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重症呼吸不全に対する体外式膜型人工肺療法中に行った理学療法が身体的機能の維持に寄与したと考えられた2 症例

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 45 巻第 2 号 121 ∼ 127 重症呼吸不全に対する体外式膜型人工肺管理下の理学療法 頁(2018 年). 121. 実践報告. 重症呼吸不全に対する体外式膜型人工肺療法中に行った 理学療法が身体的機能の維持に寄与したと 考えられた 2 症例* 大 村 和 也 1)# 高石恵美子 1) 川 村   真 1). 要旨 【緒言】体外式膜型人工肺(以下,ECMO)中のリハビリテーションは確固たるエビデンスはなく,当施設 では症例ごとに模索しながら行っている。重症呼吸不全に対して ECMO 導入後早期から積極的に理学療法 を開始し,良好な転帰に寄与したと考えられた 2 症例を報告する。 【症例1】76 歳男性,心不全と肺炎の診 断で VV-ECMO 導入となった。31 日間の ECMO 管理中,四肢体幹の筋力トレーニングを集中的に行った 結果,身体機能を落とさず ECMO 離脱翌日には端座位が可能となった。 【症例2】73 歳男性,肺炎の診断 で VV-ECMO 導入となった。10 日間の ECMO 管理中,筋力トレーニングに加え,端座位まで行った。離 脱翌日には,立位・歩行が可能となった。 【結論】ECMO 管理下であっても早期から理学療法を行うことで, 身体機能の維持につながったと考える。ECMO 下理学療法は安全に行える可能性はあるが,適応や方法な どさらなる検討が必要である。 キーワード 呼吸不全,体外式膜型人工肺,呼吸リハビリテーション,早期離床. 早期のリハビリテーションの介入を推奨している。ま. はじめに. た,集中治療における早期リハビリテーション∼根拠に 4).  集中治療室(Intensive Care Unit:以下,ICU)にお. 基づくエキスパートコンセンサス∼. ける早期リハビリテーションは,近年非常に注目されて. くの施設で早期離床の取り組みを開始している。. おり,せん妄の予防や人工呼吸器装着期間の短縮,退院.  重症呼吸不全の治療オプションとして,体外式膜型人. 時の日常生活動作(以下,ADL)の維持,Quality of Life. 工肺(Extracorporeal Membrane Oxygenation:以下,. の向上などのよい効果が報告されている. 1)2). 。また,. も作成され,多. 5) 6) ECMO)療法がある 。2009 年,CESAR study にお. ABCDEF バンドルのひとつに組み込まれ,せん妄や集. いて成人呼吸不全に対する ECMO の有用性が証明され,. 中治療室獲得型筋力低下(ICU-acquired weakness:以. 同年に流行した H1N1 インフルエンザによる重症呼吸不. 下,ICU-AW)を含めた集中治療後症候群(Post Inten-. 全に対する ECMO は良好な成績であった. sive Care Syndrome:以下,PICS)の予防として取り. 年では,覚醒下での ECMO 管理が注目され,ECMO 管. 組まれている。本邦においては,日本版・集中治療室に. 理下でも早期から理学療法を開始できるようになり,欧. おける成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理の. 米を中心にその安全性が報告されている. ための臨床ガイドライン *. 3). の中で,せん妄予防のため. Two Cases in which Physical Therapy Performed during Extracorporeal Membrane Oxygenation for Severe Respiratory Failure Contributed to Maintenance of Physical Function 1)恩賜財団済生会横浜市東部病院 (〒 230‒8765 神奈川県横浜市鶴見区下末吉 3‒6‒1) Kazuya Omura, MD, Emiko Takaishi, PT, Bachelor, Shin Kawamura, PT, Bachelor: Saiseikai Yokohama-shi Tobu Hospital # E-mail: kazuya1031@hotmail.com (受付日 2017 年 8 月 19 日/受理日 2018 年 1 月 19 日) [J-STAGE での早期公開日 2018 年 3 月 10 日]. 7)8). 。特に近. 9‒11). 。しかし,. ECMO 管理下の理学療法は,ECMO に精通したチーム で行っており,安易な導入は難しく,どの程度の理学療 法を行うかは施設ごと症例ごとに模索しながら判断する 必要がある。また,実際の臨床現場において,具体的に どのように理学療法を行うべきなのかその詳細について の情報は乏しい。  当院では,集中治療医が ICU に常駐する Closed ICU であり,1 名の理学療法士が平日の日勤帯のみ ICU に.

