中枢神経系の発生と分化
——IP
3受容体の発見とその機能の解明
理化学研究所 脳科学総合研究センター 発生神経生物研究チーム 御子柴克彦 高次機能を有し、複雑な構造の脳神経系の発生と分化の機構を解明する為に、 ミュータントマウスと正常マウスとの比較解析や、人工キメラマウスにおける 正常部位と病態像の比較解析を行った。その結果、分子—細胞—組織—器官— 個体を連続的に見る事が出来て、単に正常の解析だけでは明らかにし得ない多 くの成果を得た。以下の4項目について紹介する。1] ミエリン(髄鞘)形成 機構 2] 神経細胞の位置決定と脳のしわ形成 3] 神経の発生・発達を制御 するZic遺伝子 4] IP3レセプターの発見とその機能 1] ミエリン(髄鞘)形成機構機構の研究 ミエリンとは中枢神経系ではオリゴデンドロサイトが、末梢神経系ではシュ ワン細胞が末梢神経系の神経細胞の軸索に取り巻き、そして形成した多重層の 膜の事を云う。神経軸索内での電気的な信号をより効率的に伝導する役割を果 た す 。 ミ エ リ ン 形 成 に 障 害 を 起 こ す 突 然 変 異 マ ウ ス と し て ク エ イ キ ン グ (quaking)マウス、トウィッチャー(twitcher)マウス、シバラー(shiverer)マウス、 シバラー(shiverer)マウスとアレルの mld (myelin deficient) マウス等がいる。ミエリンを構成するタンパク質としては proteolipid protein, myelin basic
protein, P2 protein, CNPase (2',3'-Cyclic nucleotide 3'-phosphohydrolase) な どが同定されアミノ酸配列も決定されたタンパク質から構成される。これらの タンパク質の合成障害により、ミエリン構造の不全がおきて、個体レベルでは 行動異常が起きる。ミエリン形成は「分子」と「形態」と「行動」とを対応づ けるための大変よいモデルと考えられる。クエイキング(quaking)マウス、トウ ィッチャー(twitcher)マウスでの解析も行ってきたが、本稿ではシバラーマウス につき筆者の研究室で行った研究成果を紹介する。 まずシバラーマウスのミエリン形成の障害の原因がミエリンを作るオリゴ デンドロサイトかシュワン細胞にあるのか、或は、未知の体液性因子によるか を明らかにするために、正常マウスとシバラーマウスとのキメラマウスを作製 して解析した。その解析の結果、オリゴデンドロサイトやシュワン細胞そのも のに障害があることを証明した。 この結果により、初めて分子生物学的解析を進められることになった。シバ ラーマウスではミエリン塩基性タンパク質の4−7エキソンが決失していた。 mld (myelin deficient) マウスでは、ミエリン塩基性タンパク質があるにも拘ら ずタンパク質の発現が悪い。 ミエリン塩基性タンパク質が直列に重複しており、上流に位置するミエリン 塩基性タンパク質をコードする4−7エキソンが逆位に配置していることを発 見した。この逆位に配列する部位から、アンチセンスRNA が産生されて、下流 で読まれて産生されるセンス RNA と RNA-RNA 複合体を形成することを示し た。RNA-RNA 複合体は分解しやすいため正常な遺伝子の転写が正常であって も分解されてしまうために、シバラーと同様な症状を示す。これは正常な遺伝
子が同一遺伝子上にあるにも拘らず、逆位の遺伝子により転写されて作られる
アンチセンスRNA により、遺伝子発現が障害されることの最初の発見であった。
K. Mikoshiba, et al., Brain Res 177, 287 (1979).
K. Mikoshiba et al., Nature 299, 357 (1982). K. Mikoshiba, et al., Dev Biol 105, 221 (1984).
K. Mikoshiba, et al., J Neurochem 44, 686 (1985).
H. Okano et al., J Neurochem 48, 470
(1987).
