はじめに
深在性真菌症は,一般に免疫不全患者に発症 する感染症であるが,一般細菌による感染症に 比較して稀であるために見過ごされがちな疾患 である.一方,超高齢社会に突入した我が国で は,呼吸器の基礎疾患を有する患者も増加し,
さらに医療技術の発展により免疫不全患者も増 加している.そのため,今後は,日常診療でも 深在性真菌症に遭遇する可能性がある.本稿で は,血行播種性肺カンジダ症,慢性進行性肺ア スペルギルス症(chronic progressive pulmonary aspergillosis:CPPA),肺クリプトコックス症に ついて概説する.
1.血行性播種による肺カンジダ症
1)カンジダ症の分類と原因菌
カ ン ジ ダ 症 は 酵 母 で あ る
Candida
属 に よ る 真菌症である.Candida albicans
やC. glabrata
,C. parapsilosis
等が原因菌となる.カンジダ症は,口腔粘膜カンジダ症や食道カンジダ症等の 表在性カンジダ症と,カンジダ血症やカンジダ 肝脾膿瘍,カンジダ眼内炎等の深在性カンジダ 症に分けられる.深在性カンジダ症は,我が国 の剖検輯報による内臓真菌症の原因別頻度で は,アスペルギルス症に次ぐ第 2 位に位置付け られているが,その発症頻度はアスペルギルス 症よりはるかに多く,菌血症の原因菌では3~5 位で,決して稀な原因微生物ではない.一方,
カンジダ属はヒトの常在菌であり,ヒトの皮膚 や消化管,粘膜,気道等に定着している.すな わち,カンジダ属は病原性を有するも限られて
大阪市立大学大学院臨床感染制御学
The 45th Scientific Meeting:Perspectives of Internal Medicine;Respiratory diseases to general physician~ the present situation and problems in super-aged society;4. Respiratory disease to consider constantly;2)The essence of the diagnosis for pulmonary mycoses.
Hiroshi Kakeya:Infection Control Science, Graduate School of Medicine Osaka City University, Japan.
常に考慮すべき呼吸器感染症
2)肺真菌症を疑うポイントと
診断のコツ
掛屋 弘 Key words 血行播種性肺カンジダ症,慢性進行性肺アスペルギルス症,肺クリプトコックス症
おり,原則として,健常者への感染症の原因菌 とはならない.その発症要因としては,好中球 減少や悪性腫瘍,外傷・熱傷等の宿主因子や,
血管内カテーテル留置や骨髄移植,ステロイ ド・免疫抑制薬等の医原的因子が挙げられる.
2)肺カンジダ症の特徴
カンジダ属は,経気道的に呼吸器感染症を起 こすことは非常に稀と考えられている.喀痰や 気道分泌物からカンジダ属が分離されることは 決して稀ではないが,呼吸器検体からカンジダ 属が培養された場合でも,侵襲性カンジダ症を 表していることはほとんどなく,抗真菌薬によ る治療を行うべきではないとされる.一方,カ ンジダ属は血行性感染で肺感染を起こし,肺内 に小粒状影を認めることがあるが,粒状影の分 布パターンに注目して鑑別を行う.気道の疾患 や肺動脈自体の病変では,「小葉中心性病変」を 示す.経気道感染の病変はtree-in-bud patternと も称されるが,病変は肺小葉の中心にあり,胸 膜から 2~3 mm離れ,胸膜には病変を認めな い.その代表が細菌性肺炎や気道散布性結核,
びまん性汎細気管支炎,過敏性肺臓炎等であ る.一方,血行性病変を示唆する小粒状影のパ ターンは「ランダム分布」である.血行性感染 の病変は肺小葉の中心にも小葉間隔壁にもあ り,胸膜にも病変が存在する.ランダム分布の 鑑別には,血行性肺転移や粟粒結核,血行性播 種による肺真菌症等が挙げられる.