(2) 122. 理学療法学 第 45 巻第 2 号. 図 1 症例 1,ICU 入室後から ECMO 導入までの経過 PIP; peak inspiratory pressure(最大吸気圧),PEEP; positive end expiratory pressure(呼気終末陽圧), TV; Tidal Volume(一回換気量) ,P/F; PaO2/FiO2(動脈血酸素分圧 / 吸入気酸素濃度). 専従している。重症呼吸不全の治療オプションとして. る低酸素血症の診断で一般病棟に入院した。非侵襲的人. Venovenous ECMO(以下,VV-ECMO)の導入を行っ. 工呼吸器を装着し,抗菌薬治療を開始されるも,入院 4. ているが,症例数は少なく年間 3 例程度であり,VV-. 日目に呼吸状態が悪化し,挿管・人工呼吸器管理とな. ECMO 中の理学療法についても,日々試行錯誤しなが. り,5 日目に ICU 入室となった。. ら行っている。今回我々は,重症呼吸不全に対して VV-. ICU 入室後経過(図 1) :胸部単純 CT 検査にて両側に. ECMO を導入し,早期から理学療法を開始し,良好な. びまん性のすりガラス影を認め,急性呼吸窮迫症候群. 転帰に寄与したと考えられた 2 症例を経験した。我々の. (以下,ARDS)と診断した。入室時の血液ガス分析に. 理学療法の経験が,本邦における VV-ECMO 症例に対. て,PaO2 131 mmHg(酸素濃度:FiO2 0.6)と軽度の. する理学療法の推進の一助になることを目的とし,本症. ARDS であったが,その後すぐに中等度に悪化した。. 例に行った具体的な理学療法の内容を報告する。. 入院時の喀痰培養にて菌の検出は認めず,抗菌薬は入室.  なお,個人情報について倫理的配慮を行い,実際のリ. 後に中止し,原因不明の低酸素血症に対して,メチルプ. ハビリテーションの様子の提示については患者・家族よ. レドニゾロンの投与を開始した。浅鎮静にて呼気終末陽. り許可を得て写真の掲載をした。. 圧(PEEP)15 mmHg 下の自発呼吸で管理を行ったが,. 症 例 1. 酸素化の改善を認めなかった。入院 11 日目,経肺圧を 意識し,深鎮静での呼吸管理に変更した。酸素化は改善. 76 歳,男性. するも,高二酸化炭素血症のコントロールが難しく,吸. 既往歴:高血圧,心房細動,大動脈弁逆流症,腹部大動. 気圧も増加させる必要があった。14 日目,人工呼吸器. 脈瘤,慢性腎不全. による肺障害の予防と高二酸化炭素血症の管理を目的に. 入院前の ADL:重度の視力低下があるも歩行可能. VV-ECMO(右内頸静脈から 23 Fr 脱血管,右大. ICU 入室までの経過:入院 3 週間前に内腸骨動脈瘤に. から 19 Fr 送血管挿入)を導入し,人工呼吸器設定は,. 対して血管内治療を行い,1 ヵ月後に腹部大動脈瘤に対. FiO2 0.3, 吸 気 圧 15 cmH2O,PEEP 10 cmH2 と し た。. する治療予定であった。術後から下肢のしびれを自覚. ECMO 導入 5 日目に気管切開を行い,鎮静薬を中止し,. し,徐々に増悪し,歩行困難となったため当院救急外来. 覚醒下 ECMO 管理とした。ECMO 導入 14 日目メチル. を受診した。救急外来にて,SpO2 65% と著明な低酸素. プレドニゾロンの減量に伴いレントゲンで肺野の透過性. 血症を認め,閉塞性動脈硬化症に加え心不全・肺炎によ. が悪化したため,減量は行わずに,40 mg を継続した。. 静脈.

