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Citation 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 72(1): 55‑68

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Author(s) 齋藤, 征人; 金, 鉉善; 根本, 直樹

Citation 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 72(1): 55‑68

Issue Date 2021‑08

URL http://s‑ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/12080

Rights

(2)

ソーシャルクリニック巡回型サテライト・オフィスによる地域課題解決の可能性

齋藤 征人・金  鉉善・根本 直樹**

北海道教育大学函館校社会福祉学研究室

北海道教育大学函館校法学研究室

**元北海道教育大学函館校地域学研究室

PossibilityofSolvingRegionalIssuesby“SocialClinic”(VisitingStyleofSC)

SAITOMasato,KIMHyunsunandNEMOTONaoki**

DepartmentofSocialWelfare,HakodateCampus,HokkaidoUniversityofEducation

DepartmentofLaw,HakodateCampus,HokkaidoUniversityofEducation

**formerDepartmentofRegionalStudies,HakodateCampus,HokkaidoUniversityofEducation

概 要

 近年,地域の実情を適切に見立て,住民をエンパワメントする中間支援的な機能や人づくり に,大学と地域の協働によって取り組む事例が各地に拡がりつつある。「ソーシャルクリニック」

は,地域社会の課題に対するニーズのくみ上げ,診断,処方,治療を行うための仕組みである。

北海道教育大学函館校では,ソーシャルクリニック・モデルの汎用化と,道南のさまざまな地 域への応用を目指して2018年から「ソーシャルクリニック巡回型サテライト・オフィス」を開 始した。本稿では,2018年11月19日~2020年12月23日までの計19回の実施において出された参 加者からの意見をまとめて分析し,その結果から今後のソーシャルクリニック巡回型サテライ ト・オフィスの方向性を再確認した。各分野群に共通していたのは,即戦力としての学生の力 を活用したいという声があったことと,そうした学生の柔軟な発想と行動力を生かして,新た なアイディアやプログラム開発への意欲や期待の声があったことなどで,いわばイノベーティ ブな人材養成への期待といえる。

はじめに

 人口減少および少子高齢化に伴う地域の多様な課題に,地域住民が向き合い,解決に向けた取り組みを進 めるための仕組みづくりについて,近年関心が高まりつつある。

 例えば,過疎地域における地域包括ケアシステム構築の課題を検討した小松(2016)は,過疎化・高齢化 が進み限界集落に該当する2つの集落を取り上げ,住民らによる相互支援体制の課題について,とりわけそ

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の体制を支援する方法論上の課題を提起している。小松(2016)によれば,先にあげたような集落では,時 間の経過とともに「自立的に相互支援が成立する段階」から「一人(ないしは数人)の強力なキーパーソン の存在によって相互支援が成立する段階」へ,さらには「相互支援の成立が困難な段階」へと進行するとい う。そのため,集落がどの段階にあるか適切に診断すること,支援の方法を見極めることがもっとも重要だ と指摘する。また,住民相互の支援を継続的にしていくには,支援のキーパーソンと制度によるサービスと の間で,その時々の状況に応じて支援を融合させるための機能が必要であるとして,複数の事例から中間支 援機能の必要性を示唆している。

 地域を適切に診断する(見立てる)ための方法や,住民をエンパワメントする中間支援的な機能のあり方,

そのためにはどんな人材が必要か。本稿では,このような問題意識のもとで開発してきた,筆者らが所属す る北海道教育大学函館校(以下,函館校)のソーシャルクリニック(以下,SC)モデルの汎用化と,道南 のさまざまな地域への応用を目指して2018年から開始したソーシャルクリニック巡回型サテライト・オフィ ス(以下,巡回SC)の展開によって,地域にはどんなニーズがあり,また大学は地域にどんな期待をかけ られているのかを明らかにすることで,大学の知的・人的資源と地域住民による有機的コラボレーションを 進めるための示唆を得ることとしたい。

 第1章(金)では,SCモデルの汎用化への必要性について述べる。これまでSCが目指してきたものを整 理し,SCの事業のうち江差町の「まちづくりカフェ」と巡回SCとの関係性から見えてきたSCモデルの汎用 化と道南のさまざまな地域への応用の必要性について取り上げる。

 第2章(齋藤)は,「巡回SC」の実践報告である。ここでは,2018年11月19日~2020年12月23日までの計 19回の巡回SCにおいて出された参加者からの意見をもとに,①大学全般,②観光,③まちづくり,④福祉,

⑤教育に分けて分析し,その結果を整理する。これは,巡回SCの中間点検としての意味を持ち,さらには 今後に向けての巡回SCの方向性を模索するうえで必要不可欠な作業である。

 第3章(根本)では,第2章の分析結果をふまえて,巡回SCのこれからの方向性を確認する。本章は,

巡回SCの基本的な関係を保持している市民・自治体・大学の関係性を重視しており,三者それぞれの立ち 位置の確認,重なりにおける3つの概念の整理,共有したい目標のイメージの整理が目的である。その3つ の観点からそれぞれの現状や課題の把握,これからの方向性,実践における拡張性について説明する。

 最後に,これまでの巡回SCを考察し、これからの巡回SCによる地域課題解決の可能性,すなわち大学の 知的・人的資源と地域住民による有機的コラボレーションを進めるための示唆を提示する。

第1章 SCモデルの汎用化への必要性

1.これまでSCが目指してきたもの

 「開かれた大学」や「大学開放」などから窺えるように,近年,社会が求める大学の役割に変化が見られ る。従来の役割である「研究」と「育成(教育)」に加えて,「社会貢献」1が大学の第三の役割として登場し たことにより「大学と地域の協働」が注目されるようになったともいえよう。しかし,両者の協働の背景に

1  平成18年12月の教育基本法の改正およびこれを踏まえた平成19年6月の学校教育法の改正においては,大学が果たすべ き役割として,従来の学術研究,人材育成に加え,教育研究の成果を広く社会へ提供することが新たに位置付けられており,

