第66巻 第 2号 ,2007
( 2 0 7 〜2 0 9 )
軽度発達障害児への気づ きと対応 システム ー ちょっと気になる子 たちの幸せを願 って一
今後の展 開
I . は じ め に
本 シ ンポジ ウムは,シ ンポジウム会場 で 「軽 度発達障害児 に対 す る気づ きと支援 のマニ ュア ル」 を配布 し,そ の冊子 に記 されてい る実証的 研 究成果 を紹介す る とい う形式で行 われた。
この冊子では軽度発達障害 を①注意欠陥多動
性 障 害 ( A t t e n t i o n D e n c i t / H y p e r a c t i v i t y D i s ― o r d e r s , 以下 A D H D ) , ② 学習障害 ( L e a r n i n g
D i s o r d e r s , 以下 L D ) , ③ 高機能広汎性発達障 害1(High Function Pervasive Developrnental Di so rd er s, 以下 HFPDD),④ 軽 度 精 神 遅 滞
(Me nt al R et ar dati o n,以下 M R )の 4 つ で あ ると定義 し,こ うした発達障害の子 どもたちに いつ頃,ど のような体制の中で気づいてい くべ きか, またそのモデルとなる体制は何であるの かを記述 している。
単に専 門家 といわれる人たちで書 き上げたマ ニュアルではな く,研 究班が行ってきた検証 さ れた研究成果に基づいて理論展開を行 うととも に,実 践活動の中で得 られた創意工夫や知恵を ふんだんに盛 り込んでいる。
本冊子が広 く活用 されることによって,軽 度 発達障害のある子 どもたちが 「学校や社会 に適 応 し,す こやかで,幸 せな,心 豊かな人生 を送 ることがで きる」,そ んな支援の きっかけが生 まれることを心か ら願 つている。
Ⅱ. 用 語の説明 と定義について
まず 「軽度発達障害」 という用語について説 明をしたい。
この用語 は,WHO(世 界保健機構) が 出 し
/Jヽ 枝 達 也 (′鳥取大学地域学部地域教育学科)
てい る I C D ‑ 1 0 や米 国精神 医学会 が 出 してい る D S M ― V I と い った診 断 の手 引 き書 で定 義 され た ものではない。おそ ら くある種 の委員会 で用 語 の概念 や定義 な どにつ いて議論 され, そ して 使 われ始 めた用語 で はない と思 われ る。誰 が ど の ような意図をもって使い始めたのか,よ く分 か らない ままに使 われ始め,や がて広 まって いったということだと推測 される。
筆者 は平成13年度厚生労働科学研 究 におい て,い わゆる軽度発達障害児 に焦点 を当てた保 健指導手引書 を作成 し,全 国の都道府県 と政令 指定都市の乳幼児健診管轄部署へ送付 している が,今 回,作 成 した冊子は,平 成13年度に作成
した手引書の続編 ともい うべ きものである。
この用語は近年の特別支援教育の充実 と歩調 を合 わせ る形で使 われるようになって きてい る。つ まり,教 育的な用語 としては特別支援教 育のなかで新たに取 り入れ られた枠組みを示す 用語,あ るいは通常学級 に在籍 している発達障 害 という意味に相当するのではないか と思われ る。また,発 達障害者支援法 も軽度発達障害 を 意識 して制定 された とい う経緯がある。つ ま り,福 祉的な意味での軽度発達障害は,障 害児 者に対する福祉施策の狭間に存在 していた とい う意味であると考えられる。 したがって,上 述 した 2つ の立場では,軽 度精神遅滞は軽度発達 障害に含めないとい うことになるだろうと思わ れる。
しか し,小 児保健 の視 ′点でい えば,軽 度精神 遅滞幼児 の診断確定 は時期が難 しく,保 健指導 上 で は A D H D や L D , H F P D D と 同 様 に特 別 の注意 を もって発見 にあた らねばな らない。本 鳥取大学 地域学部地域教育学科 〒 6 8 0 ‑ 8 5 5 1 鳥取県鳥取市湖 山町南4 1 0 1
Tel i 0857‑31‑5155 Fax:0857‑31‑5155
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研 究 に よ り, 3 歳 児 健 診 を最 終 とす る現 行 の乳 幼 児 健 診 シス テ ムで は適切 に発 見 す る こ とが で きていないというデータも得 られている。軽度 発達障害 とい うカテゴリを作る意義が,就 学前 に気づ き,就 学後の不適応行動 を最小限にとど めたい という点にあるとすれば,軽 度精神遅滞 を軽度発達障害か らはずす理 由は見 当た らな い。われわれは,小 児保健の立場で,注 意欠陥 多動性障害 (ADHD),学 習障害 (LD),高 機 能広汎性発達障害 (HFPDD),軽 度精神遅滞 の 4つ を軽度発達障害であると定義することと
した。
Ⅲ.早 期発見 をめぐる問題点
最近ではとくに精神遅滞,自 閉症,注 意欠陥 多動性障害,学 習障害 といった状態の子 どもた ちが数多 く小児科 などの外来に受診 して くる。
そ してこれ らを背景 として学校不適応 を起 こし ている子 どもも少な くない。学齢期 に起 こして くる二次的な不適応 を防 ぐには,幼 児期の うち に保護者や保育士などが,子 どもの特性 に気づ き適切な支援策を講 じることが何 よりも大切で あろうと思われる。
では発見 に適 した時期 とはいつ なのだろ う か ?
