カ
ジカ属 Cottus は北半球の温帯から寒帯の河川に広く分布するカジカ科魚類の 1 属である. 我が国ではアユカケCottus kazika,カンキョウカジ カ C. hangiongensis,ハナカジカ C. nozawae,エゾ ハナカジカ C. amblystomopsis,カジカ C. pollux お よびウツセミカジカ C. reinii の 6 種が確認されてい る(後藤,2002).このうち,カジカには両側回遊 型・陸封型といった生活型,外部形態および産出 卵の大きさ等が異なる 3 型が存在し,それぞれカ ジカ小卵型,カジカ中卵型,カジカ大卵型と呼ば れている(後藤,2002). カジカ属の繁殖生態に関しては数種で詳細に調飼育下におけるカジカ(小卵型)の生殖腺組織
および血中性ホルモン濃度の周年変化
福井謙太郎
1・藤井亮吏
2・田原大輔
3・早川洋一
4・古屋康則
1 1 〒 501–1193 岐阜県岐阜市柳戸 1–1 岐阜大学教育学部 2 〒 509–2592 岐阜県下呂市萩原羽根 2605–1 岐阜県河川環境研究所下呂支所 3〒 917–0003 福井県小浜市学園町 1–1 福井県立大学生物資源学部海洋生物資源学科 4 〒 181–8585 東京都三鷹市大沢 3–10–2 国際基督教大学理学科 (2007 年 5 月 29 日受付; 2007 年 8 月 27 日改訂; 2007 年 8 月 28 日受理) キーワード: Cottus,生殖周期,異型精子,ステロイドホルモンKentaro Fukui, Ryoji Fujii, Daisuke Tahara, Youichi Hayakawa and Yasunori Koya*. 2007. Annual changes in gonadal histology and serum profiles of sex steroids in KAJIKA, Cottus sp. SE (small egg type), under rearing conditions. Japan. J. Ichthyol., 54(2): 173–186.
Abstract Gonadal development and serum profiles of sex steroids in reproduc-tive KAJIKA, Cottus sp. SE (small egg type), were monitored over a 12-month period. The female reproductive cycle was divided into the following 5 periods based on oocyte development: recovery period (May to August), cortical alveoli formation period (September), vitellogenic period (October to December), repro-ductive period (January and February) and spent period (March and April). Based on ovarian histological observations, females may spawn 2 or 3 times in one repro-ductive period. Serum levels of estradiol-17b increased during the vitellogenic period, indicating regulation of the vitellogenetic progress. Serum 17,20b-dihy-droxy-4-pregnen-3-one in females exhibited high levels only during the reproduc-tive period, suggesting a role in inducing final oocyte maturation. The male repro-ductive cycle was divided into the following 5 periods based on testicular histological observations: resting period (June to August), spermatogonial prolifer-ation period (September), spermatogenic period (October and November), repro-ductive period (December to February) and spent period (March to May). Parasperm formation, which is known in some cottidae species, was noted, occur-ring in the sperm ducts duoccur-ring the spermatogenic period, but only in the main tes-ticular lobes during the reproductive period. Serum 11-ketotestosterone levels in males increase of continually during the spermatogenic period, suggesting a role regulation of spermatogenesis in this species.