これらを通じて社会の発展へ寄与することがますます重要になってきているという(文部科学白書2008:34)。そして,中 央教育審議会(2005)による「我が国の高等教育の将来像(答申)」では,大学に期待される役割・機能として,①世界的 研究・教育拠点,②高度専門職業人養成,③幅広い職業人養成,④総合的教養教育,⑤特定の専門的分野(芸術,体育等)

の教育・研究,⑥地域の生涯学習機会の拠点,⑦社会貢献機能(地域貢献,産学官連携,国際交流等)を挙げている。

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は,上記の大学の役割の変化や少子化による「大学全入時代」の到来といった大学側からのニーズのみなら ず,人口減少・超高齢化社会における地域衰退に歯止めをかけるための「人づくり」において地域側にとっ ても大学との連携が必要不可欠とされている。

 内閣府地方創生推進事務局における「都市再生プロジェクト」では,「地域への貢献を通じ,地域におけ る存在価値・評価を高めること」「地域を教育のフィールドとして活用することにより,特色ある実践的・

効果的な教育を行うこと」から,「大学自身が地域に支えられる存在であり,地域社会の活性化は大学の活 性化のためにも必要」であると述べている。総務省は,平成17年11月に東京都特別区および政令指定都市を 除く全市町村を対象に実施した「大学と連携した地域づくりのための取組に関するアンケート」において,

「地方分権や市町村合併の進展などにより市町村の役割が拡大する一方,厳しい地方財政,少子高齢化の進 展などの地域課題が存在しており,市町村には今まで以上に多様な主体との連携,とりわけ貴重な人的・知 的資源である大学との連携による課題解決」への期待を強調している。

 大学と地域の有機的コラボレーションが求められているなかで,函館校では,その協働モデルとしてSC を開発し,2016年度からスタートさせた。SC(地域課題診療所)2とは,地域社会の課題に対するニーズの くみ上げ(情報収集),診断,処方,治療を行うための仕組みである。「C」の「クリニック」という名称か ら連想されるように,医療機関との類似性を意識しているものの,医師が診断~処方~治療まで一貫して行 うのとは異なり,すべての過程において大学と地域の協働関係を前提とし,地域住民のエンパワメントを目 指すのがSCの特徴である。

 函館校では,教員らが各自の専門性を生かし,地域特有の具体的な課題の解決を目指して実践例の蓄積を 行っている。多様な専門を持つ教員らによる学際的かつ組織的なアプローチにより,大学が持つ知的資源と 教育資源を地域と共有することで地域住民のエンパワメントを図り,もって地域の課題解決能力を向上する 役割を担うのである。ここで最も重要な要素は,ニーズのくみ上げから治療まで大学と地域が共に行うこと であろう。

2  SCの詳細については,齋藤ほか(2020),古地・齋藤(2021)を参照。

図1 SCのイメージ

出所:齋藤ほか(2020:90)

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2.SCモデルの汎用化への試みとして進められている「巡回SC」

 SCは,函館校の地域協働推進センター(以下,センター)が統括する。このセンターは,社会協働部門,

人材養成プログラム部門,教育協働部門を設置し,さまざまな取り組みを通して地域の課題解決,並びに再 生や活性化といった地域貢献に資することを目的としている。とりわけ,2015年6月に「国立大学法人北海 道教育大学函館校と江差町との相互協力に関する協定書」を取り交わしたことを契機に,2016年度からス タートした「江差SC」の事業のうち,江差町の「まちづくりカフェ」3というSCモデルがある。これは,こ れまでの行政依存から脱皮すると同時に,住民主体による地域組織化活動がこれまで以上に求められること から,江差町の「まちづくりカフェ」のケーススタディを通して多様な住民をエンパワメントする地域の互 助体制づくりの試みである。ここでは,「地域のことは地域で」という考え方をその根底とする「地元学・

地域学」の観点から「地域住民が気軽に集まる場所」「地域住民が地域のことについて自由に話し合える場所」

といった「場づくり」を中心に活動を展開し,そこから「地域住民」「行政」「大学」のそれぞれの関係性を 整理することによって,大学の役割,とりわけ「大学(教員)のコーディネーター機能」の重要性について 強調した(齋藤ほか2020)。同時に,SCモデルである江差町の「まちづくりカフェ」がこれから継続し,さらに は他の地域にも同様の活動が広がるためにはどのようなスキームづくりが必要であるのか。言いかえると,

SCモデルの汎用化と,道南のさまざまな地域への応用といった新たな課題が浮き彫りになったともいえよう。

 SCモデルを道南のさまざまな地域へ応用することによって,大学と地域の協働で地域をエンパワメント し,処方箋を描きながら,その思考を重ねていくことでどのような成果や課題が顕在化したのかを検証して いく試みは,COC(CenterofCommunity)的な今後の大学のあり方とも重なる。大学の知的資源を動員し,

また複数の分野・領域の教員や学生が協働するゼミナールやPBL(ProjectBasedLearningないしProblem BasedLearning)によって,地域の課題を解決し得る処方箋を描く。このように課題を解決することが「国 際的な視野から地域の諸課題解決を志向する総合的知としての地域学」という理念を掲げて人材養成を行う 函館校の国際地域学科のカリキュラムの一環として,あるいは大学内の地域協働推進組織等が組織的に取り 組んでいけるとすれば,先にあげた「中間支援」的な機能を充分に担いうる。であるとするならば,残る課 題は取り組むべき地域課題と対象を把握する「センサー機能」をどうするかにある。そこで函館校では,

SCモデルの汎用化と,道南のさまざまな地域への応用を目指して2018年から巡回SCを開始した。地域ごと の課題把握に取り組むための巡回型・非常設のサテライト・オフィスを,公共施設等を借用して定期的かつ 継続的に開設することで「センサー機能」として,またセンターの社会協働部門を課題解決に向けて大学の 知的・人的資源と地域住民による有機的コラボレーションを形成する「コーディネート機能」として,それ ぞれを両輪として機能させることで,地域の課題を解決・低減することを目指している。

