はじめに
肺炎球菌は肺炎,菌血症,髄膜炎の起炎菌と して大きな位置を占め,有効な抗菌薬のなかっ た時代は肺炎球菌感染症の予後は極めて不良で あった.そのような時代背景の中でワクチン開 発が進められ,当初は全細胞型ワクチン(whole cell vaccine)が作られたが,莢膜多糖体に対す る血清型特異抗体が肺炎球菌の感染防御に重要 であることが判明し,莢膜多糖体を利用したワ クチンの開発が行われるようになった.莢膜多 糖体ワクチン,莢膜多糖体蛋白結合型ワクチン (肺炎球菌結合型ワクチン)へと開発が進み,現 在に至っている.1.肺炎球菌結合型ワクチンの免疫機序
肺炎球菌の莢膜多糖体抗原はT細胞非依存性 抗原のため,免疫機能の未熟な乳幼児では十分 な免疫を誘導できず,免疫学的記憶が残らな い.この点を改善するため,莢膜多糖体抗原に キ ャ リ ア 蛋 白( 非 病 原 性 ジ フ テ リ ア 蛋 白: CRM197)を結合させた肺炎球菌結合型ワクチ ン(pneumococcal conjugate vaccine:PCV)が 開発された.PCVはT細胞依存性抗原であり,乳 幼児にも免疫原性があり,免疫学的記憶が認め られ,追加接種によるブースター効果がある.2.肺炎球菌結合型ワクチンの種類
現在,我が国で使用可能なPCVは 2 種類あり (表),PCVの導入経過を下記に示す. 2009年10月16日に7価肺炎球菌結合型ワク チン(PCV7:含有血清型4,6B,9V,14,18C, 19F,23F)が製造販売承認を取得した(海外で は2000年).2010年11月26日,子宮頸がん等肺炎球菌蛋白結合型ワクチン
要 旨 永井 英明 肺炎球菌結合型ワクチンは莢膜多糖体抗原にキャリア蛋白を結合させ たワクチンで,T細胞依存性抗原であり,乳幼児にも免疫原性があり,免 疫学的記憶が認められ,追加接種によるブースター効果がある.13 価肺 炎球菌結合型ワクチン(PCV13)は,23 価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチン (23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine:PPSV23)と同等か それ以上の免疫原性を示し,オランダの大規模臨床試験では菌血症を伴わ ない肺炎球菌性肺炎にも有効性を示し,その効果は期待される.〔日内会誌 104:2324~2329,2015〕 Key words 肺炎球菌結合型ワクチン,T細胞依存性抗原,血清型置換
国立病院機構東京病院呼吸器センター
Knowledge and Strategy in Pneumococcal Vaccines for General Physicians. Topics:III. Characteristics and Differences in Pneumococcal Vac-cines;2. Pneumococcal conjugate vaccine.
ワクチン接種緊急促進事業が開始となり,5 歳 未満の小児に対するPCV7 接種に公費助成が行 われることとなった.PCV7 は 2013 年 4 月 1 日 に定期の予防接種(小児に限る)となった. 2013年6月18日に13価肺炎球菌結合型ワク チン(PCV13:含有血清型はPCV7 に 1,3,5, 6A,7F,19Aが加わった)が日本で製造販売承 認を取得し(海外では 2009 年),2013 年 11 月 1 日に小児の定期予防接種に用いるワクチンが PCV7 からPCV13 へ変更となった.PCV13 は当 初小児用であったが,2014 年 6 月に 65 歳以上 における「肺炎球菌による感染症の予防」の効 能・効果が追加された.2015 年 3 月 26 日に小 児 用 と し て 10 価 肺 炎 球 菌 結 合 型 ワ ク チ ン (PCV10)が日本で製造販売承認を取得した(海 外では 2008 年). ここでは「内科医に求められる肺炎球菌ワク チン・ストラテジー」がテーマであるので,高 齢者に適応のあるPCV13を中心に解説し,小児 に関しては多くは触れない.ワクチンの有用性 を検討する際には,免疫原性,安全性,臨床効 果,費用対効果の 4 項目について評価する必要 があるが,費用対効果については別項に譲る.
