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米国連邦公務員個人の損害賠償責任 : 判例法理の 変遷と現状

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(1)

米国連邦公務員個人の損害賠償責任 : 判例法理の 変遷と現状

著者 近藤 卓也

雑誌名 同志社法學

巻 65

号 4

ページ 1115‑1157

発行年 2013‑11‑30

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014592

(2)

(    同志社法学 六五巻四号二〇一

― ―

判例法理の変遷と現状

― ―

近    藤    卓   

 目 章 章  節  節 章  節 Bivens  1 Bell  2 Bivens 節 Bivens

一一一五

(3)

(    同志社法学 六五巻四号二〇二   1 Passman  2 Carlson 節 Bivens  1 Bush  2 Chilicky 節 章  節 Wilkie  1   2  節 Wilkie  1   2 Wilkie  3 Wilkie 節 Wilkie章 

序章 はじめに

 アメリカにおいて、市民が連邦公務員の不法行為によって損害を被った場合、その市民は連邦政府に対して損害賠償請求訴訟を提起することができ、かつ当該公務員に対しても限定的に損害賠償を求めることができる。前者については 一一一六

(4)

(    同志社法学 六五巻四号二〇三 連邦不法行為請求権法(

F ed er al To rt C la im s A ct

、以下FTCAと略記する) 1

が整備されているのに対して、後者については判例法理によって救済手段が形成されている。すなわち連邦最高裁判所は、一九七一年の

B iv en s v . S ix

U nk no w n N am ed A ge nt s o f F ed er al B ur ea u of N ar co tic s

判決 2

において、修正第四条違反にかかる訴訟原因(

ca us e of ac tio n

)を認定して、連邦公務員に対する損害賠償請求訴訟を創造した。同判決以降、このような連邦公務員の憲法的不法行為(

co ns tit ut io na l t or t

)に対する損害賠償請求訴訟が、いわゆる

B iv en s

型訴訟(

B iv en s a ct io n

)3

として確立された。

B iv en s

型訴訟の法理は、その生成から四〇年以上が経過した現在においても、判例上相当数の事案で争われるとともに、それに伴って学説上も多様な見解が提示されており、依然としてアメリカの国家賠償制度における重要性を維持しているものと思われる。 本稿は、このような連邦公務員個人の損害賠償責任にかかる法理が、判例上どのように形成され今日まで変容してきたのかを明らかにし、アメリカの国家賠償制度における

B iv en s

型訴訟の役割を考察することを目的とする。第一章では、アメリカにおける連邦公務員の損害賠償責任法制を概観する。第二章では、

B iv en s

型訴訟はいかなる理論構成をもって、いかなる範囲で認められるのかといった観点から、これまでの連邦最高裁判所における重要判例を考察する。第三章では、二〇〇七年に下された

W ilk ie v . R ob bin s

判決

)4

を中心に、連邦公務員個人の損害賠償責任に関する連邦最高裁判所判例の近時の動向を検討する。同判決は、従前の判例を踏まえたうえで

B iv en s

型訴訟の法理にかかる判断基準を新たに提示した点で、連邦最高裁判所判例の一つの到達点といえるものである。最後に終章では、アメリカの国家賠償制度における

B iv en s

型訴訟の意義を総括する。

一一一七

(5)

(    同志社法学 六五巻四号二〇四

第一章 制度的背景

 アメリカにおける連邦公務員の損害賠償責任法制は、立法上の損害賠償と判例法理による損害賠償が併存していることから、多少複雑な構造を呈している。本章では、本稿の主題たる連邦公務員個人の損害賠償責任に関する判例法理を考察する前提として、連邦公務員の個人責任につき、アメリカにおいては立法上いかなる制度が構築されているかを概観する。

第一節 序 アメリカにおいて、連邦公務員に対する損害賠償請求訴訟を概括的に規定した制定法は存在しない。州公務員に対しては合衆国法典四二巻一九八三条(以下

§ 19 83

と略記する) 5

に基づいて損害賠償請求訴訟を提起することができるが、同条は連邦公務員に対しては適用されない 6

。したがって、(個別法に特別の定めがある場合を別にして)連邦法に基づいて連邦公務員の個人責任を争うことはできない。そこで、連邦公務員の行為が州法上の不法行為に該当する場合に限ってではあるが、州不法行為法によって連邦公務員の損害賠償責任を追及することが考えられる 7

。また連邦公務員の不法行為については、FTCAに基づき連邦政府に対して損害賠償請求訴訟を提起することも可能であるが、同法はいわゆる州法要件(

st at e la w re qu ire m en t

8

を規定しているため、FTCAに基づく損害賠償請求訴訟においても州不法行為法が損害賠償責任の判断基準となる。 しかし、連邦公務員の損害賠償責任を州法によって判断することについては、従来からいくつかの問題点が指摘されてきた。まず、そもそも私人間の関係を規律する州不法行為法は、連邦公務員のみが犯しうるような憲法的不法行為を 一一一八

(6)

(    同志社法学 六五巻四号二〇五 対象としていない。憲法的不法行為を州不法行為法によって争う場合、合衆国憲法違反が州法上の不法行為に該当していなければならず、この点で合衆国憲法の内容を州法に限定することになるが、これは合衆国憲法の性格上許容しがたいものである 9

。また実際上も、次のような齟齬が生じる。第一に、たとえば投票権の剥奪や自白の強要などは州法上の不法行為に該当しないため、これらの憲法的不法行為については州法上救済を求めることはできない ₁₀

