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博士学位申請論文審査報告書

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岸 眞理子 提出

博士学位申請論文審査報告書

論文題目

メディア・リッチネス理論の再構想

―電子メディアのメディア・リッチネスの開発―

(2)

岸 眞理子提出 博士学位論文審査報告書

メディア・リッチネス理論の再構想

―電子メディアのメディア・リッチネス開発―

Ⅰ 本論文の主旨と構成

1.本論文の主旨

本論文は、組織コミュニケーションに関するメディア・リッチネス理論に関して、従来の 理論展開やそれに関連する研究から示唆を得たうえで、組織コミュニケーション能力を向上 させるための新たな枠組み構築を意図するとともに電子メディアの組織的活用を再考し、定 量的ならびに定性的分析を行い主張の妥当性を計りながら、メディア・リッチネス理論を動 態的に再構想する仮説的提言を行うことを意図している。そして、本論文の課題は以下のと おりである。

メディア・リッチネス理論が誕生した 1980 年代半ばの企業組織のコミュニケーションは、

対面関係、電話、文書といった伝統的メディアが主に活用されていたため、メディア・リッ チネス理論もこれらの伝統的メディアを対象とするものであった。しかしその後、当初の理 論が想定していなかった電子メールといった電子メディアが企業のコミュニケーション活動 において広く受け入れられるにつれ、メディア・リッチネスに関して新たな研究がさまざま に行われ、理論の修正や変更が求められた。本論文では、こうした従来の研究を踏まえ、企 業組織のコミュニケーション能力向上のために電子メディアが活用されるようになったこと によって、リッチネス・レベルの高いとされた伝統的メディアの位置づけがどのように影響 を受けるかがまず課題とされる。

またメディア・リッチネス理論は、組織の情報処理モデルをベースにしているため、組織 における多義性削減という情報処理負荷の問題に対して、リッチネス・レベルの高いメディ アを組織的に活用することによって組織の有効性が確保される、という組織レベルでのメデ ィア活用を問題とするものであった。当初の理論は、組織ルーティンの違いによって情報処 理負荷への対処が異なり、組織的メディア活用が異なるという視座をもつものであったにも かかわらず、電子メディアの活用に伴い、組織におけるコミュニケーション・タスクに対す る個人レベルのメディア活用の問題を実証的に明らかにする研究が多くなり、組織ルーティ ンの検討からは乖離していった。そこで本論文では、原点に立ち戻って組織ルーティンに着 目し、電子メディアを含むメディアが組織的にどのように活用されているかを第二の課題と して、組織レベルからの接近を試みている。

第3にメディア・リッチネス理論は、伝統的なメディアを対象に理論化されたものである

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ため、メディア・リッチネスはメディアに固有の能力・属性として定義され、メディアの知 覚と活用が基本的に一致するものとして把握された。そこで本論文では、メディア・リッチ ネス理論の対象メディアが電子メディアを含むものとなってもメディアに固有の能力・属性 としてメディア・リッチネスが知覚され得るものなのか、ということが課題とされた。

さらに本論文では、電子メールを中心にその組織的活用によってメディア・リッチネスが 開発され得るものなのかどうかを第4の課題とした。そして、組織ルーティンの二面性に着 目し、実際にメディアを活用する主体は個人であるが、組織における個人のメディア活用は 組織ルーティンのもとでコントロールされると同時にこれに働きかけるものであるという側 面から、組織ルーティンと組織的メディア活用の相互作用のもとでメディア・リッチネスが どのように開発されるかについて議論されている。

本論文は、これら4つの課題を検討することで、従来のメディア・リッチネス理論では説 明できない現象について新たな枠組みを構築し、メディア・リッチネス理論の再考とともに、

新たな構想を得ようとしているのである。

この理論が登場した時代的背景から分かるように、当初は伝統的なメディアを対象に理論 化されたため、電子メディアが企業で広く活用されるようになるにつれ、この扱いを巡って さまざまな視点から議論が展開された。そうした中で特に多くの研究は電子メールの活用に ついてのものであるが,その場合メディア・リッチネス理論が今日でも有効なものなのか、

