杉野 幹人 提出
博士学位申請論文審査報告書
論 文 題 目
デザインドリブン・イノベーションにおけるデザイン方法論の研究
Ⅰ 本論文の主旨と構成
1.本論文の主旨
本論文の目的は、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザイン方法論のモデルを提示する ことある。
企業においては、組織内外から選抜したチームや個人に、世の中で初めての新商品や新サービスを 創ること、換言すれば、革新的なイノベーションの生起を任せることがある。そのようなチームや個 人は、組織の経営陣の期待を受けて取り組むこととなる。しかし、そのような組織内外から選抜され たチームや個人でも、実際には、革新的なイノベーションとなる新商品や新サービスといった人工物 を創り出せないことがある。
革新的なイノベーションの源泉としては、イノベーション研究における先行研究では、新しい技術 が指摘されているが、必ずしも組織が新しい技術を開発できているとは限らない。また、新しい技術 だけに革新的なイノベーションの生起を頼るのは企業にとっても、そのような選抜されたチームや個 人にとってもリスクが大きい。
イノベーション研究において、そのように新しい技術に頼るのではなく、新商品や新サービスなど の新しい人工物を企画する担当者(以下、デザイナー)がデザインによって主体的にイノベーション の源泉を創り出す現象が注目されている。このようにデザインによって生起される革新的なイノベー ションはデザインドリブン・イノベーションと呼ばれ、複数の先行研究により知見の蓄積が始まって いる。
しかし、先行研究では、デザインドリブン・イノベーションはデザインによってイノベーションの 源泉が創り出されて生起することは示されているが、デザインドリブン・イノベーションにおけるデ ザイン方法論のモデルが提示できていないという課題がある。ここでデザインドリブン・イノベーシ ョンにおけるデザイン方法論のモデルとは、デザインドリブン・イノベーションを目的としたときの デザインプロセスを踏まえて、そのデザインから革新的なイノベーションまでの一連の目的と手段の 因果連鎖を示すものと本研究では定義する。
イノベーションにはデザインだけではなく販売やプロモーション等の様々な経営活動が必要であ るとされる。そして、それらの相互の関係性も明らかではない部分があるために不確実性が内在して おり、イノベーションのための必要十分な方法は明らかではなく、試行錯誤が必要になるとされる。
しかし、試行錯誤するにおいても、何をするかの選択肢も定めない中での闇雲な試行錯誤と、選択肢 を予め用意した中での試行錯誤では、後者の方が相対的に効率的であろう。このため、デザインドリ ブン・イノベーションという革新的なイノベーションにおけるデザイン方法論を提示することは、そ のような試行錯誤の一つの選択肢を提示できることに意義がある。また、そのようなデザインドリブ ン・イノベーションにおけるデザイン方法論のモデルを提示することができれば、今後のデザインド リブン・イノベーションの研究における議論の基盤となる。そのようにデザインドリブン・イノベー ションの研究における議論の基盤ができれば、今後の新たな研究で確認された因果関係をそのモデル に加味していくことで、デザインドリブン・イノベーションの今後の研究の発展に貢献できるという 意義がある。
このため、本論文では、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザイン方法論のモデルを提 示することを目的とした。
2.本論文の構成
本論文の構成は、次の通りである。
序章
第1節 本論文の目的 第2節 本論文の構成
第1章 イノベーションとデザインの関係性の把握 第1節 問題の所在
第2節 デザインの定義
第3節 イノベーションとデザインの関係性 第4節 小括
第2章 デザインドリブン・イノベーションにおけるデザインの役割の把握 第1節 問題の所在
第2節 イノベーション研究におけるデザインに関する研究の蓄積 第3節 イノベーション研究を類型化するための軸
第4節 デザインを扱う研究の類型化とその特徴
第5節 デザインドリブン・イノベーションにおけるデザインの役割 第6節 小括
補論 デザイン・フレキシビリティの構築例
第3章 デザインドリブン・イノベーションの方法論の課題の抽出 第1節 問題の所在
第2節 デザインドリブン・イノベーションの定義 第3節 デザインドリブン・イノベーションのプロセス 第4節 デザインドリブン・イノベーションの研究系譜 第5節 デザインドリブン・イノベーションの方法論の課題 第6節 小括
第4章 デザインドリブン・イノベーションの一つのデザインプロセスの提示 第1節 問題の所在
第2節 事例設定
第3節 事例におけるデザインドリブン・イノベーションの生起
第4節 事例におけるデザインドリブン・イノベーションのデザインプロセス 第5節 抽出されたデザインプロセスのデザイン理論的解釈
第6節 小括
