厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業(難治性疾患克服研究事業)
分担研究報告書
先天性嚢胞性肺疾患に関する調査研究(生後診断例)
研究分担者 黒田 達夫 慶應義塾大学 小児外科 教授 西島 栄治 兵庫県立こども病院 副院長 前田 貢作 自治医科大学 小児外科 教授
広部 誠一 東京都立小児総合医療センター 外科部長 渕本 康史 国立成育医療研究センター 外科医長
研究要旨
【研究目的】先天性嚢胞性肺疾患の全国的な臨床情報データベースを構築し、これに基 づいて、出生後の管理、治療、手術の至適時期と病理診断の相関、晩期合併症などを解 析し、治療から遠隔期の経過観察にいたる診療指針策定の基盤を整備することを目的と した。
【研究方法】日本小児呼吸器外科研究会 59 施設を対象とした一次調査と、その中の拠点的 な 10 施設の症例に対する、より詳細な二次調査を行いデータセンターに情報を集積し、生 後診断例の臨床像、治療上の問題点につき解析を行った。
【研究結果】一次調査で同定された 874 例中生後診断例は 499 例を占め、うち 190 例で 詳細な解析を行った。出生時無症候の 80 例中 24 例(30%)が 0 歳時、21 例(26.3%)
が 1 歳時に主に肺炎で発症していた。出生前診断例も合わせた 376 例の手術適応は、呼 吸障害が 120 例、体重増加不良・経口摂取不良が 3 例、その他 X 線写真異常陰影など 231 例であった。アプローチは 328 例が開胸、16 例が胸腔鏡補助下で、一肺葉切除が 262 例、区域切除 28 例、2 肺葉切除 14 例、肺切除 11 例、その他 41 例で、2 例で術中 合併症があった。罹患肺葉は左下葉が 135 例と最も多く、次いで右下葉が 106 例、右上 葉が 54 例、左上葉が 48 例、右中葉が 20 例であった。術後早期合併症は気胸 15 例、肺 炎 11 例、胸水貯留 10 例、嚢胞遺残 6 例などがみられた。術後遠隔期には 8.2%で胸郭 変形がみられ、1%で嚢胞の遺残が見られたが、発がんはなかった。病理診断は CCAM が 164 例、気管支閉鎖症 66 例、肺葉内分画症 63 例、肺葉外肺分画症 39 例、気管支原 生嚢胞 15 例、肺葉性肺気腫 9 例、Bulla 2例、その他 21 例であった。これらをもと に小児嚢胞性肺疾患の新分類案が策定された。
【結論】生下時に無症状症例の 3 割が1歳未満、過半数は 2 歳未満に主に肺炎で発症し ており、乳児期後期、遅くも 2 歳までに手術をすべきと考えられた。手術は成長段階の 小児肺の特異性を考慮して一肺葉切除が標準術式であり、過剰な肺組織切除を避けるた めに初回手術において嚢胞性病変の一部を残すことも選択肢になると考えられた。従来 言われている発がんのリスクは極めて低い可能性が示唆された。
A.研究目的
先天性嚢胞性肺疾患は時に致命的な肺低 形成を呈する小児呼吸器疾患で、Congenital Cystic Adenomatoid Malformation (CCAM, 先 天性嚢胞性腺腫様奇形)や肺分画症、気管支 閉鎖症などいくつかの異なる疾患概念がこれ に含まれる。臨床的、組織学的、あるいは発生 学的な観点から諸種の分類が提唱されている が、これらの分類は互いに排他的ではなく、境 界領域にある症例が少なからずみられ、臨床 経過との相関に関しては国内外ともに未確立 である。一部の症例は周産期から新生児期に 極めて重篤な病態を呈し、胎児水腫から子宮 内死亡の経過を取る症例や、出生直後に重篤 な呼吸不全を呈して治療に難渋する症例もみ られる。
一方で、出生前診断された症例であっても、
周産期には無症状で経過する症例もある。出 生前診断技術の導入前においては、多くの嚢 胞性肺疾患は反復する肺炎や、無症状で偶 然に撮影された胸部X線異常陰影を機に診断 されていた。こうした経過の症例に対して、至 適な手術時期がいつかは未だに議論が分か れる。さらにこうした症例の手術後晩期にどの ような合併症が発生しているかに関しては、ま とまった症例数での検討の報告が海外でもほ とんどみられない。先天性嚢胞性腺腫様奇形
