熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title 重症急性肺塞栓症に対する血栓溶解療法に関する 実験的
研究
Author(s) 田上, 弘文 Citation
Issue date 2000-03-24
Type Thesis or Dissertation
URL http://hdl.handle.net/2298/14231 Right
学 位 論 文
D
o
c
t
o
r
'
s T
s
i
s
e
h
重 症 急 性 肺 塞 栓 症 に 対 す る 血 栓 溶 解 療 法 に 関 す る
実 験 的 研 究
(
T
h
e
l
a
t
n
e
m
i
r
e
p
x
e
y
d
u
t
s
t
f
o
c
i
t
y
l
o
b
m
o
r
h
y
p
a
r
e
h
t
on
l
i
f
e
-t
h
r
e
a
t
e
n
i
n
g
e
t
u
c
a
pulmona
ry thromboem
bo l
)
m
s
i
田 上 弘 文
H
i
r
o
f
u
m
i
Tagami
指 導 教 官
北 村 信 夫 元 教 授
熊本大学大学院医学研究科外科学第一講座
2000
年
3
月
論文名:
著者名:
学 位 論 文
D
o
c
t
o
r
'
s T
s
i
s
e
h
重症急性肺塞栓症に対する血栓溶解療法に関する
実験的研究
The
l
a
t
n
e
n
r
i
r
e
p
x
e
y
d
u
t
s
c
i
t
y
l
o
b
n
r
o
r
h
t
f
o
y
p
a
r
e
h
t
on
l
i
f
e
-t
h
r
e
a
t
e
n
i
n
g
e
t
u
c
a
y
r
a
n
o
n
r
l
u
p
n
r
s
i
l
o
b
n
r
e
o
b
n
r
o
r
h
t
田 上 弘 文
H
i
r
o
f
u
r
n
i
i
n
r
a
g
a
T
指導教官名:
外科学第一講座元教授
北 村 信 夫 教 授
審査委員名
)
1
外科学第二講座担当教授
小 川 道 雄 教 授
2
)
内科学第一講座担当教授
安 藤 正 幸 教 授
3
)
循環器内科学講座担当教授小川
久雄教授
の 救 急 医 学 講 座 担 当 教 授
木 下 順 弘 教 授
2000
年 3
月
目 次
日次・・・・ .' 1 要 旨 ・ 4 S u r n r n a r y • • 6 発表論文リスト ・・・・ ・・・・・・・・・・・ 8 謝 辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 略語一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 第 1章 研 究 の 目 的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・ 31 第 2 章 急 性 肺 塞 栓 モ デ ル の 作 成 2 -1 序論 2之 対 象 と 実 験 方 法 1 ) 実験動物 2 ) 凝血塊の準備 3 ) 肺塞栓の作成 4 ) 統計学的手法 2・3 結果 1 6 1 7 1 9 2 -4 考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 2 δ 結語 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 第 3 章 重症急性肺塞栓モデル犬に対する血栓溶解剤の効果 3・1 序論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24 3 -2 対象と実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 11 ) 肺塞栓の作成 2 ) 血栓溶解療法 3 ) 統計学的手法 3・3 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 26 1 ) 肺塞栓作成後の血行動態と呼吸能の変化 2 ) 血栓溶解療法の治療効果 3・4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 第 4 章肺動脈内バルーンパンピング法 4・1 序 論 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 36 4 -2 基礎研究の変遷 • 38 4 -3 臨 床 応 用 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 43 4 -4 現状の総括 45 4 δ 今 後 の 展 望 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 46 第 5 章 重症急性肺塞栓モデル犬に対する肺動脈内バルーンパンピングと 血栓溶解療法の相乗効果 5 -1 序 論 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 48 5・2 対 象 と 実 験 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 50 1 ) 肺塞栓の作成 2 ) 肺動脈内バルーンカテーテル 3 ) 治療 4 ) 統計学的手法 5・3 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35 2
1 ) 肺塞栓作成後の血行動態と呼吸能の変化 2 ) 治療効果 5・4 考 察 ・ ・ ・ ・ ー • 61 1 ) モデルの評価 2 ) 血栓溶解剤とその投与量の選択 3 ) モンテプラーゼと IPBP の併用効果 4 ) 臨床的インパクト 第 6 章 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66 参考 文献 • 67 3
要旨
急性肺塞栓症は本邦でも増加傾向にある致死的疾患のひとつである.確 定診断が困難あったり,症状が一定していなかったり,個々の患者で軽症 なものから突然死に至るものまで重症度に大きな差があったりするため, いまだにその確固たる治療方針が確立していないのが現状である.著者は 再現性のある重篤な急性肺塞栓症の動物モデルを確立することが有効な治 療法を選択し評価する重要な基礎研究であると考えた.そこで,過去に文 献的に報告されたモデルを追試したが 極めて再現性に乏しいことが判明 した. まづ,雑種成犬を用い,再現性のある重篤な急性肺塞栓モデルを実験的 に作成することを試みた. 全身麻酔下に開胸し,左肺門部(左肺動静脈 および左気管支)を結禁,血栓を'-'1 '" 2 ml ずつ右肺動脈内に繰り返し注 入した.肺動脈圧の上昇を確認しながら,呼吸循環不全に陥るも,急死せ ず再現性を有する急性肺塞栓モデルを作成することができた. 本モデルを用いて,既存の組織プラスミノーゲンアクチベータ一件PA) であるアルテプラーゼと遺伝子組み換え技術を利用してアミノ酸配列の一 部を変換することでより長い半減期をもっ第二世代の PAt- E6010 (モンテ プラーゼ)との血栓溶解効果を比較した.モンテプラーゼ単回静注は,ア ルテプラーゼ点滴静注より早く急性肺塞栓による肺高血圧を低下させ得る ことが分かった. 肺動脈内バルーンパンピング )PBP(I は右心系の補助循環法として急 性肺塞栓症に有用ではないかと考え このIPBP
と血栓溶解剤を同時に用 いることで治療上の相乗効果が得られるのではないかとの仮説を立てた.IPBP
とモンテプラーゼとの併用治療を行なった群では,単独治療群より 4-迅速に右心系後負荷のパラメーターである右室収縮期圧を下げることが実 証された. 以上から第二世代の t-PA モンテフラーゼは,早期に肺血流を再開する 利点をもち,その投与の有効性と簡便性を考慮すると急性肺塞栓症治療に 有用であり,さらに,
IPBP
との併用により急性肺塞栓症による右心不全 の超急性期治療に利点を有することが示唆される. 5-Summary
A c u t e arypulmon msilmoemboborht (APTE) si eno fo eht most -efil t h r e a t e n i ng sesaesid and shows inagnisaercn yncednet ni.napaJ At1hough most
