博 士 ( 歯 学 ) 長 谷 川 博 一
学 位 論 文 題 名
HuR 夕ンノヾクの細胞質発現と形質転換との関連 学位論文内容の要旨
[本研究の意義]
がんは遺 伝子の 病気で, 遺伝子 が何らか の影響 で変異を 受けるこ とによ り,活性 化または 不活化さ れ,そ れらの変 異が蓄 積して細 胞ががん 化する と考えら れてい る.口腔 領域でも,
いく っ か のが ん 遺 伝子の 活性化 や,p53などの がん抑制 遺伝子 の不活化 が,口腔 がんの 発症 に大きく 関わっ ているこ とが示 されてい る,ポス トゲノ ム時代を 向えmRNAの 解析が進む中,
最近 ,c‑′Dsc.mWなど のmRNAに は ,そ れ ら の運 命 を 左右 す る 領域 が 存 在す ることが 明ら かになってきた.
AU(アデニン‐ウラシル)‐richelement(ARE)は,ビ.′Dみc‐趨閃などのがん遺伝子や,皿‐の よう な サ イト カ イ ンなど 細胞の 増殖に関 わる遺 伝子のmRNAに 存在し ,AUUUAを 代表と するコ ア配列が 繰り返 されてい る領域 である.AREを持 つmRNAム蛾E.mRN帥は,通常,合成後すぐに 分解されるというサイクルを繰り返しているが,細胞に血清や熱ショック等の刺激が加わると,
一時的にARE.mRNAは安定化 され, 細胞が増 殖の方 向に向かうことが知られている.すなわち AREは これ らmRNAの 分解 と 安 定 化の 制 御 に関 す る領域で ,AREにAUF1を代表 とする いくっか のRNA結 合タン パクが結 合する と分解が促進され,一方で,HuRが結合すると,安定化に向かう ことが明らかにされている.
HuRは ,embryoniclethalabnormalvision(EL卿familyに属 す るRNA結 合タン パクで ,分 子内に3っのRNArecognitionmotifs(RRM)を持 ち,各々 のRRM間にはヒンジ領域が存在してい る,HuRは通常,核に局在しており,核と細胞質の間をシャトルすることが可能である,その移 動にはヒ ンジ領 域が重要 な役割 を果たして韜り,それを介してニつのpathwayでHuRが輸送され る こ と が こ れ ま で に 報 告 さ れ て い る 。 一 っ は , ヒ ン ジ 領 域 に 含 ま れ るHNSくHuR nucleoCytopla81薑liCShutthngSequence)に核外輸送タンパクであるTran8portin1ぐrrn1)やTm2 が結合して輸送されるpathwayで,もうーっは,同様にヒンジ領域にpp32が結合し,さらに核外 輸送タン パクで あるCRMlがpp32内に存在 するNES(nucleareXportsignaDを認 識して結合し,
HuRを核外輸送させるpathwayである,
東野らは以前,アデノウイルスのがん遺伝子産物E40rf6でトランスフオームしたがん細胞では,
HuR,pp32などのタ ンパクと 共に,ARE.mRNAが強制的 かつ恒常 的に, 核から細 胞質ヘ輸送さ れ, 安 定 化さ れ る ことを 見出し た(HigasMnoef心 ,2005). このこと より,ARE―mRNAの 輸 送・安定化が細胞がん化に関与するという,新たな発がん機構が提唱されており,またウイルス
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に よ ら な い ヒ ト の が んで も , 同様 の 発 がん 機 構 が存 在 す るの か に 興味 が 持 た れて い る 。
[目的および方法]
本 研究 の 目 的は , 口 腔が ん 細 胞お よ び 口 腔が ん 組 織で ,HuR船 よ びARE‑mRNAが 核から細 胞 質 へ 輸送 さ れ てい る か ,ま たARE‑mRNAに つ いて は安 定化され ている かについ て検討 する こ とである .これ らのこと が明ら かになれ ぱ,HuRの局在 を調ぺることにより,口腔がんの診 断ができる可能性がある,
本 研究では ,口腔がん細胞であるヒト舌扁平上皮がん細胞(HSC‑3)とヒト歯肉扁平上皮がん細 胞(Ca9.22),ならぴに正常細胞であるヒト歯肉線維芽細胞(HGF)と歯周靭帯(PDL)細胞を用いた,
ま ず,各細 胞にお けるHuRの細胞 内局在を 免疫組織 学的に 検索した.次いで,舌扁平上皮がん 組 織ならぴ に正常 粘膜組織 におけ るHuRの 細胞内局 在を同 様に免疫組織学的に検索した.さら に ,各細胞 を核と 細胞質に 分離し ,細胞質 分画中のHuRタ ンパクをウエスタンブロット法で検 出 し , がん 細 胞 と正 常 細 胞の 細 胞 質中 のHuR量 を 比 較し た . 次に ,ARE‑mRNAの核 外輸送 を 調 べるため に,各 細胞のロ .′DSc皿膠mRNAの 細胞内 局在を血 鯱Hhy・bridization法で検討し た .さらに ,ARE.mRNAの安定 化を検 討するた め,定 量性リア ルタイ ムRT.PCR法を用 いて,
その総量を測定した.
