• 検索結果がありません。

翻刻『尊氏将軍二代鑑』(中)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "翻刻『尊氏将軍二代鑑』(中)"

Copied!
32
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

翻刻『尊氏将軍二代鑑』(中)

著者 翻刻の会

雑誌名 同志社国文学

号 60

ページ 107‑137

発行年 2004‑03

権利 同志社大学国文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000005279

(2)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一〇七 翻刻   ﹃ 尊氏将軍二代鑑 ﹄︵ 中 ︶           翻 刻 の 会

底本 を 忠実 に 翻刻 することを 原則 としたが

次 のような 校訂方針 に 拠 った

1

しなかった 改行 では 類等 の 景事

道行

ただし した

施 を 適宜改行

かりにして 手掛 を 文字譜 は 本文

   

2

した 示 で

︶︵

を 略号 ウの

とオ 数字 の 丁数

わりは 終 の 裏

表 の 各丁

とした

﹂﹁

﹂﹁

3

﹂﹁︑

本 文 中 の

﹂﹁

ハ ミ 外

は 体 字 の 行 現 は 名 仮 の 以 一 詞 し た

た だ し

感 動

類 送 り 仮 名

捨 に 仮 名 の て

4

した 統一 に 字体 の 通行 として 原則 いては

除 を 異体字 の 一部

は 漢字

5

りとした 通 の 底本 は 清濁

い 仮名遣

て 字 当

脱字

誤字

ともに 仮名

漢字

6

めた 改 に 表記 の 現行 合字等 は

草体

略体 な 特殊

7

した 残 はそのまま

﹂〳〵︑﹁

ただし

した 統一 に

は 漢字

﹂︑

は 片仮名

﹂︑

は 平仮名

は 畳字

8

した 翻字 に 位置 われる 思 と 適切 の 右傍 の 本文

し 採用 はすべて 類 の 文字譜

の は

次 に 掲 げる 翻刻 会 の

学部学生 の 研究会

の 会員 によってなされた 翻刻 本文 二

9

らなかった 断 に 特

ったが

で 他本 の 適宜同板 は 不明箇所 の 底本 補

    佐野絵理

︑鈴木統太郎︑戸川郁子︑

長村祥知

前田樹里

    文字譜

改行

本文 の 最終確認 は 山田和人 が 担当 した

(3)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一〇八

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一〇九

直 地色中義いかゞ思ひけん︒太刀投捨てあ 色きれ顔︒フウヽさすがは師直のぶとし〳〵︒切

捨と云詞を聞︒只一人支てかゝる行

跡︒ホヽフ頼もしし勇有︒其 地色中性根を見るからは病気の子細語らんと︒いふに師直ハヽハツト頭をさぐ 中れば︒直義は人に 聞せぬ大事ぞと︒渕辺︵三十三オ︶にあたりを守らせて︒心を配り小声に成

︒我 詞先将軍尊氏の舎弟として︒大塔の宮を 擒にし︒それ成

渕辺に首打せ︒軍を静めし艱難も将軍職を継ん為︒然るに嫡子なればとて︒甥の義詮将軍職に任ぜらる︒

所詮謀反と思へ共むつかしきは西国のおさへ︒塩冶判官高貞は︒中々随ふ者ならず︒   彼 地色中が妻の

よ姫に︒右大臣具親公心 をかけて頼むを幸 色

︒将 詞軍職の御綸旨を申下して賜らは︒

地色中よをうばひ参らせんと︒契約なして其折から︒石打にことを よ 色せ︒う 詞ばひとらんと思ひしに︒しそんじて是迄延引︒此春義詮十五になれば︒︵三十三ウ︶かれは都のしゆごと成

︒ 我 地鎌倉へ下つてはことをなす共及ぶまじ︒何とぞ塩冶をむほんとざんそうし︒

よをさへうばひなば︒将軍職に成

べ 色きか︒

と 詞やせんかくやと心を屈し︒臥まどろみたる或夜の夢︒大塔の宮が首︒我

膝節にくひ付クと︒思へば覚て右の膝︒眼耳鼻 舌唇そなはりて︒伝へ 地  聞たる   人面瘡︒食を     はみ声を聞

︒我計には詞もかはし︒眼を見合すれば︒怒れ   る面︒熱気を吹

て 五体をやき︒我身ながらも我

を責︒医療薬      も有べけれど︒かゝる難病五体不具と人にしられば本

意の妨

︒他言すまじ き性根︵三十四オ︶を見て︒密に是を語らん為︒討 詞

捨とは謀︒我大望と此難病︒汝悉く判断せよと︒聞 地

もあやし き詞の末︒師直暫く工夫の体︒御むほんは先指 色置

︒太 詞切は御身の上︒人に対面なきからは︒御難病とさつせし故︒先達て 某けらい榎原藤内に申付

︒難病異病に験有

︒明医を尋候へば︒不日

に伴ひ来るは治定︒世上にさたなく御平安︒   地中宜 はからひ申

べしと︒いふに直義なを打解︒天晴忠臣渕  辺もいこんを残すべからず︒かくとしらで此年月︒心を置く悔しさ 中

(4)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一〇八

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一〇九

よ︒汝 地色中にいかでつゝむべき︒かゝる異病をよく見しれと︒両人を近く︵三十四ウ︶よせ︒腰かけながら   唐綾の︒裾引上

ば右の膝︒   霊々 〳〵たる人 色面瘡︒口を動かし   眼をてらしあ 下たりを見廻す   輔車︒奇異の病

を目の前に身の毛も︒よだつ計也︒

直 地義我と

見合せ︒何を聞てや声あ 色らゝげ︒ヤ 詞アおろか也大塔の宮︒敵なれば直義が︒将軍職の望を妨

︒とり殺さんとは いつかな〳〵︒生ある時さへ某に︒擒と成

て亡ぼさる︒まして此世になき霊魂︒大丈夫の身にやどり︒命をたつこと思 ひもよらず︒きつくはい成

頬魂

︒にらみひしいでくれんずと︒は 地つたとねめたる眼 色力に︒   膝ぶし動き   忿れるこゝち︒く はつと見出す眼の光 色

︒にらみかへ︵三十五オ︶せはねめ戻し︒面をならべ頭

を重ね︒よりては開き退ばそひ︒うめきた けるは獅子身蟲︒   地蝸牛の角の   争ひと︒両頭大蛇の勢ひを︒合せて見るもかくやらん︒ス 地ハ又御病気起りしと︒二人はあは てさはげ共何とはからふかたもな 中く︒病はつのる熱気の息︒   火煙のごとく吹

かけられ︒さすがの直義た 色まりかね︒あら くるしやとどうどふし︒大熱しきりになりけ 中れば︒   例の渕辺が心へて︒四方のしやうじをさし廻し︒両人共に守りゐる︒

折 地色からあない白砂の庭︒師直けらいの榎原藤内︒主人に直談申

たしと︒聞より出る武蔵

守︒ヤ 詞ア藤内︒申

しはいか にぞとはや問︵三十五ウ︶かくれば︒さん候宇治の里のかた辺︒和気の佐仲と申

者︒難病異病に妙有

由︒密に召連候 へ共︒一向やぶ医に候へば︒御前へいかゞといふを引取

︒汝医は意也と云ことを︒位の位と思ふかや︒仁愛療治の意也︒ やぶ医とてあなどるべからず︒そ 地れ〳〵と請ずれば︒   三十計の︒   茶筅髪︒   中短きあひくちさすが猶人にすぐれし   医意の︒

座に付

礼儀   厚小袖︒乗

物医者もやぶ医者も︒   中羽織は長く極りぬ︒師 地色直頓而詞をかけ︒ム 詞ヽ和気の佐仲とは御辺よな︒明 医たるよし藤内が物語

︒願くは相伝由緒︒聞

まほしやと尋れば︒御尤の御詞︒由緒と申

て某は︒元︵三十六オ︶来医

(5)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一〇

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一一

家の生れにあらず︒武家に育て其以前︒所領もけがし候へ共︒子 地中細有て流浪の折から︒和気の伴良と申

老医  ︒相果年久 色

︒後 詞家育の娘有

︒縁を求て入

聟し︒伴良が家伝の秘書︒聰病

唖聾︒腹にて物をいふ病

︒乱心病人面瘡︒其 地色中外 彼是十難病︒相伝を逐て後︒後家も程なく空敷成

︒   秘 詞書の病

の内ならば其妙をゑたれ共︒我

人かくすは難

病︒   他 地言せ まじき誓言は匕冥利︒御物語

といふに師直便 色りを得︒主 詞人の大病は人面瘡︒大塔の宮の執念と︒御心の付

が病

︒   地色中配剤頼 むと︒   聞

より佐中近くさしより︒憚 詞

には︵三十六ウ︶候へ共︒人の執着とは御迷ひ︒七情感じて身を破り︒百病は気よ り起る︒人面瘡のきざす時思ひなしの初一念︒弥其身を苦めて︒火煙のごとき執気有

︒直 地色中義公の御病気に︒   卒爾のことを すべきかと︒御疑ひも有べければ︒家伝の秘事を   明 色すべし︒   千 詞手陀羅尼を以て病人の迷ひをはらさせ︒人面瘡の嫌へる薬