有効なものであるためにはどのような視点からどのように修正や改善が求められているのか、

本論文はこのような問題意識をベースに展開されている。

尚、本論文では伝統的メディアに対するものとして、電子メディアという分類を用いてい る。技術的環境は激変しているが、メディア・リッチネス理論の再考に関しては、企業にお いて活用される電子メディアを、特に分類することなく総合的に捉えて考察することが可能 であると考えられるからである。

2.本論文の構成

本論文の構成は以下のとおりである。

序 章

第 1 節 論文の目的と問題意識 第 2 節 論文の構成

第1章 メディア・リッチネス理論誕生の背景としての組織の情報処理モデル 第 1 節 問題の所在

第 2 節 組織とコミュニケーション 第 3 節 組織観と情報処理

第 4 節 組織の情報処理モデルの登場 第 5 節 組織の情報処理モデルの精緻化

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第 6 節 小括

第2章 メディア・リッチネス理論展開とイナクトメント 第 1 節 問題の所在

第 2 節 イナクトメントとイナクトされた環境 第 3 節 組織的コントロールとイノベーション 第 4 節 レセプターと境界連結者

第 5 節 小括

第3章 情報技術とケイパビリティ研究からの示唆 第 1 節 問題の所在

第 2 節 競争優位と情報技術 第 3 節 ケイパビリティと情報技術 第 4 節 ITケイパビリティの構成要素 第 5 節 ITケイパビリティと組織ルーティン 第 6 節 ケイパビリティの形成

第 7 節 小括

第4章 メディア・リッチネス理論の変遷 第 1 節 問題の所在

第 2 節 電子メディアとコミュニケーション 第 3 節 メディア・リッチネス理論の展開

第 4 節 電子メディアとメディア・リッチネス理論 第 5 節 小括

第5章 メディア能力・属性としてのメディア・リッチネス 第 1 節 問題の所在

第 2 節 組織階層別タスク特性とメディア活用 第 3 節 情報化の進展とメディア活用

第 4 節 調査と分析 第 5 節 小括

第6章 オープン・コミュニティにおけるリッチ・メディアの活用 第 1 節 問題の所在

第 2 節 オープン・コミュニティとネットワーク 第 3 節 VRML2.0開発コミュニティ

第 4 節 Webベースでのソニーの活動 第 5 節 小括

第7章 組織ルーティンとメディア活用 第 1 節 問題の所在

第 2 節 組織ルーティンとしての組織の環境創造パターン

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第 3 節 組織ルーティンとメディア活用 第 4 節 プレ調査

第 5 節 本調査 第 6 節 小括

第8章 電子メディアの活用とメディア・リッチネス開発 第 1 節 問題の所在

第 2 節 電子メール活用の実態

第 3 節 個人の経験とメディア・リッチネス開発

第 4 節 電子メディアの組織的活用とメディア・リッチネス開発

第 5 節 組織ルーティン、組織的メディア活用、メディア・リッチネス開発 第 6 節 小括

結 章 第 1 節 総括

第 2 節 課題と今後の展望

Ⅱ 本論文の概要

上記のような構成により、本論文の概要は以下のとおりである。

まず序章で本論文の問題意識を明確にし、第1章では、メディア・リッチネス理論が誕生 した背景を明らかにするため、組織論における情報処理研究をレビューし、組織の情報処理 モデルについて論じている。組織の情報処理モデルは、1960年代以降のオープン・システム としての組織観による研究成果であり、決定論的に組織と環境との適合関係を明らかにした

「コンティンジェンシー理論(contingency theory)」を深化させる説明原理確立の要請に応 じるかたちで登場した。このモデルでは、組織を一つの情報システムとして捉えて、組織が 組織目的を実現すべく、どのように環境からの情報処理負荷と組織の情報処理能力とを適合 させるかが問題とされる。

