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血流低下が骨格筋線維の組成と太さに及ぼす影響

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Academic year: 2021

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博 士 ( 歯 学 ) 中 川 貴 裕

学 位 論 文 題 名

血流低下が骨格筋線維の組成と太さに及ぼす影響      ―フット下肢慢性血流低下モデルによる検討一

学位論文内容の要旨

【目的】

  顎関 節症の一 症状であ る咬筋の 疲労を引 き起こす原 因として ,筋組織 に対する慢性的 な血 流低下の 影響が考 えられて いる.こ の理由とし ては,血 流低下に よる酸素供給量の 低下 により, 酸化的代 謝に代わ って解糖 的代謝が主 体となる ために乳 酸が蓄積する可能 性, および, 特に′IypeI線維のよ うな酸化 的代謝を行っている筋線維では,酸素供給 量が 慢性的に 低下する と持続的 な収縮が 困難となり ,遂には 筋線維の 変性や減少を引き 起こ し,その 結果とし て骨格筋 全体の筋 線維比率が 変化して しまう可 能性などが考えら れて いる.し かしなが ら,これ まで慢性 的な血流低 下と骨格 筋線維の 変化について検討 した 報告は少 なく,そ の詳細に ついては 不明な点が 多く残さ れている .そこで本研究で は, 慢性的な 血流低下 が骨格筋 線維に及 ぼす影響を 明らかに すること を目的として,ラ ッ ト 下 肢 慢 性 血 流 低 下 モ デ ル を 作 成 し , ヒ ト 咬 筋 と 同 様にneI線 維 の 比率 が 多く TypeH線 維 の 比 率 が 少 な い ヒ ラ メ 筋 と , こ れ と は 逆 に 恥ゆeH線 維 の 比率 が 多 くType I線 維 の 比率 が 少な い 長 趾伸 筋 の2筋に つ い て, 筋線維 の組成な らびに太さ の経時的 変 化を 酵素組織 化学的に 検索した .

【材料と方法】

  本 研 究 の 実 験 動 物 に は , 生 後10週 齢 , 体 重 約300gWistar系 雄 性 ラ ット ,45匹 を用い た.全身麻 酔下で, 左側下肢 の外腸骨 動脈を剖 出して絹糸で結紮後閉創した.ま た右側下肢については特に処置を行わず対照側とした.筋組織における血流については,

    ‑ 728

(2)

結 紮後1日 ,3日,1週,2週 ,1か月 ,3か月 ,お よび6か 月に ,左右 両側の大腿部 内側で外腸骨動脈の走行部位に一致する領域における総ヘモグ口ビン量(以下Hb量)

と 組織 内酸素飽和度(以下St02)を,バイオメディカル・サイエンス社製のS09Hb 量モ二夕ーを用いて経皮的に測定した.また,血流測定の直後に全身麻酔を施して左右 両側のヒラヌ筋と長趾伸筋を採取し,厚さ約10 ymの凍結横断連続切片を作成した後,

ミ オシ ンATPase染色を施した.その後,筋線維をTypeI,′I、ypeua,T、ypenb, およびTypeHcの4種に分類し,総筋線維数に対する各線維の比率を求めるとともに・

すべてのサンプルについて50本の筋線維の短径を計測し,筋線維Type別にその平均 値を求めた.

【 結果と考察】

1.血流測定

  血流測定の結果,動脈結紮後の総ヘモグ口ピン量(Hb量)は結紮後1日で約45%低 下し,その後次第に回復したが,結紮後3か月までの間は対照側と比べて有意に低下し て いた.また,筋組織内酸素飽和度(St02)も結紮後1日で約17%低下し,その後次 第に回復したが,結紮後3か月までの間は対照側と比べて有意に低下していた,なお,

結紮側における筋線維の組織学的観察において筋組織や細胞の壊死などの変化は全く認 められず,実験期間を通してラットの成育にも問題はなかった.以上のことから,外腸 骨動脈を結紮することにより,術後3か月まで血流低下が持続することが確認されたの で,本モデルは少なくとも術後3か月までは慢性血流低下実験モデルとして使用するこ とが可能であることが明らかになった

2.ヒラメ筋

  ヒラヌ筋における各筋線維Typeの比率の経時的変化をみると,対照側では加齢に伴 っ てTypeI線維の比率が次第に増加し,Type lIa線維の比率が次第に減少する傾向 を示した.これに対して結紮側では,結紮直後からTypeI線維の比率は次第に減少し,

Type IIa線維の比率は次第に増加する傾向を示し,結紮後1週では対照側との間に有 意な差を示すまでになった.しかし,それ以降はTypeI線維の比率は次第に増加,Type IIa線維の比率は次第に減少し,対照側との間に有意な差はみられなくなった.このよ う な結紮側における′bゆeI線維比率の減少とTypeua線維比率の増加は,結紮によ     −729―

(3)

り筋組織への酸素供給量が減少したために,主に酸化的代謝を行っているTypeI線維 が活動不能に陥って減少し,代わってType IIa線維が増加したことによるものと考え られた.またその後の′I、ypeI線維比率の増加とTypena線維比率の減少は,側副路 の発達による血流の回復によるものと考えられた.

