急性期の歩行を考えての治療
守口生野記念病院 リハビリテーション科 理学療法士 山田 賢一 團野 祐輔
2020年9月16日 枚方市理学療法士会
内 容
➢ 早期離床の問題点
➢ 運動機能回復ステージ理論(急性期)
➢ 歩行の予後予測(文献紹介)
➢ 急性期での歩行を考えての治療提示(寝返り)
脳卒中ガイドライン2015
脳卒中ガイドラインでは
早期の集中的なリハビリテーションが勧められている
・発症から 52 時間以内の脳梗塞例にリハビリテーションを開始
しても脳血流量への影響はなく、重症合併症が有意に少なかった。
また、 24 時間以内に座位、立位などのリハビリテーションを開始し 急性期の訓練量を多くしても死亡率は同等で、早期に歩行が可能 となり、 3 ヶ月時の ADL が良好であった。
脳卒中ガイドライン2015
脳卒中ガイドラインでは
一方で、24時間以内に離床訓練を開始した群において 3 ヶ月後
の転帰不良例の割合が高い傾向と、対照群( 24 時間〜 48 時間
以内)での有意な機能的改善を認めた報告もあり、今後大規模
研究が必要である。
総合リハ.第45巻2号
脳卒中発症から24時間以内の離床群は、24〜48時間内の離床群と比較し、
生存率や良好な回復は認めず、一部の脳卒中患者でリスクの増加をもたらす 可能性があるという懸念があった Peter Langhorne;2018
” 早期離床 ” のシステマティック・レビュー / メタアナリシス
超急性期や不安定な病態における離床に関しては、
まだ議論されている
脳損傷後の可塑性の機序
急性期
亜急性期
回復期
脳卒中最前線
慢性期
総合リハ.第45巻2号
ischemic penumbra
脳梗塞急性期では、中心部はもう正常に回復することができない不可逆性の虚血領域
(梗塞巣)が存在するが、その周囲には血流は低下しているものの、血流再開でまた正常 に回復しうる可逆性の不完全な虚血領域(ペナンブラ)が存在する。
健常者では、脳血流は一定に保たれ、血圧変化による影響を受けにくくなっているが、
特に脳卒中に伴う高血圧患者では、血流低下と調節能の障害が存在し、さらに急性期の 脳卒中患者では、この機能が失われ、わすかな血圧の変化でも脳血流に影響しやすく なっている
早期離床の意味を十分考える必要性があると考えられる
Diaschisis( ディアスキシス)
ディアスキシスとは、脳損傷部位とは隣接して いないが神経線維により連結されている遠隔領 域において、一時的に代謝や生理機能不全を 起こすことである。
例えば、視床周辺で損傷が生じた場合に神経 連結している頭頂葉が機能不全がきたすと高次 脳機能障害が生じたりする。
ディアスキシスを起こしている領域は本来正常 であるため、通常は緩やかに改善していく。
原 寛美:脳卒中理学療法の理論と技術 p397
Unmasuking( アンマスキング)
もともと存在していたが抑制されていたシナプス結合が顕在化
原 寛美:脳卒中理学療法の理論と技術 p398
アンマスキング経路は普段は抑制されている
正常
アンマスキング経路の活動
メイン経路が障害
アンマスキング経路活動開始
原 寛美:脳卒中理学療法の理論と技術 p161-p162 急性期
回復期
慢性期
運動機能回復ステージ理論
残存している皮質脊髄路の興奮性に依拠する回復
急性期の回復メカニズムは残存している皮質脊髄路を刺激し その興奮性を高めることで麻痺の回復を促進する時期となる。
皮質間ネットワークの興奮性に依拠する回復
皮質間の新しいネットワークの興奮性に依拠する時期となる。
シナプスの伝達効率の向上に依拠する回復
その後6カ月以降も持続して徐々に強化される機能は、
リハビリテーションにより惹起されるシナプス伝達の効率化である とされる。
急性期 皮質脊髄路の興奮を高めるアプローチ
