室町から近世にかけて、動植物があたかも人間のように思考し所作をするという設定の﹁異類物﹂と呼ばれる物語草子 注1 類が多く制作されている。さらにその中には動植物が歌合を催すという﹁︵擬︶歌合物﹂と称される一群が存在する。黒 注2 川文庫本﹁こうろき物語﹂︵通称﹁こうろぎ草子﹂︶はそれに属し、﹁増訂室町時代物語類現存本簡明目録﹄に書名が記さ れ、室町物語に分類されている。本書は﹁室町時代物語大成﹂第五巻に収載される、内閣文庫本の解説中に、語句の異同 や歌の順序が異なる伝本として紹介があり、また部分的にその意味不明個所の判読の参考として使用されるものである。 この物語の伝本については、﹃増訂室町時代物語類現存本簡明目録﹂では内閣文庫本と本書、実践女子大本の二本が記 注3 載されるのみであるが、﹃国耆総目録﹂によれば﹁こうろぎ草子﹂の項に前記の二本が、﹁こほろぎ物語︵三十六歌仙こほ 注4 ろぎ物語︶﹂の項に東大史料編纂所本、さらに中野幸一氏所蔵本が存在するので、四つの伝本の存在が確認できる。 室町物語とされている作品には、近世になってから流布した、或いは制作されたと思しき作品が多く存在するのは既に 指摘されるところであるが、特に﹁こうろぎ草子﹂を含めて、異類の﹁︵擬︶歌合物﹂にはそのような作品が多く認めら
調査報告七十
黒川文庫蔵﹁こうろき物語﹄解題・翻
刻
渡邊亜
紀
− 1 2 7 −れるようである。例えば本書と影響関係の認められる﹁四生の歌合﹄のうちの﹁虫の歌合﹂︵寛永頃古活字版他︶や、﹁烏 歌合﹂︵大阪青山短期大学蔵写本︶、﹁魚虫歌合﹂︵宝暦Ⅱ年刊︶などの作品があげられる。これらの作品には、動物達の歌 合をじかに見聞きした隠者らしき人物の配置、という共通の設定がみられるという特徴がある。これらのうち﹁虫の歌合﹄ を除いた諸作品にはいずれも伝本が少ないが、﹁こうろぎ草子﹂には筆写本が四本伝えられる。このような点から﹁こう ろぎ草子﹂は、異類の﹁︵擬︶歌合物﹂の成立事情を考える上での好材料であるといえる。 次に伝本間の相違を簡略的に見てゆきたい。この物語の梗概は、﹁秋の夕暮れ方ある隠者が耳をすましていると、下葉 の陰から虫たちの物語りする声が聞こえ、始めにその中のこうろぎが身のあわれを述懐し、ひきがえるが歌合を促し、そ れに感じた虫たちが歌を詠み合い、最後にかえるといもりの歌争いで幕を閉じる﹂というものである。歌にはそれぞれの 虫の名が読み込まれる。諸伝本における話は全く同一と言えるものであるが、伝本間において、少なからず語句の異同、 および歌の順序が所々異なっている部分が見られる。歌数は三十五首或いは三十四首と一定していない。そこで伝本間で の詠歌の順序と題詠の表記、および歌数を示すと以下のようになる。 黒川文庫本︵弘︶ 3鈴虫 2機織虫 1こうろき 5玉虫 4 蠕 崎# ︵*1︶ 内閣文庫本︵弱︶ 2はたおり 7かけろふ 3す、むし 1こうろ、き 8玉むし 中野本︵弱︶ 5玉むし 3 心へ 或祠 虫 4かげろう 2はた織虫 11戸で句ノブつ琴ご 東大史料編墓所本︵弘︶ 5玉むし 4かげろふ 3鈴むし 2はた織虫 1こほろぎ − 1 2 8 −
