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脳卒中急性期理学療法の専門性と可能性

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Academic year: 2021

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脳卒中急性期理学療法の専門性と可能性 319 はじめに  日本における脳卒中患者は年間 1,339,000 人にのぼる。脳卒 中受療率(人口 10 万対)は 250 で,悪性新生物の 233 を凌ぎ 1 位であり,かつ総数に対する入院患者の割合は 62.4%(悪性 新生物 47.6%)でもっとも高い1)。また脳卒中は,要介護の 原因疾患の第 1 位(21.5%)でもある2)。さらに 2025 年以降, 脳卒中発症者は,現在(2014 年)の 1.5 倍に増加すると見こん でいる。当然,脳卒中患者に対する急性期リハビリテーション (以下,リハ)の充実が課題となり,脳卒中理学療法の早期介 入や実施量の増加,チーム医療による組織的アプローチの必要 性が高まっている。本稿では,過去 5 年の間に脳卒中に対する リハが質的,量的にどう変化してきたかを振り返り,効果的な 理学療法について述べる。 脳卒中リハビリテーションに関するガイドラインと我 が国の現状  脳卒中急性期からのリハビリテーションは,組織的なチーム アプローチ,早期の開始,運動強度(時間)の増加等が効果的 であるとして,各種ガイドラインで推奨している。また,理学 療法の介入方法については,ランダム化比較試験によるいくつ かの先行研究から,運動(課題)を反復して学習することが効 果的であるとしている。  脳卒中リハに関するガイドラインは,2005 年に American Heart Association(以下,AHA)3),2008 年に The European Stroke Organisation(以下,ESO)4),そして日本では脳卒中 治療ガイドライン 20095)から 2015 年版へと改訂されようとし ている中で,次々と EBM に依拠するアプローチ方法が提案さ れている。  2005 年の AHA が推奨する脳卒中リハガイドラインでは,発 症後遅くとも 1 週間以内には組織的なチームによるリハを開始 することと,急性期からのリハ強度(運動量・運動時間)を増 加させることがよりよい帰結をもたらすとしている3)。また, 2008 年の ESO のガイドラインでは,リハ実施の期間を延長し 頻度を増加することを推奨している4)。さらに,各ガイドライ ンで推奨する共通項として,脳卒中ユニット,脳卒中リハビリ テーションユニットなどの組織化された場で,チームによる集 中的なリハを行い,早期の退院に向けた積極的な指導を強く勧 めており,訓練量はリハの効果を検討するうえで重要な要素で あると述べている3‒5)。

 グローバルヘルスコンサルティング社(Global Health Con-sulting)にデータを提供している全国の DPC 病院のデータに よると,脳卒中患者の入院からリハ開始までの日数を見ると 2009 年以降 4.23 ± 5.06 日から 3.88 ± 4.45 日へわずかに早期化 している(図 1)。  一方,1 日あたりのリハ実施時間(理学療法,作業療法,言 語聴覚の区別なく脳血管疾患リハ料として算出)は 2009 年以 降 2.60 ± 1.43 単位から 2.99 ± 1.58 単位へと小幅な増加にとど まっている(図 2)。さらに,リハ実施密度(リハ実施日数 / 在院日数)は 58.1 ± 17.2%から 60.1 ± 16.7%で大きな変化は ない(図 3)。これらのデータから,脳卒中急性期リハの重要 性について各ガイドラインで推奨しているにもかかわらず,実 地臨床における急性期リハ実施プロセスは,過去 5 年間で大き な変化はない。 脳卒中後の運動機能の改善を目的としたアプローチ  前述のリハ実施プロセスに加え,科学的根拠を重視した理学 療法も各施設で導入され,質的および量的な側面からのアプ ローチが求められている。これまで残存機能の活用を主体とし た行動学的補償に基づくアプローチの結果,日常生活活動の自 立度は改善しつつも,運動機能の改善が乏しい症例も少なくな かった。  2009 年 Langhone らは,コクランライブラリーに含まれる 脳卒中後の運動機能の回復を目的としたアプローチ方法につい てこれまで報告されているランダム化比較試験の研究成果をも とに,4 つのターゲット(上肢,手指,バランス,歩行)に分 けて,その効果を検証している6)。その結果,脳卒中後の上肢 機能の回復は CI 療法,EMG バイオフィードバックトレーニン グ,メンタルプラクティクス(イメージトレーニング),ロボ ティクストレーニングにおいて一定の治療効果を示すとしてい る。バランス機能の改善には,床反力計を用いたバイオフィー ドバック,可動式プラットホームを用いたトレーニングが効果 的であると述べている。歩行能力(特に歩行スピード)の改善 に関しては,心肺機能向上を目的としたフィットネストレーニ ング,高強度トレーニング,課題反復訓練に効果が認められる 理学療法学 第 42 巻第 4 号 319 ∼ 322 頁(2015 年)