 江差町の「まちづくりカフェ」が大学と地域の協働のSCモデルのローカル版であるとしたら,巡回SCは 大学と地域の協働のSCモデルを道南地域に応用ないし汎用化するための前提作業であるといえよう。巡回 SCでは,地域に直接出向き,そこで話を聞くことから大学と地域の間に「対話」が生まれ,その「対話」

から何かが始まることを期待する。その「何が」「いつ」始まるかはそれぞれの地域の状況によって異なるが,

この巡回SCを通して函館校と道南地域の協働をより広げることを目的としている。巡回SCを進めるうえで 重要となってくるのは,江差町の「まちづくりカフェ」の課題から推知できるように,大学教員の動員だけ ではなく,大学の知的・人的資源として大学生をどのように活かしていくべきかである。加えて,大学内に おける認識共有,すなわち「大学と地域の協働」がどのような意味を持ち,何を目的として進められている かが大学内でまず共有されるべきである。それは,センターの部門同士の認識共有,言いかえると,「巡回

3  江差町の「まちづくりカフェ」の詳細については,齋藤ほか(2020)を参照。

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SC」を担う「社会協働部門」と「国際地域イノベーション人材養成」を担う「人材養成プログラム部門」

の協働の仕組みづくりであり,さらに「教育協働部門」でどのように地域の教育現場との協働を図っていく べきかに関する,センター全体における認識共有であるといえよう。

第2章 巡回SCの実践報告および分析結果

1.巡回SCの実践

 巡回SCは,函館校が所在する北海道南部(道南)地域を渡島北部・南部,檜山北部・南部,函館近郊の 5つのブロックに分け,毎年各1市町ずつ巡回して,意見交換会を行なう取り組みである。2018~2020年度 の開催により,延べ201名の参加者を得ることができた。

 巡回SCの準備は,例年4月早々にスタートした。開催予定地に開催に関する相談をし,窓口担当者が決 まると,概ね8月~12月の日程で,事前打ち合わせと開催日を決めていった。巡回SCの開催日は,センター 長をはじめ進行役の教員や学生,地域協働活動を事例報告する学生や附属学校の教員の都合と,開催地の参 加者の都合を考慮して決定した。加えて,2020年度以降は新型コロナウィルス感染予防対策のため,非対面 での開催方法(オンライン開催や書面開催など)の検討も求められた。ただ,非対面によってもスムーズに 情報交換できた地域もあり,2巡目を迎える来年度に向けて新たな方法を試みる好機にもなった。

 巡回SCの当日は,開催予定時間(ほとんどの開催地は14:00~16:00)の1時間前に現地入りし,会場 設営等を行った。机や椅子の準備,パソコンやプロジェクターの設定,資料の配布などを済ませ,開会した。

センター長から開催の挨拶後,函館校とセンターの紹介や,2020年度は地域協働活動の事例紹介として,大 学から「地域プロジェクト」や「地域づくり支援実習」の報告,附属中学校からはICTを活用した遠隔授業 や遠隔研修について報告を行った。その後,休憩を挟んでの活発な意見交換を経て16:00に閉会。30分ほど で会場を撤収して帰途についた。

2.巡回SCにより得られた意見の分析

⑴ 分析方法

 2018年11月19日~2020年12月23日までの計19回の巡回SCにおいて出された参加者からの意見の内容につ いて,質的に分析した。

 具体的には,意見の内容をカードに書き出し,大学全般,観光,まちづくり,福祉,教育の5つのカード 群に分類した。次にこれらのカード群ごとに類似する意味内容のカード群によって「概念」を形成し,さら にこれらの概念間の関係を比較検討・分析した。意見交換会で出された意見は計124枚(大学全般34,観光 21,まちづくり42,福祉11,教育16)のカードに転記し,これらによって19の概念を形成した。以降,概念

表1 巡回SC参加者数

2018年度(平成30年度) 2019年度(令和元年度) 2020年度(令和2年度)

開催日 開催地 開催形式 参加者数 開催日 開催地 開催形式 参加者数 開催日 開催地 開催形式 参加者数 10月22日(月) せたな町 対面 11 8 月29日(⽊)渡島総合振興局 対面 19 9 月18日(金)渡島総合振興局 対面 4 11月19日(月) ⼋雲町 対面 6 9 月24日(⽕) 長万部町 対面 11 9 月28日(月) 上ノ国町 対面 6 12月 3 日(月) ⼄部町 対面 18 9 月26日(⽊) 今金町 対面 14 9 月30日(⽔) 松前町 対面 5 2 月 4 日(月) ⽊古内町 対面 12 10月21日(月) 厚沢部町 対面 18 11月30日(月) 檜山振興局 書面 5 2 月 7 日(⽊) 北⽃市 対面 7 11月25日(月) 七飯町 対面 16 12月 7 日(月) 森町 オンライン 11

- - - - 12月 2 日(月) 福島町 対面 14 12月18日(金) 奥尻町 オンライン 8

- - - - 12月 9 日(月) 檜山振興局 対面 10 12月23日(⽔) ⿅部町 オンライン 6

参加者数計 54 参加者数計 102 参加者数計 45

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を〈〉,具体例(カード)を「」で示す。

⑵ 分析結果  1)大学全般

 ①地域創生人材養成への期待

 概念1〈地域創生人材養成への期待〉は,函館校が教員養成のみならず,地域創生に資する幅広い人材養 成に取り組んでいることに期待していることを意味し,10の具体例から構成される。

 具体例として「教育大だから教員養成だけだと思い込んでいたが,広い領域で地域を担う人材を育てる大 学に生まれ変わったことを今回知ることができて良かった」や「『小さな総合大学』という表現が貴校の教 育の実践と合致しており,これまでの認識が変わりました。地域協働とは言っても,地域と連携して終わり というような取組が多い中で,貴校の取組はそうではなく,地域を診断する仕組みが徹底しているのであろ うと推察できます。是非,今後も地域の中心となる大学として,地域の活性化に取り組んでいただきたいで す」などがあった。