七 十 黒 川 文 庫 蔵 『 こ う ろ き 物 語 」 坦織恥虫 22 土と↓ 寸一1 虫 あり 劃嶬 別蛾 ノ、,I﹄ 岨蜘蛛 肥蝿蠅 l茅蝸 70ひぐ↑︲つし M苓蚤尋虫 16 松勇 にtl − 跨 、 ⋮ B蝿 吃蜘 11 10 9 蝶耳 44歩物 8峰 みの 6蓑虫 7 当 祷 癸 鐵
蛍
;
虫 、す 羽いもむし 珈器のhソ 別けら 岨ノ\も 鴫かまきり Ⅳ日暮 M松むし 略#、つはむし 過小かねむし 喝はひ 6 蚊 皿木こりむし 5ほたる 4きり 11 蝶 2条︲ 勺Iユ.巾叩八 9白勾のむし<
“
一 半 9 躯いもむし 別あhノ 釦けら 岨イ、jb Wかまきり 肥日ぐらし 賜松むし 略ノ、つわ虫 Mこがれ虫 過はい 哩蚊 uほたる 9 蝶 7はち 1 Ⅱき、リ 8木こり虫 6みのむし〈
す な し なし 副芋虫 岨蟻 肥けら Ⅳ蜘蛛 略かまきり 晦日ぐらし Mくつわ虫 過こがれ虫 吃はへ Ⅱほたる 皿きり脆く、す ワ J は ち 6蓑虫 ハリテヒエ毎 ・写 8木こり虫lll
− 1 2 9 −か毎し なし 妬蜷 24 23 み 蝿│寺 ワワ = j I 魂 戸、、な︸﹂︵ママ︶ 2蚤︵*2︶ 弘蝉 認やすて 32 ︲且﹄屯IF 瓠顎蓉 釦雅虫 羽先芳ゐ魁虫 銘鍵砿 0こ出〃槌ご 蜥蜴
蝿
虫 ︵*l︶黒川本のみ﹁蜻蛉︵かげろう︶﹂に﹁とんぼ﹂と付す。歌中では他の諸伝本が﹁蜻蛉︵かげろう︶﹂のところ を﹁とんぼう﹂と読む。 ︵*2︶黒川本は﹁蚤﹂に﹁いなこ﹂と付す。歌中では他の諸伝本同様﹁のみ﹂が読み込まれるので誤写と考えられ る 0 圭鋲−︶ お毛むし 配けら 弱せみ 弘やすで 認かへる 詑いもり 皿飛むし 鋤百足 詔しらみ 羽のみ ”蛇 妬とかけ 型み魁ず〈
なし 型毛むし 弱せみ 34 や 己4− 9 で 詔かいる 鉈いもり 訓飛虫 鋤たるら虫 羽むかで 躯しらみ ”のみ 妬へび あとかげ 認み、ず 釦げぢ 羽毛むし 鈍せみ 認やすで虫 鉈かへる 副ゐもり 鋤飛むし 羽たから虫 詔むかで 訂しらみ 妬のみ 妬へび 型とかげ 亜み、ず〈
1 3 0-七 十 黒 川 文 庫 蔵 「 こ うろき物語」 この一二目︵ 収められる。 中野幸一氏は御所蔵本と内閣文庫本とを比較され、御所蔵本の外題に﹁三十六嵜仙﹂、および本文末に﹁此三十六首の 詠寄はむかしの寄仙をまねぴ﹂とあるところから、御所蔵本にはない﹁けらノー﹂と内閣文庫本にはない﹁たるら虫﹂を 注6 双方に加えた、全三十六首を﹁こうろぎ草子﹂のもとの形として想定されている。その御説はこれらの四つの伝本の比較 から明らかなように、信渥性の高いものであるといえるであろう。 内閣文庫本の﹁けらj、﹂は、史料編纂所本では﹁げぢノ、﹂と表記される。以下にそれぞれの本文を示す。 ぞれの本文を示す。 から明らかなように、 双方に加えた、全三︲ 内閣文庫本の﹁け律 内閣本﹁けらj、’ 史料編蟇所本﹁げぢ11﹂ 黒川本﹁たるゞ虫﹂ 中野本﹁たるら虫﹂ かなしやと音をこそなかめたるらむしこ魁ろのうちを思ひしれかし また中野本﹁たるら虫﹂は、黒川文庫本には﹁たる、虫﹂、史料編墓所本には﹁たから虫﹂と表記される。以下にそれ かなしやと音をこそなかねたる、虫心のうちそ思ひしれかし の二首のうちではどちらが適当なものであるか判然としない。ただし、﹁虫の歌合﹂の二番には﹁げぢノー﹂の歌が よしなくも人のげぢをぱ受けずして世ににくまるる身をくゆるかな よしなくも人のけらを請もせす世ににくまる、身をくゆるかな 1 3 1
