根管側枝治療の一症例
著者
渡辺 孝章
雑誌名
鶴見大学紀要. 第3部, 保育・歯科衛生編
号
51
ページ
109-112
発行年
2014-03
URL
http://doi.org/10.24791/00000112
はじめに 根管には主根管と副根管があり、副根管は主根管の枝で あり、その多くは歯根の根尖側1/3や根分岐部に見られ、根 管側枝、根尖分岐、髄管などがある。根管側枝は主根管に 対して、ほぼ直角に分岐し歯根膜に通じるものである。歯 髄が何らかの原因により感染し失活した場合、髄管や側枝 にも波及することになる。根周囲炎が発症し、根尖病巣と 同様の機序により炎症により歯槽骨の吸収が生じ、根分岐 部病変や根側に半球状の病巣がX線写真上に認められるこ とになる。 今回、上顎右側犬歯の根管側枝が原因と思われる、歯槽 骨吸収を伴い、X 線写真上境界明瞭な根側歯周炎の治療を 経験したので、その治療経過について報告する。 症例 患者:23歳女性、 学生 主訴:上の犬歯に違和感がある。 全身的既往歴:特記事項なし 現病歴:鶴見大学歯学部附属病院補綴科に通院中、X線写 真を撮影したところ、上顎右側犬歯近心根側方に境界明 瞭な半円形の透過像を認める(図1,2,3)。10年 以上前に、う蝕の治療を受けたとのことであっ た。 現症:近遠心にコンポジットレジンによる修復が 認められた。患者に症状を質問したところ、違 *〒230−8501 横浜市鶴見区鶴見2−1−3 鶴見大学短期大学部歯科衛生科
Department of Dental Hygiene, Tsurumi University of Junior College, 2−1−3 Tsurumi, Tsurumi-Ku, Yokohama 230− 8501, Japan. 和感程度の症状が認められた。打診に対しては隣接歯と は感覚が異なるとのことであった。歯髄電気診断にて、 失活歯と診断した。 診断:側枝が原因の歯根肉芽腫 治療方針:感染根管治療、根管充填 予後:やや良 治療経過 1回目 口蓋側より髄腔開拡、根管拡大#60、クロラムフェ ニコール貼薬(図4) 2回目 綿栓を引き抜いたところ膿性の浸出液が認められ た。次に、綿栓を挿入し引き抜いたところ、膿性浸出液に 血液が混じった浸出液が採取された。次に、綿栓を挿入し たところ、血液成分が主の浸出液となった(図5)。 3% H2O2と6% NaClO による交互洗浄を繰り替えした後、ク ロラムフェニコール貼薬 3回目(1か月経過)根管拡大#70 ファイリング、クロラ ムフェニコール貼薬(図6) 4回目(2か月経過)根管洗浄、クロラムフェニコール貼薬 8回目(2か月半経過)根管洗浄、ヨードホルム貼薬(図7)
根管側枝治療の一症例
A case of lateral canal root treatment
渡辺 孝章
*Takaaki WATANABE
図 1 初診時 23 歳女性、口腔内所見 図 2 上顎右側犬歯口腔内所見 近心遠心にレジン充填 根尖部歯肉には異常所見は認められない 図 3 初診時のⅩ線所見 近心根尖側 1/3 に境界明瞭な反円形の 透過像が認められる鶴見大学紀要 第51号 第3部 9回目(3か月経過)根管充填(図8) NaClO を根管内に浸しフャイリング後、交互洗浄。再度 EDTA を浸しファイリング後、交互洗浄。ガッタパーチャー とシーラー(キャナルスN®)による側方加圧根充を施行し た。 根充後のX線写真所見を、図9(1か月経過)、図10(2か月 経過)、図11(3か月経過) に示す。 根充後4か月 根側に認められた透過像が治癒傾向にあ ることが確認できたため、補綴科にて金銀パラジュームに よるコアを装着しプロビジョナルレストレーションを仮着 した(図12)。1か月半過後、メタルボンドクラウンにて歯 冠補綴を完了した(図13)。 病巣は完全に消失し、X 線写真にて明瞭な骨梁が認めら れた。経過良好と判断した。 考察 根尖病巣は根管内の細菌、細菌の代謝産物などが原因 であるため、根管の歯根外表面への開口部を中心として 球型に発症する。X線写真により根尖と思われる個所より ずれた根尖病巣が多いことが多く、Weng ら1)はかなりの 高頻度に側枝が多いことを報告している。