(3) 重症呼吸不全に対する体外式膜型人工肺管理下の理学療法. 123. 図 2 症例 1,ECMO 管理中の理学療法経過. 徐々に呼吸状態の改善を認め,ECMO 導入 31 日目に. の変動もなかった。ECMO 6 日目からは徒手抵抗やゴ. ECMO 離脱となった。低流量の酸素投与が必要であり,. ムバンドを使用した四肢・体幹の筋力強化練習も追加し. 入院 88 日目にステロイドの投与量の調節とリハビリ. た。さらに,上肢機能訓練を兼ねて歯磨きや髭剃り,タ. テーションを目的に転院となった。. オルでの顔拭き等のセルフケア,筆談を用いたコミュニ. 理学療法経過(図 2,4a):入院 3 日目より理学療法開. ケーションも導入した。ECMO 14 日目,ベッドを傾斜. 始した。高濃度酸素による非侵襲的陽圧換気マスク. 機能のある多機能ベッドに変更し,荷重下でのハーフス. (FiO2 0.8,PEEP 10 cmH2O)管理中であったためベッ. クワットやカーフレイズ運動などの下肢筋力強化練習を. ド上での身体機能評価に留まったが,従命可能で,基本. 追加した。ECMO 離脱(入院 45 日目)翌日より端座位. 動作に影響するような関節可動域制限・筋力低下・麻痺. を開始し,翌々日には立位・車いす移乗を行い,端座. などの運動機能障害は認めなかった。そのため,二次障. 位・立位とも近位監視から軽介助で保持可能だった。労. 害予防目的に床上での関節可動域運動を開始した。ICU. 作時に SpO2 80%前半まで低下したためさらなる離床は. 入室後も床上での関節可動域運動を継続し,6 日目から. 滞ったものの,離脱後 14 日目には歩行練習,42 日目に. 経口挿管人工呼吸器装着下のベッド上背上げ姿勢,7 日. は階段昇降練習を開始した。酸素 3 L 投与下 T 字杖使. 目から端座位練習も導入した。端座位の保持は可能で. 用にて連続 160 m 歩行が可能となり,離脱後 44 日目(入. あったが,自覚症状は認めないものの SpO2 80% 台まで. 院 88 日目)に転院となった。. 低下し,吸引や酸素濃度の変更を要することはあった。. 転院時 ADL:日常動作はおおむね自立していたが,歩. 11 日目には鎮静薬を再開したため,換気量に注意しな. 行や入浴には一部介助が必要. がらベッド上関節可動域運動のみ行った。14 日目,VVECMO 導入となり,右大. 静脈への送血管留置のため,. 症 例 2. 右股関節運動を伴わない範囲で関節可動域訓練を継続し. 73 歳,男性. た。ECMO 導入後,鎮静薬を減量・中止し,意識レベ. 既往歴:なし. ルは Japan Coma Scale Ⅰ桁,日常会話や訓練課題の理. 入院前の ADL:自立. 解が可能となったため,ECMO 導入 5 日目(入院 18 日. ICU 入室前経過:入院 2 日前に発熱を主訴に独歩で救. 目)から医師・看護師・臨床工学技士立会いの下右股関. 急受診し,肺炎と診断され,抗菌薬(レボフロキサシン). 節運動やカーディアック機能を利用したベッド上背上げ. を処方され帰宅した。持続する発熱と呼吸困難感を自覚. 姿勢を開始した。バイタルサインと ECMO の回路圧に. し,再度受診され,肺炎の治療目的に入院となった。入. 注意しながら股関節屈曲 60 度,外転 40 度程度の運動ま. 院時,SpO2 91% であり,鼻カヌラによる酸素投与を開. で行ったが,回路のトラブルを認めず,循環・呼吸状態. 始し,抗菌薬はアンピシリン・スルバクタムに変更し.

