博士論文審査結果報告書
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全文
(2) 近 年 、交 通 渋 滞 は 、時 間 消 耗 に よ る 経 済 的 な 損 失 や 排 気 ガ ス に よ る 大 気 汚 染 、 騒音等、大きな社会的問題となっている。交通渋滞は、工事や事故、災害等で 発生する場合を除くと道路構造による交通容量の低下が主な原因で、交差点部 やトンネル部、サグ部、カーブ部等で生じ、都心部での交通渋滞は、殆ど交差 点部で発生する。一般に交差点は、T 字路と十字路、多差路交差点に分類でき る。特に、5 枝以上の道路が集まる多差路交差点では、信号現示が複雑になり 交通容量が低下するので、交通渋滞のボトルネックになっている。 現在殆どの交差点交通信号で用いられている定周期信号制御方式は、過去の 交通量データに基づく経験則を用いて交通信号現示を決定しており、変動する 交通量に適応できない欠点がある。そこで、変動する交通量に応じて交通信号 パラメータを制御する選択型交通信号制御が進められており、現在実用化され て い る シ ス テ ム と し て S C AT S 、 S C O O T 等 が あ る が 、 広 域 の 交 通 信 号 機 に 対 し て集中管理を行うため実時間制御は困難である。また、各々の交通信号機を独 立 に 制 御 す る 分 散 型 制 御 に 関 す る 研 究 も あ る が 、 そ こ で 用 い ら れ て い る Fuzzy 論 理 や N e u r a l N e t w o r k 、強 化 学 習 等 を 用 い た 制 御 法 は 、F u z z y ル ー ル の 設 定 や 学習に長い時間を要し、これらも実時間制御は困難である。また交通流モデル による推定車両群に基づき遅れ時間等の指標最適化による制御法は、道路毎に 交通流速度や拡散状態が異なり精度のよい推定値を得るのは困難である。 一方、実際の交通量は、時々刻々不規則に変動しているので、そのことを考 慮 し た 多 差 路 交 差 点 の 実 時 間 交 通 信 号 に 対 す る 制 御 法 が 必 要 で あ る 。そ の た め には次のような課題があった。 課題 1 として、交通量の不規則変動を考慮した十字路交差点のみならず多差 路交差点の交通信号制御問題を、如何に定式化するか。課題 2 として、当該サ イクルの渋滞量確率分布を予測するために、交通流入・流出量の事前確率分布 を、如何に求めるか。課題 3 として、実時間交通信号制御を実現するために、 許容処理時間内で、如何に信号現示を探索するか。 これらの課題に対して、本論文では、まず多差路交差点交通量の因果関係を 表 す Bayesian Network(BN) 確 率 モ デ ル を 構 築 し 、 予 測 渋 滞 量 確 率 分 布 に 基 づ く渋滞量確率分布最適化問題を定式化している。次に、渋滞量確率分布を算出 す る た め の Cellular Automaton(CA) 交 差 点 交 通 流 モ デ ル の 構 築 と 、 こ の CA 交 通流モデルを用いた交通流入・流出量の事前確率分布を求めている。更に、実 時間内で信号現示を決定するために、最適な信号現示時間を探索する階層型 GA- PS O( H- GA- PS O) ア ル ゴ リ ズ ム を 提 案 し 、 交 差 点 交 通 信 号 の 実 時 間 確 率 的 最 適制御法を明らかにしている。 本論文は、以下の 6 章より構成されている。 第 1 章「序論」では、本研究の背景と目的を述べ、論文構成について説明し ている。. 2.
(3) 第 2 章「交通信号制御」では、交通信号における基本制御パラメータ、交通 信号制御性能の評価指標について概説し、従来の交通信号制御法の問題点、及 び提案する制御法の考え方について述べている。 第 3 章「セル・オートマトン交差点交通流モデル」では、交通流入・流出量 を 推 定 す る た め の CA 交 差 点 交 通 流 モ デ ル 構 築 法 と 、 推 定 交 通 量 に 基 づ く 事 前 確率分布の算出法について述べている。一般に、交通流入量はサイクル長によ り、また流出量は、前サイクル残存車両台数と各信号現示長によって異なる。 従って、交通流入・流出量の事前確率分布を、異なる信号現示長の推定交通量 に基づき求める必要があった。そこで都心部交差点交通流の特徴を考慮し、人 工生命モデルの一つであるセル・オートマトンを利用して、交通密度と車両の 位 置 に よ り 異 な る 確 率 で 加 減 速 、 車 線 変 更 、 及 び 右 左 折 す る CA 交 差 点 交 通 流 モデルを構築し、交通流入・流出量を推定すると共に、推定したそれら交通量 と過去の測定交通データを用いて事前確率分布を算出する方法を提案している。 こ の CA 交 差 点 交 通 流 モ デ ル を 用 い て マ イ ク ロ シ ミ ュ レ ー タ を 構 築 し 、 実 デ ー タに基づき設定したシミュレータにより得られた交通流入・流出量の平均値と 実 デ ー タ を 比 較 し 、 CA 交 差 点 交 通 流 モ デ ル の 妥 当 性 を 示 し て い る 。 第 4 章「十字路交差点における実時間交通信号制御」では、一般的な十字路 交差点を対象とし、渋滞量確率分布最適化のための実時間交通信号制御法につ いて述べている。