3.PCV13の免疫原性と安全性
PCV13 と 23 価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチン (23-valent pneumococcal polysaccharide vac-cine:PPSV23)の免疫原性と安全性を比較した 報告について述べる. Jacksonらは肺炎球菌ワクチン未接種の 60~ 64 歳の健康成人におけるPCV13 とPPSV23 の免 疫原性と安全性を比較評価した1).接種 1 カ月 後,1 年後のオプソニン化貪食活性(opsono-phagocytic activity:OPA)の持続を検討してい る.接種 1 カ月後のOPAは,PCV13 の 12 共通血 清型(PPSV23 と共通した血清型は 12 種類であ る)のうち8共通血清型ではPPSV23よりも有意 に高値を示し,4 共通血清型では非劣性が確認 された.接種 1 年後にはOPAは減少したが,接 種前よりも高値が維持されていた.安全性につ いては,接種部位の重度の痛みはPPSV23 の方 が多く(p=0.003),軽度の痛みはPSV13 の方 が多かった(p=0.005).全身反応については 両群に差がなかった. Jacksonらは上記試験1)に参加した人々に対 して,3.5~4 年後に,PCV13 またはPPSV23 を 再接種し,免疫原性と安全性を比較評価し,ワ クチンの接種順による免疫応答の違いを検討し た2).1 回目にPCV13 を接種した被験者は,2 回 目 接 種 でPCV13(PCV13/PCV13 群 ) ま た は PPSV23(PCV13/PPSV23群)のいずれかを接種 し,1 回目にPPSV23 を接種した被験者は,2 回 目接種でPPSV23(PPSV23/PPSV23 群)を接種 した.ワクチン接種 1 カ月後に採血し,OPAを 測定した.PCV13/PPSV23 群のOPAは,PCV13 の初回接種のOPAに対して,7 共通抗原で有意 に高値を示し,3共通抗原では非劣性を示した. PCV13/PPSV23 群 お よ びPCV13/PCV13 群 の OPAは,PPSV23/PPSV23 群に対して,12 共通 血清型全てにおいて非劣性基準を上回ってお り,かつ12共通血清型全てにおいて有意性基準 表 肺炎球菌結合型ワクチンに含まれる抗原の血清型 7価肺炎球菌結合型ワクチン(現在,使用不可) 4,6B,9V,14,18C,19F,23F 10価肺炎球菌結合型ワクチン 4,6B,9V,14,18C,19F,23F,1,5,7F 13価肺炎球菌結合型ワクチン 4,6B,9V,14,18C,19F,23F,1,5,7F,3,6A,19Aを上回っていた.局所反応はいずれの群におい ても軽度であったが,PPSV23/PPSV23群におい て頻度がやや高かった.PPSV23/PPSV23群では PPSV23 の 1 回目接種よりも局所反応の頻度が 高かった.筋肉痛,疲労,頭痛は各群ともにみ られた. Jacksonらは別の試験も行っており,PPSV23 既接種の 70 歳以上の歩行可能な高齢者に対し てPCV13あるいはPPSV23を接種し,1年後に両 群にPCV13 を接種した場合の,1 回目と 2 回目 の前後の免疫原性と安全性を比較評価した3).1 回目では,PCV13 接種群はPPSV23 接種群に比 べ,10共通血清型において有意に高いOPAを示 し,2 共通血清型において非劣性を認めた.両 群にPCV13を接種した2回目のOPAは,1回目に PCV13を接種した群に比べ,1回目にPPSV23を 接種した群の方が低値を示した.安全性につい ては 1 回目では,PPSV23 接種群は局所の発赤, 腫脹,痛みのいずれもPCV13 接種群よりも多 かった.全身反応でも,PPSV23接種群はPCV13 接種群に比べ,疲労,皮疹,筋肉痛,何らかの 全身反応において多かった.2 回目接種では局 所反応については差がなかったが,全身反応に おいて,嘔吐がPPSV23 接種群に多かった. Shiramotoらは日本人におけるデータを報告 しており,肺炎球菌ワクチン未接種の65歳以上 の高齢者におけるPCV13 およびPPSV23 の単回 投 与 の 免 疫 原 性 と 安 全 性 を 比 較 評 価 し て い る4).PCV13接種群のOPAは,9共通血清型にお いてPPSV23接種群よりも有意に高値を示し,3 共通血清型において非劣性を示した.局所反応 はPCV13 群 の 方 が 多 か っ た が(57.5%vs 44.9%),全身反応については差がなかった. PCV13 とPPSV23 の 連 続 接 種 に つ い て の Greenbergらの報告では,60~64 歳の成人を対 象とした5).PCV13接種の1年後にPPSV23を接 種 し た 群(PCV13/PPSV23 群) は,PPSV23 接 種後にPCV13を接種した群(PPSV23/PCV13群) に比べ,OPAは11共通血清型において有意に高 く,1 共通血清型において非劣性を示した.副 反応については,PCV13/PPSV23 群はPPSV23/ PCV13群に比べ,局所反応も全身反応も高率で あったが,特に重篤な副反応はなかった. 以上のように,PCV13 とPPSV23 の単回投与 による比較試験では,PCV13 はPPSV23 と同等 かそれ以上の免疫原性を示し,安全性について も特に問題はなかった.両ワクチンの連続接種 では,PCV13/PPSV23群は接種間隔を1~4年空 けると,PPSV23/PCV13群やPPSV23/PPSV23群 よりも免疫原性が高い傾向が示された.また, 連続接種では 2 回目にPPSV23 を接種した群に 副反応の頻度が高い傾向が見られたが,忍容性 に問題はなかった.