p h y s i c i a n s tpecca taht citylobmorht tnemtaert sievitceffe ni APTE evi, tinifed g u i d e l i n e s rof APTE stneitap era ton llew .dehsilbatse We bdeveile taht tisi yrev i m p o r t a n t otdliub up a relbicudorpe lamina model sfo ereve APTE rof gnitaulave d i f f e r e n t sdnik tfostnemtaer citylラobmorht stnega , dna cituepareht .sesod U sgni tluda lgreonm sogd , rdenu eht lareneg aisehtsena , eht tfel sulih isonlmpu was detagil , suogolotua doolb tolc was yldetaeper detcejni ot eht thgir ypulmonar a r t e r y . ginrtoinMo eht naryulmop 紅 白yr erusserp , eht rohtua dluoc make a r e p r o d u c i b l e APTE detacilpmoc htiw yrotaripser and yrotalucric .eruliaf S e c o n d l y , gnisu siht model ヲeht rohtua compared eht stceffe fo a nlevo r e c o m b i n a n t epyt-eussit neoginmaslp rotavitca E60 1 0 ()esalpetnom htiw eht more c o n v e n t i o n a l cituepareht tnega .esalpetla esapltenoM sah a pdengolor lacigoloib h a l f .ef圃il Thus eht regnol efil-flah mfo esaplento 1al0ws sulob .noitcejni The p r e s e n t yduts detacidni taht esalpetnom more yldipar decudre lmonarypu h y p e r t e n s i o
n ni ruo APTE model naht esalpetla , which was deviecer suonevartni
d r i p noisufni , .did I n t r a -p u l m o n a r y ba1l00n pumping )PBPI( was desoppus ot be lufesu rof APTE by ist thgir ralucirtnev gnitsissa .noitcnuf The rohtua dezisehtopyh taht eht c o m b i n a t i o n IPBP fo and citylobmorht tnega , eslaptenom ヲhtigm gnirb more dipar i m p r o v e m e n t on thgir ralucirtnev veo 1rado f APTE. o An d teh tneserp yduts i n d i c a t e
d taht eht noitanibmoc mfo esalpetno and IPBP had more stceffe naht eht
i n d i v i d u a l nemtaert .t 6
-B e c a u s e fo eht dipar noitca fo esalpetnom , ti tghim eb a pglnslomr t h r o m b o l y t i c tnega rof tnemtaert APTE. fo nInoitidda , we sdetseggu taht eht combined tnemtaert mfo esalpeton and tihg'mPPBI a pbe gnisimor remedy rof eht e a1rtsei ytinutroppo rfothgi ralucirtnev evo 1rado APTE. fo 7
-発 表 論 文
主論文 1 加 1.著者名 H i r o f u mi Tagami ヲ加のヲihcinul Utoh ,恥ID ,Ling 岨Bo Sun , M D , Ken
Okamoto , M D ヲijuhS Moriyama ヲM D ,Rijyu Kunitomo ヲM D ,and Nobuo
Kitamura , M D 論文題 E f f e c t s of Recombinant epyt-eussiT Plasminogen rotavitcA on L-efi t h r e a t e n i n
g Acute Pulmonary Thromboembolism a Cni anine Model: A
C o m p a r a t i v e ytudS of E60 1 0 and esalpetlA (重症急性肺塞栓モデル犬における遺伝子組み換え組織プラスミノ ーゲンアクチベーターの効果: E6010 とアルテプラーゼとの比較) 雑誌名 Anslan f To cicaroh and ralcusavodiraC yerrguS 巻,頁,年 6ヲ299 ・303 ,2000 8
-1.著者名 田上弘文、宇藤純一、北村信夫 論文題 急性右心不全に対する肺動脈内バルーンパンピング法: その基礎研究の変選と臨床応用 ( I n t r a - ulmonaryP noollaB Pumping )PBPI( rof Acute thgRi ralucirtneV F a i l u r e : lacirotsiH Review tfo eh icsaB hcareseR and lacinilC )noitacilppA 雑誌名 熊本医学会雑誌. 巻,頁,年 7 2 _ 2 3 ト_732 9919 1.著者名 田 上 弘 文 、 宇 藤 純 一 、 園 友 隆 二 、 岡 本 健 、 森 山 周 二 、 孫 凌 波 、 北村信夫 論文名 急性肺塞栓症実験モデルの作成 ( T h e noitcudorp f ao etuc pulmonaηthromboembolism a cni enina l)demo 9
-雑誌名 T h e r a p e u t i c chesearR 巻,頁,年 2 1 , 31 ・14 ,2000 -
10-謝 辞
本研究は熊本大学大学院医学研究科外科学第一講座において北村信夫 元教授御指導の下に行なわれた. 研究並びに多面の御指導を賜りました 北村信夫教授に深甚なる謝意を捧げます. また,論文作成並びに研究に直接御指導、御助言頂いた外科学第一講座 講師宇藤純一博士に深く感謝致します. 更に,研究に御協力下さった教室員諸兄に感謝の意を捧げます. - 11-略 語 一 覧
APTE; etuca nyramolup osilmboembmorht BE; esab ssecxe CO~ caidrac tuptuo IABP~ artni citroa noollab pumping IPBP~ yranomlup-artni noollab pumping mP A; mean aryulmonp yretra erusserp mRA~ mean thgir lairta erusserp PaC02; lairetra C02 noisnet Pa02~ lairetra 02 tnoisne RV s~ thgir ralucirtnev cilotsys erusserp S a 0 2 ; lairetra 02 snoitaruta t-PA~ epyt-eussit negnoimsalp rotavitca - 1 -2第
1
2 主二 与主研究の目的
急性肺塞栓症は、我が国においても高齢化社会の到来、生活習慣の欧米 化、本疾患に対する認識の向上に伴い、最近増加傾向にある救急疾患であ る(Ar cysoa ,et,.al;9991 iaT , te,.al)9991 eurgFi( 1・1 :厚生省.肺塞栓症に よ る 死 亡 数 の 推 移 ) .急性肺塞栓症の死因の多くが、急性期の循環虚脱 と早期再発によることにより、急性期の診断治療が大変重要となる.シ
ョックや右心不全を呈するハイリスク例においては可及的早期の肺血流再 開と右心不全の重症化を回避することが救命のために必須条件である. 一般的に血栓溶解療法が有効な治療法であるとの認識はある (erbadhloG , e t la マ1988 ;,3991 PIOPED srotagitsevni , ;0991 envieL , teヲ.a1 ;0991 allaD 圃atloV ヲet al . , ;2991 Meyer , teヲ.a1;2991 Cannon , te,.a1)6991 が,本疾患に対する治療指針 はいまだ明確には確立されていない. そこで我々は再現性のある重篤な 急性肺塞栓モデルを実験的に確立することが有効な治療方法を選択し評価 する重要な基礎研究ではないかと考えた. したがって,再現性のある重症な急性肺塞栓モデルの確立を本研究の第 一の目的とした. 第二に、既存の血栓溶解剤である t-PA (アルテプラーゼ)と本邦で独 自に開発された第2 世代の t-PA である E6010( モンテプラーゼ)とを比較 し、いずれの薬剤が重篤な急性肺塞栓症に対してより早く呼吸循環不全を 改善しうるかを、先に述べた急性肺塞栓モデル犬を用い評価を行なうこと を目的とした. - 1 -3また,急性右心不全の基礎的実験的段階にある肺動脈内バルーンパンピ ング法
P
)
B
P
I
(
が,本モデルの治療法として有用ではないかと思われた. し たがって,第 3 の研究として、 急性肺塞栓症のもたらす右心不全の病態 に対し、血行動態的に虚脱した肺循環を血栓溶解療法により再開通を促し つつIPBP
を使用することは治療上の相乗効果を得るのではないかとの仮 説を立てた.そこで、著者が確立した重症な急性肺塞栓モデル犬を用いて、 検討することを目的とした. 各々の治療法の背景については以下の章で 詳述する. 尚,本論文中で肺塞栓症と表現している語句は肺血栓塞栓症を表してい るものと考えて頂きたい. - 1 -4F
