博 士 ( 生 命 科 学 ) 川 合 重 人
学 位 論 文 題 名
ヒト化抗CD 317 抗体の抗腫瘍効果に関する研究 学位論文内容の要旨
抗がん剤の中で現在注目されているのが抗体医薬である。抗体医薬にはいくっかの作 用 機 序 が あ る が 、 抗 体 依 存 性 細 胞 介 在 性 細 胞 傷 害 活 性 (antibody‑dependent cell‑mediated cytotoxicity; ADCC)は標的細胞に結合した抗体をNK細胞、マクロファ ージ、好中球などのエフェクター細胞がFc'y受容体を介して認識し、標的細胞を殺傷す る。
多発性骨髄腫は形質細胞が骨髄内で腫瘍化した造血器腫瘍である。我々は多発性骨髄 腫に対する抗体医薬を開発するため骨髄腫細胞株をマウスに免疫し、骨髄腫細胞特異的 な 抗 体(mAHM;マ ウ スIgG2a)を 樹 立 し た 。 抗 原 はCD317で あ っ た 。CD317は 分 子 量29‑33 kDaの糖タンパクであり、N端の膜貫通領域とC端の
glycosylphosphatidylinositolアン カーに より細胞 膜に局 在する。mAHMはADCC活性 を有し、 多発性 骨髄腫マ ウスモ デルで抗 腫瘍効 果を示し た。我々 はmAHMを医薬品と して開発するためヒト化を行い、AHM(ヒトIgGl)を作製した。
本 研 究 で は 、 多 発 性 骨 髄 腫 患 者 の 腫 瘍 細 胞 に お け るCD317発 現 量 とAHMのADCC 活性にっ いて解 析すると ともに 、多発性骨髄腫マウスモデルを用いてAHMの抗腫瘍効 果 を 検 討 し た 。 さ ら に 腎 が ん お よ び メ ラ ノ ー マ へ のAHMの 適 応 を 検 討 し た 。
!:畳髄腫細胞におけるCD317登璽量量AHMのADCC活性
細胞 上のCD317発現量 をフロ ーサイト メトリ ーを用い て簡便に測定する方法を構築 した 。まずCHO細胞 にCD317を発現さ せ、発 現量の異 なるクロ ーンを 樹立した 。これ ら の 細胞 を 螢 光標 識AHMを 用 い たフ ロ ー サイ ト メ トリ ーお よび1251標 識AHMを 用い たス キャッ チャード 分析に より測定 し、CD317発現量 (細胞あ たりのCD317分子 数)
を螢光強度に対してプロットすることにより検量線を作成した。この検量線を用いて多 発 性 骨髄 腫 患 者の 腫 瘍 細 胞に 韜けるCD317発現 量を測定 したと ころ、14例 中12例が lxl04/cell以上の発現を示し、その平均値は2.5x104/cellであった。正常末梢血リンパ球 および単球における発現量はそれぞれ2‑3x103/cell、lxl04/cellであり、骨髄腫細胞の方 がCD317を強く発現していた。
次 にCD317発 現 量 とAHMのADCC活 性 の相 関 に つい て 解 析し た 。 ヒ ト末 梢 血 単核 球(peripheralbloodmononuclearcell;PBMC)をエ フェク ター細胞に用いたところ、
AHMのADCC活性がCD317発現量と相関した。
以上から、多発性骨髄腫患者の腫瘍細胞におけるCD317発現量を測定することにより、
AHMが奏功する患者を選択できる可能性を示した。
呈:窒登蛙畳髄腫マウスモデルにおけるAHMの抗腫瘍効果
ヒ ト骨 髄 腫 細胞 株KPMM2お よび ヒ ト 形質 細 胞 性白 血 病 細胞 株ARH‑77はSCIDマ ウ スに尾静脈から移植すると骨髄に生着し、腫瘍細胞が産生する抗体分子であるMタンパ クが血中に増加するとともに骨病変を呈し、多発性骨髄腫の臨床症状をよく反映するモ デ ルであ る。また ヒト骨髄 腫細胞 株RPMI8226はSCIDマ ウス皮 下に移植すると固形腫
