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第第第第4444章章章章

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(1)

第 第

第 第4 4 4 4章 章 章 章

LCC

に に基 に に 基 基 基づく づく づく づく合理的 合理的 合理的な 合理的 な な保守戦略 な 保守戦略 保守戦略 保守戦略の の の の策定 策定 策定 策定

4.1 はじめに

近年,社会や経済情勢の変化に伴い,社会インフラの大量・大規模開発の時代が終焉を 迎え,これまでの資産を有効に活用していくことが求められる時代へと変貌しつつある.

これに併せて,土木設計技術者の仕事も,建設中心から保守中心へと重点が移行している.

このような技術環境の変化の中,これまで以上に無駄のない維持管理を着実に行うことが 求められている.このため,構造物の保守のあり方を再評価し,合理的な保守戦略を策定 するための新たな評価手法を開発することが重要な課題となっている.

一方,性能設計は設計の自由度が高く,従来設計に比べ経済合理的な構造設計を実現する ことが容易な体系である.すなわち,維持管理の分野においても,LCCに代表されるよう な経済性の評価を基に,責任ある技術者が合理的な保守戦略の構築を実現できる体系とい える.

本検討では,東京湾岸沿いに位置する鉄筋コンクリート(RC)構造物を対象として,性 能設計体系のもと,性能,安全性および経済性との相互関係に着目しながら,最適な点検 補修の頻度および時期を算定するための評価手法の構築とその考察を行う.検討にあたっ ては,対象とする構造物の設置場所における荷重・環境条件を十分に考慮する必要がある.

構造物が腐食性環境にある場合,考慮すべき劣化機構を適切に選定することが重要である.

また周辺環境条件,コンクリートの品質,施工誤差などの不確定要因の影響により,構造 物の劣化進行にもばらつきが生じる可能性がある.一方,巨大地震が発生した場合,構造 物の耐力は大きく損なわれる可能性があるが,地震の発生頻度やその大きさに関する不確 定性は非常に大きい.このことから本検討では,確率統計的手法を用いて構造物の劣化進 行および地震に関する不確定性の影響を定量的に評価するとともに,それらを取り込んだ LCCの定式化を行い,数値計算例を通して点検補修頻度の最適化を試みることとする.

(2)

4.2 性能設計体系における既設構造物の維持管理の合理化

従来,RC構造物の耐久性に関わる設計1)は,設計耐用期間中の性能低下を考慮し,設計 耐用期間後においても性能が十分に発揮できるよう予め大きめの安全裕度を確保しておく ものであった.例えば,塩害などによる鋼材腐食に伴う経年劣化の防止という観点では,

図-4.1 に示すように,コンクリートに発生するひび割れ幅が許容値以内に収まるよう十分 なかぶりをとることにより,性能の裕度を予め大きめに確保しておく.また土木構造物の 設計法の変遷1), 2)が物語るように,構造物の設計が力学的な破壊を避けることを第一義と していたことから,設計体系という枠組みの中で耐久性が扱われてこなかったという見方 もある.このように従来の設計体系の中では,供用期間中の維持管理による劣化防止策や 補修・補強による性能改善効果などを設計に直接反映させることのできる枠組みとなって いなかったため,効果的に維持管理の合理化を図るのは一般には困難であった.

一方,性能設計体系では,構造物の性能の明確化とその満足度を照査することに重点を 置いている.このため,設計段階において供用開始時点で実現される初期性能の定量化の みならず,供用開始後の任意の時点での性能すなわち時間軸に対する性能の低下度合いも 考慮した設計が可能となる.現在,RC 構造物の経年劣化に関する時間軸での評価技術や 補修による性能改善効果など個々の設計技術の研究開発3)4)も着実に進んでおり,性能設 計体系の中で構造設計と供用開始後の維持管理を同時に評価・検討するための基盤が整い つつある.さらに,要求性能の満足度を供用期間中の任意の時点で確認できれば,建物や 設備の所有者や管理者にとっての維持管理の幅が拡がり,経済性を考慮した最適な戦略を 練ることも可能となる.このとき,要求性能の水準,安全性の水準およびLCCによる経済 性の水準は密接な関係にあることから,これらの水準のバランスを考慮しながら,戦略を 策定することが重要である.

このような体系の中で保守の合理化を実現するためには,構造物の劣化機構ごとに性能 低下の時間関数を構築し,補修による性能改善効果を定量化するとともに,これらを統合 し経年劣化に伴う構造物の損傷リスクや補修費用などを取り込んだ LCC 評価手法を構築 することが重要である.本章では,合理的な保守戦略策定支援の一環として,点検補修の 頻度と時期の最適化に関する検討を行う.図-4.2 には,診断技術の高度化や新材料の使用 による構造物の性能低下の遅延あるいは要求性能水準の見直しによる合理化の概念を示す.

(3)

経過年数 性能

設計耐用期間 要求性能水準

設計耐用期間後の 十分な残存裕度 当初設計段階で大きめの安全裕度確保

(許容ひびわれ幅による制限等)

図-4.1 従来のRC構造物の耐久性設計の概念図

図-4.2 既設構造物の維持管理の合理化の概念図 経過年数 要求性能水準(見直し後)

要求性能水準(従来)

所要性能の再評価 (LCCによる評価等)

補修・補強の時間間隔の延長

(補修・補強頻度の低減)

構造物の性能曲線(従来)

構造物の性能曲線(見直し後)

コストダウン実現

・診断技術の高度化

・長寿命化の新材料使用 等 による構造物の性能低下の遅延 性能

(4)

4.3 RC 構造物の経年劣化の考え方

RC 構造物の経年劣化は,主に塩害,中性化,凍害,化学的侵食あるいはアルカリ骨材

反応等に起因するものが考えられる.本検討では,日本国内の電力会社の所有する RC構 造物の多くが沿岸の海洋環境下に構築されていること,また塩害劣化は他の劣化メカニズ ムと比べ比較的解明の度合いが高いことから,塩害劣化を取り扱う.

