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ウェブ実験の長所と短所,およびプログラム作成に必要となる知識

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DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.38.37

ウェブ実験の長所と短所,およびプログラム作成に必要となる知識

1

黒 木 大 一 朗

九州大学

Advantages and disadvantages of conducting Web-based experiments

and the knowledge required to create the programs

Daiichiro Kuroki

Kyushu University

Recently Web-based/online psychological studies have been reported, in which web browsers familiarized by participants such as Microsoft Edge, Apple Safari, and Google Chrome are used for presenting stimuli and recording responses. The present article summarizes advantages and disadvantages of conducting Web-based experiments, and provide brief explanations of the knowledge required to create the programs. Technically speaking, it is better to know HTML, CSS, JavaScript (frameworks), and web servers. Web-based studies will be conducted more broadly in psychology because researchers can recruit more efficiently large and diverse samples from crowdsourcing market-places than from traditional participant pools.

Keywords: JavaScript, web, online experiments, crowdsourcing

ウェブ/オンライン実験とはなにか 心理学実験に大きな影響を及ぼした実験装置の変革の ひとつとして,1990年代以降のパーソナルコンピュー ター(以下,PC)の普及が挙げられる。それまでは, 視覚的な刺激を非常に短い時間呈示するために,スライ ドプロジェクターと液晶シャッターを組み合わせたタキ ストスコープと呼ばれる専用の機械が使われていた (吉 村,2018)。その後PCが普及してからは,CRTディスプ レイや液晶ディスプレイに刺激を呈示したり,スピー カーから音を流したりして,キーボードやマウスを使っ て参加者の反応を取得する実験が主流となった。

さらに近年,Microsoft EdgeやApple Safari, そしてGoogle Chromeのような実験の参加者が慣れ親しんだウェブブ ラウザを利用した心理学実験(以下,ウェブ実験と呼 ぶ。なお,オンライン実験と呼ばれることも多い)が行 われるようになった。このことは,実験で利用されるソ フトウェアやプログラミング言語が単純に変わったとい うことを意味しているだけでなく,実験への参加方法が 大きく変わったという点で特筆すべきことであろう。つ まり,実験の参加者がわざわざ大学や研究所などの実験 室におもむくのではなく,インターネットを介して,参 加者の自宅などの遠隔地から参加できるようになったの である。ウェブ実験の広がりは,心理学実験の装置がタ キストスコープからPCに切り替わったときと同程度の, あるいはそれよりも大きなインパクトを与える出来事で あると筆者は考えている。 ウェブ実験の利点 ウェブ実験の利点としてはじめに挙げられることは, 多種多様な実験参加者を大量に効率よく集めることがで きる点である。従来の実験室で行う実験において,十数 名の参加者を集めるのに1週間ほどを要した経験がある のは筆者だけではないだろう。参加希望者を募り,実験 室の空き状況を確認して実験の日時をひとりひとり調整 するのはなかなか骨の折れる作業だ(挙げ句に,実験参 Copyright 2020. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved.

1 本稿についてウェブ実験の経験が豊富な早稲田大学

(日本学術振興会特別研究員)の佐々木恭志郎氏に大 変有益なコメントをいただきました。深く感謝申し 上げます。

Corresponding address: Department of Psychology, School of Letters, Kyushu University, 744 Motooka, Nishi-ku, Fukuoka 819–0395, Japan. E-mail: kurokid@lit. kyushu-u.ac.jp

