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博 士 学 位 論 文

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博 士 学 位 論 文

内容の要旨および審査の結果の要旨

第 31 号

(平成 31 年 3 月授与分)

武 蔵 大 学

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はしがき

本号は学位規則(昭和28年4月1日文部省令第9号)第8条の規定による公表を目的として、

平成31年3月31日に本学において博士の学位を授与した者の論文内容の要旨および論文審査 の結果の要旨を収録したものである。

学位記番号に付した甲は学位規則第4条第1項(いわゆる課程博士)によるものであり、

乙は学位規則第4条第2項(いわゆる論文博士)によるものであることを示す。

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目 次

学位記番号 学位の種類 氏名 論文題目

甲第16号 博士(人文学)

フ ジ

コ ン 現代日本語におけるマス・メディアの言語表現

-新聞における敬語・外来語・省略語の使用を中心に

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氏名(本籍) 滕 錕(中国)

学位の種類 博士(人文学)

学位記番号 甲 第16号

学位授与日 平成31年3月 31日

学位授与の要件 学位規則(昭和28年4月1日文部科学省令第9号)第4条第1項該当 学位論文題目 現代日本語におけるマス・メディアの言語表現

―新聞における敬語・外来語・省略語の使用を中心に

審査委員 主査 武蔵大学教授 小川 栄一 副査 武蔵大学教授 高橋 一樹 副査 武蔵大学教授 黒田 享 副査 武蔵大学教授 荻野 紫穂

論文内容の要旨

本論文は、現代日本語とメディアの言語表現との関連を明らかにするために、全国紙三 紙(朝日新聞、読売新聞、毎日新聞。以下「三紙」という)を対象にして、皇室に対する 敬語、外来語、略語などの言語表現を取り上げて、これら言語表現の相違と報道姿勢との 関連、社会的背景などについて、実証的な研究を行ったものである。本学生は、博士後期 課程入学以来一貫してこのテーマに取り組み、すでに『武蔵文化論叢』(本研究科生の研 究成果公表を目的とする学術誌)に3本の論文を発表している。本論文は、これらを基に 大きく発展させたものであり、A4用紙約140ページからなっている。

本論文の章立ては次のとおりである。

第1章 現代日本語におけるマス・メディアの言語表現 第1節 マス・メディアの社会的な役割と特徴 第2節 マス・メディアの公共性

第3節 新聞の社会的な影響力と公共性 第4節 マス・メディアと日本語

第5節 テレビがもたらす日本語への影響 第6節 新聞がもたらす日本語への影響 第7節 本論文の研究理由・目的

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第2章 マス・メディアにおける敬語表現―昭和末期から平成にかけて天皇に関す る新聞報道を中心に―

第1節 研究の意義・目的・方法

第2節 昭和天皇崩御についての新聞報道

第3節 今上天皇パラオへの慰霊の旅についての新聞報道

第4節 三大紙における「昭和天皇崩御」と「今上天皇パラオへの慰霊の旅」報道 の比較

第5節 三大紙の報道における皇室敬語表現の特徴

第3章 新聞における「外来語の言い換え提案」に関する調査分析―大学生を対象 として―

第1節 研究の意義・目的・方法

第2節 朝日新聞における外来語の言い換え語の使用調査 第3節 読売新聞における外来語の言い換え語の使用調査 第4節 毎日新聞における外来語の言い換え語の使用調査 第5節 三大紙における外来語の使用調査の比較

第6節 外来語の言い換え語に関するアンケート調査 第7節 アンケート調査の分析

第8節 調査結果の分析

第4章 新聞における省略語―「~活」の使用とその社会的背景 ― 第1節 研究の意義・目的・方法

第2節 略語の定義

第3節 三大紙における「就活」に関する記事 第4節 三大紙における「婚活」記事の調査・比較 第5節 三大紙における「終活」記事の調査・比較 第6節 三大紙における「保活」記事の調査・比較 第7節 三大紙における「朝活」記事の調査・比較 第8節 調査結果に関する社会的背景の分析 第5章 本論文の結論