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瘍 を 形 成 す る 。 こ れ ら3つ の モ デ ル を 用 い てAHMの 抗 腫 瘍 効 果 を 評 価 し た 。 KPMM2モ デル では 、腫 瘍細 胞を 移植 した10日 後にAHMを 尾静 脈か ら投 与し た。 対 照として、多 発性骨髄腫の治療に用いられる化学療法剤メルファランを10‑14日目に1 日1回経 口投 与し た。 その 結果 、AHMはマ ウス を有 意に 延命 させ、血清中Mタンパク 濃度も有意に 抑制した。その効果はメルファランと同等であった。骨髄中の腫瘍細胞数 を 測定 した とこ ろ、AHM投 与群 では 投与6時間 後から腫瘍細胞比率が低下した。この 効 果 は マ ウスFcy受 容体 に対 する 中和 抗体 の投 与に より 阻害 さ れ、AHMがADCCに よ り 腫瘍 細胞を殺傷 することが示された。ARH‑77モデルでもマウスの延命とMタンパク 濃 度の 抑制 が認 めら れた 。RPMI8226モデ ルで もAHMは 腫 瘍体 積を有意に抑制した。
続い てマ ウス エフ ェク タ ー細 胞を 介し たAHMのADCC活 性に ついて検討した。マウ ス 脾 臓 細 胞 はARH‑77細 胞 に 対 し てADCCを 誘 導 し た 。 予 めNK細 胞 を除 去し たマ ウ ス の脾 臓細 胞で はこ の活 性 が消 失し た。 一方 マウ スマ クロ ファージはKPMM2および ARH‑77細胞 に対 してADCCを 誘導 した 。こ の活 性は マウ スFcy受容体に対する中和抗 体により抑制 された。
以 上 の 結 果 か ら 、AHMがNK細 胞 ま た はマ クロ ファ ージ を介 したADCCによ り腫 瘍 細胞を殺傷し 、多発性骨髄腫マウスモデルで抗腫瘍効果を発揮することが示された。従 っ てAHMが 多 発 性 骨 髄 腫 の 治 療 薬 と し て 有 効 で あ る 可 能 性 を 明 ら か に し た 。 3.腎がんおよびメラノー マに対するAHMの抗腫痣塾墨
腎細胞がん(腎がん)および悪性黒色腫(メラノーマ)は化学療法や放射線療法に抵 抗性で、その治療は原発巣の摘除が原則である。転移性腎がんやメラノーマの治療には インターフェロンa (IFN‑a,)が用いられるが生存率は低く、より効果の高い薬剤の開発 が望 まれ ている。一方でCD317遺伝子のプロモーター領域にはインターフ ェロン応答 性の転写因子の結合配列が存在し、IFN‑aによりCD317の発現が誘導される可能性が考 えられた。そこでヒト腎がんおよびメラノーマ細胞株 をIFN‑aで処理し、CD317発現量 とAHM、mAHMのADCC活 性 を 検 討 し た 。 さ ら に 腎 が ん マ ウ ス モ デ ルを 用い てIFN‑a の併用による抗腫瘍効果を検討した。
腎 がん 細胞株10株、メラノーマ細胞株5株をIFN‑a存在下で3日間培養し たところ、
腎が ん細 胞株2株 、メ ラ ノー マ細 胞株1株 を除 く全 て の細 胞株 でCD317発 現量が増加 した 。次 に腎 がん 細胞 株A498、SN12C、メラ ノーマ細胞株A2058、SEKIに 対するADCC を検 討し た。エフェクター細胞にヒトPBMCを 用いたところ、IFN‑a存在下 で培養した 細胞 に対 してAHMはより強いADCCを誘導した。マウスェフェクター細胞を 用しヽた場 合 で も 、IFN‑a存 在 下 で 培 養 し た 細 胞 に 対 し てADCC活 性 が 増 強 さ れ た 。 次 に腎 がん マウ スモ デル にお けるIFN‑aの 併用効果を検討した。A498またはSN12C 細胞 を皮 下に移植したマウスにIFN‑ocを投与 したところ、腫瘍細胞におけるCD317発 現量が増加した。これらのモデルを用いて抗腫瘍効果 を検討したところ、いずれでも mAHMとIFN‑aの 併 用 に よ り 効 果 が 増 強 さ れ た 。SN12Cモ デ ル で はAHMとIFN‑a,の 併用でも効果が認められた。
