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日本内科学会雑誌第106巻第11号

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Academic year: 2022

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(1)

はじめに

 中性脂肪蓄積心筋血管症(triglyceride deposit cardiomyovasculopathy:TGCV)は,2008 年に 我々が心臓移植待機症例より見出した新規疾患 概念である1,2).正常心では,エネルギー源とし て利用される長鎖脂肪酸(long-chain fatty acid:

LCFA)が細胞内代謝異常のため利用できず,心 筋細胞3),血管平滑筋細胞(smooth muscle cells:

SMCs)4)にTG(triglyceride)として蓄積し,重 症の心不全,冠動脈疾患,不整脈等を呈する5,6)

(図1).心筋細胞やSMCsに「異所性に」TGが蓄 積することを特徴とする病態であり,生理的貯 蔵組織におけるTG蓄積の多寡を反映すると考 えられるBMI(body mass index),体重,肥満等 とは必ずしも相関を認めない.また,細胞内代 謝異常に基づくため,血清TG値とも直接的な関

連はない.

 本稿では,発端者との遭遇から我々が行って きた病態解析,診断法・治療法の開発について 述べる.

1.‌‌発端者との遭遇,病態仮説の構築,‌

原因遺伝子の同定

 症例は 40 歳代の男性(図 2).30 歳代で息切 れのため当院受診.拡張型心筋症様の表現型を 認めた.進行性の心不全で移植待機をしてい た7).末梢血顆粒球,心筋及び骨格筋に脂肪蓄 積による空胞を認めた.重症不整脈に対する埋 込み型除細動器の手術の際に同意を得て皮膚線 維芽細胞を得た.

in vitro

実験の作業仮説を構築 するために重要だったのは,LCFAアナログであ る iodine-123-

β

-methyl iodophenyl-pentadeca-

大阪大学附属病院循環器内科,大阪大学医学系研究科CNT研究室,日本医療研究開発機構TGCV研究班 研究開発代表者 Special Article;Triglyceride deposit cardiomyovasculopathy, TGCV―To overcome this intractable disease one day sooner―.

Ken-ichi Hirano:Department of Cardiovascular Medicine, Osaka University Hospital, Japan, Laboratory for Cardiovascular Disease, Novel, Non-in- vasive, and Nutritional Therapeutics (CNT), Graduate School of Medicine, Osaka University, Japan and The Principal Investigator for Rare/

Intractable Disease Project for TGCV from the Japan Agency for Medical Research and Development, AMED, Japan.

中性脂肪蓄積心筋血管症

―この難病を1日でも早く克服する―

要 旨

平野 賢一  中性脂肪蓄積心筋血管症(triglyceride deposit cardiomyovasculopa-

thy:TGCV)は,我々が2008年に心臓移植待機症例より見出した新規疾患 概念である.細胞内代謝異常の結果,心筋細胞及び血管平滑筋細胞に中性 脂肪(triglyceride:TG)が蓄積する.TGCVは既存の内科的・外科的治 療に抵抗性を示す心不全,冠動脈疾患・不整脈症例に少なからず存在する.

TGCV研究班の使命は「1日でも早くこの難病を克服する」ことであり,治 療法の実用化を加速するため,症例登録・情報提供等をお願いしたい.

〔日内会誌 106:2385~2390,2017〕

Key‌words adipose triglyceride lipase,triglyceride deposit cardiomyovasculopathy(TGCV),

中鎖脂肪酸,中性脂肪蓄積心筋血管症,中性脂肪蓄積型動脈硬化

(2)

noic acid (BMIPP)シンチグラムのwashout rate

(WOR)の著減である(図2右上).「正常心の主 要エネルギー源であるLCFAが利用できず細胞 内にTGとして蓄積する」という仮説で,セルラ

イン化した細胞をモデルに実験を行った.本症 由来培養皮膚線維芽細胞ではLCFAを利用でき ず,TGとして脂肪滴に蓄積すること,アポトー シスを誘導して細胞死を来たすことを見出し た5).さらに,細胞内TG増加にもかかわらず,

その基質であるLCFA取り込みが増加するposi- tive feedback機 構 が 存 在 す る こ と も 発 見 し た

(図 3).同時に原因遺伝子探索を進め,マイク ロアレイを用いた網羅的解析,細胞内TG代謝関 連遺伝子のショットガン解析等を併用して,最 終的に細胞内TG加水分解の律速酵素であるadi- pose triglyceride lipase (ATGL)のloss-of-function mutationのホモ接合体であることを見出した.

