1 第 1 章
序 論
1.1 本研究の背景
自動車の技術開発はより速く,より快適にといった性能向上に合わせ,燃費向上,排出 ガス浄化,リサイクルの促進と廃棄物の低減といった地球環境への負荷低減を両立させる ことが大きな課題となっている.中でも燃費向上は乗用車の販売に直結するため,Fig.1-11)
に示すように乗用車の平均燃費は1997年度以降毎年向上し,今日では1997年対比28%向 上し,16km/ℓ を越えている.さらに 2015 年には 16.8km/ℓ といったさらなる燃費の向 上が求められている.これらの燃費の向上は,エンジンの技術革新や新タイプのトランス ミッションの開発などが支えており,その多くはトライボロジーに関係する技術と密接に 関連している.
Fuel consumption, km/l
Fig.1-1 Average fuel efficiency performance of gasoline-powered passenger cars
Fig.1-1 ガソリン乗用車の平均燃費
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一方,自動車に使用される潤滑油にも燃費の向上や更油期間の延長をはかった新しい製 品が開発されている.エンジンオイルで一足先に低粘度化が進んでいるが,自動変速機油 でも100℃粘度を7.5mm2/sから5.5mm2/sに約26%低粘度化したものが登場している.低粘 度化することで,摩擦部分の油膜が薄くなることからトランスミッションの摩耗やピッチ ング寿命の低下が懸念されており,さらなる省燃費を達成する上での技術課題となってい る.一方では地球環境への負荷低減の観点より,機械寿命の一層の向上や小型化が求めら れている.このため,自動車用トランスミッションにおける省燃費性能と機械寿命延長と いった一見相反する性能を両立させる技術として,そこに使用される潤滑油の性能向上が 極めて重要なものとなっており,その性能向上に対する期待も大きなものとなっている.
そこで,自動車用トランスミッションの技術動向について,トライボロジー技術に関わる 部分を中心に概観する.
1.2 自動車用トランスミッションの技術動向
エンジンの駆動力を効率良くタイヤに伝えるために,回転数を変えたり,駆動トルクを 増幅したり,回転の方向を変えたりする機械装置が駆動系装置とよばれる.
自動車に搭載される駆動系装置の中心は変速装置(Transmission)であり,大きく別けて 手動変速機と自動変速機に大別され,自動変速機の中に遊星歯車とクラッチを用いた多段 自動変速機(AT : Automatic Transmission) と連続的に変速する無段変速機(CVT : Continuously Variable Transmission) が有る.CVTには金属のベルトとプーリを用いたプッ シュベルト式CVT(ベルト-CVT),金属チェーンとプーリを用いたチェーン式CVT(チェ
And/or
AT
Stepped Automatic Transmission
4,5 speed to6,7,8speed
Slip Control Lock-up
CVT
Continuously Variable Transmission
Belt type CVT Chain type CVT Toroidal CVT
Tr an sm is si o n
MT
Manual Transmission
Conventional Manual TM Automated Manual TM.
Dual Clutch TM.
Fig.1-2 New type Transmission categories
Fig.1-2 自動車トランスミッションの分類
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ーン-CVT),金属のリングとコーンを用いたトロイダル式CVT(トロイダル-CVT)がある.
また最近では手動変速機の機構を生かしたまま,油圧装置を付加して自動変速を行う,自 動化手動変速機(AMT : Automated Manual Transmission)や,特殊なクラッチシステムを付 加した二重クラッチ式変速装置(DCT : Dual Clutch Transmission)なども市場に登場してい る.これら様々なユニットを纏めるとFig.1-2のようになる.