H. Okano, K. et al., EMBO J 7, 3407 (1988a).
H. Okano et al., EMBO J 7, 77 (1988b). K. Mikoshiba, et al., Annu Rev Neurosci 14, 201 (1991). A. M. Turnley et al., Nature
353, 566 (1991). 2] 神経細胞の位置決定と脳のしわ形成の分子機構 脳のしわのないリーラーミュータントマウスはニューロンの位置も異常で ある。このリーラーミュータントの原因がニューロンそのものにあるのか、体 液性因子によるのかの解析を行うため、キメラマウスの作製を行った結果、キ メラマウスは正常化した。この結果により、体液性因子が重要であると考えた。 脳のしわのないリーラーミュータントマウスへ正常マウス脳組織を注射して免 疫するユニークな方法により、リーラーマウスで欠落している「しわ形成」や 「ニューロンの位置決定」に関わる分子(後にリーリン分子と同定)の抗体を 作製することに成功し、その分子機構の解明をした。更にその下流因子を欠落 するミュータントマウス(ヨタリマウスと命名)を発見した。また、Cdk5 もニ ューロンの位置決定に関わることも明らかにし、神経細胞の位置決定としわ形 成の分子機構の全容を明らかにした。更に、cdk5 が脳のしわ形成と神経細胞の 位置決定に重要であることが、cdk5 の欠損マウスの解析により明らかとなり、 その分子レベルでの解析にも成功した。
J. Mariani et al., Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci 281, 1 (1977).
K. Mikoshiba et al., J Neurochem 34, 835 (1980).
T. Terashima, et al., J Comp Neurol 218, 314 (1983).
T. Terashima, et al., J Comp Neurol 225, 95 (1984).
K. Mikoshiba, et al., Dev Neurosci 7, 199 (1985).
T. Terashima, et al., J Comp Neurol 232, 83 (1985).
T. Terashima, et al., J Comp Neurol 252, 264 (1986).
M. Ogawa et al., Neuron 14, 899 (1995). T. Miyata et al., J Comp Neurol 372, 215 (1996).
G. D'Arcangelo et al., J Neurosci 17, 23 (1997).
J. A. Del Rio et al., Nature 385, 70 (1997). T. Miyata et al., J Neurosci 17, 3599 (1997). K. Nakajima, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 94, 8196 (1997).
M. Sheldon et al., Nature 389, 730 (1997). N. Utsunomiya-Tate et al., Proc Natl Acad Sci U S A 97, 9729 (2000).
T. Ohshima et al., Proc Natl Acad Sci U S A
98, 2764 (2001).
T. Ohshima et al., J Neurosci 22, 4036 (2002).
M. Hirasawa et al., Proc Natl Acad Sci U S A 101, 6249 (2004).
3] 神経発生・発達を制御するZic 遺伝子
神経管に発現する遺伝子を発見し、Zic と命名した。Zic には5種類あり、 左右軸形成、立体視、神経発生等に必須であることを解明した。
Zic はマウス小脳顆粒細胞に強く限局して発現する分子として、私たちが最
初に見出して構造を決めたzinc figer motif をもつ転写因子である(zinc finger
のzi と小脳 cerebellum の c をとり Zic と命名した)。
Zic を報告したのち、Zic に相当するショウジョウバエの遺伝子が独立にク