︒ 貝母一味を無体にはませ︒目鼻耳にも是をぬり︒   地内薬にも用ひなば︒忽

験候と︒手に   握りたる匕の妙ヲヽ大 色慶   中〳〵︒よ くこそ大事を明されたれ︒早く療治の用意をと伴 中ひ〽内に入 引にけり︒

か 地くと様子はしらね共   書院玄︵三十七オ︶関に詰し人︒師直佐中か帰らぬは扨は御前へお免しか︒我もお目見申さんと先

へ飛たる弓大 中将︒猪股瀬平と云声に渕辺は頓而   支り出︒師 詞直佐中を御免とは執権職と明医の徳︒外に対面ならぬこと︒首 きらるゝが望みかと︒い 地はれて進む心なく︒筈をちがへし弓頭

︒矢庭に逃て立帰る︒

身 地色共はぜひにとくる法橋︒   詞典薬

頭としてやぶ医者ふぜいに見かへられ︒是は近比一生の︒浮沈連数の脈計直々 〳〵に見申

たい︒お 地頼申

の詞の内︒い 色や〳〵貴殿はなを御遠慮︒人 詞にしらせぬ御病気を︒な 地中をすはやぶにも功の者︒あなどりめさ るゝ御自分の︵三十七ウ︶首は殊更あぶなしと︒聞

てがつくり御手医者も︒主と病

にかたれぬとつぶやきか 中へる︒其跡

(6)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一〇

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一一

に︒しと〳〵   歩む   足軽大将︒とかく主人に大目付

︒   奏者銀役蔵奉行︒入かはりてのお見舞もゆるさぬ御意を戴て︒詞す

るどき伊 色賀

守︒命がないと云 中

放せば︒皆々手討

は嫌ひにて︒そばへもよらず出て行

︒ じ 地色こくうつりて武蔵

守︒佐中を伴ひ立出

は︒直義漸快く︒ゆう〳〵と歩 中み出︒佐 詞中が医術言語にたへたり︒誠に思へ ば迷ひにて︒気をやみ痛を発せしに︒一味の薬

に人面瘡︒口を閉眼喩︒耳鼻共に平ぎしは︒   神 地変ふしぎの医療也と︒

感心すれば師直渕辺︒天晴手がらと︵三十八オ︶もてはやされ︒笑をふくみて頭を持 色上

︒某 詞が流儀には︒即功有

こと珍 らしからす︒吉田と申

高騎が娘厩の祈祷にきよじ有て︒顔にはびこる瘤を生じ其中に音をなす︒猿の見入

としる故に請 合て是を治す︒其 地中外   十氏の何某は︒   茄子を踏で病

と成

︒醒井氏は蛇盃の病

︒各武士とは云

ながら︒元億病のなす所 色︒ 是 詞又一ケの伝有て本

復させて候へ共︒或は貴き人にもあらず︒又は病

を隠す故某が名は出ず︒されど余の人千万人の 本

復より︒直義公の御快気は︒家の褒身の冥加と︒悦 地色中ふ儘の手柄咄

︒直義しぶ〳〵打うなづき︒ヲヽ聞

ば聞程奇 色妙 〳〵︒いざ先︵三十八ウ︶当座の返 色礼せん︒ヤ 詞ア師直︒弥最前云

し通り︒佐中をよつくもてなすへし︒我 色長居は嘸退屈︒ 奥へ行んとめくばせし︒渕辺をつれて入

にけり︒

師 地色直頓而立上 色り︒ヤ 詞ア〳〵けらい共︒用意能

ば出来れと︒い 地ふより早くとり手の役人︒魚鱗にならんでか 色け出たり︒佐中 は見るよりいぶかしく︒飛しさつて身をか 色ため︒ヤ 詞アラ心へぬ師直︒各拙者を取

体︒人たがへか当座の意趣か︒身に 取て覚なし︒何ごと成

やと尋れば︒イヤサ主人の御意を聞ずや︒汝が療治を感心有

︒能もてなせとの御こと︒我やしき へ連帰り︒あらみの刀の塩梅見せ︒きみのよい馳走せん︒ソ 地レのがすなと声かくれば︒とつた︵三十九オ︶取たとよる所を

(7)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一二

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一三

ひつぱづして腕捻︒   反て投のけけとばして︒あたりを払ふて見へける所 色に︒思ひもよらぬ後より︒師直しつかと抱とむれ

ば︒手取

足取

たゝきふせ︒コレ卒に   なはをぞかけにける︒

佐 地色中中はとがの覚もなく︒五尺のからだに三寸なは︒かゝる無法は何ごとゝ︒じだんだふんで無念の体︒けころしてくれんず と︒なは取

引立

つ 色ゝとより︒ヤ 詞ア恩しらずの師直︒将軍の御叔父君︒御難病を直せし某︒   地色却而命をとらんとは何

の誤 り何のあた︒子細を聞んといはせも果 色ず︒イ 詞ヤ其詞くだらぬ〳〵︒直義公の御難病︒他言せじとのせいごんは︒汝虚言のせ うこ有

︒一 地つには御難病を聞

やいなや︒かく立

所に験有

︒︵三十九ウ︶   家伝の秘事を打 色明す︒二 詞つに諸方の手柄咄

︒ かくす病

も云ちらす︒三 地つには主君の本

復を︒家の褒と云詞︒汝が誤り主人のあた︒生置

ては為な 中らず︒身がやしき へ連帰り︒密に首を打

との御 色意︒但 詞誓言に偽

なき︒云

わけあるやと詰かけられ︒サアそれは︒サアなんと︒サ 地ア〳〵 なんとゝきめ付

られ︒ハツト計に行

つ 中まり︒とかふの詞なかりけり︒

師 地色直猶もたるみな 色く︒汝 詞もいぜんは武士と聞

︒佐々木が藤戸の先陣は︒塩焼の藤大夫が情︒却而後日の聞へを憚り︒命 地中

をたゝれし   例有

︒異議に及ばゝ親類共に命のさはり︒ぜひなきことゝ   明らめて︵四十オ︶神妙に覚悟せよと︒のつびきさ せぬ網の魚︒のがれぬ所と顔ふ 色り上

︒ハ 詞ツア世に︒恐 地るべきは過去の   中因縁︒某 詞幼少の時よりも︒弓箭にかゝる相有

と云

しにたがはず︒思 地中ひもふけぬ疑ひ受

︒理の外の理にせまり︒三

寸の舌故に百手の身を誤る︒是過去よりの   因果ぞ 中と︒思

へば恨む人もなし︒

覚 地中悟の上に一つの願ひ聞てたべ︒家 詞に残せし女房は親の敵をねらふ者︒我過は露しらねば︒かれが命は助かるやう︒必 地色中御

(8)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一二

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一三

自分頼むぞと︒しにゝ行

身はさし置

て︒義理有

妻を頼み置

︒心の内ぞぜひもなき︒ヲ 詞けなげなる覚悟︒妻の命にさは

りなし︒時 地中刻うつ︵四十ウ︶るいざ立

めさと︒さいごを急く隙の駒︒ひづめとなりし露の身のあはれ〽はかなくむざんさ

よ︒

す 地でに引立

所へ︒取

次の武士罷 色

出︒師 詞直殿に急御用と︒女一人あはたゝしく是へ通り候と︒詞 地にそふてくる女師直 さとくさし心へ︒佐中を家来が後に立

︒何者成

ぞと尋ぬれば︒女は近く畏 色り︒扨 詞はお前が師直様︒わらはゝ侍従と申て︒ 和気の佐中が女房けさあかつきお前の御けらい︒夫佐中をつれ参られし︒るすの間に何とやら胸さはぎしきりにやまず︒日 地中