*Corresponding author: Department of Biology, Faculty of Education, Gifu Uni-versity, Yanagido, Gifu, Gifu 501–1193, Japan (e-mail: [email protected]) Japanese Journal of
Ichthyology
べられており,多くは冬季から早春の低水温期に 河川ないしは沿岸域において雄がなわばりを形成 し,雌がそこを訪れる一夫多妻的ななわばり訪問 型の形態を示す(後藤,1994, 2002).しかし,雌 の一繁殖期中の産卵回数については組織学的な裏 付けのある調査はほとんどなされていない.一方, 生殖に関わる生理学的な知見は少なく,配偶子形 成過程やそれに関連するホルモンの制御について は一部の種で断片的に調べられているにすぎない (deVlamig et al., 1984; Quinitio et al., 1988; Mukai and Oota, 1995). 受精を目的として産生される「正型精子」と呼 ばれる精子とは別に,形態や大きさの異なる受精 能力を持たない「異型精子」と呼ばれる精子を作 る種がカジカ上科魚類 9 科中ケムシカジカ科とカ ジカ科の2 科で見つかっている.このような複数の タイプの精子が形成される現象は精子の多型現象 と呼ばれ,昆虫類や軟体動物などの無脊椎動物で いくつか報告されている(早川,2005; Hayakawa, 2007参照).脊椎動物では現在のところカジカ上 科魚類の数種でのみ異型精子の存在が知られてお り (Hann 1927, 1930; Quinitio et al., 1988; Quinitio and Takahashi, 1992; Hayakawa et al., 2002b, Hayakawa and Munehara, 2004),特にカジカ属では ほとんどの種で異型精子を持つことが確認されて いる (Hayakawa et al., 2007).異型精子の機能に関 しては,無脊椎動物で数多くの報告がある一方で, 脊椎動物での報告はほとんどなく,海産のヨコス ジカジカHemilepidotus gilberti において,産卵の際 に正型精子とともに異型精子が体外に放出される ことで,精液の拡散を抑制し放精距離を伸長する 機能や,卵塊表面に異型精子による塊を作ること で,スニーカー雄の精子の卵塊への侵入を阻止す る機能を持つことが示唆されているにすぎない (Hayakawa et al., 2002a, c).しかし,カジカ属の異 型精子の機能については,現在全く不明である. 本研究では,自然産卵による人工種苗生産技術 が確立されているカジカ小卵型を用いて,まず雌 雄の生殖周期を明らかにすることを試みた.生殖 腺組織の観察により,卵と精子の形成過程を明ら かにするとともに,カジカ属に広く見られる異型 精子の形成過程についても調べた.また,繁殖期 における卵巣内の卵径の頻度分布から産卵回数の 推定を行なった.さらに,血中性ホルモン濃度の 周年変化を調べることで,配偶子形成の内分泌制 御について考察した. 材 料 と 方 法 供試魚 実験には岐阜県河川環境研究所におい て 2002 年冬に種苗生産された魚を用いた.満 2 歳 になる 2004 年 1 月から満 3 歳になる直前の 2005 年 1月まで, 毎月最低 1 回の採集を行った. 供試魚 を 100 L の円形容器で 10 L/分程度の水をかけ流し て高密度( 容器 1 個あたり約 500 尾) で飼育し, 餌には配合飼料を与えた.飼育水には年変動のあ る伏流水を用いた.月別の平均水温は1 月および2 月が 5.0°C と最低であり, 8 月に 20.4°C と最高と なった.光周期は自然条件とし,日長は夏至で約 14時間,冬至で約 9 時間である. 魚を撲殺した後,標準体長 (mm) および体重 (g) を計測した.小型の個体については尾柄部を切断 し,大型の個体については注射器を用いて,それ ぞれ尾静脈から血液を採取した.得られた血液を 1120 gで 15 分間の遠心分離にかけて血清を分離 し,ホルモン測定に用いるまで80°Cで凍結保存 した.魚を開腹して生殖腺を摘出し,重量を計測 して生殖腺体指数(GSI生殖腺重量/体重100) を算出した.摘出した生殖腺は Bouin 氏液で固定 し,組織観察に供した.卵巣の一部を 10% ホルマ リンで固定し,卵胞径の計測に供した. 組織学的観察 Bouin氏液で固定した生殖腺を 通常のパラフィン法により,厚さ6mm の組織標本 とした.これにDelafield のヘマトキシリン– エオシ ン二重染色を施し,光学顕微鏡にて観察した.卵 母細胞の発達段階を Yamamoto (1956) と古屋ほか (1994) に準じて周辺仁期,卵黄胞期,卵黄球期お よび核移動期の 4 段階に便宜的に分け,個体ごと の出現状況を調べた.また,これら 4 段階の卵母 細胞の直径と核径については,組織切片を用いて 測定した.なお,卵巣腔に排卵された卵について は組織観察を行なわず,卵巣実質部で発達中の卵 母細胞についてのみ観察を行なった.雄について は精巣実質部における各段階の雄性生殖細胞の出 現状況および輸精管内における正型精子と異型精 子の有無を個体ごとに調べた.異型精子について は,Hayakawa et al. (2002b) を参考に同定し識別し た. 卵胞径の測定 10% ホルマリンで固定された卵 巣の一部からピンセットで卵胞を分離し,光学顕 微鏡下で発達中と思われる大型の卵胞の直径を 1 個体につき 100 個計測した. 酵素免疫測定法 (EIA) による血中ステロイドホ ルモン濃度の測定 雄性ホルモンであるテストス 174 福井謙太郎ほか
