくなり、B=4mmの 時に最大6.5dB(4.5倍)となった。図59:横幅Aによるリターンロス特性
図62:折り返し長さBによるリターンロス特性
図63:折り返し長さBによる絶対利得(XZ平面,Eφ)
5.5
導体板の距離による特性の変化
図65に示すような、筐体を折り畳んだ時の導体板間の距離sを変化させた時のVSWR特性を図 66に示す。また、2.06GHzにおけるCLOSE時のXZ平面のEφ 成分の絶対利得を図67に、YZ 平面のEθ 成分の絶対利得を図68に示す。図より、導体板間距離sを変化させても中心周波数に は影響がないが、MFが小さくなっていることが分かる。また、利得についても、絶対利得は変化 しているが、相対利得は変化しないことが分かる。これにより、sの値によりVSWR特性のみを 変化させることができることが分かる。sの値が大きいほどVSWR特性は良くなるが、実際の携 帯電話の大きさを考慮して、s=15[mm]を用いることとする。 図65:アンテナ構成図67:導体板間距離sによる絶対利得(XZ平面,Eφ
5.6
最良となったアンテナ
5.6.1 アンテナ構成 図69に、利得とVSWRのバランスが最良となったアンテナの構成を示す。給電素子は38[mm] の Γ型線状素子と縦10[mm]× 横26[mm],高さ6[mm]のPIFAとし、寄生素子は35[mm]のΓ 型線状素子とした。また、OPEN時には PIFAとΓ型給電素子による選択ダイバーシティ受信、 CLOSE時にはΓ型の給電素子と寄生素子による天頂方向への利得向上を図っている。5.6.2 入力特性
このアンテナのΓ型素子給電時のOPEN時、CLOSE時とPIFA給電時のVSWR特性を図70
に、インピーダンス特性を図71、図72に示す。また、それぞれの場合の比帯域・MFを表15に 示す。 図70: VSWR特性 帯域 f0[GHz] BW[%] V SW RL V SW RH OPEN時 1.95 - 2.22 GHz 2.085 12.9% 2.06 1.62 CLOSE時 1.99 - 2.17 GHz 2.08 8.7% 2.41 1.93 PIFA 2.00 - 2.16 GHz 2.08 7.7% 2.91 2.05 表15:比帯域・MF 図71:インピーダンス特性(R) 図72:インピーダンス特性(X) 図72により、筐体を閉じることにより、1.94GHzにおいて共振が起こっているが、R成分が 1.9GHz付近で大きくなってしまうためにVSWRは2以上となってしまったが、受信アンテナと しての利用においてはVSWR≤3を満たしており、十分であると考えられる。
5.6.3 電流分布 図73に1.94GHz,2.06GHz,2.17GHzにおける各素子端部での電流値[mA]を示す。また、各素 子端部に図74のように番号を付け、給電点における電流値を1として正規化したときの電流値を 図75に示す。 図73:各素子端部における電流値 図74:ノード番号 図75:各素子端部における正規化電流 図75により、1.94GHzの時に寄生素子側の電流が強くなっていることが分かる。すなわち、図 72において1.94GHzにおいて共振が起こっていることが電流分布からも検証できる。
5.6.4 放射パターン
図76、図77、図78にそれぞれのアンテナのPIFA給電時,OPEN時,CLOSE時におけるXZ平
面、YZ平面の放射パターンを示す。また、表16に筐体OPEN時及びCLOSE時の上部への放射
の最大利得と下部への放射の最大利得及びその相対利得を示す。ここでの上部とは30度から150
度の時とし、下部とは210度から330度の時とする。
図76:放射パターン(PIFA給電時)
OPEN時 CLOSE時
上部最大利得 下部最大利得 相対利得 上部最大利得 下部最大利得 相対利得
[dBi] [dBi] [dB] [dBi] [dBi] [dB]
XZ(1.94GHz) 1.56(30度) 1.82(330度) -0.23dB 3.65(75度) -4.28(260度) 7.93dB XZ(2.06GHz) 2.48(30度) 2.75(330度) -0.27dB 2.79(65度) -3.43(330度) 6.22dB XZ(2.17GHz) 2.50(30度) 2.77(330度) -0.27dB 2.48(65度) -1.11(330度) 3.59dB YZ(1.94GHz) -0.43(130度) 1.68(225度) -2.11dB 3.88(105度) -4.23(280度) 8.11dB YZ(2.06GHz) -0.21(90度) 1.22(225度) -1.43dB 3.05(105度) -2.69(225度) 5.74dB YZ(2.17GHz) 0.61(100度) 0.98(230度) -0.37dB 2.71(105度) -1.13(230度) 3.84dB 表16:筐体OPEN時・CLOSE時における最大放射利得