(Congenital Cystic Adenomatoid Malforma- tion ; CCAM)などの先天性肺嚢胞性病変が 胸膜肺芽腫など原発性肺悪性腫瘍の発生母 地になるとする報告が散見されるが、胸膜肺 芽腫は嚢胞状の形態を呈することがあり、それ を先天性嚢胞性肺疾患と誤認した報告か、先 天性の嚢胞より発がんしたのかは未解決であ る。即ち、周産期に無症状であっても、本症の 治療や遠隔期の管理に関しては未確立の問
題が多い。
そこで本研究では、先天性嚢胞性肺疾患
(congenital cystic lung diseases)に対する本邦 の診断、治療の実態、治療後の長期合併など を把握してデータベース化する。これらのデー タベースに基づいて、出生後の管理、治療、
手術の至適時期と病理診断との相関、さらに 晩期合併症の実際に関しても検討し、治療か ら遠隔期の経過観察にいたる診療指針策定 の基盤を整備することを目的とした。全国的な 可及的悉皆的な調査による症例の洗い出しと データベース構築から、悪性腫瘍発症など、
従来より本疾患に特異的と報告されている有 害事象に関しても、本邦における発症の実態 を調査する。
加えて、データベース化された臨床情報に 病理学的検討を加え、本疾患の発生・病理学 的分類の基盤を構築し、新たな分類案を提唱 することも目指している。
B.研究方法
先天性嚢胞性疾患症例について、
(1) 2002年1月1日〜2012年12月31日に出生し、
嚢胞性肺疾患と出生前診断された症例(在胎 22週以降の子宮内死亡例は含める)
(2) 1992年1月1日〜2012年12月31日に出生し た症例のうち、生後に嚢胞性肺疾患と診断さ れた症例
を対象として全国の小児外科施設に対して調 査票の送付、記入の形式で調査を行なう方針 とした。すなわち本邦において本疾患に対す る出生前診断の概念、技術が普及、均てん化 された過去10年の出生前診断例および術後 10−20年の長期経過を観察しうる過去20年の 生後診断例である。
1) 一次調査
小児呼吸器外科手術は小児外科領域の中 でも特異な領域であり、一定のレベルで標準 化された治療を行なっている施設を悉皆的に 網羅して調査するために、小児外科施設の中 でも日本小児呼吸器外科研究会の会員施設 に対して調査を行なうこととした。全59施設に 対して、同研究会世話人会による承諾を得た 上で、書面を送付し、上記の(1)、(2)の該当症 例数、出生前診断を受けた症例のうち呼吸障 害により手術を要した症例数、手術術式などを 記入し、FAXで返信を受ける方法をとった。調 査票FAXの回収後、さらに未提出施設に対し て調査票の送付を依頼した。
2) 二次調査
代表研究者、分担研究者の所属、関連する 7施設および一次調査で治療症例の顕著に 大きい3施設を、嚢胞性肺疾患治療の拠点的 施設と位置づけ、これらの施設を対象により詳 細な二次調査を行なった。以下に二次調査対 象施設を挙げる。
慶應義塾大学 小児外科 大阪大学 小児成育外科
大阪府立母子保健総合医療センター 小児外科 兵庫県立こども病院 小児外科 自治医科大学 小児外科
東京都立小児総合医療センター 外科 国立成育医療研究センター 外科 東北大学 小児外科
九州大学 小児外科 鹿児島大学 小児外科
二次調査では、これら各施設における倫理 審査の後、各症例の臨床経過、診断画像情報、
病理診断の詳細を後方視的に検討した。さら に倫理審査の承認が得られた施設からは、切 除標本の貸与を受けて、肺低形成研究班の
中の中央病理診断ならびに病理学的検討を 行った。
プライマリ・アウトカムは手術後30日の生存と した。また、セカンダリ・アウトカムは成長時の 肺機能予後、合併症、発がんと設定した。
3) データセンター
これら拠点的施設の症例に関する詳細調査 票は匿名化して記入され、国立国際医療研究 センター 臨床研究センター 医療情報解析 研究部(JCRAC)データセンターへ送付された。
同データセンターでは臨床情報のデータベー ス化ならびにデータの安全な保管を行ない、
集計と解析をおこなった。
これら調査の結果を、周産期・新生児と生後 診断例にわけて報告をまとめた。生後早期の 臨床像など切り離して論じられない項目に関し ては、一部の結果は重複して報告される。
C.研究結果 (1) 一次調査結果