i
g
u
r
e
1
・1
肺塞栓症による死亡者数の推移
(人)
1800
ノ1
6
0
σ
1
4
0
-
0
1
2
0
.t(1
0
0
-
0
800~線叶警察::
震
1
9
8
8
9
8
90
1
9
9
2
3
9
9
4
5
9
9
6
97
8
9
9
9
(年)
(厚生省人口動態統計から)
-1 5-ん号
外
3
2
エ二与a:主急 性 肺 塞 栓 モ デ ル の 作 成
2
・1
序論
従来の急性肺塞栓動物モデルの問題点: 重篤な急性肺塞栓症を治療するためには再現性のある動物モデルを用い た治療法の確立が肝要で、ある.しかしながら,急性肺塞栓モデルとして文 献的に報告されている方法は治療法を検討する上では充分なモデルとは言 い難い. 過去の文献で紹介された肺塞栓モデルでは,塞栓子としてガラスビーズ 等を用いたものがあるが,生理学的研究に用いることは可能であっても, 治療法を検討する目的としては非臨床的でありそぐわない. 塞栓子とし て血栓を使うと,臨床的ではあるが血栓の投与量,作成法,投与方法にい くつかの問題があり,再現性のある均一な重症度を持つモデル作成を得る ことは難しい. 著者も過去の文献に従って追試を行なったが,血栓を肺 動脈内へ注入する過程で突然の心停止をみたり,軽症から重症なものまで 極端に著しい個体間較差を経験した. 従って,急性肺塞栓症の治療法の客観的評価のためには高い再現性と一 定の重症度をもっ動物モデルの確立が重要かつ急務であると考え研究を行 なった. - 1 -62
-2
対象と実験方法
1
)
実験動物
雑種成犬を対象とした.Sodium
l
a
t
i
b
r
a
b
o
t
n
e
p
30mg/kg
で静脈 麻酔しr
o
t
a
l
i
t
n
e
v
(シナノ製作所,ハーバード型)を用い 室内空気を 1 回換気量 25ml /k g の volume lortnoc で人工呼吸させた. 右大腿動脈にカ テーテルを挿入し,大動脈圧を測定 同カテーテルから 50 ml の血液を採 取した.動脈血液ガス分析も同カテーテルから経時的に採取し測定した. 胸骨正中切開を加え,右室前壁から Swan-Ganz 肺動脈造影用カテーテルを 挿入し,右主肺動脈に誘導した. 他の Swan-Ganz カテーテルを右外頚静 脈から挿入し,右室内に誘導した 2 本の節付きカテーテルを左房,右 房にそれぞれ挿入し,圧測定に用いた.上行大動脈基部に電磁流量計プロ ーブ(日本光電社製, cietnagmortcelE Blood Flowmeter MFV ・3200 ヲ東京)を 装着し心拍出量を測定した. すべての実験は熊本大学医学部動物愛護委員会によって承認され,熊本 大学医学部動物実験ガイドラインに沿って行われた. さらに,すべての 動物はetutitsnI of Lyrtoaroba An lami sesourceR によって作成された Guide f or eht Care αnd Use ofL αyrotarob Anim αsl に沿って取り扱われた adhesBet( ,
1 9 8 5 ) . - 1 -7
2
)
凝血塊の準備
自己の凝血塊は過去に報告された文献をもとに作成した(nnmaffhiS , e t.la ラ1;889 rP 位協, etラ.al ;9891 rrieWe , te,.al .)1991 ヘパリン加していない 自己血50ml
を採取し,0
0
0
.
0
1
単位のトロンビン末(持田製薬株式会社, 東京)を加え, 0-ml50 のガラス製ビーカー内で撹持した.この混合物はゼ リー状の固さになるまで 60 分から 90 分間放置しておいた.その後,血 策部を破棄し 血塊を約 1ml の大きさに切り分けたのち 05 ・ml のプラス チック製涜腸器に充填した.3
)
肺塞栓の作成
各種のパラメーターの前値を記録したのちに,左主肺動静脈および 気管支を実験終了までターニケットで結禁しておいた.このように肺門部 を結殺し片肺にすることで急性肺塞栓モデルを作成するために必要とする 血栓の総量を減らすことが可能となり 肺動脈圧の上昇をコントロールし やすくした 61 ・Fr カテーテルを左大腿静脈から挿入し下大静脈まで誘 導した. 肺門部を結室長し 30 分後,このカテーテルから凝血塊を 1"2'" ml ずつ注入した. 注入の度ごとに生理食塩水でフラッシュした.平均肺動 脈圧が前値の 5.2 ~ 0.3 倍になるまでこの手技を繰り返した. 肺動脈圧が 安定したのち,血行動態と呼吸能の変化を 180 分間観察した.4
)
統計学的手法
血行動態と動脈血液ガス分析の変化は pderia tset-t を行ない検定した. P 値が 050. 以下をもって統計学的有意差を決定した. 各種データは平均 値±標準偏差(SD) で表現した. - 1 -82
-3
結果
急性肺塞栓モデルを完成するために12+4cc
の血栓を要した.肺塞栓 作成前後の血行動態、の変化をTable
2-1
に示した.平均肺動脈圧,右室 収縮期圧および平均右房圧は有意に上昇し,心拍出量は有意に低下した. 本モデルは肺動脈塞栓のため肺高血圧を来たし右心不全状態、に陥り,循環 不全となっていると考えられた.以後3
時間の観察中,平均肺動脈圧,右 室収縮期圧は高値を維持し,心拍出量は漸減した. 肺塞栓作成前後の血液ガス分析の変化をTable
2-2
に示した.代 謝性アシドーシスの進行と著しい酸素化障害を来した.以後3
時間の観察 中も呼吸能は改善しなかった. 実験の終了後,全例を解剖した.容量としては右肺の下葉,上葉, 中葉の順に肺動脈内を占拠する新鮮血栓が認められ,器質化血栓は存在し なかった.肉眼的には肺葉動脈レベルから区域動脈レベルまで血栓が確認 された.肺実質に関しては,浮腫や点状出血を認めることはあったが,明 らかな肺梗塞に陥っている部分は確認されなかった. - 1 -9Table 2-1 Hemodynamic effects of pulmonary embolization mPA mBP CO RVs mRA Condition (mm Hg) (mm Hg) (1 / min) (mm Hg) (mm Hg) Pre-em bolization 12.5 + 2.8 87.3 + 15.4 1.47 土 0.35 22.7+5.7 0.4+ 1.0 PO st-em bolization 30.8 + 3.2 a 93.2+13.5 1.15+0.39 a 40.7 士 4.7 a 1.0 土 1.1 b mPA mean pulmonary artery pressure , mBP mean arterial blood pressure , CO cardiac output , RVs right ventricular systolic pressure , mRA mean right atrial pressure Values are mean
+
S.D. n = 24 a p <O.OOOI , b p <0.05 when compared with pre-emboli condition-20-Table 2-2 Changes in arterial blood gases after pulmonary embolization pH Pa02 Condition (mmHg) Pre-em bolization 7.593 土 0.072 100.9 + 30.6 Post-embolization 7.416+ 0.052 a 64.9+ 19.5 b PaC02 (mmHg) Sa02 (%) BE (mmol/l) 19.0+3.9 98.0+1.4 -3.7+3.0 27.8+5.7 a 91.1+5.3 a -5.5+2.4 b Pa02: arterial O2 tension , PaC02: arterial O2 tension , Sa02: arterial O2 saturation , BE: base excess Values are mean
+
S.D.; n = 24 a p <0.0001 , bp <0.001 when compared with pre-emboli condition. -21-2
-4
考察
本重症肺塞栓モデルを作成するにあたり,まず過去に報告された肺 塞栓モデルn
n
a
m
f
f
i
h
S
(
,t
e
,.a
l;
8
8
9
1
U
i
k
e
r
P
,t
e
,.a
l;
0
9
9
1
r
e
i
r
e
W
,t
e
,.a
l;
1
9
9
1
M
a
r
t
i
n
,t
e
,.a
l)
3
9
9
1
の追試を行なった.しかしいずれの方法を用いても急 性循環不全に至り急死する症例に遭遇することが多く,また逆に大量の血 栓を注入しでも十分な肺高血圧がみられない場合もあり 著しく再現性を 欠くものであった. そのため,本研究では片側の肺動静脈および気管支を遮断したのち に,一回の注入血栓量を1
~2 c
c
にすることで肺高血圧症の微細なコン トロールが簡便となり再現性を有する安定した重症肺寒栓モデルを得るこ とができた. また,本実験において作成された肺塞栓モデルは重篤な呼吸・循環 不全をきたすd
l
e
i
f
n
e
e
r
G
分類s
s
a
l
c
N に相当する重症度であると思われ たd
l
e
i
f
n
e
e
r
G
(
,t
e
,.a
l6
7
9
1
,4
8
9
1
.