第5章 デザインドリブン・イノベーションのデザイン方法論のモデルづくり 第1節 問題の所在
第2節 デザインドリブン・イノベーションの先行研究を踏まえたモデル 第3節 関連概念を加味したモデル
第4節 提示されたデザインプロセスを加味したモデル
第5節 モデルづくりの過程で確認できた論点を加味したモデル
第6節 モデル評価に対しての論点 第7節 小括
第6章 デザインドリブン・イノベーションのデザイン方法論のモデルの評価 第1節 問題の所在
第2節 モデルの評価方法
第3節 モデルの評価における調査の詳細 第4節 モデルの評価における調査結果 第5節 共分散構造分析によるモデルの評価 第6節 モデルの評価結果の含意
第7節 小括 第7章 結論
第1節 第1章から第6章までの議論のまとめ 第2節 本研究の結論
第3節 本研究の課題と展望 第3節 本研究の課題と展望
Appendix 1 数量化理論Ⅲ類とクラスター分析の結果の詳細 Appendix 2 共分散構造分析の結果の詳細
参考文献
Ⅱ 本論文の概要
本論文の各章の概要は、以下のとおりである。
第1章 イノベーションとデザインの関係性の把握
第1章では、先行研究を踏まえて、イノベーションとデザインの関係性を把握した。具体的には、
最初に経営学の先行研究におけるデザインの定義やデザイン学におけるデザインの定義を踏まえた 上で、本研究におけるデザインの概念を定義した。続いて、イノベーション研究の系譜を把握した上 で、イノベーション研究における視点を踏まえ、イノベーションとデザインの関わりを明らかにした。
第1章の結論は次のとおりである。
第一に、経営学とデザイン学の先行研究におけるデザインの定義を確認し、それらの定義における 相違点である、デザインの形態、デザインの対象、デザインの範囲の三つについての本研究における 立ち位置を明確にした上で、本研究におけるデザインの定義を示した。具体的には、本研究では、デ ザインを、「人工物を考案することであり、問題や意味やニーズといった目的を設定してそれに対し ての解決策を案出することと同義である」と定義した。
第二に、イノベーションとデザインの関係性としては、デザインはイノベーションのチーム・個人 レベルにおける生起に関わりがあることを明らかにした。換言すれば、イノベーションをデザインと いう視点から研究して解明していくことはイノベーションのチーム・個人レベルでの生起のための活 動を明らかにしていくものと捉えることができる。そして、イノベーションの研究においては、組織
レベルの研究に比べて、チーム・個人レベルの研究は少ないとされる。このため、デザインという視 点は、イノベーションのチーム・個人レベルでの生起を明らかにしていく上で意義がある視点である と考えられる。
このようにして、第1章では、先行研究を踏まえて、イノベーションとデザインの関係性を整理し、
デザインはイノベーションのチーム・個人レベルにおける生起について関わりがあることを明らかに した。
第2章 デザインドリブン・イノベーションにおけるデザインの役割の把握
第2章では、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザインの役割を把握した。具体的には、
イノベーション研究におけるデザインの研究の蓄積を踏まえて、イノベーション研究におけるデザイ ンを類型化した。そして、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザインが属する類型とその 類型におけるデザインの役割を考察することで、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザイ ンの役割を把握した。
第2章の結論は次のとおりである。
第一に、イノベーションにおけるデザインを四つに類型化し、それらにおけるデザインの役割を把 握することできた。
第二に、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザインは、その四つの類型の中で、イノベ ーションの源泉を創り出すという役割を担う「ユーザーなど周りの人々との共同により潜在している 市場ニーズを解釈する」デザインに属することを明らかにした。
このようにして、第2章では、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザインの役割とは、
ユーザーなど周りの人々との共同により潜在している市場ニーズを解釈することでイノベーション の源泉を創り出すことであることを明らかにした。
第3章 デザインドリブン・イノベーションの方法論の課題の抽出
第3章では、先行研究を踏まえてデザインドリブン・イノベーションの方法論の課題を抽出した。
具体的には、デザインドリブン・イノベーションの先行研究の系譜を確認した上で、イノベーション 研究の関連概念や先に定義したデザインの概念を踏まえて、デザインドリブン・イノベーションの方 法論における課題を抽出した。
第3章の結論は次のとおりである。