第1節 本論文の〈まとめ〉

第2節 本論文の結論 参考文献

本論文と既発表論文との関係

本論文では、第1章の冒頭において、従来、新聞を資料にした日本語研究は少なくない が、メディアの特質に関する洞察が不充分なままに行われていたことを鋭く指摘する。メ ディアの特質を考慮した上で、メディアによる日本語への影響という視点に立って研究を

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進めようとする。「構成されたもの」(=編集されたもの)というメディアの特質を認め た上で、その使命となる公共性が言語表現においても十分に発揮されているかという疑問 を呈するとともに、メディアの公共性と編集性との関係の中でその言語表現について研究 する意義を述べる。テレビが日本語を乱しているという先行研究を紹介し、これはメディ アが公共性に違反して日本語に影響を与えた例と主張する。新聞においても漢字表記のし かた、ことばの言い換え、皇室敬語の使用など、日本語に影響をもたらしたと指摘する。

このような現状認識の上に立って、次章以下、敬語、外来語、略語に関する問題を取り上 げ、新聞の言語表現が実際にどのような傾向を有しているのか調査し、その社会的背景に ついて考察しようとする。

第2章では、新聞の皇室敬語に焦点を当てて、昭和末期から平成にかけて、昭和天皇と 今上天皇に対する敬語表現と報道姿勢において三紙にどのような特徴があるか、また、ど のように変遷したかを分析する。具体的には昭和天皇崩御の記事(1989年1月7日)及び 今上天皇パラオ慰霊の旅記事(2015年4月8日・9日・10日)について、三紙の報道を取 り上げて、天皇・皇室に対する敬語表現を比較検討する。この調査結果をまとめると次の とおりとなる。

昭和天皇崩御についての新聞報道では、天皇の敬称には三紙共通して「陛下」を用い、

皇太子には「殿下」を用いている。三紙ともに、敬語「お/ご-になる」を用い、さらに、

最も敬意が高い敬語、「あらせられる」と「おかせられる」をもしばしば用いている。こ のように、三紙とも総じて敬意の高い表現を用いている。これに対して、今上天皇パラオ 慰霊の旅記事においては、三紙ともに「陛下」を用いて、昭和天皇崩御の報道と天皇の敬 称に変化はないが、皇室の敬称には変化があり、「皇太子さま」「秋篠宮さま」など、「さ ま」を用いるようになった。敬語表現では昭和天皇崩御報道にあった「お/ご-になる」

は三紙ともに用いていない。読売・毎日では「れる・られる敬語」を用い、読売はこれで 統一しているが、毎日では敬語を全く用いない場合もしばしばある。朝日に至っては天皇 や皇室に対して敬称を用いても、敬語を一切用いていない。たとえば、天皇の言葉を引用 する場合にも「○○と述べた」「○○と語った」「○○と述べ、杯をあげた」「○○と答 えた」「○○と声をかけていた」のような常体の表現を用いている。

このような皇室に対する敬語表現の変化について、本論文では時代の変化に起因するも のと見なしている。すなわち、昭和末期までは三紙ともに天皇・皇族に対して敬語・敬称 を用いていたが、これはまだ戦前における極度に高い皇室敬語の名残と捉えている。朝日 にあっては、今上天皇パラオ慰霊の旅記事において、敬称を用いても、敬語を使用しなく なっている。そのよりどころは朝日が刊行した『皇室用語用例集』(1990年3月)に示さ れた敬語使用の原則(「皇室に対しては国民感情などに照らして相当と思われる敬語を使 う。ただし、過剰な敬語を使わないことを基本とする」)であり、「皇室記事に関する取 り決め集」(1993年 12 月)では、述語に敬語を使わないことが決められている。要する

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に、朝日は社の方針に従って皇室記事について無敬語を徹底している。朝日が1993年4月 に行った全国世論調査では皇室に敬語を使った方が良いと意見が出た。それにもかかわら ず、現代社会における新聞用語の社会的責任を考慮した結果として、皇室にも無敬語へ方 針転換したということである。これに対して、他 2紙は、動詞に付ける「れる・られる」

敬語だけと簡素化しつつも依然として敬語表現を用いている。このことは、読者の天皇・

皇室に対する敬意という意識の傾向に従うものと見なしている。要するに、皇室に対する 敬語表現について、自社の方針を貫く朝日、読者の意識の傾向に従う読売・毎日という、