組織の情報処理モデルは、当初、組織が情報を処理する根拠として「不確実性」の削減と いう量的な情報処理の問題を中心に展開された。しかし企業組織は、変化する環境のなかで 多くの情報を処理するだけでなく、主体的に情報を解釈し意味付けすることも求められるの で、組織の情報処理モデルは、「多義性(equivocality)」の削減という情報の意味的側面も 検討することになった。ここで、組織の情報処理モデルは不確実性の削減に加えて多義性の 削減という分析基軸をもつことになり、決定論的な視座をベースに主体論的な発想を取り込 むものとなっていった。また、組織の情報処理モデルでは、組織ルーティンとメディア活用 を分析するための基盤も提示された。

こうしたメディア・リッチネス理論誕生の背景を理解することで、メディア・リッチネス 理論が、決定論的な視座と主体論的視座の両面に着目するものであること、組織ルーティン

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とメディア活用さらにメディア・リッチネスを分析するための基盤をもつことを理解するこ とができるのである。

第2章では、精緻化された組織の情報処理モデルが多義性削減について着目する契機とな った、K. ワイクの主張する「組織化(organizing)」のモデルとその中心概念である「イナ クトメント(enactment)」が考察される。このモデルは、経営組織論における情報処理研究 において主体論的な色彩の強い代表的な研究でもあり、これによってメディア・リッチネス 理論を動態的に展開する際の示唆を得ることが可能となる。

多義性削減プロセスは、組織と個人の相互作用のプロセスであり、このプロセスへの理解 を深めるために、特に、生命科学において関心を集めている「レセプター(receptor)」を中 心にする細胞内情報伝達に関する研究をアナロジカルに展開することで、組織におけるイナ クトメントの側面が取り上げられる。そこで組織メンバーの活動は、イナクトされた環境に コントロールされているが、組織メンバーはイナクトメントのプロセスを通じて、イナクト された環境そのものを再形成していると理解できる。メディア・リッチネス理論は組織化の モデルの影響を受けて誕生したものであるにもかかわらず、実際にはこのモデルの代表的な 特徴ともいえる個人と組織の動態的な相互作用という視点を取り込んではいない。イナクト メントの側面は、メディア・リッチネス理論をより主体的、動態的に展開していく可能性を 孕むものなのである。

第3章では、経営戦略論、特に競争戦略論において資源ベース・ビューのなかで検討され てきた、情報技術に対する組織のより主体的な活用能力(ケイパビリティ)に関する研究が 取り上げられる。競争優位を導く組織のITケイパビリティは、IT資源そのものの性能だけ ではなく、情報技術を組織的に活用する能力、すなわち、情報技術を含む諸資源を調整・統 合し、応用し、高度化する組織能力として捉えられる。その際、諸資源を統合してケイパビ リティを形成し、さらにケイパビリティを再形成していくための「基盤」の役割をもつもの として組織ルーティンが着目された。

特に組織ルーティンの二面性という点から接近すると、メディア・リッチネス理論におい て静態的に検討された組織ルーティンのもとでの組織のメディアの活用についての理解を、

より動態的に展開することが可能となる。このことは、組織の電子メディアを含むメディア の活用、さらにはメディア・リッチネスそのものを再考し、理論を動態的に展開するうえで 重要な示唆を与えるものとなる。

ついで第4章では、本論文の中心をなす「メディア・リッチネス理論」のこれまでの流れ が検討される。この理論が確立された 1980 年代半ばとは異なり、今日では、組織コミュニ ケーションにおいて電子メディアの活用はごく当たり前のものとなっている 。そこで、本章 では、メディア・リッチネス研究において検討されてきた電子メディアの活用に関するさま ざまな議論を踏まえて、組織におけるメディア・リッチネス理論の展開が整理される。

メディア・リッチネス理論では、組織の有効なコミュニケーションの実行が、特定のコミ ュニケーション・タスク下で、特定の能力や属性をもったコミュニケーション・メディアの

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活用によるものだ、という点を中心に検討されてきた。この理論は、これが確立された 80 年代半ばから今日に至るまで、組織のメディア活用に関する多くの実証研究をもたらしてい る。企業活動において、時間的、空間的なコミュニケーションの制約を克服するものとして、