宮川等5)によると,塩害劣化過程は図-4.3(a)に示すように,4つのステージに分けられる とされている.

各ステージの特徴の概要は,以下のとおりである.

○ 潜伏期:塩化物イオンがかぶりコンクリート中に拡散浸透し,鉄筋近傍に蓄積され,

鉄筋腐食が発生するまでの過程

○ 進展期:コンクリート中で鉄筋が塩化物イオンにより腐食し始め,腐食生成物(錆)

が蓄積され,その膨張圧によってかぶりコンクリートに鉄筋軸方向のひびわ れが生じるまでの過程

○ 加速期:軸方向のひびわれによって,腐食速度が促進されかぶりコンクリートの剥離・

(a)宮川らの塩害劣化過程モデル (b)Frangopolらのモデル

図-4.3 塩害劣化過程のモデル化

鉄筋の腐食開始

潜伏期 加速期

潜伏期

供用期間

進展期

加速期

劣化期 耐荷力の低下

じん性の低下 耐荷力寿命

軸方向ひびわれ寿命

耐荷力限界

腐食開始

ひび割れ 発生

モデル化

腐食量 腐食量

供用期間

(5)

剥落が生じる過程

○ 劣化期:鉄筋腐食が進み,鉄筋断面積あるいはコンクリート断面積の減少が顕著とな り,構造系の耐荷力の低下が明らかとなる過程

しかし,これら4つのステージのうち,モデル整備の進んでいるのは実質的に,耐力低 下の生じる前の潜伏期および進展期であり,加速期や劣化期については未だ研究段階であ ることから,本検討ではFrangopolの単純な劣化過程モデルを用いることとする6).また耐 荷力評価においては,腐食現象に伴う鉄筋膨張による付着切れやコンクリートの剥離・剥 落による影響などは考慮しない.

4.3.1 鉄筋断面の経年変化モデル

鉄筋の腐食進行は通常,塩化物イオンのコンクリート内への拡散浸透が発端となる.い ったん腐食が始まると,鉄筋の断面積はある割合で時間とともに減少する.ここでは,図

-4.3(b)に示すように Frangopol らのモデル 6), 7)に基づき,時間経過に伴う鉄筋量の減少を

(4.1)式および(4.2)式のようにモデル化する.

{ }

2

1

) 4 (

)

(

=

= n

j j

s t D t

A π

(4.1)

t D T

D T t T

T t T

t D

D t

D

j Ij

jo Ij Ij

Ij Ij

j j j

≤ +

+





=

ν ν ν

2 /

2 / 0

;

;

; 0

) ( 2 )

(

0 0

0

(4.2)

ここに,As

( )

t は供用開始から t 年後の鉄筋の断面積,Dj(t)は供用開始から t 年後の鉄筋 j の直径,nは対象とする鉄筋の総数,Djoは鉄筋jの初期直径,νは年当たりの腐食率(一 定とする),tは経過年数およびTIjは鉄筋jの腐食開始年である.

なお,(4.1)式および(4.2)式からもわかるように,鉄筋量の減少は下記の事項を仮定して いる.

○ 鉄筋断面積は一定の割合でその周囲から一様に減少していく.すなわち,任意の時間 経過後も同じ円形を保つものとする.

○ どの鉄筋も構造物内部での位置や局所的な環境条件の違いに関係なく一様に腐食する.

(6)

4.3.2 構造物の損傷に関する経年変化モデル

Frangopolら6)は,(4.1)式にしたがい鉄筋腐食による構造物の損傷劣化が一定の割合で進

行するとしている.しかし,実際の損傷劣化の進行にはばらつきが存在する8).本検討で は図-4.4に示すように,このような劣化進行の不確定性を評価するために,損傷劣化レベ ルを離散化し確率的な取り扱いを行う.すなわち,ある損傷劣化レベルにある構造物は1 年後に確定的に次の劣化レベルに遷移するのではなく,現状を維持したり,平均的な腐食 速度で劣化したり,より早く劣化したりというように,ある確率に従って,いくつかの損 傷劣化レベルに遷移すると仮定する.なお,確定的に劣化が進行する場合は平均的な劣化 進行の遷移確率を1.0とし,それ以外の状態遷移確率を0.0としていることに相当する.

経過年数

1 2 ・・・ t-1 t ・・・

損 傷 劣 化 レ ベ ル

1 1

2 2 状態遷移:4段階の例 3 3 → 腐食進行なし p=pr0

4 4 → 平均的腐食進行 p=pr1

5 5 → 2倍の速度で進行 p=pr2

6 6 → 3倍の速度で進行 p=pr3 3

Σpri =1.0 i=0

図-4.4 劣化進行の不確定性に関するモデル概念図(状態遷移が4段階の場合)

このように,不確定性を伴う劣化進行のモデル化には,損傷劣化の状態遷移を確率的に 捉え,マルコフ連鎖の概念を用いることができる.供用開始t年後に,ある損傷劣化レベ ルに至る確率は,一様マルコフ連鎖の概念から,(4.3)式で表せる.P

( )

t は供用開始t年後 に構造物の損傷劣化レベルがk(k=1,…,m)である確率p

( )

k,t の集合から成る列ベクトルを 表す.Mは

(

t−1

)

年後の損傷劣化レベルからt年後の損傷劣化レベルに移行する遷移確率行 列を表す.(4.3)式は,t年後の損傷劣化状態が

(

t−1

)

年後の状態,すなわち1段階前の状態

・・

・・

(7)

によってのみ決まることを表している.

なお損傷劣化レベルkとは,腐食の進展にばらつきがない,すなわち平均的な腐食速度 で劣化進行するとした場合の供用開始k年後の損傷劣化状態をいう.