第一に、これまでのデザインドリブン・イノベーションの方法論ではその因果連鎖のモデルが明ら かではないという課題を確認することができた。結果として、モデルの評価もされていない。この課 題に対処するためには、因果の論理を整理した上で、このような因果連鎖のモデルをつくることと、
それを評価することが求められる。
第二に、これまでのデザインドリブン・イノベーションの方法論では、新しい意味を革新的なイノ ベーションの源泉として新しい技術(属性)とは独立したものとして扱い、その新しい意味を起こす 手段としてデザインに言及しているが、その新しい意味が新しい技術(属性)により創られるという 可能性もあり、また、そのことが明らかではないという課題を確認することができた。この課題に対 処するためには、このような因果のモデルをつくり、そのことを評価することが求められる。
第三に、これまでのデザインドリブン・イノベーションの方法論では、イノベーションの源泉であ る新しい意味を創り出すデザインプロセス、具体的にはその目的設定の過程が明らかではないという
課題を確認することができた。このデザインの目的設定の過程において新しい意味を解釈するプロセ スを明らかにし、それを提示することが求められる。
このようにして、第3章では、デザインドリブン・イノベーションの三つの課題を抽出したが、そ れらは全体としては、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザイン方法論のモデルが提示で きていないという課題であると捉えることができる。ここでデザインドリブン・イノベーションにお けるデザイン方法論のモデルとは、デザインドリブン・イノベーションを目的としたときのデザイン プロセスを踏まえて、そのデザインから革新的なイノベーションまでの一連の目的と手段の因果連鎖 を示すものと本研究では定義した。イノベーションの生起という目的に向けて試行錯誤するにおいて も、何をするかの手段の選択肢も定めない中での闇雲な試行錯誤と、手段選択肢を予め用意した中で の試行錯誤では、後者の方が相対的に効率的であろう。このため、革新的なイノベーションを生起す るためのデザイン方法論というデザインを起点とした一つの因果連鎖のモデルを提示することは、デ ザインについての試行錯誤における一つの選択肢を提示できることに意義がある。
第4章 デザインドリブン・イノベーションの一つのデザインプロセスの提示
第4章では、実際のデザインドリブン・イノベーションの事例を分析して、デザインドリブン・イ ノベーションにおけるデザイン方法論のモデルの構築に向けて、デザインドリブン・イノベーション における一つのデザインプロセスを提示した。具体的には、はじめに分析対象のデザインドリブン・
イノベーションの事例を設定した。続いて、その事例の分析から、一つのデザインプロセスを抽出し て提示した。最後に、その理論的な説明可能性を確認するために、デザイン理論の観点からそのデザ インプロセスを考察した。
第4章の結論は次のとおりである。
第一に、実際のデザインドリブン・イノベーションの事例の分析により、デザインドリブン・イノ ベーションにおける一つのデザインプロセスとして、「意図せざる用途への着眼」から始まる目的設 定の過程を含むデザインプロセスを抽出して提示できた。
第二に、その提示したデザインプロセスについてデザイン理論の観点から考察し、それは「意図せ ざる用途への着眼」によって「潜在機能」という新しい意味を見出す目的設定の過程を含むデザイン プロセスであることを明らかにした。デザイン理論における「潜在機能」の先行研究の知見では、潜 在機能はより多くの人々の使用場面に触れることでより多く見出されることが示されていることか ら、デザインドリブン・イノベーションにおいて周りの人々のつながりにおいて「意図せざる用途へ の着眼」することで新しい意味が見つかりやすくなる論理が説明できる可能性も明らかにした。
このようにして、第4章では、実際のデザインドリブン・イノベーションの事例を踏まえて、デザ インドリブン・イノベーションにおける一つのデザインプロセスを提示できた。
第5章 デザインドリブン・イノベーションのデザイン方法論のモデルづくり
第5章では、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザイン方法論のモデルづくりをした。
具体的には、これまでの第3章で示されたデザインドリブン・イノベーションの方法論の課題の議論、
前章の第4章で提示したデザインドリブン・イノベーションにおけるデザインプロセスの議論、この 二つを踏まえて、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザインを起点とした因果連鎖のモデ ルづくりをした。また、モデルの評価における論点も設定した。
第5章の結論は次のとおりである。
