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症例報告 関西理学 17: , 2017 立脚相で股関節伸展による前方への体重移動が可能となり手支持を外した歩行の安定性が向上した右大腿骨頸部骨折の一症例 佐野紘一 高橋優基 2) 1) 飯田智也 伊藤正憲 2) 1) 戎智史 嘉戸直樹 1) 2) Physical therapy u

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立脚相で股関節伸展による前方への体重移動が

可能となり手支持を外した歩行の安定性が

向上した右大腿骨頸部骨折の一症例

佐野 紘一

1)

  飯田 智也

1)

  戎 智史

1)

高橋 優基

2)

  伊藤 正憲

2)

  嘉戸 直樹

2)

Physical therapy using a weight-transfer exercise for a patient with femoral

neck fracture: a case report

Koichi SANO, RPT

1)

, Tomoya IIDA, RPT

1)

, Satoshi EBISU, RPT

1)

,

Yuki TAKAHASHI, RPT, MS

2)

, Masanori ITO, RPT, Ph.D.

2)

, Naoki KADO, RPT, Ph.D.

2) Abstract

This case report describes a patient with femoral neck fracture and body instability in the forward direction at the end of the stance phase during walking. Physical therapy for this patient included both muscle strength training of the hip extensor muscles and weight-transfer exercises with reaching movements using one upper limb while holding a T-cane. With physical therapy, weight transfer in the forward direction during the stance phase accompanied hip extension. Moreover, forward body instability at the end of the stance phase disappeared and walking ability improved. The effects of physical therapy for this patient are discussed with reference to improvements in joint angle values.

Key words: femoral neck fracture, weight-transfer exercise, reaching movement

J. Kansai Phys. Ther. 17: 127–131, 2017

1)名谷病院 リハビリテーション科

2)神戸リハビリテーション福祉専門学校 理学療法学科

受付日 平成29 年 3 月 31 日 受理日 平成 29 年 7 月 20 日

症例報告

関西理学 17: 127–131, 2017

Department of Rehabilitation, Myodani Hospital

Department of Physical Therapy, Kobe College of Rehabilitation and Welfare はじめに 今回、胸椎の屈曲変形を伴った右人工骨頭置換術後の 症例に対し、歩行動作の右立脚相で胸腰椎移行部の屈曲 を制動しながら右股関節を伸展していくことに着目して 理学療法をおこなった。口頭での指示や徒手的な誘導に より体幹を伸展して体幹伸展筋を収縮させることを試み たが、胸腰椎移行部の伸展が生じずに胸椎が屈曲位のま ま頭部が過伸展してしまった。そこで、右手に把持したT 字杖の先端を前方の目標点に到達させながら右下肢へ体 重を移動していく練習を導入した。理学療法をおこなっ た結果、無意識的に体幹を伸展しながら右下肢へ体重を 移動することが可能になり、歩行動作の安定性が向上し たので報告する。なお本論文の作成については、症例に 趣旨を説明のうえ同意を得た。 症例紹介 本症例は歩行中につまずいて転倒し、当院で右大腿 骨頸部骨折と診断されたのちに入院となった80 歳代の 女性であった。受傷3 日後に右人工骨頭置換術が施行さ れ、手術翌日より理学療法を開始した。術後14日目より 歩行補助具を用いずに、見守りでの歩行動作練習を取り 入れた。既往はなく、また合併症としても診断はなされ ていないが、胸椎の構築学的な屈曲変形を合併しており、 Wall-occiput testは陽性であった。主訴は「右足が頼りな

