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眼瞼の組織球腫がみとめられたイヌの 1 例
柴﨑 桃子 鈴木 知行 柴﨑 文男 柴﨑 祐也
(投稿:平成28年12月27日)
Histiocytoma of the eyelid in a dog : a case report
MOMOKO SHIBASAKI, TOMOYUKI SUZUKI, FUMIO SHIBASAKI and YUYA SHIBASAKI
Shibasaki Animal Hospital, 1-10-35, Ushitahonmachi, Higashi-ku, Hiroshima 732-0066
SUMMARY
Meibomian gland adenoma is the most common tumor that occurs in the eyelids of dogs, followed by melanoma. Other types of tumors are rarely reported. We present the case of a dog that presented with significant swelling of the eyelid. Initial treatments were not effective. Based on tissue biopsy, we diagnosed histiocytoma.
──Key words: eyelid, histiocytoma
要 約
イヌの眼瞼に発生する腫瘍はマイボーム腺腫,ついで黒色腫が多く,それ以外の発生は比 較的稀である.今回顕著な眼瞼腫脹で受診し,初期治療に反応が乏しく,組織生検を行なう 事で眼瞼の組織球腫と診断したイヌに遭遇したのでその概要を報告する.
──キーワード:眼瞼,組織球腫
柴崎動物病院(〒 732-0066 広島県広島市東区牛田本町 1-10-35)
症例報告
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広島県獣医学会雑誌 № 32(2017)
は じ め に
眼瞼は深部の構造として横紋筋,平滑筋の両者が存 在し,豊富な血液供給を有する.さらに眼瞼皮膚は薄 く,多くの肥満細胞が存在するため炎症・浮腫が顕著 に起こる1)2).
眼瞼における後天性の非腫瘍性疾患として眼瞼炎が あり,発生頻度が高いものとして麦粒腫(ものもら い)がある.内麦粒腫と外麦粒腫に細分されるが,治 療はどちらも同一で,洗浄と温罨法の適用,必要に応 じて全身性の抗生剤投与を行なう.通常処置時に強い 疼痛を伴う.
他に発生頻度の高い眼瞼炎として霰粒腫,マイボー ム腺炎がある.霰粒腫はマイボーム腺の分泌物の停滞 により,腺房の破裂と硬くなった分泌物の芯を中心と した肉芽反応により起こる.眼瞼結膜の表面を通じて 固結した結節性無痛性の黄灰色の腫瘤としての外観を 示す.治療は外科的な掻爬,次いで抗生剤—ステロイ ド点眼を行なう.マイボーム腺炎はブドウ球菌の感染 が原因でおこり,通常全身の皮膚疾患に伴う.正常で 透明な油分排泄に代わり黄色で膿性の分泌物を呈す が,分泌を全く示さない症例もある.眼瞼に垂直な線 状の黄色炎症性滲出物として眼瞼結膜を通して確認が できる.治療は培養結果に基づいた抗生物質の点眼か 全身投与,温罨法を併用する.
その他の眼瞼炎の原因として寄生虫によるもの,真 菌感染,免疫介在性,アレルギー性,自己外傷による 続発,内分泌疾患,脂漏症など多くが存在する.先述 したように皮膚の一部であるため多くは皮膚炎の原因 疾患と一致し,単独の眼瞼炎だけでない場合も多い.
次いでイヌの眼瞼に発生する増殖性,腫瘍性疾患で あるが多くは良性である.マイボーム腺腫(瞼板腺腺 腫,脂腺腺腫),ついで黒色腫,乳頭腫が多く,それ 以外の発生は比較的稀である. 悪性の腫瘍では扁平上 皮癌や黒色腫,線維肉腫,肥満細胞腫などもあるが発 生は多くない2)3).
今回眼瞼腫脹を主訴に受診し,初期治療に反応が乏 しく,組織生検を行なう事で眼瞼の組織球腫と診断し たイヌに遭遇したのでその概要を報告する.
症 例
症例は10歳齢,去勢雄のチワワで右下眼瞼の腫脹 を主訴に受診した.既往歴は特になく,一般身体検査 で発熱なし,聴診上の異常や体表リンパ節の腫脹もな く全身状態も良好であった.
右下眼瞼全体が充血,腫脹しており,検眼鏡検査に より粘膜下複数箇所に白色の貯留物が確認できた.
マイボーム腺分泌物の貯留が疑われたため,圧搾を行 なったが正常な油分の分泌が乏しく,圧搾時に強い疼
1)加療1週間目.第7病日.右下眼瞼全体に顕著な腫脹がみとめられる.
2)加療5週間目.第35病日.右下眼瞼全体にさらなる腫脹がみとめられる.
3)診断後治療を中止して4週間経過目,第63病日,自然退縮がみとめられた.
図 1 症例外貌
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広島県獣医学会雑誌 № 32(2017)
痛を示した.麦粒腫と仮診断し,ドキシサイクリン
(5mg / kg)1日2回経口投与,ロメフロキサシン1 日3回点眼,自宅で可能な範囲で温罨法を行なうよ う指示した.
第7病日には発赤は軽快して白色の貯留物は消失 していたが,眼瞼の腫れは改善がなかった(図1− 1)).マイボーム腺炎,霰粒腫を考慮し,培養検査を 行い陰性であることを確認し,上述の薬剤に加えて抗 炎症目的で1日1回のプレドニゾロン(0.5mg/kg)
を追加処方した.しかし,2週間加療しても不変で あったため,免疫介在性疾患,腫瘍性疾患を考慮して 組織生検を提案し,併せて全身疾患のスクリーニング のために第21病日に一般血液検査と胸部腹部X線画 像検査を実施した.