  一方,ヒラメ筋線維の太さの経時的変化をみると,対照側では加齢に伴って各Type の筋線維とも次第に太さを増す傾向がみられたが,結紮側のTypeI線維については,

結紮後2週以降のすべての期間で,対照側よりも有意に細くなっていた.なお,結紮側 の′rypeHa線維 とTypenb線維 につい ては,対照側とほば同様の変化を示した.こ のことは,慢性血流低下がヒラメ筋の筋線維の太さに与える影響は主としてTypeI線 維 に 対 す るも の で あ り,TypeHa線 維やTypeHb線維 にはほ とん ど影 響を 与えな い ことを示している,

3.長趾伸筋

  長趾伸筋における各筋線維nゆeの比率の経時的変化をみると,対照側,結紮側とも に実験期間のすべてを通して,筋線維の比率はほぼ同じであった.このことは,長趾伸 筋の筋線維組成は加齢による変化を示さないこと,ならびに血流低下による影響もほと んど受けないことを示している,

  一方,長趾伸筋線維の太さの経時的変化をみると,対照側,結紮側ともに同様の加齢 変化を示したことから,長趾伸筋線維の太さは血流低下の影響をほとんど受けないこと が明らかとなった.なお,ヒラメ筋で見られた対照側と結紮側における筋線維Typeの 変化の違いが,長趾伸筋では全く見られなかった理由としては,長趾伸筋においては酸 化的代謝を行うTypeI線維が約5%と非常に少なく,また筋線維径もヒラメ筋の50% 程度の太さしかないために,血流低下状態に陥っても必要とする酸素供給量は十分に確 保されていたためではないかと推測された.

  以上の結果から,以下のことが明らかとなった.

@骨 格筋への慢性的な血流低下の影響は,主としてnゆeI線維における線維比率と   太さの減少として現れるが,比率の減少は結紮後ただちに現れるものの期間は非常   に短く,太さの減少は比率の減少よりもかなり遅れて現れるものの長期に及ぶこと.

◎慢性的な血流低下の影響が組織学的な変化として明瞭に観察できるのは,組成につ   いては結紮後1週,線維の太さについては結紮後2週と,かなりのタイムラグがあ     ること,

    ―730―

(4)

◎TypeI線維の筋線維組成の変化は血流の回復とともに次第に元の状態に復する傾   向を示すが,筋線維の太さの減少は長期間に及ぶなど,血流低下の影響は組成と太     さで異なること,

@慢性的な血流低下により骨格筋に組織学的変化が生じるか否かは,筋に含まれる   TypeI線維の割合によって異なる可能性があること,

  一般に,ヒ卜咬筋はTypeI線維が優位であると言われている.そのため咬筋に慢性 的な血流低下が生じた場合には,TypeI線維の比率ならびに太さの減少という変化が 引き起こされ,その結果として咬筋が易疲労性となる可能性があることが示唆された,

(5)

学位 論文審 査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

戸塚靖則 吉田重光 赤池    忠 山口泰彦

学 位 論 文 題 名

血流低 下が骨 格筋線維 の組成と 太さに及ぼす影響

―ラット 下肢慢性血 流低下モデルによる検討一

審査は、審査員全員出席の下に、申請者に対して提出論文とそれに関連した学科目 に つ いて 口 頭 試問 に より 行 われ た .審 査論文の概 要は、以下 の通りであ る・

  本研究は、慢性的顔血流低下が骨格筋線維に及ぼす影響を明らかにする目的で、ラ ット下肢 慢性血流低下モデルを作成し、TypeI線維の比率が多くType II線維の比 率が少な いヒラメ筋と、これとは逆にType II線維の比率が多くTypeI線維の比率 が少ない長趾伸筋の2筋について、筋線維の組成ならびに太さの経時的変化を酵素 組織化学的に検索したものである.

  生後10週齢` 体重約300gのWistar系雄 性ラット45匹 を用い、全 身麻酔下で 左 側下肢の外腸骨動脈を剖出して絹糸で結紮後開創した.右側下肢は特に処置を行わず 対照 側 とし た .結 紮 後1日 、3日 、1週、2週、1か 月、3か月、およ ぴ6か月 に、

左右両側の大腿部内側で外腸骨動脈の走行部位に一致する領域における総ヘモグロビ ン量と組織内酸素飽和度を経皮的に測定した.また、血流測定の直後に全身麻酔下に、

左右両側のヒラメ筋と長趾伸筋を採取し、厚さ約10 ymの凍結横断連続切片を作成 した後、 ミオシンATPase染色 を施し、筋 線維をTypeI、Type IIa、Type IIb、お よぴType IIcの4種に分類し、総筋線維数に対する各線維の比率、およぴすべての サンプル にっいて50本の筋線維の短径を計測し、筋線維Type別にその平均値を求 めた.