。第二に、州法によって保護される権利利益と合衆国憲法によって保護される権利利益は異なるものであるから、仮に州法上の不法行為に該当したとしても、そこでの救済は形式的なものにとどまる可能性がある。たとえば、修正第四条が禁止する不合理な捜索・押収は、州法上は不法侵入(

tr es sp as s

)として扱われるが、この場合には実質的損害がないとして少額な名目的損害賠償(

no m in al da m ag es

)しか認められないであろう ₁₁

。 このように、連邦公務員に対する立法上の損害賠償には少なからず不備があったといえる。そしてこのような欠陥の存在が、判例法理による損害賠償、すなわち

B iv en s

型訴訟の法理を生み出す要因になったと思われる。

第二節 個人責任の原則的排除 連邦公務員に対する立法上の損害賠償については、一九八八年におけるFTCAの改正によって重要な制度改革が行われた。この制度改革は、同年の

W es tfa ll v . E rw in

判決 ₁₂

を契機とする。本件においては、連邦公務員が絶対免責(

ab so lu te im m un ity

)を享受するには、当該行為が職務の範囲内でなされたということに加えて、それが裁量的なものであることが必要であるか否かが争われたが、連邦最高裁判所は全員一致でこれを肯定し、連邦公務員が絶対免責を享受することを否定した原審判決 ₁₃

を支持した ₁₄

。すなわち連邦最高裁判所は、連邦公務員による非裁量的行為の遂行について絶対免責を否定したのである。

一一一九

(7)

(    同志社法学 六五巻四号二〇六

 その判示において

M ar sh all

裁判官による法廷意見は、﹁当裁判所の見解によれば、個々の事案において絶対免責が認められるか否かという複雑かつ相当程度経験的な判断を行うにあたっては、連邦議会が主導的立場にある。州不法行為訴訟における連邦公務員の免責にかかる判断基準の立法化が望まれる﹂ ₁₅

と述べて、州不法行為法に基づく連邦公務員の損害賠償責任について、連邦議会が何らかの立法的措置をとることを要請した。 このような

W es tfa ll

判決に応じるかたちで、一九八八年の第一〇〇議会において連邦議会は、﹁連邦公務員の責任改革と不法行為の賠償に関する法律(

F ed er al E m plo ye es L ia bil ity R ef or m a nd T or t C om pe ns at io n A ct

)﹂ ₁₆

(通称

W es tfa ll

A ct

)を制定し、同法によってFTCAが改正された。第一〇〇議会の議会資料からは、連邦議会が、

W es tfa ll

判決によって連邦公務員の損害賠償責任の範囲が非裁量的行為にまで拡大されたことについて、公務遂行における委縮効果を危惧し、

W es tfa ll A ct

の制定にあたっては同判決以前の状況への回帰を志向していたことが窺える ₁₇

。 改正後のFTCAは、連邦公務員の不法行為が職務の範囲内のものである限り、当該公務員は絶対的に免責されると規定している ₁₈

。また連邦公務員が提訴された場合に、当該公務員が損害発生時に職務の範囲内で行動していたことを司法長官が立証したときには、連邦政府が被告を代替することとなる ₁₉

。したがって

W es tfa ll A ct

による改正の結果、連邦公務員の不法行為については、原則として個人責任が廃止され、連邦政府が排他的に責任を負うこととなった。従前は認められていた州不法行為法に基づく連邦公務員の損害賠償責任が否定されたのである。連邦政府は連邦公務員に比べて広範な抗弁を主張しうるし、またFTCAは多くの適用除外条項を規定しているため ₂₀

、同改正は連邦公務員の不法行為によって損害を被った者にとっては酷なものであるとの指摘もみられる ₂₁

。 ただし改正法は、連邦公務員が合衆国憲法または連邦公務員の個人責任を規定した個別法に違反した場合には、当該公務員は免責されないとも規定している ₂₂

。前者が

B iv en s

型訴訟を意識したものであることは明らかである ₂₃

。したがっ 一一二〇

(8)

(    同志社法学 六五巻四号二〇七 て現在、連邦公務員の不法行為については、原則FTCAに基づいて連邦政府を提訴することとなるが、例外的に合衆国憲法違反または個別法違反については連邦公務員の損害賠償責任を争うことが認められている。後者の例外は専ら個別法の存在如何によることとなるため、連邦公務員の損害賠償責任については

B iv en s

型訴訟の考察が重要となってくる。

第二章 連邦公務員個人の損害賠償責任に関する判例法理の変遷

 連邦公務員個人の損害賠償責任については、これまで多くの連邦最高裁判所判決が下されているが、本章においては、その中でも判例法理の変遷をたどるうえで特に重要と思われるもののみを取りあげて考察する ₂₄

第一節 

B iv en s

型訴訟の法理の生成

1  Bell 判 決

 

B iv en s

型訴訟の前提問題として、連邦裁判所の管轄権問題がある。すなわち、合衆国法典二八巻一三三一条 ₂₅

は﹁連邦地方裁判所は、合衆国の憲法、法律または条約の下で生じたすべての民事訴訟につき、第一審管轄権を有する﹂と規定しているが、連邦公務員の憲法的不法行為に対する損害賠償請求訴訟は合衆国憲法および連邦法のいずれにも明示されていないため、このような訴訟についてそもそも連邦裁判所は管轄権を有するかが問題となる。この点について連邦最高裁判所としてはじめて判断を示したのが、一九四六年の

B ell v. H oo d

判決 ₂₆

である。 一九四二年一二月一八日、連邦捜査局(

F ed er al B ur ea u o f I nv es tig at io n

)の捜査官である被上訴人

H oo d

らは、宗教

一一二一

(9)