,)
2
9
9
1
今後,本モデルは重症肺塞栓に対す る血栓溶解療法の比較とその評価判定ならびに肺塞栓に続発する右心不全 に対する補助循環法など治療手技の選択と効果判定に有用であると考えら れた. -22-2
-5
結語
再現性を有する重篤な呼吸・循環不全をきたす重症肺塞栓モデルを 作成した.本モデルは重症肺塞栓に対する血栓溶解療法の比較,評価判定 ならびに肺塞栓に続発する右心不全に対する補助循環法など治療手技の効 果判定に有用であると思われた. - 23-3
・1
序論
第 3 章
重症急性肺塞栓モデル犬に対する
血 栓 溶 解 剤 の 効 果
本邦で新しく開発された遺伝子組み換え組織プラスミノーゲンアクチベ ーター)
A
P
-
t
(
である0
1
0
6
E
はヒトA
P
-
t
の4
8
アミノ酸残基自のシステイン をセリンに置換したものであり,血柴中からの消失が遅いという特長を有 し,生物学的半減期を延長させたものであるi
k
u
z
u
S
(
,t
e
,.a
11
9
9
1
,;
3
9
9
1
K
a
w
a
i
,t
e
,.a
1.
)
7
9
9
1
E
6
0
1
0
は従来のトPA
(チソキナーゼ)に比べ 高い血栓溶解効果を持 つ こ と が イ ヌ の 冠 動 脈 血 栓 や 大 腿 動 脈 血 栓 に お い て 証 明 さ れ て い る(
S
u
z
u
k
i
,t
e
,.a
11
9
9
1
,3
9
9
1
,;
5
9
9
1
i
h
c
a
d
A
,t
e
,.a
1;
2
9
9
1
i
k
u
z
u
S
,t
e
,.a
1;
2
9
9
1
o
t
i
a
S
,e
t
,.a
l4
9
9
1
,.
)
5
9
9
1
また, より長い半減期を有する0
6
0
1
E
は単回静注 が可能であり,急性心筋梗塞の治療において高い再開通率を示している. このことは,i
t
c
e
p
s
o
r
p
e
v
に任意抽出された多施設の大規模試験でチソキナ ーゼの標準的投与方法との比較において証明されているi
a
w
a
K
(
,t
e
,.a
1.
)
7
9
9
1
しかしながら 急性肺血栓塞栓症患者におけるE
6
0
1
0
の効果を評価した 臨床報告がない. 従って,著者は重篤な急性肺血栓塞栓動物モデルを用 いて, 臨床的に広く一般的に使用されているトPA
(アルテプラーゼ)(
M
e
y
e
r
,t
e
,.a
1;
2
9
9
1
r
e
b
a
h
d
l
o
G
ヲt a
e
,.l2
9
9
1
ヲ3
9
9
1
,4
9
9
1
,;
4
9
9
1
a
t
l
o
V
-
a
l
l
a
D
,t
e
,.a
l1
9
9
2
;
e
b
e
b
T
,t
e
,.a
l;
2
9
9
1
l
h
e
i
D
,t
e
,.a
l;
2
9
9
1
u
恥a
e
v
e
n
e
1
,t
e
ラ.a
l7
9
9
1
,)
8
9
9
1
とE
6
0
1
0
とを比較検討した -24-3
・2
対象と実験方法
1
)
肺塞栓の作成
体重 12 ~ 21 kg の雑種成犬24 頭を対象とした.急性肺塞栓モデルは第 2 章に詳述した方法に基づいて作成した.2
)
血栓溶解療法
肺塞栓を作成した後,肺動脈圧が目標圧を安定的に高値を維持されてい ることを確認したのち,血栓溶解療法を開始した.以下の 3 群に分け治療 を行なった. ( 1 ) 血栓溶解療法を行わないコントロール群. ( 2 ) 総量 133. mg /k g のアルテフラーゼを 120 分間点滴静注した アルテプラーゼ群. ( 3 ) 04.0 mg /k g のE6010 を単回静注したE6010 群.3
)
統計学的手法
血行動態と動脈血液ガス分析の変化は反復測定一分散分析法detaeper( measure ANOV A) で検定した p 値が50.0 以下をもって統計学的有意差 を決定した. 各種データは平均値土標準偏差(SD) で表現した.-25-3
・3 結果
1
)
肺塞栓作成後の血行動態と呼吸能の変化
急性肺塞栓モデルを完成するにあたり, 13.0+4.2 ml の血栓を必要とし た.肺塞栓作成後の血行動態、の変化を Table 3・1 にまとめた.平均肺動脈 圧,右室収縮期圧および平均右房圧は有意に上昇した. 心拍出量は有意 に低下した. しかしながら,平均動脈血圧には有意な変化は見られなか った Table 3・2 に肺塞栓作成後の呼吸能の変化を示した.明らかな酸 素化障害と代謝性アシドーシスの進行が観察された.2
)
血栓溶解療法の治療効果
肺塞栓作成後,平均肺動脈庄は著しく上昇し,治療開始からは次第に低 下した (reguiF 3・.)1 平均肺動脈圧において,コントロール群は高値を維 持したが血栓溶解療法群は有意に減少した. E6010 投与開始から 30 分後, 平均肺動脈圧は 37.0 土9.2 m m Hg から 25.4 + 35. m m Hg に改善した (p く 0 . 0 0 0 1 .) 一方,アルテフラーゼ群においては, 28.3+4.1 m m Hg までし か改善していなかった E6010 群,アルテプラーゼ群ともに, 3 時間後 にはそれぞれ 21.0+3.6 m m Hg , 3.71 +1.6 m m Hg まで有意に改善した. 右 室収縮期圧は肺塞栓作成後に著しく上昇し, E6010 もアルテプラーゼも投 与開始から漸減した (reugiF 3.・)2 心拍出量は,血栓溶解剤による治療に もかかわらず徐々に低下した (reugFi 3・.)3 平均右房圧は,どの治療群に おいても顕著な変化を示さなかった (reuigF 3・.)4 呼吸能においては, E6010 やアルテプラーゼによる治療にもかかわらず,低酸素血症も代謝性 アシドーシスも有意な改善は認められなかった.-26-Table
3-1
Hemodynamic
effects
of
pulmonary
embolization
Condition Pre-embolization Post-embolization
mPA (mmHg) 12.5+2.8 30.8+3.2 事 mBP (mmHg) 87.3+ 15.4 93.2+ 13.5 CO RVs (l /min) (mm Hg) 1. 47 + 0.35 22.7 土 5.7 1. 15+0.39** 40.7+4.7* 本 mRA (mmHg) 0.4+ 1. 0 1. 0+ 1. 1 * mPA : mean pulmonary artery pressure , mBP : mean arterial blood pressure , CO : cardiac output , RVs : right ventricular systolic pressure , mRA mean right atrial pressure. Values are mean + SD; n = 24. **p<0.0001 , *p<0.05 when compared with pre-emboli condition.