報道姿勢の相違があると結論づけている。

第3章では、国立国語研究所の提唱した「「外来語」言い換え提案」(第1~4回 2003 年4月~06年3月。以下「言い換え提案」という。)において「言い換え語」が示された

「外来語」(国立国語研究所によれば、公共性の強い場で使われている外来語のなかで一 般への定着が不十分で分かりにくいとされるもの。以下、一般の外来語と区別するために、

「」を付けて表す)の使用例と、学生の理解度との相関について調査・検証を行っている。

わかりにくい外来語のあることは以前より指摘されている。日本語教育の現場においても、

海外の日本語学習者にとって外来語の習得は困難という実態が報告されている。このよう な現状を踏まえて、1991年から2015年の25年間を5年ごとに区切って、三紙記事におけ る「外来語」の例数を調査し、上位40語の「外来語」に絞って分析を行った。さらに、大 学生を対象にして「外来語」についてアンケート調査を行い、大学生の関心度、理解度、

使用意識などを探るなど総合的な分析を行った。

この期間において使用例が最も多い「外来語」は「ケア(手当て、介護)」(以下、( ) 内に「言い換え語」を示す)で、三紙すべてに共通している。ついで、「アクセス(①接 続 ②交通手段 ③参入)」、「シェア(①占有率 ②分かち合う、分け合う)」、「コミ ュニティー(地域社会、共同体)」、「ビジョン(展望)」、「グローバル(地球規模)」、

「ガイドライン(指針)」、「インフラ(社会基盤)」などが多い。使用例の多い「外来 語」上位10語の中で、以上の8語が三紙に共通して現れている。

さらに、高使用頻度語10、及び中使用頻度語10を取り上げ、武蔵大学人文学部・社会学 部の学生計72名を対象にアンケート調査を行って(2016年7月22日実施)、大学生の関 心度、理解度、使用意識、妥当性などを考察する。まず、大学生の使用意識について調べ ると、現代日本社会における外来語の使用について、「今のままで良い」とする回答が7割 を超える。すなわち、これ以上外来語が増加しない方が良いという考え方である。さらに

「もっと減った方が良い」という回答も8.3%あった。高使用頻度10の中では「ビジョン

(展望)」「コミュニティー(地域社会 共同体)」「アクセス(①接続 ②交通手段 ③ 参入)」について、「言い換え提案」を妥当とする回答が多い。また、「インフラ(社会基 盤)」「ガイドライン(指針)」「グローバル(地球規模)」「ケア(手当て 介護)」は 使用頻度が高く、大学生の中でも定着度が高いと推測される。また、中使用頻度語 10 の

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「意味の理解度」については「わからない」とする回答がきわめて多い。特に多いのは「セ クター(部門)」67%、「アセスメント(影響評価)」64%、「シーズ(種)」58%であり、

「聞いたことがない」とする回答も「コミュニケ(共同声明)」58%、「シーズ(種)」56%、

「使ったことがない」とする回答では「アセスメント(影響評価)」92%、「セクター(部 門)」90%、「シーズ(種)」87%が高い。「言い換え語」の妥当性と必要性については、

「良い」の回答は「クライアント(顧客)」50%、「良くない」の回答は「アセスメント(影 響評価)」21%、「分からない」の回答は「コミュニケ(共同声明)」32%である。

上記の調査から、国立国語研究所が「言い換え語」を提案しているにもかかわらず、そ の対象となる「外来語」があいかわらず多用されていることを明らかにした。そして、新 聞が意味の分かりにくい「外来語」を避けて「言い換え語」を用いるならば、読者は外来 語の行き過ぎた使用に合わせる必要はないと述べている。

第4章では、「就活」「婚活」「終活」「保活」など、「~活」という略語の新聞にお ける使用について調査研究を行い、このような略語がなぜ生じたのか、社会の変化や背景 を視野に入れて考察したものである。改まった場面の話しことばや書きことばでは省略し ない言い方が用いられるにも関わらず、新聞においても略語の多いことは着目に値する。