4.PCV13の臨床効果
PCV13 の 65 歳以上の成人に対する臨床的有 効性についてはオランダで大規模な無作為二重 盲検比較試験(Community Acquired Pneumonia Immunization Trial in Adults:CAPiTA)が行われた6).対象は 84,496 人の健常高齢者であり,半 数にPCV13,半数にPCV13 の抗原を除いた液を 接種した.その結果,PCV13 に含まれる血清型 による肺炎球菌性肺炎を45.6%減少させ,菌血 症でないあるいは侵襲型でない肺炎球菌性肺炎 を45%減少させた.IPD(invasive pneumococcal disease)では75%の減少率であり,良好な結果 であった.この結果と前述の免疫原性について のデータをもとに米国予防接種諮問委員会(the Advisory Committee on Immunization Practices: ACIP)は 65 歳以上の成人についてはPCV13 を 先に接種し,6 カ月から 1 年後にPPSV23 を接種 することを推奨した.しかしながら,CAPiTA は,PPSV23との比較試験ではないので,PCV13 が明確にPPSV23 よりも臨床効果が高いかは不 明である. PCVは免疫機能低下例についても効果が期待 されている.
Frenchらは,ウガンダにおいてHIV感染者に 対してPPSV23の無作為化比較試験を行い,IPD はむしろワクチン接種群に多くみられ,PPSV23 はHIV感染者においては無効であると報告し た.HIV感染症ではワクチン接種による抗体価 の上昇が得られにくいことが,予防効果が認め られなかった一因と考えられている.Frenchら はさらにPPSV23で行った試験と同様に,HIV感 染者に対してPCV7 の臨床効果をみた.その結 果,PPSV23 と異なり,PCV7 含有血清型のIPD を74%減少させたと報告しており,PCVは免疫 機能低下例に有効であるとした7). PCV13は菌血症を伴わない肺炎球菌性肺炎に も有効性を示し,特に免疫機能低下例について はその有効性が期待できるワクチンである.し かしながら,65歳未満の免疫機能低下例につい ては,欧米ではPCV13/PPSV23 の連続接種を推 奨しているが,我が国ではPCV13は65歳未満の 接種の適応を取得しておらず,接種できない. 早急な対応を求めたい.