(4) 124. 理学療法学 第 45 巻第 2 号. 図 3 症例 2,ECMO 管理中の理学療法経過. た。徐々に酸素投与量が増加し,入院 6 日目に撮影した. 力低下などの運動機能障害の程度は不明であった。右大. 胸部単純 CT にて,間質性肺炎の増悪が指摘された。リ. 静脈に送血管を留置したため,右股関節運動を伴わな. ザーバーマスクによる酸素投与下でも SpO2 90% 以下で. い範囲で他動的に関節可動域運動を開始した。ECMO 4. あり,挿管・人工呼吸器管理目的に ICU へ入室した。. 日目には鎮静薬を減量し,Japan Coma Scale Ⅰ桁,簡. ICU 入 室 後 経 過: 挿 管 後 の 血 液 ガ ス 分 析 で は,PaO2. 単な従命が可能な状態となり,四肢・体幹の筋力強化練. 94.2 mmHg (FiO2 0.7),PaCO2 36.1 mmHg であった。自. 習を追加した。ECMO 6 日目には,十分覚醒していた。. 発呼吸を温存し管理するも,PaO2/ FiO2 100 程度で推. カニューレ刺入部含め明らかな外出血を認めず,3,900. 移した。重症間質性肺炎に伴う低酸素血症であり,早期. 回転で 4.7 L/min の ECMO フローが安定して得られ,. の改善は困難と判断し,7 日目に VV-ECMO(右内頸静. 安静時には SpO2 96% であった。人工呼吸器設定は,. 脈から 23 Fr 脱血管,右大. FiO2 0.35,吸気圧 15 cmH2O,PEEP 10 cmH2 で,一回. 静脈から 19 Fr 送血管挿入). を導入した。すぐに覚醒下 ECMO 管理とし,重度の低. 換気量は 100 ml 以下で管理可能であった。集中治療医. 酸素血症に対してステロイドパルス療法(メチルプレド. の指示のもと訓練内容を拡大し,看護師・臨床工学技士. ニゾロン 1 g,3 日間)を開始した。喀痰培養からイン. と協働して離床(端座位)を進める方針とした。事前に. フルエンザ桿菌が検出されたため,抗菌薬はアンピシリ. 各職種でカンファレンスを行い,端座位実施時の各職種. ン・スルバクタムからセフトリアキソンに変更した。13. の役割は下記のとおりとした。. 日目に抜管し,高流量鼻カニュラ酸素療法に変更した。.   医師:リハビリ継続可否の判断,ECMO・人工呼. 呼吸状態の改善を認めたため,16 日目に ECMO 離脱と なった。19 日目に一般病棟へ転棟するが,酸素化の悪 化とレントゲン上ですりガラス影の増悪を認め,22 日 目より 2 回目のステロイドパルス療法を行い,後療法と してメチルプレドニゾロン 60 mg を継続した。36 日目. 吸器設定変更の指示,送血管挿入部の管理   看護師 1:脱血管挿入部の管理,気管内チューブの 管理   看護師 2:各点滴の管理,バイタルサインのモニタ リング. にステロイドの漸減とリハビリテーション目的に転院と.   理学療法士:離床動作における介助. なった。後に判明した血液検査結果から,抗アミノアシ.   臨床工学技士:ECMO 管理. ル tRNA 合成酵素抗体症候群に合併した間質性肺炎と. 股関節が 90 度以上の深屈曲とならないようにバランス. 診断した。. ボールを背もたれとして設置したうえで,軽介助で端座. 理学療法経過(図 3,4b):ECMO 導入 2 日目(入院 8. 位を維持できた。ECMO 流量・Sweep Gas 流量の調整. 日目)より理学療法を開始した。鎮静薬と筋弛緩薬の持. は要したが,バイタルサインの変動はなく,端座位中も. 続投与中であり,意識レベルの評価はできず,麻痺・筋. SpO2 90% 以上を維持でき,回路トラブルなく安全な離.

(5) 重症呼吸不全に対する体外式膜型人工肺管理下の理学療法. 125. 図 4 ECMO 管理中の理学療法の様子,a)症例 1 b)症例 2. 床を行うことができ,Borg scale 4 から 6 へ軽度の呼吸. スに関連した要因)とシステムにかかわる障壁,ICU. 困難感と疲労感を認めたのみであった。ECMO 7 日目. の文化による障壁,離床の過程にかかわる障壁が挙げら. に抜管したため,歯磨きや顔拭き等のセルフケアも追加. れ,これらの対策を行うことで重症患者のリハビリテー. した。ECMO 8 日目に多機能ベッドへ移乗させ,荷重. ションがより円滑に進められる。特に ECMO 症例に対. 下でのハーフスクワットやカーフレイズ運動などの下肢. する理学療法は,デバイスに関連した要因に加え,シス. 筋力強化練習を開始した。ECMO 10 日目に ECMO を. テムや文化による障壁が大きく,安易に進められるもの. 離脱し,離脱翌日より立位・歩行を開始した。歩行は歩. ではない。欧米では,ECMO に精通したスタッフによ. 行器を使用し,ベンチュリーマスク 8 L 40%の酸素投. り積極的に安全な理学療法が行われているが,どの施設. 与下で行った。軽介助で歩行可能であったが,SpO2. でも可能ではなく,理学療法の内容は施設のマンパワー. 88%まで低下し,安静を要する状態であった。その後も. や経験値に応じて検討する必要がある。. 労作時の SpO2 低下を認め,適宜酸素投与量を増やし,.  当院では,VV-ECMO を要した症例は年間 3 例程度. 離脱 4 日目(入院 20 日目)には連続 30 m 歩行が可能. と少ないが,適応のある症例に対しては積極的に行って. となり,ICU 退室となった。