血行性播種による肺カンジダ症を図 1に示 す.症例は70歳代の女性で,直腸癌及び肝転移 に対する化学療法後,消化管出血にて入院中に 発熱があり,血液培養で
C. albicans
が検出され た.胸部CT(computed tomography)ではラン ダム分布で多発する小粒状影を認め,血行播種 性肺カンジダ症と診断された症例である.広域 抗菌薬に不応で,治療薬を抗真菌薬に変更後に 改善した.その確定診断は肺病理組織による が,気管支鏡検査や手術を実施できる患者は少 ない.そのため,血液培養やβ
グルカン検査,胸部 画像所見等にて臨床的に診断されることが多い.近年は,中心静脈(central venous:CV)カ テーテルやCVポートによる輸液管理が在宅診 療で行われている.そのような背景を有し,抗 図 1 血行播種性肺カンジダ症の胸部 CT
ランダム分布
・主に血行性の病変
・血行性肺転移
・粟粒結核
・粟粒真菌症 70歳代,女性 基礎疾患:直腸癌・肝転移 化学療法後,CVポート,尿路
カテーテル留置中
菌薬不応で胸部CTにてランダム分布パターン の小粒状影を呈する患者では,血行播種性肺カ ンジダ症も念頭に置いて血液培養や
β
グルカン 検査を実施し,その診断に努めることが求めら れる.2. 慢性進行性肺アスペルギルス症(CPPA)
1)肺アスペルギルス症の分類とCPPAの定義 肺アスペルギルス症は,糸状菌のアスペルギ ルス属による真菌症である.その原因真菌とし て,
Aspergillus fumigatus
やA. niger
,A. terreus
等が挙げられる.肺アスペルギルス症は,その 病態により侵襲性肺アスペルギルス症(invasive pulmonary aspergillosis:IPA),単純性肺アスペ ルギローマ(simple pulmonary aspergilloma:SPA),CPPA,アレルギー性気管支肺アスペルギ ル ス 症(allergic bronchopulmonary aspergillo-
sis:ABPA)に分類される.なかでも,CPPAは 陳旧性肺結核や肺非結核性抗酸菌(nontubercu- lous mycobacteria:NTM)症,慢性閉塞性肺疾 患(chronic obstructive pulmonary disease:
COPD),胸部外科手術後,間質性肺炎等の肺の 基礎疾患を有する患者に,① 1 カ月以上続く咳 嗽や喀痰,発熱等の症状を有し,②慢性進行性 の肺の空洞影や胸膜肥厚,空洞壁の肥厚等の画 像所見を有し,③抗菌薬や抗抗酸菌薬が無効 で,④炎症反応亢進を示す疾患である.さらに,
培養検査やアスペルギルス抗原検査,沈降抗体 検査等でアスペルギルス属の関与を証明する
(図 2).その患者数は世界中に 300 万人いると 推定されているが,我が国でも 5 年間の発症率 は 人 口 10 万 単 位 2.5 人 と 推 定 さ れ て い る
(https://www.gaffi.org/why/burden-of-disease- maps/cpa-prevalence/).その5年生存率は18%1)
~49.8%2)と予後不良の疾患である.
CPPAは,海外では慢性肺アスペルギルス症 図 2 慢性進行性肺アスペルギルス症の胸部 CT の変化
70 歳代男性.基礎疾患:COPD,食道癌術後,血清アスペルギルス抗原陰性,沈降抗体陽性.
2年前 1年半前
1年前 半年前 入院時
(chronic pulmonary aspergillosis:CPA)と総称 されている.CPAには,SPA以外にも,慢性空洞 性肺アスペルギルス症(chronic cavitary pulmo- nary aspergillosis:CCPA)や慢性壊死性肺アス ペ ル ギ ル ス 症(chronic necrotizing pulmonary aspergillosis:CNPA)等の疾患が含まれる.CCPA とCNPAの臨床的鑑別は困難であることや,治療 に関しても明確な差異がないことより,両者を 統 合 し た 疾 患 群 と し て,2014 年 に 我 が 国 で CPPAが提唱された3).
2)CPPAの基礎疾患
CPPAの基礎疾患として,COPDやNTM症が注 目される.我が国の 40 歳以上の人口の 8.6%,
約 530 万人,70 歳以上では約 210 万人のCOPD 患 者 が 存 在 す る と 推 定 さ れ て い る(Nippon COPD Epidemiology Study:NICE Study)4). 一 方,我が国の肺NTM症の罹患率は10万人あたり 14.7 人(2014 年)と推定されているが,NTM 症患者は近年急速に増加しており,結核の罹患 率を初めて上回った5).NTM症にCPPAを合併す る割合は3.9%6)~6.8%7)と報告されている.ま た,CPPAのなかでNTM症が基礎疾患である割合 は11.5%8)~35.7%1)と報告されており,NTM症 はCPPAの基礎疾患として重要である.さらに,
COPD(HR 1.57,95%CI 1.05~2.36,P=0.029)
やNTM症(HR 2.07,95%CI 1.22~3.52,P<
0.001)はCPPAの予後増悪因子であり9),基礎 疾患の管理とともにCPPAの合併に気をつけな ければならない.NTM症に合併するCPPAは,発 症までに平均1.3年9)~7年6)とされている.COPD やNTM症の長期の治療経過中にCPPAを発症する 可能性を考えたマネジメントが求められる.