ほぼ同時期に入院し,同様の表現型を持ち,既 に心臓移植を受けていた別の症例のゲノム解析 図 1 中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)

細胞内TG代謝異常

TG TGTG TGTG

心筋障害心不全 血管障害

動脈硬化 遺伝的ATGL欠損症 等

心筋へのTG蓄積 血管へのTG蓄積

図 2 原発性 TGCV 症例の臨床・病理像

早期像 後期像 WOR-2.3%

原発性TGCV 発端者

40歳代 男性 うっ血性心不全

BMIPPシンチグラム

心筋生検

オイルレッドO

摘出心冠動脈のマクロ像(右)

びまん性狭窄を呈する

TG蓄積型動脈硬化(本症) コレステロール沈着型 動脈硬化

(3)

においてATGL遺伝子のホモ型変異を見出し,そ の摘出心を入手して病理学的解析を行った1,4,5)

2.TGCVの命名の由来

1)TG蓄積型動脈硬化の発見

 摘出心の冠動脈の脂肪染色は極めて特徴的な 所見を示した.通常のコレステロール沈着型動 脈硬化では内膜のマクロファージが泡沫化し,

偏心性・局所的狭窄を認めるのに対し(図 2 右 下),本症では,内皮細胞・内膜・中膜・外膜と 全層に泡沫細胞が存在した.主な細胞成分は SMC,内皮細胞であり,求心性びまん性狭窄を 呈した(図2右中,右下).この時点で既に細胞 内TG分解酵素ATGLの遺伝的欠損症であること を見出していたため,「脂肪染色陽性を示す脂質 はコレステロールではなくTGの可能性がある」

と考え,本症摘出心と通常の動脈硬化症を有す る摘出心の冠動脈のコレステロール含量,TG含 量を比較検討し,本症例において冠動脈に蓄積 する脂質はTGであることを見出した1).その後,

我々はTGを蓄積した血管内皮細胞やSMCは

in vitro

の実験においてNF-

κ

B(nuclear factor-

κ

B)

シグナルが増強していることや,IL(interleukin)- 6 の発現増強,コラーゲンタイプIの発現低下等 pro-inflammatory,vulnerableな性質を有してい ることを報告した.

2)剖検心を用いたスクリーニング

 「心筋と冠動脈にTGが蓄積する」という表現 型が他の症例でも観察し得るか否かについて剖 検心のスクリーニングを行った8).TG代謝異常 であること,難治性の心血管病であること,び まん性の冠動脈硬化病変を来たすこと等,糖尿 病性心血管病とのアナロジーに着目して,当初 は糖尿病剖検例に焦点を絞って検討した.その 結果,一定の割合でこの表現型を示す症例が存 在すること,特にKimmelstiel-Wilson病変を持つ 糖尿病剖検例の数割程度は「心筋と冠動脈にTG が蓄積する」表現型を示すことが明らかになっ た.剖検心のATGL免疫交差反応は保たれている こと等から,遺伝的ATGL欠損症は否定された.

TGの組織内空間分布を質量顕微鏡で検討する と,TGは心筋細胞,冠動脈の中膜やfibrous cap に存在するSMCに分布していた(図4右).これ らの症例は冠動脈の多枝病変を持ち,バイパス 術や複数回のインターベンションにも抵抗性を 図 3 TGCV の病態モデル仮説

長鎖脂肪酸の利用異常(energy failure)と脂肪蓄積(lipotoxicity)

PPARγ:peroxisome proliferated activated receptor-γ TG

正常

β―酸化 長鎖脂肪酸

ATGL 長鎖脂肪酸

ミトコンドリア 症例

β―酸化

ミトコンドリア TG

ATGL欠損 加水分解

↑PPARγ

↑CD36 長鎖脂肪酸

positive feedback

(4)

示した症例であった.

 以上のデータや観察を基盤として,新規疾患 概念「中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)」と命 名し,報告した1,2)

3.診断手引き・診断基準

 2009年,厚生労働省難治性疾患克服研究事業 研究奨励分野として中性脂肪蓄積心筋血管症研 究班を立ち上げ,その発足から 6 年目に研究成 果をまとめ,診断の手引き・基準を公表した(現 在,第4版)(http://www.cnt-osaka.com/TGCV診 断手続き第4版.pdf).

 研究班組織は,全国規模かつ種々の領域のス ペシャリストから構成している(http://www.

tgcv.org/introduction/index.html).

