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学位論文題名The Writing of Arabic Numerals,Kanji,and Kana in Brain-Damaged Patients.

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 田 村    至

     学位論文題名

The Writing of Arabic Numerals ,Kanji ,and Kana     in Brain‑Damaged Patients .

(脳損傷者におけるアラビア数字、漢字、仮名の書字についての研究)

学位論文内容の要旨

  世界の広 い地域で使用されているアラピア数字(以下数字)は、記号学において音の関 与なく読 み書き可能な表意文字に分類されている。しかしそれぞれの国語で数字は固有の 音によっ て使用されており、記号学において数字の操作における音の関与の問題は未解決 である。 アルファベット使用国において、脳損傷者における数字とアルファベットの読み 書きの二重乖離が報告されており、数字とアルフんべットの神経機構の差異が指摘.されて いる。漢字(意味と音を持つ表語文字)と仮名(音的要素を表す音節文字)とぃう特殊 な 文字体系を持っわが国では、現在まで失語症、失読症、失書症などの脳損傷者における漢字・

仮名の神 経情報処理についてさまざまな研究がなされ、神経処理機構に関する知見が得ら れている が、脳損傷者における数字の障害については未検討である。しかし日本語におい ては、漠 数字が存在し、数は仮名表記も可能であることから、数字、漢数字、仮名表記数 字を比較 ナることが可能である。本研究では、音韻操作に重篤な障害を持っウェルニッケ 失語症者5例お よび計 算障害を もっゲ ルストマ ン症候 群を呈す る脳損傷者4例を対象に、

数字、漠数字、仮名表記数字の書字能カを検討した。

  対象は、左頭頂葉病巣によルゲルストマン症候群と軽度の流暢性失語を呈する脳損傷者4 例(56 ‑64歳、平均年齢、60.5歳)、(以下ゲルストマン群)、左側頭葉病巣によるウェルニ ッケ失語 症者5例(58〜70歳、平均年齢、69.8歳)(以下ウェルニッケ失語群)、すぺての 対象者は 、右利き、使用手は右手であり文字の模写は両群共に良好であった。それぞれの タイプ分類は、診断基準に適合することが神経内科医、言語聴覚士により確認されている。

また脳外 科手術歴、多発性病巣の被験者は除外した。被験者全員に実験の目的を説明し、

インフオームドコンセントを得た。

  実 験 課題 は1,2桁 の 異な る 数8題 ず つ 計r6題 、 呈示 さ れ た硬貨(10円 、1円 )に応じ て数字、 漢数字、仮名表記数字の書字を行う方法で、書字の際に数の音韻の介入を排除し た。さら に数字の意味理解(数概念)を検討するために、数字カードを呈示し、数字に応 じた硬貨 を取る 課題を行 った。書 字、数 概念共に、制限時間は設けず正答は1点、誤答、

無反応は0点で採点を行った。

  両群にお いて分散分析を用いた統計処理の結果、グルストマン群では漠数字の書字が数 字、仮名 表記数字に比較して良好であった。ウェルニッケ失語群においては、数字が、漠 数字、仮名表記数字よりも有意(pく0.001)に良好であった。誤反応分析においては、ゲル ストマン 群では、数字の置換(他の数字への誤り)が漢数字に比較して有意(pく0.05)に 多く、仮名表記数字では、正答(25%)と音韻性錯書(仮名文字の置換)(10.5%)と無反応

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(64.5% )が 見ら れた 。 ウェ ルニ ッケ 失語 群 では 、数 字と 漠 数字 の置換による誤り は同等であ り、 漠数 字に 形 態想 起困 難に よ る無 反応 が多 数(70% )認 め られ 、仮 名は ほと ん ど(98.8%)

無反 応で あっ た 。数 概念 課題 の 誤り 率は 、ゲ ルス ト マン 群で は、26.6%、ウェル ニッケ失語 群で は11.2%で あり 、 ゲル スト マン 群の 数 概念 の障 害が 示 唆さ れた。誤反応はす べて他の数 へ の 置 換 で あ っ た 。 以 上 の 結 果 を ま と め る と 、 ゲル スト マン 群で は 、漠 数字 に比 較し て 数 字 、 仮 名 表 記 数 字 の 書 字 障 害 、 数 概 念 の 障 害 が 認め られ た。 一方 、 ウェ ルニ ッケ 失語 群 で は、 ゛数 字の 書 字が 漠数 字、 仮 名表 記数 字に 比較 し て良 好に 保た れて お り、 数概 念も 比 較的 良好であった。

  以 上の 結果 を 岩田(1982)に よ る漢 字・ 仮名 の書 字 モデ ルを 援用 して 解 釈し たい 。岩 田 の書 字 モ デ ル は 、 仮 名 書 字 は 意 味 表 象 か ら 語 の 音 韻 表象 を想 起し 、運 動 覚表 象を 想起 する ル ー トに よっ て実 現 され る。 漠字 書 字に はニ つの ルー ト が想 定さ れ、 より 頻 度の 高い ルー ト は、