 ②地域プロジェクトへの期待

 概念2〈地域プロジェクトへの期待〉は,函館校の開設科目であるPBL科目「地域プロジェクト」の現状 を知ったことで,大学への期待が高まったことを意味し,8の具体例から構成される。

 具体例として「こういった話し合いの場が設けられて良かった。町側として,交通・宿泊費などの問題を 含め受け入れ態勢を整えていかなければならないと気が付くことが出来た」や「地域課題を,学校に籠って 話し合うだけでなく,実際に地域へ出向き実践的に行っていることを知って感心した。出向くことで得られ るものが多くあるはずである」などがあった。

 ③センターへの期待

 概念3〈センターへの期待〉は,函館校に設置しているセンターの取り組みを知ったことで,同センター への期待が高まったことを意味し,7の具体例から構成される。

 具体例として「町で勤める人間は,その町の中だけで考えることになってしまう。大学という機関だから こそ,地域に出て回り,各地を比較し研究することが出来る。地域課題を解決する支えとして大学の存在は 重要である」や「シーズ集に掲載された大学の研究・教育に関する情報を色々なところに提供したいため,

データで貰えたら嬉しい」などがあった。

 ④巡回SCへの期待

 概念4〈巡回SCへの期待〉は,函館校のセンターが行っているソーシャルクリニック巡回SCの取り組み を知ったことで,同取り組みへの期待が高まったことを意味し,4の具体例から構成される。

 具体例として「今回の巡回サテライトのように,地域の方と大学教員が直接話す機会をもっと設けられる と,話がスムーズに進むかもしれない。地域の方は受け身の人が多く,『大学は何をしてくれるのだろう?』

と待つ姿勢の方も多いため,素晴らしい試みだと思う」や「問題なのは数ある地域の大学の学生が地元に目 を向けることをあまりしていないことだと思う。地域の価値を再認識させることが非常に今後やっていく必 要があると思う。遠隔設備をうまく活用して,全国的な格差をなくせるようになったら良い」などがあった。

 ⑤地域づくり支援実習への期待

 概念5〈地域づくり支援実習への期待〉は,函館校が行っている地域づくり支援実習の取組を知ったこと で,同取り組みへの期待が高まったことを意味し,5の具体例から構成される。

 具体例として「(地域づくり支援実習)は,小さい町であればあるほど町に刺激があっていいと思う。町 民の方にも実習生の存在を知ってもらって,かわいがってもらうなどしてもらってもよいだろう。実習生と

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継続してつながりを作っていくことが実習先にとって財産になり得るのではないか。古民家カフェの話が あったが,まさに町民は何だこんなものと思っているものでも資源にできることを学生の気づきとして伝え ることができると思う。町民も含めて盛り上がっていくことが大事だと思う」や「地域での実習については,

学生が一度来て終わり,というものではなく,一期生がここまで行ったものを二期生が受け継ぐというような,

連続性のあるものにしていきたいと思った。その中でいつか,実習に参加した学生が『またあの地域で活動 したい・住んでみたい』と思えば,時間はかかるが移住にもつながるのではないかなと思う」などがあった。

 2)観光

 ①地域の魅力発信への期待

 概念6〈地域の魅力発信への期待〉は,地域に暮らす住民には気づきにくい魅力を外部の人ならではの視 点で発見・発信できることへの期待を意味し,6の具体例から構成される。

 具体例として「縄文文化の世界遺産登録候補になりそうだが,函館の縄文文化センターを目玉にできない か。例えば,学生に外国人を含む観光客から興味を持っていただけるように,地域の魅力の調査や情報発信 をテーマに何か協力していただけるとありがたい」や「町の中に居てわからないような,外部の人が持つ印 象や魅力を発信してもらいたい。例えば,今回の参加学生は町に『のどかな場所』という印象を感じたといっ てくれ,意外な魅力の存在に気が付いた。情報発信は学生の得意分野だと思うので,上手く発信してもらい たい」などがあった。

 ②新たなアイディア・プログラム開発への期待a

 概念7〈新たなアイディア・プログラム開発への期待a〉は,函館校の取り組みについて説明を聞き,新 たなアイディアやプログラム開発への意欲や期待感が高まったことを意味し,12の具体例から構成される。

他の分野群にも同様のカテゴリーがあるため,本分野における概念としてaと付す。

 具体例として「観光客に対する体験プログラムが少ない。学生目線からのアイディアがあれば一緒にやり たい」や「今年(2020年)の1月,2月以降は新型コロナウィルスのせいで観光客が全然来ないので,道南・

渡島地域も影響を受けている。どうすれば観光客をまた呼び戻せるのか。特に函館は外国人観光客も多く訪 れていたがほぼ0人,まずは日本人観光客をどのようにして呼び戻すか。来年,再来年は外国人観光客をど のようにして呼び戻すか。学生のアイディアを聞きたい」などがあった。

 ③ボランティア人材としての期待a

 概念8〈ボランティア人材としての期待a〉は,函館校の学生の力を即戦力として活用できることへの期 待を意味し,3の具体例から構成される。他の分野群にも同様のカテゴリーがあるため,本分野における概 念としてaと付す。

 具体例として「以前,教育大生が町の伝統行事にボランティアとして参加してくれて,とても助かった。

ぜひまた参加して欲しい。また,可能ならばPR動画を作って欲しい」や「道外児童・生徒に対する農業体 験宿泊プログラムを計画している。その際に,学習チューターとして大学生が関わってもらえるとありがた い」などがあった。