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く歩きにくい」であった。受傷前は演劇の鑑賞や買い物 のために週に3回の頻度で外出しており、退院後も自分 の足で歩いて家族や友達と外出したいという強い希望を 持ち合わせていたため、ニードを「歩行動作の安定性向 上」に設定した。 初期評価 術後14日目の歩行動作(図1)は、右手で右大腿の前面 を支持していれば不安定とならないが、この支持を外す と右立脚終期に前方へ不安定となっていた。右手の支持 を外すと、右遊脚終期での右膝関節の伸展が小さくなっ て右下肢の歩幅が狭まり、右足底全体から右初期接地を むかえていた。その後は右立脚終期に至るまで、右股関 図 1 初期評価の歩行動作における右立脚相 右手の支持がない場合では、右股関節と右膝関節の伸展は不十分で、胸腰椎移行部の屈曲が大きくなっ ていた。右立脚終期は、右足関節が大きく背屈して右下腿が前傾し、身体が前方へ傾斜しながら不安定 性を伴って左下肢を振り出していた。

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129 立脚相で股関節伸展による前方への体重移動が可能となり手支持を外した歩行の安定性が向上した右大腿骨頸部骨折の一症例 節と右膝関節の伸展は不十分で、胸腰椎移行部の屈曲が 大きくなっていた。また右立脚終期では右足関節が大き く背屈して右下腿が前傾し、身体が前方へ傾斜しながら 不安定性を伴って左下肢を振り出していた。機能障害レ ベルの問題点として、まず右初期接地ののちに右股関節 の伸展により前方へ体重を移動することが困難であった ことから、右股関節伸展の筋力低下と関節可動域(ROM: Range of Motion)制限を仮説した。また、右手の支持を 外すと右立脚相で胸腰椎移行部の屈曲が大きくなり、体 幹が前傾してしまうことから体幹伸展の筋力低下を仮説 した。右膝関節は右股関節の伸展が不十分なまま伸展す ると、体幹がさらに前傾してしまうため屈曲域で保って いると考えた。そして右足関節を大きく背屈して体重を 前方に移動するが、右立脚終期に右下腿の前傾を制動で きずに身体が前方へ傾斜して不安定となってしまうと考 えた。検査測定を実施したところ、徒手筋力検査(MMT: Manual Muscle Testing)は右股関節伸展が2、右股関節伸 展(大殿筋)が2、体幹伸展が2であり、ROM測定は右股 関節伸展が0°であった。検査測定の結果を踏まえ、右立 脚中期までの時期は、右股関節伸展の筋力が低下してい るため右股関節を0°までも伸展できなかったと考えた。 また体幹伸展の筋力が低下しているため、右手の支持が なければ胸腰椎移行部の屈曲を制動することができず、 体幹が前傾してしまったと考えた。そして右股関節伸展 と体幹伸展の筋力を向上し、右立脚相で胸腰椎移行部の 屈曲を制動しながら右股関節を伸展していくことができ るようになれば、体重を前方に移動するために右足関節 を大きく背屈させる必要はなくなり、右立脚終期での前 方への不安定性は改善されると考え理学療法を実施した。 理学療法と結果 理学療法はまず、右股関節伸展筋の筋力トレーニング を実施した。右股関節伸展のMMTが2であること、そし て右股関節伸展のROMが0°であることを踏まえて肢位 は左側臥位を選択した。右股関節伸展筋の収縮はまず自 動介助運動でおこない、収縮力の改善に併せて自動運動 による収縮も取り入れた。続いて、右立脚相で体幹伸展 筋を収縮させながら右股関節を伸展していくことを目的 として、右手に把持したT字杖の先端を前方の目標点に 到達させながら右下肢へ体重を移動していく練習(図2) を実施した。この練習の導入に至った経緯として、本症 例に口頭での指示や徒手的な誘導を用いて体幹の伸展を 促すと、胸椎が屈曲位のままで頭部が過伸展してしまい、 胸腰椎移行部は充分に伸展できなかった。そこで無意識 的に体幹を伸展しながら右股関節を伸展して右下肢へ体 重を移動していく必要があると考え、右手に把持したT 字杖の先端を正面の壁の目印に近づけるという目的のあ る動作を考案し練習に取り入れた。この練習の方法とし て、まずは真正面に貼り付けた目印に杖先を近づけるよ うに指示し、右下肢への体重移動を繰り返した(図2-①)。 つぎに1つ上の目印(図2-②)、そしてさらにもう1つ上 の目印(図2- ③)と段階的に杖先を近づける位置を高く し、右上肢の前方挙上角度を大きくしながら右下肢への 図 2 右手に把持したT字杖による到達動作を取り入れたステップ肢位での体重移動練習 まずは真正面に貼り付けた目印に杖先を近づけるように指示し、右下肢への体重移動を繰り返した(図中①)。つぎに1 つ上の目印(図中②)、さらにもう1つ上の目印(図中③)と段階的に杖先を近づける位置を高くし、右上肢の前方挙上角 度を大きくしながら右下肢への体重移動を繰り返した。