異でアミノ酸配列、遺伝子構造ともに我々のマウスZic に類似していた。 odd-paired 変異では、ペアルール型の体節形成異常のほかに、腹側中胚葉の発 生過程に障害のあることが知られている。ショウジョウバエではodd-paired 遺 伝子は、発生に大切なengrailed、wingless の遺伝子を制御しており、一つの遺 伝子しかない。しかし、マウスZic は現在の所5つのアイソフォームがあること をみいだした。 Zic 欠損に伴う脳の形態形成異常 私たちはZic ファミリーの小脳発生における役割を明らかにするために、ま ず小脳において最もmRNA 含量が高い Zic1から各々に変異をもつマウスを遺 伝子相同組換えにより作製し、その表現型を解析した。 1) 小脳のパターン形成にかかわるZic1 Zic 欠損マウスは生後2,3日目以降、顕著な運動失調、異常運動などの症 状を示し、多くのものは生後1ヶ月以内に死亡した。中枢神経系では、小脳の 低形成、小脳小葉パターンの異常が認められた。組織学的な解析から、小脳の 異常には胎生14日以降の、菱脳唇で顆粒細胞へと運命決定されたのちの顆粒 細胞の前駆細胞の増殖脳の低下にかかわっていることが明らかとなった。 2)中枢神経系全体の発生を制御するZic2 Zic2は、ヒトの13q 症候群のポジショナルクローニングによりヒトの1 3番染色体の約メガベース欠損した変異が見つかり、その中にZic2が含まれて いた。13q 症候群は無脳症、脳の発達不全、脳ヘルニアなど重篤な脳発生障害 を引き起こすことが知られていた。Zic2のほかに多くの遺伝子も欠失していた ために Zic2が原因であるか否かは不明であったが、Zic2の欠損マウスを作製 したところ同様の異常所見を見出し、これにより13q 症候群の原因遺伝子は Zic2が関与していることが示された。Zic2の遺伝子欠損マウスを調べたところ、 網膜の神経節細胞からの線維のうちipsilateral projection に関わる線維の異常 があった。これにより今まで、立体視を分子レベルで手掛けられなかったが、 分子メカニズムの解明に大きなはずみとなった。 3)左右軸を決定するZic3 私たちの内蔵は左右非対称であるが、内臓の異常として完全逆位(situs inversus)、位置異常(situs ambiguus)が知られている。1997年末に X 染
色体にリンクした患者の遺伝子を解析した結果、situ inversus、situs ambiguus
の症状を示すと共にZic3の遺伝子に変異が起きていることが報告された。アフ
リカツメガエルをモデル動物としてZic の役割を用いて調べると Zic3はアクチ
ビンの下流にあり、左側に発現しているが、右側にZic3を発現させると、心臓
や内臓、特に小腸のルーピングが正常と逆になることがわかり、Zic3が左右の 決定に大きく関わっていることが明らかとなった。
J. Aruga et al., J Neurochem 63, 1880 (1994).
K. Nakata, T. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 94, 11980 (1997).
J. Aruga et al., J Neurosci 18, 284 (1998). K. Nakata T. et al., Mech Dev 75, 43 (1998). J. Aruga et al., Mech Dev 89, 141 (1999).
T. Kitaguchi, T. et al., Development 127, 4787 (2000).
T. Nagai et al., Proc Natl Acad Sci U S A 97, 1618 (2000).
K. Nakata, Y. et al., Mech Dev 99, 83 (2000).
(2001).
K. Mizugishi et al., J Biol Chem 276, 2180 (2001).
J. Aruga T. et al., Dev Biol 244, 329 (2002).
E. Herrera et al., Cell 114, 545 (2003). T. J. Fujimi K. et al., Dev Dyn 235, 3379 (2006).
T. Inoue M. et al., Dev Biol 306, 669 (2007). A. Ishiguro et al., J Biol Chem 282, 9983 (2007).
M. Hatayama et al., Hum Mol Genet 17, 3459 (2008).
T. Inoue, M. et al., J Neurosci 28, 4712 (2008). 4] IP3レセプターの発見とその機能の解明 1883年にリンガーによりカエルの心臓の収縮に細胞内のカルシウムが 重要であることが発見されて以来、カルシウムが分泌、筋肉の収縮(江橋節郎) や、発生などの様々な生命現象に必須であることが明らかである。 しかし細 胞の刺激に応じて「細胞内カルシウムの上昇」がおきる仕組みはよくわかって いなかった。1950年代初めに細胞が活性化されるときに PI (フォスファチ ジル イノシトール) 代謝が活発化するといる大きな発見あったが、イノシト ール代謝回転とカルシウムとの関連は不明のままであった。 