博士論文審査報告書
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(2) 新たな医療機器は,有効性と安全性が市販前に評価され,日本では医薬品医療機器総 合機構を通じて厚生労働省,米国では,Food and Drug Administration (FDA)で承認 される.医療機器を開発する企業にとっては,市販前の臨床評価は,承認を取得するこ とが目的であり,安全かつ迅速に実施するという観点から,医療施設,医師,対象患者 数,疾患の病変・重症度は限定的条件下ならざるを得ない.一方,承認後の市販後の実 臨床では,多くの医療施設で,多様な病変・重症度の患者に多くの医師が直面するため, 承認前の限定された試験結果と実臨床での治療成績が必ずしも一致しない場合が考え られる. 患者がより迅速に新医療機器の恩恵に与れるようにする一方,市販後にリス ク評価を行い,リスクをコントロールできるようにするため,医療機器の市販後試験デ ータが近年注目されており,より優れた市販後臨床データの収集方法に関する議論が行 われ始めている. 本論文は,市販後の臨床データの活用が世界的に期待される中で,市販前・市販後の 経時的な臨床試験データの分析方法について統計学的手法を用いて提示することを目 的とした研究である.本論文は 5 章で構成されている. 第 1 章では,医療機器の市販後の臨床データの活用が注目される背景,市販前と市販 後の臨床試験に関する規制,本研究で対象とする医療機器の選定方法について述べられ ている.日本では,新医療機器に対して市販後の実臨床での成績データの報告を義務づ ける医薬品・医療機器等法における使用成績評価制度(旧:再審査制度)があり,アメ リカ,ヨーロッパの規制にはない特徴があることが述べられている.本研究において, 多種多様な医療機器の中から本研究で対象とする医療機器の選定方法として,医療機器 の承認クラス分類,診断機器と治療機器,分析可能な対象論文数を推し量ることを目的 としたメタアナリシスの論文数,保険適用分類から推察する医療技術の新規性の 4 点か ら分析し,カプセル内視鏡(クラス II,診断機器,保険適用区分 C2:新規技術)と, 薬剤溶出型ステント(クラス IV,治療機器,保険適用区分 C1:代替技術)の 2 つの医 療機器を選定している. 第 2 章では,カプセル内視鏡を対象として,軟性内視鏡と比較した消化管出血の検出 率の点から有効性を比較した論文を抽出し,解析を行っている.米国 FDA での承認日 を基準として市販前と市販後を定義し,市販前 4 報,市販後 8 報のデータを用いてメタ アナリシスを実施している.カプセル内視鏡の消化管出血の検出率は市販前・後で変化 せず有効性を保つ一方,比較対照機器である軟性内視鏡の消化管出血の検出率が市販後 に上昇し,軟性内視鏡と比較したカプセル内視鏡の有効性は,市販前のオッズ比 5.19[95%CI 3.07-8.76]から市販後には 1.48[95%CI 0.81-2.69]と顕著に低下すること を示している.日本と欧米のデータに分けて行ったサブ解析から,市販前・後での軟性 内視鏡に対するカプセル内視鏡の有効性の低下には,日本のデータが影響を及ぼしてい ることを示し,その原因として,軟性内視鏡は日本で市販後に改良されていること,カ プセル内視鏡を使用する前に事前にカプセル内視鏡の通過性を調べる付属機器がアメ. 1.
(3) リカで開発され,日本では遅れて臨床導入されていることが要因と考察している.また, データの異質性が市販前の 0%と比較して市販後は 73%と顕著に上昇したことを示し, 各論文を 1 報毎解析対象から除外し異質性を解析する感度分析を行い,異質性上昇に影 響を及ぼした論文 1 報を特定している.異質性が高い原因として,当該論文の著者が他 の論文の著者と比較してカプセル内視鏡に関する論文報告の割合が顕著に多いことを 示し,著者の機器の使用への熱心さが影響を及ぼしたものと推察している.本事例から, 市販後臨床データの分析手法として,提案する市販前・市販後に分けた時系列メタアナ リシスによる分析の特徴と意義をまとめている. 第 3 章では,カプセル内視鏡について,市販前と市販後の安全性の変化,市販後の安 全性の経時的推移を調査し,市販後安全性の分析上の課題を示している.安全性の評価 項目として挙げられている体内滞留発生率は,日本のみ,市販前評価は医薬品医療機器 総合機構の審査報告書,市販後評価は同機構の再審査報告書から分析可能であり,安全 性は市販後に上昇したことを明示している.米国 FDA での承認取得,欧州の CE Marking の認証取得に用いられたデータは非公開で,また米国で実施された市販後調 査に関しても FDA から公開されておらず,各国の臨床試験データの開示に違いがある ことを明示している.また,安全性分析には発生事象を分析する母数が必須であり,日 本における使用成績評価制度は市販後の安全性および有効性評価を行う上で参考とな るデータ収集法であるとまとめている. 第 4 章では,薬剤溶出型ステントを対象として,薬剤のないステントと比較した標的 病変血行再建を有効性の指標として,メタアナリシスを用いて市販前と市販後の相対的 な有効性を検証している. 市販前・後のオッズ比は,それぞれ 0.22 (95% CI: 0.13-0.35) , 0.23(95% CI:0.16-0.32)で,市販前・後で相対的な有効性は変化しなかったことを示 し,その要因として,薬剤溶出型ステント,薬剤のないステントともに機器には市販前・ 後で改良がなく,また,ステントを病変に留置する手技は同等であったことを挙げてい る.上記 2 つの医療機器を対象とした解析より,本論文で提案されている時系列メタア ナリシスは,相対的な有効性の変化がある場合とない場合の双方において,時系列的な 定量分析を可能とする評価手法であるとまとめている.安全性評価に関しては,ステン ト血栓症が経時的に増加し,長期使用で市販後に安全性の課題が顕在化し,デザインを 改良した第二世代の薬剤溶出型ステントが登場し,ベネフィット・リスクバランスが崩 れ,結果として製造販売中止になったとまとめている. 第 5 章では本論文の成果と限界,意義をまとめ,今後の展望について述べている. なお,本論文は,主査,副査による指導,予備審査会,公聴会ででた指摘が反映され ていることを主査,副査が確認している. 以上,本論文は先進的医療機器を対象とし,承認を境として市販前・後の臨床試験デ ータを用いて対照医療機器との相対的有効性を評価する時系列メタアナリシスの手法 を提案した研究であり,市販後の臨床データの活用方法について統計学的手法を用いて. 2.
(4) 提示した先駆的研究である.本研究は,先進的医療機器の対照医療機器と比較した承認 前・後の経時的なベネフィット・リスクバランス評価における統計的分析手法の意義を 示したものであり,レギュラトリーサイエンスにおける評価科学研究分野の発展に貢献 するものである. 以上により,本論文を博士(生命医科学)の学位論文として価値あるものと認める. 2016 年 5 月 (主査) 早稲田大学教授. 岩﨑清隆. 博士(工学) (早稲田大学) 早稲田大学教授. 梅津光生. 工学博士(早稲田大学) 医学博士(東京女子医科大学) 早稲田大学教授. 武岡真司. 工学博士(早稲田大学) 早稲田大学客員教授,東京女子医科大学教授. 有賀淳. 博士(医学) (東京女子医科大学) 早稲田大学特命教授. 笠貫宏. 医学博士(東京女子医科大学). 3.
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