前述 したように LD,ADHD,HFPDDで は, 遅 くとも学童期には問題が顕在化 して くること が多いことが分かっている。そ して心身症や学 校不適応,社 会不適応 などの二次的な不適応ヘ と進展 してい くという経過 をたどる。学校教育 においては特別支援教育の動 きが加速化 され, 教育の現場で も子 どもの特性 としての発達障害 に気づ くようにという呼びかけが進んで きてい る。 しか し,学 童期の 「気づ き」はすでに二次 的な不適応の状態であることが少な くない。こ の二次的な不適応 を予防するためには,子 ども たちの発達障害への 「気づ き」を前倒 ししてい
くことが不可欠であると考えている。遅 くとも 就学時には,保 護者にも指導する側にも子 ども の発達特性 に対す る認識 とその対処方法が備 わった状態であることが望 ましい。
しか し, ここで危惧するのは早期発見 という 掛け声 に押 されて,子 どもたちに不用意に 「疑 い」をかけることが流行するのではないかとい
小 児 保 健 研 究 うことである。年齢的に見えていないのに,見 逃 しを減 らすために多 くの幼児 に疑いをかけて
しまうことは絶対に避けていただきたいと願っ ている。早期発見 といって も早ければいいとい うのではな く,む しろ問題点が見えて くる時期 に適正に発見するという 「適正発見」 という考 え方が望 ましいのではないだろうか。
実際の問題 として ADHDや HFPDDの 幼児 では 3歳 児健診のあ と,保 育所や幼稚園で集団 生活をするようになってか ら,急 激にさまざま な問題点が指摘 されるようになる。多 くは 「集 団行動が取れない,自 分勝手な行動が多い,指 示が入 りに くい,一 人遊びが多い」など集団生 活 を始めるようになって初めてクローズァップ されて くる問題なのである。
そこでいわゆる軽度発達障害児に焦点を当て る具体案 として,3歳 児健診以降か ら小学校に 入学するまでの間,た とえば 5歳 児健診あるい は発達相談を行 うのが よいと考えている。
Ⅳ。今後の展開
5歳 児健診で気づ くことがで きればそれで終 了ではない。その後に保護者の気づ きとそれに 対する対処法 を伝 える場が求められる。それに は,5歳 児健診の事後相談体制 も必要度が高い ことが分かつて きた。つまり5歳 児健診 と事後 相談 とで 1つ のパ ッケージであるべ きと考えて
いる。
事後相談は子育て相談,心 理発達相談,教 育 相談の 3つ を柱 として,5歳 児健診か らあがっ て きた種 々の心配事に寄 り添 う体制,そ して子 どもによっては就学前か ら学校 と連絡 を取 り 合 って,就 学 をスムーズに迎える体制がで きる
ことが望 ましい と考えている。
子育て相談は,発 達障害に限らず,子 育ての 悩み一般 に対応 し,そ の中で虐待にも気づ く相 談 として,心 理発達相談は子 どもの発達の評価 を行い,ア ドバイスを行 うとともに必要によっ て医療機 関や療育機関を紹介する相談 として, 教育相談は就学予定の学校 と保護者 との連絡調 整役的な相談 として体制を整えることが望 まれ
る。
平成18年度か ら学校教育法が改正 とな り,通 級指導教室の充実 を計 ることがで きるように
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市町村 県 (圏域 ) 事後相談
保 育士 心理士
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子育 て相 談 心理発 達相 談
医 師 ・保 健 師 l
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医 療 ・療 育 ・福祉
第66巻 第 2号 ,2007
なった。 こうした通級指導教室が,5歳 児健診 などで気づかれたいわゆる軽度発達障害幼児 に 対す る指導の場 として活用 で きるようになれ ば,就 学へのつなが りもスムーズになってい く もの と思われる。「気づ き」,「事後相談」,「指導」, そ して 「就学」 とい う流れを小児保健関係者, 教育関係者が連携 を取 りなが らシステム化する
ことが求め られている (図1)。
こうした学校教育法の改正は,軽 度発達障害 児 を就学へ とつ な ぐ大 きな推進力 となってい る。一方,発 達障害支援法は,軽 度発達障害の
図 1 軽 度発達障害 の発見 とその後 の支援体 制 に関す るモデル図
早期発見 は市 町村 の仕事 であ る と位 置づ けてお り, し か も現行 の乳幼児健診 の枠組 みの中で行 うように規定 してい る。 しか し, 前 述 した よう に現行 の健診体制では対応 で きないのが,軽 度 発 達障害 なのである。社会 の変化 とともに認識 が高 まって きた軽 度発達障害 に対応 す るには, 新 しい枠組 みが必要 なのであ る。制定後 3 年 で 見 直 しをす る とされ てい る発 達 障害支援 法 が, この指摘 を取 り入れた形で改正 され ることを期 待 してい る。