脳卒中急性期理学療法の専門性と可能性

大 塚   功

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大会テーマ

Specialty and Possibility of the Physical Therapy for Acute Stroke

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相澤病院リハセラピスト部門

(〒 390‒8510 長野県松本市本庄 2‒5‒1)

Isao Otsuka, PT: Department of Rehabilitation Aizawa Hospital キーワード:脳卒中,急性期理学療法,機能回復

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理学療法学 第 42 巻第 4 号 320 としている。ただし,手指の機能回復に関しては,これまでの 研究報告から効果的な介入方法は特定できないとした。これら の結果から,上肢機能の改善のポイントは,患者自身の能動的 意図と運動イメージに基づく運動が重要になるものと考えら れ,一方バランス能力,歩行能力の改善には,立位,歩行運動 を具体的な課題として難易度を考慮しながら直接的に練習し学 図 1 脳卒中患者のリハ開始日の変化 図 2 脳卒中患者の 1 日あたりリハ実施単位数の変化

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脳卒中急性期理学療法の専門性と可能性 321 習していくことが効果的といえる。また,共通する介入方法と して運動(課題)を反復してトレーニングすることが重要と なる。 脳卒中後片麻痺者に対する歩行トレーニング  近年,歩行能力の改善をより効果的にする方法として,部 分 免 荷 ト レ ッ ド ミ ル 歩 行 練 習(Body Weight Support and Treadmill Training)や機能的電気刺激(Functional Electrical Stimulation)さらに一部ではあるが,歩行支援ロボットを用い た Electro mechanical assisted gait training も開発されつつあ る。これら新たなアプローチ方法の効果を十二分に引きだすた めに,課題指向型トレーニングを用いた運動学習理論に基づく アプローチ方法も注目されている。その根拠に,運動や練習の 効果は介入量に応じて反復した課題に対し特異的に認めること が示されている。質的に優れた理学療法を実施するためには, 患者ごとに設定した課題を反復練習することで運動学習が促進 するため,運動学習に必要な時間,頻度等の量的側面も切り離 すことはできない。 脳卒中後の大脳皮質と神経ネットワークの興奮性変化  Swayer OB らは,脳卒中後の機能回復過程と大脳皮質の興 奮性変化の関係性について TMS を用いて検証している7)。そ れによると脳卒中発症後急性期の機能回復は障害側大脳半球に 残存する皮質脊髄路の興奮性(Corticospinal excitability)が 関係し,その興奮性は発症 3 ヵ月までに減少していく。その後 の運動学習により,発症から 3 ヵ月目にかけて大脳皮質に広範 囲な皮質内興奮性(Intracortical excitability)をもたらし,新 たな神経ネットワークを再構築していく。これは大脳皮質に必 要に応じた代替システムとしての皮質ネットワークが再組織化 (reorganization)することを指す。発症から 6 ヵ月以後は,新 たな神経ネットワークが完成し,シナプスの伝達効率が向上 (synaptic strengthening)することで,それまで必要としてい た皮質内興奮性は不要となる。脳卒中急性期から 6 ヵ月以降に わたる大脳皮質と皮質脊髄路の興奮性変化が,失われた運動機 能の回復と関連していると考える。  急性期にかかわる理学療法士が,障害側大脳半球に残存した 皮質脊髄路の興奮性を高めるべく介入することで,急性期以降 の機能回復の可能性を残すことにつながるかもしれない。この ときの具体的な方法として,麻痺肢の運動イメージを維持しな がら,EMG バイオフィードバックや低周波刺激等を利用した 運動学習が有効と考える。 脳卒中後の皮質脊髄路の変性と皮質下における可塑的 変化  脳卒中後の皮質脊髄路は,損傷部位から遠位に向かい徐々に 変性が進むことがわかっている。一方でこれを補うように大脳 皮質下の神経線維は可塑的変化により再構築することを MRI により観察したとして,Hayashi と Takenobu らが報告してい る8)。脳卒中発症後 3 ヵ月間にわたる運動機能の回復過程で, 障害側の皮質脊髄路の神経線維が変性していく一方,赤核では 神経線維の再構築が進むことを明らかにし,赤核における神経 線維の再構築が,運動機能の回復と関係していることを示唆し ていると述べている。さらに運動機能の回復が比較的良好で あった対象者は,脳梁と帯状回の神経線維で再構築が確認でき 図 3 脳卒中患者のリハ密度(リハ実施日 / 入院期間)の変化