(    同志社法学 六五巻四号二〇八

団体

M an kin d U nit ed

の各構成員宅にそれぞれ令状なく立ち入り、家宅捜索のうえ数千点にも上る資料等を押収した後、彼らを逮捕・監禁した。これに対して、団体の創設者であった上訴人

A rth ur B ell

らは、これらの行為は不合理な捜索・押収を禁止した修正第四条およびデュー・プロセスを保障した修正第五条に反するとして、当該捜査官に対して損害賠償請求訴訟を提起した。カリフォルニア州南部地区連邦地方裁判所は管轄権の欠如を理由に

B ell

の請求を斥け、第九巡回区連邦控訴裁判所もこれを支持した ₂₇

。 連邦最高裁判所は、六対二(

Ja ck so n

裁判官は審理不参加)で原審判決を破棄差戻した。

B la ck

裁判官による法廷意見(

R ee d, F ra nk fu rte r, D ou gla s, M ur ph y, R ut le dg e

裁判官が同調)は、﹁被上訴人が修正第四条および修正第五条に違反したとの根拠に直接基づいて損害賠償を請求しているということは、訴状の文面から明らかである。[中略]本件のように、合衆国の憲法または法律の下で直接的に損害賠償を請求するために訴状が執筆されている場合、連邦裁判所は当該訴訟を審理しなければならない﹂ ₂₈

と判示して、管轄権問題に肯定的に回答した。そのうえで法廷意見は、本件においては連邦捜査局の捜査官による修正第四条違反にかかる損害賠償請求について訴訟原因が認められるかという点につき連邦控訴裁判所への差戻しを命じた。このように

B ell

判決は、連邦公務員の憲法的不法行為に対する損害賠償請求訴訟について連邦裁判所は管轄権を有すると判示したうえで、訴訟原因の認定問題を明示的に保留した。その後、差戻審は本件における訴訟原因を否定しており、最終的に

B ell

の請求は斥けられている ₂₉

。 なお、本件には

St on e

首席裁判官および

B ur to n

裁判官連名の反対意見が付されている。両裁判官は、﹁訴状が合衆国の憲法または法律の下で生じた訴訟原因を述べていない限り、地方裁判所は連邦裁判所として管轄権を有しない﹂ ₃₀

と述べて、本件における連邦裁判所の管轄権を否定している。 一一二二

(10)

(    同志社法学 六五巻四号二〇九

2  Bivens 判 決

 

B ell

判決以降、連邦公務員の憲法的不法行為に対する損害賠償請求訴訟にかかる訴訟原因の認定問題については、判例・学説上ともに不明確な状況にあったが ₃₁

B ell

判決から二五年後の

B iv en s

判決において解決に至ることとなる。 一九六五年一一月二六日、連邦麻薬取締局(

F ed er al B ur ea u o f N ar co tic s

)の取締官数名が上訴人

W eb st er B iv en s

の住むアパートに令状なく立ち入り、麻薬犯罪の容疑で家宅捜索をした後に彼を逮捕・連行したが、結局

B iv en s

は無罪であるとして釈放された ₃₂

。そこで

B iv en s

は、当該取締官に対して修正第四条違反に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。ニューヨーク東部地区連邦地方裁判所は本件における訴訟原因を否定して

B iv en s

の請求を斥け、第二巡回区連邦控訴裁判所もこれを支持した ₃₃

。 連邦最高裁判所は、六対三で原審判決を破棄差戻した。まず

B re nn an

裁判官による法廷意見(

D ou gla s, St ew ar t, W hit e, M ar sh all

裁判官が同調)は、以下のように述べて権利救済における裁判所の役割を積極的に解した。﹁修正第四条は、連邦の権限に基づいて実行される不合理な捜索・押収から自由であるという絶対的な権利を合衆国市民に保障している。そして、﹃連邦法上保護された権利が侵害された場合に、裁判所が必要な救済を与えるために法的救済手段を調整するということは、従来からのルールである﹄﹂ ₃₄

、﹁周知のように、修正第四条は同条項違反に基づく金銭的損害賠償の執行を規定していない。しかし、﹃法的権利が侵害され、連邦法がそのような侵害にかかる概括的な訴権[合衆国法典二八巻一三三一条]を規定している場合、連邦裁判所が当該侵害行為を是正するのに利用可能なあらゆる救済を用いることができるということは確立されたことである。﹄﹂ ₃₅

そして法廷意見は、﹁上訴人の訴状は修正第四条における訴訟原因を述べているから、連邦公務員の修正条項違反によって被った損害につき、上訴人は金銭的損害賠償を請求することができる﹂ ₃₆

と結論付けた。以上のように述べて連邦公務員の憲法的不法行為に対する損害賠償請求訴訟にかかる訴

一一二三

(11)

(    同志社法学 六五巻四号二一〇

訟原因を認定したうえで、法廷意見は、当該取締官は公務員の地位ゆえに免責されるかという点につき事案を差戻した ₃₇

。 他方、

B ur ge r

首席裁判官、

B la ck

裁判官および

B la ck m un

裁判官の各反対意見は、それぞれ、連邦公務員の憲法的不法行為に対する損害賠償請求訴訟の創造は立法府の職務であって、司法部がこれを行うことは権力分立原則に抵触するとして法廷意見に反対する ₃₈

。この点につき

H ar la n

裁判官の結果同意意見は、﹁司法部は、修正第四条に規定されているような憲法上の権利の正当性を保障するという固有の責務を有している。[中略]権利章典における法的権利にかかる伝統的な司法上の救済について、連邦議会による明示的な授権を待つことは適当ではない﹂ ₃₉

と反論している。 このように

B iv en s

判決においては連邦最高裁判所内部でも意見の一致はみられていないが、結論として憲法的不法行為について連邦公務員個人の損害賠償責任を争うことができると判示した点で、同判決は画期的なものであった。