-かなしやとねをこそなかめたからむし心のうちをおもひしれかし 三つの虫の名はどれも他に使用例が見つからない。中野本と史料編纂所本の歌意は﹁悲しいと声を上げて泣︵鴫︶きた い︵けれど泣︵鳴︶けない︶、このたるら︵たから︶虫の心のうちを知ってほしい﹂となる。一方、黒川本の﹁たる、虫﹂ のそれは、例えば﹁古文真宝前集抄﹂︵寛永九年刊︶に﹁満園ニハ秋ノ露タレテアルガ、涕泣シタャウナゾ﹂などとある ように、﹁垂る﹂の連体形﹁垂るる﹂の掛詞として機能することにより、全体として﹁悲しいと声には出しては泣︵鳴︶ かないが、涙にくれる心のうちを思い知ってほしい﹂という歌意が生まれる。このような黒川本と比較するとき、さきの 二首﹁たるらむし﹂﹁たからむし﹂という命名では、歌中に使用されるべき蓋然性が薄いように思われる。何れにしても、 諸伝本には転写による誤写、脱文が少なくないようである。 次に冒頭でも触れた﹁こうろぎ草子﹂と﹁虫の歌合﹂をはじめとする他の異類物との関係について見ていくことにした まず﹁虫の歌合﹄と﹁こうろぎ草子﹂を比較してみたい。﹃虫の歌合﹂の梗概は、﹁秋の夜長隠者らしき人物が眠れぬま まに枕をそばだてて庭の虫の有様を物語の種に書き付けることにし、虫の中からまずこうろぎが歩み出て詠歌の提案があ り、他の虫たちの賛同を得、次にひきがえるの十五番歌合の提案があり、他の虫の推薦により、くちなわ︵蛇︶を差し置 きひきがえるが判者に収まり歌合が催され、最後は判者ひきがえる対くちなわの歌争いがあり、ひきがえるはくちなわを 恐れる余り早々にその場から退散する﹂というものである。双方の類似点は、動物の異類﹁︵擬︶歌合物﹂の特徴でもあ る隠者らしき人物の設定があること、﹁こうろぎ﹂が詠歌の提案をすること、﹁ひきがえる﹂が歌合のきっかけをつくるこ と、﹁ひきがえる﹂が判者を務めること、最後に歌争いの設定があること、などである。また、それらには所々同文的な い ○ 史料編慕所本﹁たから虫﹂ − 1 q ワ ー 上 J 些
七 十 黒 川 文 川 f 蔵 「 こ うろき物語』 きるにとどまるc 合・別本﹂の序文に、 歌 い むかしより、玉虫に心をかけしむしとも、奇を作りて心をのへ玉へ・此こと世にもてはやすほとに、ちかき比、ひか しやまに侍ける翁、是をえらひ、池にすむかはつを判者とさため、左右をわかち、たかひに勝負を批判し、後には、 注7 身をひきかへるなと、卑下の訶を入、世に名をたかふす。 などとある。当時は一般に﹁虫の歌合﹂の作者は木下長哺子とされていたようであり、﹁ひかしやまに侍りける翁﹂は木 18 下長生輔子を指し、﹁勝負﹂とは﹁虫の歌合﹄を指す、との指摘がある。