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今井久登

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Academic year: 2021

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企業間関係に関する一考察

今井久登

1.はじめに

近年,日本企業のパフォーマンスの良さ,国際的な競争力の強さというこ とと相まって,日本の企業間関係に対する注目が高まっている。これは,大 企業を主体とする企業集団や同一産業内の大企業間の関係にとどまらず,原 材料・部品から完成品の製造を経て;ユーザーに至るまでの一連の垂直的な 業務構造の流れに沿った企業間の関係に対する注目を含むものである。いう までもなく,このような生産と流通の分野には多数の中小企業が存在する。

したがって,そこでの企業間関係は大企業間の関係と共に大企業と中小企業 の関係,中小企業間の関係である。

従来,そこでの取引のあり方は日本的な特殊性をもって語られることが多 かった。確かに日本の企業間の取引は欧米ではみられない様々の特徴を持っ ている。それは,ある面では,日本市場の閉鎖性として,国際的な参入障壁

として捉えることができる。また,大企業の中小企業に対するしわよせや収 奪の関係として捉えられる面もある。しかし,日本の企業間関係が日本企業 の国際的な競争上の強さの要因であるとすれば,そこにはなんらかの経済合 理性があるはずである。もちろん,大企業と中小企業の関係や中小企業をめ ぐる状況は現状においても様々な問題を持っている。できれば,その問題性 と経済合理性を統一的に把握することが望ましい。しかし,ここでは日本の 企業間関係の経済合理性の根拠を明らかにすることに課題を限定する。

そこで,主に日本の下請関係を念頭におきながら,欧米の企業間取引理論 の展望を行っていくことにする。ただし,欧米の企業間取引理論は垂直的統 合を念頭においた議論である。また,欧米の議論は企業の短期の最適化に傾

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斜しがちである。これらを日本の現実に適用するには若干の工夫が必要であ る。しかし,経済合理性の基準としてほかによるところがないのであえて欧 米の議論を取り上げることとする。

2.取引コスト

まず初めに, Coase ('37)の見解をとりあげる。 Coase('37)は,企業のあ り方と係わって,初めて取引コストの概念を提起した。以下, Coase('37)  について説明する。

Coase ('37)によれば,企業を見るために取引を中心に考えることが必要 である。ここで取引というのは,財・サービスの需要者と供給者の関係であ り,企業聞の取引と共に企業内の取引も含まれる。この企業聞の取引(市場 取引)と企業内の取引(組織取ヲ1)を代替的なものとして捉えることができ る。それでは,両者の違いはどこにあるのか。それは,権限関係の有無であ る。市場取引には権限関係は存在しないが,組織取引には存在する。それで は,市場取引と組織取引の選択基準はなんであろうか。それは取引コストで ある。

取引コストとは,取引を行うのに必要なコストである。市場取引を行うの に必要なコストを市場取引コスト,組織取引を行うのに必要なコストを組織 取引コストということにする。市場取引コストの中身は,取引相手を捜すコ ストおよび交渉し,契約を結ぶコストである。組織取引コストの中身は,取 引に係わる管理コストである。企業はこれらの取引コストを比較して市場取 lか組織取ヲ│かを選択するのである。したがって,市場取引と組織取引をめ ぐる他の条件が等しければ,取引コストの大小によって最適な企業規模が決 まることになる。

この Coase('37)の取引コストの議論は,親企業の内製と外注の選択の問 題に当てはめて考えることができる。つまり,内製を組織取引,外注を市場 取引とみることができる。そして,取引コストの大小が内製か外注かの親企 業の意思決定に影響を与えているといえる。もっとも,内製か外注かの決定 は製造コストを含むトータルのコスト比較に基づいてなされている。 Coase

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('37)の見解は,下請関係のような企業聞の取引関係を捉える一定のフレイ ムワークを提起しているところに意味があるといえる。

ところでどのような要因が取引コストに影響を与えているのであろうか。

Wi11iamson ('79, '83)はその一つの要因として機会主義的行動をあげてい る。以下, Williamson ('79, '83)の見解を説明する。