2014 年 1 月の時点で調査対象 59 施設中 37 施設(62.7%)より調査票を回収した。出生前診 断例は 218 例あり、このうち 51 例が出生直後 に呼吸器症状を呈していた。他の 163 例は出 生直後には呼吸器症状を認めず、緊急的手 術の対応にはなっていなかった。一方、出生 後に診断された症例は 309 例あり、このうち 275 例がこれまでに手術を受けていた。さらに 調査票を回収しえた 37 施設のうち、新生児期 に手術する症例のあった施設は 14 例、2 ヶ月 未満の乳児に対する手術症例のあった施設 は 15 例で、残る 8 施設では待期的手術のみが 行なわれていた。
(2) 二次調査
① 調査症例数
2014 年 1 月の時点で、拠点的 10 施設より
391 例分の二次調査票が回収された。このうち
、初期データクリーニングなどの途中で解析に 至っていない症例が 40 例あり、また研究の適 格期間外の症例が 4 例みられたため、これらを 除外した 347 例についてより詳細なデータベ ースが構築された。このうち出生前診断症例 は 157 例、生後診断例は 190 例あり、これらの 症例と上記の一次調査の症例とを合わせると
、出生前診断症例 375 例、生後診断症例 499 例、総計 874 例が同定された。欠測項目があ るために調査項目により症例数がばらつくもの の、検討可能な項目は全体で集計し、詳細項 目については二次調査結果のみを解析対象 とした。さらに各施設から漸次症例の詳細情報 のデータベース化が進められている。
② 生後診断症例の demographic data 生後に診断された症例の検討では性別は概 ね 1.2:1 で男児が若干多かった。在胎週数は 111 例で回答記録があり、26〜43 週、中央値 38 週であった。出生時体重は 120 例で回答さ れ、472〜4266g、中央値 2958g であった。また 出生時身長も 29.4〜52.4cm、中央値 48.0cm で、特定の傾向は見出せなかった。
③ 生後診断例の診断名
生後診断例の診断名は、重複した診断名も 見られたが、CCAM 91 例、肺葉内肺分画症 61 例、肺葉外肺分画症 18 例、気管支閉鎖症 37 例、気管支原性嚢胞 6 例、肺葉性肺気腫 7 例、Bulla/Bleb3 例、その他 16 例、欠測 7 例と なっていた。ただしこれは中央病理組織診断と は必ずしも対応しない。
④ 初発時期と初発症状
症状が初発した時期は 80 例で回答されてお り、うち 24 例(30%)が 0 歳時、21 例(26.3%)
が 1 歳時で、あわせて過半数は 2 歳未満で発 症していた。その後 2 歳から 6 歳時までは各年
齢で 5〜6 例ずつの初発例が見られたが、初 発年齢が 7 歳以降の症例は全体の 7.5%しか いなかった。
初発症状として発熱をみたもの 89 例と咳嗽 をみたもの 64 例が圧倒的に多く、感染の有無 に関しては、記載のあった 135 例中 104 例 (77.0%)が感染徴候を陽性としていた。即ち圧 倒的に肺炎など呼吸器感染で初発する症例 が多いと言える。
⑤出生時情報
1992 年 1 月 1 日〜2012 年 12 月 31 日に出 生した 376 例の集計では、出生前診断のあっ た症例 194 例、なかった症例が 180 例、欠測 2 例であった。出生場所は院内出生 175 例、院 外出生 128 例、回答記載なしが 73 例で、出生 前診断例、母体搬送例が過半数を超えていた
。胎児麻酔を導入した症例が 8 例みられた。分 娩様式は自然経膣分娩が 129 例、計画経膣 分娩が 35 例、予定帝王切開が 43 例、緊急帝 王切開が 43 例あり、117 例では情報がなかっ た。帝王切開を採用した理由をみると、先天性 嚢胞性肺疾患による呼吸障害や生直後の緊 急手術を考慮した症例が 20 例、胎児機能不 全が 11 例、母体の理由によるものが 45 例、そ の他の理由によるものが 22 例となっていた。
病変のサイドは左側が 166 例、右側が 129 例、両側性が 4 例で、77 例では欠測となっ ていた。
生下時の APGAR スコアは 1 分での情報の分 かる 305 例中、9 点が 94 例、8 点が 39 例、7 点が 120 例で、5〜7 点は 29 例、5 点未満が 23 例あった。18 例は気管内挿管を受けてい た。
