• 検索結果がありません。

高精度 5 軸加工技術マニュアル ( 改訂版 ) 平成 22 年 10 月 四国地域イノベーション創出協議会

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "高精度 5 軸加工技術マニュアル ( 改訂版 ) 平成 22 年 10 月 四国地域イノベーション創出協議会"

Copied!
121
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

高精度5軸加工技術マニュアル

(改訂版)

平成22年10月

(2)

目次

1章 緒言 1.1 製造業の課題と振興策 ··· 1 1.2 5軸加工技術の意義と課題 ··· 2 1.3 事業の実施体制と活動実績 ··· 3 1.4 マニュアルの構成と分担 ··· 5 2章 多軸加工とその精度評価 2.1 多軸制御工作機械 2.1.1 制御軸数と加工作業 ··· 8 2.1.2 多軸制御工作機械の種別と特長 ··· 9 2.1.3 5軸加工の特長 ··· 10 2.1.4 多軸加工工作機の動向 ··· 12 2.1.5 5軸加工工作機械の要素 ··· 13 2.1.6 NC 制御装置 ··· 15 2.2 多軸加工CAM 2.2.1 多軸加工 CAM の動向 ··· 17 2.2.2 CAM 作業の流れ ··· 18 2.2.3 多軸 CAM 加工手順 ··· 19 2.2.4 多軸 CAM での加工方法・加工条件設定 ··· 21 2.2.5 多軸 CAM での加工シミュレーション ··· 23 2.2.6 多軸加工での問題点・注意点 ··· 24 2.3 加工精度の評価 2.3.1 三次元測定機 ··· 27 2.3.2 表面粗さ測定と輪郭形状測定 ··· 28 3章 5軸加工機による加工事例と留意点(*) 3.1 割り出し加工を中心とした加工 3.1.1 加工モデルと加工方法 ··· 31 3.1.2 3軸加工 ··· 41 3.1.3 5軸加工(事例1) ··· 47 3.1.4 5軸加工(事例2) ··· 54 3.1.5 3次元測定による加工精度検証 ··· 58 3.1.6 3軸加工と5軸加工の比較(三次元粗さ、輪郭形状) ··· 61 3.1.7 3軸加工と5軸加工の比較(表面粗さ) ··· 77 3.1.8 まとめ ··· 82 3.2 同時5軸を中心とした加工 3.2.1 加工モデルと加工方法 ··· 86 3.2.2 多軸粗加工 ··· 90 3.2.3 多軸仕上げ加工 ··· 96

(3)

3.2.4 3次元測定とCADデータ照合による加工精度検証 ··· 104 3.2.5 まとめ ··· 115 4章 加工データ ··· 118 4.1 穴加工 4.1.1 微細ドリルによる難削材加工 ··· 120 4.1.2 SUS304、SUS440C、SUS630 の穴あけ加工 ··· 126 4.1.3 SUS304、SUS316 のドリル穴あけ加工 ··· 129 4.1.4 SUS410、SUS420J2、SUS430、SUS440C のドリル穴あけ加工 135 4.1.5 純チタン及びチタン合金(Ti-6Al-4V)のドリル加工 ··· 141 4.2 フラットエンドミル加工 4.2.1 SKD11 焼き入れ鋼のエンドミル切削 ··· 146 4.2.2 オーステナイト系ステンレス鋼 SUS304 のエンドミル切削 · 151 4.2.3 SUS316 および SKD61 のエンドミル切削 ··· 155 4.2.4 SUS304 および SUS440C のエンドミル切削 ··· 162 4.3 ボールエンドミル加工 4.3.1 冷間工具鋼 SKD11、高速度工具鋼 SKH51 のボールエンドミ ル切削 ··· 168 4.3.2 超耐熱合金(インコネル 600、インコネル 718)およびステ ンレス鋼(SUS304、SUS440C、SUS430、SUS630)のボールエ ンドミル切削 ··· 172 4.4 旋削加工 4.4.1 ステンレス鋼の旋削加工 ··· 177 4.4.2 難削材(インコネル、SKD)の旋削加工 ··· 182 4.5 研削加工 4.5.1 難削材の研削加工 ··· 184 4.6 特殊加工 4.6.1 レーザ焼入れ ··· 192 5章 結言 ··· 197 (*) この Web 版では、要約のみを掲載しています。詳細については最終ページに 記載の問い合わせ先までご連絡下さい。

(4)

第1章 緒言

(5)

1. 緒言 高精度5軸加工技術マニュアル(以下、「本マニュアル」と略す)は、四国地域でイノ ベーションが創出され、産業の新たな発展が始まることを目的として、研究開発を実施す る際に必要となる資源(人、ノウハウ、研究設備等)の共通インフラを整備する事業(「四 国地域イノベーション創出共同体形成事業」、以下「共同体事業」と略す)の一貫として作 成されたものである。この事業は「研究開発環境支援事業」(以下、「本事業」と略す)と 呼ばれていて、「共同体事業」を構成する三つの事業の一つである。その対象として、複雑 な3次元自由曲面の加工も可能な5軸加工技術を取り上げた。その背景、実施体制、本マ ニュアルの概略について以下でまず説明する。 1.1 製造業の課題と振興策 四国地域の産業構造を見ると、非鉄金属、化学などの素材産業の割合が高く、これに対 して加工組立産業は未発達である。この両産業の間に素材を加工して様々な部品・中間製 品を製造する素形材産業が位置している。これら素形材産業は、四国地域では大都市圏と 比較すれば少ないが、企業数としてかなりのウェイトを占めている。素形材企業のほとん どは四国に限らず中小企業で、二次の下請けに位置するなど、経営基盤は弱い。また伝統 的に技能に依存するところも多く、いわゆる3K 職場で若い人材が少ない。しかし、これ らの産業なくしては日本の製造業が成り立たず、この意味から「サポーティング・インダ ストリィー」と呼ばれることもある。また、元請けと下請けとの取引だけでなく、下請け 間でも様々な形で取引があるなど、取引の網が幾重にも形成されていることにより、雇用 の点で地域社会に大きく寄与している。 近年、加工組立産業が国際展開に伴い工場を海外に移転したことから、素形材企業の一 部も海外へ移転し、一方で国内に残った企業に仕事がないという、いわゆる空洞化の問題 が発生した。労働者の人件費に関して大きな内外格差が存在すること、素形材産業がどち らかというと労働集約型産業であることを考えると、この流れはそう簡単には変わらない だろう。また、団塊世代の技術者や熟練技能者が大量に退職する時期を迎えて、これまで 蓄積された貴重な技術や技能が正しく伝承されるか危惧されている。いわゆる2007年 問題である。今後の産業振興に当たっては、これらの課題に如何に対処するか十分に考慮 しなくてはならない。 熟成した産業が海外へ移転することが避けられない流れとしたら、一つの対応策は海外 では生産できない部品・中間製品を製造することである。加工に高度な技術・技能が要求 される高度部材の生産はその一例である。高度部材が生産できることは、製品の品質に対 する信頼性の獲得や企業のブランドイメージの向上につながり、引いては高度部材と汎用 部材の一括発注につながることもあると聞く。他の例として発注元との頻繁な打合せや度 重なる試作が必要な部品の生産が上げられる。これらは「摺り合わせ」型産業とも呼ばれ、 日本製品に対する高い信頼性の元となっている。摺り合わせ型産業は地域に企業群を形成 しやすいことから、地域の視点からも重要な産業と言える。 もう一つの対応策は、IT 技術を使って生産効率を上げることである。技能を技術化し、 さらに IT 技術を駆使して自動化することにより、価格競争力を高めることができる。自 動化、機械化も日本が得意な技術分野である。素形材産業で技能の占める重要性と、20

(6)