一般病棟へ転棟後,離脱 6. いる。しかし,VV-ECMO 管理中の理学療法について. 日目に低酸素血症の悪化と画像所見の増悪から,肺病変. の経験は乏しく,あまり積極的には行ってこなかった。. の再燃と判断し,呼吸器内科医より理学療法の中断が指. 症例 1 の管理中に,医師・看護師・理学療法士・臨床工. 示された。離脱 8 日目に理学療法を再開可能となり,歩. 学士でカンファレンスを行い,理学療法を計画した。理. 行・階段練習をすすめた。離脱 20 日目に転院となった。. 学療法の開始にあたっては,ECMO 患者に限定した基. 転院時 ADL:酸素投与下で自立,独歩可能. 準は設けず,他の ICU 患者と同様に行うこととし,ベッ ド上での理学療法には医師・看護師・理学療法士で必ず. 考   察. 行い,負荷のレベルを上げる場合には,さらに臨床工学.  ARDS 生存者における長期合併症に関する観察研究. 士を含める方針とした。理学療法中の ECMO 管理(必. で,比較的若年であったにもかかわらず,退院後の身体. 要に応じて血液流量や Sweep ガスの調整)は医師が行. 12)13). い,理学療法中は全身状態の変化を医師と確認しなが. 的・精神的機能予後が不良であることが示され. ,. ICU-AW や PICS の予防のため早期リハビリテーション. ら,継続や中止の判断を行った。. が非常に注目されている。集中治療における早期リハビ.  症例 1 は,ベッド上での機能訓練や背上げ姿勢,傾斜. リテーション∼根拠に基づくエキスパートコンセンサス. 機能を利用した荷重訓練,セルフケアを中心に行った。. 4). も作成され,多くの施設で早期離床に取り組んで. ECMO 中の端座位や立位等の離床も検討したが,経験. 14). 。VV-ECMO 導入で救命できる症例が増えた一. 不足のため実施には至らなかった。しかし,前述の理学. 方で,ECMO による生存者は他の ARDS 生存者と同様. 療法を集中的に行ったことで ECMO 離脱時に ADL を. ∼. いる. に身体機能が低下すると報告されている. 15). 。そのため,. 落とすことなく,離脱後すぐに離床が可能になったと考. ECMO 症例に対するリハビリテーションも ARDS 患者. える。ECMO 離脱後,筋力は維持されておりさらなる. 同様に吟味していく必要がある。しかし,重症患者のリ. 離床が可能と判断したが,労作時の低酸素血症のため離. 16). 床は順調には進まなかった。ECMO 離脱後は,肺病変. 患者にかかわる障壁(身体的要因,精神的要因,デバイ. の再燃のリスクもあり,必要な呼吸補助が増加する可能. ハビリテーションを進めるうえで様々な障壁がある. 。.

(6) 126. 理学療法学 第 45 巻第 2 号. 性が高い。そのため,理学療法が後退することも考慮す. る。ECMO 管理中の理学療法のマニュアル化を検討す. る必要があり,離脱時・離脱後の患者の呼吸状態につい. るとともに,どの程度のリハビリテーションが患者に. てはより密に評価し,医師を含めた多職種で共有する必. とってリスクが少なくもっとも効果的であるのか,今後. 要性を感じた。. も経験を重ね,慎重に判断していきたい。.  症例 2 は,連休中であり通常よりマンパワーが不足し ていたため,ECMO 導入初期は積極的な理学療法を行. 結   論. えなかった。ECMO 中の理学療法の経験が乏しいスタッ.  ECMO 管理中に安全にリハビリテーションを施行で. フが対応していたため,送血管を留置していた右下肢は. き,身体機能の維持に寄与したと考えられた 2 症例を報. 6 日目までほとんど不動であった。それでも 6 日目には,. 告した。ECMO 管理下であっても早期から理学療法を. 症例 1 の経験を活かし,ECMO 導入中に端座位までの. 行うことで,ADL を損なうことなく管理できた。ECMO. 離床を行うことができた。離床実施に際して,目的,中. 下の理学療法は安全に行える可能性はあるが,まだ明確. 止基準,各職種の役割を事前に明確化し,多職種で臨ん. なエビデンスはなく,適応や方法などこれから十分吟味. だことで有害事象なく安全に実施できた。ECMO 離脱. していく必要がある。. 後すぐに ADL 向上が図れたのは,早期に鎮静薬を中止 し,覚醒下 ECMO 管理下に身体機能を可能な限り維持 できたことと,ECMO 導入中であっても早期に離床が 行えたことが大きく寄与したと考える。本症例の経験を 通して,ECMO 管理中のリハビリテーションについて 明確な基準・手順の整備が必要だと痛感した。  VV-ECMO 管理中の理学療法については後ろ向き研 究やケースレポートにとどまり,大規模な前向き無作為 化試験が行われておらず,有効性や安全性については確 立したエビデンスはない。そのため,ECMO 管理下の 理学療法を進めるためには十分吟味する必要がある。離 床にかかわるエキスパートコンセンサス. 9). では,ECMO. 管理中であってもベッド上での理学療法は,有害イベン トのリスクは低いとしている一方,離床に関してはリス クが高く,十分なトレーニングが必要としている。VVECMO 中の離床の安全性についても少しずつ報告が増 えている. 10)11). 。ECMO 管理中であってもベッド上の理. 学療法は行うべきであり,十分体制が整っている施設で は,離床を進めていける可能性が考えられる。  