そのマネジメントには,基礎疾患や画像所 見,慢性進行性の経過等のCPPA発症のリスク ファクターを早期に気付くことが重要である が,良いバイオマーカーがないのが現状であ る.CPPA患者における血清ガラクトマンナン抗 原や血清
β
グルカン検査の陽性率は高くない.一方,慢性の経過を反映するアスペルギルス沈 降抗体検査の陽性率が高い(約90%)ことが知 られているが,残念ながら本検査は未だ保険収 載されてない.真菌培養の陽性率は50%程度で あるが,繰り返して喀痰培養検査を試みること は,原因菌種を明らかとし,薬剤感受性検査に つながる一歩となる.しかしながら,薬剤感受 性検査を実施できる施設は限られる.その背景 には,糸状菌の薬剤感受性検査が保険適用と なっていないことも要因と考えられる.全国の 拠点施設での薬剤感受性検査を実施できる検査 体制の充実が求められる.
3. 肺クリプトコックス症
(pulmonary cryptococcosis)
1)肺クリプトコックス症の特徴
クリプトコックス症は,酵母であるクリプト コックス属による真菌症で,その代表真菌とし て,
Cryptococcus neoformans
やCr. gattii
が挙げ られる.ヒトは,主に土壌等の環境中に棲息す るCryptococcus
属 を 経 気 道 的 に 吸 入 す る こ と で,肺クリプトコックス症を発症する.その他,皮膚創傷部位由来の皮膚クリプトコックス症も 知られている.また,
Cryptococcus
属は肺に吸 入され,後に血行性に脳に播種し,クリプトコッ クス脳髄膜炎を発症する.さらに高度な免疫不 全状態では,骨や皮膚,他の臓器に全身播種を 来たすこともある.クリプトコックス症は生命に関わる真菌感染 症のなかで最も発症数が多く,世界中で年間推 定 100 万例を超え,その死亡率は 20~70%と 報告されている.その発症数には,アフリカ におけるAIDS(acquired immunodeficiency syn- drome)患者に発症するクリプトコックス脳髄 膜炎患者数が関連している.我が国の発症数は 不明であったが,2014年9月に致命的な「播種 性クリプトコックス症」が感染症の予防及び感
染症の患者に対する医療に関する法律(感染症 法)の 5 類全数把握疾患に指定され,発症数が 把握されている.届出における定義は「
Crypto-
coccus
属真菌による感染症のうち,本菌が髄液,血液などの無菌的臨床検体から検出された感染 症又は脳脊髄液のクリプトコックス莢膜抗原が 陽性となった感染症である」とされる.全数報 告となった 2014 年第 39 週~2015 年第 37 週に お い て 123 例( 病 原 微 生 物 検 出 情 報 Vol. 36 No.10, 2015),2017 年も第 50 週までに 128 例 の届出がされている.
クリプトコックス症は細胞性免疫不全を有す るヒトに発症し,AIDSの指標疾患の 1 つとして
「クリプトコックス症(肺以外)」が挙げられて いる.一方,非HIV患者の肺クリプトコックス 症 151 例の我が国の検討では,その他の基礎疾 患として,糖尿病(32.1%),血液疾患(22.6%),
膠 原 病(22.6%), 腎 疾 患(17.6%), 固 形 癌
(13.1%),気管支拡張を含む慢性呼吸器疾患・
陳旧性肺結核・間質性肺炎(13.1%),肝疾患
(9.5%)等が挙げられるが,全体の 44.4%には
明らかな基礎疾患が認められなかった10). 2)肺クリプトコックス症の画像所見(図3)
肺はクリプトコックス属の侵入門戸である.
そのため,肺クリプトコックス症として発見さ れることが多い.胸部CTでは,孤立性もしくは 多発性結節影や浸潤影が主な所見であるが,稀 に小粒状影やすりガラス影等の多彩な画像所見 を呈することが知られている.その画像所見は 宿主の免疫応答を反映する.クリプトコックス の感染防御に重要な細胞性免疫が保たれていれ ば,肉芽腫を形成して結節影を呈する.結節影 は空洞を伴うことも多く,肺結核症等の鑑別に 挙げられる.空洞形成は,肉芽腫が時間の経過 と共に線維化や肉芽腫病変自体の凝固壊死が中 心部から進行し,壊死組織の構造破綻と排出に より作られると考えられる.その他,結節影は 時にspiculationを伴って肺腺癌とも鑑別され,
肺癌を疑われて実施された手術後に本症が明ら かとなることも経験される.また,肺クリプト コックス症は市中肺炎と鑑別される浸潤影を呈 図 3 肺クリプトコックス症
胸膜直下の結節影や 空洞影が特徴的
細胞性免疫
の低下 細胞性免疫 IFN-γ,TNFα,
IL-2,IL-12 CMVやPCPとの重複感染も考慮
肉芽腫形成あり 肉芽腫形成なし
すりガラス影
浸潤影 脳髄膜炎
免疫応答
する.一般に,浸潤影は軽度の免疫不全状態で みられるが,健常者でもみられることがある.