07年問題を考えた時、IT 化が技能伝承問題への一つの答えとなることが期待できる。若 い人材はコンピュータなどに対する抵抗感が少なく、IT 技術を受け入れやすいと言う点も 好都合である。 1.2 5軸加工技術の意義と課題 本事業でマニュアルの対象を5軸加工技術としたのは、前記の産業振興策と適合する一 つの典型例と考えられるからである。また、それは四国地域の産業クラスター事業(「四国 テクノブリッジ計画」)の一つの対象分野である「ものづくり分野」を牽引することができ る技術でもある。そこでは、機械加工技術に IT 技術が融合されることにより、高度な機 械加工を自動的に行うことができる。将来に向けて大きな発展が期待されている。 その5軸加工技術についての詳細は2章以下に譲るが、ここでは本事業との関連を説明 するに当たって必要な範囲内で説明する。専門家の方は以下を適当に読み飛ばしていただ きたい。 「5軸加工」とは専門外の方には聞き慣れない用語である。素形材産業で行われる(素 材)加工には、機械加工、鋳造、鍛造、金属プレス、めっき、熱処理、溶接、放電加工、 レーザ加工、ウォータジェット加工などがあり、さらに機械加工には、切削加工、研削加 工、研磨加工が含まれる。機械加工では、工作物と工具の相対的な位置や傾きをコントロ ールすることにより目的の形状に工作物を加工する。そのコントロールできる自由度を5 つ持つ機械加工を5軸加工と呼んでいる。上記の定義からは切削加工に限定されるもので はないが、通常「5軸加工」は5軸切削加工を言う。さらに、切削加工には、旋盤のよう に工作物を回転させ、そこに工具を移動・侵入させて加工する旋削、工具を回転させて、 かつ軸方向に工作物へ送る穴あけ、また、工具を回転させるが、回転軸と直角方向に工具 を送って面を切り出すミーリング(またはフライス加工)などがある。本マニュアルで「マ シニングセンター」なる用語も出てくるが、これは工作物を一旦取り付ければ、ミーリン グ、穴あけなどを、工具を自動で交換して行うことができる工作機械を言う。マシニング センターは、通常は自由度が3つ、すなわち3軸マシニングセンターであるが、その自由 度を2つ増して、3次元自由曲面の加工を可能としたものが、「5軸マシニングセンター」 である。 昨今の機械加工では通常、工具や工作物移動をプログラムで制御して工作物を加工する。 加工プログラムは工作物や工具の位置や移動方法を数値で表示し、機械本体へ命令する。 この点を強調して、このような工作機械を「数値制御(NC:Numerical Control)工作機 械」と呼ぶこともあり、加工プログラムを NC データ、加工方法を NC データに変換して 機械本体へ送る装置を NC 装置と言う。簡単な機械加工では、工作機械の操作盤で加工の 指示を与えれば、NC 装置が NC データに変換して、本体に命令する。しかし、複雑な形 状への加工は操作盤からの指示では不可能で、別途何らかの方法で NC データを直接生成

しなければならない。この機能を担うものが「CAM」(Computer Aided Manufacturing)

と 呼 ば れ る も の で 、 一 種 の ソ フ ト ウ ェ ア で あ る 。 加 工 後 の 目 標 形 状 デ ー タ が 「CAD」

(Computer Aided Design)により数値的に与えられたら、それを NC 工作機械が理解で

きる NC データに変換するのが CAM の役割である。CAD のデータが工作機械に依存しな

(7)

逆に言えばCAM は工作機械ごとに必要とされるもの(工作機械の仕様の一部)と言える。 また両者を結びつければ、加工する製品の設計から製造までを、IT 技術で統合的に運用で きる利点を強調するため、「CAD/CAM」と呼ばれることもある。5軸マシニングセンタ ーで、複雑形状の加工を行う時には、CAD/CAM との連携は必須である。 さて、5軸マシニングセンターとCAD/CAM があれば、自動的に切削加工ができ、設 計通りの形状の製品ができるであろうか?答えは否である。それは工作機械や工具の剛性 が無限には大きくなく、加工の途中で機械本体の変形や工具の歪みが生じて、工具の切削 位置が NC データの通りにはならないことによる。3軸から5軸へと加工の自由度が増す に応じて工作機械の剛性は一般に低下する傾向があることから、この課題は重要である。 また、工作物や工具の硬度、工具の回転数、移動経路(加工パス)、移動速度等の加工条件 によっては、工具の振動が加工面の表面粗さを大きくして製品の品質を低下させることも ある。さらに、5軸マシニングセンターでは加工パスが自由にとれることから、時に工具 と工作物や治具とが切削すべき位置以外で接触するという、いわゆる「工具干渉」が発生 することがある。工具干渉が起こると工作物を破損するばかりでなく、場合によっては工 作機械を壊してしまうので、これはなんとしても避けなければならない。これらの課題に 対する指針となるものを与えることを本マニュアルでは目的としている。 1.3 事業の実施体制と活動実績 本マニュアルの作成は産業技術総合研究所(以下、「産総研」と略す)四国センターが中 心となり、香川県産業技術センター、徳島県立工業技術センター、愛媛県産業技術研究所、 高知県工業技術センター、産総研つくばセンター、及び中国センターの研究員が参画した。 (表 1.3-1)また、マニュアルの構成、内容に関する協議等の活動は素材加工分科会、四 国5軸加工技術研究会を組織して進めた。さらに、マニュアル作成に必要な設備として、 5軸マシニングセンターと高精度三次元測定機を香川県産業技術センターに、CNC輪郭 形状測定機を高知県工業技術センターに設置して、これらの設備を各参加機関の研究員が 相互に利用することにより、マニュアル作成に必要なデータを収集した。 表1.3-1 高精度5軸加工技術マニュアル作成事業への参画機関と参画者 産業技術総合研究所 和田英男(*、四国センター) 大谷敏昭(中国センター) 内海明博(四国センター) 尾崎浩一(つくばセンター) 香川県産業技術センター 佃 昭(*) 熱田俊文 竹中慎 高原茂幸 宮内創 徳島県立工業技術 センター 小川仁(*) 平岡忠志 愛媛県産業技術研究所 藤本俊二(*) 高知県工業技術センター 村井正徳(*) 山本浩 (*)各機関の分担責任者

(8)

素材加工分科会では、表 1.3-1 の参画者を中心に、本マニュアル作成方針の立案・策定、 及び当該技術分野の動向調査(JIMTOF2008)、専門家との意見交換を行った。なお、分 科会の委員長は産総研四国センターの和田、副委員長は香川県産業技術センターの佃、お よび四国産業・技術振興センター(以下、「STEP」と略す)の白石である。またマニュア ル作成の見通しがついた段階で、各参加機関の次長クラスの方にも参加いただき、今後の マニュアル普及について意見交換を行なった。分科会の活動記録を表 1.3-2 に示す。 表1.3-2 素材加工分科会の活動記録 年月日 会議名 開催場所 主な議題 2008 年 8 月 20 日 分科会準備会 産総研四国 センター 運営方針、実施課題とスケジュール 9 月 26 日 第1回分科会 産総研四国 センター 各機関実施計画、設備調達状況、企業ヒ アリング 10 月 29 日 第 2 回分科会 産総研四国 センター 企業ヒアリングのまとめと加工モデルの 了承 11 月 21 日 第 3 回分科会 徳 島 県 立 工 業 技術センター JIMTOF 調査のまとめ、升田雅博氏(徳 島大学)の講演と意見交換、設備見学 12 月 22 日 第 4 回分科会 愛媛県産業 技術研究所 竹内芳美氏(大阪大学)の講演と5軸加 工技術に関する自由討議、設備見学 2009 年 1 月 22 日 第 5 回分科会 高知県工業 技術センター 設備見学、マニュアルの構成に関する協 議 2 月 23 日 第 6 回分科会 香川県産業 技術センター マニュアルイメージの確認、本事業の今 後について、設備見学 3 月 19 日 第 7 回分科会 香川県産業 技術センター 市場・技術動向調査の報告、マニュアル の試用、改訂協議 四国5軸加工技術研究会は、やはり表 1.3-1 の参画者を中心に、大学関係者や企業のメ ンバーも含めて構成した。研究会の委員長は産総研四国センターの和田である。この研究 会の主な目的は、本マニュアルが企業に実際に役立つものとなるよう、5軸加工に関する 企業のニーズを調査すること、またそれを踏まえてマニュアルの内容を詳細に検討するこ とである。今後は、本マニュアルの企業への普及を計るとともに、その過程で得られた知 見を元に本マニュアルの改訂を行なうこととしている。四国5軸加工技術研究会の活動記 録を表 1.3-3 に示す。 表1.3-3 四国5軸加工技術研究会の活動記録 年月日 会議名 開催場所 主な議題等 2008 年 8 月 20 日 研 究 会 設 立 準備会、設立 総会 産総研四国 センター 規約・役員の承認、5軸加工に関する講 演会

