博 士 ( 工 学 ) 帆 引 学 位 論 文 題 名
フラクタル境界を有する振動系のスベクトル 分布およびモードに関する研究
学位論文内容の要旨
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複雑な構造を有する系の動的性質の研究が、理工学の様々な分野において近年高い関心 を集めている。自然界における多くの対象が強い不規則性をもっていることや、ガラス、
磁性体、高分子材料などランダム構造を有する材料が工学的に広く利用されていることも その理由の1つである。このようなランダム系に対する理解は、 フラクタル とぃう概念 が導入されたことによって急速に深まった。フラクタルとは自己相似性を有する構造の総 称的概念であり、その構造を特徴づけるフラクタル次元を用いることでランダム系を定量 的に扱えるようになった。特にフラクタル系の振動問題は、凝縮体の熱的性質や熱伝導特 性 な ど 多 く の 物 理 的 性 質 の 理 解 に 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る と 考 え ら れ て い る。
境界のフラクタル次元がDfであるドラム(フラクタル・ドラム)の積分状態密度は、固有 振動数をUとするとIiエ(u)〓(S/47r)cv2―B´ cvD!(振動数U→oo)で表されるであろう とぃうことは、数学的な 観点から示唆されてきた。ここでSはドラムの面積、Bfは境界 の形状に依存する正の定数である。この予想式はBerry‑Lapidus(BL) conectureと呼ばれ ている。フラクタルのような複雑な構造の振動問題を解析的に扱うことは困難であり、そ のためにこの予想(conjecture)の物理的な意味付けや、検証は行われていないのが現状で あった。
本論文は大規模な数値解析を利用してフラクタル次元D´の境界を有するドラムの振動 特性一般を調ベ、上記のBLconjectureの正当性を検証するとともに、その物理的な意味 を明らかにすることを試みたものである。
第1章は序論で、フラクタル境界を有する振動系に対する研究の背景およぴ重要性を簡 単に述べている。またフラクタル・ドラムの振動特性に関するこれまでの研究経過などを 概説している。
第2章では、まずドラムの振動に関する一般論を展開した後、振動を記述しているヘル ムホルツ方程式を導出している。またヘルムホルツ方程式とシュレーデインガー方程式、
および電磁波を記述するマクスウェルの波動方程式との関係について述べている。2次元
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矩形ドラムにおける解析例を用いて固有振動数と固有モードについて解説している。また 系の動的性質を特徴づけるのに重要な物理量であるスペクトル状態密度、および積分状態 密度を定義している。
第3章では初めに 、ドラムの境界が十分滑らかな場合の積分状態密度に関するWeylの 漸近公式を示し、そのグリーン関数を用いた導出、および2次元矩形ドラムにおける数値 的検 証を 行っ てい る。その後でWeyl‑Seeley‑Pham(WSP)の漸近公式を紹介している。
第4章ではフラク タルの概念とフラクタル・ドラムについて詳述している。WSP漸近公 式をフラクタル境界を有するドラムの場合に拡張したBerryおよびLapidusの理論が紹介 され、BL conectureの表式を導出している。
第5章では、これまでに行われているフラクタル.ドラムに関する実験例および数値計算 例を紹介し、その計算結果および問題点について指摘している。その後で本論文の目的に ついて改めて述ぺている。
第6章では連続体 と離散格子系の対応関係を調ぺることによって、BLconjectureを格 子系でも利用できるように拡張している。また、本論文で用いた数値計算法である強制振 動子法を解説し、アルゴリズムの正当性の検証を2次元正方形ドラムにおいて行っている。
本研究で用いたフラクタル,ドラムのシステムおよび数値計算パラメータを紹介し、積分状 態密度の数値計算結果が示されている。そしてBLconjectllreの正当性、およびconjecture が成立する振動数領域に関する考察が述べられている。
第7章では、強制振動子法を用いて固有モードを計算するアルゴリズムを示し、固定端 境界条件のフラクタル・ドラムにおける振動モードを計算し、図示している。また自由端境 界条件の場合の固有モードの中に、境界付近で大きな振幅をもつ振動モードが含まれてい ることを明らかにしている。このモードはBLConjectureの補正項に関連した振動モード であることが示されている。
第8章では、本研究によって得られた結論を総括するとともに、複雑な形状の境界を有 する様々な物理現象への適用可能性を述べている。
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
フラクタル境界を有する振動系のスペクトル 分布およびモードに関する研究
複 雑な 構造 を 有す る系 の動 的性 質 の研 究が 、理 工 学の 様々 な分 野に お いて 近年高い関心 を集 めて いる 。 自然 界に おけ る多 く の対 象が 強い 不 規則 性を もっ てい る こと や、ガラス、