-27-Table
3-2
Changes
in
arterial
blood
gases
after
pulmonary
embolization
pH Pa02 PaC02 Condition (mmHg) (mmHg) Pre-embolization 7.593+0.072 100.9+30.6 19.0 土 3.9 Post -embolization 7.416 士 0.052 “ 64.9+ 19.5* 27.8 士 5.7* 市 Sa02(%)
98.0+ 1. 4 9 1. 1 + 5.3** BE (mmol /l) -3.7+3.0 -5.5+2.4* Pa02: arterial O2 tension , PaC02: arterial CO 2 tension , Sa02: arterial O2 saturation , BE : base excess. Values are mean+
SD; n=
24. 村 p<O.OOOl , *p<O.OOl when compared with pre-emboli condition.-28-3
-1
F
i
g
u
r
e
c o n t r o l 一主ユー a l t e p l a s e n . s . p < 0.001 a l t e p l a s e E6010 * p < O . 0 5 vs lortnoc -0 一 一乙ト * p<0.0001 ,",-,r,.,. P E601 0 ~ 40 30 20 10 ( 切Z
E
ε
)
《 仏 F F -O 180Time course mean fo pulmonary yretra pressure (mPA) rtefa
treatment ni dogs with thromboembolic pulmonary hypertension.
Values are mean
+
SO; n = 6 / group. :.s.n not tnacifingis-2 9 -120 60
T
i
m
e
)
n
i
m
(
30PEO
p r eF
i
g
u
r
e
3
・2
c o n t r o l a l t e p l a s e E6010 -0-一口一 -乙ト 60 50 10 20 40 30 ( 。 工ε
E
)
ω
〉 区 O 180 150 120 90 60 Time (min) 30P
E
O
preTime course rfo thgi raluicrtnev cilotsys pressure (RVs) retfa
treatment ni dogs hwit thgir ralucirtnev dysfunction due acute to
pulmonary thromboembolism. Values ear mean
+
SO; n=
6 / group.-3 0
-F
i
g
u
r
e
3
圃3
2 . 5 I-0-
oltronc一口-
seapltelaーム-
E6010 戸園町、 51. c¥
ε
、 、ー〆 O LJ .O1 0 . 5 O pre PEO 30 60 90120150180 Time min)(Time course cfo acidra output (CO) retfa treatment ni dogs with
thromboembolic pulmonary .noirtensepyh Values are mean
+
SO;n = 6 / group.
-3 1
-F
i
g
u
r
e
4
-
3
c o n t r o l 一 〈 ト a l t e p l a s e一口一
3 E6010 ーとト 2 O ( 。 工ε ε
)
〈 区ε
180Time course mean fo thgir lairta pressure (mRA) retfa treatment
i
n dogs with thgir ralucritnev dysfunction due ot acute pulmonary
thromboembolism. Values rea mean
+
SD; n = 6 / group.-3 2 -150 120 90 60 Time min)( 30
P
E
O
pre3
-4
考察
急性肺塞栓症の動物モデルに関しては,若干の報告がある (rehcsiF ,et,.al 1 9 8 7 ; nnamffiSh , teヲ.al ;8891 ttikerP al, teラ. ;9891 rerieW , alteヲ. 1991 ).しかしな がら,著者の予備実験によると,これらのモデルは呼吸循環不全に関して 再現性を有しているとは言いがたい結果であった. P r e w i t t らは,イヌの急性肺塞栓症モデルに対して血栓溶解療法を行なっ た報告をしているが (ttikerP ,etヲ.al )9891 , 著者の実験では,繰り返し血 栓を注入することでしばしば突然の心停止を経験した.最後の one tohs を 注入する以前にはほとんど循環系の変化が認められないにもかかわらず, その最後の oen tohs で循環停止に至るという経験も稀ではなかった. そ れゆえ,再現性を有するモデルを得るために,著者は一方の肺門部をクラ ンプし,対側の肺動脈に血栓を注入してみた. 左肺門部を結紫しでも, 呼吸循環系の変化はほとんどないことが分かった rehcsiF らによって報 告された急性肺塞栓症モデルでは 17. ml /k g の血栓を必要とした (rehcsiF , e t,.al )7891 のに対し,最終的に著者の手技を行なうと 058. 土03.0 ml /k g の 総量で再現よく同様のモデルを作成することが可能であった. このよう な経過から,本モデルを用いた場合,突然の呼吸循環不全に陥り,突然の 実験継続停止を余儀なくされることはほとんど経験しなくなった. G r e e n f i e l d の分類dleifneerG( , te,.al 9761 , )4891 によると,著者の実験 モデルは cssal IV に相当する重篤な病態である.それゆえ,当モデルは危 機的状況下における血栓溶解療法の評価に適当なモデルであると考えられ た. しかしながら, E6010 やアルテフラーゼによる治療により肺高血圧 症の改善は認められるものの,左心系の指標である心拍出量や呼吸能は改 善しなかった. その理由として,著者の紹介した急性肺塞栓症モデルは 非常に重篤な致死的モデルであると思われた. 33-アルテプラーゼは,総量 133. mg /k g を 2 時間で点滴静注し投与した. この投与法は米国 FDA (Food and Drug )noitartsinimdA に認可された方法で あり,最近の肺塞栓症における大規模治験 (erabdholG ,et,.al 8198 ヲ1)929 に よって用いられたフロトコールに一致したものであった. E6010 の投与量 ( 0 . 4 0 mg /k)g は,現行の急性心筋梗塞治療に対する E6010 の臨床治験 (Kawai , te,.al )9791 に基づくものであった. E6010 は,いくつかの血栓症 動物モデルにおいて迅速な改善をもたらしたと先の研究で実証されている ( S u z u k i , te,.al 1991 , 3991 , ;5991 Adachi , teヲ.al ;2991 iukzuS , te,.al ;2991 otiaS , e t,.al 9491 , .)5991 以上から,本実験におけるそれぞれの血栓溶解剤の投与 方法は妥当であると思われた. 治療開始から 30 分後,平均肺動脈圧の低下は E6010 群(・ 20 /0)0 のほうが アルテプラーゼ群 (%)-6 より大きかった.しかしながら,治療開始から 13--- -時間後では両者の効果に差異は認められなかった. E6010 の急速な血栓溶 解効果は, one tohs 静注という投与法によるところが大きいと思われる. M a r t i n らは,彼らの用いた急性肺血栓塞栓モデルにおいて t-PA のレテプ ラーゼが他の血栓溶解剤より速く平均肺動脈圧を低下させたと報告した ( M a r t i n , te,.al .)3991 E6010 の単回投与が平均肺動脈圧を他の血栓溶解剤よ り速く平均肺動脈圧を低下させたこともレテプラーゼと同様の薬理学的性 質によるものだと考えられた. E6010 は半減期が長いことから単回投与が 可能とされている.この薬理動態的特質が,動物実験 ikzuuS( ,et,.al 1919 , 1 9 9 3 , ;5991 Adachi , te,.al ;2991 iukzuS , te,.al ;2991 otiaS , te,.al 9419 , )9591 で も臨床研究 (Kawai ,et,.al 2991 , )7991 においても血管内血栓の迅速な溶解 効果をもたらしているものと思われる. 臨床上,急性肺塞栓症において は,循環・呼吸機能の速やかな改善のために,より早い時期での血栓溶解 が必要であることはいうまでもない. 治療開始後 30 分という時点にお
-34-いて, E6010 の標準的投与量は平均肺動脈圧の低下に効果的であると思わ れた. 一般的にウロキナーゼとアルテプラーゼの 2 種が急性肺血栓塞栓症の血 栓溶解剤として認められている (rebhadloG ,et,.a1 ;8891 Meyer , te,.a1 ;2991 Meneveau , te,.a1 .)8991 その急速な血栓溶解効果により, E6010 は急性 肺血栓塞栓症に対して十分期待のできる血栓溶解剤となりうると思われた.