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加者に約束をすっぽかされることも多い)。そして,そ うして苦労して集めた参加者が若い大学生(しかも特定 の大学だけの)男女に限られているというのもよくある 話である。その一方で,ウェブ実験では(もちろん実験 の内容にもよるが)多様な年齢層の50人ほどのデータ を1時間程度で回収することも難しくはない。ただし, たとえウェブ実験であっても,参加者を研究室のメーリ ングリストやSNSなどを通じてのみ募集しているのであ れば,やはり参加者の偏りは残ったままとなるだろう。 偏りをなくしつつ,効率よく参加者を集めるのであれ ば,クラウドソーシングサービスを使うことをお勧めす る。クラウドソーシングサービスは,一般的には,デー タ入力やアンケートへの回答,あるいはアプリの開発や イラスト作成などの業務について,仕事を依頼する人と 受託する人が出会う場として利用される。こうしたサー ビスは,ウェブ実験の参加者を募集するのにも大変 都合がよい。海外では,Amazon Mechanical Turk (AMT, https://www.mturk.com)が最大手のようであるが,日本 国内ではあまり普及していない。筆者が関わったことの あるウェブ実験では,Yahooのクラウドソーシングサー ビス(https://crowdsourcing.yahoo.co.jp)を使って参加者 を募集した。そのほかにも,Prolific (https://www.prolific. co)やCrowdWorks (https://crowdworks.jp)などのサービ スがある。 利点の2つ目は,実験者(研究者)と参加者が直接顔 を合わせる必要がないということである。これによって 実験者の存在が意図せずして実験結果に影響を与えるこ とを防ぐことができる(ただしこれは,後述するように 問題点にもなりうる)。と同時に,実験室での実験と比 べて経済的な負担を少なくする点でも恩恵をもたらす。 例えば,何らかのテーマについて国際比較を行いたいと しよう。従来の研究では,現地に共同研究者がいない場 合,高額な旅費をかけてその国にまで赴く必要があっ た。あるいは,ある疾患や特性を持った,いわゆるマイ ノリティの人々のデータを取得したい場合にも,同様の ことが生じていた。ウェブ実験であれば,実験者は研究 室に,参加者は自宅などにいながらにして実験を行うこ とができるため,経済的な負担はずいぶんとおさえられ るだろう。ただし,参加者への謝金については,参加者 が増えるために一般的には増加傾向にある点には注意を 要する。 利点の3つ目は,従来の実験室での実験と比べて実験 者が時間的に束縛されることが少ないことである。もち ろん,ウェブ実験を始めるまでにプログラムを作成した りサーバーを準備したり(これらの技術面の話は後述す る)の準備に時間を要するが,いったんウェブ実験の参 加者の募集を始めれば実験者が行わなくてはならない作 業はほとんどなくなる。参加者は各人の都合のよい時間 に実験に参加することが可能で,実験者はその実験を見 守っておく必要がない。例えば,別の論文を執筆してい るあいだに,ウェブ実験のデータを集めることもできる わけだ。時間的な拘束が少ないというのは多忙な研究者 にとって非常に魅力的であろう。なお,ここで述べたこ とを含めウェブ実験の利点については,先行研究(Gos-ling & Mason, 2015; Stewart, Chandler, & Paolacci, 2017; Woods, Velasco, Levitan, Wan, & Spence, 2015) にまとめら れている。 ウェブ実験の精度 厳密に時間制御された刺激を呈示して反応時間を取得 するようなウェブ実験を行おうとしたときに,その精度 が気になるという読者も多いだろう。精度を測定するに は,複数のPCを使って同一の実験プログラムを動かし, フォトセンサーやマイクロフォンを使用して刺激が呈示 された時間を測定する方法がある。例えば,Reimers & Stewart (2015)は,Black Box Toolkit (https://www.blackbox toolkit.com)を使って,様々なPC 上で呈示された視覚 刺激の時間的な精度を測定し,実際の呈示時間は意図し た時間よりも約20 msほど長くなること,反応時間は30 から100 msほど過大評価されることを示した。さらに 彼らは,これらのずれは参加者内要因としてデザインさ れた実験計画においてはほとんど問題がないこと,また 実験参加者を増やすことで影響を相殺できることをあわ せて報告しており,結論としてはウェブ実験の有用性を 支持している。類似の研究としては,Pinet et al. (2017) が複数のキーを使った反応時間の精度を測定し,問題が な い こ と を報 告 し て い る。 一 方 で Reimers & Stewart (2016)は,視覚刺激と聴覚刺激の両方を同時に呈示し ようとした場合の両者の呈示時間のずれを測定してお り,そのずれが PCやブラウザの組み合わせによって 40 ms程度で変動することを報告している。これは実験 によっては問題になるずれであろうと思われる。 ウェブ実験の妥当性は,古典的な実験結果と一致する 結果が得られるかどうか,という観点からも確認されて きた。例えば,ストループ課題やフランカー課題のよう な古典的な実験結果の大部分はウェブ実験においても再 現できることが明らかにされているが,一方で,プライ ミング効果のように非常に短い時間のあいだ視覚刺激を 呈示するような課題においては,その再現に失敗してい る(Crump, McDonnell, & Gureckis, 2013; Semmelmann &