テロン (T),11-ケトテストステロン (11-KT) およ び雌性ホルモンであるエストラジオール-17b (E2) の血中濃度をEIA キット(Cayman 社)を用いた酵 素免疫測定法により測定した.各計測系の検出限 界は,T で約 5 pg/ml,11-KT で約 1 pg/ml,E2 で約 8 pg/mlであった.17,20b-ジヒドロキシ-4-プレグネ ン-3-オン (17,20b-DP) 濃度の酵素免疫測定につい ては Asahina et al. (1995) に準じて行なった.この 方 法 で の 1 7 , 2 0b -DP 計測系の検出限界は, 約 8 pg/mlであった.いずれのホルモンにおいても濃 度が検出限界以下の場合は,数値を 0 として計算 した. 統 計 全 て の デ ー タ を 平 均 値 ± 標 準 誤 差 (Mean± SEM) で表示した.統計検定には,分散 分 析 を 行 な っ た 後 , p o s t - h o c テ ス ト と し て Tukey–Kramer(有意水準 5%)検定を用いた多重 比較検定を行なった. 結 果
生殖腺体指数の周年変化 雌の GSI (Fig. 1A)
は, 採集を開始した 2004 年 1 月から 2 月までは 15%以上の高値を維持し,その後 3 月 (4.40.5%) に急激に減少した.4 月から 10 月までは 0.7–2.0% と低値で推移した.10 月以降急激に増加して,翌 年の 1 月には 24.24.6%に達した. 雄の GSI (Fig. 1B) は,採集を開始した 2004 年 1 月に最高値 (5.50.2%) をとり,7月にかけてほぼ 一 定 の 割 合 で 緩 や か に 減 少 し て 最 低 値 (0.2 0.01%) に達した.その後,GSI は 9 月以降急激に 増加して,翌年 1 月 (6.50.3%) に再び最大値に達 した. 卵巣組織の季節的変化 卵母細胞の発達段階を 周辺仁期,卵黄胞期,卵黄球期および核移動期の 4段階に分けた.各発達段階の卵母細胞,排卵後 濾胞および退行卵について,各月に採集した 3 か ら 6 個体の卵巣内において頻繁に見られるか否か を調べた (Table 1).周辺仁期の卵母細胞(直径 25–200m m,核径 15–80 m m)は 1 年を通じてほぼ 全ての個体の卵巣内で頻繁に確認された.卵黄胞 期の卵母細胞( 直径 200–350m m, 核径 80–120 mm)は 7 月以降に見られるようになり,9 月 (Fig. 2E) には4 個体中 2 個体で見られ,10 月にすべての 個体で確認されたが,11 月には 3 個体中 1 個体で 見られたのみであった.卵黄球期の卵母細胞(直 径 330–1100mm, 核 径 80–130 mm) は 1 月 (Fig. 2A) と2 月にはすべての個体で確認され,3 月 (Fig. 2B) には 4 個体中 1 個体で見られたのみで,4 月か ら 9 月までは全く見られなかった. 10 月 (Fig. 2F) 以降には再び全個体で見られるようになった.核 移動期の卵母細胞(直径 1100–1250mm)は 1 月に は 4 個体中 2 個体で確認され,2 月には全個体で見 られたが,3 月以降全く確認されなくなった.排 卵後濾胞は 1 月から 4 月まで確認された.退行卵 は 3 月と 4 月 (Fig. 2C) には全個体で見られ,5 月 (Fig. 2D) には 5 個体中 1 個体でのみ確認された. 卵胞径の周年変化 1 月と2 月にはすべての個体 で大小 2 群の卵胞が見られた (Fig. 3A–C).これら のうち小型の卵群はいずれの個体においても 0.7– 0.9 mmにモードを持つ卵群であったが,大型の卵 群には個体によって卵径に差が見られた.大型の 卵群は小さい卵胞で 1.7–1.8 mm, 大きい卵胞で 1.9–2.0 mmにモードを持ち,これらのうち排卵が 確認された個体 (Fig. 3A-1, 4, 5; C-2, 5) では,排卵 された卵群の直径は約 1.9 mm であった.4 月には 一部の退行卵と思われるやや大型の卵群以外はす べて 0.1 mm 前後の卵群となり (Fig. 3D),その後 8 月までは 0.1 mm 前後と小さいままで推移した.9 月以降には卵径が増大し始め,9 月には 0.2 mm 前 後 (Fig. 3I),10 月には 0.5 mm 前後となり (Fig. 3J),
11月には 0.4 mm から 1.0 mm まで幅広い直径の卵
胞が見られた (Fig. 3K).12 月には再び大小 2 群の 卵群が識別できるようになった (Fig. 3L).
