L-アルギニン投与下の持久的トレーニングがラット骨格筋のIGF-1受容体発現に及ぼす影響
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(2) 冬季スポーツ研究 第8巻1号 1-7, 2005 (北海道教育大学冬季スポーツ教育研究センター紀要). L-アルギニン投与下の持久的トレーニングがラット骨格筋のIGF-1受容体発現 に及ぼす影響 鈴木淳一1), 田口晴也2), 平塚勇介3) 1)北海道教育大学冬季スポーツ教育研究センター, 2)北海道教育大学教育学部札幌校スポーツ科 学専攻, 3)北海道教育大学教育学研究科保健体育専修 Expression of IGF-1 receptor after endurance training with L-arginine supplementation in rat skeletal muscles Junichi SUZUKI1), Seiya TAGUCHI2) and Yusuke HIRATSUKA3) Research and Education Center for Winter Sports1), School of Education2) and Graduate School of Education3), Hokkaido University of Education, 5-3, Ainosato, Kita-ku, Sapporo, Hokkaido 002-8502, Japan Abstract This study was designed to examine the expression profile of insulin-like growth factor-1 receptor ß (IGF-1Rß) after endurance training with L-arginine administration in middle-aged rats. Twenty-one (12-month-old) male Wistar rats were used in the present study. Exercise training by running lasted for 6 weeks at 20 m/min on a 0% gradient, 10-60 min/day. Rats in the L-arginine-treated groups drank water containing 2.5% L-arginine. The expression profile of IGF-1Rß protein was determined by Western-blot analysis. While training alone significantly inhibited body mass gain during the experimental period, training with L-arginine further inhibited it. Training with L-arginine significantly increased soleus masst-to-body mass ratio. In the soleus muscle, training with L-arginine significantly increased expression of IGF-1Rß protein by 8%, but training alone did not. However, in the plantaris muscle, training with or without L-arginine did not affect expression of IGF-1Rß protein. The present results suggest that, in middle-aged rats, L-arginine supplementation causes additional effects on exercise-induced IGF-1Rß expression in hind-leg muscle. [Keywords] L-arginine, IGF-1R, endurance training, skeletal muscle. 緒言 現在,我が国では全人口占める65歳以上の. いて筋力低下による転倒や骨密度の減少などに. 老年人口の割合が20%に達する超高齢化社会. よる骨折,間接障害などのリスクが高くなる. となり,中高齢者が健康で質の高い生活を維持. [1,2]。. することが重要な課題となっている[1]。一般. 様々な統計データから,体力や運動能力は中. に,加齢に伴って日常生活に置ける運動量は減. 年期以降に著しい低下がみられているが,週1. 少する傾向にあり,加齢による身体組織の機能. 日でも運動を実施すれば,全く運動しない人に. 低下に運動不足の影響が加わることによって. 比べて体力水準を高く保てることが知られてい. 筋・骨格系の退行的変化が生じ,中高齢者にお. る[1,3]。このことから,中年期における運動. 1.
