早稲田大学大学院国際情報通信研究科
博士論文審査報告書
論 文 題 目
Efficient Road Traffic Control Towards CO
2Emissions Reduction
CO
2排出量の削減を目的とした交通トラヒック制御
申 請 者
LI Chunxiao
李 春暁
国際情報通信学専攻・情報通信システム分野 無線・衛星通信研究II
2012 年 7 月
地球温暖化は現在の重大課題の一つであり、将来的には海面上昇問題や洪水被害など 様々な現象が予想されることから、少しでも解決可能な方向を模索することが必要と考え られる。温暖化の要因の一つである温室効果ガスは二酸化炭素(CO2)、メタン、亜酸化窒素、
炭素のフッ素化合物および化石燃料の燃焼物等である。物資輸送に伴って放出される温室 効果ガス は主としてCO2であり、総量の約95%を占めている。従って物資輸送に関連し た温室効果ガス放出 が削減可能となった場合 、地球温暖化問題 は大きく軽減する可能性 がある。一方、ITS(Intelligent Transportation System:高度道路交通システム)はICT技術 を用いた輸送に関する情報化システムであり、これまでにナビゲーションや課金など様々 な取り組みが行われてきたが、トラヒック平均値に基づく制御が殆どであり、各車両個別 対応の制御は殆ど例がない。本論文で は、CO2削減に繋がる省エネルギー 化実現のための 交通トラヒック制御手法を各種提案している。特に無線通信技術を応用した ITS として、
交通信号に接近する車両を無線通信によって事前に把握し、通過車両に基づく信号制御を ダイナミックに行うもの、車両に対し推奨走行速度を通知するもの、更にはその両者を組 み合わせた複合制御など、車両個別対応に基づくトラヒック制御手法を提案している。本 論文では、これらの提案方式を導入した場合のCO2削減効果を、シミュレーションに基づ く評価により考察している。尚、本論文は英語で記述されており、以下に各章ごとにその 概要を述べ評価を加える。
第1章「Introduction」では、ITSの概念とエネルギー問題について簡潔にまとめている。
世界におけるITSの歴史、関連技術と現在の応用状況について記述し、特に ITS技術から の省エネルギー化への貢献に関して、交通渋滞軽減等の様々な具体的取組みを紹介してい る。
本章ではこれらの関連システムを網羅的に紹介しており、提案する方式と他システムの 差異を明らかにすることで、本論文の位置づけを行っている。
第2章「Overview of Electronic Toll Collection Technology and Global Warming 」では、 ETC
(Electronic Toll Collection:電子料金収受)に関する 基本的な技術と地球温暖化問題の概 要 を示している。ETCのコアテクノロジー、ETC の利点および各国におけるETC の開発 の歴史について紹介している。また、地球温暖化の理由、地球温暖化 による現代社会への 影響 、日常生活における地球温暖化を軽減するための 方法 を明記している。更に、地球 温暖化と公共輸送の関係について 述べ、輸送に関する温室化ガス排出量の削減が地球温暖
化を解決するための実現可能な方法の1つであることを示している。
本章では3章以降の要素技術であるETCをその歴史的経緯から特徴などを解説しており、
技術的な動向も合わせETCに関する網羅的な技術サーベイを与えている。また、交通トラ ヒックとCO2排出量の関係を考察しており、方式提案による温室効果ガス削減効果を示唆 することで研究全体の意義を明確にしている。
第3章「ETC-Associated Dynamic Traffic Light Control for Reducing Vehicles CO2 Emissions 」 では、ETC技術をベースにダイナミックな交通信号制御方式を提案し、その評価を行って いる。提案方式では、走行車両はETCシステムを用いて走行情報を無線通信により信号機 に送出し、集められた情報はリアルタイムに交通管制センタで分析され、交通信号制御ア ルゴリズムに基づいて最適な交通信号時間が求められる。その際、平均的な交通信号間隔 制御ではなく、個別車両に対応したダイナミックな交通信号制御を行うことで、より精度 の高い制御が可能となり、車両の進行効率は改善することが可能である。シミュレーショ ンによる評価により、赤信号時の平均の待ち時間の削減や、無停止での交差点通過の可能 性が向上していることを示した。
