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心筋収縮系の自励振動特性と 心拍との相関

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心筋収縮系の自励振動特性と 心拍との相関

Auto-Oscillatory Property of Skinned Myocardium Correlating with Heartbeat

20063

早稲田大学大学院 理工学研究科 生命理工学専攻 実験生物物理学研究

佐々木 大輔

(2)

2005年度 博士論文 佐々木大輔

1

【目次】

目次 ··· 1

略語一覧 ··· 5

1 章 序論 ··· 6

1-1)はじめに ··· 6

1-2)研究の背景と目的 ··· 7

1-3)本論文の概要 ··· 8

第1章 図 ··· 12

2章 材料と方法 ··· 13

2-1)除膜心筋線維試料の調製 ··· 13

2-1-1)第3章で用いた除膜心筋線維試料の調製 ··· 13

2-1-2)第4、5章で用いた除膜心筋線維試料の調製 ··· 14

2-2)溶液組成 ··· 15

2-2-1)第3章で用いた溶液組成 ··· 15

2-2-2)第4章で用いた溶液組成 ··· 16

2-2-3)第5章で用いた溶液組成 ··· 16

2-3)実験方法と装置 ··· 17

2-3-1)第3章で用いた心筋線維顕微鏡観察法 ··· 17

2-3-2)第3章で用いた心筋ミオシンin vitro motility assay法 ··· 18

2-3-3)第4章で用いた心筋線維顕微鏡観察法 ··· 19

2-3-4)第4、5章で用いた心筋線維張力測定法 ··· 19

2-4)タンパク質の精製 ··· 20

2-4-1)第3章で用いたタンパク質の精製 ··· 20

(3)

2005年度 博士論文 佐々木大輔

2

2-4-2)第5章で用いたタンパク質の精製 ··· 21

第2章 図 ··· 23

3章 心筋ADP-SPOCと心拍との相関 ··· 25

3-1)概要 ··· 25

3-2)はじめに ··· 26

3-3)材料と方法 ··· 27

3-3-1)溶液 ··· 27

3-3-2)除膜心筋線維試料の調製 ··· 27

3-3-3)筋節長振動の顕微鏡観察 ··· 27

3-3-4)in vitro motility assay ··· 28

3-4)結果 ··· 28

3-4-1)ADP-SPOCの概観 ··· 28

3-4-2)ADP-SPOC筋節長振動波形 ··· 29

3-4-3)ADP-SPOCと心拍の関係 ··· 29

3-4-4)無染色の心筋線維試料における筋節長振動周期の解析 ··· 31

3-4-5)in vitro motility assayによる心筋ミオシンの運動活性測定 ··· 31

3-4-6)ADP-SPOCとミオシン運動活性の関係 ··· 32

3-4-7)ラット右心室肉柱筋におけるADP-SPOC ··· 33

3-5)考察 ··· 33

第3章 図 ··· 38

4章 心筋Ca-SPOCと心拍との相関 ··· 44

4-1)概要 ··· 44

4-2)はじめに ··· 45

4-3)材料と方法 ··· 46

4-3-1)溶液 ··· 46

4-3-2)除膜心筋線維試料の調製 ··· 46

(4)

2005年度 博士論文 佐々木大輔

3

4-3-3)等尺性張力の測定 ··· 46

4-3-4)顕微鏡観察 ··· 46

4-4)結果 ··· 47

4-4-1)活性張力のpCa依存性と張力振動 ··· 47

4-4-2)Ca-SPOCの顕微鏡観察 ··· 49

4-4-3)筋節振動周期と心拍の関係 ··· 50

4-4-4)筋節振動周期の温度依存性 ··· 50

4-4-5)筋節振動周期のpCa依存性 ··· 50

4-4-6)筋節長振動波形 ··· 51

4-4-7)Ca-SPOCが局所的Ca2+濃度振動に基づくものか否かの検証 ··· 52

4-4-8)Ca-SPOCに対するデキストランの影響 ··· 52

4-5)考察 ··· 53

4-5-1)筋節振動と張力振動の関係 ··· 53

4-5-2)Ca-SPOC発生のメカニズム ··· 54

4-5-3)Ca-SPOCの生理的意義 ··· 56

第4章 図と表 ··· 58

5章 筋長効果発現におけるトロポニン・トロポミオシンの役割 ··· 64

5-1)概要 ··· 64

5-2)はじめに ··· 65

5-3)材料と方法 ··· 66

5-3-1)溶液 ··· 66

5-3-2)ウシ除膜心筋線維試料の調製 ··· 67

5-3-3)張力測定 ··· 67

5-3-4)タンパク質の精製 ··· 67

5-3-5)実験手順 ··· 68

5-4)結果と考察 ··· 69

5-4-1)アクチンフィラメント再構成心筋の活性張力回復率 ··· 69

(5)

2005年度 博士論文 佐々木大輔

4

5-4-2)アクチンフィラメント再構成心筋の静止張力 ··· 70

5-4-3)アクチンフィラメント再構成心筋の筋長効果 ··· 71

5-4-4)トロポニン・トロポミオシンの再構成 ··· 71

5-4-5)ゲルゾリン処理後の筋長効果 ··· 73

5-4-6)筋長効果消失の原因 ··· 74

第5章 図 ··· 76

6章 まとめ ··· 83

6-1)本論文のまとめ ··· 83

6-2)今後の展望 ··· 84

第6章 図 ··· 85

参考文献 ··· 86

研究業績 ··· 92

謝辞 ··· 98

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2005年度 博士論文 佐々木大輔

5

【略語一覧】

ADP:adenosine 5’-diphosphate.

AP5A:P1,P5-di (adenosine-5’) pentaphosphate.

ATP:adenosine 5’-triphosphate.

BES:N, N-bis (2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid.

BDM:2,3-butanedione 2-monoxime.

DFP:diisopropyl fluorophosphate.

DTT:(±)-dithiothreitol.

EDTA:ethylenediaminetetraacetic acid.

EGTA:ethyleneglycol bis (2-aminoethylether) tetraacetic acid.

F-actin:filamentous actin.

G-actin:globular actin.

HEPES:N-2-hydroxyethylpiperazine-N’-2-ethanesulfonic acid.

MOPS:3-(N-morpholino) propanesulfonic acid.

pCa:-log [Ca2+].

Pi:inorganic phosphate.

PMSF:phenylmethylsulfonyl fluoride.

SL:sarcomere length.

SPOC:SPontaneous Oscillatory Contraction.

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【第 1 章】

序論

1-1)はじめに

横紋筋(心筋、骨格筋)収縮機構の熱力学的、力学的研究は 1920 年代における A. V. Hill による研究で本格化し、1950~60 年代にA. F. Huxley(Huxley and Niedergerke, 1954a)、H. E. Huxley(Huxley and Hanson, 1954b; Huxley, 1969)に よって、現在における筋収縮分子メカニズム解釈の基礎となっている、2種類の筋 タンパク質フィラメント間における“滑り説”が提唱された。筋収縮機構の研究は このような非常に長い歴史を持っているが、それでもなお現在未解決の重要な研究 課題が残されている。その代表例の1 つが、本研究で取り上げている筋収縮系の自 励振動現象、SPOC(

SPontaneous Oscillatory Contraction)である。

SPOC の研究において解明すべき主題は大別して 2 つある。1 つは振動発現の分 子メカニズムを明らかにすることである。これはすなわち、筋収縮系を構成する個々 の筋タンパク質分子の性質と、その1 つ上の階層である、筋タンパク質分子複合体 システムとしての筋(原)線維レベルにおける性質(SPOC)とを結びつける機構 を明らかにすることである。もう1つの主題は、とりわけ心筋収縮系におけるSPOC について、その生理的意義を明らかにすることである。これはすなわち、筋(原)

線維レベルにおける性質(SPOC)と、その 1 つ上の階層である臓器レベルにおけ る性質、すなわち心臓の拍動機能とを結びつける機構を明らかにすることである。

本研究は後者の目的に従って遂行されたものである。

SPOC は、その長い研究の歴史故に古典と化しつつある筋収縮メカニズムの研究 分野の中に残された、解決すべき数少ない基礎研究課題のうちの1 つである。しか しながらそれと同時に、SPOC 研究の本質は、生体システムを構築する階層性にお いて、上下の階層間を結びつける機構を明らかにすることであり、生命現象を対象