) 1 ( )

(t =M⋅Pt−

P (4.3) ここに,

















= ⋅

















= ⋅

2 1 2

0 1 2

0 1 0

,

) , (

) , 3 (

) , 2 (

) , 1 (

) (

r r r

r r r

r r r

p p p

p p p

p p p

M

t m p

t p

t p

t p

t P

(8)

4.4 点検精度と補修効果のモデル化

図-4.2に示すように,供用期間中における点検・補修の実施を考慮したLCC評価を行う には,点検により補修が必要とされる劣化レベルを検出する確率(点検精度)およびその 補修による性能の改善度(補修効果)をモデル化する必要がある.

点検精度および補修効果のモデル化にあたっては,(4.4)式のように,劣化度η

( )

t (0≦η

≦1.0)を定義する7)

t T

T t T

T t D

t D t D

r r I

I

D rep T t

D T t

r I





+

− =

=

0

;

;

; 0 )

) ( (

0 0

) ( 2

) ( 2 0

0

η η

ν

ν (4.4)

ここに,η

( )

t は t 年後における構造物の劣化度,Doは初期の鉄筋径,TI は鉄筋の腐食開始 年,ηrepは補修直後の劣化度および Tr は補修年である.η=0 とは劣化が全くない状態で あり,η=1.0とは腐食により鉄筋がなくなる状態を表す.

点検精度は,点検により補修が必要な劣化を検出する確率(検出率ともいう)d と密接 に関係し,dが劣化度ηに依存すると考えると,(4.5)式のようにモデル化できる7).ここで は,さらに検出率dは正規分布Φに従うと仮定する.

{ }

η η

η η η

η η σ

η η η

Φ

=

max max min

min 5

. 0

0

;

;

; 0 . 1

/ ) (

0 )

(

d (4.5)

ここに,η0.5は確率 50%で検出できる劣化度を表し,ここではη0.5=0.1 とする.また σは

標準偏差で,ここでは0.01とする.ηminは検出に関する上限値で,平均からの距離3σを 考え,ηmin =0.7⋅η0.5=0.07とする.ηmaxは検出に関する下限値で,同様に平均からの距離 3σを考え,ηmax =1.3⋅η0.5=0.13とする.

(4.5)式による点検精度の概念は図-4.5 のように表される.これより,高精度の点検方法

を用いると,劣化度が小さくても検出できる確率が高く,精度の低い点検方法を用いると 劣化度が大きくても検出できない確率が高いことがわかる.

(9)

このような精度の違いは点検費用に反映されるべきものである.ここでは,Moriらの考 え方にしたがい,点検費用の算出方法として(4.6)式を用いる9), 10)

20 min) 1

( η

α ⋅ −

= ins

Cins (4.6) ここに,Cinsは点検費用,αinsは初期建設費用CIの0.07倍とする7)

なお,検出率は劣化度ηの関数としているため,補修を行わない場合,劣化度が時間と ともに増加するにしたがい,検出率も同時に高くなる.本検討では,点検時に補修を要す る劣化が検出されれば,必ず補修を行うとする.すなわち,補修の要否は点検精度によっ て決まる.

また補修効果については,(4.7)式のようにモデル化する7)

η η

η η η

η η η

η η

η η





 +

=

max max min

min

5 . 0 min

0

;

;

; 2 / ) ( i

i

rep (4.7)

ここに,ηrepは補修直後の改善された構造物の劣化度(劣化の改善度を表す),ηiは劣化検 出時の劣化度とする.

劣化度 ηmin(高精度)

1.0

0

高精度の劣化検出曲線 低精度の劣化検出曲線

図-4.5 劣化度と点検精度との関係 検出率

ηmin(低精度) ηmax(高精度) ηmax(低精度)

(10)

(4.7)式による補修効果の概念は図-4.6 のように表される.図からもわかるように,本検 討で用いる補修効果モデルは,劣化度があるレベル以下では補修をしてもその効果を期待 しないとともに,劣化度があるレベルを超えたら補修効果が頭打ちになるという,安全側 のモデルとなっている.また本検討で用いる補修効果モデルは,点検精度と密接に関係す る.精度の高い点検方法を用いるほど劣化の検出が高まることとなり,致命傷に至る前に 補修の実施が可能となる.

補修費用としては,(4.8)式を用いる 7).ここでは,補修効果が主に曲げ耐力の増大に寄 与するという仮定を基に費用算出を行う.

γ α γ

αrep ra rb r rep rep

rep M M M e

C = ⋅{( ,, )/ 0} = ⋅ (4.8) ここに,αrepは立替え費用(=初期建設費用 CI),Mr,aは補修後の曲げ耐力,Mr,bは補修 前の曲げ耐力,Mr0は建設直後の曲げ耐力,γはモデルパラメ-タ(=0.5)およびerepは補 修労力である.

経過年数 劣化度

ηmin

η0.5

ηmax

補修直後の劣化度 ηrep

補修効果 (劣化度低減)

図-4.6 劣化度の低減に寄与する補修効果モデル TI

補修がない場合の劣化度

劣化度 ηi

ηmin ηmax

(11)

4.5 年損傷確率の算定

4.3.2では,損傷劣化進行の不確定性をマルコフ連鎖によってモデル化した.しかし,日

本国内,特に東京湾周辺の構造物は劣化という外的作用に加え,地震の影響も無視できな い.このため,ここでは上述の2つの外的作用を考慮した年損傷確率の算定方法について 検討する.

供用開始t 年後の構造物の年損傷確率は,時間経過に伴う構造物の耐力低下に応じて求 められるフラジリティ曲線と地震ハザード曲線を用いて算定できる.フラジリティ曲線と は,横軸に地震動強さ(多くの場合,最大加速度),縦軸に限界状態の超過確率(条件付き の損傷確率)を示したもので,耐力の不確定性を表すものである.

年損傷確率の算定手順を下記に示す11)

① 供用開始t(t=t1 , t2 ,…)年後の鉄筋量As

( )

t を算定する.

② 上記で算定した鉄筋量As

( )

t をもつ RC 構造物について,ある大きさの地震動(基盤加

速度 ai (i=1,…,n))が発生したときの損傷確率Frt

( )

ai (i=1,…,n)を算定する.ここで,

基盤加速度の値は適当にn個用意し,各々の値に対して損傷確率を算定する.また損傷 確率は,考慮すべき損傷モードに応じて設定した限界状態に対して,信頼性解析を実施 することにより算定するものとする.