(1) 手動変速機(MT)技術
AT,CVTが先端技術と思われるが,ヨーロッパではMTが主流で,自動化するとしても
MTをベースとしたユニットが今後とも主流を占めるだろうと考えられている.MTの起源 は1899年ルノーで歯車常時噛み合い式の密閉型トランストランスミッションが作られたの がスタートで,その後変速を容易にするためシンクロメッシュ機構が開発され,普及して いった.このような歴史的な背景も有り,ヨーロッパでは MT が主流となっている.ヨー ロッパの自動車雑誌を読んでいると,同じ排気量の車なら速い車が良い車となり,日本製 の小型車であっても実際にヨーロッパに輸出されるとなると,200km/h近い高速での耐久 試験を実施している.またドイツの高速道路のアウトバーンを走行してみると合流の助走 路が日本の高速道路に比較して短く,時速数十kmからいきなり130kmのフル加速での合 流を強いられる.この世界にエンジン馬力のロスが発生しやすく,出足の加速が得られに くいATやCVTが参加するのは難しく,今後ともMTを主体としたトランスミッションが 主流となる.このため,MTにおいてもエンジン馬力をロスなく伝えて,いかに早く変速す るかという観点から様々な進歩が図られている.2006年時点では5速MTが中心であるが 今後6 速やそれを自動化したDCT が増加すると考えられている.変速段が増加するほど,
変速フィーリングと変速時間がその変速機の良否を決めるようになる.この変速フィーリ ングと変速時間を決めるのはシンクロメッシュ機構の構造と摩擦特性になる.シンクロメ ッシュ機構をFig.1-3に示す.
Sleeve
Gear
Synchronizer ring
Clutch hub
Fig.1-3 Synchronized mesh mechanism
Fig.1-3 シンクロメッシュ機構
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シンクロメッシュ機構を用いた変速では,変速レバーによりスリーブを移動させるとシ ンクロナイザイーリングをギヤのコーン部に押し当てることになり、シンクロナイザーリ ングの内面とギヤのコーン部での摩擦で,スリーブとギヤを同期させスリーブとギヤのス プライン部をスムーズにかみ合わせて変速させる機構である.この,シンクロナイザーリ ングとキヤコーン部の同期時の摩擦特性が変速時間や変速フィーリングを大きく左右する.
材料や潤滑剤によって,シンクロメッシュ機構における摩擦係数を変化させ,その変速フ ィーリングと変速時間を向上することが試みられている.
シンクロナイザーリングの材料には多くの場合,黄銅(ブラス)や青銅(ブロンズ)が 用いられて来たが,最近では,樹脂材を摩擦面に用いたものや摩擦面と構造体の材料を変 えた複合金属材料が用いられている.その実例をFig.1-4に示す2).摩擦するコーン面には 黄銅を基本とした摩擦材原料粉末の焼結体を用い,構造体となるリング部には従来の高力 黄銅以上の強度が確保できるモリブデンを添加した鉄系焼結材料が用いられている.しゅ う動するコーン面の摩擦特性とリング強度を両立させて,耐久性と変速フィーリングの向 上を図っている.
シンクロナイザーリング部分での良好なシフト性を得るためには摩擦特性に優れたギヤ 油が求められる.このため最近の手動変速機油(MTF)には金属清浄剤やアルキルジチオ フォスフェートの亜鉛塩(ZnDTP)を配合したものが有効であり,これらの添加剤が配合 されたギヤ油が用いられている.
(2) 多段式自動変速機(AT)技術
アメリカや日本における変速機の主流は遊星歯車と湿式クラッチを用いた,多段式自動 変速機(AT)である.日本の乗用車の販売台数におけるATの装着は1980年の約30%から
1990年には 70%とこの 1980年代に技術的進歩とともに市場においてもトランスミッショ
Friction material (Brass)
High strength sintering material (Iron)
Fig.1-4 Two layer sintering alloy synchronizer ring
Fig.1-4 二層焼結型シンクロナイザーリング
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ンの自動化が急速に進展した.一方アメリカ市場では1980年代から80%以上がAT装着車 であり,今後ともATが主流と予想されている2).何故アメリカはATなのだろうか.アメ リカ人は両足を使ってクラッチ操作をしながらの面倒な変速などしないと言う人もいるが,
どうもしっくり来ない.最近,有る産業博物館に行ったら,アメリカのモータリゼーショ ンを切り開いた T 型フォードが展示してあり,変速機は遊星歯車を用いた半自動式と解説 がしてあった.その後1939年にHydra-Maticと名付けられたトルクコンバーター付きの自 動変速機がGMより発売され,今日のAT機構が確立された.アメリカ人にとって自動車は 初めからATであり,曽祖父の代からATの車に乗っていたことになる.よほどのことが無 い限り今更MTは選択されないし,車メーカーにとってもATがトランスミッション生産の 中核をなしている.今後ともアメリカではATが市場の主流を占めると考える.