第二節 

B iv en s

型訴訟の法理の拡大

1  Passman 判 決

 

B iv en s

判決自体は修正第四条に関するものであったが、その後の判例は、

B iv en s

型訴訟の法理を修正第四条以外の修正条項違反にも適用していった。その嚆矢となるのが、一九七九年の

D av is v. P as sm an

判決 ₄₀

である。 一九七四年二月一日、当時下院議員であった被上訴人

O tto P as sm an

は上訴人

Sh irl ey D av is

を副秘書に雇用したが、同年七月三一日に性別を理由に彼女を解雇した。そこで

D av is

は、

P as sm an

に対して平等保護を保障した修正第五条違反に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。ルイジアナ西部地区連邦地方裁判所は、

D av is

が訴訟原因を有しないことおよび修正条項違反が認められないことを理由に請求を斥けた。第五巡回区連邦控訴裁判所は、当初は訴訟原因および 一一二四

(12)

(    同志社法学 六五巻四号二一一 修正条項違反を認定したものの ₄₁

、その後全員法廷において、連邦議会は

D av is

のような立場にある者に対して損害賠償による救済を認めておらず、そのような連邦議会の意図を変更してまで

B iv en s

型訴訟のような救済を認める必要はないとして、第一審判決を支持した ₄₂

。 連邦最高裁判所は、五対四で原審判決を破棄差戻した。

B re nn an

裁判官による法廷意見(

W hit e, M ar sh all , B la ck m un , S te ve ns

裁判官が同調)は、①

D av is

は憲法上の権利を有するか、②

D av is

はこの権利を主張することのできる訴訟原因を有するか、③損害賠償は適切な救済手段であるかといった観点から本件を審理した。第一に法廷意見は、修正第五条は平等保護に反する性差別を禁止しており、

D av is

は憲法上保護された権利を有すると判断した ₄₃

。第二に法廷意見は、﹁当裁判所は、司法判断になじむ憲法上の権利は裁判所を通じて執行されなければならないと推定する。そして、そのような権利が単に懇願的(

pr ec at or y

)なものとならない限り、その憲法上の権利が侵害されたと主張し、同時にこれらの権利を執行するにあたって司法部以外に有効な手段を有しない訴訟当事者は、司法判断になじむ憲法上の権利の保護のため、既存の裁判所の管轄権を援用できなければならない﹂ ₄₄

と述べたうえで、

D av is

は連邦裁判所の管轄権を援用しうる適切な訴訟当事者であるから修正第五条の下で訴訟原因を有すると判示した。第三に法廷意見は、本件においては損害賠償以外に有効な救済手段は存在しないと指摘した(訴訟段階で

P as sm an

はすでに議会議員ではなくなっていたため、

D av is

を復職させることも不可能であった) ₄₅

。また本件当時、一九六四年の﹁市民的権利に関する法律(

C iv il R ig ht A ct

)﹂第Ⅶ編七一七条は、連邦上の雇用差別に対して行政上の救済を規定していたが、議会職員についてはその適用を明示的に除外していた。この点から、連邦議会は

D av is

のような立場にある者に対しては救済を否定していると解することも可能であったが ₄₆

、法廷意見は、﹁連邦議会が、市民的権利に関する法律の適用されない者が利用しうる代替的救済を排除することまでをも、七一七条について意図していたとする証拠はない﹂ ₄₇

と述べて、このよう

一一二五

(13)

(    同志社法学 六五巻四号二一二

な解釈を否定している。最終的に法廷意見は、﹁上訴人は修正第五条の下で訴訟原因を有しており、その損害は損害賠償による救済によって是正されうる﹂ ₄₈

と結論付けたうえで、

P as sm an

の行為が合衆国憲法第一条六節一項の発言・討議条項(

sp ee ch o r d eb at e c la us e

)によって保護されるか否かという点につき事案を差戻した ₄₉

。 なお、本件には四名の裁判官によって三つの反対意見が付されている。第一に

B ur ge r

首席裁判官の反対意見(

P ow ell , R eh nq uis t

裁判官が同調)は、議会議員の行為に干渉する点で法廷意見は権力分立原則に抵触すると主張する ₅₀

。第二に

St ew ar t

裁判官の反対意見(

R eh nq uis t

裁判官が同調)は、本件においては発言・討議条項の問題がはじめに解決されるべきであると述べる ₅₁

。第三に

P ow ell

裁判官の反対意見(

B ur ge r

首席裁判官および

R eh nq uis t

裁判官が同調)は、法廷意見を正当化するような先例は存在せず、また本件における訴訟原因の有無を判断するにあたっては権力分立原則や議会議員の利益などの考慮事項を検討しなければならないところ、法廷意見はこれを怠っていると指摘する ₅₂

2  Carlson 判 決

 

P as sm an

判決の翌年、連邦最高裁判所は、

C ar lso n v. G re en

判決 ₅₃

において

B iv en s

判決の射程をさらに拡大させた。

C ar lso n

判決は、

B iv en s

型訴訟の法理を最大限に拡張したものといわれている ₅₄

。 一九七五年八月一五日、喘息の発作を起こした連邦刑務所の囚人が数時間放置された結果、死亡した。そこで死亡した囚人の母親である被上訴人

M ar ie G re en

は、残酷で異常な刑罰を禁止した修正第八条違反を申立てて、連邦刑務局(

F ed er al B ur ea u o f P ris on s

)長であった上訴人

N or m an C ar lso n

らに対して損害賠償請求訴訟を提起した。インディアナ州南部地区連邦地方裁判所は訴訟原因を認定したものの、

G re en

の請求は当時の合衆国法典四二巻一三三一条が管轄権要件として規定していた訴額一万ドルを超えないとして訴えを斥けたが、第七巡回区連邦控訴裁判所は管轄権要件の 一一二六