(9)

9 月 26 日 第2 回研究会 産総研四国 センター 企業情報の取り扱いについて 10 月 29 日 第 3 回研究会 産総研四国 センター 加工モデルについて協議 12 月 22 日 第 4 回研究会 愛媛県産業 技術研究所 研究会活動実績の作成 2009 年 1 月 22 日 第5 回研究会 高知県工業 技術センター 研究会活動実績について 2 月 23 日 第6 回研究会 香川県産業 技術センター 5軸加工における課題について意見交換 3 月 19 日 第7 回研究会 香川県産業 技術センター 研究会活動報告、次年度活動について また四国5軸加工技術研究会では、2008 年 5 月から、2009 年 3 月にかけて、各公設試 のメンバーが四国各県の企業を(延べ 61 回)訪問して、5軸加工を含めた加工技術に関 する技術ニーズ等を収集し、分析した。その結果は 2008 年 10 月 29 日に決定された加工 モデル(工作物の形状モデル)に反映されている。 1.4 マニュアルの構成と分担 本マニュアルは5章で構成されている。 第1章では、製造業の課題と振興策、5軸加工技術の意義と課題、本事業の実施体制と 活動実績、及びマニュアルの構成と分担について述べた。 第2章では、多軸加工に必要な技術要素である工作機械、CAM、3次元計測評価、シ ミュレーション、ツーリング、取り付け治具等について詳しく解説した。 第3章では、立形5軸マシニングセンターによる具体的な5軸加工事例を示した。さら にその加工事例を基に、多軸加工のメリットと留意点について詳しく述べた。 多軸加工には、①加工パスの最適化、②工具および工具ホルダーと工作物、ジグ干渉問 題の検証方法、③加工部材の最適3次元形状測定方法と加工精度の検証、等の課題がある。 本章では、これらの課題に対して加工事例を基に検証を行い、課題解決に向けた指針を示 した。 第4章では、多軸加工時に必要となる、新素材・難削材の加工および微細加工に関する 加工事例を示し、加工技術データベースとした。 第5章では、本マニュアル作成のまとめを行った。 なお、本マニュアル作成の分担は表 1.4-1 の通りである。

(10)

表1.4-1 マニュアル作成の分担 1章 緒言 ···産総研 2章 多軸加工とその精度評価 2.1 多軸制御工作機械 ···香川 2.2 多軸加工CAM ···香川 2.3 加工精度の評価 ···高知 3章 5軸加工機による加工事例と留意点 3.1 割り出し加工を中心とした加工 3.1.1 加工モデルと加工方法 ···香川 3.1.2 3軸加工 ···香川 3.1.3 5軸加工(事例1) ···香川 3.1.4 5軸加工(事例2) ···高知 3.1.5 3次元測定による加工精度検証 ···香川 3.1.6 3軸加工と5軸加工の比較(三次元粗さ、輪郭形状) ···高知 3.1.7 3軸加工と5軸加工の比較(表面粗さ) ···愛媛、香川 3.1.8 まとめ ···香川、高知 3.2 同時5軸を中心とした加工 ···香川 4章 加工データ ···産総研、香川 4.1 穴加工 4.1.1 微細ドリルによる難削材加工 ···徳島 4.1.2 SUS304、SUS440C、SUS630 の穴あけ加工 ···香川 4.1.3 SUS304、SUS316 のドリル穴あけ加工 ···徳島 4.1.4 SUS410、SUS420J2、SUS430、SUS440C のドリル穴あけ加工 ···徳島 4.1.5 純チタン及びチタン合金(Ti-6Al-4V)のドリル加工 ···高知 4.2 フラットエンドミル加工 4.2.1 SKD11 焼き入れ鋼のエンドミル切削 ···香川 4.2.2 オーステナイト系ステンレス鋼 SUS304 のエンドミル切削 ···徳島 4.2.3 SUS316 および SKD61 のエンドミル切削 ···香川 4.2.4 SUS304 および SUS440C のエンドミル切削 ···香川 4.3 ボールエンドミル加工 4.3.1 冷間工具鋼 SKD11、高速度工具鋼 SKH51 のボールエンドミル 切削 ···香川、愛媛 4.3.2 超耐熱合金(インコネル 600、インコネル 718)およびステン レス鋼(SUS304、SUS440C、SUS430、SUS630)のボールエンドミ ル切削 ···香川

(11)

4.4 旋削加工 4.4.1 ステンレス鋼の旋削加工 ··· 香川 4.4.2 難削材(インコネル、SKD)の旋削加工 ··· 愛媛 4.5 研削加工 4.5.1 難削材の研削加工 ··· 香川 4.6 特殊加工 4.6.1 レーザ焼入れ ··· 香川 5章 結言 ··· 産総研 なお、各略記の意味は以下の通りである。 産総研: (独)産業技術総合研究所 香川: 香川県産業技術センター 徳島: 徳島県立工業技術センター 愛媛: 愛媛県産業技術研究所 高知: 高知県工業技術センター

(12)

第2章 多軸加工とその精度評価

(13)

2. 多軸加工とその精度評価 多軸加工には、多軸制御工作機械、ツーリング・ジグ技術、多軸加工 CAM 技術(CAD/CAM)、 NC 制御技術、シミュレーション技術、加工精度の評価技術、等の技術要素が必要である。 本章では、これらのうち、特に重要な要素技術として、多軸加工工作機械、多軸加工 CAM 技術、加工精度の評価を取り上げ、その基本的な考え方をわかりやすく解説した。 2.1 多軸制御工作機械 5軸加工に代表される多軸加工が可能な工作機械は、本事業において使用した立形5軸 制御マシニングセンターをはじめ、種々のタイプの工作機械があり、それぞれ特長を生か した使い分けがなされている。本章では、まず、これら多軸制御工作機械の特長と多軸加 工の特長について概説する。 2.1.1 制御軸数と加工作業 近年の機械加工現場では、NC 工作機を用いた加工の自動化・省力化が進んでいる。こ のNC 工作機を用いた機械加工は、その制御軸数で整理することができる。このうち従来 作業に分類できる機械加工には、直交3軸を用いた1~3軸加工が多い。以下に、制御軸 数と代表的な加工法を列記する。 ・1軸制御:穴あけ加工、突切り加工(旋削)、他 ・2軸制御:外周旋削(旋盤)、平面加工(フライス切削、平面研削)、側面切削 (エンドミル加工)、他 ・3軸制御:3次元切削(マシニングセンター等 NC 工作機)、他 これらの加工において、制御軸数が増加するとともに、これらの加工プログラムは複雑

なものとなり、対話型の NC 装置や CAM(Computer aided manufacturing)による支援

を必要となる。また、制御軸数が増えるほど、複雑形状の加工が可能となり、加工の高付 加価値化に繋がる。一方、本事業で取り上げた多軸加工は、5軸加工を代表とした新しい 加工法で、直交3軸に加えて、これらの直線軸を回転軸として1~3軸の回転軸を加えた 4軸制御、5軸制御、(6軸制御)がある。 ・4軸、5軸制御:複合加工、割り出し加工(マシニングセンター+割り出し) 割り出し5軸加工・同時5軸加工(5軸加工機、複合加工機) ・6軸:非回転工具による3次元切削等 4軸加工では、ロール形状金型などの回転体表面の3次元加工等が可能であり、5軸加 工では、インペラーに代表される複雑形状の3次元加工が可能となる。 多軸加工機には、本事業で用いる5軸制御マシニングセンターのように同時多軸制御加 工が可能なタイプの工作機と、3軸加工機に旋回テーブルを付加したような同時多軸制御 加工が困難なタイプの工作機(割り出し多軸加工は可能)があるが、本章では、同時多軸 制御が可能な工作機を取り扱うこととする。