[結果および考察],
HSC.3,Ca9.22ならびにHGF細胞を用いて,.酵素抗体法によりHuRタンパクの存在を免疫染 色 で調べた ところ,H(酒では主に核にHuR陽性所見が認められたのに対し,HSC.3,Ca9.22で は 細胞質に もHuR陽性所見 が認め られた.このことは,口腔がん細胞ではHuRは核ならぴに細胞 質 に 存 在 し て い る が , 正 常 細 胞 で は 核 の み に 存 在 し て い る こ と を 示 し て い る . 次いで,口腔正常組織ならぴ舌扁平上皮がん組織を用いて,同様の染色を行ったところ,培養 細 胞の結果 と同様に,正常細胞では核のみにHuR陽性所見がみられたが,口腔がん細胞では核な ら びに細胞 質にHuR陽性所 見が認 められた.この結果は,舌扁平上皮がん組織においてもHuRは 細胞質に存在していることを示している.
さらに,細胞を分画しウエスタンブロットを行った結果,Hく押,PDLなどの正常細胞と比較し て,HSC.3,Ca9.22などのがん細胞では,細胞質側のHuR量が著明に多かった.この結果からも,
口 腔 が ん 細 胞 で は , HuRが 細 胞 質 に 多 く 存 在 し て い る こ と が 確 認 さ れ た , 以 上三っの 実験結果より,口腔がん細胞ではHuRタンパクが核外に輸送されていることが示唆 された。
一 方,血餓Hhybridization法の 結果をみ ると,HGF細胞 ではc.′Dsならぴにc弧げmRNAは核 およぴその周辺のみに局在していたが,HSC・3,Ca9.22などのがん細胞では核だけではなく細胞 質 側にも広 く分布していた.この結果は,口腔がん細胞では,ARE.mRNAが細胞質へ輸送されて いることを示唆している,
さ らに,定 量性リ アルタイ ムRT.PCR法の結果でも,正常細胞であるHGFに比べて,HSC‐3と Ca9.22細胞の方が,c.′Dsならびにc也邨などのARE‐mRNA量が著しく多かった,同様の細胞を用
よ りARE‑mRNAが多く 蓄積され ていること を示しており,このことは口腔がん細胞では ARE‑mRNAが安定化されていることを示唆するものと考えられる.
本研究によ.り,口腔扁平上皮がん細胞では,HuRとARE‑mRNAが細胞質ヘ輸送されているこ と,また同細胞でARE‑mRNAが安定化されていることが明らかになった.この結果は,HuRの 細 胞 質 局在 を 検討する ことによ り,口腔 がんの診 断ができる 可能性を 示してい る,
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
HuR 夕 ンパクの細胞質発現と形質転換との関連
審 査 は , 審 査 員 全 員 出 席 の 下 に , 申 請 者 に 対 し て 提 出 論 文 と そ れ に 関 連 し た 学 科 目 に つ い て 口 頭 試 問 に よ り 行 わ れ た . 審 査 論 文 の 概 要 は 以 下 の 通 り で あ る .
AU( ア デニ ン‐ ウラ シル)‑richek―nt(ARE)は ,c. .轟 )sJclm閂な どの がん 遺 伝子 や,
ヱ 己  ̄3の 様 な サ イ ト カ イ ン な ど , 細 胞 の 増 殖 に 関 わ る 遺 伝 子 のmRNAに 存 在 し ,mRNAの 分 解 と 安 定 化 を 制 御 す る 領 域 で ,HuRが 結 合 す る と 安 定 化 す る こ と が 明 ら か に さ れ て い る ・ HuRは 通 常 , 核 に 局 在 し て い る が , 二 っ のpa伽wayで 核 と 細 胞 質 の 間 を シ ヤ ト ル す る こ と が 可能 であ る.
本 研 究 は , 口 腔 が ん の 発 生 に お け るAR,E―mRNAの 輸 送 ・ 安 定 化 の 関 わ り を 明 ら か に す る 目 的 で , 口 腔 が ん を 対 象 に Hl凪 船 よ び 心 班 ― 位 恥 胎 の 細 胞 質 へ の 輸 送 な ら ぴ に AR E‐mRNAの 安定 化 につ いて 検索 した もの であ る.