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Weigelt, 2017)。そのほかには,視覚探索(Chetverikov & Upravitelev, 2016; de Leeuw & Motz, 2016),および空間的 な注意課題(Pauszek, Sztybel, & Gibson, 2017)において, 実験室での実験結果と同じ結果を得ることに成功してい る。心理言語学の分野においても,古典的な実験の結果 の再現は確認されている(Enochson & Culbertson, 2015)。 前段で,視聴覚の刺激呈示時間のずれが想定よりも 40 ms程度で変動すると述べたが,Bazilinskyy & De Win-ter (2018)が視聴覚刺激を用いて,刺激間の時間のずれ (SOA)が反応時間に与える影響を再現できたことは特 筆すべきだろう。中村・眞嶋 (2019) はクラウドソーシ ングサービスで日本人の参加者を募り,フランカー課 題,心的回転課題,処理水準課題,気分誘導課題の4実 験を行い,処理水準課題の一部と気分誘導課題の一部の 結果を除いて,ウェブ実験と実験室実験の結果が一致し たことを報告した。一般的にウェブ実験では刺激の呈示 時間はプログラム内で記述した値よりも長くなり,反応 時間も実際の反応よりも長くなるが,従来の研究結果が 再現される割合は非常に高く,特に参加者内で変動する 要因に関心があるような実験は問題なく実施できること が多い。 ウェブ実験の注意点 ウェブ実験の妥当性は概ね支持されている(レビュー として,Stewart, Chandler, & Paolacci, 2017)と考えてよ いが,それでもすべての実験に適用できるわけではな い。前述の通り,非常に短い時間(目安として20 ms以 下)視覚刺激を呈示する実験では信頼性の高いデータが 得られない恐れがある。またこれはウェブ実験の宿命と いえるが,暗室での実験はほぼ不可能であるし,刺激の サイズや視距離を統制することも困難である。加えて, ディスプレイの補正が必要な実験も不向きであろう。し かしながらSasaki & Yamada (2019)は,本来であればガ ンマ補正が必須である輝度コントラスト感度測定をウェ ブ実験で行い,実験室実験と類似の結果を報告してい る。ただし,オンラインで取得したデータの半分ほどが 分析対象となる基準を満たしておらず,除外することに なったことをあわせて報告している。ウェブ実験では大 量のデータを取得しやすいとはいえ,知覚実験において は基準を満たさないデータが増える恐れがあることは留 意すべきだろう。 さて,ウェブ実験において実験者が直接介在しないこ とを利点として述べたが,これは同時に問題点となる恐 れもある。実験者がそばにいないことで参加者のモチ ベーションが下がったり,参加者が誰かと会話をしなが ら参加していたり,すぐ隣でテレビがついていたりとい うことも十分に考えられる。具体的にはSatisficeと呼ば れる,実験者からの要求に対して参加者がその努力を最 小化しようとする傾向が見られることが知られており, さらにこの傾向は実験参加者の報酬の受け取り方によっ て現れ方が異なることが指摘されている (三浦・小林, 2018)。また極端な例かもしれないが,実験に参加した ことが原因で万一参加者の体調等に異変が生じたときに すぐに対応できないことが考えられる。実験によって は,ある感情を喚起させるためにIAPS (Lang, Bradley, & Cuthbert, 2008; https://csea.phhp.ufl.edu/media/iapsmessage. html)が提供するような画像を使うことがあるだろう。 この場合,IAPSの画像によっては参加者がかなり強い 不快感を覚えるかもしれない。ウェブ実験でそうした事 態が起こったときに,実験者が早急に気づき手厚くケア をすることは難しいだろう。 ウェブ実験で得られたデータから質のよい(つまり, 真面目に実験に参加した人の)データのみを抽出する方 法として,Oppenheimer, Meyvis, & Davidenko (2009)が 提案している Instructional manipulation check (IMC)を 利用する方法がある。IMCは実際に調査したい質問項 目とは無関係の教示を作成し,教示をきちんと読んでい るかを確認するための方法である。さらに彼らは IMC を実験の最初に導入し,IMCに正答するまで何度もやり 直しをさせることで,実験要因の影響を適切に観察でき るようになることを報告している。なおIMCに類似し た方法として,現実には起こり得ないような質問(例え ば「私はときどきセメントを食べる」や「1日に28時間 働いている」など)を設問に紛れ込ませる方法なども考 案されている(Huang, Bowling, Liu, & Li, 2015)。