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とした様々な研究に通じる一般性を備えた研究課題であると言えるだろう。

1-2)研究の背景と目的

心拍は、大静脈と右心房とのつなぎ目に存在する、洞房結節と呼ばれる部分にお ける細胞の自発的、周期的な電気的興奮に端を発する。この電気的興奮、すなわち 活動電位は、心房、房室結節、刺激伝導系、そして心室へと、心臓全体に伝えられ る。その際、心臓の主たる構成因子である心筋細胞において、活動電位に応じた筋 小胞体からのCa2+放出が生じ、細胞内Ca2+濃度が上昇する。その結果、心筋細胞に おいて機械的収縮を担う、筋タンパク質により構成された筋収縮系にCa2+が結合し、

心筋の収縮が生じる。引き続き今度は、筋小胞体による細胞内Ca2+の取り込みが始 まり、細胞内Ca2+濃度の低下とともに筋収縮系からCa2+が解離し、心筋の弛緩が達 せられる。このサイクルが洞房結節からの活動電位の発生に応じて繰り返され、心 拍のリズムが形成される。この一連の過程において、筋収縮系は、細胞内Ca2+濃度 の上がり下がりに追随して収縮、又は弛緩のどちらかの状態をとる単純な収縮装置 として捉えられている。しかしながら一方、筋収縮系を構成する筋原線維の横紋構 造を形成する、筋収縮を担う構造的最小単位である筋節(サルコメア)(図1-1)は、

中間活性化状態において、Ca2+濃度の変動がない定常的な溶媒条件下においても、

自発的に収縮、伸展を繰り返す振動特性を備えている。この振動現象をSPOC

(SPontaneous Oscillatory Contraction)と呼ぶ。SPOCが生じる筋収縮系の中間活 性化状態は、ある特定のCa2+濃度条件下(Fabiato and Fabiato, 1978; Sweitzer and Moss, 1990; Linke et al., 1993; Fukuda et al., 1996; Fukuda and Ishiwata, 1999;

Telly et al., 2006)、又はCa2+非存在下において筋収縮のエネルギー源であるATPと、

その加水分解産物であるADP、Piが共存する条件下(Fukuda et al., 1996; Fukuda and Ishiwata, 1999; Sasaki et al., 2005)において作られる。前者はCa-SPOC、後者 はADP-SPOCと分類される。ADP-SPOCは心筋収縮系のみならず、骨格筋収縮系に

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おいても発生する(Okamura and Ishiwata, 1988; Anazawa et al., 1992; Shimizu et al., 1992; Ishiwata and Yasuda, 1993; Yasuda et al., 1996)。一方Ca-SPOCは心筋収 縮系でのみ発生する(Ishiwata and Yasuda, 1993)。著者が所属する本研究室におい て、現在までにSPOCの発生条件、振動特性等が詳細に調べられてきた。その結果、

Ca-SPOCとADP-SPOCは一見明らかに異なる条件において発生するように見受け

られるが、一定のATP濃度下で Ca2+、ADP、Pi濃度を変数とした 3 次元相図中に SPOCの発生する領域を表すと、両SPOC条件は、収縮及び弛緩領域に挟まれた1 つの領域中に含まれることが明らかにされた(Ishiwata and Yasuda, 1993; Fukuda et al., 1996; Ishiwata et al., 1998)(図1-2)。又、両SPOC条件における筋節内分子 状態は同様であることがシミュレーションにより示唆された(Ishiwata and Yasuda, 1993)。しかしながら一方で、SPOCの生理的意義についてはその糸口すらもつかめ ていなかった。そこで著者は、SPOCと心拍との関連性を明らかにし、その生理的 意義を解明することを目的として、本研究を計画、遂行した。

1-3)本論文の概要

第1章では、本研究の背景と目的、そして本論文の概要を述べる。

第2 章では、本研究に用いた生体試料の調製法、溶液組成、及び実験方法につい ての詳細を述べる。

第 3 章では、心筋 ADP-SPOC と心拍との相関性についての一連の研究結果と考 察を述べる。ADP-SPOC は、ATP、ADP、および Pi 共存下によって作られる筋収 縮系の中間活性化状態において生じるSPOCである。本研究では、心拍数の異なる 様々な動物種から調製した除膜心筋線維試料を実験に用い、ADP-SPOCにおける筋 節振動特性と心拍数との関係について明らかにした。ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、

及びウシの心筋から調製した除膜心筋線維試料(太さ約0.1 mm、長さ1–2 mm)の 細いフィラメントを蛍光ラベルし、共焦点蛍光顕微鏡観察により、ADP-SPOCにお

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ける筋節長振動波形を詳細に解析した。その結果、各筋節は、ゆっくりとした収縮 相とすばやい伸長相からなる鋸歯状の波形で周期的に振動し、またこの伸長相は、

隣接する筋節へ等速に伝播していく(SPOC 波)ことが明らかになった。これらの 特徴は動物種の違いによらない共通の性質であった。また、ADP-SPOCにおける筋 節長振動周期、及びSPOC波伝播速度は、共に各動物種の安静時心拍数と強い相関 を持つことが明らかとなった(安静時心拍数は文献値を引用)。この結果は、心筋収 縮系に備わった自励振動(SPOC)特性が心筋拍動において何らかの役割を担って いる可能性を示唆し、心臓の拍動過程において心筋収縮系を単純な収縮装置と見な す従来の見解に一石を投じるものである。また、この相関を分子レベルで規定する 因子を明らかにするため、各動物種の心筋から、筋収縮を担うモータータンパク質 であるミオシンを精製し、in vitro motility assayによる運動活性の測定を行った。そ の結果、ミオシンの運動活性を示すアクチン滑り速度も各動物種の安静時心拍数と 相関を持つことが明らかとなった。しかしながら、アクチン滑り速度とADP-SPOC の筋節長振動における筋節収縮速度は比例関係にはなく、アクチン滑り速度に対す る筋節収縮速度の比は、概して心拍の速い動物種ほど大きくなる傾向にあった。こ の結果は、筋節収縮速度がミオシンの運動活性に加え、その他の要素によって調節 を受けていることを示している。

第4章では、心筋Ca-SPOC と心拍との相関性についての一連の研究結果と考察 を述べる。Ca-SPOC は、ある特定の Ca2+濃度条件下において作られる筋収縮系の 中間活性化状態において生じるSPOCである。本研究室において行われた先行研究

により、ADP-SPOCとCa-SPOCは同様の筋節内分子状態に起因することが示唆さ

れている。しかしながら、ADP-SPOCは比較的高濃度のADP を必要とし、生理学 的見地からは病的な条件と考えられるため、SPOC の生理的意義についての知見を 得るためには、生理的収縮条件下において生じる Ca-SPOC についての研究が不可 欠である。本研究では、心拍数の異なる様々な動物種から調製した除膜心筋線維試 料を実験に用い、Ca-SPOC における筋節振動特性と心拍数との関係について明ら かにした。ラット、ウサギ、ブタ、及びウシの心筋から調製した除膜心筋線維試料

(太さ0.1–0.2 mm、長さ1–2 mm)において、Ca-SPOCが生じるCa2+濃度範囲を

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顕微鏡観察により調べたところ、すべての動物種の心筋で、生理的収縮条件を含む 幅広い Ca2+濃度範囲において Ca-SPOC が生じることが明らかとなった。さらに、

その筋節長振動周期は各動物種における心拍の周期にほぼ対応するものであった。

これらの結果は、心筋収縮系に備わった自励振動特性が生体内における心筋拍動に 寄与している可能性を強く示唆する。また、各動物種の除膜心筋線維試料における 等尺性張力測定を行った。その結果、ブタとウシの心筋線維試料において、弛緩状