一般血液検査ではALPとGluの軽度上昇が見られ たが,他に特記すべき異常はなかった(表1).X線 画像検査で気管の狭窄がみられたが,他に異常はみと められなかった(図2).このため全身麻酔下での組
織生検を計画した.
生検実施当日までの間,全身への影響を考慮して内 服のプレドニゾロンを中止し外用剤(1%デキサメサ ゾン−ネオマイシン−ポリミキシン合剤眼軟膏Neomycin Polymyxin B Sulfates and Dexamethasone Ophthalmic Ointment®, Falcon)に変更し1日2回 眼瞼に塗布することを指示した.ドキシサイクリン
(5mg / kg)1日2回経口投与,ロメフロキサシン1 日3回点眼は継続併用した.
第35病日麻酔下での組織生検実施時,さらに眼瞼 が腫脹していた(図1−2)).眼瞼の癒合不全や機能 障害の可能性を考慮し,眼瞼縁は避け腫脹部位2カ 所の舟形生検を行なった(図3).組織生検では「組 織球腫の疑い」という結果であった(図4).全身の 組織球症などの可能性も説明したが,飼い主の希望に より投薬を中止し無治療で経過観察を行なった.第 63病日,組織診断より4週間経過後に自然退縮が確 認された(図1−3)).
表 1 症例の血液検査所見
RBC 788×104 /μl BUN 14 mg/dl
PCV 50.7 % Cre 0.5 mg/dl
Hb 16.3 g/dL ALP 349 U/L
MCV 64.3 fL ALT 41 U/L
MCH 21.8 pg AST 20 U/L
MCHC 35.8 g/dL GGT 5.0 U/L
WBC 12700 /μl T-Bil 0.1 mg/dl
Band − /μl T-Cho 274 mg/dl
Seg 10541 /μl Glu 274 mg/dl
Lymph 1397 /μl Alb 3.3 g/dl
Mon 762 /μl Ca 11.0 mg/dl
Eosi − /μl Na 149 mEq/dl Baso − /μl K 4.3 mEq/dl Platelets 46.9×104 /μl Cl 113 mEq/dl
CRP 0.20 Mg/dl
第21病日の一般血液検査結果.ALPとGluの上昇以外は特に異常値はなかった.
図 2 第 21 病日の X 線検査画像 気管の狭窄以外,異常はみとめられなかった.
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まとめ・考察
眼瞼炎は臨床の現場で非常に多く遭遇する疾患であ る.
ヒトのマイボーム腺の機能不全に用いられるビブラ マイシンには消炎効果も期待され長期的に使用される ことが知られている4).このため獣医領域でもマイ ボーム腺の障害を伴う眼瞼の炎症時に使用され,著者 自身も経験上同薬剤の使用で早期に消炎反応がみられ る事が多いと感じている.まれに完治するまでに長期 投与を要する症例もいるが徐々にでも改善していく.
しかし,本症例は初期治療の反応に乏しく,ステロイ ドによる消炎治療を併用し,長期的な投与を行っても 腫脹に関しては治癒傾向がみられず,一時的に悪化傾 向にあった.患部は眼瞼全体が腫脹していたため,炎 症による変化であると僻見してしまい.診断がおくれ てしまったと反省している.
皮膚組織球腫は若齢で多くみられ,通常は直径 1cm以下の大きさであり,無毛で境界が明瞭な円形
図 3 術中写真
眼瞼縁は避け舟形生検を実施した.
図 4 組織生検の病理組織像
病理診断結果は「皮膚組織球腫疑いcanaine cutaneous histiocytoma/suspected」であった.
の腫瘤病変を呈する.またFNAで特徴的な細胞がみ とめられる腫瘍で,多くは3ヶ月以内に自然退縮す る5).
眼瞼の組織球腫は過去にも報告があるが6)比較的 稀な腫瘍である.本症例は老齢犬であり,典型的な腫 瘤病変ではなかった.このため経過観察中にFNAを 検討しなかった.また,同疾患は組織検査をおこなっ ても悪性疾患である表皮向性リンパ腫や,多臓器に組 織球増殖がみられ,全身状態が悪化する組織球症との 鑑別が難しい場合もある5).鑑別診断のため全身の精 査が重要であり,スクリーニング検査や症例の状態に よっては病理検査時に特殊染色などの追加検査も必要 と考えられる.
本症例は全身状態も良く,スクリーニング検査でも ステロイド投薬に起因すると思われる一時的な高血 糖,ALPの軽度上昇以外大きな問題はなかった.さ らに,無治療の経過観察で自然退縮が確認できたこと から,皮膚組織球腫であったと考えられる.しかし,
今後眼瞼腫脹が顕著であり,初期治療に反応が乏しい 症例に遭遇した場合,早期にFNAや鑑別診断のため 全身の精査をおこなうことが重要と思われた.
参 考 文 献
1) David, J.M.: Slatter's Fundamentals of Veterinary Ophthalmology. David,J.M., 4th ed., 107-133, Saunders Elsevier, philadelphia
(2008)
2) Simon P.J.: 小動物の眼科学マニュアル 第2版 印牧信行 監訳第二版,85-111,学窓社,東京
(2006)
3) Dubielzig, R.R., et al.: Veterinary Ocular Pathology -a comparative review, 146-165, Saunders Elsevier, philadelphia (2010)
4) Doughty, M.J., The prescribing of oral doxycycline or minocycline by UK optometrists as part of management of chronic Meibomian Gland Dysfunction (MGD). Cont Lens Anterior Eye, 39(1), 2-8(2016)
5) Scott, D.W., :Veterinary dermatology, 6th ed., 1346-1356, W.B. Saunders company, (2001)
6) Gelatt, K.N., Histiocytoma of the eyelid of a dog. Vet Med Small Anim Clin., 70(3), 305
(1975)