1月,2 月および12 月の卵胞に見られた大小 2 群
Fig. 1. Annual changes in female (A) and male (B) gonadosomatic index in KAJIKA (small egg type). Vertical bars indicate SEM. Number of fish in each sample shown in parentheses. * Significant changes (P0.05).
の卵群の卵数の割合には,1 : 1 の個体と 1 : 2 で小 型の卵群の方が約 2 倍多い個体が観察された (Fig. 3A–C, L). 精巣組織の季節的変化 本種の雄の生殖腺は精 巣本体の基部に沿って前後方向に貯精機能を持つ 輸精管が走っている.本種の精子形成過程を観察 した結果,他のカジカ属魚類数種での報告例と同 様,異型精子の形成が確認された.本種の正型精 子は長径 2m m,短径 1 m m ほどの楕円形の頭部を 持つ.一方,異型精子は長径 6m m,短径 3–6 m m ほどの球形もしくは楕円球形を呈し,正型精子に 比べると著しく大型であり,鞭毛は有さない.細 176 福井謙太郎ほか
Fig. 2. Histological sections of ovary of KAJIKA (small egg type). A, January. B, March. C, April. D, May. E, September. F, October. DO: degenerated oocyte, MN: migratory nucleus stage, PN: peri-nucleolus stage, YG: yolk globule stage, YV: yolk vesicle stage.
胞全体がヘマトキシリンに濃染し,光学顕微鏡に よる観察では細胞質と核の識別はできない.精子 形成の活発な時期には,一つの包嚢内での正型精 子と異型精子の共存が観察された (Fig. 4). 精子形成過程における雄性生殖細胞の発達段階 を精原細胞,精母細胞,精細胞,正型精子および 異型精子の 5 種類に分け,各月ごとに精巣本体内 と輸精管内での各発達段階の雄性生殖細胞の有無 を調べた (Table 2).精原細胞は 1 年間を通じて全 ての個体の精巣内で確認された.1 月 (Fig. 5A) に は,精巣内のほとんどが異型精子で占められ,わ ずかに正型精子が確認された.4 個体中 2 個体では 精細胞も確認された.精巣内とは逆に輸精管内で は異型精子はほとんど見られず,正型精子で占め られていた (Fig. 5B).2 月には精細胞の見られる個 体がいなくなった他は 1 月と比べ大きな変化はな かった.3 月には,1 月と 2 月と同様に精巣内の大 部分は異型精子で占められていたが,輸精管内に
Table 1. Monthly changes in oocyte stage* in the ovaries of KAJIKA (small egg type) Stage of oocyte or follicle
Month N
Peri- Yolk Yolk Migratory Post-ovulatory Degenerated
nucleolus vesicle globule nucleus follicle follicle
January 4 3 4 2 2 February 3 3 3 3 3 March 4 4 1 4 3 April 4 4 2 3 May 5 5 1 June 5 5 July 5 5 1 August 4 4 September 4 4 2 October 6 6 6 6 November 3 3 1 3 December 5 5 5
* Frequency of each oocyte stage indicated by number of fish in which each was frequently observed.
Table 2. Monthly changes of male germ cell stage* in the testis and sperm duct in KAJIKA (small egg type)
Testis Sperm duct
Month N SG SC ST PS ES PS ES January 4 4 2 4 4 4 February 4 4 4 4 1 4 March 8 8 8 7 7 7 April 5 5 5 2 3 1 May 5 5 June 5 5 July 4 4 August 4 4 September 3 3 3 1 October 5 5 5 5 5 5 4 2 November 3 3 3 3 3 3 3 3 December 4 4 2 4 4 4 2 4
* Frequency of each germ cell stage indicated by number of fish in which each was frequently observed. SG: spermatogonia, SC: spermatocytes, ST: spermatids, PS: parasperm, ES: eusperm.