③ フラジリティ曲線Frt

( )

a は対数正規分布に従うと仮定し,②で求めたn組の

(

ai,Frt

( )

ai

)

の値を用いて経過年数tに対応したフラジリティ曲線の平均µ

( )

t ,標準偏差σ

( )

t を各々 求め,フラジリティ曲線群Frt

( )

a (t=t1 , t2 ,…)を構築する.

④ 図-4.7に示すように,地震ハザード曲線とフラジリティ曲線のコンボルージョンにより

(4.9)式から経過年数tに応じた年損傷確率pf

( )

t を求める.なお,pf

( )

t は損傷劣化の進

行のばらつきがないものとして算定される.

=

0

) ) (

( )

( da

da a a dFs Fr t

pf t (4.9)

ここに,pf

( )

t は経過年数tに対応した年損傷確率,Frt

( )

a は経過年数tに対応したフラ ジリティ曲線から求まる基盤加速度 a に対する損傷確率およびFs

( )

a は地震ハザード曲

線から求まる基盤加速度aに対する年超過確率である.

(12)

⑤ 構造物の損傷劣化レベルは,4.3.2 で示すように離散的な確率変数としたことから,取 りうる損傷劣化レベル k(k=1,…,m)になる確率を全て考慮し,全確率の定理により供 用開始t年後の年損傷確率PF

( )

t は,(4.10)式から算定できる.

=

= m

k F

F t p f k t p k t

P

1

) , ( ) ,

| ( )

( (4.10)

0 . 1 ) , (

1

=

= m

k

t k

p (4.11)

ここに,PF

( )

t LCC算定に用いる供用開始t年後の年損傷確率,pF

(

f k,t

)

は供用開始

t年後に構造物の損傷劣化レベルがkであるときの年損傷確率((4.9)式参照),p

( )

k,t は 図-4.7 経過年数(損傷劣化レベル)に対応した年損傷確率の算定概念図

地震ハザード曲線

基盤加速度 a

年超過確率Fs(a)

フラジリティ曲線

基盤加速度 a 損傷確率Frt(a)

t1

t3 t2

経 年 劣 化 に よ る耐力低下

年損傷確率の経年変化

経過年数 t [損傷劣化レベルk] 年損傷確率pf(t)[pF(f|k)]

t1 t2 t3

経年劣化による年 損傷確率の上昇

(13)

(4.3)式から求まる供用開始t年後に構造物の損傷劣化レベルがkとなる確率である.

(4.10)式中のpF

(

f k,t

)

は,損傷劣化レベル k が腐食進展にばらつきがない場合における

供用開始k年後の損傷劣化状態であることから,図-4.7下段の損傷劣化レベルkと年損傷 確率pF

( )

f k の関係を用いて算定できる.

(14)

4.6 LCC の算定

4.6.1 既設構造物を対象とした LCC 評価

2章の(2.1)式に示すように,LCCの評価式は下記のよう表される.

B C C C C

LCC= I + M + R + D

ここに,CIは初期建設費用,CMは維持管理費用,CRはリスク,CDは撤去費用およびBは 便益である.

本検討では,既設構造物を対象とすることから,初期建設費用は考慮しないこととする.

また撤去費用CD は設計変数(保守頻度・時期)に関係なく一定とし,便益Bも橋脚とい う一土木設備がもたらす便益を定量化することが困難であること等から,一定とする.こ の場合,撤去費用および便益は,LCC評価上,設計変数の決定に影響がないので,本検討 では対象外とする.以上より,LCCは(4.12)式で表される.

R

M C

C

LCC= + (4.12) ここでは,構造物の性能は時間が経過するにしたがい徐々に低下するという構造劣化モ デルがLCC評価の中に組み込まれることとなる.時間経過しても適切な維持管理を行わな ければ,構造物の性能低下が進み性能超過による損失リスクが高まる.一方,過度に点検・

補修を繰り返すと性能超過によるリスクは減るが維持管理コストが嵩むだけで,合理的と は言えない.このため,維持管理コストと性能超過リスクのトレードオフな関係を考える と,LCCを最小化する適切な維持管理頻度・時期が存在するものと考えられる.本検討で は,維持管理コストは維持管理の頻度および時期に依存するものとし,これらを設計のパ ラメータとする.

4.6.2 LCC 算定式の具体化

LCCを構成する費用としては,点検費用および補修費用という直接費用に加え,地震活 動度の高い地点に構造物が設置されていることを考え,地震による期待損失費用,いわゆ る地震リスクを考慮する.LCCの算定には,(4.13)式を用いる.

=

⋅ +

+

=

T

t

F F rep

ins C C P t

C LCC

1

) ( )

(

l

(4.13)

(15)

ここに,Cinsは点検費用,Crepは補修費用,CFは地震による損傷時の損失費用,PF

( )

t は(4.10) 式から求まる供用開始t年後の年損傷確率,lは点検補修回数およびTは設計耐用期間で ある.

また年あたりの期待損失費用は,(4.10)式から求まる年損傷確率PF

( )

t と損傷時損失費用

CFの積にその年に生じた点検・補修費用を加えて算定する.さらに設計耐用期間中におけ る地震による期待損失費用は,損傷事象が毎年独立的に発生すると考えて,時間方向に毎 年のCF・PF

( )

t の総和をとって算定する.

ここでは,構造物の劣化による年損傷確率の増大はPF

( )

t に,劣化レベルに応じた補修費 用の増大はCrepに反映される.また補修実施による劣化度改善効果はPF

( )

t の減少だけでな くCrepの減少にも反映されることとなる.

なお,供用開始t年後の点検費用,補修費用および損失費用の算定には,社会的割引率 を考慮する.