(3) 鈴木淳一, 田口晴也, 平塚勇介. 週間の有無が高齢期における体力維持や健康保. ギニンを投与すれば,持久的トレーニングによ. 持に大きく影響すると考えられる。. る心肺機能の改善に加え,筋機能も改善される. 加齢による種々の生理学的変化は様々な要因. ことが予想される。. が複雑に生じることで引き起こされるが,骨格. そこで本研究では,骨格筋におけるIGF-1R. 筋においては筋組織の機能低下や筋横断面積の. 発現量の変化を指標とし,中年ラットにおいて. 減少などの退行性変化が起こる。これらの変化. L-アルギニン投与が持久的トレーニングによる. に関連する物質としてインスリン様成長因子-. 筋機能改善を促進するかどうかを明らかにする. 1(insulin-like growth factor-1; IGF-1)があ. ことを目的とした。. る。これまで,血中IGF-1濃度やIGF-1遺伝子 の発現は,老化とともに低下することが報告さ. 実験方法. れている[4,5,6,7]。このことから,加齢による 筋力低下や筋萎縮はIGF-1の発現低下と関連が. 実験動物. あると考えられる。. ラット24匹を用いた。トレーニング開始1週間. IGF-1は筋肥大や骨成長など全身の組織にお. 前にすべてのラットに対し,トレッドミルにな. ける成長や肥大を引き起こす物質であり,脳下. らすための練習走行を2日間負荷した(10. 垂体前葉から分泌される成長ホルモン. m/min, 0% grade, 10 min/day)。その後,. (growth hormone; GH)が,主に肝臓に作. ラットを任意に安静対照群(Cnt)7匹,ト. 用することで生成され,血管を通り,全身の組. レーニング群(TR)7匹,L-アルギニン投与+. 織に作用する。また,骨格筋に対する過負荷刺. トレーニング群(ArTR)7匹に分けた。すべ. 激によってGHの影響を受けずに筋組織が自ら. てのラットは室温24. 生成する自己分泌・傍分泌型のIGF-1も存在す. 50%,12時間の明暗周期の環境下で飼育し,. る[7]。IGF-1は細胞膜上にあるIGF-1受容体. 飼料(CE-2,日本クレア)と飲料水を自由摂. (IGF-1R)と結合し標的組織に作用する。骨. 取させた。ArTR群には2.5%のL-アルギニン. 格筋におけるIGF-1R発現量の増加は,IGF-1に. (A5006, Sigma)水溶液を6週間自由摂取さ. 対する骨格筋の感受性を高めることになる。. せた。. 実験には12ヶ月令のWistar系オス. 1℃,相対湿度約. L-アルギニンは,非必須アミノ酸の一種であ り,生体内で血管拡張作用に関与する一酸化窒. 運動負荷. 素(NO)の基質となることが知られている. 用トレッドミル(KN-73,夏目製作所)を用い. [8,9]。L-アルギニンの投与によってGH分泌量. て負荷した。トレーニングは20 m/min,勾配. が促進されるため[10],IGF-1を介して骨格筋. 0%,10分間の条件から開始し,3 min/dayの. 肥大や筋量の維持が促進されることが予想され. 割合で運動時間を漸増し,週5日の頻度で6週. る。先行研究では,ラットに持久的トレーニン. 間負荷した。4週目に60分に達した後はその時. グを負荷すると,若年ラットでは主働筋の重量. 間を維持した。. 持久的運動トレーニングはラット. と筋線維横断面積が有意に増加するが,中年 ラットでは変化が見られないことが報告されて. 筋標本. いる[11]。このことから,中年ラットにL-アル. クロラロース(0.06 g/Kg)とウレタン(0.7. 2. 最終トレーニングの48時間後に,α.
(4) L-アルギニンによるIGF-1Rß発現. g/Kg)の混合麻酔下で,ヒラメ筋と足底筋を. (4℃,18時間),TBSで洗浄後アルカリフォ. 摘出し,湿重量を秤量後,液体窒素で凍結処理. スファターゼ標識抗ウサギIgG抗体と反応させ. した。筋サンプルは分析まで-80℃で凍結保存. た(室温,1時間)。TBSで洗浄後,NBT/. した。. BCIP発色により目的のタンパク質を検出し た。メンブレンは乾燥後,スキャナーでパソコ. IGF-1R発現量の測定. 骨格筋サンプルを-. 40℃で微粉状にした後,10倍量のバッファー. ンに取り込み,Image Jソフトウェアを用いて 各バンドの光学密度を測定した。. (0.1 M potassium phosphate, pH 7.2; 1 mM DTT; 0.1 % Triton-X100; protease. 統計処理. すべてのデータは平均値 標準誤. inhibitor cocktail (P2714, Sigma))を用いポ. 差でしめした。各群のデータはまず. リトロンホモジナイザーで,ホモジナイズし. Kormogrov-Smirnoffテストを用いて正規性の. た。その後,遠心分離処理し(1500 g, 10. 検定を行い,正規分布していることを確認し. min, 4℃)上澄みをサンプル溶液とした。総タ. た。その後,一元配置分散分析を行い,有意差. ンパク質量で50 µg相当のサンプル溶液を6%. がみられた場合にはFisher のPLSD多重比較検. アクリルアミドゲルを用い,SDS-PAGE法で電. 定を行い,各群間の平均値の差の検定を行っ. 気泳動後,ウェット式ブロッティングでタンパ. た。検定結果は危険率5%未満を有意水準とし. ク質をPVDF(polyvinydene difluoride)膜に. た。. 転写した。転写終了後,メンブレンを TBS(137 mM NaCl; 20 mM Tris base, pH. 実験結果. 7.6)で洗浄し,1%BSAを含むTBSで1時間ブ ロッキング処理した。その後,抗IGF-1Rßポリ. Table 1に実験終了時の体重,筋重量および. クローナル抗体(Santa Cruz)と反応させ. 筋重量と体重の比を示した。実験終了時の体重. 3.