以 上か ら、 腎が んお よび メラ ノー マにおけるCD317発現量がIFN‑aによ り増加し、
AHMとIFN‑aの併用が有効である可能性を明らかにした 。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 松田 副査 教授 菅原
正 満 副 査 講 師 南 保 明 日 香
副査 特任准教授 平田裕一(東京大学先端科学 技術研究センター)
学 位 論 文 題 名
ヒト化抗 CD 317 抗体の抗腫瘍効果に関する研究
抗がん 剤の中 で現在 注目さ れてい るのが 抗体医 薬であ る。抗体 医薬に はいくっかの作用機序が あるが、抗体依存 幽暑田胞介在性細胞傷害活性(ant・ibody,dependentcen.medjatedげ蜘妬city; ADCC) は 標的 細 胞 に 結合 し た 抗 体をNK細 胞、 マ ク ロ ファ ー ジ 、 好中 球 な ど のエ フウ クター 細胞がF匸鯲体を介して認識し、標的細胞を殺傷する。
我 々は 多 発 性 骨髄 腫 に 対 する 抗 体医薬 を開発す るため 骨髄腫 細胞株 をマウ スに免 疫し、 骨髄 腫 細 胞 抗 原 (m317に 対 す る 特 異 的 抗 体 (mAHM; マ ウ スIgG2a) を 樹 立 し た 。mAHMは ADCC活 性 を 有 し 、 多 発 性 骨 髄 腫 マ ウ ス モ デ ル で 抗腫 瘍 効 果 を示 し た 。 また 、 我 々 はmAHM を 医 薬 品 と し て 開 発 す る た め ヒ ト 化 を 行 い 、 AHM( ヒ トIgG1) を 作 製 し た 。 本 研 究 で は 、 多 発 性 骨 髄 腫 患 者 の 腫 瘍 細 胞 に お け るCD317発 現 量 とAHMのADCC活 性 に つ いて 解析 すると ともに 、多発 性骨髄腫 マウス モデル を用い てAHMの抗 腫瘍効 果を検 討した 。 さらに腎がんおよびメラノーマヘのAHMの適応を検討した。
L畳髄 腫9胞t三 塾けるCD317登現 量とAHMのADCC活性
細 胞 上 のCD317発 現 量を フ ロ ー サイ ト メ ト リー を 用 い て簡 便 に 測 定す る 方 法 を構 築 し た 。 本 法 を用 い て 多 発性 骨 髄 腫 患者 の 腫 瘍 細胞 に お け るCD317発 現量を 測定し たとこ ろ、14例 中 12例が1xl04/cell以 上の発現 を示し 、その 平均値 は2.5xl04/cell̲であった。正常末梢血リンパ 球お よび単 球にお ける発 現量は それぞ れ2̲3x103/cell、1x104/cellであ り、骨髄腫細胞の方が CD317を 強 く 発 現 し て い た 。 次 にCD317発 現 量 とAHMのADCC活 性 の 相 関 に つ い て 解 析 し た 。 ヒ ト 末 梢 血 単 核 球 を エ フ ウ ク タ ー 細 胞 に 用 い た と こ ろ 、AHMのADCC活 性 がCD317 発現 量と相 関した 。
以上 か ら 、 多発 性 骨 髄 腫患 者 の腫瘍 細胞に おけるCD317発現 量を測定 するこ とによ り、AHM が奏 功する 患者を 選択で きる可 能性を 示した。
2: 釜発 : 陸 量 髄腫 ヱ ウ ス モデ ル に お けるAHMの 抗 腫痣 効 果
ヒ ト 骨 髄 腫 細 胞 株KPMM2お よ び ヒ ト 形 質 細 胞 性 自 血 病 細 胞 株ARH‑77はSCIDマ ウ ス に 尾静 脈 から移 植する と骨髄 に生着 し、血 中M夕ン パクの増 加と骨 病変を 呈し、 多発性 骨髄腫 の 臨床 症 状 を よく 反 映 す るモ デ ン レ であ る 。 ま たヒ ト 骨 髄 腫細 胞 株RPMI8226はSCIDマ ウス皮 下に 移 植 す ると 固 形 腫 瘍を 形 成す る。こ れら3つ のモデ ルを用し ゝてAHMの抗腫 瘍効果を 評価 した 。