また、﹁四生の歌合﹂における﹁虫の歌合﹂以下 の三作品二鳥の歌合﹂﹁魚の歌合﹂﹁獣の歌合﹄︶の中の﹃鳥の歌合﹂が﹃虫の歌合﹂を前提にした序文を、﹁獣の歌合﹂ 注9 がその賊文を有している、という指摘もある。 このように動物の異類﹁︵擬︶歌合物﹂の中には明確に﹃虫の歌合﹂を前提に言かれたという本文を有するものが存在 している。﹁こうろぎ草子﹂にはそれがなく、﹁虫の歌合﹂に限りなく近い構成を有するものである、ということを指摘で あるが、﹁こうろぎ草子﹂にはそういった展開は見られないという点も相違するところである。 い作品であるという見方もできる。また、﹁虫の歌合﹂には﹁玉虫の草子﹂を前提にした恋歌における歌合という設定が てある。﹁こうろぎ草子﹂がそういった部分を欠くということは、他の動物異類﹁︵擬︶歌合物﹂に比べて説話性には乏し み手である動物の特性や和歌の背景を説き明かし、戯作的な読み物としての完成度を一層高めるという手法が、常套とし ﹃虫の歌合﹂およびその他の動物の異類﹁︵擬︶歌合物﹂においては、判者が判訶をよむという設定において、その歌の詠 箇所が認められる。次に、相違点としてまず第一に挙げるべきことは﹁こうろぎ草子﹂は判訶を持たないという点である。 ﹃虫の歌合﹂が動物の異類﹁︵擬︶歌合物﹂の先雛となったことは以下のように認められる。例えば内閣文庫本﹁烏歌 − 1 3 3 −
最後に﹁異類物﹂の動物の名前の付け方に触れておきたい。動物の名前の付け方には大きく分けて二通りあるようで、 動物の名前や特性をもじるものと、動物に人間の官職名を付すものとがある。﹁虫の歌合﹂は前者、﹁こうろぎ草子﹂は後 者であり、例えば﹁ふくろふ﹂﹃玉虫の草子﹄等に類例がみられる。また﹁こうろぎ草子﹂では歌合の判者名を、﹁やふの *﹁ら﹂或いは﹁く﹂か 内中納言藤原蟇朝臣のふつう公﹂︵黒川文庫本︶、﹁やうこうし中納言在原のひきかへる朝臣信行卿﹂︵内閣文庫本︶、 ﹁やぶの小路中納言藤原のひきがいるの朝臣のぶつら卿﹂︵中野本︶、﹁薪小路中納言藤原の引帰る朝臣のぶつぐ卿﹂︵史料 編墓所本︶とする。これが実在の人物に擬されているのかは定かではないが、こうした人間の名がそのまま異類の名前で 使われることは稀なことと思われる。 注 1 これらのことから、動物異類﹁︵擬︶歌合物﹂の作者間の問題を含めた成立事情を考えるうえで、﹁こうろぎ草子﹂は有 効な一助となるものであると考えられる。 以上、動物の異類の﹁︵擬︶歌合物﹂の中には、動物たちの歌合を聞く隠者の設定が共通して見られるものがあるとい うこと、諸伝本の比較から﹁こうろぎ草子﹂の原態は表のような三十六首であったであろうこと、﹁こうろぎ草子﹂と ﹁虫の歌合﹂の類似点と相違点、動物の異類物における異類の名前の付け方の中での﹁こうろぎ草子﹂の独自性、などに 注 ついてを言及した。 ﹁虫の歌合﹂の類似 市古貞次﹃中世小説の研究﹄︵昭和三十年、東京大学出版会︶の分類による。動物物として﹁十二類絵巻﹂﹁玉虫の草子﹂﹁鳥獣戯 歌合物語﹂﹁四生の歌合﹂︵虫の歌合・烏の歌合・魚の歌合・獣の歌合︶﹁こほろぎの草子︵こうろき物語こ﹁烏歌合・別本﹂が、 − 1 3 4 −