(5) 鈴木淳一, 田口晴也, 平塚勇介. Fig. 1 Representative images of Western-blot analysis. は各群間に有意差はみられなかった。しかし,. られなかった。足底筋ではTR群で約2%の増加. 実験前後の体重を比較したところ,Cnt群では. がみられたが,有意な差はみられなかった。筋. 約7%有意に増加していた(P<0.05)。また,実. 重量と体重の比では,ヒラメ筋の値がArTR群. 験前後の体重変化量はTR群の値がCnt群に対し. で約9%有意な増加が観察された(P<0.05)。足. て有意に低く,またArTR群ではCnt,TR両群. 底筋ではArTR群で約6%の増加が観察された. に対して有意に低い値を示した(P<0.05)。ヒラ. が,有意差はみれなかった。. メ筋の重量は,TR,ArTR両群の値がCnt群に. ウェスタンブロットの典型例をFig. 1に示し. 比べて約3%高い値を示したが,有意な差はみ. た。IGF-1R発現量は,ヒラメ筋においてArTR. Fig. 2 Western-blot analysis demonstrating effects of exercise training with or without L-arginine administration on IGF-1Rß protein expression. All values are means±SE. * and #, significantly different from Cnt and TR, respectively, at P<0.05.. 4.
(6) L-アルギニンによるIGF-1Rß発現. 群の値がCnt,TR両群よりもそれぞれ. アルギニンの投与によってGH分泌量が顕著に. 32%,24%有意に高い値を示した. 増加することが知られている[10]。また,血管. (P<0.05,Fig.2)。足底筋ではArTR群の値が. 内皮細胞のNO合成酵素(eNOS)欠損マウス. Cnt群よりも約20%高い値を示したが,有意な. では,IGF-1による骨成長作用が顕著に抑制さ. 差はみられず,TR群との間に有意な差がみら. れることが報告されている[9]。L-アルギニン. れた。. は生体内でNO産生の基質となることから,そ の投与によってNO産生が促進されるとIGF-1. 考察. の働きが助長される可能性が考えられる。 本研究において,L-アルギニンのIGF-1Rß発. 本研究では,中年ラットにおいて長期間の持. 現促進作用はヒラメ筋においては観察されたも. 久的トレーニング中にL-アルギニンを投与した. のの,足底筋においては観察されなかった。. 際の骨格筋機能の変化について,IGF-1R発現. ラットにおいて,主に遅筋線維で構成されてい. 量を指標として検討した。IGF-1Rの発現増加. るヒラメ筋と中間筋及び速筋線維で構成されて. は,IGF-1の発現量に依存すると考えられてい. いる足底筋では,持久的トレーニングに対する. る。つまり,運動トレーニングや成長などの要. 適応が異なると思われる。本研究で用いた運動. 因によって,IGF-1の血中濃度や筋組織での生. 強度では,遅筋線維であるSO線維と中間筋線. 成が高まることによって,その受容体の発現が. 維であるFOG線維が主に利用されると考えら. 促進される。. れる。このため,運動によるIGF-1系の活性化. 本研究では,トレーニングだけでは骨格筋の. 刺激がヒラメ筋に得意的に現れ,それがL-アル. IGF-1Rß発現量に変化が見られなかった(Fig.. ギニンによって促進されたものと考えられる。. 2)。このことは,中年ラットにおいては持久. 本研究で用いた中年ラットでは,実験期間中. 的トレーニングだけではIGF-1の増加が起らな. の6週間で体重が約7%有意に増加した。この. いことを示唆している。運動トレーニングによ. 体重の増加は,筋組織や骨の成長によるものと. るIGF-1の発現は,運動強度が高いほど多く,. いうよりは,主に貯蔵脂肪量の増加によるもの. 特に,筋組織による自己分泌が促進される。本. と考えられる。この体重の増加は,トレーニン. 研究で用いたトレーニングは中等度の運動であ. グによって顕著に抑制され,またL-アルギニン. るため,筋組織による自己分泌が促進されな. の投与によってさらに抑制された(Table. かった可能性が考えられる。また,GH分泌量. 1)。このことは,L-アルギニンが運動時の貯. は運動開始直後に著しく増加するが,長時間の. 蔵脂肪動員を促進する可能性を示唆するもので. 一定負荷運動では分泌量は徐々に低下していく. ある。. ことが知られている[12]。さらに,持久的ト. 以上,本研究では中年ラットにおいて,持久. レーニングを長期間継続すると血中GH濃度の. 的レーニングだけでは骨格筋IGF-1Rßの発現量. 増加がみられるが,加齢とともにその反応は低. が増加しないが,L-アルギニンの投与によって. 下することが報告されている[6]。. それが促進されたことを確認した。また,持久. L-アルギニンの投与によって,骨格筋のIGF-. 的トレーニングの減量効果が,L-アルギニンの. 1Rß発現量が顕著に促進された(Fig. 2)。L-. 投与によってさらに促進される可能性が推察さ. 5.