(14)

(    同志社法学 六五巻四号二一三 充足を認めて第一審判決を破棄差戻した ₅₅

。 連邦最高裁判所は、七対二で原審判決を支持した。

B re nn an

裁判官による法廷意見(

W hit e, M ar sh all , B la ck m un , St ev en s

裁判官が同調)は、

B iv en s

型訴訟の法理について以下のように述べた。﹁[

B iv en s

型訴訟にかかる]訴訟原因は、以下の二つの状況においては否定される。第一に被告が、﹃連邦議会による積極的行為なしに[合衆国憲法に直接基づく救済を認めることを]躊躇させるような特別の要因(

sp ec ia l f ac to rs c ou ns eli ng h es ita tio n

)﹄を立証した場合である。第二に被告が、連邦議会が合衆国憲法に直接基づく救済に代替すると明示的に宣言し、かつ等しく実効的であるとみなしている代替的救済(

alt er na tiv e r em ed y

)が提示されているということを明らかにした場合である。﹂ ₅₆

これらの要件は

B iv en s

判決および

P as sm an

判決においても言及されていたところであるが ₅₇

C ar lso n

判決はこれらを明確に定式化した。 以上の判断基準を踏まえて、法廷意見は本件における訴訟原因の有無を検討した。まず﹁特別の要因﹂については、﹁上訴人は、わが国の憲法体系において、司法部によって創造される救済を不適切なものとするような特別の地位を享受しない﹂ ₅₈

として、これを否定した。次に﹁代替的救済﹂について、本件ではFTCAに基づく損害賠償請求訴訟を提起することが可能であったために同法と

B iv en s

型訴訟との関係が問題となったが、法廷意見は、FTCAの改正が行われた一九七三年の第九三議会における議会資料 ₅₉

を参照したうえで、﹁連邦議会はFTCAと

B iv en s

型訴訟を並行的かつ相補的な﹂ ₆₀

ものとみなしているとして、両方の救済手段を利用しうることを認めた。さらに法廷意見は、以下の四点において

B iv en s

型訴訟はFTCAよりも実効的であると判示した。すなわち、①連邦政府に対するFTCAよりも連邦公務員個人に対する

B iv en s

型訴訟の方が抑止効果が大きい、②FTCAの下では懲罰的損害賠償は認められないが ₆₁

B iv en s

型訴訟においては認められる、③FTCAの下では陪審審理を利用することはできないが ₆₂

B iv en s

型訴訟においては陪審審理を選択することもできる、④FTCAの下では州法要件ゆえに各州によって別個の基準が用いられ

一一二七

(15)

(    同志社法学 六五巻四号二一四

るが、

B iv en s

型訴訟においては連邦法上の統一された基準によって損害賠償が判断される ₆₃

。以上の点を踏まえて法廷意見は、﹁FTCAが市民の憲法上の権利にかかる十分な保護措置でないことは明らかであるから、連邦議会による明示的な宣言のない状況においては、連邦議会は被上訴人をFTCAによる救済に排他的に限定していると判示することはできない﹂ ₆₄

と結論付けた。このように法廷意見は、本件においては﹁特別の要因﹂も﹁代替的救済﹂も存在しないとして訴訟原因を認定した。 なお、本件には

P ow ell

裁判官の結果同意意見(

St ew ar t

裁判官が同調)および

B ur ge r

首席裁判官ならびに

R eh nq uis t

裁判官の反対意見が付されている。

P ow ell

裁判官は、結論には同意するものの、法廷意見が示した

B iv en s

型訴訟にかかる二つの例外要件は過度に限定的であると批判する ₆₅

B ur ge r

首席裁判官は、

B iv en s

型訴訟の法理は原告がまったく救済手段を有しないような事案に限定されるべきであって、法廷意見は

B iv en s

判決の射程を不当に拡大するものであると述べる ₆₆

R eh nq uis t

裁判官は、①新たな救済手段の創設は連邦議会の職務であって連邦裁判所はそのような権限を有しない、②

B iv en s

型訴訟がFTCA以上に実効的であるとはいえない、③法廷意見の提示した例外要件は連邦議会の意図を解釈する手法として妥当ではなく権力分立原則に抵触するなどと主張して、法廷意見を全面的に否定する ₆₇

第三節 

B iv en s

型訴訟の法理の縮小

1  Bush 判 決

 ここまで述べてきたように、

B iv en s

型訴訟の法理は、その生成以降、漸次的に拡大していったが、その後、一転して縮小傾向をみせる。その契機となったのが、一九八三年の

B us h v . L uc as

判決 ₆₈

である。 連邦航空宇宙局(

N at io na l A er on au tic s a nd S pa ce A dm in ist ra tio n

)の宇宙飛行センターに勤務する上訴人

W illi am

一一二八

(16)

(    同志社法学 六五巻四号二一五

B us h

は、職場についての批判をマスコミ等に語ったところ、一九七五年八月に降格処分を受けた。これに対して

B us h

は行政上の不服申立てを行い、二年後、前職への復帰と三万ドルの遡及賃金を認められた。この間に

B us h

は、同センター長であった被上訴人

W illi am L uc as

に対して、言論の自由を保障した修正第一条違反に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。アラバマ州北部地区連邦地方裁判所は、