第一に、これまでの章の議論を踏まえて、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザイン方 法論として可能性のある複数のモデルをつくり、それらを提示できた。
第二に、これらモデルの評価における主要な四つの論点を提示できた。第一の論点は、「技術の新 規性」が「意味の新規性」に繋がるという因果の可能性である。これまでのデザインドリブン・イノ ベーションの先行研究ではこの可能性は示されていなかったが、イノベーション研究の関連概念を踏 まえるとこの因果の可能性は否定できない。このため、モデルの評価において明らかにすることには 意義がある。第二の論点は、「意図せざる用途への着眼の意識」から始まる目的設定の過程を含むデ ザインプロセスが最終的に「革新的なイノベーション」に繋がるという因果の可能性である。これは 第4章で確認した因果であるが、単一事例であったため、複数のサンプルによるモデルの評価におい て明らかにすることには意義がある。この因果が確認できれば、デザインドリブン・イノベーション におけるデザイン方法論として、これまでの先行研究で明かされていなかったチーム・個人レベルの 行為が一つ明らかとなる。第三の論点は、新しい意味が解釈できている場合におけるプロモーション などの「新しい意味の提示への注力」の必要性である。これまでのデザインドリブン・イノベーショ ンの先行研究では、新しい意味の解釈ができている場合に、それ単独で「意味の新規性」につながる のか、それともプロモーションなどその新しい意味の提示への注力があってはじめて意味の新規性が 創り出されるのかは明かではなかった。このため、モデルの評価において明らかにすることには意義 がある。第四の論点は、最終的にデザインドリブン・イノベーションのデザイン方法論のモデルが全 体としてその適合性を確認できるかである。これまでのデザインドリブン・イノベーションの先行研 究では、デザインドリブン・イノベーションのデザイン方法論のモデルで適合性が確認できているも のは提示されていない。適合性が確認できたモデルを提示することができれば、学術的には今後のデ ザインドリブン・イノベーションの研究において新たに発見する因果を加える因果モデルの基礎とす ることができる。また、実務的には、革新的なイノベーションを生起する上での試行錯誤の選択肢を 提示することができる。
このようにして、第5章では、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザイン方法論として 可能性のあるモデルとその評価における論点を提示できた。
第6章 デザインドリブン・イノベーションのデザイン方法論のモデルの評価
第6章では、第5章で構築したデザインドリブン・イノベーションのデザイン方法論のモデルを評価 した。具体的には、はじめに評価方法を設定した上で、実際のデザイナーに対してアンケート調査を 実施し、その調査結果を基にした共分散構造分析により前章で提示した各モデルを評価し、最後にそ の評価結果を踏まえて前章で提示された評価における論点について考察した。
第6章の結論は次のとおりである。
第一の結論は、モデルの評価と論点の考察を通じて、これまでのデザインドリブン・イノベーショ ンの先行研究では提示されていなかった全体の適合性が確認されたデザイン方法論のモデルを提示 できた。これにより、学術面では、今後のデザインドリブン・イノベーションの研究の基盤となる因 果連鎖のモデルを提示できた。また、実務面では、技術に頼らずにイノベーションの生起を試みる場 面において、試行錯誤における一つの選択肢を提示できた。
第二の結論は、モデルの評価を通じて、これまでのデザインドリブン・イノベーションの先行研究 では明らかにされていなかった因果について明らかにすることができた。具体的には、一つには「技 術の新規性」が「意味の新規性」に繋がるという因果の可能性、二つには「意図せざる用途への着眼」
から始まる目的設定の過程を含むデザインプロセスが最終的に「革新的なイノベーション」に繋がる という因果の可能性、三つには新しい意味が解釈できている場合におけるプロモーションなどの「新 しい意味の提示への注力」の必要性を明らかにすることができた。
このようにして、第6章では、第5章で構築したデザインドリブン・イノベーションのデザイン方法 論のモデルを評価し、適合性が認められたデザインドリブン・イノベーションのデザイン方法論を新 たに提示できた。
第7章 結論
本研究の全体での結論を次のとおり、三つにまとめた。具体的には、第一に、本研究の全体の成果 をまとめた。第二に、その本研究の成果の実務的な意義をまとめた。第三に、その本研究の成果の学 術的な意義をまとめた。
第一に、本研究の全体の成果についてまとめた。本研究の全体の成果は、これまでの先行研究では 明らかではなかったデザインドリブン・イノベーションにおけるデザイン方法論のモデルを提示でき たことである。