最初 に, ヒト 舌扁 平上 皮が ん細 胞徂SC‐3)と ヒト 歯肉 扁平 上皮 がん 細胞 (Ca9.22),なら び に 正 常 細 胞 で あ る ヒ ト 歯 肉 線 維 芽 細 胞 (HGF) を 用 い て , 酵 素 抗 体 法 に よ りm凪 タ ン パ ク の 細 胞 内 局 在 を 免 疫 染 色 で 検 索 し ,H( 迥 で は 主 に 核 にlMt陽 性 所 見 が 認 め ら れ た の に 対 し ,HSC‐3,Ca9.22で は 細 胞 質 に もHl凪 陽 性 所 見 が 認 め ら れ る こ と を 明 ら か に し た . 次 に , 舌 扁 平 上 皮 が ん 組 織 な ら ぴ に 正 常 粘 膜 組 織 に お け るHuRの 細 胞 内 局 在 を 同 様 に 免 疫 組 織 学 的 に 検 索 し , 培 養 細 胞 の 結 果 と 同 様 に , 正 常 細 胞 で は 核 の み にHuR陽 性 所 見 が み ら れ る の に 対 し , 口 腔 が ん 細 胞 で は 核 な ら び に 細 胞 質 の 両 者 にHuR陽 性 所 見 が 認 め ら れ る こ と を 確 認 し た . さ ら に , 各 細 胞 を 核 と 細 胞 質 に 分 離 し , 細 胞 質 分 画 中 のHuRタ ン パ ク を ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 法 で 検 出 し て , が ん 細 胞 と 正 常 細 胞 の 細 胞 質 のH1凪 量 を 比 較 し ,H( 押 , 歯 周 靭 帯 (PDL) な ど の 正 常 細 胞 と 比 較 し て ,HSC‐3,Ca9.22など の がん 細胞 で は , 細 胞 質 側 のHuR量 が 顕 著 に 多 い こ と を 示 し た , こ れ ら の 結 果 は ,HuRは 正 常 細 胞 で は 核 の み に 存 在 し て い る が , 口 腔 が ん 細 胞 で は 核 の み な ら ず 細 胞 質 に も 存 在 し て い る こ と を 示 し て お り , 口 腔 が ん 細 胞 で はH1凪 タ ン パ ク が 核 外 に 輸 送 さ れ て い る こ と を 示 唆 し
則
信
明
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塚
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木
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主
副
副
局在を血s 錨UhybddiZa は)n 法で検索し,c 缸ならびにc ..m .アm 珊岨はII (迎細胞では 核およびその周辺のみに局在しているのに比べ,HSC ‐3 ,Ca9 .22 などのがん細胞では核 だけではなく細胞質側にも広く分布していることを確認した,この結果は,口腔がん細胞 で は , 釦 班  ̄ mm 必 が 細 胞 質 へ 輸 送 さ れ て い る こ と を 示 唆 し て い る . さ ら に, ARE ‐ mRNA の 安 定 化 を 検 討す る た め , 定 量 性 リ アル タイ ムRTPCR 法 を用 い て, その 総量 を測定 し, HSC ‐3 とCa9 .22 細胞では,正常口腔細胞であるHGF に比べて,
c 缸ならぴにc ..m .yc などのARE ‐mRNA 量が著しく多いことを明らかにした.同様の細胞を , ■
用 い て ,a 捌 Domy 血 lD に よ り RNAp 噛 伽era8eII に よ る 転 写を 停止 させ た実 験で も, 口 腔 が ん 細 胞 に お い て c 伽 mm 岨 量 が よ り 多 く 認 め ら れ た こ と は , 本 実 験 に お け るmRNA の増 加は 転写 の活性 化に よるものではなく,口腔がん細胞においてARE ‐皿RNA が正常細 胞に比べてより多く蓄積されている,すなわちARE ―mRN A が安定化されていることを示 している.
本 研究 によ り,口 腔扁 平上 皮が ん細 胞で は, HuR と 心灑.mRNA が細胞質ヘ輸送されて いること,また同細胞でARE .mRNA が安定化されていることが明らかになった.さらに,
このことは,HuR の細胞質局在の有無の検索が口腔がんの診断に有用である可能性を示し ている,
. 論文の審査にあたって,論文申請者による研究の要旨の説明後,本研究ならびに関連す る研究について質問が行われた.
主な質問事項は,
1 ) 血 清 刺 激 な ど の 際 に , ARE‑mRNA が AI 田 1 で は を く m 凪 と 結 合 す る 機 序 は , 2 )HuR に3 つの」虹氾結合Il 二lo 丗がある意義は,
3 )螢光免疫染色におけるmerge とは,
4 )核外輸送蛋白について,
5 )CRM ‐1inhibitor にっいて,
6 ) mm 岨 が 翻 訳 さ れ る 際 , ロ uR は ARE . mm 岨 と 結 合 し た ま ま な の か , 7 ) 白 板 症 に 韜 い て , HuR は ど の 程 度 , 核 外 輸 送 さ れ て い る の か , 等であった.
いずれの質問についても,論文申請者から明快な回答が得られ,また将来の研究の方向 性 に つ い て も 具 体 的 に 示 さ れ た . 本 研 究 は , 口 腔 扁 平 上 皮が ん 細 胞 に お い て HuR と ARE‑mRNA が 核 か ら 細 胞 質 に 輸 送 さ れ て い る こ と , ま た 同 細 胞 に お い て ARE‑mRNA が 安定 化さ れて いる こと を明 らか にし ,HuR の細 胞質 局在 の有 無の 検索が口腔がんの診断 に有用である可能性を示したことが高く評価された.本研究の業績は,口腔外科の分野は もとより,関連領域にも寄与するところ大であり,博士(歯学)の学位授与に値するもの と認められた.
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