  動脈結紮後の総ヘモグロピン量は結紮後1日で約45%、筋組織内酸素飽和度も結 紮後1日で約17%低下した.両者とも、その後次第に回復したが、結紮後3か月ま での間は対照側と比べて有意に低下していた.

  ヒラメ筋における各筋線維Typeの比率の経時的変化をみると、対照側では加齢に 伴ってTypeI線維の比率が次第に増加し、Type IIa線維の比率が減少する傾向を示

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し た . 一 方 結 紮 側 で は 、結 紮直 後か らTypeI線 維の 比率 は次 第に 減少し 、Type IIa 線 維の比 率が 次第 に増 加す る傾 向を 示し 、結 紮後1週では対照側との間に有意な差を 示 し た . し か し 、 そ れ 以降 はTypeI線 維の 比率 は次 第に 増加 し、Type Ila線 維の 比 率 は次第 に減 少し て、対照側との間に有意な差はみられなくなった.結紮側における 筋 線 維 組 成 の 変 化 は 、 酸素 供給 量の 減少に より 、Typel線維 が活 動不能 に陥 って 減 少 し 、 代 わ っ てType Ila線 維 が 増 加 し た こ と に よ る も の と 考 え ら れ た ・   ヒラメ 筋線 維の 太さ の経 時的 変化 をみ ると 、対 照側 では 加齢に 伴っ て各Typeの筋 線 維 と も 次 第 に 太 さ を 増す 傾向 がみ られた が、 結紮 側のTypeI線 維につ いて は、 結 紮 後2週 以降 のす ぺて の期 間で 、対照 側よ りも 有意に細く毅っていた.結紮側のType Ila線維とType IIb線維については、対照側とほぽ同様の変化を示した..このことは、

慢 性 血 流 低 下 が 筋 線 維 の太 さに 与え る影響 は主 とし てTypeI線維 に対す るも ので あ り 、Type IIa線維 やType lIb線 維に はほ とん ど影 響を 与え ないこ とを 示し ている.

  長趾伸 筋に おけ る経時的変化をみると、対照側、結紮側ともに実験期間のすべてを 通 して、 筋線 維の 比率ぬらぴに筋線維の太さはほぼ同じであった.このことは、長趾 伸筋は血流低下による影響もほとんど受けないことを示している.この理由としては、

長 趾 伸 筋 に お い て は 酸 化 的 代 謝を 行 うTypeI線 維 が 約5%と 非常 に少な く、 また 筋 線 維径も ヒラ ヌ筋 の50%程 度の 太さ しか 詮い ため に、 血流 低下状 態に 陥っ ても必要 と す る 酸 素 供 給 量 は 十 分 に 確 保 さ れ て い た た め で は 級 い か と 推 測 さ れ た .   以 上 の 結 果 か ら 、 骨 格 筋 へ の 慢 性 的 な 血 流 低 下 の 影 響 は、 主 と し てTypeI線 維 に おける 線維 比率 と太さの減少として現れるが、比率の減少は結紮後ただちに現れる も のの期 間は 非常 に短く、一方太さの減少は比率の減少よりもかなり遅れて現れるも の の 長 期 に 及 ぷ こ と が 明 ら か と な っ た . ま た 、TypeI線 維 の 筋 線 維 組 成 の 変 化 は 血 流の回 復と とも に次第に元の状態に復する傾向を示すが、筋線維の太さの減少は長 期 間 に 及 ぷ な ど 、 血 流 低 下 の 影響 は 組 成 と 太 さ で 異 な るこ とも 明らか とな った .

  論文 の審 査に あたって、論文申請者による研究の要旨の説明後、本研究ならぴに関 連 する 研究 につ いて質問が行われた.主な質問項目は、結紮動脈として外腸骨動脈を 選 んだ のは 何故 か、筋線維総数に変化はなかったのか、歩行障害の影響について、筋 疲 労の 定義 につ いて、筋線維のタイプについて、等であった。いずれの質問について も 、論 文申 請者 から明快な回答が得られ、また将来の研究の方向性についても具体的 に 示 さ れ た . 本 研 究 は、 骨格 筋に 慢性 的な血 流低 下が 生じ た場 合に 、TypeI線 維の 比 率な らぴ に太 さの減少という変化が引き起こされことを組織学的に明らかにした点 が 高く 評価 され た.本研究の業績は、口腔外科の分野はもとより、関連領域にも寄与 す る と こ ろ 大 で あ り 、 博 士 ( 歯 学 ) の 学 位 授 与 に 値 す る も の と 認 め ら れ た .

参照

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