イノベーション研究において、新しい技術に頼るのではなく、新商品や新サービスなどの新しい人 工物を企画するデザイナーがデザインによって主体的にイノベーションの源泉を創り出す現象が注 目されている。このようにデザインによって生起される革新的なイノベーションはデザインドリブ ン・イノベーションと呼ばれ、複数の先行研究により知見の蓄積が始まっているのであった。しかし、
先行研究ではデザインドリブン・イノベーションはデザインによってイノベーションの源泉が創り出 されて生起することは示されているが、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザイン方法論 のモデルが提示できていないという課題を本研究では抽出した。ここでデザインドリブン・イノベー ションにおけるデザイン方法論のモデルとは、デザインドリブン・イノベーションを目的としたとき のデザインプロセスを踏まえて、そのデザインから革新的イノベーションまでの一連の目的と手段の 因果連鎖を示すものと本研究では定義した。
そのような先行研究の課題に対して、本研究ではデザインドリブン・イノベーションの一つのデザ インプロセスとして図1に示すプロセスを明らかにした上で、それを踏まえてデザインドリブン・イ ノベーションのデザイン方法論のモデルとして次の図2に示すモデルを提示した。
このデザインドリブン・イノベーションのデザイン方法論のモデルでは、各因果のパスについてそ の有意性を確認し、また、全体の適合性も確認することができた。また、このモデルは先行研究が議 論する因果だけに留まらず、それを批判的に検討し、二つの因果を加えることができた。具体的には、
一つは、技術の新規性が意味の新規性を生起するという因果を明らかにし、二つには意図せざる用途 への着眼から始まる目的設定の過程を含むデザインプロセスが最終的に革新的なイノベーションに 繋がるという因果の可能性を明らかし、それら二つの因果を加味することができた。
このように、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザイン方法論のモデルを提示できたこ と、および、それを通じて新たな二つの因果を確認できたことは、これまでの先行研究で明らかにさ れていなかったことであり、本研究の新規性に関わるものである。
図1 本
図2 本
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択肢を予め用意した中での試行錯誤では、後者の方が相対的に効率的であろう。このため、革新的な イノベーションに対してのデザインの一つの因果連鎖を提示することは、革新的なイノベーションの 生起を効率的に行う上で、試行錯誤の選択肢を提示できることに意義がある。
第三に、本研究の成果の学術的な意義をまとめた。本研究によりデザインドリブン・イノベーショ ンにおけるデザイン方法論のモデルを提示できたことの学術的な意義は、今後のデザインドリブン・
イノベーションの研究における議論の基盤を提供できたことある。
本研究において、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザイン方法論を提示する上では、
その因果連鎖をモデルとしてつくることができた。そのようにデザインドリブン・イノベーションの 研究におけるモデルを提示できれば、今後の新たな研究で確認された因果関係をそのモデルに加味し て議論していくことで、デザインドリブン・イノベーションの今後の研究の基盤として研究の発展に 貢献できるという意義がある。
このようにして、本研究の成果と、その本研究の成果の実務的な意義と学術的な意義をまとめた。
Ⅲ 審査結果
本論文の審査結果は、以下のとおりである。
1.本論文の長所
本論文には、以下の長所が認められる。
(1) 本論文は、これまでの先行研究では明らかではなかったデザインドリブン・イノベーション におけるデザイン方法論のモデルを提示できた点において、新規性が認められる。このモデ ルは先行研究が議論する因果だけに留まらず、それを批判的に検討し、新たに二つの因果を 加えている。具体的には、一つには技術の新規性が意味の新規性を生起するという因果の可 能性を明らかにし、二つには意図せざる用途への着眼から始まる目的設定の過程を含むデザ インプロセスが最終的に革新的なイノベーションに繋がるという因果の可能性を明らかし、
それら二つの因果をモデルに加味している。そして、そのモデルの適合性を明らかにしてい る点において、高い評価を与えることができる。
(2) 本論文は、モデルづくりにおいては、イノベーション研究およびデザイン研究における先行 研究を広範にレビューするだけではなく、実際の企業における事例を丁寧に調査しており、
企業への適応という実用性が認められる。特に、調査対象として定めた実際のデザインドリ ブン・イノベーションの事例については、文献調査だけではなく当時の担当者へのインタビ ュー調査も併用するなどして実際の企業の現場における様子を丁寧に調査し、そこからモデ ルを構築している。このように、本研究が提示するモデルは、実用性を担保するために、実 際の事例から抽出した知見を基にして構築されている点においても、高い評価を与えること ができる。