態から Ca-SPOC 条件への溶液交換直後における張力の立ち上がり時に、時折明ら

かな張力振動が得られた。この張力振動は次第に減衰し、数分以内に消失した。一

方 Ca-SPOC における筋節振動は、顕微鏡観察では、全ての動物種の心筋線維試料

において再現性良く得られ、数十分以上安定に継続する。筋節振動が張力振動に反 映されるとは限らない理由は、心筋線維内における筋節長振動の位相が揃っていな いため、心筋線維全体での振動が相殺されてしまうからと考えられる。そのため、

生体内における拍動のような大きな振動の振幅は Ca-SPOC では実現されない。し かしながら、ブタとウシの心筋線維試料において時折観察される溶液交換直後にお ける張力振動は、心筋線維内における筋節振動の位相を周辺のCa2+濃度変化により 揃えることができる可能性を示唆する。すなわち、心拍における細胞内Ca2+濃度振 動は、筋節自励振動の位相を制御し、これを同調させる役割を果たしている可能性 がある。心筋収縮系に備わった自励振動(SPOC)特性は、細胞内Ca2+濃度振動に よる心筋拍動の制御と相補的に機能し、効率のよい心拍の実現に寄与しているので はないかと考える。

第5 章では、心筋の伸展に応じた発生張力増大のメカニズムにおける、収縮制御 系タンパク質トロポニン・トロポミオシンの役割を明らかにする目的で行われた研 究についての、一連の結果とその考察を述べる。心筋収縮系は伸展に応じて発生張 力が増強するという性質(筋長効果)を備えている。筋長効果はSPOCにおける筋 節自励振動特性を説明するメカニズムの 1 つと推測されている。また、心臓の

Frank-Starling則、すなわち静脈還流量の増加に応じて1回拍出量が増加するという、

生理的に極めて重要な心機能を説明するメカニズムの1 つと考えられている。本研 究では、ウシ除膜心筋線維における細いフィラメントの解体・再構成の手法を用い、

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筋のCa2+感受性を担う制御系タンパク質トロポニン・トロポミオシンの、筋長効果 発現における役割について調べた。ウシ除膜心筋線維試料のCa2+による飽和活性化 状態における最大発生張力は、筋節長を2.0 μmから2.3 μmに引き伸ばすことによ り約20%増大した。この試料に、アクチンフィラメントの切断タンパク質ゲルゾリ ンを作用させ、試料中の細いフィラメントを取り除き、ここに精製アクチンモノマ ーを重合条件で加えることにより、トロポニン・トロポミオシンの存在しないアク チンフィラメント再構成心筋を作成した。アクチンフィラメント再構成心筋では、

筋の伸展に依存した発生張力の増強は認められなかった。この結果は、筋長効果発 現におけるトロポニン・トロポミオシンの重要性を期待させた。しかしながら、こ のアクチンフィラメント再構成心筋にさらに精製トロポニン・トロポミオシンを加 えて再構成しても、筋長効果の回復は認められなかった。すなわち、アクチンフィ ラメント再構成心筋における筋長効果の消失は、トロポニン・トロポミオシンの損 失以外の原因によるものと考えられる。本研究は現時点において完結していないが、

ここで得られた研究結果は今後の研究の参考になるはずである。

第6章では、本論文の結果と考察をまとめ、本研究の今後の展望を述べる。

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2005年度 博士論文 佐々木大輔

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1-1 心筋の階層構造。心筋は骨格筋と同様に横紋構造を持った横紋筋の一種で ある。横紋は筋節(サルコメア)とよばれる収縮構造単位が直列に連結することに より形成される。

1-2 心 筋 収 縮 系 の 状 態 相 図 。 SPOCは、収縮と弛緩に挟まれた中間 条件において生ずる。

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【第 2 章】

材料と方法

2-1)除膜心筋線維試料の調製

2-1-1)第3章で用いた除膜心筋線維試料の調製

Fukuda et al.(1996)の方法により、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、ウシの心筋

から除膜心筋線維試料をそれぞれ調製した。ブタ、ウシの心臓は、東京都中央卸売 市場食肉市場(港区)において摘出された直後のものを、東京芝浦臓器(株)にて 購入した。ラット(Wister、オス、300 g)、ウサギ(JW、オス、2.5 kg)の心臓は、

早稲田大学動物実験実施規程に従い、本研究室において摘出した。イヌ(ビーグル、

オス)の心臓は、他研究室の薬理実験における残物として余ったものを、ご好意に より頂いた。摘出直後の心臓から、ラット、ウサギにおいては、左室乳頭筋全筋(ラ ット、太さ~1 mm、長さ~5 mm;ウサギ、太さ~3 mm、長さ~8 mm)、イヌ、ブタ、

ウシにおいては、左室乳頭筋切片(太さ3–5 mm、長さ20–50 mm)を切り出した。

これらの心筋切片をglycerol solution(組成は2-2-1に後述)に浸し、4°Cで1晩お いた。翌日glycerol solutionを新しいものに交換した後、-20°Cに保存した。なお、

ウシの心臓は狂牛病の衛生検査のため摘出当日は研究室に持ち帰れない。そこで、

摘出当日の作業は東京芝浦臓器(株)事務所にて行い、翌朝に glycerol solution に 浸した状態の心筋切片を研究室に持ち帰った。これらの心筋は、5 週間以内に実験 に用いた。実験直前に、これらの心筋切片を実体顕微鏡下でピンセットを用いて切 開し、線維状の細い心筋線維試料(太さ~0.1 mm、長さ1–2 mm)を調製した。損 傷が少なく良質な、かつ十分に細い心筋線維試料を調製するために、切開は0°C以 下に冷却したglycerol solution中で行った(Fukuda et al., 1996)。次に、1%(v/v) TritonX-100 を含む rigor solution(組成は 2-2-1 に後述)に心筋線維試料を 4°C で

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2005年度 博士論文 佐々木大輔

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20–30分浸して除膜し、relaxing solution(組成は2-2-1に後述)でよく洗った。ま た例外的に、ラットにおいては、太さ100–200 μmの右心室肉柱筋からも上述の方 法で試料を調製した。調製の際、肉柱筋はもともと太さが100–200 μmであるため、

ピンセットを用いた試料の切開は行わず、損傷のほとんどない状態で実験に用いた。

2-1-2)第4、5章で用いた除膜心筋線維試料の調製

Fukuda et al.(2003)の方法により、ラット、ウサギ、ブタ、ウシの心筋から除 膜心筋線維試料をそれぞれ調製した。ブタ、ウシの心臓は、東京都中央卸売市場食 肉市場(港区)において摘出された直後のものを、東京芝浦臓器(株)にて購入し た。ラット(Wister、オス、300 g)、ウサギ(JW、オス、2.5 kg)の心臓は、早稲 田大学動物実験実施規程に従い、本研究室において摘出した。ラット、ウサギの心 臓は、摘出直後にCa2+-free Tyrode solution(140 mM NaCl、5.4 mM KCl、0.5 mM MgCl2、0.3 mM NaH2PO4、5 mM HEPES、5.5 mM glucose、pHはNaOHを用いて

pH 7.4に調節)を大動脈から冠状動脈へとシリンジを用いて逆流させ、血液をよく

洗い流した。これらの心臓から、ラットにおいては、左室乳頭筋全筋(太さ~1 mm、

長さ~5 mm)、ウサギ、ブタ、ウシにおいては、左室乳頭筋切片(太さ~2 mm、長 さ~5 mm)を切り出した。これらの心筋切片をskinning solution(組成は2-2-1に後 述)に4°Cで24時間浸して除膜した。途中1回skinning solutionを新しいものに 交換した。なお、ウシの心臓は狂牛病の衛生検査のため摘出当日は研究室に持ち帰 れない。そこで、摘出当日の作業は東京芝浦臓器(株)事務所にて行い、翌朝にこ れを研究室に持ち帰った。除膜後の心筋断片を、80 mM BDM、プロテアーゼインヒ ビターカクテル(0.5 mM PMSF、1 mM Leupeptin、0.1 mM E-64)を含むrelaxing solution(組成は2-2-1に後述)を用いて4°Cでよく洗い、glycerol solution(組成は