磁性 体、 高分 子 材料 など ラン ダム 構 造を 有す る材 料 が工 学的 に広 く利 用 され ていることも その 理由 の1つで ある 。 この よう なラ ンダ ム 系に 対す る理解は、 フラク タル という概念 が導 入さ れた こ とに よっ て急 速に 深 まっ た。 フラ ク タル とは 自己 相似 性 を有 する構造の総 称的 概念 であ り 、そ の構 造を 特徴 づ ける フラ クタ ル 次元 を用 いる こと で ラン ダム系を定量 的に 扱え るよ う にな った 。特 にフ ラ クタ ル系 の振 動 問題 は、 凝縮 体の 熱 的性 質や熱伝導特 性 な ど 多 く の 物 理 的 性 質 の 理 解 に 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る と 考 え ら れ て い る 。 固有振動数をU、変位をu(¢,ジ)とする2次元ドラムの振動はヘルムホルツ程式(▽2十u)2) u(x, ジ )=0で 表 さ れ る 。 境 界 の フ ラ ク タ ル 次 元 がDfで あ る ド ラ ムの 積分 状 態密 度は 、 Ifiエ (U)=(S/4rr)cv2―B′ a;Df(振動数U→oo)で表されるであろうと ぃうことは、数学 的 な 観 点 か ら 示 唆 さ れ て き た 。 こ こ でSは ド ラ ム の 面 積 、Bfは 境 界の 形状 に 依存 する 正 の 定 数 で あ る 。 こ の 予 想 式 はBerry‑Lapidus(BL) conectureと 呼 ばれ てい る 。フ ラク タ ルの よう な複 雑 な構 造の 振動 問題 を 解析 的に 扱う こ とは 困難 であ り、 そ のた めにこの予想
(Conjecture) の物 理的 な意 味付けや、検証は 行われていないのが現状で あった。しかしな がら 、計 算機 の 急速 な発 達に よっ て 大規 模な 数値 計 算が 可能 にな り、 フ ラク タル構造のよ う な 複 雑 系 の 動 的 性 質 に 対 す る 実 証 的 な 研 究 を 行 う こ と が 可 能 と な っ て き た 。 本 論 文 は 、 フラ クタ ル次 元D´の 境 界を 有す るド ラム の 振動 解析 を大 規模 な 数値 計算 に より 行い 、以 下 の点 につ いて 明ら か にす るこ とを 目 的としたものである。 (1)積分状態密 度の 振る 舞い を 調ベ 、BLconjectllreの正 当 性を 検証 する 。(2)BLconjectureが成り立つ 振動 数領域を明らか にする。(3)補正項の物理 的な意味を明らかにする。 フラクタル・ドラ ムの よう に複 雑 な形 状を 持つ 系の 振 動解 析を 行う に は、 極め て大 きな 自 由度 を有する系を
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義 朗
樹
一
恒 信
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山 村
田
中 田
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授 授
授
教 教
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査 査
査
主 副
副
扱わなければなら ない。特にBL conectureを検証するためには、各固有振動モードだけ でなく全振動数領域における状態密度を計算する必要がある。そのために本研究では系の 自由度に比例したメモりしか必要としない 強制振動子法 と呼ばれる数値計算アルゴリ ズムを適用し、研究を行っている。
本研究の結果、以下の事柄が明かとなった。(1)BLConject11reを数値的に実証すること に初めて成功した 。(2)BLconjectureは、フラクタル境界を特徴づける最小の長さfよ りも短い長さの波長入の振動が励起されているときに成立する。(3)自由端境界のフラク タル.ドラムにおいて、境界部分に局在した振動モード、すなわち edgemodes を見いだ した。
本論文は、以下のように構成されている。第2章では、まずドラムの振動に関する一般 論を展開し、ヘルムホルツ方程式、および固有振動数と固有モードについて説明している。
また、系の動的性質を特徴づける重要な量である状態密度、および積分状態密度を定義し ている。第3章はW・eylの漸近公式を示し、グリーン関数を用いた導出、および2次元矩 形ドラムにおける数値的検証を行い、その後でWey11Seeley‐Pham(WSP)漸近公式を紹介 している。第4章ではフラクタルの概念とフラクタル・ドラムについて説明し、WSP漸近 公式をフラクタル 境界の場合に拡張したBerryおよびLapidusの理論が紹介されている。
第5章では、これまでに行われているフラクタル.ドラムに関する実験例および数値計算例 を紹介し、その後で本論文の目的について改めて述ぺている。第6章では連続体と離散格 子系の対応関係について考察している。また、本論文で用いた数値計算法である強制振動 子法を解説し、フラクタル・ドラムにおける積分状態密度の数値計算結果、および考察が述 べられている。第7章では、強制振動子法で固有モードを計算する方法を示し、フラクタ ル・ドラムにおけ る固有モードについて説明が与えられている。第8章は結論である。
これを要するに著者は、不規則な境界、特にフラクタルな境界を有する振動系のスペク トル分布に対する新知見を得たものであり、ランダム系の物性物理学のみならず応用物理 学に対して貢献するところ大なるものがある。
よって著者は、 北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。