はかたむけ共帰られず︒あんまりの気 色遣

さ︒夫 詞の迎ひに参りし所師直様も我夫も︒此御やしきにと承︵四十一オ︶はりお 見知

もなきわたしが︒御前へ直に急用とは︒是へ通りて断申

︒佐 地中をつれて帰らん為︒早ふあはして給はれと︒いふ

に夫が心も動き︒立覆はれし後より︒覗くとしらず女房は︒胸のだく〳〵勝りける︒

師 地色直態そし 色らぬ体︒い 詞かにも佐中は今朝より︒療用有て相勤

立帰りしはまだ間もなし︒定 地て道のちがひつらん急ぎ私宅 へ帰るべしと︒誠しやかに云

廻され頓而落付

女心︒ヤ 詞レ嬉しや〳〵もふ帰られましたか︒そ 地ふとはしらず御前迄︒無礼 の程は御ゆるしもふお暇と立

所に︒女房待

と佐中が声︒見れば夫は高手小手︒コハそもいかにとよる所を師直早く立

︵四十一ウ︶隔り 色    ︒ヤ 詞ア未練なり佐中︒女房に対面してなんの用︒もし科の子細を語りなば女房迄も命がない︒女も様子聞

ならば弥佐中が為にならず︒今もくぜんに命を取

︒此まゝ帰るか夫をきらふか︒様子をいふて女を殺すか︒返 地答次第と双 方へ詞の釘のするどさに︒女房様子はしらね共聞てせつなく見て悲しく︒とふもとはれずよせ付

ず︒のふどうよくな我夫

(9)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一四

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一五

を︒助

てたべあはせてたべ︒是のふ〳〵と計にて︒それといはれぬ涙川くちなしいろにやながるらん︒

夫 地色も心はきゆれ共さあらぬ体に詞をし 色づめ︒ナ 詞フ師直殿︒︵四十二オ︶某あやまちあればこそ得心して此行跡︒妻の命にさ はるとしつていかで子細を申

べき︒外に一言いふこと有

︒いざあはされよといふにうなづき︒ヲヽ其詞聞ん為暫くの間 は免すべし︒対面せよと引合す︒女 地房頓而走りより只ことならぬ胸さはぎに︒かけ付

しかひもなく此ふぜいは何ごとぞ︒

どのやうになと云

わけして︒   助 上かつて下されと︒すがりては泣

立てはなき︒身をもがき気をあせ 中り︒かこち嘆くぞ道理 成

︒ 佐 地色中中も共に涙をうかめ︒我 詞思はさる越度をなし︒かく囚人にならんより切

死するも合点ながら︒其方が身のうへ︵四十二 ウ︶には親の敵を討

望有

︒叶はぬことに刃向ひなばそち共に命がない︒か 地中くあさましき有さまにむざ〳〵と成 中

果て︒せ

めておことをかばひしぞや︒

必 地色中命全ふして年来ねらふ敵をうてよ︒   科の子細を問とても︒いへばいふ程つみ   重く︒ふうふ共に眼前に命を取

とのことな 中

れば︒我心ざしが無足する前世の因果と明らめて︒只此まゝに立

かへれ︒いふべきことは是計︒女房さ 上らばと云はなせど︒

心はつきぬ夫婦のなごり︒かくご極めし其上の涙 中は︒止るかたもなし︒

女 地色房いとゞむせび上

︒ナフ此儘にかへれとは︒心 上づよいどうよくな︒とがの子細は何ごとゝ︒尋ることさへならずして︒

どう明らめ︵四十三オ︶ていなれふぞ︒とがは   問まい師直様︒夫を助けてゆるしてと︒せき上〳〵なきさけぶ心ぞ︒思ひや

られける︒

(10)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一四

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一五

か 地色中くては果じと武蔵

守︒情なくも引

はなし︒それ引

立よと呵責の声︒すき間をくゞつて又取付

︒い 詞や〳〵いか成

が有共︒夫は殺さぬやりはせぬ︒我 地をも一所につれて行

︒はなれじ物と取すがり︒引きはなされては又取付

︒もだへこ がるゝあはれさを︒見るさへ心消て行

︒下部が足もよはり果︒始

て涙師直も共に袖をぞしぼりける︒

一 地色中

間に聞て伊 色賀

守︒ヤ 詞ア〳〵佐中︒汝がかくごを感心有

︒女房は助けよと改めて御諚也︒然らば心は残らぬ所︒女 地を やらば未練の基︒我に任せとつゝとより小腕取

て︵四十三ウ︶もき放し︒しつかととらへて   色動せず︒サ 詞ア〳〵師直︒じ やまはこつちへ引たくる︒いざ帰られよいざさらばと︒互 地色に礼儀こなたは欺き︒我身も共にとさけべ共︒其かひさらにあら 男飛がごとくに行

過る︒

今 地色は影さへ泣

しづみ︒さかのぼる気を押しづめ︒渕辺がゆだんの刀を   色抜取

︒はつしとうてばかいくゞり︒驚く間に身が 色

まへし︒大 詞事の夫の命のきは︒見届いでなんとせふ︒   留 地達せば切

捨と︒太刀ひらめかし行んとす︒さしつたりと抜放し 先

にすゝむけらいが刀︒腕諸共打 色おとせば︒ソリヤ切たはとさはぐ内︒其太刀取て二刀のはやわざ︒思ひ切

たる勢ひに︒

渕辺が打

を左

に受︒けらいは右

に打合せ︒   刃は一度に︵四十四オ︶氷柱のごとく︒打ば開きかくればなぐり︒心を賦 つて切

合しは危かりける〽 三重次第也︒

女 地色ながらも念力に︒多勢をくだく太刀の風四方へばつとおつちらし   暫く息をぞつぎゐたる︒

か 地色中くと見るより伊賀

守 色︒ヤ 詞アけらい共︒女が働き手ひどき故切

結んだはせふことなく︒   地生捕にしてとゞめよと仰を受て こりもせず︒命の突棒乳切木取

︒おつ取

をこと共せず︒弓手に切

付妻手になぎ︒左右の刃きらめきて流星電光め

(11)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一六

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一七

つた切

︒手負手疵は数しれず︒打はらはれてたまりかね皆ちり〴〵に逃去たり︒

も 地色はや追手の人もなく心安しと胸押しづ 色め︒夫 詞の敵は高の師直︒イ 地テ追︵四十四ウ︶付んとかけ出しが︒はや程遠く隔れ

ば︒急ぐとすれどかひあらじ︒おくへかけ込直義に︒いとしい夫の命乞直に頼んでともかくもと︒かけ戻りしがイヽヤイヤ︒

女 詞はかゝる狼籍者とよもやそばへはよせ付

じ︒只 地師直に追付て︒夫をうばふか敵を取

か︒二つに一つと心を定

︒女心 も中々に弱を己が力足︒どう︒〳〵︒どう〳〵〳〵とふみしめ︒ふみ付

ふみかため︒雪 地の足なみかけ出る︒   形は一身 刃は二刀︒ふうふの玉しひ行

合ば︒取

かへさいでおくべきか︒夫をかへせつまもどせと︒涙もかみもはら〳〵〳〵腹 立やうらめしと︒一念一心一

すぢにとぶがごとくにおつかくる心の︒うちぞいさぎよき︵四十五オ︶

        第三 名 地中も清き水のまに〳〵︒尋れば︒   中滝の音羽の山桜︒霞のごとく雲に似て︒世に咲

花の有

故に︒都も鄙もおしなへて人 の心ぞ長閑なる︒詠めは広く︒春の幕︒打 中むれ出る袖の音︒中に   匂ひも目も留るやんごとなき女臈は︒   塩冶判官高貞の妻︒

よ   御前の立 中

姿︒柳が枝の花盛

︒一木〳〵にやすらへば︒桜も恥るふぜい也︒

花 地色中に心をつき〴〵の女中方に打向 色ひ︒   詞連合

塩冶殿は奥の院へ御参詣︒自

にも山路をひろへと︒す 地ゝめられての桜がり︒

も盛

も︵四十五ウ︶   散しほも︒恋の思ひになぞらへし花の姿のやさしやと︒目もはなれず見給へば︒三筋の滝のいと しげく行 小

つ〽戻りつ身を砕︒是ぞ女の占ひさん和らかな身の荒行は︒人目にとまる   染浴衣︒ひた〳〵ひつたり打れ

てぞ︒玉ちる計いた〳〵し︒

(12)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一六

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一七

矢 地色中立    

の筆に   樒のは︒かくとしらせる声高 色々︒サ 詞ア〳〵奇妙の女占方︒法花経を樒に書写し︒八巻を八卦になぞらへ︒

廿八品は星にたとへ︒毎日毎朝三十三度︒観 地音さまの滝に打れ︒ひいやりとした功を積︒水鏡より見通しの︒占ひさんと ふれありく︒

地色中よ御前は聞

よりも︒ナフ珍らしい女占方︒皆の身の上思ふこと︒占はせ慰んこゝへ〳〵と︵四十六オ︶

召る 中れば︒アイトこたへて占ひさん︒来る間程なく腰元衆︒サアわたしからおれからと︒せりあふ先へ小笹がさ 色し出︒わ 詞し が生れは子の年七つ違ひの殿御とは︒ち 地中いさい時から云