5.肺炎球菌感染症の血清型置換
PCV13 に 先 行 し て 小 児 に 使 用 さ れ て い た PCV7 は,小児のIPDに対して明確な有効性を示 しており,PCV7 がカバーする血清型のIPD小児 患者は外国および我が国ともに激減している. 米国では小児に対してPCV7 が導入された後, PCV7 に含まれる血清型のIPDは激減したが, 19Aを代表とする非ワクチン含有血清型による IPDが増加した8).これを血清型置換といい,予 防対策上重要な問題となっている.また,同時 期にワクチンを接種していない 65 歳以上の成 人でもPCV7 含有血清型のIPDが減少した.これ は,肺炎球菌を高率に保菌している小児にPCV7 を接種することにより,小児から高齢者への肺 炎球菌の感染が間接的に予防されたことを示し ており,集団免疫効果が期待される.しかし, 高齢者の非ワクチン含有血清型によるIPDは増 加しており,肺炎球菌のサーベイランスが極め て重要であることを提起している. 我が国でも同様の報告がある.庵原・神谷班 の報告9)では,5 歳未満小児の人口 10 万あたり のIPD罹 患 率 は,2008~2010 年 で は 髄 膜 炎 2.81,非髄膜炎22.18であったが,PCV7が投与 可能となり接種が進むと,2013年にはそれぞれ 1.10(減少率 61%),9.71(減少率 56%)まで 減少した.IPDの起炎菌の中で,PCV7 がカバー する血清型の割合は同時期に 77%から 4%に激 減している.しかし,同時期にPCV7に含まれな い血清型のIPDの増加が認められた. PCV13を小児に積極的に接種するようになっ た場合,PCV7のときと同じように高齢者におけ る起炎肺炎球菌の血清置換が起こる可能性があ る.このことはすでに英国から報告されている (図)10).2 歳未満ではPCV7 含有血清型による IPDは激減し,PCV7 に含まれない血清型による IPDは増加傾向にあった.その後,PCV13 を小 児に導入して4年で,PCV7に含まれずPCV13の みに含まれる血清型は減少し,PCV13非含有血 清型の肺炎球菌によるIPDが増加した.65 歳以 上でも同様の動きを示しており,血清型置換と 集団免疫効果が認められている.まとめ
現在,成人に使用可能な肺炎球菌ワクチンは PPSV23とPCV13である.PPSV23は2014年10 月より成人の定期接種の対象ワクチンとなって いるが,PCV13は成人の定期接種としては使え ない.また,我が国ではPCV13は成人では65歳 以上のみが適応であり,免疫機能低下例に対す る効果が期待されているにもかかわらず,65歳 未満の免疫機能低下例には使用できない.この ようにわが国では両者の使用方法・適応が異な り,両者の作用メカニズムも異なることから臨 床現場に混乱をもたらしている.定期接種を進 めることが最も重要と考えるが,血清型置換が進めば両ワクチンの使い分けも変化する可能性 が高く,今後の肺炎球菌の血清型のサーベイラ ンスが極めて重要といえよう. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:永井英明;講演 料(ファイザー) 図 PCV7およびPCV13を小児に導入後の2歳未満および65歳以上のIPD罹患率の ワクチン含有血清型別推移(England and Wales)
(文献10より) 人口 10 万対 2000/2001 2001/2002 2002/2003 2003/2004 2004/2005 2005/2006 2006/2007 2007/2008 2008/2009 2009/2010 2010/2011 2011/2012 2012/2013 2013/2014 PCV7 PCV13 PCV7 PCV13 全ての血清型 PCV7含有血清型 PCV13のみ含有血清型 ワクチン非含有血清型 2歳未満 65歳以上 60 50 40 30 20 10 0 40 35 30 25 20 15 10 5 0
文 献
1) Jackson LA, et al : Immunogenicity and safety of a 13-valent pneumococcal conjugate vaccine compared to a 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine in pneumococcal vaccine naive adults. Vaccine 31 : 3577―3584, 2013.
2) Jackson LA, et al : Influence of initial vaccination with 13-valent pneumococcal conjugate vaccine or 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine on anti-pneumococcal responses following subsequent pneumococcal vac-cination in adults 50 years and older. Vaccine 31 : 3594―3602, 2013.
3) Jackson LA, et al : Immunogenicity and safety of a 13-valent pneumococcal conjugate vaccine in adults 70 years of age and older previously vaccinated with 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine. Vaccine 31 : 3585― 3593, 2013.
4) Shiramoto M, et al : Immunogenicity and safety of the 13-valent pneumococcal conjugate vaccine compared to the 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine in elderly Japanese adults. Hum Vaccin Immunother 11 : 2198―2206, 2015.
5) Greenberg RN, et al : Sequential administration of 13-valent pneumococcal conjugate vaccine and 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine in pneumococcal vaccine-naive adults 60-64 years of age. Vaccine 32 : 2364―2374, 2014.
6) Bonten MJ, et al : Polysaccharide conjugate vaccine against pneumococcal pneumonia in adults. N Engl J Med 372 : 1114―1125, 2015.
7) French N, et al : A trial of a 7-valent pneumococcal conjugate vaccine in HIV-infected adults. N Engl J Med 362 : 812―822, 2010.
8) Pilishvili T, et al : Sustained reductions in invasive pneumococcal disease in the era of conjugate vaccine. J Infect Dis 201 : 32―41, 2010.
9) 国立感染症研究所:病原微生物検出情報(IASR)35 : 229―241, 2014.
10) Waight PA, et al : Effect of the 13-valent pneumococcal conjugate vaccine on invasive pneumococcal disease in England and Wales 4 years after its introduction : an observational cohort study. Lancet Infect Dis 15 : 535―543, 2015.