意 味 表 象 か ら 、 語 の 音 韻 表 象 を 想 起 し 、 文 字 の 視覚 表象 を想 起す る 音韻 ルー ト、 およ び 稀 に 意 味 表 象 か ら 、 音 韻 表 象 の 想 超 無 し に 、 視 覚 表象 のみ の想 起に よ って 漢字 書字 を実 現 す る視 覚ル ート が ある 。実 験結 果 より 、ゲ ルス 卜マ ン 群の 仮名 書字 は、25%の 正答 が見 ら れた こ と か ら 、 仮 名 書 字 を 行 う 音 韻 ル ー ト は 残 存 し て お り 、 無 反 応(64.5%お よ ぴ音 韻性 錯 書

(10.5%冫 が認 められたこ とは、ゲルストマン症候群に よる仮名の失書症状と軽度 の失語性失 書 の 影 響 が 考 え ら れ る 。 ウ ェ ル ニ ッ ケ 失 語 群 で は、 音韻 操作 の重 篤 な障 害に より 、音 韻 表 象 想 起 が 困 難 で あ る こ と か ら 仮 名 書 字 は 困 難 で あっ たと 考え られ る 。し かし 、文 字の 模 写 は 両 群 共 に 良 好 で あ る こ と か ら 、 書 字 の 際 の 運 動覚 表象 の想 起は 障 害さ れて いな いと い え る 。 ゲ ル ス 卜 マ ン 群 で は 、 漠 数 字 の 書 字 に お い て良 好な 書字 が見 ら れた 理由 とし て、 仮 名 書 字 が 多 少 可 能 で あ っ た こ と か ら 、 音 韻 表 象 の 想起 が若 干可 能で あ り、 音韻 ルー トに お け る 音 韻 の 支 持 が 関 与 し た 可 能 性 が 推 測 で き 、 さ らに 漠数 字に おけ る 文字 形態 想起 困難 に よ る無反応が、わずかく4.70/o)であることから、漠数字の形態想超が可能であり、視覚ルートを 介 す る 書 字 も 可 能 で あ っ た と 考 え ら れ る 。 ゲ ル スト マン 群で は、 音 韻、 視覚 ルー 卜に よ る 漢 字 書 字 が 可 能 で あ っ た と 推 測 で き る 。 一 方 ウ ェル ニッ ケ失 語群 に おい ては 、仮 名書 字 の 重篤な障害により音韻ル ートは障害されており、漢 字書字において多数の無反応(70゜/o)が認 め ら れ る こ と か ら 、 視 覚 ル ー 卜 を 使 用 し た 書 字 も障 害を 受け てい た と考 えら れる 。ゲ ル ス ト マ ン 群 で は 、 数 字 の 書 字 に お い て 、 数 字 の 置 換に よる 誤り が漠 数 字よ りも 有意 に多 く 見 ら れ た 。 し か し ゲ ル ス ト マ ン 群 の 数 字 書 字 の 形 態は 保た れて いる こ とか ら、 運動 覚表 象 は 保 た れ て い る と 考 え ら れ る 。 ゲ ル ス 卜 マ ン 群 に おい ては 、数 概念 の 障害 が認 めら れて い る こ と が 、 置 換 に よ る 誤 り の 主 な 原 因 と 考 え ら れ る。 すな わち ゲル ス トマ ン群 にお いて は 、 書 く べ き 意 味 表 象 で あ る 数 概 念 の 選 択 の 誤 り が 、書 宇に おけ る置 換 の誤 りを 引き 起こ し て い る と 考 え ら れ る 。 ー 方 、 ウ ェ ル ニ ッ ケ 失 語 群 にお いて は、 数字 の 書字 は良 好で あり 、 す ぱ や く 、 正 確 な 数 字 書 字 反 応 が 見 ら れ た 。 し か し書 字を 行い なが ら 発声 した 数字 は、 別 の 数 字 に 高 頻 度 に 置 換 し て い た こ と か ら 、 数 字 は 、音 韻表 象の 想起 無 しに 書字 可能 であ り 、 運 動 覚 表 象 の 想 超 に よ り 正 し い 形 態 が 実 現 さ れ ると 考え られ る。 以 上よ り、 数字 の書 字 に お い て は 、 正 し い 数 概 念 選 択 が 必 要 で あ り 、 意 味表 象( 数概 念) 一 運動 覚表 象の 想起 ― 数 字 書 字 と い う 音 韻 、 視 覚 表 象 の 想 起 が 不 要 な 独 自の ルー 卜に よっ て 数字 の書 字が 行わ れ る 可能性が示唆された。′

  結 論 と し て 、 数 字 ( 表 意 文 字 ) は 、 音 韻 操 作 の関 与な く書 字可 能 であ り、 数概 念に 密 接 に 関 連 す る 運 動 覚 表 象 の 想 起 に よ っ て 書 字 が 遂 行さ れる こと が確 認 され 、数 字の 書字 が 独 自の神経情報処理によっ て営まれている可能性が示 唆された。