今回、提示した 症例は側枝の開口部を中心に半球状に発症した病巣であ り、根尖病巣とは形状が異なる。また、歯種別に側枝の存 在の割 合を調べ た Caliskan ら2) の報告によると、 上顎では第一大 臼歯の口蓋 根の 52.5% と 一 番 多 く、2番目が上顎 図 5 根管治療時、内容物の状態 左 一回目の綿栓の状態 中 二回目の綿栓の状態 右 三回目の綿栓の状態 図 4 根管治療時の所見 口蓋側より髄腔開拡 図 6 根管治療 約 1 か月の所見 近心側根尖より 1/3 部に側枝と 思われる透過像が認められる。 図 7 根管治療約 2 ヶ月後 ヨードホルム貼薬 図 8 根管充填時の X 線所見 ガッタパーチャーとキャナル ス N®による側方加圧充填 図 9 根充後 1 か月の X 線所見 病巣の境界が歯槽骨の添加に より不明瞭となる
にての根管根充であっため、X線写真の所見からは、シー ラーと思われる不透過像が認められた。 全ての細菌を死滅させることは不可能であるし、必要も ない、Siqueira ら5)は、病原性を発揮しないレベル以下に 細菌数を減少させられれば、病変は治癒に向かうと述べて いる。 根管内のバイオフィルムを除去するには1% NaClO と EDTA の洗浄が効果的との報告がある6)。また、バイオフィ ルムの除去は非常に難しく、溶解するには5.25%の NaClO で30分かかったとの報告もある7)。 今回、NaClO を根管内に浸しファイリング、その後 H2O2 との交互洗浄を繰り返した。根管充填時には EDTA を根管 内に浸しファイリング、交互洗浄後、側方加圧にて根管充 填を施行した。結果、シーラーが一部側枝に侵入したX線 写真像が観察でき、病巣の改善に至った。今後、このよう な症例に対して、垂直加圧による根管充填を施行し比較検 討したいと考え ている。 の犬歯の45.7%であった。本症例も上顎犬歯であった。 日本人上顎前歯の側枝を調べた研究によると3)、犬歯で 根全体にあった割合は9.7%、根尖3mm までにあった割合 は29.0%、根尖3mm より上にあった割合が19.4%との報告 がある。本症例も根尖3mm に位置していると思われる。 感染根管治療当初、滲出液が多く、治療開始から8回目 にヨードホルムを貼薬した。 ヨードホルムは殺菌作用はないが、浸出液に溶けて徐々 に分解し、ヨウ素を遊離し、緩和な殺菌作用を発揮する製 剤であることから、今回使用した。 根管洗浄については、根管はかなり良く洗浄しても盲管 であるので、先端付近まで洗うのは非常に難しい、洗浄針 の先端1~2mm までしか洗浄できない。まして側枝内部を 洗浄するのは困難である。Ricucci ら4)は側枝中に歯髄組 織の断片が残っていることが多く、十分に根管充填されて いないことを報告している。また、X線写真で側枝が充填 されているように見える場合も、実際は充填されておらず、 残存した組織が根充剤と絡んだ状態であったとの報告をし ている。しかし、機械的根管拡大ともに、化学的(薬剤) に消毒滅菌を繰り返すことにより側枝は入口付近の壊死組 織は部分的除去され病巣の治癒は可能と思われる。通常、 歯根表面にはセメント質が存在しており、側枝は閉鎖空間 になっているとも思われる。そのため、根管内の洗浄液が 根管から側枝を通って歯根表面に広がって行く現象は物理 的に生じない。しかし、根管充填時にシーラーや加圧され たガッタパーチャーが押し込まれると、X線写真で確認で きるようになる。そのような症例では、恐らく垂直加圧根 充を施行した場合に見られると思われる。今回は側方加圧 プロビジョナルレストレーションを装着図 12 根充後 3 か月の口腔内所見 図 13 根充後 4 か月半後の X 線所見 メタルボンドクラウンによる歯冠補綴終了時 病巣は歯槽骨で満たされ骨梁も明瞭となる 図 10 根充後 2 か月の X 線所見 病巣は歯槽骨の添加により、 不透過性が増している 図 11 根充後 3 か月の X 線所見 経過良好と診断し、金銀パラジウム合金によ りコアを装着 レジンによるプロビジョナルレストレーショ ンを装着
参考文献
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