すでに述べたように,直感的にはウェブ実験の参加者 は実験室での参加者よりも不真面目なのではないかと考 えられがちだが,Hauser & Schwarz (2016)はIMCを使 用して,クラウドソーシングサービスのひとつである AMTから募集した参加者のほうが,大学内で集められ た学生の参加者よりも注意深く教示を読んでいるという 報告をしている。Pauszek et al. (2017) も類似の報告をし ており,空間的な注意課題において,クラウドソーシン グサービスで募集した参加者のほうが学生の参加者より も誤答率が低かった。彼らの考察によれば,クラウド ソーシングの参加者は課題の正答率が報酬に直接的に影 響するのに対し,学生の参加者は受講している授業の単 位取得のためだけに参加していることも多く,さらに課 題の成績が単位の善し悪しに影響を及ぼさないからだと している。またクラウドソーシングサービスでは,特定

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の課題をパスした人にだけ参加を許容したり,過去の課 題遂行率が高い人にだけ参加を許容したりすることもで き自由度が高い。日本のクラウドソーシングサービスに 焦点をあてた研究でもウェブ実験と実験室実験とのあい だで結果にほぼ違いが見られなかったことが報告されて いる(Majima, 2017; Majima, Nishiyama, Nishihara, & Hata, 2017)。このように,クラウドソーシングサービスを 使って参加者を募集する利点はかなり多い。 ウェブ実験で生じうる問題として,もうひとつよく指 摘されることが,ある参加者が同じ実験に何度も参加し てしまう恐れがある点である。この問題は,参加者が不 正に謝金を得るという側面と,練習効果のように課題に 慣れすぎてしまうという2つの側面を含んでいる。クラ ウドソーシングサービス側の設定によっては同一のアカ ウントが複数の実験や調査に参加することを防ぐことが できるが,それでも複数のアカウントを所有している場 合には不正な参加を防ぐことができない。インターネッ トにアクセスしている端末ごとに固有に割り当てられる IPアドレスを使ったアクセス制限も考えられるが,研 究室のような環境では複数の端末でIPアドレスを共有 していることも多く,慎重に制限を行う必要があるだろ う。また,まったく同じ実験に複数回参加することを防 げたとしても,過去に行われた類似の実験に参加したこ とがある人のデータが実験に含まれることを防ぐことは 難しい。クラウドソーシングサービスとしてAMTがよ く利 用 さ れ る 海 外 で は,Unique Turker (https://unique turker.myleott.com)を使うこともあるようだ。差し当 たって日本では,過去の参加状況について自己申告をさ せるのが有効ではないかと思われる。ウェブ実験におい ても,実験室での実験と同様に,心理学実験に慣れた参 加者と慣れていない参加者がいるということは認識して おいたほうがよい。 個人情報の管理という点でもウェブ実験には注意が必 要である。一般的なウェブ実験では実験で取得された情 報はサーバー上に保存される。氏名を取得する必要があ る実験はまれだと思われるが,クラウドソーシングサー ビスのIDと年齢,居住地などを紐付けることはしばし ば起こるだろう。これはウェブ実験に限ったことではな いが,実験者は,自分の実験においてどんな情報を収集 し,それらがどこに保存されているのかという点に細心 の注意をはらうべきである。またデータが不要になった 時点で,サーバーから削除したほうがよいだろう。 ウェブ実験を行うために必要となる技術的な知識 実験室で実験を行うためのプログラムを自分で作って いるという読者も多いと思うが,残念ながら,それらの プログラムをそのままの形でウェブ実験に流用すること はできない。つまり,ウェブ実験用にプログラムを作り 変える必要があるわけだが,なんらかの言語で実験プロ グラムを作成する能力があるのであれば,ウェブ実験用 に知識を増やすことはそれほど難しくはないと思われ る。特にPsychoPy (Peirce et al., 2019) の利用者であれば, 近年のアップグレードでプログラムをウェブ実験用に変 換 す る こ と が で き る よ う に な っ て い る た め (十河, 2019),容易にウェブ実験を始めることができるだろう。 ただし,2019年12月時点で,すべてのプログラムを完 全に変換できるわけではないのでその点には注意を要す る。 以下に,ウェブ実験を行うにあたり必要となる技術的 な知識について概説する。 HTML