細胞内メッセンジャーIP3の発見 ベーリッジ博士はイノシトール リン酸の一種であるイノシトール 3リ ン酸 (IP3) が細胞内からカルシウムを放出することを1983年に発見し た。唾液分泌腺を用いたこの画期的な発見によりIP3 が細胞内に於ける重要な メッセンジャーであることが証明されて直ちに国際的に認知された。 IP3レセプターの発見と小胞体に局在するカルシウムチャネルである事の証明 と全構造の決定 次の疑問は細胞でどうしてIP3がカルシウム濃度を上昇するかであった。ミ トコンドリア以外で細胞内に貯蔵されて必要に応じてカルシウムを放出する制 御の仕組みがあり、その主役を演ずるのがIP3レセプターであることが予測され たが、IP3レセプターはあくまでも薬理学的な概念であり、その分子実体も局在 も不明な仮想的な分子であった。世界中の製薬会社や大学の研究室がIP3レセプ ターの発見を目指して躍起になって追い求めていた。 筆者らはIP3レセプターを1989年に世界に先駆けて発見し、これまでIP3 レセプターはカルシウム チャネルとは別分子と考えられていたが、形態学的・ 生化学的・分子生物学的解析によりIP3レセプターは小胞体にあることを証明し て、カルシウム チャネルと一体であること、さらにその分子量約31万の巨大膜 タンパク質の全構造を世界で初めて決定した。 IP3レセプターの発見は筆者が小脳失調を起こす突然変異マウスにおいて欠 落するP400蛋白質を精製し、P400蛋白質特異的モノクローナル抗体を用いて、 P400蛋白質が実はIP3レセプターであることを証明したもので大変ユニークな 発見であった。 ベーリッジ博士が発見した細胞内メッセンジャーであるIP3を結合するIP3 レセプターを申請者が発見したことは直ちに世界中に大きなインパクトを与え、 IP3とIP3レセプターはともに細胞内のカルシウムを介する情報伝達機構の理解 を大きく進展する原動力となった。
4-1] 生化学的、構造生物学的解析から生物学的役割と疾患への関わりの解明 細胞外からの刺激により産生されたIP3が何故多様な機能を持つかは、その 後の精力的な研究により明らかにされた。更に構造生物学的解析を進めてIP3レ セプターがカルシウムにより構造変化を示すアロステリックタンパク質である ことを示した。IP3レセプターのIP3結合部位や調節領域の3次元X線結晶構造解 析にも成功した。この三次元構造をもとに蛍光共鳴エネルギー移動法により新 しいIP3指示薬を開発し、細胞内のIP3動態を観測することに成功した。その結果、 IP3 とカルシウムの時空間的な可視化が可能となり、現在のカルシウム研究の 発展に貢献している。 三次元構造の解析により、カルシウムチャネルである IP3レセプターのチャネルポアーの開閉機構の解明を行った。またIP3レセプター に結合するタンパク質をスクリーニングした結果、グルタミン酸レセプターを はじめとしてハンチントン病や細胞死(アポトーシス)とも関わる多くの分子 が結合することがわかり、これらはIP3レセプターのチャネルポアーの開閉に関 わる近傍に結合していることを明らかにした。すなわちIP3レセプターが他の多 くの情報伝達系とリンクし、かつ病気とも深く関わることを示した。 また生物学的役割について解析を進め、細胞が刺激をうけて細胞内でのカル シウムの濃度を変化として観察される「カルシウム振動の発振装置がIP3レセプ ター」であり、カルシウム振動が受精後4細胞期に背側と腹側を決定すること、 抗体に蛍光色素をつけてレーザー光を利用してIP3レセプターを破壊する手法 を用いて、神経の突起伸展に重要であること、遺伝子欠損マウスは発育障害や 小脳失調を呈し、神経可塑性に異常を示すことを明らかにした。更に外分泌機 能にIP3レセプタータイプ2型、3型が重要であることをノックアウトマウスを 使って証明して、乾燥した目や唾液分泌障害を起こす自己免疫疾患であるシェ ーグレン症候群のモデルとなること、ヒト シェーグレン症候群患者の血清中 にIP3レセプターの抗体が50%以上陽性であることも明らかにした。 更にタイプ1型IP3レセプターが神経成長因子のBDNFの分泌にも関わるこ とを明らかにしヒト自閉症とも関わることが明らかになってきた。小脳失調を 主な徴候とするヒトの遺伝子変異もIP3レセプターの異常によることを明らか にしている。 4-2] 新規な代謝経路の発見と病気との関連の発見 更にIP3結合部位に結合しておりIP3により放出される新規分子を発見し、ア ービット(IRBIT)と命名した。アービットはIP3の偽似体であり、IP3と同じ部 位に結合する為に、カルシウム振動(頻度と強度)を調節することを示した。 更に、三次メッセンジャーとしてNa+HCO3-共輸送体を標的として生体の酸・塩 基バランスの調節にかかわるという全く新しい代謝経路を見出した。 Na+HCO3-共輸送体のヒト家系での知能障害、低身長、緑内障、白内障などをお こすことが報告されており、IP3 レセプター、アービット系が関ることも明ら かとなった。即ちIP3の役割はカルシウムの放出のみでなく、アービットを放出 するという新しい情報伝達経路を発見した。また近年、小胞体内腔に新しい電 子の授受に関わる酸化・還元センサーを発見し、IP3レセプターと酸化・還元反