(16)

4.7 遺伝的アルゴリズムによる保守計画の最適化

保守計画の最適化にあたっては,LCCが最小となるように,点検補修の回数と時期を算 定する.すなわち,目的関数をLCC,最適化変数を点検補修の回数・時期とする最適化問 題として定式化する.点検補修の回数・時期の算定にあたっては,その回数が整数値であ ることやその時期に関して複数の局所解が存在することが予想されることから,DFP法や 共役勾配法などの微分に基づく通常の最適化手法では解を求めることが困難である.この ため,遺伝的アルゴリズム(以降GAと言う)を用いて最適化を行う.その概念図を図-4.8 に示す.GAは乱数を用いた大域解探索手法の一種であり,近年の計算機能力のめざまし い向上に伴い,実用的な方法として様々な分野で用いられるようになってきた.本検討で は,従来の2進法による方法よりも効率がよいとされる実数交叉型GA12),13),14)を用いる.

図-4.8 GAによる点検補修頻度・時期算定のための最適化フロー 乱数によりNPO個の補修計画案を作成

適応度の評価

エリート(パレート解)の保存

選択・淘汰(ルーレット戦略)

交叉・突然変異

最適な補修計画案 第一世代

各 計 画 案 の 優 秀 さ を LCCで定量化

上 位 の 優 秀 な 計 画 案 は無条件で次世代へ

優 秀 な 計 画 案 ほ ど 次 世 代 へ 子 孫 を 残 す 確 率が高い

2つの計画案(親)の 性質を混ぜて2つの新 しい計画案(子)をつ くる

NPO:人口 世代数分繰り返す

(17)

4.8 数値計算例

4.8.1 検討モデルおよび条件設定

図-4.9に検討対象のRC橋脚を示す.対象橋脚は火力発電所のLNG燃料配管を載せる橋 梁の一部と仮定する.また対象橋脚は高さ10m,幅5m,奥行2.2mであり,初期の鉄筋径

は主筋D29,せん断筋D13とし,東京湾岸F地点の基盤面上に設置(表層の影響なし)さ

れているとする.検討は橋軸方向とする.橋脚に作用する水平地震外力は,橋脚の固有周 期と応答加速度から算定する.その他の検討条件は,表-4.1に示すとおりである.

設計耐用期間は土木構造物に対して一般的に想定される 50 年とした.腐食開始年およ び鉄筋腐食率については,Frangopolらの文献6),7)を基に設定した.状態遷移は3段階とし,

各々の遷移確率についてはほぼ8割が平均的に腐食進行すると考えて設定した.損傷時の 損失費用については実際のところ定量的な算定が困難である.しかし,対象橋脚が火力発 電所の燃料配管を載せる橋梁の一部と考えると,その重要度は非常に高い.このため,橋 脚の破壊により燃料供給が途絶え発電支障すなわち電力供給停止につながるという安全側 のシナリオを想定して,ここでは初期建設費用の10倍と仮定した.

なお本検討では,数値的な試算に重点を置いている.

5000

2200

120 2200

10000

6963 kN

3395 kN

5800

図-4.9 対象橋脚の形状

(18)

表-4.1 検討条件

項目 記号 設定条件

設計耐用期間 T 50年

腐食開始年6) TI 供用開始3年後 鉄筋腐食率6),7) ν 0.08 mm/年 状態遷移確率) (pr0 , pr1 , pr2) (0.1, 0.8, 0.1)

損傷時損失費用 CF 初期建設費用の10倍 社会的割引率 - 2%

註)pr0は1年間劣化が進行しない状態の確率,pr1は設定した腐食率にしたがって劣化する確率,

pr2は腐食率の2倍の速度で劣化進行する確率を表す.

4.8.2 不確定要因の抽出とモデル化

経年劣化以外の外力の不確定要因は地震外力のみとし,対象地点の地震ハザード曲線15) から求まる基盤加速度の超過確率を用いる.図-4.10に東京湾岸F地点の地震ハザード曲線 を示す.

基盤加速度 a (Gal)

図-4.10 地震ハザード曲線(東京湾岸F地点)

年超過確率Fs(a)

(19)

なお,地震の発生頻度や基盤加速度の大きさはその不確定性が大きいため,本来感度分 析などによる十分な検討が必要であるが,本検討では数値的な試算に重点を置いているた め平均的なハザード曲線(期待値曲線)を用いる.

耐力側の不確定要因は,構造物の材料特性と耐力算定式とし,収集データ等に基づき統 計特性を設定した.本検討で考慮した耐力側の不確定要因を表-4.2 に示す.なお,本検討 では各々の確率変数間に相関がないと仮定した.

表-4.2 耐力側の確率変数の統計特性

不確定要因 記号 平均値 変動係数 分布形 圧縮強度(N/mm2) fc’ 30 0.04 正規 コンク

リート 弾性係数(N/mm2) Ec 26,500 0.12 正規 材料特性

鉄筋 降伏強度(N/mm2) fs 360 0.05 正規 曲げ耐力 em 1.0 0.11 正規 せん断耐力 ev 1.0 0.08 正規 耐力算定式

(補正係数)

靱性率16) ed 1.2 0.51 対数正規

4.8.3 限界状態関数の設定

性能設計体系において,構造物の限界状態は,要求される性能に基づき設定されるべき 重要な決定項目の一つである.これは構造種類ごとに異なり,性能超過をもたらす固有の 損傷モードにより決まるものである.このため,限界状態は構造物の破壊・損傷メカニズ ムの解明度合いに依存し,解明が遅れている構造物は大きな安全裕度を確保できるような 限界状態を考慮しなくてはならない.