七 十 黒 川 文 庫 蔵 「 こ う ろ き 物 語 」 注9拙槁弓獣の歌合﹄﹂解題︵徳田和夫編﹁お伽草子事典﹂平成十四年、東京堂出版︶ 道具・器物物として﹁調度歌合﹂﹁御茶物語﹂などがある。 注2松本隆信﹁増訂室町時代物語類現存本簡明目録﹂含御伽草子の世界﹂昭和五十七年、三省堂︶ 注3旧安田文庫本の記載があるが所在不明。 注4中野幸一﹁資料紹介﹃虫の庭訓﹂と﹁こほろぎ物語﹂﹂二学術研究︵早稲田大学教育学部皀銘、昭和五十四年十二月︶ 注5石川透﹁国立公文書館内閣文庫蔵﹃烏歌合﹂解題・翻刻﹂︵﹁三田国文﹂喝、平成二年六月︶では﹁内容的には室町時代物語の色 彩を濃く有しているのである。実は室町時代物語とされている作品には、このように近世になってからの作品が多く存在してい るようであるが、その境界を明確にすることは不可能に近い。﹂とある。 ここに、 汪8 圧7注5に同じ。 旺6
料紙楮紙。
形態袋綴。仮綴︵四つ穴︶の跡を残す。 表紙原装本文共紙。︵二十一・五×十六・一糎︶﹁こうろき物語﹂︵内題︶︹近世中期頃写︺
注5に同じハ 注4に同じ 黒川文庫本の耆誌を記す︹ 番号醗黒狐 1 3 5-翻刻に際して、以下の方針をとった。 見返し 外題 内題 本文 丁数 奥書 印記 備考 1本文は底本に忠実であることに努めたが、漢字・異体字は現行の書体に改めた。 2底本の見せ消ちや訂正文字はそのまま残しルビで示した。 3本文上の意味不明個所にはママを記した。 4底本の丁の末尾を﹂で示した。 ②後装表紙桑 文とは別筆。 前表紙左下部に単郭長方朱印﹁黒川真道蔵耆﹂﹁黒川真前蔵書﹂。一丁オ内題下部に同印﹁黒川真道蔵書﹂。 ①前表紙左下部に﹁三家﹂、後ろ表紙右下部に﹁此主/三家﹂と墨書があるが不明。何れも本文共に同筆。 ②後装表紙︵黄表紙菱形文様型押二十三・五×十六・二糎︶を付し、左肩題菱に﹁こうろき物語﹂と呈耆。本 全十一丁。 半葉七行十八字内外。 表紙中央上部に ﹁こうろき物語﹂ 全十 なし。 なし。 ④後ろに和歌集︵版本の合綴本︶を付す。零本︵丁付三十七∼四十五︶。版心題なし。書名不明。 ﹁こうろき物語﹂と打付で呈耆。 漢字仮名交じり、所々に読み仮名を付す。 1 3 6
-七 十 黒 川 文 庫 蔵 『 こ う ろ き物語」 あやしの庵の草枕しはノー芝にかりねして 浮世の中をつくノ、と思ひつ国けて日をおくる おりしも秋の末つかた庭の面かけ何とやら哀催 し木葉色つき風に乱れてそこはかとなく あわれもいと、夕暮にひとりさひしき月 かけも心をすます折ふしにかたはらなる 萩の下葉の陰よりも虫の数蚤、あつまりて物語 する声聞はいとも哀におかしけにて其内 よりこうろきと云出て申けるはいかにかたノー 聞給へ誠に我j\か身之上程浅間舗はかなき 事はよも侍らし春過ぬれは夏草の茂りてみ とりも深き五月雨水無月比は朝なゆふなに こうろき物語 こうろき物語 ︹翻刻] 家 '一一 オ ﹂前表紙 1 3 7