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KPMM2モ デ ルで は 、 腫 瘍細 胞 を 移植 し た10日 後 にAHMを尾 静 脈 から 投 与 した 。対照と して、多発性骨髄腫の治療に用いられる化学療法剤メルファランを経口投与した。その結果、
AHMはマウスを有意に延命させ、血清中M夕ンバク濃度も有意に抑制した。その効果はメル ファランと同等であった。骨髄中の腫瘍細胞数を測定したところ、AHM投与群では腫瘍細胞 比 率が低 下し、こ の効果は マウスFcy琳に 対する 中和抗体の投与により阻害され、AHMが ADCCにより腫瘍細胞を殺傷することが示された。ARH‑77モデルでも同様の効果が認められ た。RPMI8226モデルでもAHMは腫瘍体積を有意に抑制した。
続 いてマ ウスエフ ェクタ ー細胞を介したAHMのADCC活性について検討した。マウス脾臓 細 胞 はARH‑77細 胞 に対し てADCCを誘 導した。 予めNK細 胞を除去 したマウ スの脾 臓細胞 で はこの 活性が消 失した。 一方マ ウスマク 口ファ ージはKPMM2およ びARH‑77細胞に対し てADCCを 誘 導し 、 こ の 活陸 は マ ウスFcy受 容 体に 対する 中和抗体 により抑 制され た。
以 上の結 果から、AHMがNK細胞また はマク 口ファー ジを介し たADCCによ り腫瘍細胞を 殺傷し、多発性骨髄腫マウスモデルで抗腫瘍効果を発揮することが示された。従ってAHMが 多発性骨髄腫の治療薬として有効である可能性を明らかにした。
3畳ミんおよびメラノーマに対するAHMの抗腫痣効果
腎細胞がん(腎がん)および悪J陸黒色腫(メラノーマ)は化学療法や放射線療法に抵抗性で、
その治療は原発巣の摘除が原則である。転移性腎がんやメラノーマの治療にはインターフ工口 ンa (IFN‑a)が用いられるが生存率は低く、より効果の高い薬剤の開発が望まれている。一 方でCD317遺伝子のプ口モーター領域にはインターフウロン応答性の転写因子の結合配列が 存在し、IFN‑aによりCD317の発現が誘導される可能性が考えられた。そこでヒト腎がんお よ び メ ラ ノ ー マ 細 胞 株 をIFN‑aで 処 理 し 、CD317発 現 量 とAHM、mAHMのADCC活 性 を 検討した。さらに腎がんマウスモデルを用いてIFN‑aの併用による抗腫瘍効果を検討した。
腎がん細胞株10株、ヌラノーマ細胞株5株をIFN‑a7=df下で培養したところ、腎がん細胞株 2株、ヌ ラノーマ 細胞株1株を除く全ての細胞株でCD317発現量が増加した。次に腎がん細 胞 株A498、SN12C、 メ ラ ノー マ 細 胞株A2058、SEKIに対 す るADCCを 検討 し たとこ ろ、
IFN‑a存在下 で培養し た細胞 に対してAHMは より強いADCCを誘導した。次に腎がんマウス モデ ルにお けるIFN‑aの併用 効果を検 討した 。A498またはSN12C細胞を移植したマウスに IFN‑aを投与したところ、腫瘍細胞におけるCD317発現量が増加した。これらのモデルを用 いて 抗腫瘍 効果を検 討した ところ、いずれでもmAHMとIFN‑aの併用により効果が増強され た。SN12CモデルではAHMとIFN‑aの併用でも効果が認められた。
以上 から、 腎がんお よびメ ラノーマ におけ るCD317発 現量がIFN‑aによ り増加 し、AHM とIFN‑aの併用が有効である可能性を明らかにした。
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