(14)

2.1.2 多軸制御工作機械の種別と特長 本項では、多軸制御が可能な工作機械として、5軸制御マシニングセンター、複合加工 機を取り上げ、それぞれの特徴について概説する。 (1) 5軸制御マシニングセンター マシニングセンターベースの多軸制御工作機であり、制御軸としては、通常の直交3軸 に加えて、これら直線軸を旋回軸(回転軸)とした軸を2軸加えた5軸である。旋回軸の 配置により、次の3タイプに分類できる(図2.1.2-1)[1]。 ①テーブル(工作物)側2軸 ②テーブル(工作物)側1軸、主軸頭(工具)側1軸 ③主軸頭(工具)側2軸 テーブル側2軸のタイプは、工作機の剛性・精度が比較的高く、金型加工など高精度加 工に適した軸配置である。しかし、工作物が旋回するので大物の工作物の加工は困難であ る。一方、主軸頭側2軸のタイプは、主軸頭側が旋回するので、精度面では不利であるが、 大物の加工が比較的容易なため、航空機部品の加工用等、大型の5軸制御マシニングセン ターに採用されている。 また、マシニングセンターは、主軸の配置により、立形と横型に分類できるが、5軸加 工機においても、それぞれの特長を生かして使用されている。すなわち、立形5軸制御マ シニングセンターは、横型と比較すると高精度加工が可能であり、金型加工などの加工に 適している。一方、横型は、立形と比較すると加工精度が劣るが、量産加工に適しており、 パレットチェンジャーと組み合わせて、無人化運転も可能である。 立形タイプの旋回軸については、一部の機種では、ダイレクトドライブモータの採用に より高速化が可能となり、C 軸においては回転速度が 1000min-1 を超える機種もあり、C 軸を利用した旋削加工の複合加工化を可能にしている。 図2.1.2-1 5軸マシニングセンターの軸構成による分類[1]

(15)

(2)複合加工機 NC 旋盤やターニングセンターをベースとした旋盤系の複合工作機である。割り出し加 工をメインとした部材加工に適しており、バー材供給による自動化が容易であり、量産品 の加工に向いている。四国地域の企業における導入も見受けられるが、割り出し加工によ る部材加工が主であり、同時5軸での利用はこれからの課題のようである。 ターニングセンターの X、Y、Z、C の4軸に加えて、本格的なミーリング主軸頭にもなる B 軸旋機能をもつ刃物台を装備した構造形態が一般的である。 2.1.3 5軸加工の特長 5軸加工は、割り出し5軸加工と同時5軸制御加工に大別される。 (1)割り出し5軸加工と同時5軸制御加工 (1-1)割り出し5軸加工 旋回2軸を用いて工作物を傾斜させ、加工に必要な角度を割り出した後、残りの直交3 軸を用いて切削加工する。ワンチャッキングによる多面加工である。段取り換えなどの工 程が集約され能率が改善されるとともに、治具の簡素化も可能である。エンジン部材など 割り出す角度が多い場合には、特に効果的である。また、治具レス加工も可能であり、高 能率加工化が期待できる。 さらに、1回の取り付けで複数工程の加工が可能となるため、取り付け誤差要因が低減 し、製品寸法精度が向上する。これらのことから、高精度化・高付加価値化も可能と考え られる。図2.1.3-1に割り出し5軸加工の模式図[2]を示す。 図2.1.3-1 割り出し5軸加工[2] (1-2) 同時5軸制御加工 同時5軸制御加工は、直交3軸に加えて旋回軸の2軸も同時に制御する加工法であり、 従来、加工が困難であった難加工形状の加工が可能となる。同時5軸制御加工の適用によ り、インペラー、ブリスク、ブレード等の航空機部品、曲面を有した精密金型、人工関節 等の高精度加工が可能となる。また、従来の3軸加工でも加工可能な形状の部材加工にお いても、同時5軸制御によるスワーフ加工等の適用により、大幅な加工精度および能率の

(16)

向上が期待できる場合もある。今後、5軸制御工作機および5軸加工用 CAM の普及・発 展により、同時5軸制御加工の適用例が急増すると予想される。 (2)深彫り加工における工具突き出し長さの短縮 金型のリブ加工など、加工部材によっては、立ち壁の壁面や底部の加工など深彫り加工 が必要な場合がある(図2.1.3-2)[3]。このような加工において、5軸加工は大 変有利である。この場合、3軸加工であれば、ロングエンドミルなど工具長の長い工具を 用いて加工するか、治具を用いて工作物の段取りをやり直す必要がある。また、場合によ っては放電加工等、切削以外の加工方法を適用しなければならない場合がある。このよう な加工に5軸加工を適用すると、新たな治具を用いる必要がないため、工程が短縮され、 再クランプによる加工精度の劣化も抑えることができる。また、短い工具・ツールホルダ ーでの加工が可能となるため、工具・主軸系の剛性の向上し、工具の振れも減少するため、 加工精度の向上が期待できる。 図2.1.3-2 深堀り加工(立ち壁加工)における3軸と5軸加工の違い[3] (3)ボールエンドミルによる3次元形状の高品位加工 曲面や傾斜面などの3次元形状の加工では、ボールエンドミルを用いた加工形態となる 場合が多い。これらの加工において、加工面の傾きが小さいカ所の加工は、3軸加の場合、 工具の先端(中心)近傍での加工となる。回転工具の工具中心の切削速度はゼロであるた め、その切削性能は外径近傍より劣り、実際の加工においては、加工面にはむしれ等が発 生し、加工面品位、加工精度ともに劣化する。 一方、5軸加工の場合、旋回軸を用いて被削材と工具との相対位置を傾斜させることが 可能であるので、このような加工においても、ボールエンドミルの中心部を避け、十分な 切削性能が期待できる工具外径近傍での加工が可能となり、高品位な加工面が得られる。 図2.1.3-3に5軸加工時の加工面品位の模式図[4]を示す。

(17)

図2.1.3-3 5軸加工による加工面品位の向上[4] (4)複合加工化 前述のとおり、5軸制御マシニングセンターによるミーリング加工とターニング加工の 複合加工化や、5軸複合加工機によるターニング加工とミーリング加工の複合加工化の他、 研削加工の複合化、レーザー加工やウォータジェット加工の複合化等も検討が進んでおり、 これら加工の複合化により、更なる工程集約が期待される。 2.1.4 多軸加工工作機の動向 (1)JIMTOF2008(第 24 回日本国際工作機見本市) 多 軸 加 工 を 中 心 と し た 工 作 機 械 ・ 精 密 加 工 技 術 ・ 計 測 技 術 の 調 査 を 目 的 と し て JIMTOF2008 の視察を実施した。JIMTOF は、2 年に一度開催される国際的な工作機見本 市で、世界の三大工作機展示会の一つである。(他の二つは、アメリカ(シカゴ)とヨーロ ッパで開催。)今回の見本市は、東京ビッグサイト(東京都江東区)において、平成20 年 10 月 30 日から 11 月 4 日までの6日間の会期で開催された。本見本市は、開催規模:47,079 ㎡、出展者数:571 社(内部出展者込みで 851 社)、5,231 小間と大規模な展示会であり、 6 日間の開催期間中、延べ 169,381 名もの来場者が記録された。 この JIMTOF では、マシニングセンター、ターニングセンター、研削盤、放電加工機、 レーザー加工機、プレス機などの工作機械や精密測定機器、治具・周辺機器、CAD/CAM など幅広い分野の出展が見られた。これらの中でも、5軸加工・多軸加工関係の工作機械、 測定機器、CAD/CAM が、数多く出展され注目されていた。マシニングセンターのうち、 5軸加工対応機種の占める割合は、2000 年では 8%であったものが、前回の 2006 年には 34%となり、今回では 50%以上を占めているように感じられた。また、5軸加工機の中で も、高精度加工に適している立形5軸制御マシニングセンターの新製品が意欲的に出展さ れており注目を集めていた。 (2)多軸加工の用途 従来、5軸加工といえば航空機産業とのイメージが強かったが、現在、精密金型、自動 車部品、半導体製造用部材等、幅広い分野への適用が進んでいる。ここで前述の割り出し