1)TGCVの分類・疫学・予後

(1)原発性TGCV

 原因はATGLの遺伝子変異であり,ホモ接合体 はTGCVを発症する.我が国で7例(生存は2例,

5 例は既に死亡),世界的にみて 40 例程度が報 告されている9).本症の心筋病変は,肥大型心 筋症様,拡張型心筋症様,いずれの表現型も呈 し得る6).遺伝的ATGL欠損症では骨格筋ミオパ チーを合併する.ヘテロ接合体の表現型は未だ 不明である.

(2)特発性TGCV

 心臓死した剖検心の解析から見出した病態 で8),原発性と同様に,心筋及び冠動脈SMCに中 性脂肪が蓄積している.原発性とは異なり,

ATGL遺伝子は欠損していない.症例の表現型を 図 4に示す.糖尿病の合併例が多いが,非合併 図 4 特発性 TGCV の臨床・病理像

PCI:percutaneous coronary intervention,CABG:coronary artery bypass grafting 特発性TGCVの1例

60歳代で心筋梗塞.

その後,1年間で4度 のPCI.CABGも実施.

早期像 後期像 WOR -2.6%

Fibroatheroma Complicated lesion

HE HE

C D

TG TG

A B

質量顕微鏡像(TGは赤色で表示,下段)

BMIPPシンチグラム

びまん性,枯れ枝状の 冠動脈造影

特発性TGCVの剖検例 38歳,男性.

冠動脈のマクロ像.

求心性びまん性の 狭窄を呈する.

(5)

例も存在する.現在のところ,遺伝的原因は不 明で,heterogeneousな集団と考えられる.我が 国における潜在患者数は4~5万人と推定される.

 原発性・特発性共に,これまで診断し得た症 例の予後は厳しい.

2)TGCVの臨床症状

 生来健康で,主として成人以降から壮年期で 心症状が出現すると考えられる.心不全や狭心 症状は,既存の内科的・外科的治療に抵抗性を 示す.心肺停止の既往を持つものが多く,突然 死例の報告もある.

3)診断基準(第4版)

 診断基準は,2 項目から成る大項目(2 点),

2 項目から成る小項目(1 点)のうち,4 点以上 で確診例,3 点で疑診例とする(表).

 大項目として,心筋病変と冠動脈病変を検討,

小項目として,末梢血顆粒球細胞質内の空胞形 成(Jordans異常と呼ぶ)10),糖尿病の有無を検 討する.特発性TGCVにおけるJordans異常は微 細な空胞を示すため,その解析には技術的ポイ ントがある10).細胞内TG代謝異常である本症で は,別の酵素系で代謝調節を受けている血中の

TG値(高TG血症)とは直接的な関連はない.

4.‌‌TGCVと中性脂質蓄積症‌

(neutral‌lipid‌storage‌disease:NLSD)

 NLSDは,魚鱗癬を持つNLSD-ichthyosis (NLSD-I)

と 骨 格 筋 ミ オ パ チ ー を 呈 す るNLSD-myopathy

(NLSD-M)が知られている.前者はATGLの補酵 素であるCGI-58の変異,後者はATGLの変異が原 因 で あ る. 遺 伝 的ATGL欠 損 症 で あ る 原 発 性 図 5 TGCV と中性脂質蓄積症

(neutral lipid storage disease:NLSD)

ミオパチーを伴う 中性脂質蓄積症

(NLSD-M) 中性脂肪蓄積心筋血管症

(TGCV)

原発性TGCV

患者数:我が国 生存2例,死亡5例 グローバル 40例程度

特発性TGCV

ATGL変異は認めない.

患者数:剖検心の 解析から我が国で,

4 ~ 5万人と推定.

魚鱗癬を伴う 中性脂質蓄積症

(NLSD-I)

CGI-58変異

ATGL変異 表 TGCV 診断基準(第 4 版)(日本医療研究開発機構 TGCV 研究班)

項目 臨床所見

大項目(2 点) 1. BMIPP シンチにおける WOR の低下(WOR<10%)或いは心筋における TG 蓄積

(CT や MR spectroscopy,心筋生検(1))

2. びまん性冠動脈硬化(心臓 CT,MRI,CAG)(2)

小項目(1 点) 1. Jordans 異常(末梢血 多形核白血球に大きさ約 1 μm の空胞を認める)(3)

2. 糖尿病を有する(4)

判定 4 点以上 確診例.

ATGL 遺伝子変異を認めない場合,特発性 TGCV とする(5).

3 点 疑診例.