• TMC (経頭蓋磁気刺激)、 tDCS (直流頭蓋電気刺激)
• ミラーセラピー、 Virtual reality training(VR)
• 運動イメージ想起 など
• 電気刺激、末梢磁気刺激
• 振動刺激、装具 など
原 寛美:脳卒中理学療法の理論と技術 p309
Top down アプローチ
Bottom up アプローチ
“歩行練習”のシステマティック・レビュー / メタアナリシス
電気機械支援歩行トレーニングは、脳卒中後、3か月以内の歩行困難者に効果がある Mehrholz J;2017
Lokomatや歩行トレーナーなどのロボット装置と組み合わせて理学療法治療を
受けた脳卒中患者は、より良い結果に到達する可能性が高かった Bruni MF;2018 NIBS(非侵襲的脳刺激)を他の治療法と組み合わせると、急性期・慢性期ともに
歩行速度の改善に効果的であった Vaz PG;2019 課題志向型トレーニングは、急性/亜急性および慢性脳卒中患者の両方で筋力と 歩行関連活動を改善するのに役立つ Jeon BJ;2015 運動観察療法が脳卒中患者にとって腕と手の運動機能、歩行能力、歩行速度、日常 の活動パフォーマンスを改善するための効果的なアプローチである Peng TH;2019 脳卒中亜急性期の有酸素運動は、ピーク酸素摂取量と歩行距離を改善できる
Stoller O;2012 VRベースのリハビリテーションは、神経系患者のバランスと歩行を改善する
可能性がある Cano Porras D;2018 AFOの使用は、急性及び慢性脳卒中患者の速度やケイデンスなどの
歩行パラメーターを改善した Guerra Padilla M ;2014
発症後72時間以内に30秒以上の座位保持ができて、下肢の3関節がすべて
少し動く、もしくは下肢の1関節でも比較的強い筋力があれば歩行予後は良好である
歩行能力の予後予測
歩行能力の予後予測
• 退院時の移動能力を予測する因子として下肢近位機能、体幹機能、年齢は 重要な予測因子として抽出されている(1995 道免ら)
• 初診時の座位保持能力という体幹機能のみで将来の歩行能力を予測する試み をしている。これは初診時にベッド上で他動にて足を床につけた状態で端座位 姿勢をとらせ、この状態で両手を膝の上において15秒以上座位保持が可能で あれば座位姿勢保持良好、姿勢の保持が困難であれば座位保持不良とする。
座位保持良好は4週間以内の入院期間で歩行が可能となり、ADLが自立すると 予測する。不良群では6週間の入院期間で歩行やADLに一部介助や見守りが
必要となることが多いと予測する。(2001 石神ら)
• エキスパートオピニオンとしても、コホート研究から得られたエビデンスからも 下肢機能のみでなく、体幹機能は歩行能力の予測にあたって重要な予測因子 であることが理解できる。
道免 和久:脳卒中機能評価・予後予測 p102-104
藤野 雄次,他:脳卒中急性期での歩行の予後に関与する因子の検討 理学療法科学 27 (4):421-425,2012
歩行能力の予後予測
• 入院時にベッド上生活が自立している場合(1人で起座・座位保持が可能)には その半数が2週間以内に屋内歩行が自立となり、1カ月以内には大部分が屋内歩行 を獲得しており、発症後早期にその後の歩行能力を推定する要因として、起座・座位 保持能力の重要性を示している。(1982 二木 立)
• 発症後10日での座位保持能力と発症後1カ月での歩行能力との関連を検討し 座位保持能力と歩行能力との間に有意な関連を認めたと報告し、座位保持能力 の評価には30秒以上の端坐位保持の可否を用いている。(2008 樋口 謙次)
• 発症後7‐10日に座位リーチ動作での距離を測定し、退院時の歩行能力との 関連を検討した結果、座位リーチ動作と歩行能力との間に有意な関連を認めた と報告している。(2004 Tsang YL)