応がリンクしていることを発見した。現在、酸化ストレス殆どの病気に関って いることから、IP3レセプターを介するカルシウム制御が生体の機能調節に様々 な形で関与して、その障害は疾病と強く関わることを示したものである。 4-3] 新薬アッセイ法の開発 IP3レセプターはアロステリックタンパク質の典型的な物である事が証明さ れ、リガンドや調節タンパク質などとの結合により、機能を変換することが示 された。 神経伝達物質やホルモンの作用部位とは全く異なる部位に構造と機能を調 節するアロステリック部位があることを明らかにして、「membrane receptor binding assay (膜レセプター結合アッセイ)」は、現在では、創薬における基本 的アッセイ系としてGPCR(Gタンパク質共役受容体)などの全ての系に適用さ れる先端的な技術となった。我々はIP3レセプターの働きを調節するタンパク質 分子をスクリーニングする事に成功しており、且つ新しい有機合成による薬剤 の開発に成功している(特許申請済み、一部発表)。 4-4] 診断技術、治療薬の開発: IP3レセプターはリガンド結合部位や調節領域の構造が明らかとなっている ため、蛍光共鳴エネルギー移動法を利用してIP3の定量を可能とした。そのため に、そのアッセイ系を用いて、世界中で多くの薬物の検定がすすめられている。 既にIP3 定量キットは我々が申請した特許が企業ライセンス化されて世界的 に販売されている。 ヒトの小脳失調症患者の家系解析により1型IP3レセプター遺伝子の大きな 決失あるいは点突然変異によるヒト小脳失調症が発見され運動障害を示してい るも発見された。また、2型3型の遺伝子欠損マウスはヒトのシェーグレン症 候群の患者での乾いた口に代表される外分泌障害を引き起こしている。御子柴 博士はシェーグレン症候群の患者約1000人で約50%に「血中にIP3レセプ ター抗体を検出」することに成功しており、診断に利用出来る事を証明した。 申請者は自身の研究室で多くの薬物の開発に成功しており、IP3レセプター がアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病等に深く関り、IP3レセ プター障害によりこれらの疾患が引き起こされる事を示している(論文投稿中)。 更にアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病等で見られるタンパ ク質架橋の阻害作用を持つ有機合成化合物の開発に成功している(論文発表や 特許申請済み)。 4-5] レセプターの認識、記憶など高次機能に於ける役割の解明 IP3レセプターが発生、分化、神経の可塑的性質、認識、記憶、学習などの 高次脳機能にも関ることを示した。特に、筆者やベーリッジ博士はIP3レセプタ ーが細胞内のカルシウムの濃度をゆっくり(2−3分に1回程)と変化をさせる カルシウム振動の発振装置であり、このカルシウム振動の高さと頻度が細胞内 での働きを決めるのに必須であることを示している。神経の突起伸展及び小脳 や海馬における神経可塑性が重要である事を明らかにしている。
4-6] ヒト疾患との関わり ---レセプター病から高次精神神経機能障害 筆者はIP3 レセプターの働きが障害されることにより、ヒト疾患を引き起こ す事を証明してきた。近年、精神疾患の発症機構の解明、予防、治療が重要な 課題となっているが、特にそれぞれのタイプのIP3レセプターを構成する成分の 欠損(特定の脳内部位などのレセプターの欠損)マウスの作製を行い、行動解 析や、様々な機能解析により、ヒト疾患のモデルマウスの作成に成功している。 IP3レセプターが小脳失調症、アルツハイマー病、統合失調症、ハンチント ン病をはじめとする運動神経疾患や、精神神経疾患の原因因子の一つであるこ とを明らかにしており、それらの脳内部位特異的遺伝子欠損により、モデル動 物(マウス)も作製している。また、2型3型の欠損マウスはヒトの自己免疫 疾患であるシェーグレン症候群の患者でみられる乾いた口に代表される外分泌 障害を引き起こしていることを発見した。また急性膵炎の障害の原因分子であ ることも見いだした。 以上のように「正常と異常との比較を中心とした脳の発生・分化の研究」を 基盤として、ユニークで独自の発想のもとに多くの技術開発を行いながら、進 めてきた25年前の「IP3レセプターの発見」に基づく IP3 — IP3レセプター —カルシウムの流れによる「細胞内カルシウム制御機構の研究」は生命現象の 基本的原理を解明することから、疾患の病態解明、診断、創薬にまで発展させ ている。