2-2-1 に後述)に 4°C で 2 時間浸し、その後-20°C に保存した。ラットの心筋は 1

週間以内、その他の動物種の心筋は2 週間以内に実験に用いた。実験直前に、これ らの心筋切片を実体顕微鏡下でピンセットを用いて切開し、心筋線維試料(太さ

0.1–0.2 mm、長さ1–2 mm)を調製した。損傷が少なく良質な、かつ十分に細い心

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2005年度 博士論文 佐々木大輔

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筋線維試料を調製するために、切開は0°C以下に冷却したglycerol solution中で行 った(Fukuda et al., 1996)。

2-2)溶液組成

2-2-1)第3章で用いた溶液組成

第3章で用いた溶液の組成を以下に示す。

・ glycerol solution:51%(v/v)glycerol、5 mM EGTA、0.5 mM NaHCO3、2 mM Leupeptin。

rigor solution:10 mM MOPS、1 mM EGTA、5 mM MgCl2、120 mM KCl、pH

はKOHを用いてpH 7.0に調節。

relaxing solution:3.8 mM ATP、10 mM MOPS、4 mM EGTA、3.9 mM MgCl2、 120 mM KCl、pHはKOHを用いてpH 7.0に調節。

ADP-SPOC solution:2.2 mM ATP(2mM MgATP)、16.4 mM ADP(9.7 mM MgADP)、10 mM MOPS、2 mM EGTA、50 μM AP5A、14.2 mM MgCl2(1.8 mM Mg2+)、10 mM Pi、41 mM KCl(150 mM ionic strength)、pHはKOHを用いて pH 7.0に調節。

・ buffer A:25 mM KCl、25 mM imidazole、4 mM MgCl2、1 mM EGTA、10 mM DTT、

pHはHClを用いてpH 7.4に調節。

buffer M:0.6 mM KCl、10 mM imidazole、10 mM DTT、pHはHClを用いてpH 6.8に調節。

assay buffer:2 mM ATP、酸素除去酵素系(4.5 mg/ml glucose、50 units/ml glucose oxidase(SIGMA)、50 units/ml catalase(SIGMA))を含むbuffer A。

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2-2-2)第4章で用いた溶液組成

第 4 章で用いた溶液の組成を以下に示す。なお、activating solution と relaxing solution の組成は、Dr. G. J. M. Stienen(VU University Medical Center、The

Netherlands)のご好意によって提供していただいたコンピュータープログラム

(Stienen et al., 1996)を用いて計算した。

・ activating solution:5 mM MgATP、1 mM Mg2+、40 mM BES、1 mM DTT、15 mM phosphocreatine、15 units/ml creatine phosphokinase(Type I;SIGMA)、 pCaはEGTAの合計濃度が10 mMになるようにEGTAとCaEGTAを混合して、

pCa 6.5–4.5に調節し、イオン強度はpotassium propionateを用いて170 mMに

調節し、pHはKOHを用いてpH 7.0に調節。

relaxing solution:5 mM MgATP、1 mM Mg2+、10 mM EGTA、40 mM BES、1 mM DTT、15 mM phosphocreatine、15 units/ml creatine phosphokinase(Type I; SIGMA)、イオン強度はpotassium propionateを用いて170 mMに調節し、pH

はKOHを用いてpH 7.0に調節。

・ skinning solution:1%(v/v)TritonX-100、80 mM BDM、プロテアーゼインヒ ビターカクテル(0.5 mM PMSF、1 mM Leupeptin、0.1 mM E-64)を含むrelaxing solution。

・ glycerol solution:relaxing solutionとglycerolを1:1の体積比で混合したもの で、40 mM BDM、プロテアーゼインヒビターカクテルを含む。

2-2-3)第5章で用いた溶液組成

第 5 章で用いた溶液の組成を以下に示す。なお、activating solution と relaxing

solution の組成は、A. Fabiato によって作成されたコンピュータープログラム

(Fabiato, 1988)を用いて計算した。

・ activating solution:5 mM MgATP、1 mM Mg2+、10 mM CaEGTA(pCa <4.5)、 40 mM BES、1 mM DTT、15 mM phosphocreatine、15 units/ml creatine

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phosphokinase(Type I;SIGMA)、イオン強度はpotassium propionateを用い て180 mMに調節し、pHはKOHを用いてpH 7.0に調節。

relaxing solution:5 mM MgATP、1 mM Mg2+、10 mM EGTA、40 mM BES、 80 mM BDM、1 mM DTT、15 mM phosphocreatine、15 units/ml creatine phosphokinase(Type I;SIGMA)、イオン強度はpotassium propionateを用い て180 mMに調節し、pHはKOHを用いてpH 7.0に調節。

・ Ca2+-free activating solution:BDMを含まないrelaxing solution。

・ skinning solution:1%(v/v)TritonX-100、80 mM BDM、プロテアーゼインヒ ビターカクテル(0.5 mM PMSF、1 mM Leupeptin、0.1 mM E-64)を含むrelaxing solution。

glycerol solution:relaxing solutionとglycerolを1:1の体積比で混合したもの

で、40 mM BDM、プロテアーゼインヒビターカクテルを含む。

・ ゲルゾリン処理溶液:117 mM potassium propionate、4.25 mM MgCl2、2.2 mM ATP、1.9 mM CaCl2、20 mM MOPS、2 mM EGTA、40 mM BDM、0.5 mM PMSF、 0.04 mM Leupeptin、0.01 mM E-64、pHはKOHを用いてpH 7.0に調節。

・ アクチン重合溶液:80 mM KI、4 mM ATP、4 mM MgCl2、4 mM EGTA、10 mM potassium phosphate、40 mM BDM、1 mM DTT、0.1 mM Leupeptin、pHはKOH を用いてpH 7.0に調節。

2-3 )実験方法と装置

2-3-1)第3章で用いた心筋線維顕微鏡観察法

図2-1に第3章で用いた心筋線維顕微鏡観察法の模式図を示す。2-1-1に記載した 方法に従って調製した除膜心筋線維試料を、倒立顕微鏡(IX70;オリンパス)上で、

共焦点蛍光観察法、または位相差像及び落射蛍光像の同時観察法により観察した。

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共 焦 点 蛍 光 観 察 を 行 う 場 合 は 、 心 筋 線 維 試 料 を 0.33 μM Alexa488 phalloidin

(Molecular Probes)、1 mM DTTを含むrelaxation solutionに4°Cで2時間浸し、

細いフィラメントを選択的に蛍光染色した。心筋線維試料の両端を、両面テープを 用いてガラス底ディッシュ(code:3910-035;旭テクノグラス)に固定し、relaxing

solutionに浸した。これを倒立顕微鏡のステージにセットして観察を行った(図2-1)。

共焦点蛍光観察には共焦点スキャナユニットCSU10(横河電機)を用い、光源には Arレーザー(GLG3100;昭和オプトロニクス)を用いた。顕微鏡画像はCCDカメ ラ(CCD300-RC;DAGE-MTI)で撮影し、ビデオテープに録画した。観察はすべて 22±1°Cで行った。

2-3-2)第3章で用いた心筋ミオシンin vitro motility assay

ウサギの背、足の白筋から精製したアクチンと、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、

ウシの左心室筋から精製したミオシンを用いてin vitro motility assayを行った。各 タンパク質の精製法については2-4-1に後述する。0.1 mg/mlの精製アクチンモノマ ー(G-actin)を、6.6 μM Rhodamine phallidin(Molecular Probes)、0.1 M KCl、2 mM MgCl2、2 mM MOPS-KOH(pH 7.0)、1.5 mM NaN3に溶かして重合させ、フィラメ ント状の蛍光F-actinを作成し、遮光して4°Cに保存した。この蛍光F-actinを実験 直前にbuffer A(組成は2-2-1に前述)を用いて0.25 μg/mlに薄めた。2枚のカバー ガラス(24×60 mm、18×18 mm;松浪硝子)と両面テープを用いて、容量20 μlの フローセルを作成した(図2-2)。1 mg/mlのcaseinを含むbuffer M(組成は2-2-1 に前述)を20 μl流し入れ、1分間待ち、ガラス表面をcaseinでコートした。次に 0.5 mg/mlのミオシンを含むbuffer Mを20 μl流し入れ、1分間待ち、caseinコート したガラス面にミオシンを吸着させた。その後buffer Aを60 μl流し、吸着していな いミオシンを洗い流した。次に、0.25 μg/mlの蛍光F-actinを含むbuffer Aを20 μl 流し入れ、2分間待ち、assay buffer(組成は2-2-1に前述)を60 μl流し、マニキ ュアでフローセルに封をした。フローセルは image intensifier(VS4-1845;Video