これらの報告において、発症後早期の歩行獲得の可否を推定する因子として用い られた起座・端坐位保持能力そして座位リーチ動作は、いずれも有用ではあるものの 標準化された評価法ではない。そこで体幹機能評価法であるTCTは、その信頼性 が検討されており、体幹機能評価として国際的にも広く採用されている。
(2012 藤野 雄次)
藤野 雄次,他:脳卒中急性期での歩行の予後 に関与する因子の検討
理学療法科学 27 (4):421-425,2012
歩行能力の予後予測
〔目的〕 脳卒中急性期の身体機能と当院退院時の歩行能力との関係について検討した。
〔対象〕 脳卒中患者137例とした。
〔方法〕 歩行の予後を決定する因子として、Trunk Control Test(TCT)、Japan Stroke Scale- Motor(JSS-M)、疾患(脳梗塞or脳出血)、年齢、それぞれを発症5日以内に評価した。
これら4変数を用い、退院時の歩行の自立/非自立について判別分析を行った。
〔結果〕 これら4変数と歩行の自立/非自立との間に非常に高い関連性を認めた。
〔結語〕 TCT、JSS-M、疾患、年齢の4変数を用いることで急性期に歩行の予後を決定する 際の有用な指標になることが示唆された。
全4項目の合計点は0(重度)~100(正常)である。
これまでのまとめ
➢ 脳卒中急性期のリハビリテーションは、早期の積極的かつ集中的な治療が 勧められている
➢ しかし、24時間以内の超早期や不安定な症例では、血圧などのリスク管理 を行いながら実施する必要がある
➢ 急性期における運動機能回復の為には、皮質脊髄路の興奮性を刺激する ために TMC (経頭蓋磁気刺激)、t DCS (直流頭蓋電気刺激)、長下肢装具、
ロボットなどのデバイスを用いた早期の下肢荷重、早期の歩行訓練が有効 であるとされている。
➢ 文献から発症後早期の歩行獲得の可否を推定する因子として TCT 、 JSS-M 、 疾患、体幹機能、年齢が示唆されている。
➢ そこで、今回は下肢機能の股関節伸展筋の促通、寝返りから体幹機能の
促通をポイントとして治療提示をする。
急性期の歩行を考えての治療提示
寝返りの運動パターン
① 屈曲優位
下肢:片側挙上
◆ 寝返りのパターンとして 4 つの基本パターンを報告している。( Richter ら)
② 屈曲優位
下肢:両側挙上
③ 伸展優位
下肢:片側挙上
④ 伸展優位
下肢:両側挙上
金子 唯史:脳卒中の動作分析 p17
寝返りの 4 相
① 屈曲相 ② 移行相 ③ 伸展相 ④ 安定相
寝返り動作への 移行において、頭 頸部屈曲の動きが 重要となる。肩甲 帯の前方突出が 生じることで体幹 回旋筋群を賦活さ せ、続いて脊柱を 中心として体軸内 回旋が起きる。
肩甲帯の前方 突出と上肢リー チに導かれるよ うに胸椎が回旋 し、上部体幹が 寝返る方向に 回旋していく。
完全側臥位は BOSが狭く、最 も筋緊張のコン トロールが要求 され、骨盤のさ らなる前方回旋 や股関節伸展 のための筋活 動が必要となる。
尺側、大腿前 面筋群、下腹 部を中心とした BOSで安定する 段階である。
金子 唯史:脳卒中の動作分析 p19‐20
寝返りの運動連鎖
屈曲パターン
伸展パターン
表面筋ではあるが、胸鎖乳突筋→大胸筋→前鋸筋→外腹斜筋→腹直筋→内腹斜筋
→腸腰筋などの活動が連鎖されやすい。
表面筋ではあるが、下腿三頭筋→ハムストリングス→大殿筋→脊柱起立筋→広背筋
→頸部伸筋群などの活動が連鎖されやすい。
頭頸部からの寝返りパターンは頭部→肩甲帯→体幹→骨盤→下肢という下行性運動連 鎖が生じやすい傾向がある。
下肢→骨盤→肩甲帯→頭部のような上行性運動連鎖で、足部や臀部からの床反力を活 用する傾向がある。
金子 唯史:脳卒中の動作分析 p21