-35-第 4 章
肺動脈内バルーンパンピング法
4
・1
序論
急性左心不全に対する補助循環法としては大動脈内バルーンパンピング 法(凶 BP) が広く臨床に用いられその有効性についてはすでに多くの報 告がある souloopluoM( ,te,.al ;2691 ztiwortnaK , te,.al.)8691 しかし,重篤 な右心不全または両心不全に対しての補助循環法としての IABP の効果に は限界がある. そこで,直接的な重症右心不全の改善や両心不全における IABP との相 乗効果を求め、肺動脈内バルーンパンピング法 (intra-pulmonary artery b a l l o o n pumping: 以後, IPBP) が 考 案 さ れ た ほsoilar ,te,.al.)0791 1970 年代から実験的研究が始まりsoilarK( ,te,.al )0791 , 1980 年代には臨床応用 も報告されているrelliM( ,te,.al ;0891 Moran , ate,.l.)4891 IPBP は右心補助循環法として2
つの作用機序をもっ (Figureι1) .第 1 は,心収縮期におけるバルーンの急速なontilafde による右室駆出圧の低 下cilotsys( unloading) である. 第2
には,心拡張期のバルーンnoitalfni による肺血流量の増加cilotsaid( augmentation) である. 結果として肺 循環を介して左心系への血流量を増大させ,心拍出量の増加や大動脈圧の 上昇を促すといわれている. 従って, IPBP の目的は急性右心不全に対し,一時的で短期間の補助循環 を施すことにある.しかしながら、導入のタイミングや適応の範囲,治療 の効果に関してはいまだに充分確立されてはいない. -36-Figure
4
・1
A
DIASTOLEs
SYSTOL 王T
h
i
s
e
r
u
g
i
f
s
e
t
a
r
t
s
n
o
m
e
d
e
h
t
mechanism
o
f
i
y
r
a
n
o
m
l
u
p
-
a
r
t
n
b
a
l
l
o
o
n
pumping
.
)
P
B
P
I
(
A
n
I
e
l
o
t
s
a
i
d
ラn
o
o
l
l
a
b
n
o
i
t
a
l
f
n
i
句e
s
t
c
d
o
l
o
b
o
t
n
i
e
h
t
n
y
r
a
l
o
m
u
p
.
n
o
i
t
a
l
u
c
r
i
c
B D
g
r
i
n
u
e
l
o
t
s
y
s
ヲt
h
e
n
o
o
l
l
a
b
n
o
i
t
a
l
f
e
d
pumps
up b
d
o
o
l
m
f
o
r
e
h
t
t
h
g
i
r
e
l
c
i
r
t
n
e
v
o
t
t
h
e
n
p
y
a
r
o
m
l
u
.
n
o
i
t
a
l
u
c
r
i
c
(From
e
c
p
e
n
S
P
,
e
l
e
i
s
W
R
,
o
n
r
e
l
a
S
T
:
t
h
g
i
R
r
a
l
u
c
i
r
t
n
e
v
:
e
r
u
l
i
a
f
y
g
o
l
o
i
s
y
h
p
o
h
a
t
P
and
a
e
r
t
加n
e
l
.
t
SurgClinNorthAm
;
5
8
9
1
:
5
6
)
4
9
6
-3 7-4
-2
基礎研究の変遷
1
)
動物実験の歴史
(Table 4-1) 実験的研究では,急性右心不全を呈する動物モデルが必須であるが,右 心不全を来す病態には )1 前負荷を増大させるもの, )2 心原性のもの, 3) 後負荷を増大させるもの,の大きく 3 つに大別できる (Table 4・2) .これ まで報告されたモデルとして ) では三尖弁閉鎖不全(田村ら,1 1981 , 1982 , 1 9 8 7 ; 山口ら, 1987; 北村ら, 1984 , 1988) , ) では右室梗塞(塩野, 12 3;98 山内, 1984) や 右 心 肥 大 に 右 室 切 開 を 加 え た も のtteJ( ,te,.al ;3891 G o n z a l e s 圃nivLa , alte,. )0991 , ) では肺塞栓 (3 soilarK ,te,.al ;0791 livarpO , te,.al 1 9 8 4 ; solraC , te,.al )0991 や肺動脈結禁モデルztintopS( ,te,.al )1791 などが あり, IPBP の評価がなされている. バルーンの挿入方法と駆動位置についても, )1 肺動脈本幹に人工血管を 吻合しその中でバルーンパンピングする方法tteJ( ,te,.al ;3891 田村ら, 1981 , 1982 , 1987; 塩野, 3;891 山内, 1984; 二宮ら, 1987 , 1987) , )2 右室の外から挿入し肺動脈弁を越えて肺動脈内でバルーンパンピングする 方法soilarK( ,te,.al ;0791 livarpO , alte,. ;4891 invaL-selaznoG , te,.al )0991 , )3 内頚静脈、大腿静脈などの経皮的ルートを経て肺動脈内でバルーンを駆動 させるという方法がある(Le uost ,te,.al .)3991 当初は開胸術を必要とする 高侵襲の手技であったが,次第に低侵襲で実践的なシステムへと改良され ている. 2 )国外における動物実験
IPBP の試みは 1970 年Krs
o
i
l
a
らsoilarK( ,te,.al )0791 がヤギを用いコ ーンスターチによる肺塞栓モデルで急性右心不全を作成し, IPBP を駆動 -38-した報告に始まる.肺動脈本幹内でバルーンを駆動し 心拍出量の増加を 認めている.このほか,後負荷増大モデルとして, 1984 年Opravil らlivarpO( , e t,.al )4891 が,ガラスビーズで肺塞栓犬を作成し, IPBP の効果を検討して いる. 更にosarlC らsolraC( ,te,.al )0991 も,ガラスビーズで肺塞栓モデ ルを作成し,広背筋と心筋の収縮を同期させ,肺動脈のカウンターパルセ ーションを行った. 同様に後負荷増大モデルとして 1971 年znitpotS ら ( S p o t n i t z , te,.al )1791 が,イヌの左肺動脈をクランプし急性右心圧負荷をか け,右肺動脈に連結させたピストンボンフ内でカウンターパルセーション した報告もある. 心原性右心不全モデルとして, 1983 年tteJ らtteJ( ,te,.al )3891 は先天 性心疾患における右室流出路形成術後の急性右心不全患者を想定して,肺 動脈結穀により作成した慢性右室肥大ヒツジの右室流出路を切除し急性右 心不全モデルを作成した.同モデルに IPBP を用い循環補助効果を証明し た. また, 1990 年に Gonzales-
La
vin らnivaL-selaznoG( ,te,.al )0991 が, ブタで右室切開術を施し,右室流出路を通じて左肺動脈内にバルーンを挿 入し駆動させている.手技的に低侵襲のものとして, 1993 年Le tsou ら(Le uost ,te,.al )3991 は
イヌで経皮的に右大腿静脈から上行性にカテーテルを誘導し,左肺動脈内 でバルーンを駆動している.
3
)
本邦における動物実験
右心前負荷モデルとして, 1981 年以来,北村らは,三尖弁閉鎖不全に よる急性右心不全犬を作成し,人工血管を肺動脈本幹に端側吻合し,容量 5 -- 10ml のバルーンを用いたパンピングを行っている(田村ら, 1981 , 1982 , 87;19 山口ら, .)7891 更に開胸を必要としない低侵襲の手技とし -39-て,経皮的に肺動脈内ヘバルーンを挿入し,肺動脈本幹でパンピングを行 う方法を開発している.いずれの実験でも
IPBP
の右心機能補助効果が示 唆されている. 心原性右心不全モデルとして1983
年塩野(塩野,)
3
9
8
1
はブタの冠動 脈を結殺し右室梗塞を作成し,IABP
とIPBP
の併用効果を観察した.山 内(山内,)
8
4
1
9
はイヌで急性右室梗塞を作り,更に容量負荷を加えた右 心不全モデルを作成した.同モデルを用いIPBP
を駆動させ,心拍出量の 増加および中心静脈圧の低下が見られたと報告している.IPBP
の変法として 肺動脈を外からバルーンパンピングする方法もあ る. 宮ら(宮ら,1985
,)
8
6
9
1
は,肺動脈弁閉鎖不全犬およびガラスビ ーズによる肺塞栓犬を作成し,肺動脈本幹部を外部より圧迫する肺動脈外 バルーンパンピング法を発表した.この方法では血栓形成やガス塞栓,不 整脈発生の頻度が少ないと論じている. 更に,二宮ら(二宮ら,1987
,)
8
7
1
9
は,肺動脈バルーンパンピング法 の圧補助のみでは効果に限界があると主張し,肺動脈血流量を増大させる 流量補助可能なシステムを考案し報告している.-40-Table
4
・1
各種右心不全モデルを用いた IPBPI の 動物実験 病態モデル 報告年 報告者 1 .前負荷の増大 二尖弁閉鎖不全 1981 北村ら2.