本論文では、新しい略語が次から次へと出現すれば、読者にとっては意味が理解し難い状 況が頻繁に起きるのではないかと予測しつつ、これらの略語の各新聞およびその他資料に おける初出を探し出すとともに、その発生と定着の背景を考察している。

「就活」について、本論文ではその定着が日本企業の雇用状況の変化と密接なつながり があると見なしている。バブル経済の崩壊は日本経済にとって大きな衝撃となり、その後 の長引く不景気の結果、終身雇用、年功賃金、一括採用、企業別労働組合など、日本独特 の雇用慣行が次第に崩れ、企業の採用活動にも大きな変化が生じた。1990年代後半以後、

一年を通して採用活動をする企業が増え、学生の就職活動がいっそうの厳しさを増してく る。「就活」という語は1980年代からあったといわれるが、『現代用語の基礎知識』には 2001年版に初めて現れる。朝日において「就活」が初めて登場したのは2000年10月であ り、三紙の中で最も早い。連載コラム「就活(仮題)」の「社告」に「就活」があり、同年 10月3日の朝刊から翌年8月21日まで連載された。読売の初出は2001年1月21日大阪 版朝刊(「就職氷河期こそ結束 関西の大学生NGOがイベント開く/大阪・吹田」)で あり、毎日の初出は2001年2月22日の東京版夕刊(「「憂楽帳」最近の若いモン」)で あることを突きとめている。この結果、「就活」の定着はいわゆる「就職氷河期」の時期 にあったと見なしている。

「婚活」について、1980年代以後、女性の社会進出、終身雇用の崩壊による男性の収入 不安定化、自由恋愛の定着などが背景となって、「結婚活動したくてもできない人」が増 えたといわれる。「婚活」という語は社会学者の山田昌弘が考案・提唱した語で(山田昌 弘・白河桃子『「婚活」時代』2008年2月)、2007年11月5日の週刊『AERA』に「結

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婚したいなら“婚活”のススメ」と題する記事があり、これが「婚活」の初出とされてい る。『現代用語の基礎知識』には2010年版に初めて「婚活」が現れる。新聞記事として初 出が最も早いのは読売で、2008年4月7日朝刊東京面(「平成を歩く」恋愛してます(笑)

結婚と分離、ギャグ対象」)、朝日では2008年5月31日朝刊福島県版の前掲書紹介記事、

毎日では 2008年11 月 18日の地方版東京で、「香山リカのココロの万華鏡:大切なのは

「婚活」の先」である。

「終活」については、朝日2009年8月21日週刊の広告欄で、『週刊朝日』2009年8月 21日号の見出しとして初めて現れる。読売では、2010年7月30日大阪夕刊の見出しに「人 生最後に着たい服 あす大阪で終活ファッションショー」とあり、毎日では 2010年12月 10日東京朝刊の家庭面に「女の気持ち:終活」と題する記事が初出である。なお、ユーキ ャン新語・流行語大賞の2010年候補語60語にも含まれ、『現代用語の基礎知識』では2012 年版に初めて現れている。

「保活」については、朝日2010年3月9日朝刊の生活面、「保育園探し「認可」は全滅 記者が経験、奮闘10カ月目」という記事の中に「保活」の初出がある。毎日では2012年 5月29日地方版愛知の「保活:育休記者の保育園探し 第1希望は11人待ち/愛知」と いう記事、読売で2013年4月17日中部朝刊の「名古屋市長選 待機児童 解消進まず 狭 き門 2年連続 全国ワースト=中部」という記事が初出である。

「朝活」は、朝日2009年7月13日朝刊社会面の「(何の数字)15%」が初出、毎日では 2009年8月2日地方版東京の「朝活:若者に人気 丸の内の市民講座、受講生200人」、

読売では2009年10月10日東京夕刊の「[いまドキツ] 「朝活」出勤前に自分磨き、ステ キな出会いも」が初出である。

以上、三紙における各語の初出を明らかにするとともに、それ以後の期間における三紙 の用例数を計測し、略語の発生から定着までを数量的に示している。その上で、これらの 略語が発生・定着した社会的背景について分析する。現代社会において、人間は生まれて から間もなく幼稚園や小学校に入学し、大学を卒業するまで教育(活動)を受け、そして、