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理学療法学 第 42 巻第 4 号 322 ている。この点は興味深く,機能回復を目的とする新しい治療 法やアプローチ方法の開発につながることも期待できる。 おわりに  今後 10 年間に後期高齢者の増加に反して,実労働者層の減 少が問題となっている中,理学療法士は現在の約 10 万人から 20 万人規模へ拡大しようとしている。医療・介護提供体制改 革にこのスケールメリットを活かすためにも,患者,地域,社 会に貢献するための多様性と専門性をいかに高めるかが喫緊の 課題である。そのような背景を踏まえ,我々はこれまでの脳卒 中理学療法におけるアプローチ方法の中から,より効果的な方 法を積極的に臨床に取り入れ,その成果を明らかにしていくこ とで,神経理学療法のさらなる発展と社会貢献につなげること を期待する。 文  献 1) 厚生労働省 HP 平成 20 年我が国の保健統計.http://www.mhlw. go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa08/(2009 年 12 月 28 日引用) 2) 厚生労働省 HP 平成 19 年国民生活基礎調査の概況,介護の状況, 要 介 護 者 等 の 状 況.http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ k-tyosa/k-tyosa07/4-2.html#(2009 年 12 月 28 日引用)

3) Duncan PW, Zorowitz R, et al.: Management of adult stroke rehabilitation care. A clinical practice guideline. Stroke. 2005; 36: e100‒e143.

4) The European Stroke Organisation (ESO) Executive Committee and the ESO Writing Committee: Guidelines for Management of Ischaemic Stroke and Transient Ischaemic Attack 2008. Cerebrovasc Dis. 2008; 25: 457‒507.

5) 篠原幸人,小川 彰,他,脳卒中合同ガイドライン委員会:脳卒 中治療ガイドライン 2009.協和企画,2009,pp. 272‒340. 6) Langhone P, Couper F, et al.: Motor recovery after stroke: a

systematic review. Lancet Neurol. 2009; 8(8): 741‒754.

7) Swayne OB, Rothwell JC, et al.: Stages of Motor Output Reorganization after Hemispheric Stroke Suggested by Longitudinal Studies of Cortical Physiology. Cereb Cortex. 2008; 18: 1909‒1922.

8) Takenobu Y, Hayashi T, et al.: Motor recovery and microstructual change in rubro-spinal tract in subcortical stroke. Neuroimage Clin. 2014; 4: 201‒208.

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