生後 5 分の APGAR スコアの情報は 205 例で 得られ、10 点が 17 例、9 点が 117 例、8 点が 38 例であった。一方、5〜7 点の症例は 22 例、
5 点未満の症例が 11 例みられた。
⑥手術
出生前診断例、生後診断例も合わせた 376 例の手術適応は、呼吸障害が 120 例、体重増 加不良・経口摂取不良が 3 例あり、その他 231 例は X 線写真異常陰影などによっていた。ア プローチは 328 例が開胸に対して胸腔鏡補助 下は 16 例のみであった。
手術時の罹患肺葉は左下葉が 135 例と最も 多く、次いで右下葉が 106 例、右上葉が 54 例
、左上葉が 48 例、右中葉が 20 例となってい た。
手術術式は一肺葉切除が 262 例と圧倒的に 多く、次いで区域切除 28 例、2 肺葉切除 14 例、肺切除 11 例の順であった。嚢胞開窓術も 2例含まれ、さらにその他の手術を受けた症例 が 39 例あった。術中合併症の記載は2例で見 られた。
⑦術後の合併症
新生児期以降、全年齢における手術後の合 併症をみると 68 件の回答記載がみられた。う ち気胸が 15 例と最も多く見られ、次いで肺炎 が 11 例、呼吸不全が 10 例、治療レベルの乳 糜胸や胸水貯留が 8 例に見られた。嚢胞遺残 の記述は 6 例でみられたほか、胸郭変形の記 述も 5 例でみられた。さらに中枢神経系の合併 症が5例でみられ、その内訳は脳室内出血が 3 例、脳室周囲白質軟化症が 1 例、痙攣が 1 例であった。最終的な合併症の転帰として、治 癒・軽快は 39 例で、5例が未回復、3 例が後遺 症ありと回答され、14 例が死亡していた。死亡 例の多くは呼吸不全症例と考えられた。
⑧病理
切除肺の病理について、今年度の報告では まず施設病理診断を集計している。それによる と CCAM が 164 例で最も多く、次いで気管支
閉鎖症 66 例、肺葉内肺分画症 63 例、肺葉外 肺分画症 39 例、気管支原生嚢胞 15 例、肺葉 性肺気腫 9 例、Bulla 2例で、上記以外の診 断がついた症例も 21 例あった。CCAM の病型 については、CCAM Ⅰ型 76 例、Ⅱ型 72 例、
3 型 9 例、CPAM 0 型 1 例、1型 21 例、2型 22 例、3 型 1 例、4型 2 例、病型不明 30 例となっ ていた。
これらに関しては、中央病理診断による見直 しと再評価も進められている。
付帯的なマクロの病理所見として、63 例で区 域気管支の閉塞が確認されており、25 例で肺 動脈の走行異常が認められた。
⑨遠隔期合併症
手術後 10 年以上の遠隔期の合併症をみる と、280 例で合併症なしであったのに対して 31 例が何らかの合併症を呈していた。合併症 の内容に関しては胸郭変形は 24 例で最も多く
、次いで嚢胞遺残の 3 例であった。がん化した 症例は1例も見られなかった。6 例は合併症に 対して手術が行なわれていた。
D.考察
本研究課題に関して、本邦で初めて、全国 規模における先天性嚢胞性肺疾患に対する 出生前から術後遠隔期に及ぶ包括的な調査 が行われた。分担研究報告書として、出生前 診断例と生後診断例のそれぞれに重点をおい てまとめた。このため、方法や一部の結果には 記述に重複がみられる。
出生後診断例は一次調査、二次調査をあわ せた874例中、499例(57.1%)を閉めている。
過半数ではあるが、出生前診断例が半数に迫 る勢いで伸びていることを示唆しており、逆説 的に本疾患の出生前診断、出生前管理の重 要性を示唆したデータと言える。一方で、本調
査の対象は、本邦の小児外科施設の中でも小 児呼吸器外科の専門性の高い施設であり、そ こにバイアスが入っている可能性が考えられる。
散発的に診療される生後診断例はこの調査に はほとんど拾い上げられていない可能性も考 えられる。
これに関連して、詳細調査における出生時 情報をみると、376例中に院外出生が128例あ り、さらに194例の出生前診断例に対して院内 出生は180例であった。出生前診断がついても 母体搬送の行なわれなかった症例、出生前診 断なしに生直後の呼吸器症状で小児呼吸器 外科施設へ搬送された症例が少数ではあるが 存在していることを示唆するデータと考えられ る。