名付︒   宮仕のお暇うけ︒めうとに成ての吉凶を︒よう占ふて下 さ 色んせ︒ハ 詞ツア是はむつかしい︒子の年は鼠也七ツちがひは午の年︒馬 地中と鼠の相性はどふ考てもなんぎ物︒よしになさ れと占へば︒そばに待兼衣手が︒わ   しや云

名付はござんせぬ︒どんな殿御に相性を手の筋で見て下 色さんせ︒ヲ 詞ヽ尋常な つまはづれ︒手の筋はマア百握り︒握 地中つた印

が有

からは   忍んで殿御が有

筈と︒口に出次第いひ次第︒︵四十六ウ︶あふ たがふしぎ腰元衆︒皆々かんじ入

にける︒

地色中よも近く立より給 色   ひ︒自 詞

は我身より連合

の御身の上︒密に占ひとふこと有

︒皆 地中の衆はしばしの間子安  の塔から   朝倉 堂︒奥の院へも参つておじや︒塩冶殿の御尋あらば︒しらせてたもと仰に任せ︒花見がてらに女中方皆打〽つれて出て行

地色よはしたふ忍び夫占はせんの下心︒女も今は何とやら様子有

げに見廻して︒

よ御前のそ 色ばへより︒塩 詞冶様はしらね共 お前のことは見へすきます︒御存

のない一大事︒真実を申

ましよ︒マアこな様は酉の年︒しかも年弱師走の廿五日生れ︒

幼名はしのゝめ様︒元大納言のお子とは︵四十七オ︶偽り︒ほんぼんの親達もわしばつかりは知てゐると︒聞 地

にあやし き詞の先

︒コ 詞レまちや〳〵︒しのゝめと云前の名︒生れ日迄よう知て︒通兼様の子でないとは︒ハツア思ひ当ることも有

(13)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一八

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一九

禁庭より自

を塩冶殿へ賜る時︒右大臣具親公

よ姫は誰共知ぬ︒賤しい者にもらひし子と︒讒奏ありしことも有

︒そん

なこと迄見通しとは︒余  りふしぎで恐ろしい︒と 地はいへ外に真実の親達が有ことか︒しらせてたもとの給 中へば︒ナフ親達の なき故に︒独

便りもなき身の上︒侍従と云て外ならぬ︒血を分しそなたの姉と︒いふに

よは驚け共︒イヤいぶかしと 心を   中静め︒ヤ 詞イこゝな慮外者︒慥な︵四十七ウ︶せうこもあらずして︒   地麁相をいはゞゆるさぬと︒詞はつよくさし足に︒尋

ね給ふぞことはりなる︒

侍 地色中従は涙をうかへしが︒いかにも合点のいかぬはこ 色とはり︒そ 詞なたやわしが親と云︒代々勅勘の家筋︒和気の伴良といひ し人︒庸医者と成

果自

が三

の時︒大納言通兼卿の御台様か小産なされ︒取

かへ子を尋る折から︒そもじが生れし初声 を御けらい衆が表に聞付

︒大納言へもらはせ給ひ︒其時はしのゝめなれば直に名に付

給ふぞと︒母様の御教︒た 地中とへ めぐりあふとても︒兄弟のなのりは無用去ながら︒もし一大事有 色

ならば︒和 詞気の家の大事の秘法︒一生疱瘡せぬ︵四十八 オ︶守を妹が肌にそへたればそれをせうこに名乗あへと︒わらはにも賜りて肌を放さぬ此守

︒覚 地中はないかといふ内も思 ひあたれば

よ姫︒肌の守

を取 中

出し︒共にくらぶる裏書は伴良と有

筆のあと︒見合せ見合す目に涙︒ナフ姉様か︒妹か と︒互に手を取

つゐつ︒顔改めて詠め合

︒人めをつゝみ声かくす︒涙の雨は兄弟の 中︒縁のつなをや伝ふらん︒

塩 地色冶判官高貞は思ふ子細の有

故に︒おくの院にけらいを残し︒出くる道にかくと見て︒コハ心へずとさしひかへ︒幕の内

にぞ窺ひゐる︒

地色よは礼義の襟つ 色くろひ︒   姉 詞様よう名乗

て下さんした︒水子の時に別れたる父和気の伴良︵四十八ウ︶さま︒母様共に

(14)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一八

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一一九

お顔もしらず︒お果なされしことならばお前が直に親同前︒今の咄

に気がゝりは︒一大事有

時に名乗

するとは気遣はし︒

我 地中身に叶ふことならば共になんぎを救いたし︒聞させ給へと︒   問 色ければ︒ヲ 詞頼もしい忝い︒此侍従が七

の比︒父和気の伴 良様︒夜中に療治の帰るさ︒大納言通兼卿のけらい︒近藤太郎と云若侍︒父上を討て立

のき︒う 地中き年月を重ねつゝ︒去年 の春   佐中と云人を   夫に持

︒其後母様もお果なされ︒夫

を便りにして敵を討んと思 色ひしに︒此 詞比何のとが共しれず︒

夫の佐中を師直がからめ取

︒首を打とのこと故にさま〴〵と命乞︒ナフ思ひもよらぬ師直が︵四十九オ︶願ひ︒塩冶が妻 の

よ姫に日比心をかけし故︒文を以てくどきしに小夜衣と計の返事︒其方

よに近付

うばふて来るかさもなくば︒なび くと云返事を見せよ︒佐 地中中が命   助んと聞

よりハツト思ひしが︒母様の   遺言を思ひ出し︒姿を窶してけふの対面︒同道す るは叶はぬこと︒心に染ずと嬉しがるつい一筆が千万 中銀︒命を求る宝ぞや︒

有 地色中

まじきことながら聞訳てたべ

よ姫︒夫の命を助けてと頼 中む︒心のわりなさよ︒

地色中よはいかが思ひけんつゝと立てコレ姉 色様︒重 詞ねて別に御対面︒マアけふはおさらばと︒言 地すて行

所を走りかゝつて引 色

とゞめ︒頼 詞むことには返事もなく︒ふり切

︵四十九ウ︶て行

そなたの心︒塩冶様へ義理立ねば︒文かくことはせぬ気じ やの︒ヲヽ道理〳〵みんな此侍従が無理︒夫にさへ今迄も妹有とはいはざりしに︒よ 地しなき今の名乗ごと︒   誤りました頼 むまい︒妹さらばといふよりはやく守刀を抜放しじがいと見へしを取

す 色がり︒な 詞ふ姉様待てたべたつた一言云

わけをと︒

い 地へ共いとゞかくごの詞︒夫の為とは云

ながら悪きを呵姉が身で︒邪頼む面 色目なさ︒と 詞はいへ此恋叶はねば夫は忽

殺 さるゝ︒生 地て   かひなき我命はなして殺してたもいのと︒   既に突込九寸五分︒悲しや待

てと猶す 色がり︒必 詞死

で下さんすな︒

(15)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二〇

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二一

︵五十オ︶程文をかきませふヤアそれは真実か︒なんの偽りいひましよと︒聞 地て心の蘇り︒ナフ嬉しや

中よ姫︒   姉が

詞を立

給ふは敵を討

便りと云

︒夫婦の者が命の親︒コレ手を合す妹と悦ぶふぜいを見るよりも︒

よは涙にむ 色せびしが︒

誠の 詞    親を知たるは姉様のお影故︒いなといはれぬ恋の文塩冶殿へは云

わけして︒ともかくも成べきが︒真 地中実契りをかは したる夫は外にと云

残す︒詞の内に驚く侍従︒何外に夫とは大それたこと計 色︒ソリヤまあどふじや妹と︒さすが血筋の誠 より気遣

はれず問かくる︒

今 地色中は何をかつ 色ゝむべき︒三 詞年以前五節の舞の退の折から︒衛士の︵五十ウ︶源次郎康綱と云人に︒忍ひあふて契りをかは し︒其後密に尋ねても康綱殿の行衛はしれず︒い 地中とゞ思ひの夜はもゑ︒   昼は消つゝ恋しきに︒勅定はぜひもなく︒塩冶 殿の妻と成