(3) 本論文は、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザイン方法論のモデルを評価する にあたり、デザインドリブン・イノベーションの先行研究ではこれまでに行われてこなかっ た共分散構造分析を用いており、独創性が認められる。イノベーション研究においては方法
論のモデルは少なく、また、定量的な評価をする研究も少ない。また、デザインドリブン・
イノベーションの先行研究においてはデザイン方法論のモデルの定量的な評価はされていな かった。その中で、共分散構造分析に着目し、それを用いることでデザインドリブン・イノ ベーションのデザイン方法論のモデルを評価した点においても、高い評価を与えることがで きる。
(4) 本論文は、デザインドリブン・イノベーションにおけるデザイン方法のモデルを提示するも のであるが、そのモデルは、今後は、実務面では、新商品企画等におけるデザイン方法とし て応用していくことが期待できる。また、学術面では、特に潜在機能法という発想法として 実用研究していくことが期待でき、また、組織レベルではその潜在機能を見つけやすい組織 特性を明らかにする実用研究も期待できる。このように今後の発展可能性においても、高い 評価を与えることができる。
2.本論文の短所
一方で、本論文には、以下の短所が認められる。
(1) 本論文では、イノベーション研究におけるデザインドリブン・イノベーションの位置付けを 明らかにする過程で、イノベーション学術誌のJournal of Product Innovation Management におけるデザインを主題とする過去10年間の全論文を定性的および数量化理論を用いて定量 的にレビューするアプローチを採用している。しかし、Journal of Product Innovation Managementはイノベーション学術誌の主要誌であるものの、本論文でも触れられているよう にイノベーション学術誌の主要誌としては他にもResearch Policy等の幾つかの学術誌がある。
また、デザイン学術誌の主要誌にも、数は少ないがイノベーションを扱う学術誌がある。こ のため、今後は、これら他のイノベーション学術誌の主要誌までも含めてイノベーションに おけるデザインを体系化し、その中でデザインドリブン・イノベーションの位置付けをして いくことに研究の発展余地があり、期待する。
(2) 本論文では、モデルづくりにおいて、実際のデザインドリブン・イノベーションの事例を調 査しているが、単一事例の調査となっている。その後に、アンケートによる定量調査で評価 することで一般性を補っている。しかし、事例調査については、より多くの事例を研究する ことで、より多くの変数や因果が見つかる可能性がある。このため、今後は、そのように事 例調査を増やし、モデルに組み込める変数や因果をみつけていくことに研究の発展余地があ り、期待する。
(3) 本論文では、主題はモデルづくりとそのモデルの評価であるため、先行研究のレビューと事 例調査からモデルをつくり、それをアンケートによる定量調査で評価している。今後は、本 論文が提示するモデルを実務に応用していくことが期待される。このため、そのようなモデ ルの実務への応用法に研究の発展余地があり、期待する。
3.結論
本論文には上記のような短所も見受けられるが、長所と比較すると、本論文の優秀性を損なうもの ではない。本論文は、全体としては、デザインドリブン・イノベーションの理論基盤の構築および応 用可能性の拡大に貢献する学術論文として、高い評価に値するものであるといえる。このように高い 評価が与えられる研究であるため、今後の海外学術誌への投稿や国際会議での発表活動についての要
望も審査員から出された。
本論文提出者の杉野幹人は、東京工業大学工学部卒業後に、株式会社NTTドコモにて新規事業、米 国駐在、技術開発に従事した後に、経営コンサルティング会社のA.T. カーニーの東京事務所にて経 営コンサルタントとして、経営戦略、新規事業、マーケティング等の様々な経営コンサルティングに 従事している。また、その間に、INSEADにてMBAを修了している。それら実務、および、MBAでの経営 とイノベーションとデザインへの関心から、早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程に入学してい る。また、その経営実務の実績と能力が評価され、博士後期課程在学中に、東京農工大学工学部特任 教授の職にも従事している。
以上の審査結果に基づき、本論文提出者・杉野幹人は「博士(商学)早稲田大学」の学位を受ける に足る十分な資格があると認めるものである。
2013年12月16日
審査員
(主査) 早稲田大学教授 工学博士(早稲田大学) 黒須 誠治 早稲田大学教授 工学博士(早稲田大学) 長沢 伸也 早稲田大学教授 博士(商学)早稲田大学 藤田 誠
日本大学教授 博士(工学)早稲田大学 児玉 充