大学を卒業するにあたり就職(活動)をして、社会の一員となって役割を果たそうとする。

一方、家庭は社会の組織を構成する重要な要素である。結婚(婚活)し、子どもを産み(妊 活)、子どもが生まれたら保育園に預け(保活)、社会において働く。一方、人間は年を 取るにつれて死を免れることはできないので、死ぬ時に備えて生前から活動(終活)する。

もちろん、このような一生の活動は現代に限ったことではないのだが、社会情勢の変化に 伴い、人々はこれらの活動に多大なエネルギーを使うことになった。本論文では、このよ うな社会変化が「~活」略語の流行を生み出した最大の原因であろうと考えている。新聞 の読者は多種多様であるため、全ての読者にわかり易く、正しい日本語を堅持することが 求められている。それにもかかわらず、新聞がこのような略語を使用することの意図を探 究し、略語の使用によって現代の社会を読者に強く実感させることをねらっているのであ

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ろうと推測している。

第5章では、第2章から第4章までの研究成果をまとめた上で、外来語や略語の多用な ど、新聞にも公共的な言語使用に反する一面のあることを述べている。最後に、新聞は読 者の年齢層が極めて多種多様であることから、言語表現においてもその大多数にとってわ かりやすく、正しいと考えられている語を用いること、読者の意識に一致するように配慮 すべきことを主張して、本論文の全体を締めくくっている。

論文審査の要旨

本審査委員会は本論文について、 (1)背景にある学識、(2)研究方法、(3)論旨の妥当性、

(4)論文としての完成度など、四つの観点に基づき、各審査委員の専門的見地に立って、慎 重に審査を行った。

(1)背景にある学識

本学生が多数の専門的文献を読破していることは本論文の参考文献一覧に示されている とおりである。特に日本語学、メディア関連の図書・論文にも幅広く目を通し、しかも研 究の趨勢を的確に把握している。これは本論文第1章における論述によって充分に証明さ れる。本学生の有する日本語の会話力、文章表現力、文章読解力など、日本語運用能力の 高さも大いに評価される。このように本学生の専門的学識および日本語力はきわめてすぐ れ、これが本論文の水準を高めている。

(2)研究方法

本論文は発行部数の多い全国紙として、朝日、読売、毎日を資料として調査したもので、

各紙の縮刷版を用いて広範に閲覧し、記事・用語等の検索には、朝日新聞記事データベー ス「聞蔵Ⅱビジュアル」版、読売新聞記事データベース「ヨミダス歴史館」版、毎日新聞 記事データベース「毎日Newsバック」版を利用しており、研究範囲の広さ、精度の高さが 保証されている。対象とする各語の用例を丹念に探し出し、および用例数を計測している が、その作業量や綿密さを高く評価することができる。

(3)論旨の妥当性

本論文は、新聞の言語表現を実証的に究明するとともに社会的背景を考察するなど、多 角的に分析している。実証に裏付けられたその論旨は概ね妥当であり、しかも新たな指摘 や創見が随所に示され、いずれも傾聴に値する。

第1章では、従来における新聞の言語表現を取り上げた研究において、メディアの特質 に関する洞察が不足していた点を指摘しているが、これは的を射ている。メディアは公共 的であろうとする一方で、構成されたもの(編集されたもの)でもある。このような特性 がメディアの言語表現に影響していることは十分に予測される。この視点に立って新聞の

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言語表現を研究する本論文の方法はきわめて有意義である。

第2章では、皇室に対する敬語表現について、三紙の状況を詳しく調べた上で、自社の 方針を貫く朝日、読者の意識の傾向に従う読売・毎日という、報道姿勢の相違があると結 論づけているが、この指摘は評価に値する。公共性を目指す新聞であるが、皇室敬語の表 現においては三紙で対照的な結果になっていることは興味深い。

第3章では、国立国語研究所より提案された「言い換え語」があるにも拘わらず三紙に おいては「外来語」が多数使用されていることを明らかにした。もちろん「言い換え提案」

に強制力はないが、公的機関の提案に三紙が従っていないという状況の指摘は注目に値す る。外来語は若い世代が多用する印象があるが、大学生に対するアンケート調査によって、