ATも快適な乗り心地と燃費の両立のため,多段化,小型軽量化が急速に進んでいる.2000 年には8割が4速ATであったが,5速ATが増加し,2003年には6速ATが登場し,さら に2004年にはアメリカ市場を狙ってダイムラークライスラーから7速ATがさらに2006年 にはトヨタ自動車から8速ATが登場している.長らく4速中心の世界であったものが,こ こ数年で一気に2倍の段数が登場している.8速ATのカットモデルを Fig.1-5,に示す3). 写真には4組のクラッチセットと3組の遊星歯車機構が見られ,従来の6速AT に比較し,
クラッチセットの数および遊星歯車機構のセット数とも同じであり,全長も同等に収めら れている.従来だと変速段数が増えると遊星歯車機構のセット数も増加していたが,8速と なっても遊星歯車機構は3セットのままでこの内二つが複雑に組み合わされたFig.1-6に示 すラビニヨウ式となっている4).このラビニヨウ式ギヤはかなり古くから考案されていたが,
Planetaly grar set Clutch set
Fig.1-5 Model of 8th AT (Lexus LS460) Fig.1-5 8速ATモデル(レクサスLS460)
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ギヤが高速となることや,長いピニオンギヤを用いることから,剛性の保持など解決すべ き問題も多かった.これらを使いこなす技術は油圧制御技術の大幅な進化と,ギヤを構成 する部品の潤滑状態を良好に保つための高性能化である.
その 1 例として超高速化に対応した遊星歯車機構の軸受に用いられるニードルベアリン グについて示す5).構造的な部分では軸受の複列化や保持器材料に高強度クロムモリブデン 鋼が採用されている.耐焼き付き性の向上にはピニオンギヤ内周面と保持器の外周面との 接触応力(P)としゅう動速度(V)の積である PV 値の低減を図る保持機構造とした上で
Fig.1-7 に示すように保持器にリン酸などによる化成皮膜処理を施し,互いに擦れ合う保持
器とピニオンギヤ間の直接接触を抑制し,より高回転を実現している.高速回転になると,
軸のニードルベアリングの摩擦面での接触回数が増加することから,金属疲労寿命の低下 が懸念される.そこで軸に残留オーステナイトを表面に析出させる特殊な焼き入れを行い,
さらにショットピーニングと表面強化方法を用いて長寿命化を図っている.このように軸 受一つにも多くのトライボロジー関連の技術が投入され,高速化を支えている.また,潤 滑油においては,撹拌抵抗の低減やクラッチ間での引きずり抵抗の低減のため,約 26%の 低粘度化が図られ,省燃費の一翼を担っている.
Long pinion gear Ring gear
Short pinion gear Sun gear ② Sun gear ①
Carrier Needle bearing
Fig.1-6 Ravigneaux gear set
Fig.1-6 ラビニヨウ式遊星歯車
Fig.1-7 Chemical coating of bearing cage
Fig.1-7 保持器を化学処理した軸受
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ATにおいて制御の要となるのは,変速ギヤを切り替えるクラッチである.クラッチも変 速段が多くなると今まで以上に熱負荷をより多く受けるようになる.このためクラッチの 材料も摩擦特性に優れ(摩擦特性のμ-V特性が正勾配であると音・振動が発生しない),か つ耐熱性に優れた材料が求められている.1980 年代はセルロースを中心とした材料であっ たが,今日ではアラミド繊維や炭素繊維を配合したもの,またアラミド繊維主体のものや カーボン繊維主体のものまで登場している.最近ではFig.1-8に示すようなクラッチの表面 を複層構造とし,耐熱性に優れた繊維基盤の上に摩擦特性に優れた繊維複合体を形成し,
摩擦特性と耐熱性の両立を図る方法が発表されている5).今後さらなる使用条件の過酷化が 予想されることから,潤滑油による改善が期待されている.