(18)

5軸加工は、従来加工品においても工程集約による高能率化が期待できる加工法であるた め、今後、用途はさらに広がるものと期待される。この用途拡大のためには次節で詳細に 述べる5軸 CAM 技術の発展・普及が必要不可欠である。特に、同時5軸制御加工では、 CAM の利用無くして加工はほぼ不可能であり、平易および高度な5軸 CAM 利用技術の普 及が必要である。 (3) 四国地域における多軸加工の適用分野 本事業の対象である四国地域のおける多軸加工の普及を考えた場合、現状においては、 航空機産業、自動車産業の集積は少ない。他の地域に先がけて多軸加工を地域の特長技術 として確立すれば、これらの産業分野の受注を増加させることが可能と考えられる。特に ボーイング787 の国内生産で注目されている航空機産業は、全国的に期待されており、新 規参入が期待されている。 しかし、四国における5軸加工の適用分野は、むしろ、既存の精密機械部品等の部材加 工や精密金型が主であると考えられる。これらの加工に、割り出し5軸加工を主とした加 工の多軸加工化を図り、工程集約による高能率化を実現することが期待されている。また、 同時5軸制御加工技術の確立により、インペラー等の難加工形状部材分野の新規市場開拓 も期待されている。 2.1.5 5軸加工工作機械の要素 (1)加工の高速化 近年、高速ミーリング等、加工の高速化が進んでいる。5軸加工機においては、直線軸 へのリニアモータ、旋回軸へのダイレクトドライブモータ等の採用により、高速化・高加 速度化が進んでいる。また、立形5軸制御マシニングセンターにおける C 軸へのダイレク トドライブモータの採用は、C 軸の高速回転を可能とし、ミーリングの高速化のみならず、 旋削加工を可能とした。ただし、ダイレクトドライブモータの採用は、従来の減速機等を 用いた旋回と比較すると、発熱の問題や割り出し精度不足を指摘する意見もある。しかし、 これらの問題は解決しつつあるようである。 (2)工具、ツーリング (2-1)ラジアスエンドミルによる高速加工 ラジアスエンドミルは、フラットエンドミルのコーナ部に R および面取りを施して、コ ーナのチッピングや欠損の発生を低減させた工具である。ボールエンドミルと異なり、工 具外周部近傍を用いた加工となるため、十分な切削速度を確保できる。平坦部の加工では、 ピックフィード量を多く取れ、削り残し量も少ない。また、傾斜面や曲面の加工ではボー ルエンドミルと比較して送り速度を高めることで高能率加工が可能となる。高速ミーリン グにおいては、積極的に利用されている工具であり、5軸加工時の粗加工用工具として多 用されている。図2.1.5-1にラジアスエンドミルの特長を示す[5]。

(19)

図2.1.5-1 ラジアスエンドミルの特長[5] (2-2)焼きばめホルダー 工具ホルダーには、従来のコレットホルダータイプと焼ばめホルダータイプがある。5 軸加工の場合、工具が種々の角度から工作物にアプローチするため、工作物・治具と工具・ ホルダー間に干渉問題が発生する場合が多い。焼ばめホルダーの場合、コレットホルダー よりチャック部の径が小さく、この干渉問題に対して有利な場合が多い。また、工具の把 握力やチャック時の振れ精度、最高使用回転数においても、焼ばめホルダーの方がコレッ トホルダーより優れている。このため、5軸加工時には、工具のセッティングに時間を要 するものの、焼ばめホルダーの適用が望まし場合が多い。図2.1.5-2に焼きばめホ ルダーの特長[6]を示す。 図2.1.5-2 焼ばめホルダーとコレットチャック[6] (3)治具、バイス 5軸加工の場合、工作物は底面以外の種々の角度から加工できる様にクランプすること が望ましく、旋回軸が回転したときの工作機械等との干渉にも注意を払う必要がある。ま た、クランプ力は、十分に確保する必要がある。さらに、できるだけ旋回軸中心付近でク ランプする方が加工精度、加工領域の確保等に有利である。これらのことを満足するよう

(20)

な、固定治具を準備する必要がある。なお、旋回軸中心に工作物がクランプできるような 5軸加工用パイスも考案され、市販されているようである。 2.1.6 NC制御装置 (1)工具先端点制御 同時5軸制御指令を行う場合に、工具先端点制御を適用すると、これまで角度が大きく 変化し微小線分で指令しなくてはならなかった形状も、工具先端での経路を直線補間、円 弧補間などの3軸直行軸と同様な考え方でプログラムを作成することができる。このとき、 指令点の移動速度を一定に保つことも可能となる。工具先端点制御では、このように指令 経路が工具先端点の動作になるように制御でき、また旋回軸を含む工具先端の動作を直接 指令できるため、プログラムが容易になる。さらに、工具先端点制御では、加工軌跡を切 削点でプログラム指令することにより、工具形状が、フラットエンドミル、ボールエンド ミルと異なっても、工具径補正、工具長補正を変更することにより、同一プログラムでの 加工が可能となる。図2.1.6-1に工具先端点制御の模式図[7]を示す。 図2.1.6-1 工具先端点制御[7] (2) 傾斜面加工指令 傾斜面加工指令は、傾いた平面上で比較的簡単に加工を行うための機能である。通常の XY 平面など単純な基準面でポケット加工や穴加工などのプログラムを作成し、実際の加

(21)

工面の傾きと位置を指定するだけで傾斜面での加工ができるようになる。指定された傾斜 面に自動的に座標が変換されるので、プログラムの作成が容易となり能率が改善される。 (参考文献) [1]工作機械の最新技術動向、日本工作機械工業会、11(2008).1 [2]松浦機械製作所ホームページ http://www.matsuura.co.jp/japan/5ax/tamen1.shtm (2010.9.8.再確認) [3]、[4]松浦機械製作所ホームページhttp://www.matsuura.co.jp/japan/news/2006mar/5axis.htm (2010.9.8.再確認) [5]三菱マテリアル工具カタログ [6]松岡、安斉:高速ミーリングの基礎と実践、日刊工業(2006),97 [7]竹内:多軸・複合切削加工、日刊工業(2008)114

(22)

2.2 多軸加工CAM

前節で説明のあった多軸加工工作機を利用するためには CAM(Computer Aided Manufacturing) の役割は非常に重要であり、CAM をうまく使いこなすことが多軸加工工作機導入の成否のカギ となる。一般的な CAM では加工を行う形状に応じて、2軸加工、2.5 軸加工、3軸加工、多軸 加工(4軸加工・5軸加工)の各システムを使い分けて加工データ(NC データ)の作成を行う。 本節では、多軸加工工作機の性能を活かす CAM システムである多軸加工 CAM について、その 特徴および課題ついて概説する。 2.2.1 多軸加工 CAM の動向 現在、CAM システムとして様々なシステムが市販されているが、そのほとんどが多軸加工の 機能を搭載している。その多軸加工機能を搭載したシステム選定において重要なのは、多軸加工 機の機能・性能を生かして目的とする加工結果が得られる加工パスを生成できるかどうかである。 そのために、どの CAM システムも加工形状から加工パスを生成するためのエンジン(カーネル) を搭載しており、このエンジンの機能により、選択できる加工手順や加工パスの善し悪しが決定 されることになる。よって、どのようなエンジンを搭載しているかによって CAM システムを大 別することができる。この観点から、多軸加工用 CAM システムの動向について述べる。 これまで各社独自にシステムに組み込むエンジン開発を行ってきていたが、最近の趨勢として、 3 軸から5軸までの CAM エンジンを提供している会社である ModuleWorks 社(独)(http:// www.moduleworks.com ) の エ ン ジ ン を 採 用 し て い る シ ス テ ム が 増 え て き て い る 。 こ の ModuleWorks 社のエンジンを採用している CAM システムとして、 ・ Mastercam ・ Cimatoron ・ edgecam ・ SolidCAM ・ GibbsCAM ・ WorkNC ・ VisualMill などがある。これらの CAM システムでは独自開発のエンジンを残しているシステムもあるが、 選択できる加工手順は同じものになっている。 また、現在でも独自にエンジンの開発を行っている CAM システムとして、 ・ hyperMILL ・ CATIA ・ UG (NX) ・ Pro/E ・ Tebis ・ PowerMill などがある。 このエンジンの違いによって、工具の干渉回避動作、加工時間、加工可能な形状などに影響し