7割以上が外来語の使用が増加しない方が良いと回答し、減らすべきという回答も8.3%あ ったという指摘も傾聴に値する。

第4章では、「~活」という略語の新聞における初出を丹念に調べた作業は評価してよ い。また、それらの略語が発生した社会的背景についての考察は、およその方向性として 認めてよいであろう。

第5章では、外来語や略語の多用などを根拠に、新聞にも公共的言語使用に反する一面 があると主張するが、傾聴に値する見解である。

(4)本論文の完成度

本論文は全体として完成度は高いと認められるが、異論の生ずるところ、なお改善すべ き余地が皆無とはいえない。

第1章第5節・第6節では、メディア(テレビ、新聞)が日本語に与えた影響について 述べているが、その認識は先行研究に従ったものであり、本論文独自の明確な事例が示さ れていないのは残念である。

第2章では、皇室に対する敬語表現の時代的な変化、三紙の間の相違などを指摘してい るが、さらに、各紙の用語集と実際の用例との関連についても言及すべきであった。

第3章では、三紙における「外来語」の用例数を1991年から2015年まで計測したこと はよいが、「言い換え提案」の趣旨と充分に連関させた論になっていないようである。「言 い換え提案」(2003年4月~06年3月)が出された前後で、三紙の「外来語」の用例数に 変化が具体的に生じたかどうかを詳しく観察することが重要であったのではないか。「言 い換え提案」以後に三紙の「外来語」が減少するか増加するかは、三紙が「言い換え提案」

に従ったかどうかを見きわめる指標となるからである。

第4章では、近年の流行語ともいうべき「~活」略語について詳細な調査を行っている が、これらの初出については新聞以外の資料についても調査して欲しかった。また、「~

活」略語の発生した社会的背景についての考察があって、その方向性はおおむね認めてよ いが、裏付けとなる具体的なデータを充分に示すことができれば、より説得力が高まった ことであろう。

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第5章では、外来語や略語の多用などを根拠に、新聞にも公共的言語使用に反する一面 があると主張するのであるが、その主張は社会的には重大な意味をもつだけに、もう少し 丁寧な論証をすべきであった。

以上のとおり、本論文にはまだ改善の余地があるので、本学生の今後の研鑽に期待した い。しかし、ここに指摘した点は重大な欠陥ではなく、本論文の評価を大きく下げるもの ではない。むしろ本論文に示された新たな指摘や創見を高く評価したい。

最終試験結果の要旨

2018年12月20日、審査委員全員との面接による最終試験(口述試験)を行った。本学 生による論文概要の説明の後、各審査委員から細部にわたる質疑がなされた。一例を挙げ ると、新聞の言語表現における公共性を客観的に担保する基準は何か、最近の若者はあま り新聞を読まないように新聞に対するスタンスが年代によって差があるのではないか、日 本語の乱れをどのように定義するか、日本語の乱れと時代的変化とをどのように区別する か、本論文で取り上げられた話題がすべて日本語の乱れと関係すると捉えてよいか、皇室 敬語など新聞の言語表現に差違の生じる理由は何か、外来語の多用を判断する客観的な基 準は何かなど、研究の根幹にかかわる質問が数多く出された。これらの点は従来の日本語 研究においても一致した見解があるわけではない。本学生はそれぞれ自己の見識に基づい て丁寧な説明を行った。ここからは本論文の基礎をなす考え方と学識とをうかがい知るこ とができた。

最終試験を終えて、審査委員の一致した見解として、本論文の水準の高さ、本学生の能 力を確認した。本論文における疑問点や欠陥は皆無ではないが改善は可能であり、本論文 のもたらした研究成果の評価を著しく下げるものではないと判定した。

学位授与の可否

本審査委員会は、本論文の背景にある提出者の学識、研究方法、論旨の妥当性、論文と しての完成度などの観点から総合的に評価し、慎重に検討した結果、本学生への博士学位 授与を可と判定する。

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平成31年4月 発行

発行 武蔵大学

編集 武蔵大学 運営部大学庶務課

〒 176-8534 東京都練馬区豊玉上1-26-1 TEL. 03(5984)3713

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