さらなる高度な免疫不全では,小粒状影やすり ガラス影を呈することが知られている.それら の陰影の形成には,肉芽腫が形成され難い宿主 側,あるいは菌側の要因が関与している.宿主 側の要因では,ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)や大量のステロ イド投与等が知られている.また,大食細胞や CD4 リンパ球等の主要な感染防御担当細胞の機 能低下や分子レベルでの防御機構の欠落等の機 能低下が関与する.一方,菌側の要因としては,
宿主免疫認識能からの回避機構の獲得が示唆さ れる.特に高病原性の
Cr. gattii
の一部の株(VGII のある種)は,宿主認識能からの回避機構が発 達している可能性がある.非HIV患者における肺クリプトコックス症の CT画像所見の検討(81症例;基礎疾患あり:基 礎疾患なし=39:42)では,孤立性結節影(23 例)や多発性結節影(54 例),浸潤影(10 例)
が認められた.陰影の性状と基礎疾患の有無に は統計学的有意差は認められなかったが,基礎 疾患を有する群では,病変が右中葉に多く分布
し,気管支透亮像と径30 mm以上の病変が多く 認められる傾向にあった.
肺クリプトコックス症のスクリーニングに は,血清クリプトコックス(グルクロノキシロ マンナン)抗原検査が有用である.本検査の感 度(80~100%) 及 び 特 異 度(約 90%) は 高 く,結節影や空洞影,抗菌薬で改善に乏しい浸 潤影等の多彩な陰影の鑑別疾患に本症を挙げ て,血清抗原検査の要否を判断することが望ま しい.その抗原価と陰影の性状の関係を調べた 検討では,浸潤影を呈する症例群では孤立性及 び多発性結節影を呈する症例に比べ,有意に高 値を示すことが示されている10)(図 4).また,
15 mm以下の結節影では,抗原検査が陰性を呈 することも知られ3),血清抗原価は体内の菌量 をある程度反映している可能性が示唆される.
一方で,治療期間の決定には血清抗原価の陰性 化を目安としない.肺クリプトコックス症の確 定診断は,真菌学的検査や病理組織学的検査に よってなされる.よって,気管支鏡検査等によ り積極的に確定診断を行うこと,さらには,ク リプトコックス脳髄膜炎の合併の有無を確認す ることが重要である.
おわりに
在宅医療や高齢者施設で経静脈栄養管理が実 施される高齢者も多い.また,COPDやNTM症 を基礎疾患に有する患者は相当数いると考えら れる.また,移植や免疫抑制薬,生物学的製剤 等の医療技術の発展によって免疫不全患者はま すます増加し,日常臨床の現場でも深在性真菌 症に遭遇する機会が増えることが推察される.
そのため,それらの基礎知識に精通しておくこ とが求められる.
著者のCOI(conflicts of interest)開示:掛屋 弘;講演 料(MSD,大日本住友製薬,ファイザー)
図 4 陰影とクリプトコックス血清抗原価の関係
(脳髄膜炎合併症例を除く)
孤立性結節影
(n=23)
10 8 6 4 2 0
多発性結節影
(n=54)
(n=10)浸潤影 クリプトコックス血清抗原価 (Log2[Antigen titer + 1])
N.S.
P<0.05 P<0.01
文 献
1) Ohba H, et al : Clinical characteristics and prognosis of chronic pulmonary aspergillosis. Respir Med 106 : 724―
729, 2012.
2) Nakamoto K, et al : Prognostic factors in 194 patients with chronic necrotizing pulmonary aspergillosis. Intern Med 52 : 727―734, 2013.
3) 深在性真菌症のガイドライン作成委員会編:深在性真菌症の診断・治療ガイドライン 2014, 2014.
4) Fukuchi Y, et al : COPD in Japan : the Nippon COPD Epidemiology Study. Respirology 9 : 458―465, 2004.
5) Namkoong H, et al : Epidemiology of pulmonary nontuberculous mycobacterial disease, Japan. Emerg Infect Dis 22 : 1116―1117, 2016.
6) 石川成範,他:肺アスペルギルス症を合併した非結核性抗酸菌症の臨床的検討.結核 86 : 781―785, 2011.
7) 藤内 智,他:非結核性抗酸菌症を背景因子とする慢性壊死性肺アスペルギルス症.結核 83 : 573―575, 2008.
8) Lowes D, et al : Predictor of mortality in chronic pulmonary aspergillosis. Eur Respir J 49, 2017.
9) Takeda K, et al : The risk factors for developing of chronic pulmonary aspergillosis in nontuberculous mycobac- teria patients and clinical characteristics and outcomes in chronic pulmonary aspergillosis patients coinfected with nontuberculous mycobacteria. Med Mycol 54 : 120―127, 2016.
10) Kohno S, et al : Clinical features of pulmonary cryptococcosis in non-HIV patients in Japan. J Infect Chemother 21 : 23―30, 2015.