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体重移動を繰り返した。杖先を目印に近づけていくとき には頭部の過伸展が起こらないよう顎を引き、視線だけ を目印に移すように留意した。そして、体幹伸展筋と右 股関節伸展筋の筋収縮を触診により確認しながら練習を おこなった。これらの練習の後に歩行動作練習を実施し た。 理学療法を週7 回の頻度で 5 週間おこなった結果、最 終評価では右手で右大腿を支持せずに両上肢を振りな がら歩くことが可能となった(図3)。右下肢の歩幅の拡 大とともに右踵部から右初期接地をむかえ、右立脚相は 胸腰椎移行部の屈曲を制動しながら右股関節を伸展する ことができるようになった。右立脚中期は右膝関節の伸 展運動域が拡大し、右立脚終期では右足関節の背屈に伴 う右下腿の前傾が軽減した。そして左下肢を振り出す際 の身体の前方への傾斜はみられなくなった。MMT は右 股関節伸展が3、右股関節伸展(大殿筋)が3となり、体 幹伸展は段階3のテストで臍を台から離すことはできな かったが、初期評価と比較して自動伸展可動範囲が拡大 した。また歩行動作の量的評価として、右立脚終期にお ける左下肢が接地した時点の静止画を画像処理ソフト ImageJにより解析し、矢状面上での体幹と右下肢の各関 節角度の変化値を算出した。初期評価と比較して最終評 価では、体幹の前傾角度は6°減少、右股関節の伸展角度 は13°拡大、右膝関節の伸展角度は9°拡大、右足関節の 背屈角度は14°減少していた(図3-右立脚終期)。 考 察 本症例の改善すべき機能障害レベルの問題点は、右股 関節伸展筋と体幹伸展筋の筋力低下であった。この2 つ の問題点のうち、とくに体幹伸展筋の筋力を改善する方 法には工夫が必要であった。たとえば、体幹伸展のMMT の検査肢位に規定されているような腹臥位での抗重力運 動は、本症例が胸椎の構築学的な屈曲変形を有している こともあり困難を極めた。また座位や立位で、口頭での 指示や徒手的な誘導を用いて体幹を伸展し、体幹伸展筋 を収縮させることを試みたが、胸椎が屈曲位のまま頭部 が過伸展してしまった。そこで、頭部の過伸展を伴わな い体幹の伸展を引き出すために、右手に把持したT字杖 の先端を前方の目標点に到達させながら右下肢へ体重を 移動していく練習を実施した。理学療法の経過において、 練習を始めた当初は顎を引くよう口頭での指示が必要な 場面もあったが、次第に無意識的に体幹を伸展しながら 右下肢へ体重を移動することができるようになった。ま た、本症例が杖先をより上の目印へ近づけながら右下肢 へ体重を移動すると、体幹伸展筋の収縮が強まることを 触診で確認できた。そして日々この練習を繰り返すうち に、胸腰椎移行部の屈曲を制動することができるまでに 体幹伸展筋の収縮力が増したと考えた。また練習に用い たT字杖は長さが75 cm、重さが280 gであった。このT 字杖を用いたことは、何も持たずに右上肢を目印に到達 させる場合と比較して、右上肢のモーメントアームを長 図 3 最終評価の歩行動作における右立脚相 右立脚相は胸腰椎移行部の屈曲を制動しながら右股関節を伸展することができるようになった。右立脚終期の 画像には、体幹と右下肢を示すスティックピクチャーを投影した。点線は初期評価、実線は最終評価を示し、画 像処理ソフトImageJにより解析した結果、最終評価では体幹の前傾角度は6°減少、右股関節の伸展角度は13°拡 大、右膝関節の伸展角度は9°拡大、右足関節の背屈角度は14°減少していた。

