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南アジア研究 第28号 005書評論文・小川 道大「岡橋秀典・友澤和夫(編)『現代インド4 台頭する新経済空間』」

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Academic year: 2021

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(1)書評論文 岡橋秀典・友澤和夫 (編) 『現代インド 4 台頭する新経済空間』. 書評論文. 岡橋秀典・友澤和夫(編)『現代インド4 台頭する新経済空間』. 東京:東京大学出版会、2015 年、334 頁、5500 円 + 税、ISBN 978­4­13­034304­6. 小川道大 本書は人間文化研究機構「現代インド地域研究」(「南アジア地域研. 究」の前身)の推進事業第 1 期(2010 –2014 年)の集大成として出版さ. れた『現代インド』シリーズの第 4 巻にあたり、同事業第 1 期の広島大. 学拠点の研究成果に基づいている。序章と3 部構成の本論(12 論文と 5 補論)から成り、タイトルが示す通り広島大学拠点が研究の柱として いる空間構造の把握が本書のテーマとなる。本書評では、本書序章に ある枠組みを紹介した上でその枠組みに従って12 章を評者が整理して、 本書の意義と課題を考察する。. 1 本書の内容 序章「経済発展と新しい経済空間」(岡橋秀典)で、編者の岡橋は 大都市を現代インドの発展の象徴ととらえ、都市やその周辺などの空 間的変化を分析することで現代インド経済の成長メカニズムと構造変 動を解明することを本書の目的としている。岡橋は現代インドの空間 構造を(1)「地理、自然、文化などの初期条件を基礎として歴史的に 形成されてきた地理的再生産構造」と(2)「経済的発展にともない急 速に影響力を増大させた経済的空間構造(新経済空間)」(12 頁)の2 側面から捉え、2 側面が「重層」して「葛藤」することで、大都市や メガ・リージョンなど経済発展を牽引する空間が形成されるという見 通しを立てている。本書の枠組みである空間の2 側面を中心に各章を再 解釈し、本書の意義を考察する。. 第 I 編は序章を受けて、「現代インドの空間構造とその変動について. 全体像を示し」ている。第 1章「空間構造の形成と変動」(岡橋秀典) は[佐藤 1994]に依拠してインド亜大陸全体を「南北、東西、内陸・. 沿岸」の対比軸で歴史文化や環境が異なる(1)地域再生産構造と捉え、. 85.

(2) 南アジア研究第28号( 2016年). その中に経済自由化以降にメガ・リージョンという(2)新経済空間が 現出したとみている。(2)新経済空間によって地域格差は拡大したが、 格差の要因は(1)地域再生産構造内の偏差で説明できるとする特徴を 見出している。第 2 章「グローバル化にともなう空間の再編成」(澤宗 則)は空間の重層を脱領域化と再領域化のプロセスで捉え、重なりよ りも強い変化を想定している。例えば独立以降の国内産業保護を行な ってきたインドは一度拭い去られ、グローバル世界の中のインドという 新たな領域が形成されたと澤は分析する。. 第 II 編は全国的な空間構造の再編を考察するのに不可欠な領域であ. る、インフラ、人材、資源・エネルギーの開発と活用を議論している。 第 3 章「包括的な成長におけるインフラ整備の役割」(小田尚也)は電 力セクターと道路セクターに注目しながら、包括的な経済成長のため にインフラ整備の格差を是正することが必要であると主張する。ここ では(1)地域的再生産構造は想定されておらず、一部地域でインフラ が整備され、州間格差が拡大したインドとして(2)新経済空間が捉え られている。第 4 章「労働市場と人材開発」(岡田亜弥)は、空間分析 を人材の構造分析に置き換えて今後の経済発展を占う人材開発システ ムの変容を議論している。(1) 「階層的かつ分断的」な労働市場がカー スト制度に起因する再生産構造の中に存在していたが、労働市場の大 半を占める低学歴・低技能労働力において抜本的な変革は起こせてい ないと結論付ける。バンガロールに官民推進による変革の兆しはみら れるが、 「人口ボーナス」を利用し、増え続ける就労人口を産業人口と して育成するには多くの課題があると指摘する。第 5 章「資源開発とエ ネルギー問題」(南埜猛・石上悦朗)は1991年の新経済政策以降の変 化を資源の観点から検討している。石炭、石油・天然ガスなどのエネ ルギー資源は1970 年代から、水資源は1980 年代から使用量が増えてお り、(2)新経済空間を支える資源利用の在り方は1991年以前にすでに 変化しており、より長期の考察が重要だと指摘する。第 6 章「都市化 と都市システムの再編」(日野正輝・宇根義己)は、1991年以降にお けるインドの都市化の特質を考察する。インドは都市への人口集中が 30%と少ないが、デリーなど一部の都市に都市人口が集中し、「圧縮さ れた大都市」(メガ・シティ)が形成された。メガ・シティは都市の (2)新経済空間の代表としてグローバル化を目指しているが、インフ. 86.