︒心の内を打明

し今に一夜の枕もか 色はさず︒ナ 詞フおとゝひのくれかた︒庭の林へ師直が文を投込︒返しをせ ずば塩冶殿のお為にならぬ文体故︒小夜衣と返事せしは︒康綱と云夫ならで︒   地中夫は重ねぬ下心︒思ひまはせば塩冶殿へそら 恐ろしく恥か 中しき︒とても我身はながらへてせんなき命︒せめて姉様御ふうふの命を救ひ参らせんと︒心にあらぬなびきの 文︒いかで   貞女のたゝう紙︒︵五十一オ︶胸にやたての筆取 中

て︒手はふるへ共うるはしく︒君に随ふ玉章の魂

こゝにきゆ れ共︒嬉しく思ひ参らせとかく我ながら恨しや︒あふ夜

とは悲しきに︒め 上でたくかしくと筆にさへ︒羊のあゆみ書 とゞめ︒物をもいはず前に置

︒またゝきもせず身ぶるひし︒泣

顔かくせど目の内を︒めぐる涙の潮さして︒   鳴戸の渦の

ごとく也︒

姉 地色中は悦び又気

毒︒妹の心思ひやり文を手にさへ取

かねて︒兄弟共にかこち泣

さしうつむきし折からに︒山 地色風さつと   吹来

(16)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二〇

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二一

り︒桜まじりに恋の文︒ハツトちるとは露しらず︒正体涙にくれける所へ︒腰元小笹立 色帰り︒ハ 詞ア是にござります︒奥の院

へ参りても︒塩︵五十一ウ︶冶様は見へませず︒ちやつとお出なされませ︒イヤ〳〵そんなら宿坊でお宴︒自

もそこへ いこ︒そなた衆はまあ先へ︒早 地ふ〳〵と腰元を見送りかへしナフ姉 中様︒今の文にて御なんぎを一時もはやふ御救ひ︒さらば といへば侍従は引 色留︒   詞麁相な今の文はいの︒ハアテお前が持てゝあろ︒何

の隠そふ取

はせぬ︒お前もしらずか︒そこに もないか︒是 地中はとうろたへあたりを尋ね︒互に探る袖袂︒姉はびつくり妹はあきれ︒只立

さはぐ計也︒

幕 地色の   内成

塩冶判官︒しづ〳〵と立出れば︒ハツト

よが驚く体︒姉もそれぞと気味わるく︒二人は疵持

足よりも︒手持

ぶさたに見へにける︒

地よ御前はゑ 色しやくして︒扨 詞

もいつの︵五十二オ︶まに爰へお出︒奥の院にも見へませず︒今もお噂申

たが︒何 地ンにも 聞はなされぬかと︒じつと目色を窺へば︒塩冶は顔をねじ廻 色し︒   詞連そふ夫の塩冶判官︒いづくに有

共しらずして︒花見 の人の多き中︒あやしき女とつぶやきさゝやき︒桜花には目もやらず︒無風雅無骨の女やとそちが恥辱は夫の恥︒必 地塩冶が 名をよ 色ごすな︒   詞最前より風にふかれて詠

し所︒あら心なの山風や︒ハ 地レあはてたる気色やと︒心を配る眼ざし︒座したる

ふぜい只ならず︒

姉 地色も妹もひや〳〵と︒気遣

はれぬ大事の場︒

よは頓而き 色げん取

︒ほ 詞んにそれ〳〵︒お呵は御尤︒あの占ひが面白さに︒ こゝへお出のことさへしらず︒︵五十二ウ︶我 地中身ながらも気の付ぬ是なとめせと裲襠を︒   脱間も胸はときめきて︒心後に立

廻り︒姉と見合す顔の色︒赤地の小袖きせかくれば︒急度見上る夫の顔︒目のすはる程兄弟がふるひ出すこそせうしなれ︒

(17)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二二

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二三

コ 詞リヤなんじや︒あく迄着たる花見の小袖︒風は吹

共塩冶は動ぜぬ︒さなきだに重きが上の小夜衣︒我夫ならぬ夫な重ね

そ︒必 地中夫は重ねそと聞て

よが胸は板︒なむ三宝と思ひしが︒元来かくごと心を定め︒夫の前に立

な 中をり︒よ 詞めりしてよ り三とせの間︒卒に一日御きげんのそこねしこともなかりしに︒けふ御立腹の詞のはし︒扨は様子を御存

じやの︒   地責て一 ごん云

をと︒︵五十三オ︶いふをいはせずねぢふせて︒打

かけかなぐりしなへ打

︒姉 色は見かねて暫くと︒よるを一 所にたゝきふせ︒

よ御前をハ 色ツタとねめ付

︒云 詞

わけとはなんのこと︒三

日以前某が物陰にてみる共しらず︒筆慰みに 書

し小夜衣の五文字か︒それは塩冶より外に夫は重ねぬと云かへ詞︒しれたことをいひちらし︒夫の一ぶん捨さする︒

イヤサ心にとふてみよ︒禁庭より賜りし夜のむつごとに馴そめて︒並大抵のふうふでない︒一たん己

が思ひ込し︒夫の外 に不義有ては︒日比の情が皆むだこと︒心を引

てみん為に︒けふ伴ひし花見の場所︒俗姓は誰

にもせよ︒賤しき女の占 ひさん︒此判官がきらひ物︒︵五十三ウ︶何 地か様子はしらね共長物語

のふぜいをみて︒ぞつこんあいそが尽果 色たり︒三 詞年 そふての上なれば勅定も背かぬ道理︒向後夫婦の縁切

た︒占方共に立て行

と︒引 地

突はなせば︒   二人は嬉しく心へ ず︒夜明

にくもるこゝちして︒

よの前は又立 色より︒其 詞お詞は聞所︒占

算が嫌ひとは今迄ついに聞ぬこと︒様子を知て のお暇ならば︒夫の情と思へ共︒外に見落し疑ひあらば︒云 地

訳せねば義理立ず︒誠のとがをきゝませふと︒せりかけら れて判官 中は子細をとつくと知

ながら︒それぞといへば武士立ず︒猶予の体をサア〳〵と︒問詰られて 色サアそれは︒最 詞前吹 たる大風故︒テモ扨も無︵五十四オ︶理計︒風の吹たがなんでとが︒イヤテいはせぬよつく聞