 3)まちづくり

 ①人口減少問題(移住対策)支援への期待

 概念9〈人口減少問題(移住対策)支援への期待〉は,移住や交流人口増,若者の定着に向けた対応策へ の支援を期待していることを意味し,8の具体例から構成される。

 具体例として「移住につなげるにはどうすればよいか。7~8月は避暑地として希望者が多いが,冬は雪

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や寒さが大変で移住につながらない。そもそも町にはどんな魅力があるのか,一緒に探ってほしい」や「地 方創成や限界集落等が問題になっており,対策として出生率増加が挙げられているが,地域だけで解決でき ないことが多い。商店街再開発の政策立案やまちづくりカフェ等の誰もが気軽に集まれるサードプレイスが 必要だと考えているが,内部からの意見だけではなく外部からの声も聞きたい。農家や漁業等の異業種交流 が不足していると感じているので,どうすれば上手くコミュニケーションが取れるかという意見も聞きたい」

などがあった。

 ②外国人受け入れ支援への期待

 概念10〈外国人受け入れ支援への期待〉は,外国人の受け入れに試行錯誤しているなか,とりわけソフト 面での支援を期待していることを意味し,4の具体例から構成される。

 具体例として「町内では⽔産加工の外国人技能実習生を30名受け入れており,町として経済的支援は行なっ ているが,それ以外はすべて企業任せの現状。ソフト面も充実させたいので,大学との協働に期待している」

や「地域プロジェクト成果報告書の『外国人技能実習生に対する地域としての支援』を見て,町内の郷土料 理とベトナムの郷土料理をお互い食べ合う取り組みをしていきたいと思った」などがあった。

 ③若者との交流支援への期待

 概念11〈若者との交流支援への期待〉は若い人材を育て交流する取り組みへの支援を期待していることを 意味し,13の具体例から構成される。

 具体例として「若い人材が乏しいことが課題としてあり,来年度から若い人材を育てる取り組みを行いた いと考えている。現時点での想定としては,ワークショップやセミナー,若者同士の交流など。大学と一緒 に取り組める可能性はあるか。現役で働いている若い世代と学生との交流の場を設け,意識面でスイッチを 入れるきっかけになればと考えている」や「町では,健康づくり推進協議会よるディスコダンスサークルが 定期的に活動している。地域で盛り上がれる活動を作っていきたく,今後特に学生さんにも携わって欲しい。

(学生からジャズ研究会というサークルがあると聞いた上で)町民はあまりジャズに触れる機会が無かった ので,これを機に町民みんなで触れ合い,新しい文化交流をしたい」などがあった。

 ④空き家対策支援への期待

 概念12〈空き家対策支援への期待〉は,空き家の情報提供や活用方法に関する協力への期待を意味し,4 の具体例から構成される。

 具体例として「手放されてしまった空き家の問題が生じており,受け入れ先などを求めて情報提供出来る 場が欲しい。役場でやるべきだが,現状上手くいっていないので,協力してほしい」や「空き家が多く,活 用してサードプレイス化できないだろうかと考えているので,大学に協力してほしい」などがあった。

 ⑤地域での取り組み支援への期待

 概念13〈地域での取り組み支援への期待〉は,それぞれの地域の多様な取り組みについて,大学(学生を 含む)にも協力を期待していることを意味し,13の具体例から構成される。

 具体例として「地域おこし協力隊はそれぞれネットワークを持っているが,全体でのネットワークは必ず しも機能していない。困りごとを共有する場等に,大学の方も一緒に入り,教員や学生ならではの視点や発 想で助言いただけるとありがたい」や「人口減少対策に関する委員会のメンバーや他大学の講師や学生が参 加する形でソーシャルクリニックを実施し,道南に新たな知の集積が生まれる地として当町を活用していた だきたいと考えている。そのために,ソーシャルクリニックの毎年の開催をお願いしたい」などがあった。

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 4)福祉

 ①ボランティア人材としての期待b

 概念14〈ボランティア人材としての期待b〉は,函館校の学生の力を即戦力として活用できることへの期 待を意味し,2の具体例から構成される。他の分野群にも同様のカテゴリーがあるため,本分野における概 念としてbと付す。

 具体例として「児童虐待が深刻な課題となっている。他機関で連携しながら対応しているが,学生も交え てモニタリングなどもできれば有益だと思う」や「町には高齢者が多く,学生が高齢者の集まりにくるだけ でも喜ばれる。地域プロジェクトやサークルで学生に町に来てもらい,お笑いを披露する等の活動をしてほ しい」などがあった。

 ②新たなアイディア・プログラム開発への期待b

 概念15〈新たなアイディア・プログラム開発への期待b〉は,函館校の取り組みについて説明を聞き,新 たなアイディアやプログラム開発への意欲や期待感が高まったことを意味し,5の具体例から構成される。

他の分野群にも同様のカテゴリーがあるため,本分野における概念としてbと付す。

 具体例として「介護予防事業の中で,カラオケのイベントを行いたい。その際に若い学生の意見を聞いた り支援頂いたりしたい」や「学童保育で高齢者の認知症について説明や高齢者疑似体験等をする機会があり,

児童たちの反応も良く,今後も小学生・未就学児を対象に活動を進めていきたいが,学校に働きかけても消 極的である。大学と協働すれば学校側の対応の変化も期待できるため,学生も含めた活動として期待する」

などがあった。

 ③ソーシャル・キャピタル形成への期待

 概念16〈ソーシャル・キャピタル形成への期待〉は,社会・地域における人々の信頼関係や結びつきを形 成するため,大学の取り組みに期待していることを意味し,4の具体例から構成される。

 具体例として「江差町の『まちづくりカフェ』は,現在も継続しているのか。檜山管内では他に『まちづ くりカフェ』をやっている地域はあるか。住民同士の新たな交流の場としても注目している」や「ソーシャ ル・キャピタルにおいて,大学・学生は大事な資源になり得ると思う。特に介護や子育て支援の部分で言う と町村へ与える力は大きいのではないか。教育大の子ども食堂の支援活動も見に行ったことあるが,学生に 助けられていたように思う」などがあった。