HTML と は Hyper Text Markup Language の 略 称 で, HTMLのルールにのっとって文章を記述するとウェブサ イト(ホームページ)を公開することができる。HTML ではタグと呼ばれる記号で,ウェブサイト上に表示した い文言を囲む。なお,開始タグと終了タグ,そしてこの 2つのタグによってはさまれた文言を含んだものを要素 と呼ぶ(HTMLについて学習を始めたばかりのころはタ グと要素を同一のものとして扱いがちだが,厳密には異 なることに注意)。HTMLファイルは文字情報のみを含 んだテキストファイルである。このような説明では,一 般的なウェブサイトにおいて画像や動画が表示されてい ることを不思議に思う読者もいるかもしれない。実際に は,画像や動画のファイルは HTMLファイルとは独立 して存在しており,HTMLファイルではこれらのファイ ルの「場所」を指定している。 HTML 要素のなかには,head 要素と body要素が存在 する。head要素では,ページのタイトル,表示する言 語の種類,そして後述する CSSやJavaScriptファイルの 場所を明記する。つまりhead要素は,ブラウザ上で表 示される内容そのものではなく,HTMLファイルの属性 について記述された箇所と言える。一方のbody要素に は,ブラウザ上で表示したい内容を含める。一般的には 見出し(h1, h2要素)や段落(p要素),画像(img要素) について記述する。リスト 1は最も簡単に記述された HTML ファイルの一例である。この HTML ファイルを ウェブブラウザで開くと見出しと段落がひとつずつ表示 される。

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<html>  <head>   <title>サンプルページ</title>  </head>  <body>   <h1>レベル1の見出し</h1>   <p>みなさん,こんにちは(段落)</p>  </body> </html> リスト1. 見出し<h1>と段落<p>をひとつずつ持つ HTMLファイル

CSS (Cascading Style Sheets)

仮に HTMLのみを使用してウェブサイトを作成した 場合,当該ファイルは非常に読みにくくなり,その結 果,変更を加えことが困難になる。そこで,ウェブサイ トを内容(あるいは構造)と見た目(デザイン)に切り 分けて,前者についてはHTMLで,後者についてはCSS で記述するようになった。例えばリスト1における, <p>みなさん,こんにちは</p> の段落要素について,表示される文字(フォント)のサ イズと色を変更することを考えてみよう。CSSを使用し ない場合には,