図76 より、PIFA給電時には、340度方向のヌル点を除き、Eφ 成分、Eθ 成分ともに偏りなく
放射していることが分かる。OPEN時にはXZ平面において周方向振幅偏差は10dB以内となり、
ほぼ無指向性の放射となった。上部方向最大利得の下部方向最大利得対する相対利得は、OPEN 時には0dBであったが、CLOSE時には3.6dB∼7.9dBへと向上した。また、YZ平面においては OPEN時には最大利得は0∼1[dBi]であったものが、CLOSE時には最大利得が2.7-3.9[dBi]とな り、相対利得は3.8dB∼8.1dBへと向上した。
6
結論
本研究では、携帯電話に収まる大きさの平面構成アンテナにおいて、寄生素子を用いることによ る機能化について検討を行った。 2素子逆L型線状素子を持つアンテナにおいて、アダプティブアレー技術の1つであるパワーイ ンバージョンアルゴリズム(PIAA)を用いることにより、妨害波除去についての検討を行った。そ の結果、2GHzにおいては、所望波方向の妨害波方向に対する相対利得は、待ち受け時の4.00[dB] からPIAA使用時の18.04[dB]へと14.04[dB]の向上が見られた。また、4GHzにおいては、待ち 受け時の相対利得-11.35[dB]から9.21[dB]へと20.56[dB]の向上が見られた。また、このアルゴ リズムに用いられる増幅器の利得・ループ利得についての考察を行い、それらを適切に選ぶことで 効率的に妨害波除去を行えることを明らかにした。また、干渉波到来方向についても考察を行い、 所望波と干渉波の角度差が75度以上の時に相対利得が大きくなることがわかった。 さらに外側と内側にΓ型の線状素子を持つ平面構成アンテナにおいて、給電位置を切り替える ことにより、低域側と高域側の帯域を合成し、広帯域な特性での利用について解析を行った。そ の結果、Antenna1とAntenna2の帯域を合成することにより、1.72-3.62GHzにおいてVSWR≤2 となり、71.2%の広帯域な特性が得られた。解析によって得られた4つのVSWRの極小点につい て、それぞれの動作原理についての解析を行った。Antenna1の1.9GHz付近では外側のΓ型給電 素子の共振により、2.4GHz付近では内側の寄生素子の影響によりVSWRが極小となった。また、 Antenna2の2.7GHz付近では外側の寄生素子の共振により、3.5GHz付近では内側のΓ型給電素子 の共振によりVSWRが極小になることが分かり、VSWR特性・電流分布の両方からこのアンテナ の動作原理を明らかにした。また、帯域内でほぼ一様な放射パターンとなり、有用であることが分 かった。 また、折り畳み可能な携帯端末において、PIFAとΓ型の給電素子、寄生素子を用いて、筐体を閉 じている時に、寄生素子との相互結合を用いることにより、地面方向への放射を抑制し、天頂方向 への利得の向上を図った。その結果、VSWR特性については、筐体OPEN時、CLOSE時、PIFA給電時の全ての場合において、受信アンテナとしてはVSWR≤3、送信アンテナとしてはVSWR≤2 を満たした。また、利得においては、PIFA給電時には、垂直偏波、水平偏波共にほぼ等しい利得 の放射が得られ、通話者の姿勢によらない受信が可能となった。また、Γ型素子給電時において、 筐体OPEN時には、XZ平面においては周方向振幅偏差が10dB以内のほぼ無指向性のパターン となった。また、筐体CLOSE時には上部最大利得の下部最大利得に対する相対利得は3.6dB∼ 7.9dBに向上し、筐体上部への強い放射が得られた。
謝辞
本研究を行うにあたり、丁寧なご指導、貴重な助言を賜りました筑波大学システム情報工学研究 科の平沢一紘教授に深く感謝し、心より御礼申し上げます。また、研究における諸問題について適 切なアドバイスを頂きました、システム情報工学研究科の渡辺貴裕君に感謝致します。最後に、共 に研究を進めてきました、マイクロ波制御研究室の皆様に感謝の意を表します。
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