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アデノウイルス感染による RNA 結 合 夕 ン パ ク HuR の 制 御

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Academic year: 2021

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博 士 ( 歯 学 ) 里 嶋 雄 志

     学位論文題名

アデノウイルス感染による RNA 結 合 夕 ン パ ク HuR の 制 御

学位論文内容の要旨

  ウイルスは細胞に感染すると、自らの遺伝子産物によって宿主細胞の様々な 機能を制御し、自身の増殖に有利な環境をっくりだす。アデノウイルス感染細 胞では 、感染後12時 間以降の後 期になると 、大部分の 宿主細胞のmRNAの核 外輸送は停止し、ウイルス粒子の構成タンパクをコードする後期mRNAが優先 的に核 外輸送され て翻訳される。しかしAU‑rich element (ARE)を持つmRNA は例外で、宿主のmRNAであるにも関わらず感染後期に核外輸送され安定化さ れ る 。RNA結 合 タ ン パ クHuRは 、 こ のAREに 特 異 的 に 結 合 し 、ARE‑mRNA を安定化する役割を果たしているが、アデノウイルス感染細胞でのHuRの働き は 、未 だ 明ら かにさ れていない 。HuRはま た、細胞質 顆粒構造体 のStress granule (SG)の構成タンパクであることが知られている。SGは、真核細胞が ストレスに暴露された時、細胞質内に形成される2種類の細胞質顆粒構造体の ー っ で 、mRNAとRNA結 合 タ ン パ ク が 集 合し て いる た めmRNP granulesと 呼ばれている。ストレスが緩和されるまでmRNAを一時保管する場となるのが SGで あ り 、mRNAを 分 解 す る 場 と な る の が も う 一 方 のmRNP granulesの P‑bodiesであ る 。っ ま りmRNAの 運 命は 、 この2っ のmRNP granulesにより 左右されることになる。ウイルスが感染した際、ウイルスの増殖にそれらの mRNP granulesが必要であることがいくっかのウイルスで知られているが、一 方では逆に、mRNP granulesが宿主のウイルス防御反応の一旦を担っていると す る 報 告 も あ る 。 し か し 現 在 ま で 、 アデ ノ ウイ ル ス 感染 に おけ るmRNP granulesについての報告はなされていない。

  本研究 は、アデノ ウイルス感染細胞におけるHuRおよびSGの挙動を明らか に し 、 こ れ ら の も つ 生 物 学 的 意 義 を 解 明 す る こ と を 目 的 と し た 。

  HeLa細 胞に野生型5型アデ ノウイルス(Ad5 wt300)を感染さ せ、24時間後 のHuRの局在 変化を免疫 染色法とウ エスタン法 で検討した 。その結果 、Ad5 wt300感染細胞では細胞全体のHuRタンパク量は感染後一貫して一定であるが、

核 内のHuR量 は感染後経 時的に減少 し、細胞質 のHuR量 は増加する ことがわ

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かった。このことは、Ad5 wt300感染細胞では感染後期にHuRが核外輸送され ることを示唆している。

  次に、このHuRの局在変化をもたらすウイルスの原因遺伝子を解明するため、

様々な遺伝子を欠失した変異型Ad5を感染させ、24時間後のHuRの局在変化を 免疫染色法で検討した。その結果、EIAを欠失した変異型Ad5 (d1312)感染細 胞のみでHuRの局在変化が認められなかった。さらにAd5 d1312感染細胞での HuRの 局 在 を ウ エス タン 法で検 討し たと ころ 、Ad5 d312感染 細胞で はAd5 wt300で認められる変化は見られなかった。よって、HuRの局在変化をもたら す ウイル スの 原因 遺伝子 の少なくともーっはロひであることが示された。

  EIAの影響をさらに検討するため、HeLa細胞にEIAを強制発現させ、HuRの 局在を免疫螢光染色法で観察した。するとEIAが細胞質に発現した細胞では、

感染時と類似したHuRの局在変化を再現することができた。この結果は、Ad5 wt300感染細胞でのHuRの局在変化が、EIAによってもたらされる可能性を強 く示唆している。