(3) 無段変速機(CVT)技術
自動変速機の更なる燃費向上,スムーズさの追求のためCVTの導入拡大が進められてい る.現在市販されているCVT搭載車のほとんどが変速機構に金属プーリとプッシュタイプ の金属ベルトを用いたベルト-CVTである.このタイプのCVTは1987年に富士重工が1.0L クラスの乗用車に採用したのがスタートで,当初はベルトの伝達容量が小さいため,1.6L クラス以下の乗用車に限られていた.その後,金属ベルトの大型高強度化を背景に,日産 自動車では1997年に2L車に搭載し,さらに2002年に3.5L車に搭載し,350N・mのトル クを伝達することが可能であることを示した.トヨタにおいても2006年最量販車種のカロ ーラにベルト-CVT の搭載を拡大したことで,ここ数年,日本の市場ではベルト-CVT の搭 載比率が大幅に上昇している.日本の乗用車の販売台数に占める CVT 搭載車の推移を Fig1-9に示した.
Cross section
1.5mm
Fig1-8 Clutch and Concept of new material structure-cross section
Fig.1-8 2層構造クラッチの断面摸式図
8
0 1 2 3 4 5 6
1996 1997
199 8
199 9
2000 2001
2002 2003
2004 200
5 2006
2007 Ye ar Passenger Cars, x106 units
MT AT CVT
Presumption from statistics of JAMA
Fig.1-9 Market of CVTs in Japanese new passenger car sales
Fig.1-9 日本の新車販売におけるCVT車の割合
Fig.1-10 Belt CVT Fig1-10 ベルトCVT
ベルト-CVTはFig.1-10に示すように金属プーリと金属ベルトの間のフリクションでトル クの伝達を行っている.その伝達トルクはプーリのベルトの押し付け圧と金属間の摩擦係 数の積で決定される.このため,必要とする伝達力を制御するには押し付け圧を最適化す ることが有効である.このカットモデルは燃費向上,加速性能向上,小型軽量化を狙いと して日産で開発された最新のCVTユニットで,構造面の改良を以下に示す7).燃費の向上 には,軸径を最適化して変速レシオを拡大している.また,シールリングやクラッチなど
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のパワートレイン系部品のしゅう動抵抗低減やギヤの攪拌抵抗の低減などのフリクション 低減が盛り込まれている.特にCVTの生命線であるベルトを挟みつけるプーリ油圧を発生 させるポンプを従来のエンジン入力軸に配置していたトロコイドギヤ式から別軸化して入 力軸からのチェーン駆動のベーンポンプとしてポンプ本体を小型化,機械損失低減による 高効率化を実現している.このようなフリクション低減技術を投入することにより,既存 のユニットに対して 30%のユニットフリクション低減を図っている.油圧ポンプを別置き にする方式はホンダが2003年に発売したオデッセイで始まり,2004 年の日産,2006 年の 富士重工とこの方式の採用が拡大している.このようにATに比較してより高い油圧を必要 とするCVTでは,油圧の発生の仕方および制御を見直すことで,富士重では10・15モード
燃費で 2.1%の向上をはかっている.また逆に言えば,油圧を少しでも下げられれば,省燃
費につながることが明らかであり,潤滑油の改良といった点も重要な課題となっている.
また別方式の CVT として 1999 年日産自動車がセドリック・グロリアに搭載したトロイ ダル-CVT (Fig.1-11)がある.現在では,コストと伝達効率の点で搭載が見送られている が,材料および機構の技術的改良が進み6),今後の再搭載が期待されている.
トロイダル-CVTは転がり・すべり接触するパワーローラーとディスク間に形成される油 膜のせん断力により動力を伝達する構造であり,トラクション油と呼ばれる高い圧力粘性 係数を有する特殊な油が使用される.トラクション係数が向上できれば押し付け圧を小さ くできるため,システムの小型,軽量化および効率向上に寄与できる.このため,油剤の 低温特性改良 8)や摩擦材料の面からさらなるトラクション係数の向上が進められている.
ここでは転動体表面微細形状によるトラクション係数向上について示す.
トラクション面のような高面圧下で転がり滑り運動する部位に微細な形状を付与するこ とは従来の常識では考えられないが規則的な表面パターンとすることで突起接触による応 力を抑制できトラクション係数向上と耐久性を両立できることが報告された 9).その後,
Fig.1-11 Toroidal -CVT Fig.1-11 トロイダル-CVT
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Fig.1-12に示すような表面微細形状に円周溝を加工したバリエーターが開発され,このバリ
エーターでトラクション係数の測定と耐久性の確認なされた.Fig.1-13に示すように約10%
のトラクション係数の向上と十分な耐久性が確認されている11).