(23)

てきる。また、多軸加工では専用モジュールというある形状の加工に特化したエンジンを用意し ている。インペラーやチューブなどはその代表的な形状である。 また多軸加工に限らず最近の CAM システムでは、加工モデル形状のデータとしてサーフェス およびソリッドデータだけでなくメッシュデータである STL データを読み込んで使用できるシ ステムが増えてきている。今後もこのようなシステムが増え、データの取り扱いが容易になると 考えられる。 このように、最近ではシステムによる違いが少なくなってきているのが現状であり、CAM シ ステム側から見ても以前のような多軸加工に対する敷居の高さは無くなってきているようであ る。 2.2.2 CAM 作業の流れ CAM を利用する目的は、NC 工作機で期待する形状、精度を持った製品・金型を加工するた めの加工データを簡便に生成することにある。その作業工程の流れを示す。 (1)加工形状データの作成 加工対象となる製品・金型の3次元形状モデルデータを3次元 CAD により作成する。そのデ ータを CAM で読み込めるようなデータ形式に変換する必要がある。(CAD 側と CAM 側の入出 力可能なデータ形式について確認する必要がある。一般的には IGES 形式、STEP 形式が用いら れることが多い。しかし完全なデータの受け渡しをするために、データを作成した3次元 CAD のネイティブデータが読み込めるようにするためのダイレクトトランスレータを用意する必要 がある場合がある。) (2)加工手順の選別 加工対象となる形状からその加工手順について検討する。また、使用するワークや治具につい ても決定する必要がある。ここでは使用する CAM で利用できる加工モジュールの中から選別す る必要があり、特に多軸加工 CAM の場合にはこれが大きな制約となる。 (3)加工方法・加工条件の決定 選別した加工手順に対して、使用する工具や軌跡のパターン、加工ピッチ、アプローチ方法な どの加工方法の決定を行う。また、工具の回転数や送り速度などの加工条件についても決定する。 CAM で行う作業として、この部分が非常に重要であり、加工結果に大きく影響を与える。特に 加工条件の決定は、ワークの材質や使用する工具により条件が変わってくるために、経験を要す る作業である。(最近では、加工条件を決定するためのデータベースの充実が図られており、本 マニュアルの第4章でも説明する。) (4)カッターパスの生成 決定した加工方法で加工パス(カッターパス)と呼ばれている CL データを生成する。これは 使用する CAM の内部データである。カッターパス生成時に工具(ホルダー、ヘッドを含む)と

(24)

ワークとの干渉についてチェックを行うことが可能な CAM もある。(ここでのチェックは非常 に簡易的なものであるが、3軸加工までであればこのチェックで十分である。) (5)干渉チェックの実行 生成された CL データを用いて干渉チェックを行う。ここで行う干渉チェックは、工具とワー クだけでなく、工作機およびワーク取り付け用の治具を含めた干渉チェックである。そのために、 工作機の3次元形状モデルおよび治具の3次元形状モデルが必要になる。多軸加工では、X、Y、 Z の移動軸に A、B、C の傾斜軸/回転軸が加わるために、工作機、治具、ワーク、工具の位置 関係が掴みづらいために、このチェックは必須である。特に回転軸が変化する場合には注意が必 要となる。ここで干渉が見つかれば、(2)もしくは (3)に戻り、治具の設計や加工方法につ いて再検討を行う必要がある。干渉がなければ、次の作業に移る。 (6)加工データの生成 すでに生成している CAM の内部データである CL データを加工データに変換する。この処理 は POST 処理とも呼ばれ、使用する工作機に合った加工データを出力する。 (7)加工データによるシミュレーションの実行 POST 処理によってアプローチまでの工作機の動きが決定され、工作機に依存する補正が加工 データに反映される。よって多軸加工の場合には、生成された加工データを用いた干渉チェック などのシミュレーションが必要な場合がある。この部分は一般的な CAM は機能として持ってお らず、専用のソフトウェアを用いて実行する必要がある。 (8)実加工の実行 生成した加工データを用いて、工作機で加工を行う。 ここで示したように、いくつかの作業工程を経る必要があるが、各工程で多軸加工特有の問題 点が存在する。それらの詳細については、2.2.6項で説明する。 2.2.3 多軸CAM加工手順 ここでは、市販の多軸加工 CAM システムで選択が可能な代表的な加工手順について説明する。 特に多軸加工の機能、つまり4軸、5軸を使った加工手順について取り上げる。以下に説明する 加工手順は、設定された加工条件に従って同時に5軸をスムーズに変化させながら加工パスを生 成するが、4軸固定といった制限も可能である。ここで、ワークと工具およびホルダーとの干渉 チェックし、その回避を考慮した加工パスを生成することが可能である。 ・5軸等高線仕上げ加工 Z レベルでの切削を行う加工手順であり、傾斜のある範囲に合わせて Z 切り込み量を設定すること で、必要以上の切り込みを回避でき、これにより最適な切削ピッチを維持した加工が可能である。

(25)

ポケット指定もしくは切削範囲を高さ指定・角度指定することで仕上げ加工を実行する。角度の ある傾斜面を仕上げるためのベースとなる加工手順である。(切削範囲を角度指定した加工をス ティープ加工と呼ぶ場合がある。) ・5軸走査線加工(面沿い加工・複合面加工) XY レベルでの切削を行う加工手順であり、複数面に渡る範囲に合わせて XY 切り込み量を設定し、 加工するサーフェスの流れに基づいたガイド曲線を使用することで、加工モデルに応じた加工が可能 である。加工するサーフェスや角度指定することで仕上げ加工を実行する。あまり角度のないフラッ トな面を仕上げるための加工手順である。 ・5軸ピッチ加工 3次元曲面に対して、Z レベルもしくは XY レベルでの切り込み量を決定するのではなく、3次元 での等間隔ピッチでの加工を実現するための加工手順である。ガイドカーブや面のフローを定義する ことで、そのラインを基準とした加工パスを生成する。キャビティの底面などの緩やかな曲面の仕上 げに適用可能である。 ・5軸削り残り部加工 仕上げ加工で削り残った隅の加工を行うための加工手順である。削り残りの部分は参照工具径を設 定することで自動計算される。参照工具径を加工する工具径よりも少し大きくすると、仕上がりは良 くなる。ペンシル加工と呼ばれてサーフェスの交線部分のみを仕上げる加工手順も隅を取る加工手順 としてある。 ・5軸エッジ加工 加工形状のエッジ部に対して倣い加工を行う加工手順である。工具のガイドとなるエッジを選択し、 高さとクリアランス角度を入力することで、アンダーカットがあるようなエッジ部の加工パスが生成 可能である。 ・5軸輪郭加工 加工するサーフェスに対して固定された方向から、指定したガイドカーブに沿った加工パスを生成 する加工手順である。溝加工、けがき加工、筋彫り加工などに適用可能である。 ・5軸ドリル加工 一度のオペレーションで複数の斜め穴に対する穴あけ加工を行うための加工手順である。自動で穴 形状の認識を行ってくれるフィーチャー機能を持つシステムもある。 ・5軸スワーフ加工(ローリング加工) 工具の側面を使った加工手順であり、工具の刃長を有効に活用した加工が実現できる。一度で深い 立ち壁の加工が可能であるため、加工時間の短縮や加工面の仕上がり品質の向上が期待できる。金型