電子メディアを積極的に活用することがごく一般的になると、メディア・リッチネス理論は、

組織における電子メディア活用に関しても、客観的で合理的な理論フレームを与えるものと してのその役割が期待されるものとなった。しかし、電子メディアの活用に関しては、伝統 的メディアを対象に確立されたメディア・リッチネス理論では必ずしも説明できない現象が 現れたことから、理論の修正や新たな展開が求められた。そこで、電子メディアによるコミ ュニケーションの特徴を理解したうえで、メディア・リッチネス理論の変遷を辿りながら、

組織における電子メディアの有効な活用とメディア・リッチネスについて検討されている。

第5章では、第4章で検討した当初のメディア・リッチネス理論のフレームワークが情報 化時代においても基本的に支持されるものかについて実証的に明らかにしている。メディ ア・リッチネス理論では、基本的にメディア・リッチネスをメディアの能力・属性として捉 え、あるメディアのリッチネスを知覚することとそのメディアを活用することは基本的に一 致するものとして捉えられる。

この章では、情報化の進展時期に行った調査結果から、伝統的なメディア・リッチネス理 論の基本的フレームワークが検証されている。このような時期は企業組織間で情報化の進展 度合に違いがあり、情報化の影響を考慮するのに適していると考えられる。そして、組織に おいては階層レベルの違いによってコミュニケーション・タスクの多義性が異なるため、組 織階層の違いとコミュニケーション・メディアの活用との関係が実際にどのようなものであ るか、情報化の進展とコミュニケーション・メディアの活用との関係はどのようなものであ るか、伝統的なコミュニケーション・メディアを対象に確立された組織階層とリッチ・メデ ィアの活用との関係が、情報化の進展によってとどのような影響を受けているかという点に 着目して実施されたアンケート調査の結果が分析された。

その分析結果から、管理者層は一般従業員よりも、情報の意味解釈の対立を削減するのに 適した対面関係に代表されるリッチネス・レベルの高い伝統的メディアを好んで活用するこ と、対面関係のようなリッチネス・レベルの高い伝統的なメディアは、情報化が進んでいて も積極的に活用されること、特に管理者層では、組織の情報化が進展することでむしろ対面 関係の活用がより活発になることが明らかになった。

第6章では、電子メディアの活用が日常的なコミュニケーション活動を支える一般的なも のとなっている状況でのメディア活用について検討されている。つまり、このような状況に おいて活動のほとんどを電子メディアで行っていたソフトウェア開発コミュニティの事例か ら、電子メディアの活用の可能性と伝統的なリッチ・メディアの必要性についての具体的な 考察である。

その事例分析の結果から、電子メディアに支えられているバーチャル組織ともいえるオー プン・コミュニティにおいても、伝統的なリッチネス・レベルの高いメディアはその重要性

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を失うことはないことが認識された。

第7章では、当初のメディア・リッチネス理論のフレームワークが、対象を電子メディア に拡張し得るものであるかについて考察され,情報化が進むなかでも有効な理論的枠組みを 示すものと思われる。しかし、電子メディアの活用がより一般的になるにつれて、この理論 のフレームワークが電子メディアを対象に拡張し得るものかについては、必ずしも議論の一 致をみていない。

当初のメディア・リッチネス理論のフレームワークにおいては、メディア活用は合理的な プロセスとして捉えられ、メディアの知覚と活用は基本的に一致することを前提として議論 されてきた。そこで本章では、電子メディアを含むコミュニケーション・メディアの違いが どのように知覚されているのかについて改めて実証的に検討され、その結果、当初のメディ ア・リッチネス理論が想定したメディア・リッチネスというメディア能力・属性は、電子メ ディアを含むメディアが基本的に有するものと知覚される、という興味深い結果が得られた。

さらに、当初の理論でも組織的なメディア活用を論じる際に用いられていた組織ルーティ ンのコンセプトを使い、組織ルーティンによる組織のメディア活用についても実証的に検討 された。その結果、組織のメディア活用は、電子メディアと伝統的メディアでは明らかに異 なっていることが示された。

