博 士 学 位 論 文
内 容 の 要 旨 お よ び
審 査 結 果 の 要 旨
甲 第 172号
2020 創 価 大 学
本号は学位規則(昭和28年4月1日文部省令第9号)第8条の規程による公表を目的として、平成 30年3月18日に本学において博士の学位を授与した者の論文内容の要旨および論文審査の結果 の要旨を収録したものである。
学位番号に付した甲は、学位規則第4条1項(いわゆる課程博士)によるものである。
創価大学
氏 名 ガウタム プラカシュ 学 位 の 種 類 博 士 ( 経済学 ) 学 位 記 番 号 甲 第 172 号
学 位 授 与 の 日 付 令和 2年 9月 12日
学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当
創価大学大学院学則第場31条第2項該当 創価大学学位規則第3条の3第1項該当
論 文 題 目 インドの観光産業の現状と経営学的課題に関する研究
:宗教観光と医療観光を中心に
論 文 審 査 機 関 経済学研究科委員会
論 文 審 査 委 員 主査 高木 功 本学経済学研究科教授 委員 平岡秀福 本学経済学研究科教授
委員 池本幸生 東京大学東洋文化研究所教授
論文題目
「インドの観光産業の現状と経営学的課題に関する研究:宗教観光と医療観光を中心に」
【論文内容の要旨】
インドの観光産業は今世紀に入り、急成長しており、インド経済の主要なドライバーの一つと なっている。2012年現時点でインドの観光産業はインドの総GDPの6.6%を占めており、総雇
用の7.7%を占めている。観光分野は特に雇用の創出、外貨獲得の重要な源であり、地域および
ホストコミュニティの経済発展に寄与している。本論文はインドの観光分野の中でも最も重要か つ特徴的な宗教観光と医療観光に焦点を当て、その現状、問題点及び今後の課題についての研究 成果である。
様々な宗教の起源として、インドは世界中から巡礼者を集めている。ヒンドゥー教はインドで 最も古い宗教であるが、仏教、ジャイナ教、シク教などのさまざまな宗教の発祥地であることか ら、文化的多様性に富み他国から持ち込まれた他の宗教も常に歓迎して来た。インドの宗教と宗 派の多様性はおそらく地球上のどこよりも高いであろう。このような現状の中、宗教が社会に及 ぼす経済効果は大きい。
インド観光産業を支えている医療観光は、経済的にも社会的にも大きな貢献をしている。経済 面では大量の雇用を生み出し、GDPに大きく貢献し、社会的には直接的にも間接的な便益を提 供している。インド政府も医療観光産業に力を入れている。海外の医療サービス需要は高いが、
自国の高い治療費や治療に対する待ち時間などを背景として、国境を越えてインドの治療サービ スを受ける患者が増えている。このような現状の中で医療観光客(患者)は一般に先進国から来 ており、それらの圧倒的多数がインドを含む新興発展途上国での治療を求めている。
本論文の目的は、第 1 にインドのインド宗教観光の中でも巡礼観光、そして宗教トラストの 形成と発展、そしてその収益構造、Information Technology(IT)を利用することで生み出さ れている経済効果、これらが社会に与える経営学的な関係性を明確にすること、第 2 にインド の医療観光の長所と短所を紹介し、現状及び問題を明確にすることである。さらにインドの観光 の強みとして考えられている医療観光はなぜ世界中から注目されるのか、そして代替医療とウェ ルネス観光に焦点を当て、現地社会に与えている経済効果及び社会に与えているベネフィットを 明らかにしている。現地社会へのインフラを整備することにより、観光産業は持続可能なものに なると考えられる。
本稿は序章と終章を除いて、7章から構成されている。
第 1 章ではインド観光産業の先行研究とレビューを行っている。ここでは先行研究を三つに 分けている。7インド観光の歴史的な研究、宗教観光ついての先行研究と医療観光ついての先行 研究である。
第 2 章は観光の定義並びにインドでの観光産業の展開、歴史的背景と社会への関係及びイン ド観光産業における今後の発展における問題を明らかにしている。
第 3 章はインド宗教観光、特に巡礼観光の歴史と現状についてその経営的な構造について明 らかにしている。また宗教観光における政府の政策について、5カ年計画における宗教観光支援
策の推移と宗教トラストの形成支援ついて明らかにしている。
第 4 章はインドの宗教トラストのティルマラ・ティルパティ・デヴァスタナム(Tirumala Tirupati Devasthanam、略、TTD)に焦点を当てて、特にレベニューマネジメントに関して事 例研究を行っている。この章ではトラストの経営及び経済的発展のあり方を具体的な年度別数値 例を用いてその発展の経緯を明確にしている。この章の結論として、2011-2012年からトラスト の収入及び支出両方が上がりつつあるため、筆者はTTDに対してさらに新たなレベニューマネ ジメンが必要となることを提案している。