(26)

部品のテーパー付き立ち壁の加工などに適用可能である。 また、2.2.1項でも触れたように、多軸加工 CAM システムでは、加工する形状に特化した専 用モジュールを用意している場合が多い。以下に代表的な専用モジュールについて概略を説明する。 ・マルチブレードモジュール インペラーのような複数のブレードを持つ形状のモデルの加工に特化したモジュールである。ブレ ード間の荒加工やブレード面の仕上げ、ハブ面の仕上げ、ブレードのエッジ部分の仕上げ、ブレード の付け根の仕上げに対応した加工手順を用意している。 ・チューブモジュール(5軸ポート加工) エンジンの吸排気口などのパイプ形状のモデルの加工に特化したモジュールである。チューブ内の 荒加工やチューブ内面の仕上げ、削り残し部加工に対応した加工手順を用意している。 ・タイヤモジュール タイヤ金型の加工に特化したモジュールである。タイヤパターンの繰り返しの加工を効率良く加工 するための加工手順を用意している。 ここで説明した加工手順以外の加工パス生成手法として、3軸加工の加工手順を用いて生成し た加工パスに対して、角度変換パターンなど変換条件を指定することで、干渉回避を考慮した多 軸加工の加工パスに変換することも可能である。(投影加工と呼んでいるシステムもある。)この 機能は、生成したい加工パスのパス目を決定した状態で、加工工具の突き出し量を短くしたり、 面の仕上がりを良くしたりするために有効な手順である。 また、荒加工に関する加工手順であるが、多軸加工による荒加工のための加工手順を用意して いる CAM システムは少なく、専用モジュール内で用意している手順がある程度である。割り出 しによる加工を組み合わせて加工を行うことが一般的である。最近、5軸等高線荒加工などの荒 取りの加工手順として用意している CAM システムも出てきている。 2.2.4 多軸 CAM での加工方法・加工条件設定 前項で説明した加工手順を用いて加工パスを生成することになるが、その手順の中でどのよう な加工パスを生成するかを加工方法・加工条件の設定により決定する。ここでは、設定可能な加 工方法・加工条件の代表的なものについて以下に説明する。 (1)使用工具 選択した加工手順で使用する切削工具に関する条件を入力する。ここでは、工具情報、切削条件お よびホルダー、ヘッドの形状などについても入力することが必要である。工具情報などは工具登録に よりデータベース化されている場合が多い。ここで設定した切削条件が NC データに変換される場合 に反映される。また切削条件として、データの出力位置が工具先端なのか工具中心なのかの設定も求

(27)

められる。工具先端点制御を使用する場合には、工具中心でデータを作成する必要がある。さらに、 定義されたホルダー、ヘッド形状を用いて干渉チェックが行われる。最近では、各ツールメーカがホ ルダー、ヘッド形状の CAD データを用意しているため、そのデータを用いて定義することが可能で ある。 (2)切削パターン 切削パターンは選択した加工手順によって様々である。切削形状に従って一方向に加工を行うのか、 ジグザグに往復して行うのか、ある参照線に沿って行うのかという設定が一般的である。また、切削 方法としてアップカットなのかダウンカットなのかについて設定する必要がある。 (3)切削パラメータ 切削パラメータとして重要なのは、XY 切り込み量、Z 切り込み量、削り残し代の設定である。ま た、Z 切り込みにおいて、切り込み量を Z 切り込み量で設定された値で一定とするのか、スキャロッ プ高さを一定にするように Z 切り込み量を可変とするのかが選択可能である。このスキャロップ高 さであるが、ワークをコーナーR のある切削工具であるピッチで切り込んだ場合、削り残しの山がで きるが、その山の高さをスキャロップ高さと呼ぶ。よって、この削り残しの山の高さが一定となるよ うにワークの形状に応じて、Z 切り込み量を自動決定してくれるモードである。(このモードを1つ の加工手順としてスキャロップ加工と呼ぶ場合もある) また、切削トレランスを設定する。これにより、加工パス生成のための計算精度を決定する。多軸 加工で特有の切削角度トレランスの設定もある。 (4)工具軸設定 多軸加工特有の設定として、工具軸関連の設定がある。工具軸の向きを固定するのか、あるガイド カーブ(チルト曲線)から計算されるようにするのかを決定する。ここで、ロータリー軸とチルト軸 の移動に関する設定を行う。そして同時に、干渉回避に関する設定や工作機のリミットとして工作機 械の最大チルト角を設定する。このガイドカーブは工具の突き出し量を短くした加工を実現するため のものであるが、この設定はかなり煩雑であり、良いガイドカーブを見出すことが困難である場合が ある。そのため、ガイドカーブの設定をせずに工具軸の向きを自動計算してくれる CAM システムも あり、そのシステムでは干渉回避の設定が行われていた場合、まずロータリー軸で回避を行い、それ でも回避できない場合にチルト軸で回避を行う。(設定により、チルト軸での回避を優先させること もできる。) また、工具軸のリード角、チルト角を設定することで工具軸制御を行う場合もある。リード角は工 具の進行方向に対する傾斜角をいい、チルト角はそれに対して直角方向の傾斜角をいう。しかし、こ れらの角度設定だけではコーナーやエッジなどで滑らかな加工が困難となるため、シンクロラインを 設定し、その方向に工具軸を向けるようにすることで工具の動きが滑らかな加工が可能である。リー ド角、チルト角ともに 10°~20°程度の傾斜を与えると加工面の仕上がりが良くなる。

(28)

(5)切削範囲 選択した加工手順で切削を行う領域を指定する。切削範囲については、高さ範囲指定、角度指定、 切削サーフェス指定などの方法がある。また、加工時にモデルからの障害物等からの回避のために回 避面の高さ指定も行う。これは、切削範囲よりも高い位置を選択する必要がある。 (6)アプローチ(リードイン)・リトラクト(リードアウト) 工具がワークに進入して切削を始める場合をアプローチといい、切削を終え工具がワークから離れ ていく場合をリトラクトという。このアプローチ、リトラクトをどのように行うかを決定する必要が ある。3軸加工の場合、垂直方向、接線方向、円弧、工具軸方向などの設定が一般的に可能であるが、 多軸加工では工具軸方向でアプローチ、リトラクトを行う。これは、アプローチ、リトラクト時の加 工機の回転動作を回避するためである。 ここで設定された加工方法・加工条件に従って、加工パスが生成される。多軸加工の場合、ワ ークと工具・ホルダーとの干渉のチェックを加工パス生成時に行うかどうかが選択できる。干渉 チェックを行った場合には、干渉が起こる場合、加工条件として設定された範囲内で自動干渉回 避を行った加工パスを生成するシステムもある。 2.2.5 多軸CAMでの加工シミュレーション 生成された加工パスに対して、その加工パスをベースとして加工機で加工可能なデータとでき るかどうかを加工シミュレーションにより確認する必要がある。ここまでの説明で生成された加 工パスは、既にワークと工具およびホルダーとの干渉については回避した加工パスを生成するこ とが可能である。しかし、治具および工作機械を含めた干渉については十分にチェックできてい ない。また、加工に入るまでのアプローチ動作や工具径補正などの制御器に設定されたパラメー タを考慮したチェックも十分に行えていない。そこで、それらを考慮したシミュレーションが必 要になる。そのシミュレーションとして2段階に分けて考える。まず第1段階として、生成され た加工パスに対して治具、工作機械を含めた内部シミュレーションを行う。ここで干渉が見つか らなければ、NC データに変換をする。そして第2段階として、変換した NC データを用いたシ ミュレーションを行う。ここで、ポスト処理後のデータを用いてアプローチ動作や径補正を加味 したシミュレーションを行う。さらに、データ最適化ツールを用いることで、より効率的な NC データに変換することもある。 第1段階として、加工パスによる完全なシミュレーションを行うが、これは CAM システム内 部での処理となる。加工する工作機械の機構モデル、使用する治具形状モデルおよび加工するワ ーク形状モデルを用意し、実モデルによる動作をシミュレーションした干渉チェックとなる。た だ、検証したデータは CAM の内部データであるので、完全なシミュレーションとはなっていな いが、このシミュレーションで大半の干渉チェックはできるようになってきている。しかし、こ の内部シミュレーションが行えない CAM システムもあり、その場合には変換後の NC データに よるシミュレーションが多軸加工の場合は不可欠である。