L uc as

は絶対免責を享受するし、また不服申立てなどの行政上の救済制度に鑑みれば訴訟原因は認められないとして

B us h

の請求を斥け、第五巡回区連邦控訴裁判所もこれを支持した ₆₉

。同事件は

B us h

によって上訴されたが、控訴審判決後に

C ar lso n

判決が下されたため、連邦最高裁判所は同判決を考慮して再度審理を行うよう第五巡回区連邦控訴裁判所に事実を差戻した ₇₀

。差戻審において同控訴裁判所は、

C ar lso n

判決は先行の結論に影響を及ぼさないとして再び

B us h

の請求を斥けた ₇₁

。 連邦最高裁判所は、全員一致で原審判決を支持した。

St ev en s

裁判官による法廷意見(

B ur ge r

首席裁判官および

B re nn an , W hit e, P ow ell , R eh nq uis t, O 'C on no r

裁判官が同調)は、﹁上訴人の修正第一条の権利は不利益的人事措置によって侵害された﹂ ₇₂

、﹁行政上の救済は損害賠償による救済ほど実効的ではなく、実際に生じた損害が完全に補償されることはない﹂ ₇₃

と述べて、本件においては憲法上の権利が侵害され、これに対する行政上の救済制度も完全なものではないことを認めた。そのうえで法廷意見は、

C ar lso n

判決が提示した﹁代替的救済﹂と﹁特別の要因﹂の要件を審理した。 まず、前者の要件について法廷意見は、﹁連邦議会は、上訴人が求める司法上の救済を明示的に否定することによって、または同程度に実効的な代替的手法を規定することによって、本件で提示された問題を解決するようなことはしていない﹂ ₇₄

と述べて、これを否定した。次に、後者の要件について法廷意見は、本件においては行政上の救済制度が整備されており

B us h

に対しても有効な救済が提示されていたとしたうえで ₇₅

、当該救済制度が﹁特別の要因﹂にあたると判断した。法廷意見は、本件における問題は﹁競合する政策的考慮事項を熟議して段階的に形成されてきた精巧な救済制度が、

一一二九

(17)

(    同志社法学 六五巻四号二一六

本件における憲法違反に対して新たな司法上の救済を認めることによって、拡大されるべきであるかというものであ﹂ ₇₆

り、この問題の解決にあたっては﹁連邦議会が裁判所に比べてより適当な立場にある﹂と判示した ₇₇

。以上の理由から、法廷意見は本件における訴訟原因を否定した。 なお、本件には

M ar sh all

裁判官の同意意見(

B la ck m un

裁判官が同調)が付されている。

M ar sh all

裁判官は、連邦議会が行政上の救済制度を創設していなかった場合には

B iv en s

型訴訟が認められるとの見解を強調するとともに、本件における行政上の救済制度は必ずしも

B iv en s

型訴訟に劣後するものではないと主張する ₇₈

2  Chilicky 判 決

 

B us h

判決の後、

B iv en s

型訴訟の法理の縮小傾向を決定的なものとしたのが、一九八八年の

C hil ic ky v . S ch w eik er

判決 ₇₉

である。 被上訴人

Ja m es C hil ic ky

らは、社会保障法(

So cia l S ec ur ity A ct

)に基づく給付金の受給資格を有する身体障害者であったが、一九八一年から一九八二年にかけて、その支給を不当に停止された。彼らは、行政上の不服申立てまたは新たに給付金の支給申請を行うことにより、支給停止期間中の給付金を遡及的に獲得したが、当該期間中の精神的苦痛等について、保健社会福祉省(

D ep ar tm en t o f H ea lth a nd H um an S er vic es

)長官であった上訴人

R ic ha rd S ch w eik er

らに対して、修正第五条のデュー・プロセス条項違反に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。アリゾナ州連邦地方裁判所は限定免責(

qu ali fie d im m un ity

)を理由に

C hil ic ky

の請求を斥けたが、第九巡回区連邦控訴裁判所は事実問題についての審理が不十分であるとして第一審判決を破棄差戻した ₈₀

。 連邦最高裁判所は、六対三で原審判決を破棄した。

O 'C on no r

裁判官による法廷意見(

R eh nq uis t

首席裁判官および 一一三〇

(18)

(    同志社法学 六五巻四号二一七

W hit e, Sc ali a, K en ne dy

裁判官が同調)は、本件においては社会保障法上の救済制度が﹁特別の要因﹂にあたると判断した。法廷意見は、﹁特別の要因﹂について、このような﹁概念は、連邦議会の沈黙が偶然のものではない場合における司法部の適切な敬譲を含むと考えられる。連邦政府のプログラム設計がその運営過程で生じた憲法違反に対して適切な救済制度を提示している場合、当裁判所が追加的に

B iv en s

型の救済を創造することはない﹂ ₈₁

と判示した。 本件において社会保障法は、給付金の支給停止について不服申立てなどの行政上の救済を提示していたが、支給停止期間中の損害にかかる賠償請求については規定していなかった。この点につき法廷意見は、﹁

B iv en s

型訴訟の創造が、現在回復されていない損害に対して救済の可能性を提示するであろうことは明らかである﹂ ₈₂

として

B iv en s

型訴訟の実効性を認めながらも、連邦議会が給付金の支給停止問題の改善に積極的に対応したうえで損害賠償を認めていないことから、﹁憲法的不法行為による権利侵害につき損害賠償を提示することに対する連邦議会の消極性は、[中略]本件において明白である﹂ ₈₃

と判示した。そして法廷意見は、以下のように結論付けた。﹁当裁判所は、生活必需品購入の資金源としていた給付金の受給に際して数个月の遅延を被ったことが、﹃事後的な給付金の再開﹄によっては完全には回復されないという点には同意する。[中略]しかしながら連邦議会は、州行政機関による不当な給付金の支給停止によって生じた問題に対処している。その対応が最善のものであったか否かにかかわらず、連邦議会は、大規模かつ複雑な福祉給付金プログラムの設計において要求される不可避の妥協に対して責任を負う機関である。本件に関する限り、連邦議会はその責務を果たしており、当裁判所はその決定の見直しを認める法的根拠を観念できない。﹂ ₈₄