第 5 章では、インド観光の中でも医療観光に焦点を当て、その現状、展望と政策について明 らかにしている。インドの医療観光の構造と区分、インドと外国の医療費の比較、インドの医療 観光成長に対する政府の支援、医療観光発展の主な要因、医療観光の短所、医療観光の問題点に ついて述べている。
第 6 章はインドの医療観光の中でもユニークなインドの代替治療方法に焦点をあて、その可 能性と問題を明らかにしている。インド代替治療方法の促進と発展のためにインド政府が特に力 を入れているアユッシュ省(Ministry of AYUSH)についてもその役割について明らかにしてい る。
第 7 章ではインドの観光産業におけるインド政府の役割を探る。インド政府観光省が設立さ れる前後の各五か年計画における観光産業の位置づけと観光促進策を明らかにしている。インド の各5カ年計画における宗教観光への支援やインフラの発展、2,000年以降における国内医療へ のFDIの導入と医療産業の発展について明らかにしている。
筆者は序章において観光産業の枠組みを図表1.1として提示している。観光産業のダイナミズ ムを包括的に把握するために、政府機関、観光協会並びに観光業者による、顧客に対する観光情 報の提供と観光遺産、イベントの提示等,そして実際の観光に至るまでの流れをステップごとに 理解し易く説明している。そして本論文の全体的な流れと構成についても、図表1.2として提示 し、インドの宗教観光と医療観光の研究の流れを明示している。
図表1.1 観光産業のフレームワーク
出所:筆者作成
図表1.2 本論文のフレームワーク
出所:筆者作成
【審査結果要旨】
最初に論文提出者より、論文の概要についてプレゼンテーションがあり、その後、質疑応答が 行われた。
審査員より、主に宗教観光、特に本論第 4 章「インドの宗教トラストのマネジメントコント ロール:TTDの収益管理に関する研究」に関して質疑応答がなされた。
審査員から、収益構造の分析における一人当たり「支出」は巡礼者による支出を指すのか、サ ービスを提供するTTDの支出なのかの確認があった。これについては、TTDが巡礼者を迎える ための支出を現在価値に計算し、巡礼観光者数で割った巡礼者一人当たりに対する実質支出であ ることが確認された。60年代初めから70年代初めにかけて収支構造は大きく転換する。巡礼者 数の増加につれて、TTD が負担する巡礼者一人当たりの実質支出が急減した。他方、巡礼観光 者の増加とともに巡礼者の一人当たり実質支出、すなわちTTDからすると巡礼者一人当たりか ら得られる実質収入が増加した。結果として70年代初めには、TTDにとって一人当たりの実質 収入は一人当たりの実質支出を上回り、収益収支がプラスに転ずる。この収益構造のプラスへの 変化は、今日まで持続していることが、本論文によって確認されている。しかし、2000年代に 入り、プラス収益は確保されているものの、巡礼者一人当たりの支出、収支双方とも上昇傾向に あることが示され、今後の動向が注目される。
さらに、審査員から、本論で扱っているTTDの収支構造に関する分析は、いわゆるフローで ある収益のマネジメント分析であるが、ストックに関する収支構造の分析、資本マネジメントに 関する分析が必要ではないかとの質問があった。これに対して、TTD のバランス・シートの全 貌は非公開でため、データ取得が難しいので、今後の課題としたいとの回答があった。
また審査員からは、TTD の巡礼者観光客に対する「支出」の具体的な費用項目の確認、また 同様にTTDの収益計算における支出、収入のそれぞれのインフレ率の割引について利用してい る、ソフトウェアーの計算式について質問があった。特にインフレ率はインド政府の物価統計(消 費者物価指数)によっているのかどうか、すなわちデータの原出典の確認があった。これについ ては、後程確認するとの回答を得た。しかしこの点については、審査員からあらためてインド政 府の統計に基づいていると思われること、また特別な計算式によるものではなく複利計算式を用 いて実質値を得ることができることが指摘された。
医療観光については、政府の支援策、またインドを訪れる医療観光の地域・国別傾向について、
またNRI(国外居住インド人)の医療観光で訪印する動向について、審査員から質問があった。
さらにインドにおける伝統的医療の可能性について意見を求められた。
最後に審査員から、その他表記、図表の形式、単位の明示等において修正すべき点が指摘され た。
審査員一同、本論文の最も大きな貢献、またオリジナリティは第 4 章の巡礼観光の実態を分 析したTTDの事例研究にある点で一致した。これまでインドの宗教観光特に宗教トラストに関 して、包括的でまた収益構造の中期的分析はなく、学術的価値が認められるという点において本 論文の博士論文としてその貢献と独自性を認め、合格することで合意した。
以上