Scope International)とSIT camera(C2400;浜松ホトニクス)を装備した倒立顕

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微鏡(IX70;オリンパス)のステージ上にセットし、落射蛍光観察により蛍光F-actin の動きを観察し、同時にビデオテープに録画した。観察は 22±1°C で行った。その 後、画像解析ソフトNIH imageを用いてアクチンの滑り速度を解析した。

2-3-3)第4章で用いた心筋線維顕微鏡観察法

図2-3に第4章で用いた心筋線維顕微鏡観察法の模式図を示す。2-1-2に記載した 方法に従って調製した除膜心筋線維試料の両端を、マニピュレータに接続した2 本 の針先にマニキュアを用いて固定し、relaxation solution でよく洗い、倒立顕微鏡

(IX70;オリンパス)のステージ上にセットして位相差観察を行った(図2-3)。顕 微鏡画像はCCDカメラ(CCD300-RC;DAGE-MTI)で撮影し、ビデオテープに録 画、または直接パソコンに画像を取得して解析を行った。観察は 22±1°C、または

39±1°Cで行った。39±1°Cで観察を行う際には、顕微鏡のステージ上をアクリル製

の箱で覆い、内部をヒーター(IX-CBIB100;オリンパス)で暖めることにより温度 を調節した。

2-3-4)第4、5章で用いた心筋線維張力測定法

図 2-4 に第 4、5 章で用いた心筋線維張力測定法の模式図を示す。張力測定は

Fukuda et al.(1996)の方法に従って行った。2-1-2に記載した方法に従って調製し

た除膜心筋線維試料の片端を、ひずみ計(AE801;SensoNor、Horten、Norway) とマニピュレータに接続したタングステン針の先にマニキュアを用いて固定し、同 様にもう一方の端を、マニピュレータに接続したタングステン針の先にマニキュア を用いて固定した。ひずみ計はブリッジ回路、直流増幅器(AM30;ユニパルス)、

及び A/D コンバータ(NR-250;KEYENCE、または PowerLab;ADInstruments) に接続し、張力は電圧信号としてパソコンに記録した。試料をrelaxation solutionで よく洗い、温度コントロールしたプレート中の溶液溜めに注がれた relaxation

solution 中に浸した。弛緩状態の試料にレーザー(He-Ne、20 mW;昭和オプトロ

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2005年度 博士論文 佐々木大輔

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ニクス)を照射し、回折縞の間隔から筋節長を計測し、マニピュレータを操作して 筋節長を2.0 μm、または2.3 μmに調節した。場合によっては、筋節長を調節する 際に試料の静止張力を測定した。等尺性活性張力を測定する際には、試料を溶液の 盛り上がり部分に浸し、バスを素早くスライドさせることにより溶液交換をして測 定を行った。

2-4 )タンパク質の精製

2-4-1)第3章で用いたタンパク質の精製

タンパク質の精製は早稲田大学動物実験実施規程に従って行った。アクチンは Kondo and Ishiwata(1976)の方法に従い、ウサギ(JW、オス、2.5 kg)の背、足 の白筋から精製した。また、ミオシンはラット、ウサギ、イヌ、ブタ、ウシの左心 室から精製した。ブタ、ウシの心臓は、東京都中央卸売市場食肉市場(港区)にお いて摘出された直後のものを、東京芝浦臓器(株)にて購入した。ラット(Wister、

オス、300 g)、ウサギ(JW、オス、2.5 kg)の心臓は、本研究室において摘出した。

イヌ(ビーグル、オス)の心臓は、他研究室の薬理実験における残物として余った ものを、ご好意により頂いた。摘出直後の心臓から左心室筋断片を切り出して液体 窒素で急速凍結し、これを液体窒素中、または-80°C に一晩保存して翌日精製に用 いた。なお、ウシの心臓は狂牛病の衛生検査のため摘出当日は研究室に持ち帰れな い。そこで、東京芝浦臓器(株)事務所にて冷凍心筋を液体窒素中に一晩保存させ ていただき、衛生検査を通過した翌日に研究室に持ち帰り、精製に用いた。以下の 手順は全て4°Cで行った。約3 gの冷凍心筋を粉々に砕き、これを5 mM DTT、プ ロテアーゼインヒビターカクテル(0.2 mM PMSF、0.01 mM Leupeptin、0.01 mM E-64)を含むHasselbach-Schneider solution(0.3 M KCl、0.15 M K2HPO4、0.01 M Na4P2O7、1 mM MgCl2、pH 6.8)(Hasselbach and Schneider, 1951)に浸して20

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分間穏やかに攪拌した。この懸濁液を12000×gで10 分間遠心し、筋残渣を取り除 いた。上澄みを0.1 mM EDTA、5 mM DTT、及びプロテアーゼインヒビターカクテ

ルを含む800 mlの水で薄め、2時間放置し、ミオシンを重合、沈殿させた。これを

12000×gで10分間遠心して沈殿を集め、10 ml のbuffer M(組成は2-2-1に前述)

を用いて泡立てないように注意深く溶解した。この溶液を180000×gで2 時間遠心 し、アクトミオシンを取り除いた。遠心後の上澄みの上から2分の1を採取し、こ れを in vitro motility assay に用いた。ミオシンの濃度は、Bio-Rad Protein Assay

(Bio-Rad)により測定した。その際BSA濃度を標準として用いた。通常3 gの心

筋から0.6–0.9 mg/ml、5 mlのミオシンが採取された。これにbuffer Mを加えてミ

オシン濃度を 0.5 mg/ml に調整した。精製したミオシンはその日の内に in vitro motility assayに用いた。

2-4-2)第5章で用いたタンパク質の精製

タンパク質の精製は早稲田大学動物実験実施規程に従って行った。アクチンは Kondo and Ishiwata(1976)の方法に従い、ウサギ(JW、オス、2.5 kg)の背、足 の白筋から精製した。トロポニン・トロポミオシン複合体はEbashi et al.(1968)

の方法に従いウシ心筋から精製した。ウシの心臓は、東京都中央卸売市場食肉市場

(港区)において摘出された直後のものを、東京芝浦臓器(株)にて購入した。な お、ウシの心臓は狂牛病の衛生検査のため摘出当日は研究室に持ち帰れない。そこ で、東京芝浦臓器(株)事務所にて摘出直後の心臓から左心室筋断片を切り出して 液体窒素で急速凍結し、これを事務所にて液体窒素中に一晩保存させていただき、

衛生検査を通過した翌日に研究室に持ち帰り 、精製に用いた。ゲルゾリンは

Kurokawa et al.(1990)の方法に従いウシ血漿から精製した。ウシ血漿はフナコシ

株式会社より購入し、冷蔵保存により研究室に送付されたものを、到着後すぐさま 精製に用いた。精製の際には、DFP(diisopropyl fluorophosphate)の使用法に極力 注意しなければいけない。DFPはアセチルコリンエステラーゼの強力な阻害剤であ り、揮発性の猛毒で皮膚からも吸収される。文献(Kurokawa et al., 1990)には精

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製に用いるbufferすべてにDFPを加えるように記述されているが、これは危険であ るので絶対にやってはいけない。最初の血漿に加えるのみで十分である。ちなみに、