(29)

第2段階として、NC データを用いた加工シミュレーションを行うのであるが、これは CAM システム外での処理となる。このシミュレーションは、専用のシステムを用いて行うことになる。 代表的なシステムとして、 ・ VERICUR ・ NCView ・ G-Navi などがある。これらのシステムでは NC データに基づいて工作機械の動作を再現する。ATC 動 作のシミュレーションが可能なシステムもある。また、加工データを最適化する機能もあり、工 具負荷をチェックして送り速度を調整することで効率の良い NC データに変換できる。このこと により、加工時間の短縮や工具寿命を延ばすことが可能である。 2.2.6 多軸加工での問題点・注意点 (1)加工パスの最適化 生成する加工パスを最適なものとするためには、2.2.3項で説明した加工手順をどのよう に選び、どのような順序で実行するかが重要である。その組み合わせは加工を行うモデル形状に よって変わってくる。また、2.2.4項で説明した加工方法および加工条件を選択した加工手 順の中でどのように決定するのかも併せて考慮する必要がある。これらの加工手順、加工方法お よび加工条件を決定するにあたり、多軸加工では3軸加工の時以上に利用する CAM が出力する 加工パスの特徴を把握しておく必要がある。そこで3章では、高精度5軸加工を実現するために、 加工を行うモデル形状に応じた最適な加工手順を確立し、その事例毎にマニュアル化を行う。 (2)干渉問題の検証 多軸加工では、2.2.2項で説明したように、干渉チェックの実行が不可欠である。以下に、 干渉対象毎にその注意点を簡単に説明する。 ・ホルダーの干渉 多軸加工では、工具の向きが常に変化することから必要工具突き出し量を決定しづらくなる。 よって工具の突き出しを確実にチェックするために、NC データでのシミュレーターなどで工具 突き出しを調整するなどが必要になる。 ・治具干渉 3 軸加工では、2 次元的にある程度干渉を確認出来るが、多軸加工ではそれも難しくなる。こ れもシミュレーターなどでのチェックが必要である。 ・機械構造物干渉 テーブル回転型の 5 軸工作機などは回転テーブルのユニットとの干渉も確認する必要がある。

(30)

・オーバートラベルの確認 テーブル回転型の工作機であれば、傾斜軸が 0°の時のワーク位置と、傾斜軸 90°の時では、 Z 方向や、横方向の位置も大きく変ってくる。これは取り付け位置やワークサイズにも大きく関 係してくる。また、傾斜軸の回転中心からワークが離れれば離れるほどその移動範囲は大きくな る。よって思わぬところでのオーバートラベルが発生する場合がある。また、ヘッド回転型の工 作機の場合は、ヘッドの回転中心から工具先までの距離が大きいと、先端の移動量が少なくても、 それと同時に角度変化が加わるとヘッド回転中心は大きく移動することになる。これもオーバー トラベルが発生する原因になる。 ここで説明したような各干渉対象に対して、干渉チェックを行う必要がある。この干渉チェッ クの方法は干渉対象によって変わってくる。このことは、加工パスの最適化と同様に加工するモ デル形状によっても変わってくる。また用意できる干渉チェックツールによっても影響を受ける。 そこで3章では、加工を行うモデル形状に応じた5軸加工時の工具および工具ホルダーと工作物、 治具の干渉問題について、その干渉チェック方法を検討し、その事例毎にマニュアル化を行う。 (3)工具先端点制御 (TCP Control)での注意 同時5軸加工の場合、1 行の動作で XYZ 移動と同時に傾斜軸/回転軸指令が入る。この時角度 の変化が大きいと、工具先端が直線的に動かず、食い込みや削り残りが発生する。 この角度変化は、特にテーブル回転型の 5 軸加工機では、テーブルの傾斜軸が 0°(Z 軸方向) に近づくと回転軸の変化は大きくなる傾向にある。また、傾斜軸が完全に 0°(Z 軸向き)の位 置では回転軸がフリーになり、180°回転軸が回転してしまう場合もあるので注意が必要となる。 これらの角度変化に関する問題は、工作機の制御器が持つ工具先端点制御機能を使うか、CAM の POST で角度を補間することにより回避することが出来る。現在は、各制御器メーカーが工具 先端点制御機能を搭載した制御器を用意していることから、この機能を利用することが一般的で ある。 この工具先端点制御であるが、G43.4(A/C 軸指定)もしくは G43.5(JK ベクトル指令)で工 具先端点制御が ON になる。また、G49 で工具先端点制御が OFF になる。(この G49 は工具長補 正キャンセルの用途でも使用するため、工具長補正がキャンセルされず、入ったままの状態で G43.4 もしくは G43.5 の指令を出すことはできない。)この制御は、同時5軸動作指令を行う場 合に NC データで指令点を直線的に動作させる機能であり、この機能を使うことにより、角度が 大きく変化する場合にも NC データを微小分割する必要がなくなる。また、この時基本的には指 令点の移動速度を一定にすることも可能である。この指令方法であるが、 G43.4Z100.0H01M01 のような指定を行う。 この制御を CAM で利用する場合、以下の点に注意が必要である。 ・加工データは工具のボール中心で作成 工具先端点制御は、NC データの指令点の直線を保持しようとするため、加工データはボール

表 4.1.3-1   実験条件  被削材  SUS304 SUS316  切削速度 (m/min)  20  送り速度 (mm/rev)  0.15  ステップ送り量 (mm)  1.0  工具突出量 (mm)  TiCN コーテッド粉末ハイス:20 TiAlN コーテッドハイス:30  TiAlN コーテッド超硬:20  加工方式  止まり穴加工  加工深さ (mm)  6  切削油剤  水溶性切削液(エマルジョン)  オイルミスト  実験終了条件  工具折損時、加工音急増時、100 穴加工時  ハイス
図 4.1.3-4  SUS316 加工時の工具損傷の様子
表 4.1.4-1  実験条件  被削材 SUS410、SUS420J2、SUS430、SUS440C  切削速度 (m/min)  20  送り速度 (mm/rev)  0.10  ステップ送り量 (mm)  2.0  工具突出量 (mm)  TiCN コーテッド粉末ハイス : 20、30  TiAlN コーテッドハイス : 30  加工方式  止まり穴加工  加工深さ (mm)  10  切削油剤  水溶性切削液(エマルジョン)  実験終了条件  工具折損時、200 穴加工時  実験終了条件は、工具折損
図 4.1.4-4 切り屑の様子
+2

参照

関連したドキュメント

(注1)平成18年度から、

マイ クロ切削 システ ムの 高度化 にむ けて... 米山 ・陸:マ イク 口旋削加工

min, temperature at tool flank of a TiAlN-coated carbide tool is approximately 40~50ºC lower than that of a non- coated carbide tool regardless of cutting fluids. Width of a flank

Three kinds of wheel have under the conditions ranging from conventional grinding speed to 12000.. made in which

22 日本財団主催セミナー 「memento mori 広島− 死 をみつめ, 今 を生きる−」 を広島エリザベト音楽大

「地方債に関する調査研究委員会」報告書の概要(昭和54年度~平成20年度) NO.1 調査研究項目委員長名要

注)○のあるものを使用すること。

※短期:平成 31 年度~平成 32 年度 中期:平成 33 年度~平成 37 年度 長期:平成 38 年度以降. ②