本検討では,RC 橋脚の限界状態として終局限界状態に着目する.その照査は通常,曲 げ破壊,せん断破壊,変形破壊(変形能照査)の3つの損傷モードに対して行う.対象橋 脚は,コンクリート標準示方書15)に基づき破壊モード判定が曲げ破壊モードとなるように 断面設定を行ったため,本検討ではせん断破壊と変形破壊の2つの損傷モードを扱うこと とする.各々のモードに対する限界状態関数は(4.14)式および(4.15)式に示す.また構造解 析は線形解析を基本とし,高レベル地震動時に橋脚の基部が塑性領域に達する場合はエネ ルギー一定則を用いて水平力の低減を図る.なお,耐力に関する限界状態の評価において

(20)

はコンクリートの剥離・剥落による影響は考慮しないものとする.

d sd v

cd e V V

V

Z1=( ⋅ + )− (4.14)

a d

d e

Z2 =µ ⋅ −µ (4.15)

ここに,VcdはRC(せん断筋除く)のせん断耐力1)であり確率変数fc’の関数,Vsdはせん断

筋のせん断耐力1)であり確率変数fsの関数,evはせん断耐力算定式の誤差を表す補正係数,

Vdは発生せん断力,µdは橋脚の靭性率16)であり確率変数fc’, fs ,ev ,emの関数,edは靭性率算 定式の誤差を表す補正係数およびµaは応答塑性率であり確率変数fc’, fs ,Ecの関数である.

4.8.4 フラジリティ曲線の算定

フラジリティ曲線の作成にあたっては,(4.14)式および(4.15)式に示す限界状態関数が負 となった場合に限界状態が損なわれるとし,各々の損傷モードごとに信頼性解析を行い,

損傷確率を算定した.すべての主筋・せん断筋の径は同じ腐食開始年から同じ比率(一定 の鉄筋腐食率)で減少するとした.これより表-4.3 に示すように腐食開始以降の経過年数 に対応する鉄筋径が算定できる.

4.5で述べた方法に従い,何組かの基盤加速度値を設定し,表-4.3の鉄筋径から求まる鉄 筋量As

( )

t に対応して(4.14)および(4.15)式より信頼性解析を行い,信頼性指標βを算定,各 損傷モードに対する基盤加速度aと信頼性指標βとの関係を示したのが図-4.11である.ま たフラジリティ曲線が対数正規分布に従うという仮定を基に,最小二乗法から求まる t 年 後の曲線の平均値と変動係数により算定されるフラジリティ曲線を図-4.12 に示す.なお,

表-4.3 には対数正規分布という仮定に基づく t 年後のフラジリティ曲線の平均値と変動係 数の値もあわせて示している.表中のこれらの値は,構造物が損傷する最小の加速度(以 降限界加速度と言う)を表し,これは一種の耐力指標と言える.また任意の経過年数に対 するフラジリティ曲線も,内挿により求められる.なお図-4.11 および図-4.12 に示すフラ ジリティ曲線は,劣化の補修は全く行わないとして算定したものである.

(21)

表-4.3 経過年数と鉄筋径・限界加速度の関係

鉄筋径(mm) せん断耐力(Gal) 靱性率(Gal)

経過年数

(年) 主筋

(D29)

せん断筋

(D13)

平均 変動係数 平均 変動係数

0.00 29.0 13.0 378 0.125 406 0.054

25.00 25.0 9.0 333 0.129 267 0.061

43.75 22.0 6.0 309 0.150 183 0.073

62.50 19.0 3.0 282 0.164 124 0.093

81.25 16.0 0.0 259 0.178 78 0.130

註)ここでの経過年数とは腐食開始時点からの年数である.

(22)

図-4.11 基盤加速度aと信頼性指標βの関係 基盤加速度 a (Gal)

基盤加速度 a (Gal)

変形破壊モード

せん断破壊モード

腐食開始からの経過年数

信頼性指標β信頼性指標β

(23)

腐食開始からの経過年数

せん断破壊モード

変形破壊モード

基盤加速度a (Gal)

図-4.12 各損傷モードに対するフラジリティ曲線群 基盤加速度 a (Gal)

損傷確率Fr(a)損傷確率Fr(a)

(24)

地震ハザード曲線(図-4.10)とフラジリティ曲線(図-4.12)のコンボリュージョンから 年損傷確率を算定し,その経年変化を示したのが図-4.13である.

なお,図-4.13に示す年損傷確率はせん断破壊と変形破壊の両損傷モードの和事象に対す る確率である.ばらつきの支配的要因である地震外力は両モードに対して共通であるため,

各々の損傷モードは完全相関であると仮定した.すなわち,図-4.13に示す確率は,二つの モードのうち,どちらか大きいほうの年損傷確率であり,本検討では変形破壊モードが支 配的要因となった.

4.8.5 点検補修計画の検討

ここでは,下記に示す2つの計画案について検討する.

○ 計画案1:供用開始後10,14,18,22,26,30,34,38,42,46年目(計10回)に点 検補修を実施する

○ 計画案2:点検補修をまったく行わない場合

図-4.14は計画案1に対する結果であり,図の上段は,構造物の損傷劣化レベルkの確率 分布(p

( )

k,t ,(4.3)式参照)の経年変化である.なお,(4.11)式に示すように,任意の経過

経過年数 t〔損傷劣化レベル k〕

図-4.13 経過年数(損傷劣化レベル)と年損傷確率の関係 年損傷確率pf(t)[pF(f|k)]

(25)

年において損傷劣化レベルがk(k=1,…,m)である確率の総和は1.0となる.同図下段は損 傷劣化レベルkである確率p

( )

k,t に損傷劣化レベルに応じた損傷確率pF

(

f k,t

)

を乗じた確 率の分布((4.10)式のΣの中)の経年変化であり,任意の経過年において,この損傷確率の 総和がLCCの算定に用いる供用開始t年後の年損傷確率PF

( )

t ((4.10)式)となる.

図-4.14 損傷劣化レベル及び年損傷確率のばらつきの経年変化(計画案1)

経過年数 t

経過年数 t 損傷劣化レベルの確率分布 p(k,t)

年損傷確率のばらつき分布 pF (f|k, t)・p(k,t) 損傷劣化レベルk損傷劣化レベルk

(26)

図-4.14より,最初の頃は点検補修による劣化の改善が見られないが,20年を超えると 点検補修を行うごとに損傷劣化レベルが改善されている様子がわかる.