心原性 右室梗塞 1983 塩野 1984 山内 右心肥大、右室切開術 1983Jett
,
et
al
1990。
)nzales-Lavin
,
et
al
3. 後負荷の増大 肺塞栓 1970Kralios
,
et
al
1984Opravil
,
et
al
1990Carlos
,
et
al
肺動脈結主主術 1971Spotnitz
,
et
al
-41-Table
4-2
右心不全の病態
A
.
前負荷の増大
・三尖弁閉鎖不全症 .静脈血還流量増加B
.
心原性(右室収縮力低下)
-右室梗塞 ・右室切開術後, 右室流出路形成術後 ・心筋症,心筋炎c
.
後負荷の増大
0
肺動脈弁の器質的変化 -肺動脈弁狭窄症, 肺動脈弁閉鎖不全症O
肺動脈系の負荷 -肺塞栓症 ・肺(葉)切除術 -左右シャントを来たす心疾患 ・肺性心r
o
C
(
)
e
l
a
n
o
m
l
u
p
0
肺静脈系の負荷 ・左室不全(左心不全) .僧帽弁膜症 -4 2-4
・3 臨床応用
IPBP の初めての臨床応用は 1980 年relliM らrelliM( ,te,.al )0891 によ って報告された.症例は54
歳の男性で冠動脈バイパス術 (CABG) に伴 う術中心筋梗塞 )PMI( に対し IABP と IPBP が併用された.肺動脈本幹 に人工血管を吻合し,容量 35ml のバルーンを挿入駆動し 人工心肺から の離脱に成功しているが,術後 3 日目に不整脈死している 1984 年 Moran ら anor(M ,te,.al )4891 は,左室癌修復を伴う CABG 症例と肺塞栓 症に対する血栓除去術後の 2 症例に IPBP を臨床使用した. 2 例とも最終 的に死亡したが, IABP に IPBP を併用したことで人工心肺からの離脱に 成功している.このほか, IABP とIPBP の併用報告としては, Symbas らsabmyS( ,te,.al
1 9 8 5
) が, CABG 術後,大動脈弁置換術 (AVR) 後, AVR+CABG 後の
3 症例に両者を併用し,人工心肺からの離脱に成功している. このうち 2 例は死亡したが AVR の 1 例は退院し 1 年生存した. また, Coleman ( C o l e m a n , )5891 はCABG 十僧帽弁置換術 (MV R)の術後に両心不全とな った患者に用い,術後 6 日目両バルーンの離脱に成功し 術後 32 日目退 院を果たしている 1991 年notgnillikS らnotgnillikS( ,te,.al )1991 は C泊 G 術後の右心不全2 例に両者を併用し,うち 1例は生存可能となった 最近では 1994 年 McCauley ら (McCauley ,te ,a.1 994)1 が心室癖切除
術及び CABG 後の重症心不全に対し, IABP と左心補助人工心臓に IPBP
の併用を試みている.離脱には成功するものの最終的に敗血症で失ってい る. IPBP 単独使用の報告は過去に 1症例のみである. Flege らegelP( , te,.al 1 9 8 4 ) が MVR 術後の重症右心不全患者に対し, IPBP を単独使用し長期
-43-生存が可能であったと報告している. 本邦では,
8
2
1
9
年以降,北村らが3
例の臨床報告をしている(北村ら,1
9
8
4
,8
9
8
1
,)
5
9
9
1
.うち2
例はMVR
を施行後,体外循環離脱困難とな った症例である. IABP 補助や強心剤のフルサポートでも血行動態は改善 せず,著しい心機能低下で右室梗塞合併による重症右心不全の出現を認め,IPBP
を追加駆動させたIPBP
の導入後,血行動態は安定し,心機能の 改善を臨床的に確認しえた点は意義深い報告である.-44-4
-4
現状の総括
I
P
B
P
は,三尖弁閉鎖不全,右室梗塞,肺動脈狭窄及び右室流出路形成 術後の急性右心不全などの病態については,種々の動物実験でその有効性 が実証されている. しかしながら,実際の臨床使用例をかえりみると関心術後のPMI
や低心 拍出症候群の症例に用いられており,その臨床成績も満足すべきものでは ない.適応疾患の選択が重要であり,強心剤や民BP
、補助人工心臓D
)
V
A
(
などの補助循環装置との臨床効果の面での位置づけを行なうことが今後の 課題と考える.-45-4
・5 今後の展望
今後の臨床応用に向けては,種々の右心不全の病態を十分に把握し,IPBP
を使用することが重要である.そのためにはIPBP
の右心補助効果, すなわち臨床治療上の位置づけを明確にする必要があると思われる. 薬物療法としては,カテコラミン製剤などの強心剤 前負荷を軽減する ための利尿剤,後負荷を軽減する亜硝酸剤やプロスタグランディン製剤な どがあるが,これらの薬物を投与しでも治療に抵抗する重症右心不全が存 在する一方重篤な急性右心不全症例に対しては, V-A バイパスや VAD な どの強力な機械的容量補助装置が用いられる.そこで,著者はIPBP
を薬 物療法と容量循環補助法との聞に位置づけるのことができるのではないか と考えた. 実際の臨床において,IPBP
が右心不全治療の一助となるために次の ような病態を考える.一つは 急性肺塞栓症である.急性肺塞栓症は治療 に難渋する致死的疾患であるが,内科的治療の血栓溶解療法や外科的血栓 除去術の成績もいまだ満足すべきものではない. そこで急性肺塞栓症による重症右心不全に対して,血栓溶解剤とIPBP
との併用が治療上の相乗効果をもたらすのではないかと著者は考えている. その詳細は第5
章に論じることにするIPBP
がもっ右心系の後負荷軽 減作用と肺循環におけるn
i
o
t
a
t
e
n
u
g
m
a
が血栓の溶解を促進し右心不全を 改善するのではないかとの発想に基づくものである.このほかIPBP
を用 いることで,肺(葉)切除患者に続発する右心負荷を軽減させることが可能 ならば,術後の回復に有効ではないかとも思われる. 臨床においてIPBP
が使用されるようになるためには,右心不全や両 心不全の重症度に応じたIPBP
の導入時期,バルーンの至適容量,IABP
-46-と併用では両バルーンの駆動タイミングなど今後検討し研究する必要が
ある.