-置露の玉を乱せるかことにて心浮立また は千草の花の色香に染或はいさきよき水 の流に我身のかけを移し髪かしこを飛遊ひ 空にうかれて世のうき事も思はれすけに 一時の楽しひに千とせを延る心地していと 面白く思ふ内文月も過て葉月のそらに 移りて身はさやかに澄渡り吹くる風も身 し﹂ にしみていつとなく物かなしく夜も長月の 成ぬれは唯さへ心を催すにましてや声もか れはて、頼草葉に露もやとらすいつしか初 霜に結ひかへすねくらあらはに成ぬるに木の 枝に小鳥の声を聞時はきゆる思ひに心をい たましめ或は人近き垣ねに取付またはゑん の下に身をかくさんとすれはこさかしき鼠に さかし出されて浮めをみん事もくちおしく あなたこなたとさまよへはいたつら成子とも 達にとらへられかなしきかな糸につなかれ 大地を引廻されはじさらしあまつさへ竹の L一一 二 ウ 1−− ニ オ L一一 ウ − 1 3 8 −
七 十 黒 川 文 庫 蔵 「 こ うろき物語」 一マー噸一 とくいにさし廻されたちまち気をうしない すでにむなしくならんとすれは水をのませ いたはるよふにもてなし漸蕩、心を取直すと ふみ おもへぱ浅間しや文殺されついにはせ、らき のもくつと成浮めにあわんよりしょせん火の中 へも飛入はやと思ふにも身をいましめて云か いなくも涙にみをもぬれたれてあら恨めし き先の世のむくひかとこそかなしけれなけき ても猶餘りありあすの命も白露のとても 消なむ浮身そかしせめて心に思ふことの 葉を語り慰給はんとったなき言の葉を 三十一文字に結ひ置なき跡のかたみとも なし給へかしと細簡、と語けれはあまたの虫共 はた寒き衣の袖を顔におしあて、涙を流 ︵ママ︶ し扱鼬、日比思ひけるはこうろき殿はは色も なく背もか蚤み生れ付やさしからすまし て花の元月影にも心をよせ給はす菱の壁 に取付或は何かしかもとに身をかこち内の ﹂四オ L一一 二 ウ =ご オ − 1 3 9 −
哀もわきまへす夕暮より夜半の比迄なき 給ふ斗のみと間侍りしに今宵の物語こそ やかて涙にくれにける其中よりひきかへる 出て申けるは何様今宵は月もさやかに照 増り面白く恩へとも夜も早ふけぬらんはや とくノーと云けれは各ノー草の葉の上に 座をしめて思ひj、に詠しける心のうち 何れも催し侍り志の程も有難しとて こそやさしけれ 哀なり夕へはかなきとんほうのきゆる命はつゆのひと、き 片糸をよるノー野辺にくりかへしはた織かけてなきあかすなり 鈴虫 君にかくふり捨られし鈴虫の我身のはてやいか、なるへき 髪の角かしこの壁にすかりつき身は数ならて君はこうろき 玉虫 蜻蛉 とんぼ 機織虫 こ︾つる、き ﹂五オ ﹂四ウ −140−
七 十 黒 川 文 庫 蔵 『 こ う ろ き 物 語 」 花の色に心をよせてまよふてふあわれと思え草の葉のつゆ きりノーす 蚕 けふよりは深き思ひをきりj、すなけと哀をとふ人もなし 玉たれの錦の床の上まてもはいあかるこそくわほう成けり 夕くれの軒端のけふり立まよひ忍ひかねたる身こそかなしき 草の露水の淡とも消やらて絶ぬ思ひにもゆるほたる火 棹さしていつか渡らん初瀬川はちすのふれにのりを求めて 人しれぬ深山の奥に住なれて朝なゆふなにつま木こり虫 恋わひて涙の雨にぬれにけり我身のむしは聞もかいなし 色深き千草の花のかすノーにおもひみたる、露の玉虫
蛍
!