︒風は百病の長といへり︒

風にあたつて窺ふ某︒汝等が咄

の風も︒五体に入て心を病︒今更着せる小夜衣︒そでに思ふは常のこと︒年来さりたい

(18)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二二

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二三

〳〵と︒思ふ矢壷の山風は︒夫婦の中をあらしのとが︒二世の機縁を吹

て占ひさんに渡すからは︒此塩冶にはかまひ

なし︒い 地色づくへ成

とも中人して︒慥にほうびをもらはずば︒両人が身は立 色

まい︒其 詞後は己

等が心の内に有ふこと︒合点 がいたか呑込

ぬか︒馬のみゝに風なり共︒よく聞分

て同道せよ︒そち達が身の上を︒吹て廻りし風うけて︒是がさらず にゐらりやうか︒去

とてはよいさり時︒不届

︵五十四ウ︶至極の女原︒立 地

てうせふと云

はなす︒詞にふくむ   無量の

情兄弟今こそ心を悟︒お礼は儘ぬ有がたさ︒枕かはさぬ縁ながら︒別れになれば涙の

よ︒姉も御おんは忘れじと共に打

連もふおさらば︒さらばと行

を呼かへし︒   詞幕の内にて認め置

たる去状と︒   開 地きながらに打付

られ︒兄弟見るより驚 色き 顔︒ヤ 詞ア是は最前尋ねし文と︒いはんとするをヤレ︒其状よむと命がない︒しらべかへせば我恥辱︒風の吹込

幕の内︒ち らし書

其去状︒己

が手に納なば︒いづれの夫にあはふ共︒心の内がさつはりせん︒早く同道ゆけ〳〵と︒心 地の内の

暇乞

よはハツト押いたゞき︒姉諸共にふし︵五十五オ︶拝みなごりの外のなごりをおしみ︒今迄義理の夫婦中︒縁を桜

の花の雪嬉 上し涙 中のみぞれしてしほれ︒別れて

三重

〽出て行︒

心 地をば糸につないで其中に︒言とかきし恋の字を忘れかねたる︒横恋 中慕︒   高

武蔵

守師直︒塩冶が妻を恋したひ忍ぶ思ひ のほに出る︒いなやの返事かた思ひいかで結ぶの上やしき︒侍従遅しと未明より︒心を砕計也︒俄に 地   案内云

入る︒お使 者の声は主人直義の名代   渕辺伊賀

守   中景忠︒   執権といひ御前よし   虚病もならず師直は︒ぜひなく表に︒出向 色ふ︒相 詞役なが

ら使者の法︒御免と断上座に座し︒此度主君直義大望の︵五十五ウ︶おぼし立︒軍勢の催促近々に有べき所︒西国北国の

大名︒大半みかたに付

んと貴殿の請合︒それ故思はず延引︒然るに十日余り出

仕もなく︒有無の返答なきによつて︒某

(19)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二四

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二五

に参り承はつて来れとの御意︒いかゞ召されしと尋ぬれば︒師直謹而︒先以お使者の役御太儀千万︒扨仰付られし味方の

大名︒山名薬師寺桃

井大平︒かれ是大名十人余り︒みかたに招き候へ共︒心がゝりは塩冶判官︒西国のおさへとして在京︒

某方便を以て大かたは手に入

たれ共︒けふのあすのと申

連判を滞る︒今五七日も御待候はゞ吉左右を申

上ん︒宜敷 御さたとあし︵五十六オ︶らへば︒伊賀

守横手を打

︒重畳〳〵天晴の働き︒しかしこゝに一大事あり︒主君直義︒将 軍職の綸旨なくては朝敵とよばれ︒ぐんぜい催促思ひもよらず︒此綸旨は︒右大臣具親公と密々 〳〵の御契約︒かの塩冶が女房

よさへ渡せば︒早速願ひ叶へ共心に任せず︒それ故今日不意に押よせ︒無体にうばおふと云も有

︒いや〳〵密にと云 も有

︒取

しめもなき評議まち〳〵︒貴殿のしあんはどふがよかろふ︒心底を聞されよと︒思 地ひ有

身に尋られ︒師直ほつ と溜息つ 色き︒さ 詞れば其義はどふがな︒サアそれは︒な 地色中んと〳〵と詰かけられ︒ハツト計にさしうつふき︒と 中かふ︵五十六

ウ︶返事もなかりける︒

伊 地賀

守腹を立 色

︒か 詞程のことにさへ当惑する師直︒一大事の相談には思ひもよらず︒あつたら足をついやして分別をかり にきた︒近比心外〳〵と︒立 地てかへるを師直驚き︒やれ待

給へ渕 色辺殿︒しあん有

とよびかけられ︒   元よりちゑの才覚に きかゝつたる不足者︒どふじや〳〵と立

もどる︒さし当つたる師直が︒詞で廻す一寸の 色ばし︒ナ 詞フ幸

︒某がけらい榎 原藤内︒

よ姫が

としたしき中︒花見遊山をすゝめさせ︒そびき出してひつたくるが上分別︒万一押しよせてうばひと らば︒都のさうどう天子へ恐れ︒忍びを入

るは猶あぶなし︒右 地色のしあんは︵五十七オ︶いかゞぞと︒口をむしればげ 色に尤︒

し 詞かし気ばやき主人︒まどろしきなどゝおしかりは有

まいか︒サアそこは貴殿の取りなし︒今の世の御出

頭︒は 地からひ

(20)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二四

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二五

給へとのせられて︒い 詞かさま某︒鹿をみせ馬と申さば馬に成

︒牛にはならぬもうお暇︒はやお帰りか首尾宜敷

︒お使者

御苦労︒ご 地色くどうと︒口と心の二

ことを︒胸にこめたるけんつるぎ︒身うちは針の伊賀

守︒立

わかれてぞ帰りける︒

跡 地色には師直心も空に表を詠め︒去

にても此侍従きのふ過

てけふの約束︒もし道にてうばはれはせぬか︒卯の刻よりおつ 立

し使

も帰 中らず︒   刻限ははや五

かしの恋路や情なき世の中やと︒︵五十七ウ︶時にとつては小ばらも辰の上刻過 中

︒ 待

に待

たる折からに︒   榎原藤内立 色帰り︒仰 詞に任せ侍従を迎ひに参りし所︒

よ御前と打つれしを河原面

に出合し︒両人 共に乗物にのせ︒只今是へといふにぞく〴〵︒年月の物思ひ今日はらすはいか成

日ぞ︒ま 地れ人への饗応に名香の用意〳〵 と云渡し︒ゑりつくろひて︒待ゐたり︒いざこなたへと聞

さへも︒   中憂にほそりし

よ姫︒姉の侍従に敬はれ︒心ぐるし き身の上にし 長地たふ夫はいづく共行衛なぎさの捨小船かひなき命な 中がらへて︒姉のなんぎを救はんと︒しほ〳〵として︒あゆ

みくる︒

侍 地色従がかくとしらす 中れば︒心 地色ときめき師︵五十八オ︶直は︒

よ御前を見るよりも︒大の眼をまぶたでおさへ︒見 詞初し日よ りいつかはと︒恋の瀬戸ぎはこぎぬけて︒今なびきよる湊入

︒侍従が楫の取

さばき︒天晴できた〳〵︒

よの返事に︒

小夜衣とかゝれしは︒夜の物を改めて拵へ置

とのことならんと︒薫衣香を燻しめて︒待設たる心ざし︒にくふはあら じコレ君と︒坂 地東声を無体にほそめ︒恋に心の師直が︒ぬれかくるこそ見ぐるしき︒

地色中よ御前はうたてさを   包むゑがほにゑし 中やくして︒お 詞心ざしが嬉しさに︒塩冶殿と縁を切

外に頼まんかたもなし︒文 地中の詞 に違ひなう二世迄そふて給はれと︒口にはいへど心には︒しぬるかくごを︵五十八ウ︶押つゝむうき身の︒程こそせつな 中け

(21)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二六

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二七

れ︒師 地色直聞より五体をちゞめ︒さりとは身節がとけて行

イザしつほりと奥の間で︒サア来給へと手を取

て︒行んとするを侍

従は引

とめ︒き 詞つしくなことながらこつちにも待兼る︒約束の佐中殿引かへにして下さんせ︒   地誠にそれよとざしきに向 ひ︒ヤ 詞ア〳〵和気の佐中︒女房が手がらにより命を助くる是へ〳〵と︒よ 地ばれて出る無念さ 中を︒色にも出さずしほ〳〵とさ しうつ︒ふいて立

出る︒侍 地従は見るより走りより︒なふこちの人︒ヤア女 色房︒無事であつたか︒嬉しやまめでござつたか と︒懐

付 上せりかけて 中かたるも︒とふも涙也︒

地中よ姫も︵五十九オ︶外ならず共に悦ぶ其中に︒佐中と顔を見 色合せて︒ヤ 詞ア お前は我つま︒衛士の源次郎殿︒ナ 地フなつかしや恋しやと︒すがり付

ば佐中もび 色つくり︒あきれて立し武蔵

守︒侍従も 真

に︒コレ

色よ殿︒よ 詞いかげんな麁相おつしやれ︒コリヤ和気の佐中とて︒私が為に大事の夫︒さはつても下さんなと︒

い 地はれてクハツト

よ姫︒後先   

思はずせきの 色ぼし︒コ 詞レ姉様︒どんなこといはしやんすな︒コ 自リヤ自

がいとしい男︒衛

士の源次郎康綱殿とて︒五節の夜契りし夫︒さま〴〵のうき思ひも此人にそひたいから︒めつたに傍へよらしやんすな︒ヤ

ア妹︒そんならそなた︵五十九ウ︶の夫も佐中殿か︒お前の殿御も康綱殿︒ハ 地レめんようと兄弟が︒心置

あふ目色の違ひ︒

佐中はほつと   吐 色息つ 中き︒   二人が為に優曇華の花もしぼみしごとく也︒

思 地色ひよらねば師直は︒怒れる眼に三人を︒見廻し〳〵ふしん顔 中︒

よと侍従が兄弟とは心へね共追 色てのせんぎ︒佐 詞中は以前 康綱とて密通の男とな︒今でも心残るやいなや︒返答聞んと詰かくる︒アヽりやうじ有

な暫く〳〵︒成程拙者は︒衛士 の源次郎康綱と申

者︒三年いぜん

よ殿と契りし覚あれ共︒今睦まじき女房を置

︒外に心は残らずと︒聞 地色中

て侍従は落

(22)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二六

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二七

よ︵六十オ︶御前は   色角芽立

イ 詞ヽヤそふはいはせぬ〳〵︒未来迄も夫婦ぞと云

かはした忍び寝︒今更心残らぬとは︒

ソリヤひきやうな未練なと︒よ 地らんとするを︒突飛し 色   ︒武 詞蔵

守の御

前にで麁忽成

ことながら︒此源次郎康綱を︒さ程に したふ心あらば︒なぜ此屋敷へ来られしぞ︒眼前しれたる不義の徒︒此云

訳はさあなんとゝ︒詰よせられてちつ共さ 中は がず︒其 詞疑ひは御尤︒かふ成

からは何もかも打明す︒もと自

は︒和氣の伴良と云医者の娘︒わらの上より大なごん通 兼様にもらはれし︒慥なせうこ有

故に︒姉様と兄弟の名乗

︒其 地中上で佐中殿を助けたし︒師直殿へいて︵六十ウ︶たも とのつひきならぬお 色頼み故︒わ 詞しやじがいするかくごして︒此屋敷へ参りしぞや︒塩冶殿に枕をかはさず︒こなたへ心中を 立