は正型精子とともに異型精子が多数確認されるよ うになった.4 月に入ると精巣内では依然として異 型精子が多いが,精巣,輸精管内ともに精子の退 行・吸収像と思われる組織が認められ (Fig. 5C, D),特に輸精管内では異型精子と正型精子がない 個体が現れた. 5 月には 4 月と同様に精巣, 輸精 管内ともに精子の退行・吸収像が全個体で認めら れ,正常な状態の異型精子と正型精子は消失して いた.6 月から8 月には,精巣の内側では精小嚢の 内腔のみが確認され,周縁部では増殖した精原細 胞が多数の集塊をなしていた (Fig. 5E).輸精管内 には空隙のみが確認された (Fig. 5F).9 月には,精 原細胞が精巣の周縁部で増殖し,さらに精母細胞 が全個体で確認された (Fig. 6A).輸精管内は依然 として空隙のみであった (Fig. 6B).10 月には全個 体で精母細胞,精細胞,異型精子および正型精子 が確認された.輸精管の中にも完成した異型精子 が確認された. 5 個体中 4 個体では異型精子が認 められ,2 個体では正型精子も確認された.11 月 には精巣内での精子形成が進み,全ての段階の生 殖細胞が認められた (Fig. 6C).輸精管内にも異型 精子とともに正型精子が確認された (Fig. 6D).12 月には精巣内では全ての段階の生殖細胞が見られ たが,その大部分は異型精子であった (Fig. 6E). 一方,輸精管内には正型精子が多く確認され,異 型精子は 4 個体中 2 個体でのみ確認された (Fig. 6F). 血中ステロイドホルモン濃度の周年変化 雌の 血 中 E2 濃 度 (Fig. 7A) は , 1 月 上 旬 (3.00.55 ng/ml) から 2 月 (4.12.54 ng/ml) にかけて僅かに高 く,3 月 (0.50.06 ng/ml) から8月 (1.70.86 ng/ml) にかけて低値で推移した.9 月以降には急激に増 加し,10 月には17.14.30 ng/mlとなり,12月には 27.44.9 ng/mlと最高値を示した. 雌 の 血 中 17,20b-DP 濃 度 (Fig. 7B) は , 1 月 (32.013.03 ng/ml) に最高値を示した後,2月にか けて減少し,その後 9 月までは検出限界以下の値 で推移し,10 月から12 月にかけても極めて低い値 で推移した. 雄 の 血 中 T 濃 度 (Fig. 8A) は , 1 月 上 旬 に は 22.18.18 ng/ml と比較的高い値を示し,2 月にか けて高値 17.2 ng/ml を示した.その後 11 月まで 2.5 ng/ml以下の低値で推移し,12 月には 5.3 ng/ml と 増加傾向を示した. 雄の血中 11-KT 濃度 (Fig. 8B) は,1 月上旬には 16.114.72 ng/mlとやや高い値をとった後,3月に かけて減少傾向を示し,4 月以降低値で推移した. その後,9 月から増加し始め,10 月には 7.91.59 ng/mlまで増加し,12 月には 52.418.08 ng/mlと1 年を通じて最大の値を示した. 雄の血中 17,20b-DP 濃度 (Fig. 8C) は,1 月上旬 に 17.18.06 ng/ml と比較的高い値を示した後,1 月下旬から 5 月まで低値で推移した. 6 月以降増 加傾向を示し,8 月には 17.49.52 ng/mlとなった. その後変動しながら緩やかな増加を示して,12 月 には 21.614.25 ng/mlの高値に達した. 考 察 雌の生殖周期 カジカ小卵型の雌の生殖腺体指
Fig. 3. Diameter frequencies of developing oocytes (fixed in 10% formalin) in five female KAJIKA (small egg type) on each sampling date. A, 7th January. B, 26th January. C, 13th February. D, 19th April. E, 24th May. F, 21st June. G, 20th July. H, 12th August. I, 14th September. J, 15th October. K, 18th November. L, 11th December.
Fig. 4. Histological section of testis of KAJIKA (small egg type). Parasperm (p) and eusperm (e) are produced in the same cyst.
数 (GSI) は,10 月以降急激に増加し,1 月から 2 月までは高値を維持した.卵巣組織の観察から 9 月には卵黄胞期の卵母細胞が出現し,10 月以降に は卵黄球期の卵母細胞が,そして 1 月から 2 月に かけて成熟途上の核移動期の卵母細胞が,それぞ れ出現していることが示された.また,卵径の計 測結果からは,これらの卵黄球期の卵群が 10 月以 降徐々に成長し,1 月から2 月には十分に成長した 卵が排卵されることが確認された.以上のことか ら,本種は 10 月以降に活発な卵黄形成を行い,1 月から2 月にかけて繁殖が行なわれることが示され た.3 月から 4 月には GSI は減少し,卵巣内には僅 180 福井謙太郎ほか
Fig. 5. Histological sections of testis (A, C, E) and sperm duct (B, D, F) of KAJIKA (small egg type). A and B, February. C and D, April. E and F, June. ESZ: euspermatozoa, PSZ: paraspermatozoa, SG: spermatogonia.