(3) 書評論文 岡橋秀典・友澤和夫 (編) 『現代インド 4 台頭する新経済空間』. ラの未整備などの問題により国際競争力をもつ都市機能を備えるには 至っていない。. 第 III 編は新経済空間の要となる大都市の発展を考察している。前半. (7 -8 章)は、産業集積から大都市の形成・発展を分析している。第 7. 章「自動車産業の発展と産業集積」(友澤和夫)は、インド工業化の. 象徴である自動車産業の成長を描く。友澤は(1)地域的再生産構造か ら(2)新経済空間への工業化のプロセスを、1979 年までの混合経済時 代、80 年代の部分自由化期、90 年代の新経済政策導入期、2000 年代の 経済成長期に分けて段階的に考察する。91年の新経済政策により立地 誘導がなくなってデリー首都圏に工場が集中したと分析し、汚染など. 負の影響もみられることを指摘する。第 8 章「ICT サービス産業の大都. 市集積と地理的分散」(鍬塚賢太郎)は、ICT (情報通信技術)サービ. ス産業が都市の労働市場・都市の在り方自体に与える影響を考察して いる。ICT サービス産業は1990 年代の時点ではインドの大都市から人材. を国外へ送り出す人材派遣業で、(1)地域的再生産構造の外にあった。 2000 年代から ICT サービス業がインド国内で成長し、デリーなど主要 5. 大都市以外へ企業立地が進み、(2)新経済空間を形成していった。鍬. 塚は新しい拠点を空間的に分析し、 IT 政策に早期に取り組んだ南部で. は複数のメガ・リージョンが形成されたのに対し、北部はデリー一極. 集中の巨大なメガ・リージョンが形成されており、メガ・リージョン の形成に地域差があるという極めて重要な指摘を行なっている。. 第 III 編後半(9 -12 章)は社会生活の変容に注目しながら大都市の発. 展を論じている。第 9 章「大都市の発展と郊外空間」(由井義通)はデ リーを事例に都市構造と郊外空間の実態を分析することでインドにお ける都市化の独自性を示そうとしている。インドの都市は(1)地域的 再生産構造と結びつきうる伝統都市とそこから乖離した植民地都市の 2 重構造から成り立っていた。近年の経済成長によりこの2 重構造の外 側に(2)新たな郊外空間が形成され、インドの都市は多重的な都市構 造へ展開していった。由井は(2)新しい郊外空間の中に(1)伝統的 農村が取り残される事例を紹介して大都市の急速な拡大を示すととも に、都市機能分散の必要など新たな課題を挙げている。第 10 章「変容 する都市空間と露天商」(岩谷彩子)は、アフマダ―バードを事例に公 共空間としての道に注目し、近年の空間編成を考察している。都市の. 87.