このように法廷意見は、連邦議会によって形成された救済制度に対して敬譲的態度を示して、本件における訴訟原因を否定した。 なお、本件には

St ev en s

裁判官の結果同意意見と

B re nn an

裁判官の反対意見(

M ar sh all , B la ck m un

裁判官が同調)が付されている。

St ev en s

裁判官は、本件においては、法廷意見が判断を示さなかった問題、すなわち合衆国法典四二

一一三一

(19)

(    同志社法学 六五巻四号二一八

巻四〇五条(

h

₈₅

B iv en s

型訴訟を含むあらゆる救済を明示的に排除しているかということがはじめに審理されなければならないと主張する ₈₆

B re nn an

裁判官は、①社会保障法上の救済制度は不十分であること、②連邦議会の沈黙は

B iv en s

型訴訟の排除を意味するものではないこと、③社会福祉の領域は司法判断になじむものであって連邦議会に敬譲する必要はないことから、本件においては訴訟原因が認められるべきであると主張する ₈₇

第四節 小括 連邦公務員の憲法的不法行為に対する損害賠償請求訴訟は、

B ell

判決でその可能性が示唆された後、

B iv en s

判決によって確立されるに至った。

B ell

判決は管轄権問題に肯定的に回答したうえで訴訟原因の認定問題を明示的に保留したものの、この点について積極的な見解を表明している ₈₈

。すなわち、﹁連邦法上保護された権利が侵害された場合に、裁判所が必要な救済を与えるために法的救済手段を調整するということは、従来からのルールである。﹂ ₈₉

この判示は、

B iv en s

判決においても引用されている ₉₀

。そして

B iv en s

判決は、合衆国憲法に直接基づく損害賠償による救済を認めて訴訟原因の認定問題を解決した。このように、両判決によって連邦公務員の憲法的不法行為に対する損害賠償請求訴訟である

B iv en s

型訴訟が創造されたのであるが、FTCAが広範な適用除外条項を規定しているなど被害者救済にあたって限定的な役割にとどまっていることに鑑みれば、

B iv en s

型訴訟の法理の生成はアメリカの国家賠償制度において重要な意義を有するものであった ₉₁

B iv en s

型訴訟の法理については当初から連邦最高裁判所内部でも大きな見解の対立があったことは前述のとおりであり、その後もその妥当性に否定的な見解が提示されてはいるものの ₉₂

B iv en s

判決の先例性自体が否定されたことはない。したがって

B iv en s

型訴訟の事案においては、いかなる場合にこのような救済手段が認められるかが中心的な争点となる。 一一三二

(20)

(    同志社法学 六五巻四号二一九  この点につき

C ar lso n

判決は、

B iv en s

判決および

P as sm an

判決の判断を整理したうえで、

B iv en s

型訴訟の法理を定式化した。すなわち、被告が﹁連邦議会による積極的行為なしに[合衆国憲法に直接基づく救済を認めることを]躊躇させるような特別の要因﹂または﹁連邦議会が合衆国憲法に直接基づく救済に代替すると明示的に宣言し、かつ等しく実効的であるとみなしている代替的救済﹂のいずれかを立証しない限り、訴訟原因が認められる ₉₃

。このように

C ar lso n

判決は、連邦公務員の憲法的不法行為に対しては、二つの例外を除いて

B iv en s

型訴訟が認められるという広範な立場をとっている。このうち後者の例外要件については、

B iv en s

型訴訟に代替するとの連邦議会による明示的な意思表示および救済手段としての等価性が必要とされるため、その充足は相当困難であると考えられている ₉₄

。事実、これまでに連邦議会が

B iv en s

型訴訟の代替的措置であると明言した救済は存在しない ₉₅

。また前者の例外要件についても、何が﹁特別の要因﹂にあたるかについて具体的な説明がなされていなかったことから、その後の下級審において混乱を生じさせた ₉₆

。 

C ar lso n

判決以後に訴訟原因を否定し、

B iv en s

型訴訟の法理を縮小した

B us h

判決および

C hil ic ky

判決は、

C ar lso n

判決の提示した判断基準を踏襲しながらも、これを厳格には適用していない。すなわち、

B us h

判決においては連邦上の雇用関係にかかる行政上の救済制度が、

C hil ic ky

判決においては社会保障法上の救済制度が、それぞれ﹁特別の要因﹂にあたるから訴訟原因は認められないと判示されている。このようなアプローチは、﹁代替的救済﹂の要件については、当該救済制度が

B iv en s

型訴訟ほど実効的ではないと判断しているにもかかわらず訴訟原因を否定する点で、その内容を相当程度緩和しているといえる ₉₇

。また﹁特別の要因﹂の要件については、当該事案における救済制度の存在をもって﹁特別の要因﹂が認められている点で、

C ar lso n

判決で示された二つの例外要件を混同していると思われる ₉₈

。 

B iv en s

型訴訟を認めた初期の判例と否定したその後の判例を比較すると、憲法上の権利侵害に対する救済における

一一三三

(21)