  HuRは先述のようにSGの構成タンパクとして機能しているため、次にアデノ ウイノレス感染細胞のSGの挙動にっいても検討を進めた。SGは細胞がストレスに 曝された際に細胞質内に出現するため、Oxidative stressである亜ヒ酸ナトリウ ム(以下、ヒ素と記す)を細胞に添加することでSGを形成させ、HuRを免疫螢 光染色することによりSGを観察した。通常の培養下では、ヒ素の添加によりほ ば全ての細胞でSGの形成が認められた。一方、Ad5 wt300感染細胞ではHuRの 局在変化が認められ、さらにヒ素を添加してもSGが形成されなかった。これに 対し、EIAを欠失したAd5 d1312感染細胞ではHuRの局在変化が認められず、さ らにヒ素の添加によりほぼすべての細胞でSGの形成が認められた。また、EIA を強制発現させたHeLa細胞にヒ素を添加し、免疫螢光染色にてHuRを観察した ところ、細胞質にEIAとHuRがともに多く存在する細胞ではSGの形成は認めら れなかった。以上の結果から、EIAが宿主細胞のSG形成を抑制することが明ら かとなった。

  本 研 究 で は 、ARE‑mRNAの 輸送 ・安定 化に 関連 するRNA結合 タンパ クHuR が、アデノウイルス感染後期の24時間後には細胞質でその発現が高くなり、HuR が核外輸送されていることが示唆された。また、HuRの核外輸送に必須なウイ ルス遺伝子産物はEIAであることが、ウイルス変異株を感染させた実験系でも、

EIAを強制発現させた実験系でも確認できた。これらの結果は、HuRを核外輸 送することが、これまで知られていなかったEIAの新たな機能であることを示 している。さらにEIAはアデノウイルスの複製に際して必須なウイルス遺伝子 産物であることから、HuRの核外輸送もまたアデノウイルスの複製において重 要である可能性が考えられる。

  ウ イ ル ス 感 染 後期 で はARE‑mRNAなら びに ウイ ルス 後期mRNAは 優先 的に 核外輸送され、また本研究で明らかになったようにHuRも細胞質にその局在を 移 す こ と か ら 、HuRはARE‑mRNAの 核 外 輸 送 の みな ら ず 、ウ イル ス後 期の mRNAの核外輸送にも関連している可能性がある。ウイルス感染後期には、宿 主 細胞の 大部 分のmRNAは核外 輸送が停止するため、ARE‑mRNAやウイルス後 期mRNAはそれらとは異なる核外輸送経路を利用しているはずである。従って、

ARE‑mRNAと ウ イ ル ス 後 期mRNAがHuRを 介 し た 輸 送 機 構 を 共 有 し て い て

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も全く不思議ではなく大変興味深い。

  本研究では、ウイルス感染後期にヒ素の刺激を細胞に加えてもSGの形成は観 察できなかった。本来、SGは細胞がストレスにさらされたときに、ポリソーム で 翻 訳 さ れ る べ きmRNAを 一 時 的 に 貯 蔵 す るmRNP granuleで あ り 、 ARE‑mRNAもSGに局 在すること が知られて いる。従っ て、もしSGがウイルス 感染後期に存在すると、ウイルス後期mRNAもSGの中に蓄積され、効率の良い 翻訳が妨げられると予想できる。EIAはこのことを防ぐために、SGを形成する こと を抑制し、 ウイルス後 期mRNAやARE‑mRNAの翻訳が効率よく行われるよ うにしていると考えられる。

  これまでRNAウイルスがSGを消失させたり、逆に出現させたりして自身の生 産を促進するという報告はあるが、DNAウイルスでSGの挙動が明らかになった のは本研究が最初である。現時点ではSGを消失させることがアデノウイルスの 生産効率にどのような影響を与えるかは明らかではないが、今後このことに答 えを出す必要があると思われる。

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学位論文審査の要旨

     学位論文題名

アデノウイルス感染による RNA 結 合夕 ンノヾ ク HuR の制 御

審査は、上記担当者が申請者に対して提出論文と関連事項にっいて口頭試問を行い進め られた。審査論文の概要は以下の通りである。

  アデノウイルス感染細胞では、感染後12時間以降の後期になると、大部分の宿主細胞 のmRNAの 核 外 輸 送は 停 止し 、ウ イルス の後 期mRNAが 優先的 に核 外輸 送さ れて翻 訳 さ れる。 しか し宿 主細 胞のAU‑rich element (ARE)を持つmRNAは例 外的に感染後期 に 核 外 輸 送 さ れ 安定 化 さ れ る 。RNA結 合 タ ン パクHuRは 、AREに 結合 し、ARE‑mRNA を安定化する役割を果たしているが、アデノウイルス感染細胞においての働きは未だ解明 されていない。HuRはまた、Stress granule (SG)の構成タンパクとして機能している。

