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経済学が伝えられること・伝えるべきこと(シンポジウム 経済教育の新しい地平を求めて)

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Academic year: 2021

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9  本報告では,大学での学部教育ならびに後期中等教 育における「経済学」教育の意義について考えたい。 大学の経済学教育はミクロ経済学とマクロ経済学に代 表される理論,統計・データ,制度的知識や経済の現 状の 3 つのテーマを行き来しながら進められる。一方, 後期中等教育においても経済統計やデータ分析に関す る技法に触れられることは少ないものの,経済理論の さわりと制度的知識がその教育の中心となろう。  しかしながら,このような「経済学教育」「経済教 育」は大衆化する高等教育において,果たしてどの程 度「必要」なものなのだろうか。一部の例外的な職種 を除くと,経済理論・経済モデルを実際の職業におい て用いることはない。制度的知識についても同様であ る。自身の職業上の必要の無い知識はテスト直前に暗 記されるのみで,生徒・学生の生活や今後のビジネス においてなんらの有用性をもたないのではないだろう か。  このような問題意識を通じ,現在では経済教育から 職業直結型の実務的な教育へのシフトが提案されるこ とが多い。注目される企業の業務を取り上げ,経営者 を招き,体験学習を通じてビジネスの現場に触れさせ るという授業計画のない大学はないのではないか。し かし,これ以上実務型・即戦力型の教育が増えること に,私は,全く反対である。理由は「全く役に立たな い」からだ。今日の「最先端の経済事情」「最先端の ビジネス事例」は生徒・学生が実際に社会に出る 5 年 後,意思決定主体となる 10 年後には「中途半端に昔 の経済事情」「時代遅れのビジネス事例」となってい る。  経済教育・経済学教育が伝えるべきは「経済」でも 「経済学」でもない。  経済教育・経済学教育が伝えるべきは思想の型であ り,思考の型である。  現在の主流派経済学は方法論的個人主義に基づき, 合理的な個人が制約下で主観的価値観に基づき最適化 行動を行うという想定から社会を記述する。  その是非はさておき,なぜこのような設定が出発点 とされるのだろう。初期の経済学が重要視した客観的 な価値観の探求は現在の主流派経済学では完全にス キップされている。経済学の出発点が功利主義と労働 価値説から方法論的個人主義と主観価値説に移行して いったかを追うことは,価値とは何か,そして現代経 済学は何を見落としているか,さらに難問に直面した ときにそれを迂回することがプラグマティックな思考 方法として有用であることを理解させることが出来る。  また,主観価値の最大化という技法に関してもそこ から得られるものは多い。実際にビジネスにおいて直 面する課題は制約の下での利潤最大化や費用最小化の 性質を有しているからだ。経済を学ぶのではなく,経 済の問題を練習問題として思考法を訓練するところに 経済教育・経済学教育の最大の意義があるのではない かと考える。  そこで,余剰分析と厚生経済学,比較優位説,計量 分析といったともすると軽くあつかわれがちな基本分 野から思考の型をつたえるところに経済教育の活路が あるのではないか。

経済学が伝えられること・

伝えるべきこと

The Journal of Economic Education No.32, September, 2013

What Economics Can and Sholud Tell Students

Iida, Yasuyuki 飯田 泰之(明治大学)

The Japan Society for Economic Education

参照

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