伝統的なメディア・リッチネスに関しては、当初の理論の想定通りにリッチなメディアの 知覚と活用は一致するといえる。しかし、電子メディアに関しては、その活用はメディア・

リッチネスの知覚とは関係しない。電子メディアを含んでも、メディアの知覚は理論どおり だと言えるが、電子メディアの活用については、明示的な組織ルーティンによる理論の予測 に従わないのである。

さらに、第8章では、メディア・リッチネスそのものの開発の研究を踏まえて、個人の経 験や組織的活用によって、電子メディアのメディア・リッチネスが開発され、拡張され得る ものであることを定性的な調査分析を中心に明らかにされている。特に、組織ルーティンの もとでメディアの組織的な活用はコントロールされるが、これを遂行するなかで、組織ルー ティンもまた変化し、メディア活用も変化すること、そしてその際、電子メディアのメディ ア・リッチネスが開発されることを明らかにすることによって、電子メディアのメディア・

リッチネスが動態的に開発され得るものであることが主張される。

つまり、組織ルーティンは、その時々のメディア活用を通じた組織ルーティンの遂行を通 じて時間の経過とともに変化する。組織ルーティンに応じて、組織がどのようなメディアを どのように活用するかは変化し、こうしたメディア活用がまた組織ルーティンの変化を促し ていく。電子メールに関して、組織的活用を通じてそのメディア・リッチネスが拡張され、

活用にも変化が生じたことが示されたのでる。

最後の結章では、本論文で解明されたことを踏まえ、電子メディアとリッチネス,活用,

組織ルーティン,組織コミュケーション能力のスパイラルな関係を示唆するモデルが提示さ れるとともに,今後の残された課題について述べられている。

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以上のような概要から明らかなように、本論文の課題は以下のように解明されたと言える。

第 1 の課題について、メディア・リッチネス理論はコンティンジェンシー理論や組織の情報 処理モデルに関連して誕生したものであり決定論的な色彩が強く、各メディアはメディア固 有のメディア・リッチネスという能力・属性を有し、タスクの多義性と適合するリッチネス をもつメディアを活用することが組織の有効性を規定するとされていた。そこで、情報化が 進展しテレビ会議、テレビ電話といったリッチネス・レベルの高い電子メディアが活用され るようになると、伝統的なリッチネス・レベルの高いメディア、特に体面関係の重要性は変 わらないことが明らかになった。

第2の課題について、メディア・リッチネス理論は当初、組織の情報処理モデルの観点か ら、組織における多義性削減という情報処理負荷に対して、リッチネス・レベルの高いメデ ィアを組織的に活用することによって組織の有効性が確保されるという、組織レベルでのメ ディア活用を問題とするものであった。しかし、電子メディアの活用に伴い、徐々に個人レ ベルのメディア活用についての実証研究が多くなり、元来、組織ルーティンの違いによって 組織の情報処理負荷への対処が異なり組織的メディア活用が異なる、という視座をもつもの であったメディア・リッチネス研究が、徐々に組織レベルの検討を回避していったのである。

このため組織ルーティンへ着目することは、理論をより動態的に展開する可能性をもたらす ものであるという点から、組織レベルでのメディア活用を研究することの必要性が明らかに された。

組織レベルでのメディア活用を組織ルーティンとの関連から見た場合、伝統的な理論が想 定したようには電子メディアを含むリッチなメディアの組織的活用を説明することはできな い。伝統的メディアについては、リッチであるかどうかによって当初のモデルが想定したよ うな活用が促されているが、電子メディアについてはそうとはいえな。つまり、電子メディ アはメディア・リッチネスという能力・属性のもとでメディア活用がなされているわけでは ないことが明らかになったのである。

第3の課題について、メディア・リッチネス理論は、伝統的なメディアを対象に理論化さ れたものであるため、メディア・リッチネスはメディアに固有の能力・属性として定義され、