万が一 DFP に冒された場合、瞳孔が収縮して視界が暗くなるという症状が出るが、

軽度であれば数日で回復する。しかしながら、このような事態にならぬように細心 の注意を払わなければならない。

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2-13章で用いた心筋線維顕微鏡観察法の模式図。

2-2 in vitro motility assayフローセル模式図。

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2-34章で用いた心筋線維顕微鏡観察法の模式図。

2-4 第4、5章で用いた心筋線維張力測定法。

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【第 3 章】

心筋 ADP-SPOC と心拍との相関

3-1)概要

ADP-SPOC は、ATP、ADP、および Pi 共存下によって作られる筋収縮系の中間

活性化状態において生じるSPOCである。本研究では、心拍数の異なる様々な動物 種から調製した除膜心筋線維試料を実験に用い、ADP-SPOCにおける筋節振動特性 と心拍数との関係について明らかにした。ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、及びウシ の心筋から調製した除膜心筋線維試料(太さ約0.1 mm、長さ1–2 mm)の細いフィ ラメントを蛍光ラベルし、共焦点蛍光顕微鏡観察により、ADP-SPOCにおける筋節 長振動波形を詳細に解析した。その結果、各筋節は、ゆっくりとした収縮相とすば やい伸長相からなる鋸歯状の波形で周期的に振動し、またこの伸長相は、隣接する 筋節へ等速に伝播していく(SPOC 波)ことが明らかになった。これらの特徴は動 物種の違いによらない共通の性質であった。また、ADP-SPOCにおける筋節長振動 周期、及びSPOC波伝播速度は、共に各動物種の安静時心拍数と強い相関を持つこ とが明らかとなった(安静時心拍数は文献値を引用)。この結果は、心筋収縮系に備 わった自励振動(SPOC)特性が心筋拍動において何らかの役割を担っている可能 性を示唆し、心臓の拍動過程において心筋収縮系を単純な収縮装置と見なす従来の 見解に一石を投じるものである。また、この相関を分子レベルで規定する因子を明 らかにするため、各動物種の心筋から、筋収縮を担うモータータンパク質であるミ オシンを精製し、in vitro motility assayによる運動活性の測定を行った。その結果、

ミオシンの運動活性を示すアクチン滑り速度も各動物種の安静時心拍数と相関を持 つことが明らかとなった。しかしながら、アクチン滑り速度と ADP-SPOC の筋節 長振動における筋節収縮速度は比例関係にはなく、アクチン滑り速度に対する筋節 収縮速度の比は、概して心拍の速い動物種ほど大きくなる傾向にあった。この結果

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は、筋節収縮速度がミオシンの運動活性に加え、その他の要素によって調節を受け ていることを示している。

3-2)はじめに

1978年、Fabiato and Fabiato によって、心筋筋原線維束はCa2+による中間活性 化状態において自励振動を生ずることが初めて報告された(Fabiato and Fabiato,

1978)。そのおよそ10年後、著者が所属する本研究室において、Ca2+を必要とせず、

ATP、ADP、及びPiが共存する溶媒条件下において、同様の自励振動が生ずること

が見つけられた(Okamura and Ishiwata, 1988)。この自励振動現象はSPOCと名づ けられ、前者はCa-SPOC、後者はADP-SPOCと分類された。SPOCは定常的な溶 媒条件下において生じるため、例えば細胞内Ca2+振動といった、化学物質の濃度振 動に依存した現象ではない。従ってSPOCは、筋収縮系において収縮、弛緩に次ぐ 第 3 の状態と捉えることができる。これまでの研究により、Ca-SPOC 及 び

ADP-SPOCにおいて、筋原線維を構成する各筋節はゆっくりとした収縮とすばやい

伸長を規則的に繰り返して鋸歯状の振動波形を形成し、また伸長相は隣接する筋節 へと波のように伝播していく(SPOC 波)ことが明らかにされた(Okamura and Ishiwata, 1988; Ishiwata et al., 1991; Linke et al., 1993; Ishiwata and Yasuda, 1993)。

また、Ca-SPOCとADP-SPOCは一見明らかに異なる条件において発生するように

見えるが、一定のATP濃度下で Ca2+、ADP、Pi濃度を変数とした3次元相図中に SPOCの発生する領域を表すと、両SPOC条件は、収縮及び弛緩領域に挟まれた1 つの領域中に含まれることが明らかにされた(Fukuda et al., 1996; Ishiwata et al., 1998)。さらに、両SPOC条件における筋節内分子状態には共通性があること、す なわち弱結合クロスブリッジ(AM・ADP・Pi)と力発生(強結合)クロスブリッジ

(AM・ADP)がある一定の割合以上で共存する状態であることが、コンピュータシ ミュレーションにより示された(Ishiwata and Yasuda, 1993)。

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我々は、心筋筋原線維に備わった自励振動特性(SPOC)が、生体内における心 臓の拍動において何らかの重要な役割を担っているのではないかと推測している。

これを明らかにするため、本研究においては、心拍の異なる様々な動物種の除膜心 筋線維を実験に用い、ADP-SPOCにおける筋節長振動特性と心拍との関係について 詳細に調べた。さらに、各動物種の心筋からミオシンを精製して in vitro motility

assayを行い、ミオシン運動活性と心拍、及びADP-SPOCとの関係についても調べ

た。

3-3)材料と方法

3-3-1)溶液

実験に用いた溶液とその組成は、2-2-1に前述した。

3-3-2)除膜心筋線維試料の調製

2-1-1に記載した方法に従い、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、ウシの心臓の左心室

乳頭筋から、除膜心筋線維試料をそれぞれ調製した。また例外的に、ラットにおい ては、太さ100–200 μmの右心室肉柱筋からも試料を調製した。本章における以下 の記述では、特に断りのない場合、“ラット心筋線維試料”とはラット左心室乳頭筋 から調製した心筋線維試料を表すものとする。

3-3-3)筋節長振動の顕微鏡観察

2-3-1に記載した方法に従い、共焦点蛍光観察法、または位相差像及び落射蛍光像

の同時観察法により、除膜心筋線維試料の顕微鏡観察を行った。共焦点蛍光観察の

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際には、細いフィラメントを Alexa488 phalloidin で蛍光染色した試料を用い、

ADP-SPOC solutionには1 mM DTT、及び酸素除去酵素系(4.5 mg/ml glucose、50 units/ml glucose oxidase、50 units/ml catalase)を加えた。一方、無染色の試料に

おける ADP-SPOC を観察する際には、観察前に、直径 0.5 μm の蛍光ビーズ

(F-8812;Molecular Probes)を含むrelaxing solutionに試料を数分間浸して蛍光 ビーズを試料表面にまばらに付着させ、これを位相差像及び落射蛍光像の同時観察 法により顕微鏡観察した。観察はすべて22±1°Cで行った。

3-3-4)in vitro motility assay

各動物種(ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、ウシ)の左心室筋から精製したミオシ ンと、ウサギの背、足の白筋から精製したアクチンを用いて、2-3-2に記載した方法 に従いin vitro motility assayを行った(各タンパク質の精製方法は2-4-1に前述)。 アクチンフィラメントの滑り運動の観察は、すべて22±1°Cで行った。

3-4)結果

3-4-1)ADP-APOCの概観

ADP-SPOC の共焦点蛍光観察により、各筋節が周期的に収縮と伸展を繰り返し、

これに応じて心筋線維の横紋構造が長軸方向に沿って振動する様子が示された。筋 節の収縮速度は伸長速度と比較して遅いことが一見して明らかであった。また、1 つの顕著な特徴として、筋節の伸長相が隣接する筋節へと波のように伝播していく 様子(SPOC 波)が観察された。なお、各動物種心筋線維における ADP-SPOC の 顕微鏡画像のムービーを http://www.phys.waseda.ac.jp/bio/movies.html で見ること ができる。SPOC 波は、連結した数十個の筋節にわたって伝播し、反対側から伝播

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してくるSPOC波との衝突により消失するか、または心筋細胞間連結部位の構造で ある介在板において消失した。また時には、SPOC 波が介在板を越えて伝播してい く様子も観察された。以上の特徴はADP-SPOC、及びCa-SPOCについて報告され ている過去の研究と矛盾しないものであった(Fabiato and Fabiato, 1978; Okamura and Ishiwata, 1988; Ishiwata et al., 1991; Anazawa et al., 1992; Linke et al., 1993;