ぬいて︒心を尽せし自

に情らしい詞もなく︒姉様を女房とはお前の為には   色小姑︒勿体ないとはおぼさずや︒どうよ くな康綱殿︒うらめしの我夫 上やと︒   畳をたゝき気をもみ上

︒あつき涙や玉の汗︒   湯あがりを見るごとくにて︒泣

さけぶ

こそわりなけれ︒

聞 地

に師直腹にすへかね︒両 中人を討

にと刀の柄に手をかけしが︒思ひなをしてさあらぬ体 色︒ヤ 詞ア康綱︒

よに心残らずは︒

某に随ふやう汝とくと云

ふくめ︒もし違背せば首打

て見せよ︒未練の働き︵六十一オ︶致しなば︒三人共に命の極め︒

な 地んと〳〵と云

られ︒心にそまねどハツト領掌請あふてい︒師直指ぞへ   色投出し︒そ 地れにて打

と云

渡しにらみ〽付

てぞ入

にける︒

康 地色中綱いとゞ   十方にくれ︒どうど座してもくねんと︒しあんの内も侍従はせ 色き立

︒コ 詞レナフしあん所じやない︒

よの心は あの通り︒かた時もこゝにはゐられぬ︒サ 地色中アござんせとすゝむるを︒

よ御前は引と 色ゞめ︒ヱ 詞ヽ心づよい姉様︒こな様のお

(23)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二八

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二九

頼み故此屋敷へ入り込しに︒わ 地しひとりを残し置

立のこふとはどうよくと︒恨歎けば姉も気 中

毒︒さふいやれば尤ながら︒

こゝへそなたを入

こまし︒佐中殿さへ助けなば︒こよひの内に夫婦して︒   盗出す約束も︒︵六十一ウ︶かう成

下ればぜ ひが 中ない︒此上にも相談は佐中殿を姉がいに︒わしへ   譲つてた 色もらぬか︒イ 詞ヤ〳〵思ひもよらぬこと︒譲る物も多からふに︒

男をなんの譲りましよ︒命を捨てきたからは姉がいは立

ました︒こ 地中つちがせんの約束なれば︒康綱殿はもらひます︒それ 共にいやならば夫にはかへられぬ︒姉様命が有

まいと︒おどしの懐剣ぬき放せば︒姉も用意の刃を   色抜︒ヲ 詞ヽ面白いよふ いふた︒妹ひくな︒姉様やらぬと︒よ 地らんとするを康綱が︒引はなつては 色つたとねめ付

