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巻頭言 ラインホールド・ニーバーと現代的課題

著者 柳田 洋夫

雑誌名 聖学院大学総合研究所Newsletter

Vol.29

No.1

ページ 3‑3

発行年 2019‑10‑31

URL http://id.nii.ac.jp/1477/00003730/

(2)

巻頭言

ラインホールド・ニーバーと現代的課題

 このたび、聖学院大学出版会から、髙橋義文先生との共訳で、ラインホールド・ニーバー『人間の本性』

(Human Nature)の翻訳を出させていただいた。宣伝めいて恐縮であるが、既刊『人間の運命』(Human Destiny)とのコンプリートセット(原著の総題はThe Nature and Destiny of Man)でご高覧いただたけれ ばと願うものである。

 ここでは、『人間の本性』について個人的に印象に残ったところを記しておきたい。恥ずかしながら私は、

ニーバー研究に関しては、いまだ駆け出しとすら言えない体たらくであり、ニーバーをめぐるこれまでの 数々の議論についても無知に等しい。なので、自分自身の遅まきながらの研究のとっかかりとして、恐れ 多くも聖学院大学総合研究所ニューズレター巻頭言をメモのスペースとして使わせていただこうという魂 胆である。

 ニーバーは「男性優位論者の典型」や「性差別主義者」などと見なされて非難を浴びたこともあるらし い。上記タイトルにおける‘Man’という語の使用が問題にされもした。しかし、チャールズ・C・ブラウン によれば、かれは急進的な女性解放論を拒否しながらも、家庭と共同体における女性の地位を絶えず見直 す必要を訴え、穏健で分別ある見解をとっていた(『ニーバーとその時代』髙橋義文訳、聖学院大学出版会)。

 このことに関連して、『人間の本性』第10章においてニーバーは、人間の性機能が「自然における機能 すなわち生殖機能に限定されなければならない」ことを前提にしている産児制限禁止の動きをめぐって、

「人間の生の性格はまさに、あらゆる動物的機能が自由の影響を受けて、一層複雑な関係性へと解放され るというところにある」と言う。そして、「この自由が創造性と罪双方の基盤である」とし、「性に関わる 自由は、放縦を引き起こすかもしれないが、性的衝動と他のさらに複雑で洗練された精神的衝動との創造 的な関係をも提供するかもしれない」と述べている。さらにかれは、「人間の人格性の歴史的な発展にお ける性の機能に、永久に限度を設けるような普遍的に有効な『理性の法』を確立することは容易ではない」

としている。

 ここで男女の性機能の区別の固定化を批判しているニーバーは、少なくとも原理的なところでは、「性 差別主義者」などというレッテルとはかなり異なった一面を示していると言えるのではないだろうか。「人 格性の歴史的発展」が、性にまつわる、永続的で普遍的な自然法を装った観念をも克服していくのである。

そしてかれは、性に関わる自由の進展に、一方では新たな「放縦」と「罪」の危険という留保を付しなが らも(それはまた、人間がたどる「運命」の悲劇的側面である。性に関する旧来の考え方を保持しようと する努力も、それを打破しようとする努力も、いずれも無垢ではありえず、罪のもとに置かれてもいる。

それでも人間は具体的状況において決断を下し行動しなければならない)、精神相互の新たなる「創造的 な関係」への可能性を見出すことに望みを置いているかのようである。

 以上のようなニーバーの見方は、『人間の本性』が出版された1941年という時期においては、かなり進 歩的なものであったと想像される。しかしここにも、《人間の精神は自然に巻き込まれていると同時に、

自然を超越する自由を有する》というかれの根本的テーゼが響いており、この発言も実のところ、ニーバー 神学全体の構えから必然的にせり出してくるものであるように見受けられる。そしてまた、このようなニー バーの思想は、たとえばLGBTやSOGIという言葉で指し示されるような性に関する現代的認識や議論とも 究極的なところで相渉る射程を伴うものであるようにも思われる。このようなことからしても、ニーバー は依然として、私たちが現代的状況に取り組むにあたって参照されるべき、また読み継がれるべき神学者 であると感じた次第である。

聖学院大学 大学チャプレン・人文学部教授 柳田 洋夫

参照

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