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ラット下肢骨格筋に対する長期間の脱トレーニング の影響

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(1)

ラット下肢骨格筋に対する長期間の脱トレーニング の影響

著者 辻本 尚弥, 鈴木 英樹

雑誌名 久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要

巻 14

ページ 29‑35

発行年 2006‑12‑01

URL http://hdl.handle.net/11316/230

(2)

緒 言

継続していたトレーニングが身体的理由や社会的 理由などにより一時的に休止あるいは中止してしま うことを脱トレーニングという。 脱トレーニングで はトレーニングにより獲得された適応が、 トレーニ ング前の状態に戻ることが知られている

1)2)3)

。 例 えば、 持久的トレーニングによって向上した最大酸 素摂取量は、 トレーニング停止後1から2週で減少 することが報告されている

4)

。 骨格筋においても脱

トレーニングに対する機能の適応は、 同様な変化を 示すという報告がある

1)5)11)

骨格筋は、 水 (筋重量の約79%) や蛋白質 (約16

%)、 脂質 (約3 1%)、 グリコーゲン (約0 2〜1 5%) など種々の物質より構成されている

12)

。 骨格筋の機 能や組織化学的特性及び構造の違いは筋を構成して いる種々の物質、 特に蛋白質の量的・質的な変化を 反映したものである

13)14)15)

。 我々はこれまで筋の構 成蛋白質に注目し、 トレーニングの効果について検 討してきた

16)17)

。 ラットの成熟期にあたる6ヶ月齢

ラット下肢骨格筋に対する 長期間の脱トレーニングの影響

辻 本 尚 弥

1)

鈴 木 英 樹

2)

(53)

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2)

1) 久留米大学健康・スポーツ科学センター 2) 愛知教育大学保健体育

=原著論文=

(3)

での走およびジャンプトレーニングにより、 足底筋 では重量は増加したが蛋白濃度は変化がみられず

16)

、 前脛骨筋では重量と蛋白含量が増加し、 蛋白濃度に 変化はみられなかった

17)

。 可塑性に富む骨格筋では、

トレーニングに対して一度適応した骨格筋が脱トレー ニングにより、 生理的機能を保持しつつトレーニン グ前の状態に可逆的に変化する。 このとき骨格筋の 機能を担っている蛋白質は量的にどのような変化を 示すのであろうか。

本研究では、 骨格筋蛋白の濃度および含量に注目 して、 トレーニングによる変化と、 その後の長期間 の脱トレーニングの影響を明確にすることを目的と した。

方 法

実験動物として 344系雌ラットを用い、

飼育は室温22±1℃、 湿度60±5%、 昼夜逆転した 12時間の明暗サイクルの環境下で行った。 飼料は固 形飼料 2 (日本クレア株式会社) を用い、 飲水 とともに24時間自由摂取とした。 なお、 実験動物の 取り扱いについては 「実験動物の飼育及び保管等に 関する基準」 に沿って行った

18)19)

持久的走トレーニングおよび脱トレーニングに対 する骨格筋の適応変化を観察するために23週齢コン トロール群 (23 23 群)、

23 週 齢 ト レ ー ニ ン グ 群 (23 23 群)、 77週齢コントロール群 (77 77 群) および77週齢脱トレー

ニング群 (77 77

群) を設けた。 23 群と77 群には13週齢から10 週間の持久的走トレーニングを実施した。 トレーニ ングは ら

20)

の方法に準じて、 運動強度〜77%

2

の走運動 (傾斜15 ) を1日1回60分間、

週5日の頻度で行った。 23 群と23 群のラットは トレーニング期間終了時に、 77 群と77 群のラッ トはトレーニング期間終了から53週間 (約1年) の 脱トレーニング期間後に麻酔下にて頚動脈より放血 し屠殺した。 その後、 心臓、 肝臓、 腓腹筋及び前脛 骨筋を摘出した。 各組織の重量を測定した後、 ただ ちに液体窒素により冷却したイソペンタン中で瞬間 凍結し、 生化学的分析を行うまで−60℃の冷凍庫で 保存した。 なお、 脱トレーニング期間中、 ラットは 特に制限のない通常飼育を行ない、 餌および飲水は 自由摂取とした。

筋蛋白質の分析には、 背屈筋である前脛骨筋及び 底屈筋である腓腹筋の外側部を用いた。 保存してい た筋は分析時に筋の中央部にて縦方向に二分し、 一 方を他の分析のために保存し、 もう一方を蛋白質の 定量分析に供した。 蛋白質定量分析のため、 筋を ら

21)

の方法に従いホモジナイズした。 次に、

総蛋白濃度測定のためサンプルを分取した。 蛋白濃 度の測定後、 筋重量と総蛋白濃度より総蛋白含量を 求めた。

測定と分析により得られた値から平均と標準誤差 を算出した。 統計的処理は分散の検定には 法を、 平均値の検定については一元配置分散分析法 を用いた。 各群間の平均値の差の検定には統計量を t値とする

!