図-4.15には年損傷確率および年期待損失費用(PF

( )

t とCFの積に点検・補修費用を加算)

の経年変化を示す.図中には計画案1と計画案2を併せて示す.上段の図より,計画案1 では20年過ぎから年損傷確率が補修のたびに徐々に小さくなっている様子がわかる.下段 の図より,年期待損失費用は点検補修により徐々に減少していくのがわかる.点検補修の ない年に比べ点検の年の費用は大きいが,これは点検・補修費用を加算しているためであ る.また10年,14年,18年時は比較的小さいが,これは劣化の程度が小さく補修費用が 小さいためである.

時間方向に年期待損失費用の総和をとるLCCとなる.計画案1は,計画案2に比べ7%

程度のLCCの削減につながることがわかった.また安全裕度に対する信頼性という観点か らは,適度に点検補修を行うことにより,安全裕度の急激な低下を避けられるということ がわかる.

(27)

図-4.15 年損傷確率と年期待総費用の経年変化

4.8.6 最適点検補修計画の検討(GA による最適化)

(1) 定式化と計算条件

GAを用いてLCCに着目した点検補修計画の最適化を試みた.目的関数はLCC,最適化 変数は点検補修の回数と時期である.GA による最適化を考える上では交叉や突然変異の 結果,致死遺伝子が現れないようにする必要がある.すなわち,あり得ないような解が出 現しないように定式化すること,また交叉の結果,親の形質が適切に次世代に伝わるよう な定式化をすることが好ましい.そこで,最適化におけるパラメータを残存期間に対する 比率xとして,(4.16)式のように定式化した.

経過年数 t

経過年数 t (×102)

計画案1:点検補修(計10回)

計画案2:点検補修全くなし

年期待損失費用CF・PF(t)年損傷確率PF(t)

(28)

i i i

i n T n x

n = 1+( − 1)⋅ (4.16) ここに,niはi番目の点検の時期(n0= 0とする)およびTは設計耐用期間である.

上記の関係を用い,xiの範囲を0.0から1.0とすると,必ず設計耐用期間内に所定の回数 の点検補修時期が与えられることになる.このパラメータxiに関して最適化を行うことに より,所定の点検補修回数に対する最適な点検補修時期が求められることになる.

点検補修回数について最適化を考えるには,いくつか設定した点検補修回数に対して最 適化を行い,得られた解のうち最小のLCCとなるものを選べばよいが,何回も最適化を行 う必要があり,計算に手間がかかる.そこで本検討では点検補修回数も最適化のパラメー タとして定式化を行った.上記定式化において,xの定義域を1.0を上回るところまで設定 すると点検補修時期が設計耐用期間を超えることがある.その場合にはそれ以前の点検補 修だけを有効にして点検補修回数のカウントを行い,補修による費用低減効果の算定を行 った.

以下の検討では,点検補修回数の上限を15回として最適化を行った.その他のGAに関 するパラメータは,人口:100,世代数:50,エリート数:2,および突然変異率:0.01と する.

(2) 最適解の探索結果

GAによる最適化の収束過程を図-4.16に示す.横軸は世代数,縦軸は達成度,すなわち,

補修なしの場合のLCCに対する補修有りの場合の比を表している.図中には各世代の個体 の中でLCC最小の計画案と50番目(中央値)の計画案を示した.多少の振れはあるがあ まり大きな変動はなく,世代が進むにつれ少しずつ改善されている様子がわかる.

(29)

図-4.16 GAによる最適化の過程

図-4.17には,第1,10,20,30,40,50世代の各個体の点検補修による費用低減効果(達 成度)と点検補修回数の関係を示している.おおよそ20世代以降,点検補修回数が4の場 合の達成度が90.5程度で変わりなく安定しており,ほとんど解の改善はみられない.

結果としては,最適な点検補修回数は4回,最適な点検補修時期は,供用開始後26,31,

36,41年となった.

GA によって得られた解をもとに点検補修間隔を少し長くするなど,その間隔を変えた 場合についていくつかの対案を考えてLCCの算定を行った.すなわち,得られた解の周辺 を調べたところ,いずれの場合もGAによって求められた解の方が周辺の解に比べLCCの 改善度が高く,大域解の条件を満たしていることを確認することができた.ただし,改善 度に大きな違いはなく,得られた解周辺のLCCはほぼ同じ程度であった.

世代数

:LCC最小値

:LCC中央値

達成度(%)

(30)

図-4.17 いくつかの世代における解の収束状況

(3) 検討結果に対する考察

最適計画案と補修を行わない場合(計画案 2)に対して,年損傷確率と年期待損失費用 の経年変化を示したのが図-4.18である.上段の図より,最適計画案では25年過ぎの4回 の補修により年損傷確率が小さく抑えられ,設計耐用期間終了時の確率は 0.008程度と,

点検補修回数

点検補修回数 点検補修回数

点検補修回数 点検補修回数

点検補修回数 第1世代

第10世代

第20世代 第50世代 第40世代 第30世代

達成度(%) 達成度(%)

達成度(%) 達成度(%)達成度(%)

達成度(%)

(31)

計画案2の半分程度となった.計画案1と比較しても,10回まで行わなくても,わずか4 回の点検補修により,確率を小さく抑制できることがわかる.また下段の図より,年期待 損失費用は補修により効果的に減少していくのがわかる.LCCに関しては,最適計画案で は計画案2に比べ10%程度の削減に,また計画案1と比べても3%程度の削減になる.

上記の検討の結果,本検討における最適化手法を用いることにより,損傷確率を低く抑 えると同時にLCCも低減することができ,合理的な保守戦略策定支援のための有用な情報 および手段を与えることが可能であることがわかった.

経過年数 t

経過年数 t

最適点検補修(計4回)

計画案2:点検補修全くなし (×102)

図-4.18 GAによって求めた最適補修計画の例 (年損傷確率と年期待総費用の経年変化)

年損傷確率PF(t) 年期待損失費用CF・PF(t)

(32)

以上に示すように,本検討では,構造物の経年劣化による性能の漸進的な低下を定量的 にモデル化しつつ,損傷確率の経年変化,点検補修による性能改善効果を考慮したLCC評 価手法の構築を行った.