Williamson ('79, '83)のいう機会主義的行動とは,取引に係わるある経 済主体の利己的な行動であり,取引当事者全体の利益に反する行動である。

その一つの重要な事例として,買い手の機会主義的行動が売り手の専用資産 の投資を妨げるということがある。専用資産とはある取引相手にのみ有用な 資産である。これは例えば,下請企業が親企業の近くに立地する,下請企業 が特定の親企業にのみ有用な専用機や型を導入する,下請企業の側が親企業 の担当者と懇意になる,下請企業が特定の親からの大量受注を見込んで投資 を行う,ということである。ここでもし親企業がこうした専用投資を行った 下請企業に対して買いたたきのような機会主義的行動をとるのであれば,下 請企業はそのような親に対する専用資産の投資を回避するようになる。

そこで, Williamson ('79, '83)はこのような機会主義的行動を抑制する ための仕組みが必要であると考える。それが専用管理構造と Hostageであ る。ただ,専用管理構造の中身については必ずしも明らかにされていない。

Hostageとは,売り手の専用投資を促すために買い手が何等かの保証をする ことである。この例として,浅沼 ('84)によれば,親企業が下請企業に対 して型費の補償を行っていることがあげられる。

Williamson ('79, '83)の議論は,下請企業の専用資産投資を促すために は親企業の買いたたきのような機会主義的行動を抑制することが重要である ことを示唆している。

3.残余決定権

次に,取引コストの概念に基づきながら企業を取り巻く契約の不完全性と 係わって残余決定権の概念を提起した見解を見ていく。

残余決定権の概念を初めに提起したのは Grossmanand Hart ('86)である。

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以下, Grossman and Hart('86)について説明する。

残余決定権とは,契約に係わるが契約に明記されていない権利である。契 約を実行する場合に,環境条件に応じて対処しなければならないことがよく あるが,どのように対処するのか契約に明記されていないことが多々ある。

このとき,契約に係わる当事者の中で誰がそのことについて決める権限を持 つのかということが重要となるのである。

Grossman and Hart('86)は次のような2企業2期間モデルを考えている。

そこでは, 2つの企業の生産活動が互いに重なって両者の利益に影響を与え ている。また,両者の事前の専用資産投資がそれぞれ生産の効果とあわさっ てそれぞれの利益に影響している。 Biを企業 iの利益とすると,次のよう に示される。

Bi[αi,ゆi(q 1, 2) ] 

α:専用資産投資 q:生産活動

:qが利益に与える効果

i= 1, 

各経営者は期日 Oに所有権 (qの決定権)について契約する。このとき各経 営者は G を決める。次に,期日 1に各経営者は qについて契約する。この とき所有者 (qの決定権を持つ人)は qを決め,それぞれの利益が出る。こ こでは,両者の利益の和を最大にする α1a2が望ましい。ところで,各経 営者はそれぞれの企業の利益を最大にするように行動するとする。すると,

所有権 (qの決定権)の配置が事前の投資活動に影響することになる。生産 活動の決定権を各経営者が持つ場合は,両者の事前の投資活動は2企業全体 の利益を最大にする投資水準と比べていずれも過小な水準にとどまる。企業 lの経営者が両者の生産活動の決定権を持つ場合は,企業 lの投資水準は過 大,企業2の投資水準は過小なものとなる。企業2の経営者が両者の生産活 動の決定権を持つ場合は,反対の結果となる。したがって, al, a2の全体 の利益に与える貢献度の大小によって望ましい所有権 (qの決定権)の配置 が決まることになる。

以上のGrossmanand. Hart(' 86)の議論を下請関係に当てはめて考えてみ

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ると,親企業の事前の投資活動が下請企業の投資活動と比べて全体の利益に 与える効果が大きい場合は,親企業の経営者が自社とともに下請企業の生産 活動の決定権を持つことが経済合理性の観点からは望ましいといえる。