APGARスコアは、生後診断例、出生前診断 例をあわせて集計されているが、8点未満の症 例は生後1分で13.9%、生後5分で8.8%見ら れている。これらの数字から、出生前診断をし て、出生直後より治療を行なうべき症例は、本 症の概ね1割程度に上ることが考えられる。
出生時に無症状であった症例の発症時期を みると、1歳未満の発症例が30%、1〜2歳の発 症例が26.3%を占めていた。即ち過半数の症 例は生後2歳までに発症していることになる。
初発症状は圧倒的に肺炎が多かった。従来の 嚢胞性肺疾患に対する理解では、症例の多く は3〜4歳頃以降に、反復する肺炎や胸部X線 異常陰影で診断され、CCAMに関しては、他 の嚢胞性肺疾患よりもやや発症が早いと考え られていた。したがって、今回の結果は手術時 期を考える上で極めて重要なデータである。
手術は、肺炎の炎症による組織・器官の修飾 がかかる前に行った方が安全かつ肺機能予後 が良好であることが知られており、出生時に無
症状であっても、手術時期は乳児期後半、遅く も2歳を越えるべきではないことが分かった。
手術術式も生後診断例、出生前診断例をあ わせて集計されている。今回の調査では胸腔 鏡補助下の手術が16例しか見られず、圧倒的 多数は一般の開胸で手術されていた。これは 出生前診断例では、重篤で緊急性の高い手 術であること、生後診断例でも小児において強 い炎症性の血管増生などを認める嚢胞性肺疾 患の手術に、なかなか安全に胸腔鏡補助下の 手術が導入できない現況を示唆しているものと 思われる。また、一肺葉切除が最も多かった。
二肺葉以上の切除や区域切除は少なかった。
これは成長期の肺の手術で、区域を残して合 併症を作るよりも残存肺の成長に期待ができる 肺葉切除が一般的であることを示唆している。
同時に過剰な肺組織の切除に対して消極的な 姿勢が見られた。
手術の合併症に関して、出生直後からの呼 吸障害が遷延している症例についての議論は、
周産期・新生児の報告に譲る。気胸、肺炎が 最も多く、治療レベルの胸水・乳び胸がこれに 続いたことは日常臨床における印象と合致す る。その他、嚢胞遺残も少数で見られている。
これは合併症というよりも、病変が複数肺葉に 及ぶもので、肺全摘など過大な肺組織の切除 を避けるための判断で嚢胞の遺残を選択した ものと思われる。成長後の肺機能予後に関し ては、報告書作成時点で集計・解析中である。
中枢神経系の合併症が5例に見られているが、
これらは周産期の呼吸不全に対する集中管理 や低酸素血症の結果と考えられる。
手術合併症による死亡例が14例となっている が、これは重篤な新生児期呼吸不全によるも のがほとんど考えられる。新生児期に無症状
であった生後診断例では、手術死亡はほぼ見 られていない。
手術後遠隔期における合併症では、8.2%に 胸郭変形が見られた。生涯性の問題であり、
重要視すべき結果と思われる。もう一つ注目す べき結果は、全国的にhigh-volume centerを網 羅した調査においても発がん症例が1例も見 つからなかったことである。成人領域での発が ん症例は、おそらく成人呼吸器外科で治療さ れているものと思われるが、比較的医療情報 の連携が発達した過去20年の症例の検討であ り、先天性食道疾患術後の食道がん発生など の報告と比較しても、一次医療機関に全く情報 が入らないことは考えにくい。さらに胸膜肺芽 種は小児がんであり、これは小児呼吸器外科 施設で治療されていると考えられる。CCAMの ような先天性の肺発育不全組織が、発がんの 母地になることは、実際には極めて稀なので はないかと考えられる。
先天性嚢胞性肺疾患の病理について、本研 究班では、今回、構築されたデータベースを 基に、小児病理の専門の諸氏の協力を仰いで、
小児の嚢胞性肺疾患の分類案を策定した。以 下に新分類案を載せる。
Ⅰ.先天性
1.気管支閉塞群(Bronchial obstruction)
・気管支閉鎖症(Congenital Bronchial Atresia)*1
・気管支狭窄症(Bronchial Stenosis)*1
・外因性気管支狭窄(Extrinsic Compression of the Bronchus)*2
・乳児肺葉性肺気腫(Infantile Lobar Emphysema)*3