(4) 南アジア研究第28号( 2016年). 公共空間としての道は、15 世紀来の露天商の活動の場であり、(1)地 域的再生産構造の中に組み込むことができる。2011年の再開発により 道は公共性を失った(2)新たな空間に再編される。しかし岩谷は人類 学的手法を用いることで(2)新たな空間の中に(1)「露天商的な空 間」を再現することに成功している。すなわち空間の再編がアクター の行動を完全に規制するわけではないことを示しており、第10 章は本 書の空間編成の分析に、アクターの行動という重要な要素を加える働 きをしている。第11章「郊外農村の社会経済変動」(森日出樹)は、 2003 年と2012 -13 年に行なわれたデリー近郊村の世帯調査から社会経. 済状況の変容を検証している。03 年には農業労働者を用いる大規模農 地経営も小規模な自作農経営も確認され、農業外職業ではカースト分 業が見られた。すなわち対象村は(1)地域的再生産構造をもつ伝統的. な農村であった。しかし12 -13 年には、SEZ 計画による土地収用の結果、 小規模農地世帯数が激減して土地無し世帯が急増し、 「大土地所有」か. 「土地無し」かという農地保有の二極化が進んだ。農業外職業ではドラ イバー、不動産業など職業の都市化が進み、農村内の所得や教育に大 きな変化が出ており、2000 年代に近郊村が(2)都市の新経済空間に 組み込まれていったことがよくわかる。第 12 章「都市環境問題と環境 教育」(三宅博之)は、大気汚染、上水供給、水質汚濁から都市環境 の変容を分析し、「インドの都市がサステナブル・シティへ移行」可能 であるかを議論している。「ガンジス川の本来の清らかさ」 (305 頁)と いう表現が象徴するように、第 12 章ではかつてのインドには(1)地域 再生産構造に適合的な都市が存在していたことが言外に示唆されてい る。近年の経済成長によって形成された(2)新経済空間の負の部分と して都市の環境汚染が詳細なデータによって説明されている。後半部 では科学的対処ではなく学校教育に焦点を当て、長期的な環境改善を 思考するという新たな視点を取り入れており、その点は注目に値する。. 2 考察 本書は、産業、教育、資源・エネルギー、社会生活、環境などの諸 側面に着目しながら近年の経済成長が都市形成に与えた影響を考察し、 メガ・リージョンという分析空間を見出すことに成功している。本書 各章は議論すべき重要な論点をそれぞれに提示しているが、紙幅の制. 88.

(5) 書評論文 岡橋秀典・友澤和夫 (編) 『現代インド 4 台頭する新経済空間』. 限により本稿では、本書の設定課題と成果に論点を絞って全体の意義 と課題を論じる。 本書序章では(1)地域再生産構造と(2)新経済空間の2 側面から インドの空間構造とその変容を捉えるという問題設定がなされている。 本稿もこれに従って本論各章について(1)から(2)の変化を整理し た。この整理は全章について成功したとは言えないが、各章は扱う話 題が異なり、近年のインドにおける変化の捉え方も様々であることを 考えれば整理が不完全に終わることは当然であり、それはまた本書の 問題点でもない。むしろここで注目すべきは、本書の各論が問題設定 以上に複雑な変化を捉えていることである。端的にいうと変化の始点 が(1)地域再生産構造に限られていないのである。この点を評者に強 く感じさせた第 5 章を例に説明する。第 5 章は近年の資源・エネルギー 問題を独立以降の変容の中で考察しているが、その内容は『現代イン ド』シリーズ内の[神田 2015]と深く関わっている。[神田 2015]は薪. 炭や動物糞などの非商業エネルギーと石炭・電力などの商業エネルギ. ーの利用に関する植民地期・独立期初期(1950‐60 年代)の歴史的変 遷を考察している。薪炭などの非商業エネルギーこそが(1)地域再生 産構造の中の資源エネルギーということになるであろう。植民地期に 石炭などの資源開発がなされ、第 5 章の変化分析の始点は開発開始後 の時代となる。すなわち(1)地域再生産構造と(2)新経済空間の間 には、植民地期や独立期(経済自由化以前)の経済・産業構造が存在 しているのである。本書には植民地期・独立期に分析視点を置く各論 が複数あり、(2)新経済空間は(1)地域再生産構造から直接に変化 しているわけではなく、植民地期の開発空間や自由化以前の独立期の 経済空間も、空間構造の変容を考える際に必要となることを本書は示 している。これは本書の課題設定に問題があったわけではなく、空間 構造分析における歴史的視点の重要性という新たな課題が見出された. ことを意味している。[柳澤 2014]は20 -21世紀における植民地期・独. 立期の経済変容・発展を連続的に捉えている。著者が亡くなられたこ. とが悔やまれてならないが、 [柳澤 2014]から得られる経済史の視点は 1. 本書の成果をより深化させるものであると評者は考える 。. 本書は様々なレベルでの経済空間の変容を考察して、メガ・リージ 2. ョンという分析空間をその成果として導き出した 。その成果が明確に. 89.