メディアの知覚と活用が基本的に一致するものとして把握されていた。しかし、電子メディ アの活用が進むにつれて、当初の理論では説明できない実態が数多く見られるようになり、

電子メディアについて活発な議論が交わされるようになった。このような展開において、電 子メディアに関して、当初の理論が想定したようにはリッチネス・レベルが知覚されていな いのではないかとも考えられてきたが、第7章で実証的に明らかにしたように、伝統的なメ ディアだけでなく電子メディアに関しても、メディア・リッチネスがメディアに固有の能力・

属性として知覚され得ることが実証的に明らかにされ、興味深い結果を得たのである。また、

メディアの組織的活用に関してもメディアの知覚と活用は一致するとされたが、個人的なメ ディア活用が検討されるなかで、特に電子メディアに関しては社会的要因や経験によって同 じものでもメディア・リッチネスが異なってくることが議論された。

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第 4 の課題は、メディア・リッチネスが組織的活用によって開発されるのかということを 扱うものである。実際にメディアを活用する主体は個人であるが、組織における個人のメデ ィア活用は組織ルーティンのもとでコントロールされると同時にこれに働きかけるものであ るため、本論文では、組織ルーティンと組織的メディア活用は相互作用しており、さらに、

組織的活用を通じて電子メディアのメディア・リッチネスも開発され、そのもとで活用され る、という動態的なプロセスが定性調査を通じて明らかにされている。

以上より、本論文では、伝統的メディアに関してメディア・リッチネス理論の基本的なフ レームワークは維持され、特にリッチなメディアとしての体面関係の役割は今日でも変わら ないが、新しい電子メディアに関しては、そのあり方について静態的な分析では限界がある ため動態的な視点の導入が欠かせないこと、また電子メディアについても総合的にはメディ ア・リッチネスが知覚されているが、これによってメディア活用を説明することはできない こと、そして組織ルーティンとメディア活用との相互作用を通じてメディア・リッチネスそ のもの動態的に開発され得るものであること、が提示されたのである。

Ⅲ. 審査結果

本論文の審査結果は、以下のとおりである。

1.本論文の長所

本論文には、以下のような長所が見出せる。

(1) メディア・リッチネスに関する研究は、1980年代半ばから伝統的メディアを対象に 始まったが、1990年代後半にインターネットが普及すると同時に電子メディアが企 業のコミュニケーション活動において受け入れられ、その様相は一変した。本論文は そうした背景の中で、伝統的なメディアが電子メディアの普及・発展にもかかわらず、

企業のコミュニケーション活動にとってその重要性が薄れていないことを明らかに し、その現代的意義を明らかにしており、この点は本論文の第一の長所ということが できる。

(2) 従来のメディア・リッチネス理論は、情報処理モデルをベースに、情報の持つ多義性 削減という情報処理負荷に対して高いリッチネス・レベルをもつメディアの活用が主 張されることが多かった。本来メディア・リッチネス理論は、組織ルーティンの違い によって情報処理負荷が異なり、組織のメディア活用も異なるという組織レベルの視 座をもつものであったが、個人レベルでのメディア活用に研究の焦点が置かれるよう になりその焦点がずれてきたのを、本論文では組織レベルの研究に戻る必要性を論じ、

原点に立ち返った研究といえる。そのため、本来あるべき組織レベルでのメディア・

リッチネス研究の発展に資する研究となっている。

(3) 本論文は、メディア・リッチネス理論に関して、先行研究を包括的にレビューしたう

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えで、定量的および定性的分析を行いその結果から電子メディアの組織的活用につい て再検討し、メディア・リッチネス理論を機能的に再構想する足掛かりとなる提言を 行うことに成功している。本論文は、同分野において、研究テーマの新規性、リサー チメソッドの妥当性、理論的貢献の観点からみても、非常に説得的である。この点も、

本論文の長所ということができる。

(4) 組織ルーティンとメディア活用の相互作用を通じてメディア・リッチネスそのものが 動態的に開発されうるという点を提示しかつ理論的に検証しているが、この点は、組 織ルーティンとの関連でメディア・リッチネスを捉える必要性を単に主張するのでは なく、両者のあり方と同時に、企業組織におけるコミュニケーション能力の発展に資 する可能性を示唆するものであり、本論文の持つメディア・リッチネス理論に対する 独自な貢献といえよう。