 5)教育

 ①ボランティア人材としての期待c

 概念17〈ボランティア人材としての期待c〉は,函館校の学生の力を即戦力として活用できることへの期 待を意味し,5の具体例から構成される。他の分野群にも同様のカテゴリーがあるため,本分野における概 念としてcと付す。

 具体例として「夏休みや冬休みに学生に学習ボランティアとして来てもらって,勉強を教えてもらうこと は可能であるか。また,不登校の生徒は進んで学校に来られないため,昼間どこかに集まり,学生や先生と 会って勉強をすることで出席扱いにできないかと考えているのでアドバイスがほしい」や「地域の方々の特 技を登録して,教育に活かすという活動をしている。実際に手助けしてほしいという依頼が来た時に,登録 いただいている中で依頼に対応できる人材がいない場合に教育大の学生に対応できる人材がいれば手助けし てほしい」などがあった。

 ②特色ある学校づくり支援への期待

 概念18〈特色ある学校づくり支援への期待〉は,特色ある地域の学校づくりに大学と一緒に取り組んでい

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きたいという期待を意味し,6の具体例から構成される。

 具体例として「巡回型サテライト・オフィスは大学のCS(コミュニティ・スクール)のようなものだと 感じた。小・中学校のCSと大学のCSをいかにつなげていくかが課題ではないか。また,人口が少なくなっ ており,人材の育成や人材の確保も課題だろう」や「三世代が近くにいて交流できる幼稚園づくりや,地域 性を取り入れた特色のある学校づくりをしていきたい。教育大と考えていけたらうれしい」などがあった。

 ③オンライン教育支援への期待

 概念19〈オンライン教育支援への期待〉は,大学や附属学校の取り組みについて説明を聞き,オンライン による教育や研修,情報交流への意欲や期待感が高まったことを意味し,5の具体例から構成される。

 具体例として「町内でもコロナの影響で,遠隔授業を取り入れつつあるが,子供たちはもちろん教員たち もパソコンを使う授業となると一歩引いてしまうところがあるので,情報など頂けたら嬉しい。附属中学校 が行っている,オンラインでの他学校との交流はとても良い取り組みだと思った」や「本年度(2020年度)

ギガスクール構想とは別に,町の独自予算で全児童・生徒にタブレット端末を配布した。来年からぜひ附属 中学校と遠隔で結んだ授業構成をしたいと思っている。ギガスクール導入に向けて小・中9年間を通して,

教育課程の変化にも危機感を感じているので附属中学校の力を借りていきたい」などがあった。

第3章 巡回SCのこれから

 本章は,図2のとおり巡回SCの基本的な関係を保持している市民・自治体・大学の関係性を重視してお り,三者それぞれの立ち位置の確認,重なりにおける3つの概念の整理,共有したい目標のイメージの整理 が目的である。その3つの観点からそれぞれの現状や課題の把握,これからの方向性,実践における拡張性 について説明する。

1.市民・自治体・大学の立ち位置の確認

 市民の立ち位置については,稲継(2003:46)によれば市民参加の内実は,「1960年代~70年代にいわれ たものは,政治参加であり,政策が決定される過程への住民の直接参加を要求するものであった。だが,最 近いわれる『住民参加』あるいは『公私協働』『パートナーシップ』は,決定過程についてだけでなく,政 策がつくられたあとのことも問題としている。」とともに,苅谷(2004:20)によれば,「自己責任が問われ る再帰性の時代をよりよく生きるためには,コミュニティという身近な生活世界において創造性を発揮する ことが不可欠であり,それぞれ,『よりましな答え』を引き出すためにも,現実的で建設的な議論が求めら れるのである。」と,市民参加・協働の拡大化とともにその責任と創造性が求められている。

 その一方で,岡(2018:54)はまちづくりへの住民参加の現状を,「行政がまちづくりのパートナーと考 える町内会などの『地域組織』に声をかけてもその反応は鈍く,当事者意識が低い場合が多い。これが行政 の悩みである。」とあるように市民意識の停滞感が否めないことを指摘している。

 自治体の立ち位置について森田(2003:19)は,「現在の自治の単位で,行財政能力の点においても,財 政面においても,必要とされる行政サービスを担いきれないのであれば,むしろ行政サービスのほうが削減 すべきであり,それによって,自治体の事務と財政の負担を減らし,自治体を簡素化,軽量化すべきである。

そして,削減した事務については,広域自治体である都道府県に委ねるか,あるいは自治体間の連合組織を 設けて,それを担い手とすべきであるという。」と自治体の自立と連携について論じている。

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 これに対して自治体職員4は,「現状もこれからも言葉通りの地方自治は実現できないと考えています。ど この地方公共団体も近隣団体の施策や人口規模が同じ地域の施策を気にして,マネばかりをしている状況で,

その原因は国からの財源がひも付きであることや地方交付税がなければ自治体運営は不可能な点にありま す。」と自治体の自立の難しさを吐露している。

 大学の立ち位置は,加藤(2004:147)によれば,「これまで,大学と地域社会の連携は,その多くを個人 的な関係に依存してきたが,これでは限界がある。大学と自治体が組織として協力関係を結ぶことが必要で ある。産学連携は大学と産業界によって進められるものであるが,自治体のコーディネート機能も欠かせな い。知識社会に移行した現在では,人材育成こそが地域再生の鍵となる。」と地域社会と大学との連携の大 切さに言及している。

 これに関連して自治体職員は,「地域づくりを担う人材育成は重要性がますます高まります。その点を地 方公共団体が認識し,大学との連携を深めることで職員養成の期間やコストを削減し,サービスの質を高め ることが可能です」と大学連携に期待感を寄せている。