交通信号制御は、信号による影響で停止することなく走行し た場合の旅行時間と実際の旅行時間との差である遅れ時間が小さくなるように、 各信号現示の時間長を決定することがポイントである。遅れ時間は各信号現示 及び交通量と緊密な関係があり、遅れ時間を減少させるためには、渋滞量と変 動する交通量の情報を用いて渋滞確率が小さくなる信号現示長を決定する確率 制御が適切である。そこで、十字路交差点に対して、交通量が多い主道路での 渋 滞 量 確 率 分 布 を 予 測 し 、過 多 停 車 量 以 上 ( 渋 滞 量 ) と 過 小 停 車 量 以 下 と な る 双 方 の確率、主道路での信号現示長、及びサイクル長との関係に基づく十字路交差 点渋滞量確率分布最適化問題を定式化している。更に、当該サイクルの許容処 理時間内で最適信号現示を探索するために、構造が簡単で処理速度が速い Par ti c le S war m Opti mi zation ( PS O) を 用 い て 最 適 化 問 題 を 解 い て い る 。 提 案 法 の有効性を示すため、北九州市八幡西区筒井交差点で実測した交通量と、その 実データにより設計した交通流マイクロシミュレータを用いてシミュレーショ ンを行った。提案法と現在の定周期信号制御方式を比較し、平均遅れ時間に関 し て 、 提 案 法 に よ る 制 御 が 、 現 在 の 定 周 期 信 号 制 御 方 式 よ り 27% 減 少 す る こ と を示している。 第 5 章「多差路交差点における実時間交通信号制御」では、十字路交差点を 拡張した多差路交差点における実時間交通信号制御法について述べている。多. 3.
(4) 差路交差点において、全ての交通信号現示を制御するためには、5 枝以上の道 路における渋滞量確率を考慮して渋滞量最適化問題を定式化する必要がある。 そ こ で 、 新 た に 多 差 路 交 差 点 交 通 量 BN 確 率 モ デ ル を 構 築 し 、 各 道 路 で の 渋 滞 量確率分布を予測している。次に、予測渋滞量確率分布を用いて算出した各道 路の渋滞量確率分布に基づき、多差路交差点における渋滞量確率分布最適化問 題を定式化し、最適な信号現示長を探索している。多差路交差点は、十字路交 差 点 に 比 べ 評 価 値 の 計 算 時 間 が 長 く な る の で 、 PSO を 用 い た 探 索 に お い て は 、 粒 子 数 と 探 索 回 数 が 制 限 さ れ る 。 こ の よ う な 場 合 、 PSO に よ る 探 索 は 、 局 所 解 に 陥 る 可 能 性 が 高 く な る 問 題 が 生 じ る 。 一 方 、 PSO を 改 良 し た 階 層 型 P S O ( H - P S O ) に よ る 探 索 は 、局 所 解 に 陥 る 可 能 性 は 低 い が 、収 束 時 間 が 長 い 問 題 が あ っ た 。そ こ で H - P S O を 基 に 、収 束 速 度 を 速 め る と 共 に 局 所 解 問 題 を 回 避 で き る よ う に 、 粒 子 速 度 更 新 式 の 改 良 と 初 期 粒 子 生 成 法 、 及 び GA 演 算 に よ る 粒 子 位 置 更 新 法 を 導 入 し た H - GA - PS O ア ル ゴ リ ズ ム を 提 案 し て い る 。 提 案 法 の 有 効性を示すため、福岡市南区井尻六つ角 6 差路交差点で実測した実データに基 づき 、マ イク ロシ ミュ レー タを 用い てシ ミュ レー ショ ンを 行っ た 結 果 、 H- GA - PS O ア ル ゴ リ ズ ム を 用 い た 交 通 信 号 制 御 は 、 現 在 の 定 周 期 制 御 方 式 に 比 べ て 、平 均 渋 滞 長 及 び 総 遅 れ 時 間 に 関 し て 、14.8 % 、20. 2% 、そ れ ぞ れ 減 少 す る ことを示している。 第 6 章「結論」では、本論文で得られた結果をまとめ、今後の研究について 展望している。. 以上を要約すると、本論文は、交通量が時々刻々不規則に変動することを考 慮 し た 交 差 点 渋 滞 量 確 率 分 布 最 適 化 問 題 を 定 式 化 し 、 多 差 路 交 差 点 交 通 量 BN 確 率 モ デ ル 及 び CA 交 差 点 交 通 流 モ デ ル の 構 築 と 、 こ れ ら モ デ ル に 基 づ く 交 通 流入・流出量の事前確率分布を算出すると共に、実時間内で信号現示を決定す る 階 層 型 G A - P S O ( H - G A - P S O ) ア ル ゴ リ ズ ム を 提 案 し て い る 。 更 に 、交 差 点 実 測 データに基づくシミュレーションにより、その有効性を示している。. これらの研究成果は、交差点交通信号の実時間確率的最適制御法に関する研 究成果として評価でき、制御工学の発展に寄与することが大である。よって、 本論文は博士(工学)の学位論文として価値あるものと認める。. 2013 年 1 月 16 日 主査. 早稲田大学. 教授. 工学博士. 早稲田大学. 教授. 博 士 ( 工 学 )( 東 京 工 業 大 学 ) 大 貝 晴 俊. 早稲田大学. 教授. 工学博士. 4. (早稲田大学). 李. 羲頡. (東京工業大学) 村田智洋.
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