(1) 組織内の中性脂肪はパラフィン切片ではなく,凍結切片やオスミウム処理で脂質の溶出を防止する必要 がある.

(2)有意狭窄の有無は考慮しない.

(3)判定困難な場合は,末梢血メイギムザ標本スライドを研究班で判定する.

(4)日本糖尿病学会 糖尿病診断基準による.

(5)ATGL 遺伝子解析の機会がない場合は,研究班にて臨床所見を踏まえて判断する.

(注)多核白血球の ATGL 活性,冠動脈定量的 CTA 法,ATGL 遺伝子解析は研究班で実施可能である.

(6)

TGCVとNLSD-Mにはオーバーラップが存在する

(図 5)9)

5.‌‌中鎖脂肪酸(medium‌chain‌fatty‌acid:

MCFA)を用いた新たな医療開発

 我々は,TGCVで蓄積したTGを減少させると共 に,エネルギー不全を改善させるMCFAの成分を 高純度精製,カプセル化した医薬品として治験 薬(CNT-01),食品グレードカプセル(CNT-02)

をアカデミア開発した.当大学医学部附属病院 薬剤部においてGMP(Good Manufacturing Prac- tice)製造・管理し,特発性TGCV症例を対象とす るfirst-in-humanの 医 師 主 導 治 験 を 実 施 し た

(ClinicalTrials.gov Identifier:NCT02502578).

 また,2014 年の「世界希少・難治性疾患の 日」(Rare Disease Day,2 月 28 日)に 9 カ国の 運営委員会メンバーからなる国際レジストリー を 立 ち 上 げ た(http://www.tgcv.org/r/home.

html).CNT-02を用いて,原発性TGCV/NLSD-M 症例を対象としたグローバル臨床研究を開始し

た(ClinicalTrials.gov Identifier:NCT 02830763).

おわりに

 極 希 少 な 遺 伝 子 異 常 の 症 例 か ら 見 出 し た TGCVは,既存の治療法に抵抗性を示す症例中に 少なからず存在している.これまでの臨床治 験・臨床研究において有効性を示唆するデータ が得られており,1 日でも早くこの難病を克服 するため,症例登録・情報提供等,先生方にご 協 力 を お 願 い し た い(E-mail:registry@cnt- osaka.com).

謝辞 本研究は,2009 年から厚生労働省難治性疾患 克服研究事業,2015 年から日本医療研究開発機構 難治 性疾患実用化研究事業として実施した.TGCV研究班の メンバーの先生方,ご協力ご支援くださっている全ての 皆様に深謝致します.

著者のCOI(conflicts of interest)開示:平野賢一;寄附 金(日本メジフィジックス)

文 献

1) Hirano K, et al : Triglyceride deposit cardiomyovasculopathy. N Engl J Med 359 : 2396―2398, 2008.

2) Hirano K : A novel clinical entity : triglyceride deposit cardiomyovasculopathy. J Atheroscler Thromb 16 : 702―

705, 2009.

3) Hirano K, et al : Cardiomyocyte steatosis and defective washout of iodine-123-β-methyl iodophenyl-pentadeca- noic acid in genetic deficiency of adipose triglyceride lipase. Eur Heart J 36 : 580, 2015.

4) Ikeda Y, et al : A novel type of human spontaneous coronary atherosclerosis with triglyceride deposition. Eur Heart J 35 : 875, 2014.

5) Hirano K, et al : Genetic mutations in adipose triglyceride lipase and myocardial up-regulation of peroxisome proliferated activated receptor-γ in patients with triglyceride deposit cardiomyovasculopathy. Biochem Biophys Res Commun 443 : 574―579, 2014.

6) Higashi M, et al : Distinct cardiac phenotype between two homozygotes born in a village with accumulation of a genetic deficiency of adipose triglyceride lipase. Int J Cardiol 192 : 30―32, 2015.

7) 堀 正二:慢性心不全の病態と治療の新展開.日内会誌 98 : 2086―2100, 2009.

8) Ikeda Y, et al : Coronary triglyceride deposition in contemporary advanced diabetics. Pathol Int 64 : 325―335, 2014.

9) Kaneko K, et al : A novel mutation in PNPLA2 causes neutral lipid storage disease with myopathy and triglyceride deposit cardiomyovasculopathy : a case report and literature review. Neuromuscul Disord 24 : 634―641, 2014.

10) 鈴木 朗、他:中性脂肪蓄積心筋血管症における末梢血顆粒球の空胞について.臨床病理 65 : 6―10, 2017.

 

参照

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