SGは、細胞がストレスに暴露された時に細胞質内に形成されるmRNP granuleという細 胞質顆粒構造体のーっであり、ストレスが緩和されるまでmRNAを一時保管する場とな っている。ウイルス感染とこのmRNP granulesとの関連性がいくっか報告されているが、

現在までアデノウイルス感染におけるmRNP granulesについての報告はなされていない。

  本研究 は、アデノウイルス感染細胞におけるHuR茄よぴSGの挙動を明らかにし、こ れらのもつ生物学的意義を解明することを目的とした。

  HeLa細 胞に 野生 型5型ア デノ ウイル ス(Ad5 wt300)を 感染 させ、HuRの局在変化を 免疫染色法とウエスタン法で検討した。その結果、Ad5 wt300感染細胞では感染後期に HuRが核外輸送されることが示唆された。

  次に、このHuRの局在変化をもたらすウイルスの原因遺伝子を解明するため、様々な遺 伝子を欠失した変異型Ad5を感染させ、検討を行った。その結果、EIAを欠失した変異型 Ad5 (d1312)感染細胞ではHuRの局在変化が認められないことがわかり、ウイルスの原 因遺伝子の少なくともーっはEIAであることが示された。

  EIAの影響をさらに検討するため、HeLa細胞にEIAを強制発現させ、HuRの局在を免 疫螢光染色法で観察した。するとEIAが細胞質に発現した細胞では、感染時と類似した

政信 郎       一 善正 健 川藤 田 北進 柴 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副

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HuRの局在変化を再現することができた。これは、HuRの局在変化がEIAによってもた らされる可能性を、強く裏付けている。

  次にアデノウイルス感染細胞でのSGの挙動について検討した。Oxidative stressである 亜ヒ酸ナトリウム(以下、ヒ素と記す)を細胞に添加してSGを形成させ、HuRを免疫蛍 光染色することによりSGを観察した。通常の培養下では、ヒ素の添加によりほば全ての 細胞でSGの形成が認められた。一方、Ad5 wt300感染細胞ではHuRの局在変化が認めら れ、さらにヒ素を添加してもSGが形成されなかった。これに対し、Ad5 d1312感染細胞で はHuRの局在変化が認められず、ヒ素の添加ではほばすべての細胞でSGの形成が認めら れた。また、EIAを強制発現させたHeLa細胞にヒ素を添加すると、細胞質にEIAとHuR がともに多く存在する細胞ではSGの形成は認められなかった。以上の結果から、EIAが 宿主細胞のSG形成を抑制することが明らかとなった。

  ウ イル ス感 染後期 ではARE‑mRNA、ウイルス後期mRNA、また本研究で明らかになっ たよ うにHuRも細 胞質にその局在を移すことから、HuRはARE‑mRNAおよぴウイルス後 期mRNAの核外輸送に関連している可能性が示され、このためにEIAの働きが必要である と考えられた。

  また、ウイルス感染後期の細胞にヒ素を加えてもSGは形成されなかった。本来SGは、

mRNAを一 時保 管する 働きがあり、ARE‑mRNAもSGに局在することが知られている。従 って、もしSGがウイルス感染後期に存在すると、ウイルス後期mRNAもSGの中に蓄積さ れ、効率の良い翻訳が妨げられると予想できる。EIAはこれを防ぐためにSGの形成を抑 制し、結果として効率の良いウイルス後期mRNAとARE ‑mRNAの翻訳に寄与していると 考えられる。

  申請者による上記論文内容の説明後、本研究および関連事項にっいての口頭試問を行っ た。1)各ウイルス遺伝子産物の役割、2)炎症関連のARE ‑mRNAの例、3)HuRの機能、

4)mRNP granuleの種類と機能、5)EIA強制発現での局在パターンについて等に対する質 問に、申請者から適切な回答が得られ、研究の計画およぴ遂行において適切な知識と技能 を有すると判断した。

  申請者は本論文をさらに発展させた研究を継続しており、本論文およびこれらの研究は ウイルス学的・細胞生物学的に高く評価され得る研究と考えられ、博士(歯学)の学位に 値するものと認められた。

参照

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