かな退行卵以外は直径 0.1 mm 前後の周辺仁期の卵 母細胞が大半を占めるようになった.これらのこ とから,この時期には繁殖が終了していることが 示された. 1月から2 月には卵巣内に発達中の卵群とともに 排卵後濾胞を持つ個体が確認された.このことは 本種が 1 回の繁殖期に複数回の産卵を行なうこと を示唆している.事実,これまでに飼育下で 1 尾 の雌が2 回あるいは3 回の産卵を行なうことをたび たび観察している(藤井,未発表データ).また, 卵径の計測結果から, 12 月から 1, 2 月の繁殖期 の間には,発達中の卵胞には,少なくとも大小 2
Fig. 6. Histological sections of testis (A, C, E) and sperm duct (B, D, F) of KAJIKA (small egg type). A and B, September. C and D, November. E and F, December. ESZ: euspermatozoa, PSZ: paraspermatozoa, SC: spermatocytes, SG: spermatogonia, ST: spermatids.
群が認められた.卵胞の大小 2 群の割合はほぼ同 等の個体だけでなく,小卵群が大卵群より 2 倍程 度多い個体が観察された.このことから,卵胞の 大小 2 群の割合が同等の個体では 2 回,小型卵群 のほうが2 倍程度多い個体では3 回の産卵を行なう ことが予想された. 2 回目以降の産卵のための小 型卵群は繁殖期の間に卵黄形成を進行させると考 えられた.カジカ属の産卵回数については,これ までに生態観察からハナカジカでは1 産卵期に1 回 (Goto, 1990),エゾハナカジカでは1 回 (Goto, 1990), カンキョウカジカでは 1 回( 少数の大型個体で 2 回)(Goto, 1987),カマキリでは 1 産卵期に多くて 2回(杉本,1999)などの記載がなされているが, 組織学的に裏付けされた報告はない.今回行なっ た卵巣組織の観察および卵径の頻度分布から,カ ジカ小卵型では多回産卵を行ない,1 産卵期に最 大で 3 回の産卵を行なう可能性が示された.この ことは,本種が淡水カジカ類の中では産卵回数が 比較的多いことを示唆している. カジカ小卵型の成熟卵の直径はホルマリン固定 標本で約 1.9 mm であることがわかった.カジカ小 卵型では産着卵の直径が 2.1–2.4 mm(水野・丹羽, 1961)とされ,体内熟卵は 1.9–2.1 mm であるとさ れている(水野・丹羽,1961).したがって,今 回調査した人工種苗生産された飼育魚の成熟卵の 卵径は,天然条件下の個体の場合と同等と判断さ れた. 本研究により,カジカ小卵型雌の生殖周期は以 下の 5 期に分けられた. 回復期(5–8 月):観察できる卵母細胞はほとん どが直径 0.1 mm 前後の周辺仁期で占められる. GSIは 1% 以下の低値で推移する. 卵黄胞形成期( 9 月):直径 0.2 mm 前後の卵黄 胞期の卵母細胞が現れる.GSI は依然として低値 のままである. 卵黄形成期( 10–12 月):卵黄球期の卵母細胞 が出現し,直径が徐々に増大し,12 月までに 1.7 182 福井謙太郎ほか
Fig. 7. Serum profiles of estradiol-17b (A) and 17,20b-dihydroxy-4-pregnen-3-one (B) in female KA-JIKA (small egg type). Vertical bars indicate SEM. ND indicates under detection limit. Numerals in parentheses in A indicate number of fish in each sam-ple. * Significant changes (P0.05).
Fig. 8. Serum profiles of testosterone (A), 11-ke-totestosterone (B) and 17,20b-dihydroxy-4-pregnen-3-one (C) in male KAJIKA (small egg type). Vertical bars indicate SEM. ND indicates under detection limit. Numerals in parentheses in A and C indicate number of fish in each sample. * Significant changes (P0.05).