22)

を用いた。 なお、 全ての検定 において有意水準は5% (

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05) とした

23)

結 果

表1には、 各群の最終体重、 心重量、 肝重量、 相 対的な心および肝の重量を平均値および標準偏差に て示した。 体重は23週齡の対象群およびトレーニン 久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要 第14巻 第1号 2007

30

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(4)

グ群に比べ、 77週齡の対象群、 脱トレーニング群が 高値を示した。 心重量も同様に23週齡の対象群およ びトレーニング群に比べ、 77週齡の対象群、 脱トレー ニング群が高値を示した。 また23週齡では対象群に 比べてトレーニング群の心重量が高値を示し、 持久 的走トレーニングの効果がみられた。 相対的心重量 は、 23週齡の対象群と77週齡の両群では有意な差は みられなかった。 23週齡のトレーニング群では対象 群に比べて相対的心重量が高値を示し、 心重量と同 様に持久的走トレーニングの効果がみられた。 肝重 量および相対的な肝重量も体重と同様に、 77週齡の 両群で23週齡の両群と比較して高値を示した。

表2には前脛骨筋および腓腹筋外側部の筋重量、

相対的筋重量を平均値および標準偏差にて示した。

前脛骨筋の筋重量は23週齡の対象群に比べ、 77週齡 の脱トレーニング群が高値を示した。 また23週齡で は対象群とトレーニング群間に有意な差はみられな かった。 腓腹筋外側部の筋重量は全ての群間で有意 な差は認められなかった。 前脛骨筋の相対的筋重量

は、 77週齡の対象群および脱トレーニング群が、 23 週齡の対象群、 脱トレーニング群に比べ有意に低値 を示した。 また23週齡ではトレーニング群が対象群 に比べ高値を示し、 持久的走トレーニングの効果が みられた。 腓腹筋外側部の相対的筋重量も、 77週齡 の対象群および脱トレーニング群が、 23週齡の対象 群、 脱トレーニング群に比べ低値を示した。 また23 週齡では前脛骨筋とは異なり、 トレーニング群が高 値を示す傾向はみられたものの、 対象群との間に有 意な差はみられなかった。

図1および図2には各群の前脛骨筋および腓腹筋 外側部の蛋白濃度を平均値および標準偏差にてそれ ぞれ示した。 両筋のすべての群において、 値に多少 のばらつきがみられたが、 筋蛋白濃度に有意な差は みられなかった。

図3には前脛骨筋の筋蛋白含量を平均値および標 準偏差にて示した。 23週齡の対象群に比べて、 23週 齡のトレーニング群および77週齡の対象群が高値を 示した。 しかし、 77週齡の対象群と脱トレーニング

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(5)

群の比較では、 有意な差はみられなかった。

図4には腓腹筋外側部の筋蛋白含量を平均値およ び標準偏差にて示した。 腓腹筋外側部では各週齡の 対象群に比べて、 すべての群において値に多少のば らつきがみられたが、 筋蛋白含量に有意な差はみら れなかった。

考 察

本研究では、 心重量および前脛骨の筋重量筋と筋 蛋白含量でみられた持久的走トレーニングの効果が、

53週という長期間の脱トレーニングにより消失した ことが確認された。 また骨格筋蛋白濃度はトレーニ ングおよび脱トレーニングにより影響を受けないこ 久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要 第14巻 第1号 2007

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(6)

とも明らかとなった。

本研究では体重および心重量、 肝重量において、

先行研究

16)24)

と同様に加齢による変化はみられたが

脱トレーニングの影響はみられなかった。 脱トレー ニング期間中の摂食量および摂食効率は、 脱トレー ニング初期の1週間では対照群との間に差がみられ たが、 2週間後には差がみられないと報告されてい る

25)

。 また体重は数週間の脱トレーニングでは、 対 照群との間に差がみられないことが報告されている

26)29)

。 これらのことから53週というさらに長期間の 脱トレーニングでは、 飼育期間中の体重増加量がケー ジによる通常状態と同様であったために77週齡の両 群間に違いが観察されなかったと考えられる。 心臓 では先行研究と同様に持久的走トレーニングよる肥 大がみられたが

3033)

、 脱トレーニングによりその効 果は消失していた。 心重量では ら

27)

が3週間、

28)

が4週間、 ら

34)

が6週間の脱 トレーニングで、 対照群との間に差がみられないこ とを報告している。 本研究はそれよりもさらに長期 間の脱トレーニングであるため、 心重量にみられた トレーニング効果が消失したと考えられる。

骨格筋重量に関しては、 両被験筋の相対的筋重量 において加齢に伴う変化がみられた。 先行研究では、

20ヶ月齢のラットで、 それまでの月齢に比べて筋重 量に差はみられず相対的筋重量に差がみられると報 告している

16)24)