2.関係性から見いだせる3つの概念の整理

 ここでは,市民・自治体・大学の3つの関係性から制度的なガバナンス,方法論的なアクションリサーチ,

心情的なソーシャル・キャピタルの概念について整理し,ある一定の規範の認識とともにこれからの方向性 を示唆したい。

 市民と自治体との関係性について稲継(2003:47)は,「地方自治体における行政サービスの範囲,提供 の方法,公私協働のあり方は,あくまでも住民を含めたローカル・ガバナンスのメカニズムを通して決定さ れるべき性質のものである。それ故にそれは,地方自治体ごとに多様であって当然であり,時代とともに変 遷して当然のものである。」と市民生活や地域社会を基軸とした市民自治への転換を想起させてくれる。自 治体職員は,これからの地方自治について,「住民が自治体に求めるサービスの抑制と行政と住民との共助 が今後の地方自治の形になっていく」との見通しを示している。

4  本稿でいう「自治体職員」とは,巡回SCに参加した自治体職員に対するインタビューに回答した人を指す。以下同じ。

図2 巡回SCのイメージ

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 自治体と大学との関係性について草郷(2018:9)は,「アクションリサーチとは,組織あるいはコミュ ニティの当事者(実践者)自身によって提起された問題を扱い,その問題に対して,研究者が当事者ととも に協働で問題解決の方法を具体的に検討し,解決策を実施し,その検証をおこない,実践活動内容の修正を おこなうという一連のプロセスを継続的におこなう調査研究活動のことを意味する。」と巡回SCの課題解決 型の実践そのものを示唆しており,巡回SCがアクションリサーチと近似した実践的な研究手法であること も理解できる。

 さらに,中村・玄田(2009)の岩手県釜石市での調査において,「仮説検証型ではなく,調査対象である地 域の人々との対話を重視した,課題発見型の総合地域調査」の有効性と,「まず行政と市民との間の相互認知 にもとづく正確な現状認識の共有が必要である。」との研究姿勢は参考になる。自治体職員も,「地域課題を 解決する要件は,地域課題の設定です。地域住民は地域課題を捉えることができませんし,見ることができ ませんし,言語化できません。」との現実を踏まえることの大切さと,そこでの対話の重要性を指摘している。

 大学と市民との関係性について,学びのつながりという観点から見ると,ジョン・フィールド(2011:

216)の「それまで,学習は個人を単位として,また個人の責任と好みに基づいて行われるものだという考 え方が支配的であった。(中略)生涯学習は個人の成長のための原理であるだけでなく,未来の社会を形づ くるための原理とも位置付けられるのである。」との指摘は,「地域学」とも共通し,「地域を,または地域 住民を知りたいと思う気持ちや地域への愛着を育てることが地域の存続につながることは間違いようがあり ません。」という自治体職員の言葉からその意味が感じとることができる。

 山﨑(2012:78)は,「豊かさとは何か」という問いから,「ソーシャルキャピタル(共同体や社会におい て人々が持ちうる協調や信頼関係)という言葉が注目され,人とのつながりが充実していることも人生を豊 かにする要素だと認識されるようになってきた。」との心情的とも捉えることができる言葉が今,力を持っ ているような印象を持った。江差町での「まちづくりカフェ」の成果の一つがこのような「力」ではないだ ろうか。

3.実践により共有したい目標のイメージ

 これから本格的にスタートする巡回SCの実践において市民・自治体・大学においての拡張性を,市民の 地域を媒介にした実践,自治体における生涯学習社会,大学における学生の育成などの広がりとして捉えて いる。

 草郷(2018:157)は,愛知県長久手市で行われた市民による「幸せ実態アンケート調査」の実践から得 た知見として「調査隊メンバーは,幸せのモノサシづくりの活動に関わることによって,新しい公共に欠か せない市民参画の重要性,市役所や研究者・専門家との関係性について,従来の考え方とは異なる見方をす るようになったこと,また,協働に欠かせない信頼関係の構築とそれに必要な話し合う文化の醸成が必要で あることを調査隊活動によって体得できたことが見てとれる。協働型アクションリサーチは,研究者のかか わりや働きかけが一助となり,市民の意識改革を促し,また,参加意欲を高め,市民自治力の形成を目指す ものであり」と市民の変容を叙述している。この市民の成長に関する大切な要点は,大堀(2009:90)が釜 石市での調査から会得した「重要なのは住民に『意識』を変えることを求めるのではなく,実行可能な施策 を住民や行政が地道に模索していくことである。」ことと共通している。

 自治体で求める拡張性は,生涯学習社会における社会教育の再構築である。佐藤(2014:235~236)は,

「社会教育に期待されている機能は,様々な社会的課題に直面しながらも為す術を持たない人や,その課題 解決に意欲的に取り組もうとする人々に対して適切な知識や情報をマッチングし,さらには,そのような多 様な人々の社会関係資本を形成・拡張するための支援である。」とソーシャル・キャピタルを醸成するとと

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もに,ガバナンスの中核的機能を担う社会教育の有用性を説明している。

 これまでの自治体の政策決定にあって,市長部局と教育委員会との分断がなかっただろうか。どうしても 教育委員会の施策が義務教育に特化されるきらいがあった。最近の教育目標の多様化により,「人間力」や「シ チズンシップ教育」などの影響により,フォーマルな教育とインフォーマルな教育の連動性が大切であり,

子どもを含めたまちづくりを考える体制が求められている。

 今回の巡回SCの自治体職員の要望として学生との関係性を望む声が大きかったことが印象的である。こ れらの動向に関連して宇都宮(2016:23)は,「学生は労働力でも経営者でも行政職員でもなく,あくまで も学生である。ただ受け入れればよいわけではない。その存在を生かすのは,大学でもあり,地域でもある。

学生は,地域や社会の再生に,一番大切なものをしっかりとつかみ取る。その存在は,社会にとって最大の 資源である。その資源を豊富に抱える大学が地域に入ることの意義は,非常に大きい。」と愛媛大学での経 験をもとにその有益性を述べている。

 総体的な学生の評価とともに,金子(2007:117)の「日本の大学生は,こうしたフォーマルな組織だけ ではなく,大学内のサークルや,学外のボランティア組織など,多様な組織に帰属する場合が少なくない。