2.先天性肺気道奇形*4(Congenital Pulmonary Airway Malformation, CPAM)
・Type 0(Acinar Dysplasia or Agenesis)
・Type I (CCAM Type I)*5
・Type II(CCAM Type II)*6
・Type III(CCAM Type III)*7
・Type IV(Peripheral Acinar Cyst Type)*8 3.肺分画症群(Bronchopulmonary Sequest- ration, BPS)
・ 肺葉内肺分画症(Intralobar Sequestra- tion)*9
・肺葉外肺分画症(Extralobar Seqestration)
・ 前腸由来管腔(食道・胃など)と交通のない もの(肺葉外肺分画症)
・前腸由来管腔(食道・胃など)と交通のある もの*10
4.前腸重複嚢胞群(Foregut Duplication Cysts)群
・気管支原性嚢腫(Bronchogenic Cysts)
・腸管重複嚢腫(Enteric Duplication Cysts)
・神経腸管嚢腫(Neurenteric Cysts)
・前腸由来嚢腫(Foregut Cysts)*11 5. その他
・先天性肺リンパ管拡張症(Congenital Pulmonary Lymphangiectasis, CPL)
Ⅱ.後天性
1.気管支閉鎖・狭窄*1
2.気管支拡張症(Bronchiectasis) 3.肺炎後肺嚢胞(Pneumotocele)
4.間質性肺気腫(Interstitial Pulmonary Emphysema, IPE)
5.胸膜下嚢胞、肺胞性肺嚢胞、肺末梢嚢胞 (Bulla, Bleb, Peripheral Cysts of the Lung) (西島ほか)
これまでの分類では、嚢胞壁にadenomatoid な変化が見られた場合には、これをCCAMとの
ハイブリッド病変という考え方をしていた。この ことが境界領域の症例を増やして、本疾患の 分類や概念を非常に曖昧にしていた。大きな 考え方の変化として、発生学的要因により気道 の発生異常、肺芽の異常などに分類し、他に 一次的な肺の発育遅延があって、それに合併 した二次的なadenomatoidの所見はCCAMとは 分けて考えることとした。
報告書作成時点でまだ調査票は追加の情報 が更新されており、膨大なデータは、現在でも まだ集計・解析が完了していない。また、病理 の新提案に関しても、臨床情報との関連付け は今後の課題である。本研究課題は、本邦で 初めて嚢胞性肺疾患の包括的調査に着手し た点に大きな意義があり、既にいくつかの重要 な結果が得られているが、さらに今後もデータ の集積と解析を継続していくべきものと思われ た。
E.結論
1) 一次・二次調査で 874 例の嚢胞性肺疾患 の症例が同定され、うち 499 例が生後診断例 であった
2) 本症全体の 1 割程度が周産期に重篤な症 状を呈するものと推定されたが、生後診断、
搬送となる症例も相当数あることが示唆され た。
3) 生下時に無症状の症例も 3 割が1歳未満、
過半数は 2 歳未満に主に肺炎で発症してい た。これより、出生時に無症状であっても、乳 児期後期、遅くも 2 歳までに手術をすべきで あると思われた。
4) 手術では開胸アプローチが圧倒的に多く、
術式では一肺葉切除が最も多かった。これら は本疾患の背景を反映しているものと思われ た。
5) 術後に合併症は、気胸と肺炎が最も多く、
治療レベルの胸水・乳び胸がこれに続いた。
6) 術後遠隔期において、8.2%の症例で胸郭 変変形が見られ、また少数で遺残嚢胞があ った。しかしながらこれまでのところ、発がん 症例はみられていない。
7) 発生学的背景に基づいた先天性嚢胞性肺 疾患の新たな分類案を提唱した。
F.研究発表 1.論文発表
西島栄治、黒田達夫:日本小児呼吸器外科の 現 状 と 課 題 日 小 外 会 誌 49suppl,2014 (in press)
2.学会発表
Pacific Association of Pediatric Surgeons 2014 annual meeting (Banf, Canada 2014 年 5 月)にて発表予定
G.知的財産の出願・登録状況 なし