(5) 本論文はリサーチメソッドに関して、先行研究のレビューを網羅的に行い、それらの 理論上のギャップを埋める形で明確なリサーチクエッションが設定されており、しか もそれ対する適切なリサーチの方法が選択・統合されている。そして定量・定性分析 手法は適切であり、また非常に手際よく概念間の関連を整理したうえで調査結果の考 察を行っており、仮説の検証も丹念に行っている。定量分析にくわえ、定性的な聞き 取り調査も併用しながら、電子メディアの活用が進んでも、リッチネス・レベルの高 いメディア、特に対面関係の重要性は変わらない点を実証している点は、本論文の主 張に説得力を持たせるものになっている。

(6) さらに付け加えれば、機能主義的な組織観(情報処理モデル)と解釈学的な組織観(ワ イク・モデル)双方の主張を取り込みながらメディア・リッチネス理論を論じており、

新しい見かたの提示という当該分野への新しい挑戦となっているとともに、論文の記 述は全般的に明瞭かつ論理的であり、この点も本論文の長所ということができる。

2.本論文の短所

本論文に関して、以下のような短所が見出せる。

(1) 論文のキーワードであるメディア・リッチネスについて、既に定評のあるリッチネス・

レベルの説明を想定して議論が展開されているが、その対語に該当するプアネス・レベ ルについての記述が希薄であるという観は否めない。リッチネスとプアネスが同一次元 なのか、別次元なのか、その扱いが曖昧である。

(2) 電子メディアに関しては、メディア・リッチネスが知覚されているとはいえ、それが活 用されていない点の指摘は有益な研究成果といえるが、なぜ活用されないかについての 議論が十分になされてない。また言語論的転回など,近年盛んな組織コミュニケーショ ンの理論的展開についての考察が不十分のように思える。

(3) 電子メディアの代表例として、電子メールを取り上げ分析が行われているが、その妥当 性についての議論が希薄である。電子メディア設定のコスト等を踏まえて、その他の電

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子メディアとの比較を十分になした上での議論をすれば説得力が増すはずである。

(4) 研究対象として組織レベルを意識しているにも関わらず、実証研究ではもっぱら個人レ ベルのデータが使用されている。個人レベルのデータによって組織レベルの現象を測定 することが可能であり、正当であるというロジックを明示する必要があろう。

3.結論

本論文には、以上のような長所と短所が見られるが、長所と比べて短所は些細なもので今後の 研究課題ということができるものであり,本論文の価値をいささかも損なうものではない。。

論文提出者岸眞理子は、1985 年早稲田大学商学部卒業後、同大学院商学研究科に進学し修士号 を取得、その後同研究科博士後期課程に入学し、その間、本学商学部主担当助手を経て 1990 年よ り法政大学経営学部に奉職し、現在同大学経営学部で教授である。

岸の経営情報メディアに関する研究は、学会報告や多数の論文執筆に結実し、国内経営学関連 の学会ばかりでなく海外でも高く評価されているが、そのことは経営情報学会等での役職歴任や、

本論文のもとになった論文のうち 1 本がInformation and Management Vol 45(5)に査読論文とし て掲載されていることからも伺い知ることができる。本論文は、そうした長年の経験と努力の蓄 積を結集してまとめられたものであり、経営学分野における学術の発展におおいに貢献しうるも のだと言うことができよう。

以上の審査結果にもとづき、本論文提出者岸眞理子は、「博士(商学)早稲田大学」の学位を受 けるに十分な資格があると認められる。

2013 年 6 月 10 日

審査員

(主査) 早稲田大学教授 博士(商学)早稲田大学 大月博司 早稲田大学教授 博士(商学)早稲田大学 藤田 誠

早稲田大学教授 坂野友昭

明治大学教授 博士(経営学)明治大学 高橋正泰

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