このような摩擦面の微細な構造がトラクション係数に大きな影響を与えることから,フ リクションドライブ方式のベルト-CVTにも応用が検討されている.すなわち,プーリ表面 の微細加工方法を変えて,実際のべルト部品を用いた模擬しゅう動試験で摩擦係数の向上 効果を確認している12).Fig1-14に示すようにその加工方法すなわち表面の粗さとその微細
Surface Texture
Fig.1-12 Application of surface texture to actual CVT disks Fig.1-12 CVTディスクへの円周溝の適用
Contact pressuer Pmax, GPa Friction coefficient, μmax
Fig.1-13 Result of traction coefficient measured by actual T-CVT
Fig.1-13 摩擦面構造制御による高トラクション化
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形状により摩擦係数が10%以上向上することが分かる.CVTにおいてはトルクの伝達面の ミクロンあるいはナノメートルレベルでの微細表面形状を制御することで,トルク伝達容 量がさらに向上することが期待されている.また,表面微細加工技術を長期間有効に活用 するには,使用する潤滑油の高面圧下での耐摩耗性や摩擦係数の最適化が重要な課題とな る.
1.3 結論
自動車各社は自社のエンジン性能を最小の燃費で最大に発揮させるために,自動車トラ ンスミッションの開発に総力を挙げている.ここでは自動車トランスミッションの動向と トライボロジーに関連した設計および材料面からの改良についてまとめた.
(1)自動車各社が燃費向上のための技術開発に総力を挙げて取り組んでいることから,こ こ10年ガソリン乗用車の平均燃費は約30%向上し16.2kmなった.
(2)自動車トランスミッションに関しては日本では遊星歯車とクラッチを用いた従来から のATから金属ベルトとプーリを用いたベルトCVTが増加している.北米では今後と も8割がATであり多段化(6~8速)が進行している.ヨーロッパではMTが今後と も8割を占め6速化とクラッチを付加した自動変速化(DCT)が進展している.
(3)MT では材料および設計を見直しシンクロメッシュ機構の耐久性と摩擦特性の両立を 図ったものが登場している.
(4)最新の8速ATでは,使用されるニードルベアリングの高面圧化・高速化に対応し,
設計見直しおよび表面処理追加で性能向上を図っている.また使用されるATFは撹拌 抵抗の低減やクラッチ間の引きずり抵抗低減のため,約26%低粘度化した ATFが使 用されている.クラッチでは構造材料と表面の摩擦材料を最適化した2層化クラッチ
Fig.1-14 Relation between surface texture and friction coefficient
Fig1-14 摩擦面の微細構造と摩擦係数の変化
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が開発され,潤滑油のさらなる性能向上との組み合わせが期待されている.
(5)最新の CVT では油圧を発生させるためのポンプ関連の設計を見直し,フリクション 低減技術を投入することで既存ユニットに対し 30%のフリクション低減を図ってい る.またこれらの技術により富士重工では 2.1%の燃費向上を果たしている.また,
伝達効率向上のためのプーリやバリエーター表面に微細構造制御技術を適用するこ
とで約10%の摩擦係数向上が可能であり,これら技術を活用するには潤滑油の耐摩耗
性や摩擦特性の最適化が課題となる.
自動車トランスミッションのMT,AT,CVTではその構造はまったく異なる.しかしな がら,その機構の進化を支える技術は,摩擦特性に着目した材料そのものの改良や,摩擦 面のコーティングや微細加工技術,さらには潤滑油の進歩といった,トライボロジー技術 の進化に支えられている.これらの進化を十分に発揮させるには潤滑油の役割が益々大き くなっていることを認識した.
第1章参考文献
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5) 浦上正剛, 劉軍, 松本洋一 : 超高速プラネタリニードル軸受の開発, NSK Technical Journal, No.680, pp.36-40, (2006).
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9) 古賀英俊, 吉田幸夫 : 低温粘度特性に優れた自動車用トラクション油の開発, 石油学 会盛岡大会予稿集, pp.322-323, (2006).
10) 南部俊和ほか, 機械学会2004年度年次大会講演論文集, No.04-1, 4, pp.87-88, (2004).
13
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