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131 立脚相で股関節伸展による前方への体重移動が可能となり手支持を外した歩行の安定性が向上した右大腿骨頸部骨折の一症例 くしたうえに重量の負荷も増加させている。この力学的 な要因も体幹伸展筋を収縮させる一助になったとも考え た。体幹伸展のMMT の結果は初期評価と変わらず 2 で あったが、本症例の右立脚相で必要となる体幹伸展筋の 収縮力は、腹臥位での求心性収縮により臍を台から離す ほどの力は必要ではなかったと考える。 一方で右股関節伸展筋は自動介助運動や自動運動に よる筋力トレーニングを実施した結果、右股関節伸展の MMTが2から3に改善した。正常歩行において、踵部か らの初期接地では床反力の前後分力は後向きであり、さ らにこの床反力ベクトルは股関節の前方を通過するため、 身体には股関節を屈曲し体幹を前方へ傾斜させようとす る力が発生する。そしてこの股関節の屈曲を制動するた めには股関節伸展筋の筋活動が重要であるとされてい る1)。本症例は右初期接地で右股関節の屈曲を制動する 右股関節伸展筋の収縮力が向上したため、歩幅を拡大し て右踵部から右初期接地をむかえることができるように なったと考えた。さらに右股関節伸展筋は初期接地から 歩行周期の30%にあたる立脚中期まで体重を支え、股関 節を伸展するために求心性に活動を続ける1, 2)とされて いる。T字杖による到達動作を取り入れた体重移動練習 をおこなったことで、胸腰椎移行部の屈曲を制動しなが ら右股関節伸展筋の収縮を伴って右股関節を伸展し、前 方へ体重を移動することもできるようになった。そして 身体が前方に傾斜して不安定となっていた右立脚終期に おいては、右股関節の伸展方向への運動が初期評価と比 較して13°拡大した。また、胸腰椎移行部の屈曲を制動で きるようになったため右手で右大腿の前面を支持する必 要はなくなり、体幹の前傾角度も6°の減少に至った。不 十分な股関節の伸展により立脚中期に体幹が前傾してい る場合、膝関節を屈曲させて大腿を後方に傾けることで 骨盤と体幹の両方を直立に保つことができるとされてい る3)。右股関節の伸展が拡大し、体幹の前傾も軽減した ため右膝関節の屈曲域での保持も緩和され、右膝関節の 伸展角度が9°拡大した。このように右股関節と右膝関節 を伸展させて前方へ体重を移動することができるように なったため、右足関節を大きく背屈して体重を前方に移 動する必要性も低くなり、右足関節の背屈角度が14°の 減少に至ったと考えた。そして右立脚終期にみられてい た身体の前方への傾斜が改善し、不安定性を伴わずに左 下肢を振り出せるようになり、歩行動作の安定性が向上 したと考えた。 文 献 1) 西守 隆(著),上杉雅之(監修):動作のメカニズムがよ くわかる 実践!動作分析.pp80–83,医歯薬出版,2016. 2) Neumann DA(著),嶋田智明・他(監訳):筋骨格系のキネ シオロジー.p717,医歯薬出版,2012. 3) Perry J(著),武田 功・他(監訳):ペリー歩行分析 正 常歩行と異常歩行.pp160–161,医歯薬出版,2012.

参照

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