(7) 鈴木淳一, 田口晴也, 平塚勇介. れた。これらのことから,L-アルギニンの投与. reversibility of the reduced IGF-I gene. と持久的トレーニングを組み合わせて行うこと. expression in aging rats. Eur J. によって,中年ラットにおける骨格筋機能や体. Endocrinol 145:73-85, 2001.. 質の改善に寄与することが示唆された。この成. 6. Velasco B, Cacicedo L, Escalada J,. 果は,中高年期における体力の維持増進や生活. Lopez-Fernandez J, Sanchez-Franco F.. 習慣病等の疾病の予防,及び手術後の体力回復. Growth hormone gene expression and. 等のリハビリテーション分野に応用できるもの. secretion in aging rats is age dependent. と考える。. and not age-associated weight increase related. Endocrinology 139:1314-20,. 謝辞. 1998. 7. F r o s t R A , L a n g C H . R e g u l a t i o n o f. 本研究は,平成16年度北海道教育大学学長裁. insulin-like growth factor-I in skeletal. 量経費(若手教員研究支援経費)によって行わ. muscle and muscle cells. Minerva. れた。. Endocrinol 28:53-73, 2003. 8. Maxwell AJ, Ho HV, Le CQ, Lin PS,. 参考文献. Bernstein D, Cooke JP. L-arginine enhances aerobic exercise capacity in. 1. 平成12年度中高齢者の健康・いきいきライ. association with augmented nitric oxide. フスタイルづくり調査。大阪府立公衆衛生. production. J Appl Physiol 90:933-8,. 研究所労働衛生部編。2000.. 2001.. 2. 介護予防研修テキスト。介護予防に関する. 9. Lagumdzija A, Ou G, Petersson M, Bucht. テキスト等調査研究委員会編。社会保険研. E, Gonon A, Pernow Y. Inhibited. 究所発行。2002.. anabolic effect of insulin-like growth. 3. 平成15年度体力・運動能力調査。文部科学 省。2004. 4. Sonntag WE, Lynch CD, Bennett SA, Khan AS, Thornton PL, Cooney PT,. factor-I on stromal bone marrow cells in endothelial. nitric. oxide. synthase-knockout mice. Acta Physiol Scand 182:29-35, 2004.. Ingram RL, McShane T, Brunso-Bechtold. 10.Nass R, Pezzoli SS, Chapman IM, Patrie. JK. Alterations in insulin-like growth. J, Hintz RL, Hartman ML, Thorner MO.. factor-1 gene and protein expression. IGF-I does not affect the net increase in. and type 1 insulin-like growth factor. GH release in response to arginine. Am. receptors in the brains of ageing rats.. J Physiol Endocrinol Metab. Neuroscience 88:269-79, 1999.. 283:E702-710, 2002.. 5. V e l a s c o B , C a c i c e d o L , M e l i a n E ,. 11.Suzuki J, Gao M, Batra S, Koyama T.. Fernandez-Vazquez G, Sanchez-Franco. Effects of treadmill training on the. F. Sensitivity to exogenous GH and. arteriolar and venular portions of. 6.
(8) L-アルギニンによるIGF-1Rß発現. capillary in soleus muscle of young a nd middle-aged rats. Acta Physiol Scand 159: 113-121, 1997. 12.Wideman L, Weltman JY, Hartman ML, Veldhuis JD, Weltman A. Growth hormone release during acute and chronic aerobic and resistance exercise: recent findings. Sports Med 32:987-1004, 2002. 7.
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