Ishiwata and Yasuda, 1993)。

3-4-2)ADP-SPOC筋節長振動波形

図3-1AにAlexa488 phalloidin で細いフィラメントを蛍光染色したラット心筋線

維試料の、ADP-SPOC状態における共焦点蛍光顕微鏡像を示す。図3-1A中の長方 形で囲まれた領域における、縦方向に積算された蛍光強度分布を図3-1Bに示す。こ の蛍光強度分布は移動平均法(幅0.88 μm)により平滑化されている。矢印で指し 示された蛍光強度分布の山の中心は、Z 線の位置に相当する。この位置を決めるた めに、蛍光強度分布の山を最小二乗法により2 次曲線でフィッティングし、その頂 点の座標を算出してこれをZ線の位置とした。図3-1A、B中において1–10の番号 を振られたZ線の位置の経時変化を図 3-1Cに示す。各Z 線の位置は、筋線維の長 軸方向に沿って、筋節長振動に従い周期的に振動していることが分かる。図 3-1D に Z 線 1–4 間(赤線)、4–7 間(青線)、7–10 間(緑線)の距離、すなわち連続す る3 筋節長の経時変化を示す。その振動波形は、ゆっくりとした収縮相とすばやい 収縮相からなる鋸歯状の波形を形成している。また、赤、青、緑の順に振動波形が 横軸方向にずれているのは、SPOC波がZ線“1”からZ 線“10”の方向へ伝播し ていることを表している。図 3-1E は、隣接する Z 線間の距離、すなわち各筋節長 の経時変化を示している。図 3-1E 中に示された長い破線矢印は伸長相の伝播

(SPOC波)を表し、その傾きはSPOC波伝播速度を表している。

3-4-3)ADP-SPOCと心拍の関係

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図3-1Dと同様の方法で解析した、各動物種心筋のADP-SPOCにおける3筋節長 振動波形の典型例を、図 3-2 に示す。心拍の速い動物ほど筋節長振動周期が短いこ とが一見して明らかである。一方、筋節長振動の振幅は、ラット心筋を除いて、各 動物種心筋を通じてあまり差がないことが分かる。これらの筋節長振動波形から、

筋節長振動周期、筋節長振動振幅、筋節長振動の収縮相における筋節収縮速度、及 びSPOC波伝播速度を、各動物種心筋についてそれぞれ解析した。また、これらの パラメータと各動物種の安静時心拍数(または心拍周期)との関係について明らか にした(図3-3)。その際、各動物種の安静時心拍数(心拍周期)はBiology Data Book

(Altman and Dittmer, 1974)から引用した。その値は、ラット355 beats/min(bpm)

(心拍周期0.17 s)、ウサギ256 bpm(0.23 s)、イヌ107 bpm(0.56 s)、ブタ68 bpm

(0.88 s)、ウシ51 bpm(1.18 s)である。

図3-3Aに筋節長振動周期と安静時心拍周期(または心拍数)との関係を示す。筋 節長振動周期はラット2.4±0.3 s(n=7)、ウサギ7.8±1.3 s(n=10)、イヌ10.3±0.4 s

(n=6)、ブタ20.9±2.8 s(n=5)、ウシ32.5±5.5 s(n=6)であった(値は平均±標準 偏差で表されている)。筋節長振動周期と安静時心拍周期との間には、相関係数0.976 の強い正の相関が存在した。図3-3A中の実線は回帰直線であり、破線は原点を通過 する回帰直線である。これら2 本の線がほぼ重なっていることは、両パラメータの 関係がほぼ比例関係であることを示している。

図3-3Bに筋節長振動振幅と安静時心拍数との関係を示す。筋節長振動振幅は、ラ ット0.15±0.01 μm(n=7)、ウサギ0.29±0.04 μm(n=10)、イヌ0.21±0.04 μm(n=6)、 ブタ0.27±0.06 μm(n=5)、ウシ0.23±0.03 μm(n=6)であった(値は平均±標準偏 差で表されている)。ラットの値が他と比較して小さいが、その他の動物種の値はほ ぼ同様であった。すなわち、筋節長振動振幅と安静時心拍数との間には明確な相関 は存在しないことが示された(相関係数は-0.406)。

図 3-3C に筋節長振動の収縮相における筋節収縮速度と安静時心拍数との関係を 示す。筋節収縮速度は、ラット64.9±6.0 nm/s(n=7)、ウサギ39.6±7.0 nm/s(n=10)、 イヌ20.7±3.8 nm/s(n=6)、ブタ13.4±4.0 nm/s(n=5)、ウシ7.7±2.1 nm/s(n=6)

であった(値は平均±標準偏差で表されている)。筋節収縮速度と安静時心拍数との

(32)

2005年度 博士論文 佐々木大輔

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間には、相関係数 0.990 の強い正の相関が存在した。また図 3-3C 中の実線と破線 は一致しており、これは両パラメータの関係が比例関係であることを示している。

図3-3DにSPOC波伝播速度と安静時心拍数との関係を示す。SPOC波伝播速度 は、単位をsarcomeres/s(単位時間当たりにSPOC波が伝播するサルコメア数)と して、ラット12.7±3.1(n=7)、ウサギ7.3±2.1(n=10)、イヌ5.1±1.0(n=6)、ブタ

4.5±0.9(n=5)、ウシ3.1±1.0(n=6)であった(値は平均±標準偏差で表されている)。

SPOC波伝播速度と安静時心拍数との間には、相関係数0.960の強い正の相関が存 在した。しかしながら、図 3-3C 中の破線は実線(比例関係)から逸脱しており、

これは両パラメータの関係が比例関係ではないことを示している。

3-4-4)無染色の心筋線維試料における筋節長振動周期の解析

Alexa488 phalloidin で細いフィラメントを蛍光染色することの ADP-SPOC への

影響を確認するため、無染色の心筋線維試料における筋節長振動周期を調べた。心 筋線維試料に蛍光ビーズを付着させ(図 3-4A)、筋節長振動に応じた蛍光ビーズの 往復並進運動(図3-4B)をFFT解析し、振動周期を算出した。その結果は、Alexa488

phalloidin で細いフィラメントを蛍光染色した心筋線維試料を用いた場合と変わら

ぬものであった。なお、顕微鏡画像のムービーをhttp://www.phys.waseda.ac.jp/bio/

movies.htmlで見ることができる。図3-4Cに筋節長振動周期と安静時心拍周期(ま

たは心拍数)との関係を示す。筋節長振動周期は、ラット3.0±0.3 s(n=7)、ウサギ 8.5±1.7 s(n=10)、イヌ11.1±1.0 s(n=6)、ブタ20.5±4.9 s(n=5)、ウシ27.9±8.3 s

(n=6)であった(値は平均±標準偏差で表されている)。筋節長振動周期と安静時 心拍周期との間には、相関係数0.976の強い正の相関が存在した。

3-4-5in vitro motility assayによる心筋ミオシンの運動活性測定

in vitro motility assayにより、各動物種の左心室筋から精製したミオシンの運動活

性を調べた。図3-5Aに精製したミオシンのSDS-PAGEパターンを示す。精製した

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ミオシンが、ミオシン重鎖(MHC)と、動物種によって分子量が異なる2種類のミ オシン軽鎖1、2(LC1 & 2)から主に構成されていることが示されている。図3-5B にミオシン上を滑り運動するアクチンフィラメントの落射蛍光顕微鏡像を示す。画 像解析ソフトNIH imageを用いてアクチンフィラメントの滑り速度を解析した。図 3-6 にアクチンフィラメント滑り速度と各動物種の安静時心拍数との関係を示す。

アクチン滑り速度は、ラット2.83±0.48 μm/s(n=20)、ウサギ1.73±0.22 μm/s(n=20)、 イヌ1.44±0.14 μm/s(n=20)、ブタ1.08±0.15 μm/s(n=20)、ウシ0.93±0.15 μm/s

(n=20)であった(値は平均±標準偏差で表されている)。これらの値のいくつかは 過去の研究で報告された値(Sata et al., 1993; VanBuren et al., 1995; Svensson et al., 1997)よりも小さいが、これは観察を行った温度の違いによるものと考えられる。

心筋ミオシンの運動活性の指標であるアクチンフィラメント滑り速度と各動物種の 安静時心拍数との間には、相関係数 0.956 の強い正の相関が存在した。しかしなが ら、図 3-6 中の破線は実線(比例関係)から逸脱しており、これは両パラメータの 関係が比例関係ではないことを示している。