次に, Hart('88)の見解を説明する。

Hart('88)は初めに機械1台を操作者l人が用いて生産する場合を考えて いる。そして,この場合に誰が機械を所有すべきかと問うている。 Hart('88) によれば,操作者以外の入が機械を所有すると,その人の着服行動のために 操作者の意欲がそがれるという問題がある。したがって,その場合には操作 者が機械を所有することがよいことになる。

次に, Hart('88)は操作者 Uが操作者Dの生産要素を生産する場合につ いて考えている。このとき,各操作者の報酬はDの利益と Uのコストに依 存する。加えて ,Uの所有者はコスト操作による利益を得るものとする。

この場合に両者の利益を最大にする所有権の配置が何であるかを Hart('88) は考える。結論としては,操作者 Dが両者の決定権を持つときに望ましい 各操作者の努力水準が実現する。しかし,各操作者がそれぞれの決定権を持 っときまたは操作者 Uが両者の決定権を持っときは,操作者 Uがコスト操 作の動機付けを持つので望ましい努力水準は実現できない。

以上のことを下請についてみてみると,下請企業のコスト操作を回避する ために親企業の経営者が下請企業の決定権を持つことが望ましいといえる。

つまり,親企業が決定権を持つことによって徹底したコスト管理とその低減 が可能になるということである。親企業の下請企業に対する支配・統制ない しは準統合的な関係ということは中村 ('83),港 ('84)によって指摘され ているが, Grossman and Hart('86)及びHart('88)の見解はそのことの経 済合理性を明らかにしているといえる。

最後に,企業間取引理論の最近の成果として Hartand Moore ('90)の見 解を説明することとする。

Hart and Moore ('90)によれば,資産の所有者は他人にそれを使わせない ことができる。そして,資産に対する各人あるいは各企業の事前の行動が将 来のそれぞれの利益に相互に影響する状態を考える。ここでいう事前の行動

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とは,例えば,生産活動に先立つて行われる各企業の設備投資や製品開発あ るいは下請企業の協力会の活動にみられるような関係特殊的な技能形成のこ とを指している。ここで,期日 Oに各人が事前行動をする。このとき各人は その事前行動および将来の利益の分配などについて契約できないものとす る。このように考えるのは各人または各企業の聞の契約が不完全なものであ ることを前提としているからである。次に,期日 lに各人は利益の分配につ いて交渉する。このとき事前行動に応じて利益が出るのである。また,各人 の分け前はその入っている資産の所有権に係わる提携での役割に応じて支払 われるものとする。この提携のあり方がここでの所有構造を示しているので ある。

ところが,以上の条件を仮定すると,いかなる所有構造の下でも,各人の 事前行動は社会的に望ましい水準と比べて過小となる。なぜなら,各人はそ の事前行動による利益の全てを得ることができないからである。ここでの結 論は,資産またはそれに係わる人々の利益効果にとって重要な人がそれを持 つべきであるということである。ここでは,最適な事前行動をもたらすのが 最適な所有構造ということになる。

さらに,Hart and Moore ('90)は次のようなケースを考えている。それは,

資産 ala2がそれぞれ飛び抜けて大きい利益効果を持つ人1, 2と他の人 ω W 2にとって不可欠の場合である。ここで, al, a22つの企業を,

1

  2はそれぞれの経営者を, Wl, W 2はそれぞれの労働者を示す。ここで

Wl, W 2は交替可能であると仮定しているので,彼らは所有権を持つべきで ないということになる。

ここでによる統合が望ましいのは次の場合である。

1の事前行動が重要であるとき。

lがa2にとって不可欠であるときo

h が lに専用的であるとき。

alα2が補完的であるとき。

2が交替可能であるとき。

Wlの事前行動が重要であるとき。

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反対にによる統合が望ましくない場合は次の場合である。

2の事前行動が重要であるとき。

2a2にとって不可欠であるときo

h2に専用的であるとき。

α1α2が経済的に独立であるとき。

α1を親企業,a2を下請企業と考えると,例えば,下請企業の設備投資が 特定の親企業に専用的である場合には,親企業の下請企業に対するコント ロールが合理的であるといえる。また反対に,部品供給企業が汎用的な独自 の技術を持ち,取引先の多角化を実現している場合には,部品供給企業が独 自に決定権を持つことが望ましいといえる。