-第
5
章
重 症 急 性 肺 塞 栓 モ デ ル 犬 に 対 す る 肺 動 脈 内
バ ル ー ン パ ン ピ ン グ と 血 栓 溶 解 療 法 の 相 乗 効 果
5
・1 序論
著者らは肺動脈内バルーンパンピング)PBIP( に関して研究を行なってき た(山口ら, ;7891 田村,.)7891 IPBP の機序については次のとおりである. 心拡張期にバルーンが急速に膨張することで肺循環へ血液を押し出し ( d i a s t o l i c )noitatnemgua ,心収縮期にバルーンが急速に収縮することで右室 の後負荷を減ずるcilotsys( )gnidaolnu ものである.このシステムは急性肺塞 栓症による右心不全に対して一時的な効果を発現するに違いないと考えた. モンテプラーゼは日本で開発された新種のヒト遺伝子組換え組織プラス ミノーゲンアクチベーターt(手A) である.本薬剤はヒト -PAt のアミノ酸 残基目のシステイン 84 をセリン 84 に置換した PAt- 誘導体であり,生物 学的半減期を延長されている ikuzuS( ヲt ae,.1 ;3991 ikuzuS , te,.a1 ;4991 Kawai , e t,.a1 .)7991 モンテプラーゼはイヌの冠動脈血栓や大腿動脈血栓に対し, 既存の t-PA であるチソキナーゼより強力な血栓溶解効果を有することが報 告されている hicaAd( ,teヲ.al ;2991 ikuzuS S, ate,.l 1991 , 3199 , ;5991 ikzuuS N , e t,.al ;4991 otiaS , te,.a1.)4991 モンテプラーゼのより延長された半減期は急 性心筋梗塞の治療において単回静注を可能とし 迅速な再潅流を促した. そのことはevitcepsorp な無作為試験におけるチソキナーゼの標準投与と比 較された結果から示されている (Kawai , ateヲ.1.)7991 しかしながら,急性肺塞栓症患者に対しモンテプラーゼの効果を評価し た臨床報告はない.著者は第 3 章に述べた先の実験によって 急性肺塞栓 -48-による肺高血圧をモンテプラーゼ単回静注が既存のト
PA
であるアルテプ ラーゼの持続静注より迅速に改善させることを動物モデル(イヌ)におい て立証したi
m
a
g
a
T
(
,t
e
,.a
l.
)
0
0
0
2
著者は血栓溶解剤と IPBP との併用療法は急性肺塞栓の右心負荷をより 速く改善させるのではないかという仮説を立てた.この仮説を証明するた めに,著者らの作成した急性肺塞栓症モデルを用いて,モンテプラーゼと IPBP のそれぞれ単独療法と併用療法との効果を比較検討した. 開 49-5
・2
対象と実験方法
1
) 肺塞栓の作成
体重 14 ~ 12 kg の雑種成犬 25 頭を対象とした.急性肺塞栓モデルは第 2 章に詳述した方法に基づいて作成した. 今回は右室前壁から IPBP カテ ーテルを挿入し, 主肺動脈から右肺動脈にかけて誘導した.肺動脈圧の 測定はこのカテーテルの先端からモニタリングした.2
)
肺動脈内バルーンパンピング
)
P
B
P
(
I
カテーテル
IPBP カデーテル (erugiF 5・)1 は基本的に大動脈内バルーンパンピ ング(IABP) と同様の構造をしている.今回,著者が用いた IPBP カテーテ ルは,著者がイヌを用いた本研究のために特別に設計し,東海メデイカ ルプロダクツ(株) (愛知県春日井市)に製作を依頼したものである.3
) 治療
肺塞栓作成後,肺動脈圧が高値を維持するのを確認したのち治療を開始 した.以下の 4 群に分けて治療を行なった. group :1 血栓溶解療法も IPBP も行わないコントロール群 (n = ) , 6 group :2 04.0 mg /k g の モ ン テ プ ラ ー ゼ を 単 回 静 注 し た 群 (n=
) , 6 group :3 IPBP を 3 時間カウンターパルセーションした群 (n = )6 , group :4 04.0 mg /k g のモンテフラーゼを単回静注した上に IPBP を 3 時間カウンターパルセーションした群 n( = .)7 -50-IPBP はバルーン容量が 5cc であり,標準的な IABP 駆動器 (eposcaatD ⑧ System97 citroA-artnI onollBa Pump) を使用し, 1: 1で駆動させた.
4
)
統計学的手法
血行動態と動脈血液ガス分析の変化は反復測定一分散分析法 (detaeper m e a s u r e ANOV A) で検定した P 値が 050. 以下をもって統計学的有意差 を決定した. 各種データは平均値±標準偏差 (SD) で表現した.統計学 的処理に関しては,市販のソフトウエアである SewViatt 5.4 sucbaA( sptceonC,
1 9 9 6 ) および DhapaGrelt 1.1.3 tniopatleD(,
.cnI )4991 を利用した. - 5 -1An
intra-pulmonary
balloon
was
specially
designed
to
fit
the
main
and
right
pulmonary
arteries
by
authors.
The
volume
of
balloon
is
5
cc.
The
outer
diameter
is
18
mm.
The
length
of
balloon
is
35
mm.
-52-5
・3
結果
急性肺塞栓症モデルを作成するのに平均 10.2 土0.4 ml を必要とした. 1 )肺塞栓作成後の血行動態と呼吸能の変化
肺塞栓後の血行動態の変化は Table 1-5 に示した.肺塞栓作成後,平均 肺動脈圧,右室収縮期圧および平均右房圧は有意に上昇した.心拍出量は 顕著に減少した.しかしながら,平均体血圧に有意な変化は認められなか った. Table 2-5 に肺塞栓後における呼吸能の変化を示している. 酸素化 が著しく低下し,代謝性アシドーシスの進行がみられた.2
)
治療効果
F i g u r e 5・2 において,肺塞栓後の平均肺動脈圧の明らかな上昇とその後 の各種の治療効果について示している Group 2 では,モンテプラーゼ 投与開始から 30 分, 60 分の間に平均肺動脈圧が有意に低下したにもかか わらず,その他の治療群においては高値を持続していた. 右室収縮期圧の経時的変化を Feurig 5・3 に示した.肺塞栓後,右室収縮期 圧は著しく上昇したが, gpuro 1, puorg 3 の変化はその後も軽微であり,高 値を維持した. Group 2 と gpour 4 の治療群では有意な低下が観察された. Group 4 においてのみ,治療開始から 30 分で右室収縮期圧が 49.7 土6.3 mm Hg から 43.0 士6.3 mm Hg へと有意な低下がみられた(p < .)10.0 治療開始 から 60 分経過すると, gpuor 2 と gpour 4 はそれぞれ, 43.3+5.9 mm Hg か ら 38.7+9.0 mm Hg へ (p < 0)50. , 9.74 士6.3 mm Hg から 34.8 士8.3 mm Hg へ (p < )100.0 と顕著な改善が認められた.治療開始から 180 分経過すると コントロール群に比し,有意な右室収縮期圧の低下を示したものは gpour 4 のみであった (p < .)50.0 Group 3 のように IPBP 駆動による治療のみでは, - 53-右室収縮期圧の低下はみられなかった. 心拍出量はすべてのグループに おいて,次第に低下し治療の効果が観察されなかった erugiF( .)4-5 平均 右房圧は治療法の如何を問わず¥経過中著しい変化は認められなかった ( F i g u r e 5・.)5 また,呼吸能に関しては,低酸素血症や代謝性アシドーシス の有意な改善は各治療後 認められなかった.
-54-Table 5-1 Hemodynamic effects of pulmonary embolization mPA mBP
co
RVs mRA Condition (mmHg) (mmHg) (L/min) (mm Hg) (mmHg) Pre-embolization 12.1 +2.9 92.6 士 14 .5 1. 64+0 .4 2 25.8 土 5.9 0.7+0.9 Post-embolization 3 1. 7 土 3.7 97.6+17 .5 1. 44+0 .4 8 t 48.3 土 8 .4 1. 7+ 1. 1 l mPA = mean pulmonary artery pressure , mBP = mean arterial blood pressure , CO = cardiac output , RVs = right ventricular systolic pressure , mRA = mean right atrial pressure. Values are mean + SD; n = 24. .p<O.OOOl , t p<0.05 , lp<O.OOl when compared with pre-emboli condition.-55-Table 5-2 Changes in arterial blood gases after pulmonaη T embolization pH Pa02 PaC02 Sa02 BE Condition (mmHg) (mm Hg)