「行聞を読む
jことの教育的価値に関する研究
スコ 平 攻 発 専 開 亮
虫 同 町
4白
教 学 原
以 内 閣 ゐ 口
学 総 藤
1 . 研究の背景と目的
(1)言葉と体験に着目した人間カの育成一思考 カ・想像力・知識に着目して
中央教育審議会 (2006)は 子 ど も の 発 達 の 段階に応じて,学習や生活の基盤づくりを爵見す る」ことを基本的な考えとし,そのために言葉の 重視と体験の充実を図ることを示した。言葉は,
協調性,感性・表現,人間関係形成としりた自己 と他者との闘系の基盤となる。また,社会・文化・
自然瑚卒,言語,情報活用,課題発見・解決など 個人と社会との関係の基盤となるものでもある。
このような意味での「言葉」を爵見し,社会で何 が必要とされているかについての言瀦哉を深めるた めの体験を充実させることで,人間として生きる 力を身につけさせることが肝要である。
(2)
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行聞を読むj姿勢と能力の教育的価値につい て人聞が情報活動を行う際に,与えられた情報に 欠落している部分を復元することで,そこに直接 示された以上の情報を知るという過程が荷主する ことが知られている。このことは,言葉などの表 現手段に加えて,その背景にある体験を一体的に 捉える技法として,教育的価値が期待できる。
本研究では,国語教育で示されている「論理的 思考力(考える力)J
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情緒力・想像力(感じる力・想像する力)J
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国語の知識Jが,人間の精神活動 の営みである知・情・意に通ずるものであり,こ れを「行間を読む」ための諸要素と捉えることと する。その上で,国語教育だけでなく日常場面に指導教員 藤 村 裕 一
おいて育成したい姿勢や能力について「行聞を読 む」という技法をとり上げ,教育現場における様々 な指導場面への適用に向けた提案を行う。
2.
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行聞を読むjことの諸要素(1)コミュニケーション論における「行聞を読む」
状況について
コミュニケーションは,情報を受信する側と情 報を発信する側の両者の相互作用によって成立す るものである。その形態・機能面から,受信する 側が表示された情報を読み取ろうとする姿勢や能 力をもたねばならないことが知られている。しか し,表示されないことを読み取るための具体的技 法についてはこれまで示されていなかった。
コミュニケーションの過程における「行間を読 むJことに着目すれば,形態面からは,欠落した 情報を,受信する側で復元することを読み取りの 一種と捉えることができる。また,機能面からは,
情報伝達,行動制御,情動喚起の矧があること が知られており,思考力,想像力,知識の関与が 必要であることが認められる。
(2)認知心理学における想像力研究の成果
「行間を読むJための要素として想像力がある。
認知心理学の研究成果によれば,想像力は生物の 進化の過程で行動制御の一環として身につけてき た機能であり,知性の基盤であるともいわれてい るロさらに,適用可能範囲の有限さや,暗黙的な 知識の体系についても,研究が進められているが,
これらは想像力が現実世界との結びつきながら発 達してきたことを示唆するものであり,想像力に
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よる読み取りには妥当性が認められる。
こうした想像力は,一般に感性として把握され,
行動や判断において重要な意味をもち,思考力で は捉え切れない情報を受け取ることを可能にする。
(3)知識情報処理の分野における思考力研究の成 果
人間は,現在コンピュータでは実現できない複 雑な処理をすることができる特質を有している。
人間特有の処理の仕方は認められるものの,コン ピュータ的情報処理の研究によって思考力の働き についても明らかにされるようになってきた。思 考力には想像力や知識も影響しているとされる。
外界に対し,より確信のもてるような言窃哉に至る 過程を理解活動と呼ぶならば,そのための理論の 形成が思考活動であるということができる。人間 の問題解決・指命過程の記号論的本質を発想・演 緯・帰納に分けるとき,
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行聞を読むJ際に重要な のは,新たな理論を形成していくことである。3.
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行間を読むjことの具体的展開 (1)情報活動における f行聞を読む』こと情報活動のフ。ロセスは,事実(データ)・情報・
知識の3つに区分することができる。事実とは,
人間に関わらず栴生するものであり(意味的側面,
それを一定の整理されたものとして示したものが 情報である。情報として整理するためには人間の もつ知識の関与が必要で、あり(形式的価値化),そ れを引き起こすものが思考力・想像力・知識であ ると考えられる。情報を得ることによって知識に も影響が及び,最終的には情報は知識として定着 する口
「行間を読むJことは,情報に対し,知識を働 かせることによって直接表示されないことについ ても,その情報から推し量ることである。それは,
情報が記号化によって生成される過程において,
それを発信する側の伝えようとした事実はもとよ
り,その精神活動や非意図的な文脈までをも,与 えられた情報である限られた表現に対する解釈を 強化しつつ読み取ることである。
( 2 )
国語教育実践例における具体的展開教科書教材「一つの花」について,
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行間を読むJ 技法の適用を行う。また,芦田恵之助の読み方・綴り方指導の実践例から,言葉に対する具体的な 指導事例を取り上げ,
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行間を読むjことについて 考察する。4. 日常コミュニケーションにおける「行聞を 読むj技法の応用
(1)日常コミュニケーションにおける読み取りの 対象と『行間を読むjこと
「行間を読むJことの対象となるのは,言葉だ けでなく,それ以外の種々の情報も含まれる。さ らに,伝達することを予定しない人間の内面や,
活動に対しても,深い読み取りの対象として扱わ れる。すなわち,実感明舌動は「行間jではなく,
そこから「行間jが導かれる情報である。従来,
非言語的表現など表現を前提とした読み取りの 対象に限定されてきた。しかし,現実の日常生活 では,表現されないことの読み取りが求められる ことが多い。「行間を読むJ技法では,対象を拡げ た上で深い読み取りに取り組むことになる。
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行間を読むj技法の教育的価値について「行聞を読むj技法では,読み取りの対象を拡 げるのみならず,思考力だけでなく想像力や知識 を働かせながら,より現実的で,体験に根ざした 読み取りをはかる。
「行間を読むJ技法において,すでに表示され ている理論とは異なる新たな理論を展開し,その 根拠を「行間jに求めようとするためには,知識 が重要な要素になってくる。そのような読み取り には,人間理解の姿勢と能力が一層必要とされる ことになる。
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