本章では信号機が各車両と無線通信を行うことで接近する車両を検知し、個別に対応し た信号機制御を行う実用性が高い優れた方式を提案している。評価結果から、提案方式を 用いることで待ち時間の短縮、無停止通過の増加、CO2 排出量の削減が可能となることが 明らかとなっており、高く評価できる。
第4章「A Travel-Efficient Driving Assistance Scheme in VANET by Providing Recommended Speed」では、推奨走行速度をドライバーに通知することで、全体としての進行効率の改善 が可能な方式を提案している。推奨走行速度はETC装置による無線通信より通知され、車 両は推奨された速度を受け取った後、ドライバーが推奨された速度に従い速度を変えるこ とで、より少ない待合せ時間、より少ないCO2排出量で目的地に到着することが可能とな る。ドライバーが推奨走行速度に従わない場合も考慮し、その従属率をパラメータとして 変化させ全体を評価している。
本章では推奨走行速度を各車両に与えることで、結果としてCO2排出量の削減に成功し ており非常に有益と言える。交通渋滞の緩和や消費エネルギーの削減につながることから 高く評価できる。
第5章「An Open Traffic Light Control Model for Reducing Vehicle’s CO2 Emissions Based on
ETC Vehicles」ではETC技術をベースにしたダイナミックな交通信号制御方式と推奨走行
速度によるトラヒック制御の組み合わせ方式を提案し評価を行っている。3 層から構成さ れるシステムアーキテクチャで提案モデルを表現しており、まず 1 層では主として位置、
速度等の車両の状況をETC経由で送出し、2層では車両からでのデータを受信して交通管 制センタに送信するほか、交通管制センタからの情報を車両に通知し信号機の制御を行う。
3 層では集められたデータを処理し、車両が交差点を通過する前に信号情報や推奨走行速 度情報を総合的に判断しその結果を各信号機、各車両にそれぞれ送出する。5 章ではこの ような複合化制御により効率的な交通トラヒック制御を目指している。
本章では信号制御に基づく車両トラヒック制御と推奨走行速度に基づく車両トラヒック 制御を複合させた場合の効果をシミュレーションにより評価しており、高いCO2排出量の 削減効果が得られたことから、非常に有効と言える。システムアーキテクチャの具体的な 提案も行っており、実用化の観点からも指標となる優れた研究と言える。
第6章「Conclusion」は、論文の結論と将来の研究課題について述べている。
以上要するに、本論文では ITS における無線通信応用による交通トラヒック制御方式を 多角的に検討しており、結果として高いCO2削減の効果が得られている。まず、ETCにお ける通信機能を利用し交差点に近づく車両を検出し、個別車両を意識したダイナミックな 瞬時制御による交通信号制御方式を提案し、その評価を行った。次に、車両に推奨走行速 度を提案することで、交通渋滞緩和と消費エネルギーの削減を実現した。更に、その2方 式を組み合わせることで優れたCO2排出量の削減効果が得られており、非常に有効と考え られる。本研究は今後の関連分野に大きな影響を与えることが予想され、高く評価できる。
このように本論文は国際情報通信学の発展に大きく寄与するものと高く評価できる。よっ て博士(国際情報通信学)の学位を授与するに値するものと認められる。
2012年7月18日 審査員
(主任)早稲田大学教授 工学博士(東北大学) 嶋本 薫 早稲田大学教授 工学博士(新潟大学) 佐藤拓朗
早稲田大学教授 工学博士(東京大学) 田中良明 早稲田大学教授 博士(工学)(早稲田大学) 松本充司