4.  日本の企業間関係

日本の企業間関係の重要な特徴の 1っとして下請・流通の系列化というこ とが指摘できる。ここでよく指摘されるのは,限定された取引相手との長期 継続的関係であるということと,下請関係における親企業のような何らかの コントロール・センターが存在するということである。今井・伊丹・小池 ('82)はこれらの特徴をもっ日本の企業間関係を市場取引と組織取引の中間 形態である「中間組織」として捉えている。また,清 ('89)によれば,日 本の下請関係は契約に基づかない取引の暖味性を持った関係であることが日 系海外進出企業の実態を踏まえて示されている。これは,裏返していえば,

親企業の下請企業に対するコントロールが強いということである。日本の企 業聞の取引は雇用調整コストを回避しながら,企業聞のコントロールの合理 性を発揮する関係であるといえよう。

また,下請のピラミッド構造ないしは渡辺 ('85)の「山脈的構造」を全 体としてみるときにも,親と l次 下 請 次 下 請 と 2次下請 2次下請と3 次下請,…というように個々の取引に注目し,そこでのコントロールの強弱

と取引をめぐる状況を分析することが不可欠である。

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5.むすび

以上においてわれわれは日本の企業聞の関係,とりわけ下請関係を念頭に おきながら欧米の企業間取引理論を中心に展望してきた。そこでは,ある一 定の条件のもとでは,企業聞においてコントロールの存在することが経済合 理性を持つことが明らかとなった。その条件は,例えば,親企業の事前の投 資活動が下請企業の投資活動と比べて全体の利益に与える効果が大きい場合 であり,ないしは,下請企業の設備投資が特定の親企業に専用的である場合 である。これらの条件は結局のところ,下請企業が親企業に技術的に依存し ていることに起因するものである。例えば,長崎県 ('87)によれば,造船 関連下請の多い長崎地域(長崎市,香焼町,高島町)の金属・機械工業は,

電気機械を除くと,板金,溶接,鍛造,穴あけ,研磨などの特定分野に技術 が偏って存在している。したがって,もしこの技術的依存性の条件を異業種 交流などの方法で変化させることができるならば,親企業のコントロールの 存在を不必要なものとすることができるのである。

引 用 文 献 浅沼寓里「日本における部品取引の構造」経済論叢, 19843 Coase, R. H.The Nature of the FirmEconomicaNovember 1937. 

Grossman, S. ].  and Hart, O. D.The Costs and Benefits of Ownership: A Theory of Ver tical and Lateral Integration", ournal of Political Economy, August 1986. 

Hart, O. D.Incomplete Contracts and the Theory of  the Firm", Journal of Law,  Economics, and Organization, Spring 1988. 

Hart, O. D. and Moore, ].Property Rights and the Nature of the Firm", Journal of  Political Economy, December 1990. 

今井賢一・伊丹敬之・小池和男『内部組織の経済学』東洋経済新報社, 1982 港徹雄「日本型生産システムの編成機構」青山国際政経論集, 198411 長崎県『特定地域中小企業振興計画一長崎地域~ 19879

中村精『中小企業と大企業』東洋経済新報社, 1983

(9)

清嗣一郎「日本的品質管理の2つの特質とその海外移転可能性について」第 9回日本中小 企業学会全国大会報告要旨, 1989

渡辺幸男「日本機械工業の下請生産システム」商工金融, 19852

Wi1liamson, O. E.Transaction Costs Economics: The Governance of Contractual Rela tions", Journal of Law and Economics, October 1979. 

Williamson, O. E.Credible Commitments: U sing Hostages to  Support Exchange" ,  American Economic Review, September 1983. 

参照

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