<p><font size="5" color="#ff0000">みなさん,こんに ちは</font></p> のように記述する。一方,CSSを使用する場合には, <p class="red">みなさん,こんにちは</p> のように,classという属性を設け,CSSファイルにて, .red {   font-size: large;   color: red; } のように記述する。この例で作成したredという名前の クラスは,CSSを参照しているHTMLファイル内で何度 でも使用できる。そして CSSファイル内で,redクラス のフォントサイズを変更すると,その変更がredクラス を指定したすべての要素に反映される。これがCSSを利 用してウェブページを装飾するメリットである。 JavaScript JavaScriptとは,ウェブ上でなんらかのプログラムを 動かしたいときに使用される言語である。JavaScriptを 使用することで,キーを押したときに刺激を呈示した り,指定した時間が経過したら刺激を消したりすること ができる。反応時間を取得できるのも JavaScriptのおか げだ。現在のほとんどのウェブ実験は JavaScriptで記述 されているといってよい(かつては Adobe Flashを使用 することもあったが,Flashの開発およびサポートは停 止される予定であり,いまから学ぶメリットはほぼない だろう)。なお先述のHTMLやCSSはプログラミング言 語ではない。また類似のプログラム言語に Javaがある が,JavaとJavaScriptはまったく別物である。 JavaScript は<script>タグを使ってHTML ファイル内 に直接記述することも,外部ファイルから読み込むこと もできる。リスト 2はJavaScriptが組み込まれたHTML ファイルの例である。 <html>  <head>   <title>サンプルページ</title>

  <link rel="stylesheet" href="list1.css"></link>  </head>  <body>   <h1>レベル1の見出し</h1>   <p class="red">みなさん,こんにちは</p>   <script>    console.log ("JavaScriptのテスト")   </script>  </body> </html> リスト2.JavaScriptを含んだHTMLファイル console.log ("JavaScriptのテスト") は,文字列 "JavaScriptのテスト"を表示させるための命 令である。しかし,この HTMLファイルを単純にブラ ウザで開いても,ブラウザ上に "JavaScriptのテスト"と いう文字列は表示されない。実はこの文字列は,console とあるように,コンソールと呼ばれる場所(ブラウザと は別ウィンドウと考えてよい)に表示される。このコン ソールを表示する方法はブラウザによって異なり,次の 通りである。 ➢ Chromeでは,表示 → 開発/管理 → デベロッパー ツール ➢ Firefoxでは,ツール → ウェブ開発 → 開発ツー ルを表示 ➢ Safariでは,開発 → JavaScriptコンソールを表示 ➢Edgeでは,F12キーを押す JavaScriptのコンソールはウェブ実験そのものに利用