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学位論文審査の要旨

     学位論文題名

The Writing of Arabic Numerals ,Kanji ,and Kana     in Brain‑Damaged Patients ・

( 脳 損 傷 者 に お け る ア ラ ビ ァ 数 字 、 漢 字 、 仮 名 の 書 字 に つ い て の 研 究 )

  世界 の広い地域で使用されているアラビア数字(以下数字)は、記号学において音の関 与な く読み書き可能な表意文字に分類されている。しかしそれぞれの国語で数字は固有の 音に よって使用されており、記号学において数字の操作における音の関与の問題は未解決 であ る。漢字(意味と音を持つ表語文字)と仮名(音的要素を表す音節文字)という特殊 な文 字体系を持っわが国では、現在まで失語症、失読症、失書症などの脳損傷者における 漢字 ・仮名の神経情報処理についてさまざまな研究がなされ、神経処理機構に関ナる知見 が得 られているが、脳損傷者における数字の障害については未検討である。しかし日本語 にお いては、漢数字が存在し、数は仮名表記も可能であることから、数字、漠数字、仮名 表記 数字を比較することが可能である。本研究では、音韻操作に重篤な障害を持っウェル ニッ ケ失語 症者5例および 計算障 害をもっ ゲルス トマン症 候群を呈する脳損傷者4例を対 象に、数字、漠数字、仮名表記数字の書字能カを検討した。

  対象は、左頭頂葉病巣によルゲルストマン症候群と軽度の流暢性失語を呈す,る脳損傷者 4例(56A‑64歳、平均年齢、60.5歳)、(以下ゲルストマン群)、左側頭葉病巣によるウェ ルニ ッケ失言吾症者5例(58〜70歳、平均年齢、69,8歳)(以下ウェルニッケ失語群)、す べて の対象者は、右利き、使用手は右手であり文字の模写は両群共に良好であった。被験 者 全 員 に 実 験 の 目 的 を 説 明 し 、 イ ン フ オ ー ム ド コ ン セ ン ト を 得 た 。   実験 課 題 は1,2桁 の異 な る数8題ずつ計i6題、呈 示された 硬貨(10円、1円)に 応じ て数 字、漢数字、仮名表記数字の書字を行う方法で、書字の際に数の音韻の介入を排除し た。 さらに数字の意味理解(数概念)を検討するために、数字カードを呈示し、数字に応 じた 硬貨を 取る課題 を行っ た。書字、数概念共に、制限時間は設けず正答は1点、誤答、

無反応はO点で採点を行った。

  而群 において分散分析を用いた統計処理の結果、ゲルストマン群では漢数字の書宇が数 字、 仮名表記数字に比較して良好であった。ウェルニッケ失語群においては、数字が、漢 数字、仮名表記数字よりも有意(pくO.001)に良好であった。誤反応分析においては、ゲ ルストマン群では、数字の置換(他の数字への誤り)が漢数字に比較して有意(pく0.05) に多く、仮名表記数字では、正答(25%)と音韻性錯書(仮名文字の置換)(10.5%)と無

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生 信

行 喜

野 崎

真 岩

授 授

教 教

査 査

主 副

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反応(64.5%)が見られた。ウェルニッケ失語群では、数字と漠数字の置換による誤りは同 等であ り、漠数 字に形 態想起困難による無反応が多数(70%)認められ、仮名はほとんど

(98.8%)無反応であった。数概念課題の誤り率は、ゲルストマン群では、26.6%、ウェ ルニッケ失語群では11.2%であり、ゲルストマン群の数概念の障害が示唆された。誤反応 はすべて他の数への置換であった。以上の結果をまとめると、ゲルストマン群では、漠数 字に比較して数字、仮名表記数字の書字障害、数概念の障害が認められた。一方、ウェル ニッケ失語群では、数字の書字が漠数字、仮名表記数字に比較して良好に保たれており、

数概念も比較的良好であった。

  以上の結果より、アラビア数字の書宇は、音韻表象、視覚表象の想起なく可能であり、

数概念に密接に関連する運動覚表象の想起によってアラビア数字の書字が遂行されること が確認され、アラビア数字の書字が、漢字、仮名と異なる独自の神経情報処理によって営 まれている可能性を示した。

  公開発表に当たって、副査の岩崎教授より症例群の病巣部位についてのより詳しい所見 について、また病巣と症状との関連についての質問があり、また副査の田代教授よりは課 題の難易度と症例の重症度の関連について、また主査の真野教授より、聴覚的理解障害の 重篤なウェルニッケ症例群における課題の理解、およびゲルストマン症候群における時間 的症状の推移についての質問があった。  ゛

  申請者はいずれの質問に対しても、学位論文の背景にある研究結果や文献を引用し、概 ね適切に回答した。  、

  この論文は、日本語独自の文字体系を援用し、アラビア数字の神経情報処理機構が、漠 字(漠数字)、仮名(仮名表記数字)と異なることを明らかにし、アラビア数字の記号学 的性質を検証した点で、文字をめぐる神経心理学において新たな知見を提示したといえる。

  審査員一同は、これらの成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに 十分な資格を有するものと判断した。

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参照

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