K. Mikoshiba, et al., Dev Neurosci 2, 254 (1979).
K. Mikoshiba et al., J Neurochem 39, 1028 (1982).
T. Furuichi et al., Nucleic Acids Res 17, 5385 (1989).
A. Miyawaki et al., Neuron 5, 11 (1990). A. Miyawaki et al., Proc Natl Acad Sci U S A 88, 4911 (1991).
Y. Mori et al., Nature 350, 398 (1991). T. Nakagawa et al., Proc Natl Acad Sci U S A 88, 6244 (1991).
G. Kuwajima et al., Neuron 9, 1133 (1992). S. Miyazaki et al., Science 257, 251 (1992). Y. Fujita et al., Neuron 10, 585 (1993). S. Kume et al., Cell 73, 555 (1993). T. Kagawa et al., Neuron 13, 427 (1994). M. Kawasaki et al., Neuron 12, 597 (1994). R. Llinas et al., Proc Natl Acad Sci U S A
91, 12990 (1994).
M. Fukuda et al., Proc Natl Acad Sci U S A
92, 10708 (1995).
K. Mikoshiba et al., Proc Natl Acad Sci U S A 92, 10703 (1995).
M. Matsumoto et al., Nature 379, 168 (1996).
S. Kume et al., Science 278, 1940 (1997). M. Ohara-Imaizumi et al., Proc Natl Acad Sci U S A 94, 287 (1997).
H. Umemori et al., Science 276, 1878 (1997).
K. Takei et al., Science 282, 1705 (1998).
H. Zhao et al., Science 279, 237 (1998). G. Boulay et al., Proc Natl Acad Sci U S A
96, 14955 (1999).
A. Futatsugi et al., Neuron 24, 701 (1999). T. Michikawa et al., Neuron 23, 799 (1999). M. Fukuda et al., Proc Natl Acad Sci U S A
97, 14715 (2000).
H. T. Ma et al., Science 287, 1647 (2000). K. Mikoshiba, M. Hattori, Sci STKE 2000, pe1 (2000).
M. Nishiyama, K. Hong, K. Mikoshiba, M. M. Poo, K. Kato, Nature 408, 584 (2000). K. Fukami et al., Science 292, 920 (2001). I. Bosanac et al., Nature 420, 696 (2002). T. Nagai et al., Nat Biotechnol 20, 87 (2002).
T. Saneyoshi, S. Kume, Y. Amasaki, K. Mikoshiba, Nature 417, 295 (2002). I. Bosanac et al., Mol Cell 17, 193 (2005). A. Futatsugi et al., Science 309, 2232 (2005).
T. Higo et al., Cell 120, 85 (2005).
C. Hisatsune et al., Sci STKE 2005, pe53 (2005).
H. Ando et al., Mol Cell 22, 795 (2006). K. Shirakabe et al., Proc Natl Acad Sci U S A 103, 9542 (2006).
Y. Kuroda et al., Proc Natl Acad Sci U S A
105, 8643 (2008).
H. Akiyama et al., Sci Signal 2, ra34 (2009).
J. V. Gerasimenko et al., Proc Natl Acad Sci U S A 106, 10758 (2009).
D. R. Higazi et al., Mol Cell 33, 472 (2009). H. Kabayama et al., Mol Cell Neurosci 40, 27 (2009)