︒兄 詞弟が真実の親︒和氣の伴良を 討

たるは︒近藤太郎春久とや︒親の敵を持

ながら︒犬死をするうろたへ者︒︵六十二オ︶

よ御前は勿論︒侍従夫婦の縁 切ふか︒サア〳〵なんとゝきめ付

られ︒ハ 地色ットしほれし有さまを︒見るに夫が心もたゆみ︒夫婦兄弟身を恨み︒ならぶ因 果の三つ鉄輪︒   上離れぬ縁をかこち泣

共 中に︒涙を催せり︒門 地色

前にあはたゝ敷

白砂蹴立て   鎧武者︒息をはかりにか 色け来り︒

伊 詞賀

守が郎等に高沢次郎照宗︒師直公に御意得たしと︒声 地の内より武蔵

守何ごと成

ぞとか 色け出る︒さ 詞ん候主人景忠︒最 前是へ参りし跡︒直義朝臣の御謀ひ︒塩冶判官むほんのよし︒讒奏首尾能

事調ひ︒塩冶が屋敷へ押よせ給ひ︒俄の戦ひ みかたの勝利︒塩冶は雲州へ落たり︵六十二ウ︶共︒又討死共実否はしれず︒それ故主人も鎧投かけ軍場へ罷越

︒貴公内 談ありしこと申

上るいとまなし︒此旨おしらせ申せよと某をこされたり︒は 地やおいとまと云

捨て︒いつさんにこそ走り 行

︒聞 地色中て驚く其中に康綱は身繕ひ︒かけ出す夫に付

兄弟︒師直見るよりヤアま 色て〳〵︒腰 詞ぬけの公家侍

申付

たる返

事もなく︒逃ればとて逃さふかとゞまれやつとぞ声かけたり︒イヤ逃るとは麁忽の詞︒是より直に禁庭へ案内し︒塩冶判官

(24)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二八

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一二九

謀反とは直義が讒言と︒ありのまゝに申

上此源次郎康綱が︒再天子へ仕をなす︒云 地

ぶん有

やといふにおど︵六十三

オ︶ろき怒の   色面色︒ヤ 詞ア恩しらずの人

外め︒とくに殺す奴なれ共︒情を以て助けしに︒主君直義の悪逆奏問せんとは︒

訴人のほうびに官禄を望むか︒さすがは庸医者衛士ぐらゐに似よつた根性︒鳥獣はゑばにかゝり︒下男は欲に命をはたす︒

い 地で師直がだんびら物︒ほうびにくれんと抜はなす︒康綱すかさず飛 色すさり︒一 詞たんの恩あればこそおんびんでかへる某︒

其悪口を聞

からは遁さぬかくごと切

かくる︒さ 地しつたりと受ながし︒上段下段の太刀音刀音︒二人の女はくはいけん抜 持

︒師直めがけて心はやたけ︒日本

不双の高

師 色直︒ゐせい眼力めいよの   勇士︒︵六十三ウ︶   此方も名にあふ手だれの上手︒

しばしたゝかふ其内に︒康綱が太刀打

おとさ 中れ︒たゞよふ所を武蔵

守︒あばらをはつしと切

たり︒

二 地色人の女ははつと驚き︒其場を引

なとかけ隔て︒男まさりの九寸五分︒刃むかひよるを康綱声 色かけ︒ヤ 詞レ両人あやうし 〳〵︒多勢の出合ぬさき此場をはやく立

のけ〳〵︒いや〳〵お手疵がふかいを︒見 地捨ていづくへ行

ものぞ︒師直やらぬ と詰かくる︒武蔵

守ゑ 色せ笑ひ︒下 詞郎は億病を先

だて︒勇者は計を恐るゝといふ︒文武に名を得し高

師直︒女 地

どに眼はかけず︒家来共を恐れず共︒心静に︵六十四オ︶なごりをおしみ︒くたばれやつとぞ大やうなる︒

康 地色中綱たまらずよろぼひ指 色より︒ヤ 詞アすいさん成

過言︒是

主有

女をうばひ︒主の悪事を諫もせず︒文武に名を得しとは かた腹いたき長ぼゑ︒誠某を庸医者衛士とおもふか︒塩冶判官高貞が弟︒四郎左衛門

尉高則と云者︒せめて己

が首を取

︒ 兄塩冶が恨をはらさんと思ひしに︒   仕 地そんじたか無念やと︒歯をくひしばり身をふるひ︒五たいを膝にておし出し〳〵︒に らみ付

たる目の内に涙を︒うかめいかるにぞ︒二 地色中人の女は本名を初

て聞て   驚ど︒けはしき場所とさしひかへ︒口をと

(25)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一三〇

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一三一

ぢ︵六十四ウ︶てぞゐたりける︒師 地色直もふしぎの 中思ひ︒何 詞塩冶が弟四郎左衛門とや︒然らば何故医者の風体︒

よ姫と契りしはいかに︒ヲ其いひ分

は女房

へとねぢなをり︒去

比五節の舞有し時︒某部屋住にて見しられぬを幸

︒衛士にまぎれ入

込しに︒是成

ル 陰

よしのゝめと

いひし時︒ふしぎにかりの情︒跡のとがめを恐れ︒衛士の源次郎康綱となのりしは︒当座に出合の作り名︒其後兄塩冶へ

よ姫を下され︒祝言の夜密に聞

ば︒夫有

身と断たて枕をかはさぬ心

底︒此 地家にあつては兄塩冶の為ならずと︒勘当 のたねをこしらへ︒追出されたは︵六十五オ︶三年以前︒それより方々うろたへ︒縁をもとめ侍従が方へ入 色

聟︒

詞よと兄 弟とは夢にもしらず︒秘伝の医書を学び︒多くの病苦を救ひし内︒直義が難病︒きやつ悪人とは思ひもよらず︒   本 地中復させ しは栄花のもと︒出世のたねと思ひあるとあられぬ手がら咄し︒我身をはたすとし 色らざりし︒医 詞の道は人を助け︒病苦をす くふを手がらとす︒我 地中は薬料をむさぼつて一味かげんの配剤に︒ごみをにごして世を渡る︒其咎ゆるさぬさじのばち︒兄 塩冶迄亡びしとはよ 上つく兄弟かく迄に︒武運につきし口おしやと︒︵六十五ウ︶いかりてはなき泣

てはいかり︒はらり 〳〵と両眼より︒ながす涙の玉すだれ︒糸をみだきしごとくにてと 中もに︒あはれをもよほせり︒

侍 地色従はとかふなきたをれ︒自

不義の媒もお命が助けたさ︒兄弟かく迄気をくだく︒其かひもなき此すがた︒かなしうな いか妹︒おりやもろ共に死たいとくどきなげゝば

中よ姫︒おろかの仰や我

こそは︒死にきた身のおそなはり︒詞をかは す恥かしや︒   徒でないいひわけに︒死ぬるかくごと取

つるぎ︒ヲ 詞ヽそふじや〳〵︒ながらへて何かせんイサこい妹︒

あ 地ねさまござれと取

て︒︵六十六オ︶さしちがへんとする所を︒師直かけより剣もぎとりつきはなし︒   高則がそばちか

(26)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一三〇

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一三一

くどつかと座してか 色ほ詠め︒貴 詞殿塩冶とは腹がはりの兄弟︒妾宮路が子ならん︒もし母より譲りし物はなきか︒つゝまず

いへととひかくる︒ムウふしぎの尋ね︒塩冶とは子細ある兄弟︒母さいごの時分譲られしかたみ︒肌身もはなさず是にあり︒

尋 地ぬる汝は何ゆへと︒聞て師直ヲヽ其筈〳 色〵︒其 詞かたみといふは釈迦の絵像︒則梁の武帝の筆︒ち 地がひはせまいといふに 驚 色き︒や 詞あら心へず︒其絵像は兄塩冶へもふかく︵六十六ウ︶つゝみ︒かた時はなさぬ秘蔵︒汝 地くはしくしつたるは︒いか 成

故とけ 色でんがほ︒ホ 詞ヽ驚き尤々︒もと汝が母宮路といふは︒某が為には伯母︒父師方の妹︒わかき時分仏法に帰依し︒

其釈迦の絵像幾度か望まれしか共︒もろかた秘蔵してはなされず︒ある夜ぬすみ出し国遠せられし其のち︒あるものゝ語る

に雲州塩冶庄司︒高秋が方に妾奉公︒一子迄もふけしと伝へ聞

︒されども盗賊家出の咎を恐れ︒ふかく忍ぶと聞しゆへ︒

しらぬふりにて中ぜつ︒とはいへ現在お身と某は従弟︒と 地くに名︵六十七オ︶乗らばうちもせまいうたれもせ 中まい︒一家と いひ従弟といひあつたらしき侍

に︒手を負せたる残念と︒初めてながす一

しづく︒侍従

よもうちしほれ︒涙を袖にお しか 中くす︒高 詞則いらつて︒ヤアいよ〳〵のひやうり者︒おのれさ程の縁あらば︒

よをめとりあまつさへ︒直義に塩冶が家

を退転させしはいかに︒さあ此いひわけなんと〳〵︒ヲ汝しらずや︒右大臣具親

よ姫に心をかけ︒うばひ来らば将軍職

の綸旨をなさんと︒主人直義と内談︒そばには侫人伊賀

守すゝめ上る悪逆︒某が諫言も︵六十七ウ︶とゞかず︒とかく 此女をいたづら者にしそれがしが手にいらば︒将 地軍職の望みもかなはず︒おのづから悪ぎやくもや 色む道理︒い 詞かゞはせんと

思ふおりから︒侍従が命ごひ︒仕そんずまじき女と見こみ︒のつひきさせぬ命のかすがひ︒なかだちは仕おほせたれ共︒勇

将短慮の直義︒最前おしよせ︒亡びたること夢にもしらず︒   地夫木集の   撰者たる此師直︒   小夜衣をしらぬといひなしぶ骨の

(27)

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一三二

翻刻   ﹃尊氏将軍二代鑑﹄ ︵中︶

 

一三三

名 中をとり︒末代   記録にとゞまるも天下のため主君の為︒塩冶も仁義の武士と聞

︒四方八方︵六十八オ︶一心

に︒おさめ

たる師直が︒不義一たうにおち入て︒非道のかゞみとなることは︒ま 上りしそんの御ばち共︒弓矢のみやうがにつきし共︒

たとへがたなき身のうへを︒あはれんでたへ高則殿︒二人の女中も胸はらし︒ふびんとおもふて給はれと︒勇気にはやる師

直が︒一鉄なみだ   雷のひやうをふらすがごとくなり︒

侍 地色中従

よもいたはしと思ひながらもことばをそ 色ろへ︒さ 詞程みち有

さふらひが高則殿をよびかけて︒きり付

たは聞へぬ 〳〵︒ヲヽそれも道理︒とくに名乗

給はゞ何しにうたん︒直義公の︵六十八ウ︶御ぜんにて︒医者の有

まじきりやう治

自慢︒又候や一大事を聞︒天子へうつたへんとかけ出す心底︒きやつ下郎にきはまりしと︒見こみしが高則の不運︒おもへ

ば塩冶がほろびたと聞

︒かけ出すに咎はない者︒   地忠義一

へんを思ひ︒はやまつたことした女中︒従弟は遠いやうなれど︒

親とおやとは兄弟の︒中に生るゝ血のすぢは兄弟よりもしたしいと︒い 上ひつたえたるかひもなく︒手にかけたは何ごとぞ︒

ゆるしておくりやれ高則と︒すがりなげゝば一同にワツトばかりになきし 中づむ︒高 詞則涙を︵六十九オ︶おさへ︒仁義忠臣の 武士ともしらず︒ぞんぐはい申せしまつひら〳〵︒御 地心

底聞た上   返弁の物ありと︒彼絵像取

出 色し︒そ 詞れがしたゞ今相果 ればもつてゑきなし︒一つは母が未来のつみ︒うけ取

てとなげ出し︒こりや〳〵両人︒かならず師直殿にうらみはなきぞ︒

親 地のかたきもつたる兄弟︒命まつたふし本望をと 色げよ︒いかさまうすき契りふしぎの縁であつたよな︒師 詞直殿もふおいとま︒

女房さらば︒

よ姫︒み 地らいであをふといふよりはやく︒そば成

かたなおつとつて腹にぐつとつき立る︒︵六十九ウ︶是 はとおどろき兄弟が︒あせれば師直走 色りより︒と 詞ても助からぬとおもひ切腹とは武士の本意︒ハアヽでかされたりみごと

参照

関連したドキュメント

 第ヰ7號家兎血液中ノ鐵量ハ第ヰ6號家兎ト回ジクユ瓦申ノ鐵量ノ減少産ハ僅カナルモ,新

 カカル溶液ノ全量約15ecヲ3−7日二分チテ静脈

二歩ギズ.然ル=組織球ハ屡々語メ(最高0.3%),墨

 印チ本所見チ基ヅケバ「レ」線軍純撮影像二於テ入工

﹂卵性隻胎卜二卵性隻胎トノ鑑別 ︵第一同報告︶

大学は職能人の育成と知の創成を責務とし ている。即ち,教育と研究が大学の両輪であ

[r]

!/ 羨貿hv︑    ︑︑︑職母々  \\  ︑・      ヘへ       !      ︑        −窟亀︑ ノ