3-4-6)ADP-SPOCとミオシン運動活性の関係

図3-7Aにアクチンフィラメント滑り速度と、ADP-SPOC筋節長振動の収縮相に おける筋節収縮速度との関係を示す。両パラメータの間には、相関係数 0.987 の強 い正の相関が存在した。しかしながら、図3-7A中の破線は実線(比例関係)から逸 脱しており、これは両パラメータの関係が比例関係ではないことを示している。両 パラメータの関係をより詳細に明らかにするため、アクチンフィラメント滑り速度 に対する筋節収縮速度の比を、各動物種についてそれぞれ算出した。その結果を図 3-7B に示す。その比は、概して心拍の速い動物種ほど大きい値であった。図 3-7C にアクチンフィラメント滑り速度とSPOC波伝播速度との関係を示す。両パラメー タの間には、相関係数 0.993 の強い正の相関が存在した。また図 3-7C 中の実線と 破線はほぼ一致しており、これは両パラメータの関係がほぼ比例関係であることを 示している。

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3-4-7)ラット右心室肉柱筋におけるADP-SPOC

上述の実験は、各動物種の左心室乳頭筋を、ピンセットを用いて手作業により細 く切開して調製した心筋線維試料を用いて行ったものである。従ってSPOCは、こ の試料調製の際に生じる、筋節構造の不均一性といった試料の損傷により生じるも のではないか、という批判が存在する。この批判に答えるため、ラット右心室内壁 に存在する、もともと太さが100–200 μmである肉柱筋を用いて実験を行った。肉 柱筋試料は切開などせずに実験に用いることができるため、ほとんど損傷のない筋 節構造が極めて均一な試料である。共焦点蛍光顕微鏡観察の結果、肉柱筋試料にお いても同様の筋節長振動が観察された。すなわち、SPOC は試料の調製にともなう 筋節構造の不均一性などの損傷により生じるものではないことが確認された。ラッ ト右心室肉柱筋試料のADP-SPOCにおける筋節長振動周期は3.7±1.0 s、筋節長振 動の振幅は0.26±0.05 μm、筋節長振動の収縮相における筋節収縮速度は76.5±17.5 nm/s、SPOC波伝播速度は14.3±3.3 sarcomeres/sであった(値は5個のデータの 平均±標準偏差で表されている)。

3-5)考察

ADP-SOPC における鋸歯状の筋節長振動波形は(図 3-1D、E、及び図 3-2)、筋

節長振動周期が主に収縮相の時間によって決められることを意味している。筋節長 振動振幅はラットを除いた各動物種の心筋においてほぼ同様の値であるため(図 3-3B)、筋節長振動周期と安静時心拍周期との間の比例関係は(図3-3A)、筋節長振 動の収縮相における筋節収縮速度と安静時心拍数との比例関係(図3-3C)に基づい ている。一方、筋肉の収縮速度はアクトミオシンのATP分解活性に相関することが 知られている(Bárány, 1967)。in vitro motility assayにより各動物種の心筋から精

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製したミオシンの運動活性の指標であるアクチンフィラメント滑り速度を調べた結 果(図3-6)、アクチンフィラメント滑り速度と安静時心拍数との間にも相関関係が 存在することが示されたが、それは比例関係からは逸脱していた。この関係は、筋 節収縮速度と安静時心拍数との間の比例関係とは一致しない。具体的には、ウサギ、

イヌ、ブタ、ウシにおいては、心拍数ほどの違いがアクチンフィラメント滑り速度 にはなく、例えばウサギとウシのデータを比較した場合、ウサギ心筋ミオシンにお けるアクチンフィラメント滑り速度は、ウシのものと比較して 1.9 倍の速さである が、ウサギの安静時心拍数、及び筋節収縮速度は、ウシのものと比較して5 倍以上 も速い。一方、ラット心筋ミオシンにおけるアクチンフィラメント滑り速度は、他 の動物種の滑り速度よりも比較的に速い(図3-6)。

各動物種における、アクチンフィラメント滑り速度を指標とした心筋ミオシン運 動活性の違いは、ミオシンアイソフォームの違いによってある程度理解することが できる。哺乳動物の心筋には、αミオシン重鎖、及びβミオシン重鎖と呼ばれる、2 種類のミオシン重鎖アイソフォームが存在することが知られている。これらのミオ シン重鎖は、V1(α α)、V2(α β)、及びV3(β β)と呼ばれる3種類のミオシンア イソフォームを構成する。アクトミオシンATP分解速度は、V1>V2>V3の順になっ ており(Dillmann, 1984)、またin vitro motility assayにおけるアクチンフィラメン ト滑り速度は、ラット(Sugiura et al., 1996)とウサギ(VanBuren et al., 1995)に おいて、V1の方がV3よりも2–3倍速いことが過去の研究により示されている。ま た、哺乳動物の心室筋においては、安静時心拍数が300 bpm以上の動物種(マウス、

ラット)では主にV1、300 bpm以下の動物(モルモット、ウサギ、イヌ、ヒツジ、

ブタ、ウシ)においては主に V3 が発現していることが過去の研究により示されて

いる(Hamilton and Ianuzzo, 1991)。従って、ウサギ、イヌ、ブタ、ウシの心筋ミ

オシンによるアクチンフィラメント滑り速度に心拍数ほどの違いがないのは、これ らのミオシンがすべて V3 ミオシンであることに基づいていると解釈できる。これ らV3ミオシンにおけるアクチンフィラメント滑り速度のわずかな違いは、同じV3 ミオシンにおける、動物種差に基づいたアミノ酸配列の相違に基づくものか、ある いはミオシン軽鎖の違い(図3-5A)に基づくものと考えられる。ラット心筋ミオシ

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ンにおけるアクチンフィラメントの滑り速度がその他の動物種のものより比較的に 速いのは、V1ミオシンとV3ミオシンの違いに大きく依存していると考えられる。

図3-7Aに示されるように、筋節長振動の収縮相における筋節収縮速度とアクチン フィラメント滑り速度との間には強い正の相関が存在するが、この関係は比例関係 ではない。この両者の関係をより詳細に調べるため、アクチンフィラメント滑り速 度に対する筋節収縮速度の比を各動物種についてそれぞれ算出した結果、その比は、

概して心拍の速い動物種ほど大きい値であることが示された(図 3-7B)。これは筋 節収縮速度がミオシン運動活性に加えて、それ以外の要素によっても調節されてい ることを示している。その結果、心拍の速い動物の心筋はより速く収縮するように、

または心拍の遅い動物の心筋はあまり速く収縮しないように調節されているのであ ろう。このような複合的な要因の結果として、安静時心拍数に比例した筋節収縮速 度が実現されていると解釈することができる(図3-3C)。

アクチンフィラメントの滑り速度、または筋収縮速度を調節するタンパク質がい くつか知られている。例えば、細いフィラメント上で筋のCa2+感受性を担うタンパ ク質であるトロポニン、トロポミオシンや、筋の弾性要素となっているコネクチン

/タイチンなどである。in vitro motility assayにおいて、トロポニン、トロポミオシ ンをアクチンフィラメントに再構成すると、アクチンフィラメントの滑り速度が速 くなることが過去の研究により示されている(Homsher et al., 2003を参照)。すな わち、動物種間におけるトロポニン、トロポミオシンの相違が、各動物種の筋節収 縮速度に異なる影響を与えている可能性が考えられる。コネクチン/タイチンは筋 節中において太いフィラメントの先端とZ線における細いフィラメントの根元をつ なぎ、筋の弾性要素となっている巨大な弾性タンパク質である(Wang, 1996;

Maruyama, 1997)。コネクチン/タイチンの伸展に基づく筋の静止張力は、筋節収

縮の初期相において筋節収縮速度を加速する可能性が過去の研究により示されてい

る(Opitz et al., 2003)。すなわち、動物種間におけるコネクチン/タイチンの相違

が、各動物種の筋節収縮速度に異なる影響を与えている可能性が考えられる。これ らの可能性は今後明らかにされるべき研究課題である。

ADP-SPOCにおける各筋節の自励振動と、隣接筋節への伸長相の伝播、すなわち

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