性能の設定という観点では,一般的に表現された要求性能を照査するために,工学的に 表現された限界状態を設定し,この状態を超えたとき損傷に至ると定義することで,安全 性を評価している.このため,限界状態の設定が非常に重要である.

安全裕度については,上述の性能に基づく限界状態が適切に設定されれば,信頼性解析 より求まる損傷確率または信頼性指標の指標としての信頼性も高くなる.このため,確率 による安全裕度の定量化は要求性能を照査するために設定する限界状態と密接に関係する.

経済性という観点では,設計耐用期間にわたってリスクを含めたLCCを定量的に評価す ることが,構造物の維持管理を行っていくためには重要である.またLCCは上述の損傷確 率だけでなく,点検精度や補修効果とも密接に関連するため,これらを適切にモデル化し,

LCCの中に取り込む必要がある.

このように性能,安全性および経済性はお互いに密接に関連しあうため,これらの関係 を適切に考慮した維持管理を実施することが重要となる.性能の設定すなわち限界状態の 設定が不適切な場合,損傷確率自体の不確定性が大きくなり安全性を表す指標としての信 頼性に欠けるとともに,実際に起こりうる損傷形態が設計で設定する限界状態と異なる可 能性があることから,損傷時のロス自体のばらつきも大きくなる.したがって,適切にLCC 評価を行うためには,性能すなわち限界状態を適切に設定し,そのうえで,安全性と経済 性とのトレードオフ関係を構築する必要がある.さらに経済性の評価にあたっては,損傷 確率の経年変化や点検補修費用が設計耐用期間の長さにより変わることから,設計耐用期 間の設定にあたっては十分な検討が必要である.

(33)

4.9 まとめ

本検討では,RC 橋脚を対象に経年劣化および地震時の損傷モードを考慮し,合理的な 保守戦略策定支援のためのLCC評価手法を構築した.基本的にはFrangopolらの研究6)7) に基づいているが,これをさらに発展させ,劣化進行の不確定性および地震時の損傷モー ドを取り扱えるように拡張した.なお本検討は,劣化または地震による構造物の損傷リス クの顕在化を防止するために,補修による事前対策を施すことによって,性能の確保を図 るリスクコントロール手法の適用事例である.主な結論は以下のとおりである.

(1) 構造物の損傷劣化レベルを離散的に扱うことで定式化を行い,ばらつきを考慮した損 傷劣化進行モデルを構築した.すなわち,実際の損傷劣化進行のばらつきを考え,一 様マルコフ連鎖による損傷劣化の状態遷移とその確率を設定する方法を提案した.

(2) 性能設計のもと,経年劣化による構造物の耐力低下を考慮した損傷確率およびLCCの 評価手法を提案した.なお,LCC 評価のためには,構造物の劣化関数,点検精度およ び補修効果の定量モデルの構築など個々の要素技術の開発も非常に重要であり,これ ら個々の技術を総合して経済性を評価する必要がある.

(3) GAを用いてLCCを最小とする最適な点検補修回数およびその時期を算定する方法を 提案するとともに,その有効性を確認した.

性能設計体系では,性能,安全性および経済性が密接に関係することから,これらのバ ランスを考えながら戦略策定を行う必要がある.特に性能の設定すなわち限界状態の設定 が不適切な場合,安全性および経済性の評価精度にも問題が生じる可能性がある.したが ってLCC評価を行ううえでは,性能および限界状態を適切に設定し,安全性と経済性との トレードオフ関係を構築することが重要である.

性能設計体系の普及に伴う設計の規制緩和と同時に電力業界の規制緩和も本格化する中 で,既存設備の性能を再評価しその結果をもとに延命化を図ったり補修時期を繰り延べた りすることは,保守管理技術者にとって今まで以上に重要となってきている.コストの定 量評価に基づく,このような保守戦略策定支援に関する検討は,従来の管理方法の妥当性 を確認したり,適切な改良,補完のための有用な情報および手段を与えるものと考えられ る.

(34)

【参考文献】

1) 土木学会:コンクリート標準示方書(平成8年制定),設計編,1996.

2) 土木学会:コンクリート標準示方書(平成8年制定),施工編,1996.

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4) 例えば,コンクリート補修入門講座第1回~第8回,日経コンストラクション,2000-2001.

5) 宮川豊章: Early chloride corrosion of reinforcing steel in concrete, 京都大学博士論文, 1985.2 6) Frangopol, D. M., Lin,K.-Y., and Estes, A. C. : Reliability of Reinforced Concrete Girders Under

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7) Frangopol, D. M., Lin,K.-Y., and Estes, A. C. : Life-Cycle Cost Design of Deteriorating Structures, J. of Struct. Engrg., ASCE, Vol.123, No.10, pp.1390-1401,1997.

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9) Mori, Y., and Ellingwood, B. R. : Maintaining Reliability of Concrete Structures. I: Role of Inspection/Repair, J. of Struct. Engrg., ASCE, Vol.120, No.3, pp.824-845, 1994.

10) Mori, Y., and Ellingwood, B. R. : Maintaining Reliability of Concrete Structures. II: Optimum Inspection/Repair, J. of Struct. Engrg., ASCE, Vol.120, No.3, pp.846-862, 1994.

11) 赤石沢総光,吉田郁政,安田登,宮本幸始:性能設計を活用したRC構造物の保守頻度・

時期の最適化に関する研究,構造工学論文集,Vol.47A, pp.277-284., 2001.3.

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15) 土木学会:コンクリート標準示方書(平成8年制定),耐震設計編,1996.

16) 土木学会:鉄筋コンクリート部材の靭性率評価式について,コンクリート技術シリーズ 阪神淡路大震災被害分析と靱性率評価式[阪神大震災調査研究特別委員会WG報告],

1996.7.

参照

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