mm程度にまで成長する.この間,GSI は急激に増 大して 13% 程度に達する. 繁殖期( 1–2 月):核移動期の卵母細胞が確認 でき,卵巣内には成熟途上の大小 2 群の卵母細胞 が見られる.この間に1 尾の雌は2, 3 回の産卵を行 なうと考えられる.GSI は初期に約 25% のピーク に達した後,産卵の都度減少する. 退縮期(3–4 月):僅かな退行卵および直径 0.1 mm前後の周辺仁期の卵母細胞が卵巣内の大部分 を占める.GSI は徐々に減少する. 雄の生殖周期 カジカ小卵型の雄の GSI は,繁 殖期である1 月に最高値をとり,7 月にかけて緩や かに減少して最低値に達した.この時期の精巣は 退行中の異型精子が常時見られることから,GSI の緩やかな減少は異型精子の継続的な退行吸収を 反映したものと考えられる.その後,9 月以降に は GSI は急激に増加した.この時期には活発な精 子形成を行っていることが組織学的観察からも確 認された.その後,繁殖期に入る 1 月に GSI は最 高値を示した.このように,本種の雄の GSI の変 化は精巣の成熟度をよく反映しているといえる. 本研究により,カジカ小卵型雄の生殖周期は以 下の 5 期に分けられた. 休止期(6–8 月):精巣の中心部に精子が抜けた 空間が確認される.GSI は1% 以下の低値で推移す る. 精原細胞増殖期( 9 月):精原細胞の増殖が確 認される.GSI は低値のままである. 精子形成期( 10–11 月):減数分裂が開始し, 精母細胞,精細胞,異型精子および正型精子が見 られる. 輸精管内には異型精子が確認される. GSIは急激に増加する. 繁殖期(12–2 月):輸精管内が正型精子で満た される.精巣内は異型精子で満たされる.GSI は 5%前後に達する. 退縮期(3–5 月):輸精管内から正型精子が無く なるが,異型精子は残存する.精巣と輸精管内に 異型精子の退行像が確認される.GSI は徐々に減 少する. これまでに観察されているカジカ科魚類に見ら れる異型精子は,精母細胞の第二減数分裂で細胞 質分裂が正常に起こらず 2 核性の精子となったも ので (Quinitio et al., 1988; Hayakawa et al., 2002b, Hayakawa and Munehara, 2004; Hayakawa et al., 2007), 正型精子に比べ著しく大きく, 楕円形, 赤血球型もしくは不定形を呈し,好塩基性の染色 性を示す(カジカ属数種,Hann, 1930; カンキョウ
カ ジ カ , Quinitio et al., 1988; ヨ コ ス ジ カ ジ カ , Hayakawa et al., 2002b; Hayakawa et al., 2007).今 回観察したカジカ小卵型の異型精子は,楕円球型 でヘマトキシリンに濃染されるといった特徴を示 し,形態的には Cottus bairdii bairdii(Hann, 1930 参照)とヨコスジカジカ(Hayakawa et al., 2007 参 照)の異型精子に酷似していた.また,異型精子 が正型精子と同一の包嚢内で形成される点は,ヨ コスジカジカ(Hayakawa et al., 2007 参照)と同様 であり,異型精子がカジカ科魚類で共通の過程を 経て形成されることが示唆される. 異型精子は精子形成が活発な 10 月以降には輸 精管内で頻繁に出現し,繁殖期の12 月に入ると輸 精管内から消失し,輸精管内は正型精子のみの状 態になった.このことは,精子形成の前半と後半 では正型精子と異型精子の精巣内での分布が大き く変化することを示している.異型精子が繁殖期 中に輸精管内から消失することは,異型精子の体 外への不放出を示しているのであろうか? 我々 は繁殖期に営巣した雄の精巣を観察し,輸精管内 にも異型精子が存在することを数例確認した(未 発表データ).このことから,営巣開始などを契機 とした雄の生理状態の変化が,精巣内の異型精子 の分布に影響する可能性が考えられる.今後,人 為的に営巣させた雄を対象として,精巣内の異型 精子の分布変化について調査を行うことは,本種 の異型精子の機能解明の上で有効な手段となるか もしれない. 生殖周期に伴う性ホルモン濃度の変化 一般に 卵生の脊椎動物では,卵巣で産生されるエストラ ジオール-17b (E2) の刺激を受けて,肝臓で卵黄蛋 白前駆物質(ビテロジェニン)が合成されること が知られており,卵母細胞の成長に伴って血中の E2濃度も増加する例が多くの魚種で報告されてい
る (Matsubara et al., 1995; Koya et al., 2003; Mori et al., 2003; King and Pankhurst. 2003).カジカ小卵型 の雌でも血中 E2 濃度は,卵黄形成が始まる 10 月 以降に増加し,繁殖期の直前の12 月に最高値を示 した.よって,本種でも多くの魚類と同様に,E2 はビテロジェニン合成を制御していると思われる. また,繁殖期にも小さなピークが確認されたこと は,2 回目以降の産卵のための卵黄形成を刺激し ている可能性が考えられた. 卵母細胞の最終成熟には卵胞で産生される卵成 熟誘起ホルモン (MIH) が関与し,魚類ではサケ科 をはじめとする多くの魚種で17,20b-ジヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン (17,20b-DP) が (Nagahama and