こうした集団に帰属し,様々な経験を得ることによって,一定の事業を企画し,集団を維持し,社会性を獲 得することは一般に大学時代の過ごし方として肯定的に語られる。」との捉え方も大切であり,大学教育の 中での評価の拡張性も必要ではないだろうか。

おわりに

 本稿では,SCモデルの江差町の「まちづくりカフェ」が道南のさまざまな地域へ応用されるためにはど のような仕組みが必要であるかについて検討し,その新しいモデルとして巡回SCを取り上げた。このよう なSCモデルの汎用化と,道南のさまざまな地域への応用の必要性から考案された巡回SCは,地域ごとの課 題把握に取り組むための巡回型・非常設のサテライト・オフィスを,公共施設等を借用して定期的かつ継続 的に開設することで「センサー機能」を果たし,大学が地域により積極的にアプローチするスキームとして 評価されているといえよう。実際に,巡回SCに参加したある自治体職員は,「大学は『地域創生を進めるた めの拠点』となりえる存在であり,各地から前途有為な若者が集まる『知の拠点』であることから,単に地 域の産業の担い手を供給するということに止まらず,各大学が地域の実情を踏まえて様々な取組を行うこと 自体が地域創生を牽引することに繋がる」として,巡回SCを「地域創生の取組そのものである」と評価する。

巡回SCの成果は一朝一夕に出現するものではないが,だからこそ持続的に実施していくべきであろう。そ して,大学と地域の協働という観点からさらに一歩踏み出して,巡回SCをどのように「教育的に」活かし ていくべきかがこれからの活動における課題ともいえよう。

 分析結果によると,各分野群に共通していたのは,即戦力としての学生の力を活用したいという声があっ たことと,そうした学生の柔軟な発想と行動力を生かして,新たなアイディアやプログラム開発への意欲や 期待の声があったことで,いわば「イノベーティブな人材養成への期待」といえる。前者については,他意 はなくとも単なる安い労働力として期待されている側面もあるため,学生にとってどんな教育的な効果があ るのかを整理・検討し,地域と大学によって合意形成しておくことが不可欠であろう。また,後者について も,学生とはいえ斬新なアイディアを持っているとは限らず,現実離れしたものや,費用のかかるものも含 めて,これも他意なく提案してくるだろうから,地域にはそれと向き合う覚悟が求められる。ただ,いずれ の場合にも,学生たちのような若い世代とともに何らかの取り組みを進めることは,その構成員に前向きな 雰囲気をもたらし,チャレンジする動機を高められることが示唆される。つまり「若者が変えてくれる」の

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ではなく,若者によって「大人が変わる」という点で,地域と大学との協働の意味を見出すことはできるだ ろう。

 SCや巡回SCを通して地域と意見交換をした内容を,大学の各種の取り組みの中にどのように落とし込み,

地域の課題解決のための取り組みに着手できるようにしていくか。相談のあった地域課題を授業の中で扱っ たり,ゼミの中で話し合ったり,専門の教員が研究に着手したりといった活動がまだまだ足りない。教員,

学生を含めた函館校全体で,これまで以上に地域課題に真摯に向き合い,授業や研究,多様な学生活動を通 じて地域に還元していく意識を強く持つことが期待される。

引用・参考文献

稲継裕昭(2003)「パブリック・セクターの変容」『分権と自治のデザイン ガバナンスの公共空間』有斐閣,27-49頁。

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岡絵里子(2018)「ひととまちの新しい関わり方 個人の活動を束ねる『まちづくり』」『市民自治の育て方~協働型アクショ ンリサーチの理論と実践~』関西大学出版部,53-68頁。

大堀研(2009)「誰が釜石市を『つくる』のか 地域生活応援システムと住民活動」『希望学3 希望をつなぐ 釜石からみた 地域社会の未来』東京大学出版会,89-118頁。

加藤芳正(2004)「コミュニティのなかの大学」『創造的コミュニティのデザイン 教育と文化の公共空間』有斐閣,127-149頁。

金子元久(2007)『大学の教育力―何を教え,学ぶか』筑摩書房。

苅谷剛彦(2004)「創造的コミュニティと責任主体」『創造的コミュニティのデザイン 教育と文化の公共空間』有斐閣,1-22頁。

草郷孝好(2018)『市民自治の育て方~協働型アクションリサーチの理論と実践~』関西大学出版部。 

古地順一郎・齋藤征人(2021)「大学は地域をエンパワメントできるか―ソーシャルクリニックの試み―」北海道教育大学函 館校国際地域研究編集委員会編著『国際地域研究Ⅲ』大学教育出版,59-79頁。

小松理佐子(2016)「過疎地域における地域包括ケアシステム構築の可能性」『日本福祉大学社会福祉論集』134,31-47頁。

齋藤征人・金鉉善・根本直樹(2020)「まちづくりカフェの実践から考えた大学の役割」『北海道教育大学紀要(人文科学・社 会科学編)』第71巻第1号,79-92頁。

佐藤一子(2001)『生涯学習と社会参加 おとなが学ぶことの意味』東京大学出版会。

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森田朗(2003)「『自治体』のイメージとその変化」『分権と自治のデザイン ガバナンスの公共空間』有斐閣,1-25頁。

山﨑亮(2012)『コミュニティデザインの時代 自分たちで「まち」をつくる』中央公論新社。

ジョン・フィールド(矢野裕俊監訳,立田慶裕・赤尾勝己・中村浩子訳)(2011)『ソーシャルキャピタルと生涯学習』東信堂。

謝 辞

 本稿をまとめるに際し,巡回SCにご参加くださった北海道渡島・檜山両振興局をはじめ渡島・檜山管内 の18市町の皆さんと,インタビューにご回答くださった自治体職員各位に感謝申し上げます。本稿が,地域 課題の解決に資する,大学と地域との協働の在り方の参考になれば幸いです。

(齋藤 征人 函館校准教授)

(金  鉉善 函館校講師) 

(根本 直樹 元函館校教授)

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