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されることはないが,プログラムを作成している過程 で,例えば変数の中身を確認することなどができ大変便 利である。 jsPsych JavaScriptを使用すればウェブ実験を作成できるのは 先述の通りだが,一から作るとなると初心者にはハード ルが高い。そこで,心理学実験でよく使用する機能をま とめたフレームワーク(ライブラリ)というものが存在 する。筆者がおすすめするのはjsPsych (de Leeuw, 2015) で,これを使用することにより,最小限のHTML, CSS, JavaScriptの知識でウェブ実験のためのプログラムを作 成することができる。 jsPsychは公式サイト(https://www.jspsych.org)からダ ウンロードできる。ダウンロードしたzip形式のファイ ルを展開するとcssやexamplesというフォルダが表示さ れる。examplesフォルダには多くのjsPsychのデモプログ ラム(正確には HTMLファイル)が含まれている。試 しに,jspsych-image-keyboard-response.htmlを開いてみよ う。顔画像が1枚表示されて,YまたはNキーでの反応 を求められる。jsPsychを使用するにあたって,いわゆ るインストールというような作業は不要で単純にHTML ファイルを開くだけでプログラムが動作する。ただし, このままの状態ではjsPsychのファイルをダウンロード したPC上でしかプログラムを動かすことができない。 インターネットを経由して,実験参加者のPCからプロ グラムにアクセスするためには,後述のウェブサーバー にファイルを移す(アップロードする)必要がある。 ウェブ実験用のプログラムを作成するには,examples フォルダからなるべく目的に近いファイルを選択し,そ のファイルを書き換えていくとよいだろう。また公式サ イトのTutorialsにも一通り目を通すことをお勧めする。 なお,内容があまり充実していないが,jsPsychの使い 方について筆者が日本語でまとめたサイト(https://sites. google.com/site/webdeshinri)と,心理物理実験を念頭に 置 い て 開 発 し た jsPsych の プ ラ グ イ ン(http://jspsycho physics.hes.kyushu-u.ac.jp)を紹介しておく。 サーバー 見落とされがちであるが,ウェブ実験ではウェブサー バーとデータベースサーバーが必要になる。ウェブサー バーはウェブ実験用のプログラムを公開するためのサー バーで,実験者のPCからこのサーバー上にファイルを アップロードすることで初めてインターネットを経由し て参加者が実験に参加することができる。大学などの研 究機関であればおそらくは研究室単位,あるいは部局単 位でウェブサーバーを所有しているだろう。そのスペー スを間借りすることができれば,実験プログラムを公開 することができる。 ここで注意しておきたいのは,実験のタイプによって はウェブサーバーに高負荷がかかり,サーバーそのもの がダウンする可能性があるということだ。例えば, Woods et al. (2015) はビデオストリーミングを刺激とし てウェブ実験を行った際,サーバーがダウンしたことを 報告している。ビデオストリーミングを使用していなく ても,何百人という参加者が同時にアクセスするような ことはなるべく避けたほうがよいだろう。Woodsらは ウェブ実験であっても一気にデータを取るのではなく, 少しずつ参加者を増やしていくことを助言している。こ れはサーバーの負荷を軽減するだけでなく,万一プログ ラムに不具合があったときの被害を最小限にとどめるの にも役立つ。 データベースサーバーは,必ずしも必要ではないが, ウェブ実験で取得したデータを保存するために使用され る。もしデータベースサーバーを使用しない場合は,参 加者ごとに実験結果を含むファイルを作成することが多 いが,参加者の数が多いときには使い勝手がよくない。 筆者としては,MySQLやPostgreSQLなどのデータベー スサーバーを使用することをお勧めする。このふたつの データベースサーバーは,ウェブサーバーと同一のサー バー内ですでに利用できる状態であることが多いため, 管理者に確認するとよいだろう。 ウェブサーバーやデータベースサーバーが準備できな い場合は,PsychoPyの作者が開発管理しているPavlovia (https://www.pavlovia.org)を使用するのがよいだろう。 PsychoPyで作成したプログラムは,そのままPavloviaで 公開し実験を行うことができ,さらにはその実験データ を保存することも可能だ。PavloviaはPsychoPyだけでな く,jsPsychにも対 応している。なおPavloviaは有償の サービス(ひとりの参加者につき0.2ポンド,または年間 の機関ライセンスで1500ポンド)である。PsychoPyのオ ンライン対応が充実すると,実験者はHTMLやJavaScript の知識を必要とせずに,慣れ親しんだPsychoPyでウェブ 実験を実施することができるようになるため,非常に有 益であろう。 ファイルをウェブサーバーに公開したあとには,必ず 複数のウェブブラウザからアクセスをしてみて,予期し たとおりに動作しているかを確認することをお勧めす る。同様に,ディスプレイのサイズ(解像度)が異なる 複数のPCから動作確認をすることも重要である。筆者

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の経験上,ブラウザやPCによって見栄えが異なったと いうことが何度かあった。PCだけではなく,スマート フォンを利用して参加する参加者もいる点には注意が必 要である。 ま と め ウェブ実験は多種多様な参加者のデータを効率的に回 収するという点で大変有益であり,今後ますます実施さ れる機会が増えていくと思われる。その一方で,実験室 での実験が完全になくなるかというと,もちろんそんな ことはなく,実施したい実験ごとにウェブ実験に向いて いるかどうかを吟味する必要があるあろう。本稿が, ウェブ実験を実施する研究者への一助となれば幸いであ る。 引用文献

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参照

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