。 本研究の結果も先行研究と同様に 加齢による変化と考えられる。 一方、 持久的走トレー ニングでは、 前脛骨筋において先行研究と同様に相 対的筋重量で効果がみられた

16)24)

。 先行研究では相 対的筋重量で腓腹筋に対しても持久的走トレーニン グの効果が観察されているが、 本研究では有意な差 がみられなかった。 これはトレーニングの相対的強 度およびラットの系や週齡の違いによると考えられ るが、 詳細は不明である。

筋蛋白濃度に対するトレーニングの影響について、

35)

は、 持久的トレーニングを行ったラッ トでは筋中の蛋白質や水分、 脂質の割合に変化が無 いとしている。 さらに種々のトレーニングより各筋 蛋白濃度に差がみられない、 あるいは筋の収縮要素 と筋形質の割合には差がみられないとする報告が多

36)37)38)

。 本実験でもこれらの報告と同様に前脛骨

筋および腓腹筋外側部で、 総蛋白濃度はトレーニン グにより変化がみられなかった。 一方、 筋蛋白含量 は前脛骨筋で有意に高値を示した。 トレーニングに よる蛋白合成の亢進

39)

及びコラーゲンの合成酵素で

ある 活性の上昇

40)

やトレーニ ングによる筋線維の肥大では、 収縮要素の肥大のみ ならず結合組織の肥大を伴うとする報告

41)

がある。

本研究の結果も、 これらと同様にトレーニングによ る蛋白合成促進などによると考えられる。

脱トレーニングの影響をみてみると、 トレーニン グの効果がみられた骨格筋重量および蛋白含量の項 目で同週齡の対象群との間に差がみられなかった。

42)

は、 骨格筋内 4量について、 6週 間のトレッドミル走により対照群に比べ高値を示す が、 7日間の脱トレーニング後は対照群と同程度の 値であったと報告している。 また、 ら

43)

は、 骨格筋内の 量について、

7週間の中等度および高強度のトレッドミル走によ り高値を示すが、 5週間の脱トレーニングにより対 照群と同程度の値となったと報告している。 このよ うに数週間のトレーニングにより獲得された各種蛋 白質の量的な適応は、 長くてもトレーニング期間と ほぼ同程度でその効果が消失している。 本研究では 脱トレーニング期間がこれらの研究と比較してもさ らに長く、 本研究の筋蛋白量の結果も先行研究と同 様にトレーニングの効果が消失したことを示してい る。 これはトレーニングにより一時的に亢進した蛋 白質の代謝回転が、 穏やかな条件にみあった速度に なったため、 蛋白質全体の構成比が保たれつつ蛋白 含量が対照群と同程度になったと考えられる。 骨格 筋において蛋白濃度や濃度比が変化しないというこ とは、 生理学的にみて重要な意味があると考えられ る。 筋は収縮のために分化した細胞であり、 細胞内 にアクチンやミオシンなどの蛋白質よりなる規則的 な立体構造をもち、 収縮という生理的機能を保障す る装置を備えている。 筋蛋白濃度や各蛋白質の濃度 比、 特に筋形質蛋白と筋原線維蛋白の比が変化する ことは、 細胞内の環境変化を引き起こすだけではな く、 筋の高次構造の乱れを生じ生理的機能を低下さ せる可能性があると考えられる。 そのため正常な生 理的機能保持のためには、 トレーニングや脱トレー ニングによる筋の形態的変化の過程においても筋蛋 白濃度が厳密に保護・維持されているのではないか と考えられる。

本研究では、 長期間の脱トレーニング期間により、

筋蛋白質量に対する以前実施したトレーニングの効

果は消失した。 このことは通常飼育の場合、 筋の維

持という面では十分な刺激となり得るが、 トレーニ

ング効果を維持していくという刺激にはなり得ない

(7)

ことが示された。 またトレーニング、 脱トレーニン グ期間を通じて蛋白濃度が一定に保たれていること が明らかとなった。 トレーニングや脱トレーニング のように、 生体に対する機能欲求が大きく変わって も、 蛋白濃度が一定に保たれながら、 蛋白含量が変 化する機序についての更なる検討が必要である。

引用文献

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12) 山口正弘、 加納和孝、 平田恒彦、 高坂健二 運 動生化学 1版 京都

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杉浦嵩夫 骨格筋の筋線

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石河利寛 走 及びジャンプトレーニングによるラット骨格筋 ミオシン重鎖アイソフォーム組成の変化 体力 科学 1995

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土井邦雄 新実験 動物学 1版 東京

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久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要 第14巻 第1号 2007

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23) 森敏昭 吉田寿夫 心理学のためのデータ解析 テクニカルブック 1版 京都:北大路書房 1990

24) 辻本尚弥 鈴木英樹 春日規克 老齢期ラット 下肢骨格筋における走及びジャンプトレーニン グの効果 名古屋経済大学・市屯学園短期大学 自然科学研究会会誌 1995 30(1) 9 21

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