(    同志社法学 六五巻四号二二〇

裁判所の役割について大きな立場の相違があることがわかる。すなわち連邦公務員の憲法的不法行為について、

B iv en s

判決、

P as sm an

判決および

C ar lso n

判決は、裁判所は侵害行為の是正のためにあらゆる救済を用いて憲法上の権利を実現することができるとしているのに対して、

B us h

判決および

C hil ic ky

判決は、連邦議会の政策的決定に対して相当の敬譲を示している ₉₉

。このような裁判所と連邦議会の役割分担に関する見解の対立は、各連邦最高裁判所判例における法廷意見と反対意見の対比からも窺うことができる(全員一致の

B us h

判決を除く)。

第三章 近時の動向

 前章で検討した連邦最高裁判所判例以降も、

B iv en s

型訴訟の法理については否定的な傾向が継続していたが 100

、このような連邦最高裁判所の消極的態度は、二〇〇七年の

W ilk ie

判決において頂点に達したといわれている 101

。本章では、

B iv en s

型訴訟にかかる近時の重要判例である

W ilk ie

判決を分析したうえで、最新の事案である

M in ne ci v. P oll ar d

判決 102

を概観し、連邦公務員個人の損害賠償責任について連邦最高裁判所判例の近時の動向を検討する。

第一節 

W ilk ie

判決の概観

1  事 実 の 概 要

 一九九三年、連邦土地管理局(

B ur ea u o f L an d M an ag em en t

)は、ワイオミング州の牧場につき通行地役権(

ea se m en t

)を獲得したが、その記録を怠たり、また同牧場が売却されたためにこれを喪失した。同局は、新たな牧場所有者である

F ra nk R ob bin s

に対して、通行地役権の無償での設定を要求したが、

R ob bin s

がこれを拒否したため、その後約六年に 一一三四

(22)

(    同志社法学 六五巻四号二二一 わたって、牧場への不法侵入、放牧許可の撤回等の妨害行為を行った。その結果、

R ob bin s

の事業は多大な損害を被った。そこで

R ob bin s

は、修正第五条の収用条項は、①強行的かつ無償での財産獲得を意図した連邦政府の活動および②無償での収用に対する抵抗への報復行為を禁止しており、本件における連邦土地管理局職員の行為は同条項に反すると申立てて、

C ha rle s W ilk ie

をはじめとする同局職員に対して損害賠償請求訴訟を提起した。 ワイオミング州連邦地方裁判所は、本件においては行政手続法(

A dm in ist ra tiv e P ro ce du re A ct

、以下APAと略記する)およびFTCAが利用可能であり、これらの代替的救済は訴訟原因の認定を妨げるとして

R ob bin s

の請求を斥けたが、第一〇巡回区連邦控訴裁判所は、最終的な行政機関の行為(

fin al ag en cy a ct io n

)に関係しない連邦公務員の憲法的不法行為については

B iv en s

型訴訟を提起することができるとして、第一審判決を破棄差戻した 103

。差戻第一審は修正第五条違反を認めて連邦土地管理局職員の限定免責に基づく訴え却下の申立てを斥け、差戻控訴審もこれを支持した 104

2  判 旨

⑴ Souter裁判官による法廷意見 連邦最高裁判所は、七対二で原審判決を破棄差戻した。

So ut er

裁判官による法廷意見(

R ob er ts

首席裁判官および

K en ne dy , B re ye r, A lit o

裁判官が同調)は、

B iv en s

型訴訟の法理について、前章で述べた先例を整理したうえで以下のような二段階の判断基準を提示した。 ﹁最終的な結論は別にして、

B iv en s

型の請求に対する当裁判所の審理は周知の順序によるものである。連邦公務員の行為による憲法上の権利侵害につき

B iv en s

型の救済を認めるか否かの判断には、二つの段階が必要となる。第一に、

一一三五

(23)

(    同志社法学 六五巻四号二二二

権利保護にかかる既存の代替的手法が、司法部が新たに独立した損害賠償による救済を提示することを差し控える説得的根拠に相当するかという問題がある。しかし、代替的手法が存在しない場合でさえ、

B iv en s

型の救済はなお検討を要する。[第二に]﹃連邦裁判所は、新たに連邦法上の訴訟を認めることを躊躇させるような特別の要因に特に注意を払い、コモン・ロー裁判所にとって適切な救済決定を行わなければならない。﹄﹂ 105

 このような判断基準にならって、法廷意見は本件における訴訟原因の有無を審理した。まず、第一段階について法廷意見は、本件における連邦土地管理局職員の行為を四つに分類したうえで、それぞれの行為における代替的救済の存否に関して以下のように述べた。第一に、無断で

R ob bin s

所有の土地を測量したことおよびロッジに立ち入ったことは、州不法行為法上の不法侵入に該当する。

R ob bin s

はこれらの不法行為に対して、州法上の損害賠償請求訴訟を提起することが可能であった。第二に、連邦土地管理局職員は、

R ob bin s

に対して、公有地や公道への不法侵入などについて行政上の責任を、公務の妨害について刑事上の責任を追及した。

R ob bin s

は、前者については行政上の不服申立てを行い、後者については刑事裁判において無罪とされた。第三に、連邦土地管理局職員は、恣意的な判断に基づき

R ob bin s

に対して、観光業として行っていた牛追い(

ca ttl e dr iv e

)にかかる特別娯楽使用許可(

sp ec ia l r ec re at io n us e pe rm it

)の更新期間の短縮・更新拒否、放牧許可の撤回などを行った。これらの不当な行為について、

R ob bin s

は行政上の不服申立ておよびAPA上の司法審査を求めることができた。第四に、上記三つの類型に分類できないものとして、①

R ob bin s

所有の馬が殴打されたこと、②

R ob bin s

の牧場を訪れた観光客がビデオテープに撮影されたこと、③

R ob bin s

所有の牛の収容が画策されたことが挙げられる。しかし、①は連邦土地管理局職員の関与があったものの殴打自体は私人によるものである点、②は撮影された観光客が公有地または私有地のいずれにいたかによって適法か違法かが異なる点、③は実行に至らなかった点で、連邦公務員による不法行為とは断定しがたい 106

一一三六

参照

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