(6) 南アジア研究第28号( 2016年). 出ている故に、本書各章の論考からわかるメガ・リージョンの特徴を まとめた終章を読みたいと評者は一読者として感じた。そこで本書で 示されたメガ・リージョンに関する2つの重要な論点をまとめて本書評 論文を締めくくりたい。第 1はメガ・リージョン内の構造に関する点で ある。第 9 章と第 11章はデリーを題材に、メガ・リージョンに包摂す ることで空間が大きく性格を変えたことを示している。この空間の変 容に関して、第 2 章はインドの都市について「脱領域」と「再領域」と いう概念を用いて農村が都市郊外と化すドラスティックな変化を説明 する。近年の大都市郊外の土地利用の大きな変化は空間の「重層」の みでは捉えられないことを示唆している。他方で第 10 章の人類学的ア プローチは、空間再編後もしたたかに生き残る商人の姿を描いている。 ここでは再開発以前の商域がその後も一つの層として残っていた。空 間構造が変容するときに、以前の空間と諸関係は捨象されるのか、そ れとも重ね合わされるのかという根本的な問題がここにはある。この答 えは土地や人間活動など注目する要素のみでなく、郊外か旧市街かな どメガ・リージョン内の位置によっても異なると評者は推察する。本 書の随所で示されているようにメガ・リージョンは決して均質な空間で はなく、空間構造の変化の仕方もリージョン内で様々である。メガ・ リージョンの内部構造を社会経済空間の変容と関連づけて整理する必 要があるだろう。 第 2は、メガ・リージョン間の関係である。第 8 章はメガ・リージョ ンの南北差を指摘しているが、序章図 4 に示されたメガ・リージョン間 の差異・役割分担に関するさらなる研究がまたれる。農村に関しては [黒崎 2014]が全国の県レベルの空間的特徴を分析し、『現代インド』 シリーズ第 2 巻ではビハール、パンジャーブ、タミル・ナードゥ農村の. 類型化が試みられており[高橋 2015] [宇佐美 2015] 、メガ・リージョ. ンの地域性を考える際に、農村からの裏付けを得られる研究状況にあ る。農村の分析には GIS が用いられており、本書の GIS データを重ね合. わせることで、農村と関連付けながらメガ・リージョンの特徴をはか ることが技術的に可能となる。そしてこの合成により岡橋が手本とす る[佐藤 1994]の空間構造を近年のデータから再検証する土台が得ら れると評者は考える。このようにメガ・リージョンはインドの都市化. を考察する枠組みとなるだけでなく、インド亜大陸全体の空間構造を. 90.

(7) 書評論文 岡橋秀典・友澤和夫 (編) 『現代インド 4 台頭する新経済空間』. 分析する際の鍵概念となるものであり、これを見出した本書のインド 研究における意義は大きい。評者が示した課題は本書の欠点ではなく、 評者が本書に見出した研究発展の可能性である。本書は近年の経済空 間の変容を都市を基点に多角的に分析した良書であり、広島大学拠点 のさらなる研究発展を期待させる内容であった。 註 1. 編者岡橋は同書を書評しており、 柳澤が示した都市・農村背中間地帯を、 郊外という本書. の視点で捉え直している。 経済史との連携の素地がすでにできている[岡橋 2015] 。 2. 本書にメガ・リージョンという語は4度しか出てこないが、 明示的ではないにせよデリーな. ど大都市を中心とする新たな空間形成を多くの章が扱っており、 同語は本書の中心となる 重要な概念である。. 参照文献. 宇佐美好文・柳澤悠・押川文子、 2015「 、農村発展の類型論」 、 水島司・柳澤悠 (編) 『現代インド2 溶融する都市・農村』 、 東京大学出版会、 79-124頁。. 岡崎秀典、 2015「 、書評 柳澤悠著『現代インド経済―発展の淵源・軌跡・展望―』 」 『 、広島大学現 代インド研究―空間と社会―』 第5巻、 69-72頁。. 神田さやこ、 2015「 、近現代インドのエネルギー―市場の形成と利用の地域性―」 、 田辺明生・杉 原薫・脇村孝平 (編) 『現代インド1 多様性社会の挑戦』 、 東京大学出版会、 85-109頁。. 黒崎卓・和田一哉、 2014「 、県データで見た農業生産の長期変動とその空間的特徴」 、 柳澤悠・水 島司 (編) 『激動のインド 第4巻 農業と農村』 、 日本経済評論社、 73-123頁。. 佐藤宏、 1994『 、インド経済の地域分析』 、 古今書院。. 高橋昭子・水島司、 2015「 、農村人口動向と地域類型」 、 水島司・柳澤悠 (編) 『現代インド2 溶融 する都市・農村』 、 東京大学出版会、 59-78頁。. 柳澤悠、 2014『 、現代インド経済―発展の淵源・軌跡・展望―』 、 名古屋大学出版会。 おがわ みちひろ ●金沢大学. 91.

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