ECMO 管理中の理学療法を考えるうえで,カニュレー ションの問題は避けられない。欧米では,ダブルルーメ ンカテーテルが多く用いられているが,本邦では未発売 のため,大. 静脈に 1 本以上のカニューレを留置する必. 要がある。鼠径部にカニューレを留置した症例における 離床の報告. 11). もあり,大. 静脈へのカニュレーション. 自 体 が 離 床 の 障 壁 に な る と は 限 ら な い。 当 院 で は, Maque 社の HLS カニューレ. ®. を使用しており,屈曲に. 強いことから,鼠径部にカニュレーションを行っても離 床への支障は少ないと考える。  2 症例とも ECMO 管理中に身体機能を落とさず管理 できたため,ECMO 離脱後すぐに活動度を上げること ができた。ECMO 中の理学療法については,まだ明確 なエビデンスはなく,施設のレベルに応じて進めていく 必要がある。無理に離床を行わなくても,四肢の加重訓 練を集中的に行うことでも十分である可能性も考えられ. 利益相反  本論文執筆に関して開示すべき利益相反はありません。 文  献 1)Schweickert WD, Pohlman MC, et al.: Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated, critically ill patients: a randomised controlled trial. Lancet. 2009; 30: 1874‒1882. 2)Peiris CL, Taylor NF, et al.: Extra physical therapy reduces patient length of stay and improves functional outcomes and quality of life in people with acute or subacute conditions: a systematic review. Arch Phys Med Rehabil. 2011; 92: 1490‒1500. 3)日本集中治療医学会:J-PAD ガイドライン作成委員会:日 本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不 穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン.日集中医誌. 2014; 21: 539‒579. 4)日本集中治療医学会早期リハビリテーション検討委員会: 集中治療における早期リハビリテーション∼根拠に基づ くエキスパートコンセンサス∼.日集中医誌.2017; 24: 255‒303. 5)Ferguson ND, Fan E, et al.: The Berlin definition of ARDS: an expanded rationale, justification, and supplementary material. Intensive Care Med. 2012; 38: 1573‒1582. 6)Peek GJ, Clemens F, et al.: CESAR: conventional ventilatory support vs extracorporeal membrane oxygenation for severe adult respiratory failure. BMC Health Serv Res. 2006; 23: 163. 7)Australia and New Zealand Extracorporeal Membrane Oxygenation (ANZ ECMO) influenza investigators: Extracorporeal membrane oxygenation for 2009 influenza A (H1N1) acute respiratory distress syndrome. JAMA. 2009; 302: 1888‒1895. 8)Noah MA, Peek GJ, et al.: Referral to an extracorporeal membrane oxygenation center and mortality among patients with severe 2009 influenza A (H1N1). JAMA. 2011; 306: 1659‒1668. 9)Hodgson C, Stiller K, et al.: Expert consensus and recommendations on safety criteria for active mobilization of mechanically ventilated critically ill adults. Crit Care. 2014; 18: 658. 10)Abrams D, Javidfar J, et al.: Early mobilization of patients receiving extracorporeal membrane oxygenation: a retrospective cohort study. Crit Care. 2014; 27: R38..

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