きこり 樵虫 こかね 金亀虫 蝿ヌ マ マ 蝶§ 蜂§ みの 簑虫 蚊力 ﹂五ウ L− −一L一 ノ、 オ ﹂一ハ古/ − 1 4 1 −草の葉をかまきりたて、鳴野へに露の浮めの置所なし 夜もすから恋しき人を待虫の音を鳴あふる野辺の露草 ひくらし 茅蝸 何となくけふも日くらしあすはまたいかなるかたに身をや隠さん 物思ふ心のうちはくつは虫人の情をかけぬ身なれは 山吹の色をあらそふこかね虫草木もなひく光成けり 我すみし芋のはたけはあれにけりことしの夏は日てりのみして 山深きくち木の中にありなから峯のあらしを余所に聞らん ちり塚に身はうつもれて過けらしいつくを宿と定さりけり あやしくもか、るはかなき住居せは飛くる風のたよりたにうき くつは 轡虫
蝿
│
#
蟻# 姑: 松虫 土季つ カキ季きり 蟷螂 い,も 芋虫 蜘蛛 くも |しし寺ノ L一r言 ﹂セオ − 1 4 2 −七 十 黒 川 文 庫 蔵 『 こ う ろ き 物 語 」 羽もなく行衛もしらて飛虫の思はいふちに身をなけにけり いもり 守宮 苔ふかき水のそこにてもろ友にとしふる里のいもりおそする 思ふ事かきくとく間に長月の夜はほのjくIとしらみこそすれ 浅ましや頭も見へす尾もしれす土の中にて音をのみそ鴫 とかき 蜥蜴虫 世をすて、柴の陰に引こもりいかてや人のとくみ成けり とにかくに世をはそむかて渡るへしあまたの足も頼れぬ身を かなしやと音をこそなかねたる髄虫心のうちそ思ひしれかし ひとりのみ思ふ心のかひもなく飛弗乍すはかりものそかなしき の いたつらに身をくちなはと成はて、結ふゑにしをたよりたになし L, な こ 蚤ラ マ −.し 軋良
蛙
§
飛虫 とび たる箆虫 娯舩 むかて 蛇 3 ﹂八オ ﹂八ウ ﹂九オ 1 4 3-はかなしや身は空蝉のから衣猶恨めしき秋かせそふく かくと申ていわく此三十六首の詠嵜昔の寄仙 をまなひしゆうきのはんしやはやふの内中納言 本﹁く﹂或いは﹁ら﹂か
藤原蟇朝臣のふつう公也座上につら成いかに
方ノー宵よりこうろき殿の物語に夜も更ぬれは秋の 夜長と申せとも早横雲もはれんとす此所に 長座しむやくのことに東雲のからすの声もおそろ しくとくノー住家に帰り給へと云守宮此由聞て 蛙か奇のしやう奇をやそねみけんやかてかくよみ 蛙大きにはら立て ける 古里に立帰るとはしりなから土かきわけてとふ人もなし 雨ふれはか、や軒端に集まりて心やすてと遊ひぬるかな 立もせす下にも置すさわかしき かへるj、といふそおかしき いまはしや墨の衣に身をそめて 蝉驚 やすて ﹂十オ ﹂九ウ − 1 4 4 −七 十 黒川文庫蔵『こうろき物語」 何れもかんしつ樋またこうろき出て互ひに せんなきあらそひ成とてしつめつ、各j、いとまこひ してやふの内へそ帰りけるはいとおかしき物かたり なり なとか色には深き守宮と 此主 三家 ﹂後表紙 ﹂十一ウ ﹂十一オ ﹂十ウ − 1 4 5 −
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