Adachi, 1985; Nagahama, 1997),また海産魚類の数 種では 17,20b,21-トリヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン (20b-S) が (Trant et al., 1986; King et al., 1994; Modesto and Canario, 2002),それぞれ MIH として 同定されている. カジカ小卵型雌の血中 17,20b -DP濃度を測定したところ, 繁殖期にのみ 13.5– 32.0 ng/mlの高い値を示した.また,カジカ科と近 縁のフサカサゴ科に属するエゾメバル Sebastes taczanowskiiとクロソイ S. schlegeli においても,卵 成熟誘起能 (Takemura et al., 1989) と血中濃度の変 化 (Nagahama et al., 1991; Mori et al., 2003) などか ら17,20b-DP がMIH であることが示唆されている. 本研究の結果からは,20b -S を測定していないた め断言はできないが, カジカ小卵型においても 17,20b-DP がMIH の一つであることが示唆された. 多くの魚類では精子形成期間中に血中のテスト ステロン (T) と 11-ケトテストステロン (11-KT) の 濃度が増加することが知られており,これらの雄 性ホルモンは魚類の精子形成に重要な役割を果た していると考えられている.特に 11-KT は,精子 形成における精原細胞の増殖から減数分裂,さら には精子変態までのすべての過程を制御する内分 泌因子として働いていると考えられている (Miura and Miura, 2001).カジカ小卵型雄の血中 11-KT 濃 度は, 精子形成が開始される 10 月から増加し始 め,繁殖期前の12 月に最高値を示し,その後減少 するといった,精子形成の進行と同調した変化を 示した.このことから,本種においても 11-KT が 精子形成を制御していると考えられた.また,前 述のようにカジカ科魚類の異型精子は第 2 減数分 裂時に細胞質の分裂が起きないことによって形成 されるため (Quinitio et al., 1988; Hayakawa et al., 2002b, 2007),その形成は正型精子の形成と同期 している.このことから,異型精子の形成も正型 精子と同様に 11-KT によって誘導されていると考 えられる. 一方, 血中 T 濃度は繁殖期に高かったのみで, 精子形成の開始から進行中にかけては低値で推移 した.T は 11-KT の前駆物質であり,その血中濃 度も11-KT と並行した変動を示すことが多い(Scott et al., 1980; Rahman et al., 2000; Mori et al., 2003; García-López et al., 2006).今回カジカ小卵型で見 られた血中 T 濃度の変動は,T が 11-KT の単なる 前駆体としてではなく,繁殖期に何らかの役割を 果たしていることを示唆するのかもしれない. 17,20b -DP は雌において卵成熟誘起ホルモンと して機能するだけでなく,サケ科魚類の雄におい ては輸精管内の精漿のpH を上昇させることで精子 の 運 動 能 獲 得 を 誘 起 す る こ と が 知 ら れ て い る (Miura et al., 1992).カジカ小卵型雄の血中 17,20b-DP濃度は, 精子形成の開始以降に増加傾向を示 し,繁殖期の初期に高値を示した.本種はサケ科 魚類と異なり,雄は比較的長い繁殖期間中になわ ばりを守りながら, そこを訪れる雌と数回にわ たって産卵に携わる.したがって,比較的長い繁 殖期中に継続した精子形成を行なっていると考え られる.精子の運動能獲得や精子成熟などの機構 もこれまでに知られている多くの硬骨魚類とは異 なると考えられ,精子の運動開始についても他の 魚種とは異なることがカンキョウカジカを用いた 実験で示されている (Ohta and Shinriki, 1998).一 方,17,20b -DP が精子形成の全過程をも誘導し得 ることがウナギAnguilla japonica を用いた実験で明 らかになっている (Miura et al., 2006).したがって, カジカ小卵型の雄において 17,20b -DP が繁殖期に 何らかの生理的機能を持っているのか否かは現時 点では不確定である.しかし,先に述べたウナギ の場合を考え併せると,カジカ小卵型において血 中 17,20b -DP 濃度が精子形成期の 8 月から 12 月ま での間に増減を繰り返しながらも比較的高値で推 移したことは,精子形成の誘導に働いているため かもしれない. 謝 辞 本研究に関して丁寧なご助言を受け賜りました 東京農業大学生物産業学部の山家秀信博士に深く 御礼申し上げます. 引 用 文 献
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